人形の秘密 (Pixiv Fanbox)
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アパートの甘いひととき 週末の昼下がり、アパートの一室には甘いシチューの香りが漂っていた。 「逸、そろそろできるから、テーブル片付けてくれる?」 キッチンから蘇瑶の柔らかな声が飛んでくる。林逸はスマホを置き、ソファからだらりと起き上がった。 「はいはい、今行くよ」 リビングのローテーブルに散らばった雑誌や充電ケーブルを脇に寄せ、簡単に布巾で拭く。瑶は料理が上手い。今日も朝から市場で買ってきた新鮮な野菜と鶏肉で、得意の煮込み料理を作ってくれている。 「今日は何を作ってるの?」 「鶏肉と大根の煮物。それと、卵スープも」 振り返ると、エプロン姿の瑶が鍋をかき混ぜながら微笑んでいた。その顔を見ると、林逸の心はいつも温かくなる。付き合い始めてもう一年半になるが、彼女のこの家庭的で細やかな気遣いには、未だに慣れることができない。 食卓に料理が並び、二人は向かい合って座った。瑶は林逸の茶碗に煮物を取り分けながら、大学の課題やサークルの話を振ってくる。いつもの穏やかな週末だ。 「後で掃除機かけておくね。寝室、ちょっと埃っぽい気がして」 「え、そう?俺は全然気にならないけど」 「逸はいつも鈍いんだから」 瑶が軽く睨む仕草も、どこか愛おしい。林逸は笑いながらご飯をかき込んだ。 食後、瑶が台所を片付けている間、林逸は寝室へ着替えを取りに行った。クローゼットの扉を開けようとして、ふと部屋の隅に目が留まる。 いつの間にか、大きな段ボール箱が置かれていた。 ベッドの右側、壁際にぴったりと寄せられたそれは、一辺が一メートル近くある正方形の箱だった。見慣れた家具の配置の中に、忽然と現れた異物。 「瑶、この箱、何?」 リビングに向かって声をかけると、水の音を止めた瑶が顔を出した。 「ああ、それ?昨日、友達からもらった人形なの。すごく精巧にできてて、ちょっと怖いくらいリアルなんだよ」 「人形?」 「うん。引っ越すからって譲ってもらったの。でもちょっと大きいから、とりあえずあそこに置いてある」 林逸は特に興味もなく、ふうんと相槌を打っただけで、さっさとTシャツに着替えた。箱のガムテープはすでに剥がされ、蓋は軽く被せてあるだけだったが、中を覗こうとは思わなかった。 午後、瑶が掃除機をかけている間、林逸はソファでうたた寝をした。目が覚めると窓の外はもう薄暗くなっていて、部屋には掃除機の音の代わりに瑶がシャワーを浴びる水音が響いていた。 夜も更け、二人は自然な流れでベッドに入った。 瑶の肌はまだ少ししっとりと湿っていて、シャンプーの匂いが鼻腔をくすぐる。暗がりの中で彼女の手が林逸の胸に触れ、唇が近づいてくる。 「逸…」 吐息混じりの声に、林逸の体は素直に反応した。瑶の手のひらが背中を這い、互いの体温が混ざり合う。彼女の髪が林逸の首筋にかかり、くすぐったさと快感が同時に押し寄せる。 丁寧な前戯を経て、二人は深く結ばれた。瑶はいつもより積極的で、時折漏れる声が少し高い。林逸はその柔らかさに包まれながら、意識が遠のいていくのを感じていた。 ふと。 視界の端で、何かが光った。 ほんの一瞬、本当に刹那のことだったのに、なぜかはっきりと認識した。閉めたはずの寝室のドアと床の間の隙間、その数ミリの空間に、黄色い明かりがチカリと点滅したのだ。まるで、誰かが廊下でスマートフォンの画面をこちらに向け、すぐに隠したかのように。 「…ん?」 林逸がドアのほうへ顔を向けかけると、瑶がぎゅっと抱きつく力を強めた。 