美少女仮面vs怪人レディモス (Pixiv Fanbox)
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怪人毒花はまた何度でもサヤカの前に現れることだろう。花粉対策のマスクも新たに装備して、日々街のパトロールを余念なく行なっている。
(今度こそ負けない……バラバラに切り刻んで焚き火にしてやる)
毒花の出現を心待ちにしていたサヤカだったが、その日はまた新種の怪人の姿を発見した。
ドレスを身に纏い優がな振る舞いを見せるが、蝶のような蛾のような羽を背中から生やし、鱗粉のようなものを辺りに撒き散らしている。
『気をつけろ美少女仮面。その鱗粉は毒花の花粉と違い、神経毒のような効果を持つとの報告が上がっている』
胸元の変身ブローチの通信機から司令官の声が聞こえてくる。
しかし神経毒だろうが媚薬だろうが今のサヤカには関係ない。
「やめなさい!」
サヤカの呼びかけに彼女──その姿を形容したコードネームとして、司令官は「怪人レディモス」と名付けた──はゆっくりとこちらへ振り返る。
「やっと来てくれた。探していたのよ~? じゃあ早速……」
レディモスの羽が一斉に展開される。
羽の模様には眼球のようなものが刻まれていた。
「あなたの鱗粉は効かないわ。すぐに倒してあげる!」
サヤカは無数の糸を出現させてレディモスに飛ばす──はずだった。
しかしイメージしていた光景は現実に現れず、レディモスは不敵に笑うばかりだ。
「美少女仮面さん。あなたはだんだんお手手の自由が効かなくなる~」
その瞬間からサヤカの両手はだらんとぶら下がり、どれだけ力を入れようとしてもピクリとさえ動かせない。
(しまった……これは催眠術!?)
気づいた時には遅く、まんまとその術中にハマってしまう。
「ふふふ……あなたは自分の糸で、自分をぐるぐる巻きに縛り上げちゃう~」
力が抜けていた指先は自分の体を向き、一斉に何本もの糸を射出した。
(だ、ダメ……このままじゃ……!)
糸は全身を容赦なく縛り上げてしまう。
バランスを崩し地面に倒れ込むサヤカ。このまま全身をミイラのようにしてしまうかに思えたが、上半身を包み込んだ所で糸の射出は止まる。
「行動を操作する催眠術はこれが限界かしら? 効果時間が短くて使い物にならないんだけど……捕縛技を持ってる美少女仮面には効果覿面だったわね~」
催眠が解けたのはいいものの、糸は自分の意思でも解くことは不可能なほど複雑に絡み合ってしまっている。とても逃れることはできない。
「くっ、この……!」
サヤカは必死に体を揺り動かして糸が解けないか模索する。
このままでは怪人のアジトに連れて行かれてしまう。
短時間とはいえ催眠術を掛けられてしまっては無敵を誇る強度の変身スーツも自力で解除させらることになるだろう。そうなると改造手術を受けさせられて怪人にされてしまうことは避けられない。
「これで終わりじゃないわよ~? 私にはもう一つ、別種の催眠術があるんだから」
レディモスは再び背中の羽を展開する。
さっきはあの羽を見てから体の制御権を奪われてしまった。目玉模様に催眠の秘密があるのだろうと察しをつけ、サヤカはすぐに目を閉じる。
「お目目を瞑っても関係ないわ。今度はお耳にお邪魔させてもらうから……♡」
まぶたの裏の暗闇の中で、キィィィィィンという音が鳴り響く。
「前に美少女仮面さんが戦った……あなたたちは毒花ちゃんって呼んでるのよね? その毒花ちゃんに吸わされ花粉を思い出して~」
「な……っ!!」
あの時の光景がフラッシュバックする。元々昨日のことのように思い出せるほど脳に刻みつけられた忌まわしい記憶ではあったが、今回はさらに鮮明に……まるで五感の全てがあの時に戻っていくようだった。
そう──花粉の持つ媚薬の効果で、全身を性感帯のような状態にされたあの時の感覚が蘇る。
「んあっ、あ……ッ!?」
美少女仮面のマスクは持ち前の糸で形成され、花粉を通さないほどの密度でフィルターを作ってある。花粉も鱗粉も通すはずがなかった。
それなのに今、あの時のように全身が淫らな感覚で支配されているようだった。
「いっ、いや……もうあれは……いやなの……! なんで、こんな……っ」
怪人レディモスは誇らしげに自らの能力を語った。
「私のもう一つの催眠術の力。一度でも毒花ちゃんの花粉を味わったことがあれば、その感覚を無限に再現させてあげられるのよ~」
糸の締め付けにも敏感に反応し、サヤカは性感帯をギュウと握り込まれているような感覚に身悶える。
少しでも体を揺すったらまた新たな快楽に侵されて、既に思考もままならなくなっていた。
「た、たすけ……て……」
敵に情けを乞うことなど本来であればプライドが許さない情けない行為だった。しかしサヤカにとっては二度と経験したくないのが毒花の媚薬であり、屈強な精神は完全にへし折られてしまったのだ。
「残念だけど、今日はもう帰るわね~。本当は美少女仮面さんを連れて帰りたいんだけどぉ、私は虫がベースの改造人間だから重たいものって運べなくってぇ」
連れて行かれる心配はないし、この催眠も待っていれば解けることだろう。つらい所だが、サヤカが耐えればこの感覚も鎮まる……そう安堵しかけた時だった。
レディモスが嗜虐心を露わにしたような表情で口を開く。
「この二つ目の催眠術は永遠に効果が続くの。催眠によるものだから、解毒薬も効かないんじゃないかしら?」
「な……っ!?」
「催眠を解いてほしかったら次に会う怪人にアジトまで案内してもらってね。バイバイ♡」
最後にそれだけを言い残し、レディモスは風に乗って空高くへ飛んでいってしまった。
サヤカはなけなしの思考力で今言われたことを反芻する。
この催眠は永遠に続く。
解毒薬は効かない。
それは実質、またレディモスに会うまで、永遠に媚薬漬けにされた状態ということ……。
「や……やだぁ、こんなのぉ……!!」
リベンジを決意したのも虚しく、美少女仮面サヤカは再び敗北を味わうこととなったのだ。かつてないほどの絶望感を伴って──
(惜しいけど、もうこんな体は使い物にならない……)
サヤカの脳裏に浮かぶのはかつて捕えられた偽物の美少女仮面の姿。
今はヒーロー機関の怪人監禁施設の中で、多くの拘束具を取り付けられて大人しくしているはずだ。
(媚薬に侵され続けるくらいなら……あの中で一生を過ごしたって構わない)
サヤカはかつて偽物の美少女仮面として生み出された。そしてオリジナルと精神を入れ替える形で体を奪い取り、今は本物の美少女仮面として存在している。
だが、もういい。ヒーローになりたかったが、こんな媚薬漬けの体になってしまってはとても続けられない。
いっそ独房の中で永遠に縛られ続けている方がまだマシというものだった。
元の体に戻る。その絶望的な希望に縋り付くことでしか正気を保つことはできそうになかった。