「逸、こっち向いて」 彼女の手が林逸の頬を包み、強引に正面を向かされる。暗闇の中、瑶の瞳が熱っぽく潤んでいるのが見えた。 「何見てるの。私だけ見て」 妖艶な声で囁くと、瑶は腰の動きを激しくした。その刺激に思考を奪われ、林逸は再び彼女の体に没頭する。 ドアの向こうの光のことなど、すぐに頭から消え去った。 ただ、もしあの時、林逸がもう少しだけ注意深く耳を澄ませていたなら。 寝室のドアのすぐ外、廊下の暗がりから、かすかな衣擦れの音と、息を殺す気配に気づいたかもしれない。 カーペットの上に立つ裸足の足。パジャマの裾を握りしめる、微かに震える指先。 そして、ドアの隙間から差し込む室内の薄明かりを背に、スマホのカメラが静かに構えられていた事実に。 しかし林逸は気づかない。彼の世界は今、腕の中の恋人だけで満たされていた。 行為が終わった後、瑶は林逸の胸に顔を埋めたまま、しばらく動かなかった。 「瑶、今日はすごかったね」 林逸が軽く汗ばんだ彼女の髪を撫でると、瑶はくすぐったそうに身をよじった。 「…たまにはね」 彼女の声はかすかに掠れ、どこか弾むような響きがあった。それはピロートークには少し不釣り合いな、秘め事を共有する子供のような口調。 「そういえば」と瑶が顔を上げた。「明日、ちょっと実家に顔出してくるね。昼には戻るから」 「わかった。じゃあ俺は家でレポートでもやってるよ」 「うん。…逸、大好きだよ」 そう言って瑶がぎゅっと抱きついてきた時、林逸は気づかなかった。彼女の視線が、一瞬だけ寝室のドアに向けられていたことを。 そして瑶の唇の端に、ほんの少しだけ、何かを企むような笑みが浮かんでいたことも。 林逸が見逃した光の正体。 それは双子の妹・蘇晴が、iPhoneの画面をほんの一瞬だけ廊下のダウンライトに翳し、信号のように寝室へ合図を送ったものだった。 姉妹だけが知る、小さな秘密のサイン。 アパートの夜は、何事もなかったかのように更けていく。 寝室の隅では、ダンボール箱の蓋が、誰にも気づかれずにわずかに浮き上がっていた。まるで、中から押し上げられたかのように。 その隙間から、ガラス玉のような瞳が、じっとベッドを見つめている。 精巧な人形の、あまりにも人間らしい、熱を帯びた眼差しが。 人形の出現 大学の講義を終えた林逸が、蘇瑶の部屋のドアをノックしたのは、午後四時を少し回った頃だった。 「入っていいよ」 中から聞こえた声はどこか弾んでいて、林逸は首を傾げながらドアを開けた。 部屋の中はいつもより少し散らかっていた。床には大きめの段ボール箱が一つ、無造作に置かれていて、その周りに緩衝材のプチプチが散らばっている。蘇瑶はその箱の前にしゃがみ込んでいて、林逸が入ってくるのを見ると、ぱっと顔を輝かせた。 「ちょうどよかった。見てほしいものがあるの」 「何か届いたのか?」 「うん、ちょっと特別なやつ」 蘇瑶はそう言うと、箱の中から慎重に何かを取り出した。 最初に見えたのは、人間の肩のラインだった。続いて首、そして頭部。蘇瑶が両手でそれを支えながら立ち上がると、その全貌が明らかになった。 それは、等身大のシリコン製の人形だった。 林逸は思わず半歩、後ろに下がった。 人形は女性の姿をしていて、細身のボディに、シンプルな白いワンピースを着せられている。肌の質感は驚くほどリアルで、ほのかに光沢を帯びていた。肩にかかる黒髪はさらさらとしていて、一本一本が丁寧に植え付けられているのがわかる。しかし、何より林逸の目を釘付けにしたのは、その顔だった。 顔立ちが、蘇瑶に七、八分ほど似ているのだ。 目鼻立ちの配置、輪郭の柔らかさ、唇の形。細部は少し異なっていて、例えば人形の眉の方がやや太く、目尻の角度もわずかに違う。それでも、一目見て「蘇瑶に似ている」と感じさせるだけの造形が、そこにはあった。 「……なんだこれ」 林逸の声は、自分でもわかるくらい乾いていた。 蘇瑶は人形を優しく抱えるようにして、ベッドのそばに立たせた。自立するタイプではないらしく、彼女が手を離すと、人形はその場にぐにゃりと崩れ落ちそうになる。蘇瑶は慌てて支え直し、くすっと笑った。 「見ての通り、シリコン人形。オーダーメイドなんだよ」 「オーダーメイドって……まさか、自分の顔で作ったのか?」 「そう。ちょっと遊び心でね」 蘇瑶はこともなげに言って、人形の髪を指先で梳いた。その仕草が妙に馴染んでいて、林逸は背筋にうっすらと冷たいものが走るのを感じた。 「これ、気持ち悪くないか……?」 正直な感想が口をついて出る。蘇瑶は一瞬だけむっとした表情を見せたが、すぐにいたずらっぽい笑みを浮かべて林逸に近づいた。 「えー、そんなこと言うの? せっかく高いお金出して作ったのに」 「いや、高いかどうかの問題じゃなくてだな……」 「大丈夫だって、ただの飾りだよ。インテリアっていうか、そういうやつ」 蘇瑶は林逸の腕にそっと手を置いて、上目遣いで見上げてきた。甘えるような、それでいてどこか諭すような視線だった。 「林逸、私のこと好き?」 「……そりゃ、好きだけど」 「じゃあ、私にそっくりな人形が部屋にあったら、毎日私のことを思い出せるでしょ? 会えない時間も、寂しくないかもよ?」 そう言いながら、蘇瑶は林逸の肩に頭を預けるようにもたれかかる。ふわりと彼女のシャンプーの香りがして、林逸は思わず口ごもった。 「でも、いくらなんでも等身大は……」 「等身大だからいいんじゃない。小さいと逆に怖いよ、こけしみたいで」 蘇瑶はくすくす笑いながら、林逸の腕をぎゅっと抱きしめた。 「ね、お願い。せっかく買ったんだし、しばらく飾らせてよ。絶対に気に入るから」 林逸はまだ納得できない気持ちでいっぱいだったが、彼女の甘え方には昔から弱い。それに、ここで強く拒否して蘇瑶の機嫌を損ねるのも面倒だと思ってしまった。細かいことに気づかない自分の性格が、こんなところで顔を出す。 「……わかったよ。でも、本当にただの飾りなんだな?」 「もちろん! それ以外に何に使うっていうのよ」 蘇瑶はぱっと笑顔になって、林逸の頬に軽くキスをした。そのあっさりした態度に、林逸はかえって毒気を抜かれてしまう。 「それでね、置き場所なんだけど」 蘇瑶は人形のそばに戻り、その細い手首をそっと掴んで持ち上げた。まるで生きている人間をエスコートするような手つきだった。 「寝室の隅、あの椅子の上に座らせておこうと思うの。窓際の」 彼女が指さしたのは、ベッドから斜め向かいにある木製の椅子だった。普段は読みかけの雑誌や脱いだ上着が無造作に置かれている、あまり存在感のない場所だ。そこなら確かに、部屋の中心からは外れていて、視界に入っても邪魔にはならない……かもしれない。 「毎日ちゃんと向き合わなくて済むし、でも部屋に入った時にちらっと見えるくらいでちょうどいいと思わない?」 蘇瑶の提案は妙に理にかなっていた。林逸は彼女の言葉に反論する気力をすでに失っていて、軽くうなずいた。 「……ああ、それでいいよ」 「決まりね」 蘇瑶は嬉しそうに人形を抱え上げ、寝室へと運んでいった。その背中を見ながら、林逸はなんとも言えない違和感を噛み締めていた。 彼女があんなものを作るなんて、今まで一度も聞いたことがなかった。そもそも、なぜ急に思い立ったのだろう。しかも、注文から到着までにどれだけの時間がかかるのか考えれば、かなり前から準備していたことになる。 ——まあ、蘇瑶はたまに突飛なことをするからな。 林逸は頭の中でそう結論づけて、それ以上深く考えるのをやめた。 寝室からは、蘇瑶が椅子の上で人形の姿勢を整えている気配がする。衣擦れのような、かすかなシリコンの摩擦音。それが妙に耳について、林逸は無意識にリビングの方を向いていた。 「林逸、できたよ。見て」 しばらくして呼ばれ、仕方なく寝室のドアを覗く。 窓から差し込む夕方の淡い光の中、人形は椅子にきちんと座っていた。両手を膝の上に揃え、背筋は伸びている。白いワンピースの裾が、床すれすれのところで静かに垂れていた。顔はこちらを向いていて、微妙に蘇瑶とは違うその目が、虚ろに空間を見つめている。 すぐ横には、同じ顔をした本物の蘇瑶が立っていて、満足げに微笑んでいた。 「完璧でしょ?」 彼女はそう言って、人形の肩にそっと手を置いた。まるで双子の姉妹が並んでいるような、奇妙な光景だった。 林逸は何か言おうとしたが、言葉が見つからず、ただ曖昧にうなずいた。 その夜、林逸が帰ったあとの部屋で、蘇瑶は一人、椅子に座る人形の前に立っていた。 部屋の明かりを消す直前、彼女は人形の顔をじっと見下ろし、誰にともなく、小さくつぶやいた。 「うまくいきそう」 その声は闇に溶けて、誰にも聞かれることはなかった。 双子の秘密の約束 午後の柔らかな陽射しが、窓辺の白いレースのカーテン越しにカフェの店内へと差し込んでいた。大学通りから一本入った路地にあるその店は、ハンドドリップの香りと静かなジャズが流れる、蘇瑶のお気に入りの場所だった。彼女は奥まった二人掛けの席に腰を下ろし、運ばれてきたばかりのカフェラテの表面をぼんやりと見つめていたが、やがて手元のスマートフォンを取り、メッセージを開く。妹の蘇晴から「もうすぐ着く」とだけ届いていた。 蘇瑶は微かに口元を緩め、窓の外へと視線を移した。通りを行き交う人影の中に、まるで鏡像のような自分と瓜二つの顔を見つけたとき、彼女はそっと手を挙げる。蘇晴が、淡いピンクのカーディガンを羽織った姿で、少しだけ俯きかげんにカフェへと入ってくる。視線が合うと、蘇晴は小さく会釈し、姉の向かいにそっと腰を下ろした。 「待った?」 蘇晴が少しだけ息を弾ませながら尋ねると、蘇瑶は首を振った。 「ううん、さっき来たところ。先に飲み物、頼もう。なにがいい?」 「あ、じゃあ……私もラテにする。同じので」 蘇瑶が注文を済ませると、二人の間にある小さなテーブルは、一瞬息を潜めたような静けさに包まれた。蘇瑶はマグカップを両手で包み、じっと妹の目を見つめる。蘇晴はどことなく落ち着かない様子で、指先をカーディガンの端に絡めたり、窓の外をちらりと見たりしていた。彼女はこの呼び出しの本当の意味を、おそらくすでに察しているのだろうと蘇瑶は思った。 「今日はね、本題に入る前に、ちゃんと確認したいことがあるの」 蘇瑶の声はいつもより低く、しかしどこか甘やかな響きを持っていた。蘇晴はごくりと唾を飲み込み、こくりと頷く。 「前に少し話した、林逸のこと。あれから、やっぱり気持ちは変わらない?」 蘇晴の頬がぽっと赤らんだ。彼女は一瞬、言葉に詰まったが、しかし強い意志を込めた瞳で顔を上げた。 「うん。変わってない。むしろ……お姉ちゃんから話を聞くたびに、どんどん、その……好きになってる。会ったこともないのに、おかしいよね」 その言葉に蘇瑶は、どこか安堵とも愉悦ともつかない笑みを浮かべ、カップを置いた。 「おかしくなんかないよ。だって私たちは双子で、感じることや好みも似てるんだから。私がここまで惚れた相手だもの、晴も好きになるのは自然だと思う」 そこへ店員が蘇晴のカフェラテを運んできた。湯気の立つカップを受け取った蘇晴は、それを口に運ぶでもなく、じっとラテアートのハートが揺れるのを見つめた。 「それで、どうするの? 本当に、あの入れ替わり計画をやるの?」 蘇瑶は改めて身を乗り出し、声を潜めた。周囲に他の客はほとんどおらず、ジャズのピアノがちょうど耳に心地よい音量で流れている。 「うん。私は本気。逸はね、とても鈍感で、細かいことに気づかないの。たとえば、私のアクセサリーが変わったとか、ほくろが一つ違うとか、ほとんど気にしたことがないのよ。それに、私たちはもともと声も体型もそっくりだから、うまくやれば絶対にバレない」 蘇晴の目に、ほんの一瞬だけ怯えのような光が走ったが、それはすぐに好奇心と、隠しきれない興奮に塗り替えられる。 「で、でも……ずっと一緒に住んでるんでしょ? どっちが本物の人形になって、もう一人が彼女のふりをするって、具体的にはどういう風に?」 「いい質問ね」 蘇瑶はバッグから小さな手帳を取り出し、テーブルの上に開いた。そこには細かく曜日が書かれたスケジュールが走り書きしてある。 「まず、前提として、私のアパートには今、あの大きなフランス人形がある。私のおばあちゃんが昔買ってくれた、あの等身大に近いやつ。逸はあれをただの古い人形だと思ってて、普段は壁際の椅子に座らせてる。だから、あの人形と入れ替わって、動かずにじっとしていれば、もう一人は普通に彼女として過ごせるの。一週間ごとに交代するのよ」 蘇晴はまばたきを数回繰り返し、姉の手帳を食い入るように見つめた。 「一週間ごと……。じゃあ、お姉ちゃんが彼女の週は、私があの人形の代わりになって、部屋の隅でじっとしてるの? 息も、まばたきも、我慢しなきゃダメ?」 「昼間はね。でも夜は逸がぐっすり眠ってるし、トイレや食事はこっそり抜け出せばいい。私たちには秘密の合図を作っておくから、何かあったらすぐに助け合える。それに、交代のタイミングは毎週木曜日。逸がサークルで遅くなる日を狙うの。その日のうちにこっそり入れ替わって、私は次に人形になる準備をする」 蘇瑶の口調は極めて落ち着いていて、まるで毎日の献立を決めるかのような自然さがあった。蘇晴はそれに押されるように、不安よりも期待が勝っていくのを感じた。彼女の胸の奥で、ずっと眠っていた何かが、熱を帯びて形を成し始める。 「でも、もしバレそうになったら……?」 「バレないように、私たちが完璧に演じるの。たとえば、逸との会話の内容は、必ずお互いに報告し合う。ラインやメモでもいい、日記をつけてもいい。あの人がどんな話をしたか、どんなデートをしたか、全部共有するの。そうすれば、どっちが彼女役になっても、話の辻褄が合うでしょ?」 蘇晴はそこで、はじめてカフェラテを一口含んだ。ミルクの甘さが舌の上で広がり、少しだけ緊張が和らいだ。 「でも、お姉ちゃんは……それでいいの? 私が逸さんと……その、恋人同士みたいに振る舞うのを、許せるの?」 蘇瑶は少しだけ目を細め、柔らかな微笑みを浮かべた。その瞳の奥に、チラリと計算高く、しかし確かな愛情が同居しているのを、蘇晴だけが知っている。 「私が許せないと思ったら、こんな話、しないよ。晴は私の分身みたいなものだから、晴が幸せなら私も幸せ。それに、逸は本当にいい人だから、一人だけで独り占めするのがもったいないくらい。私たち二人で、一生大切にしたっていいと思ってる」 蘇晴の胸が、ぎゅっと高鳴った。姉がここまで言うのなら、もう迷うことはない。 「……わかった。私、やる。絶対に、秘密を守るから」 ※本文が長いため、FANBOXで公開できる範囲に自動的に短縮しています。