【イブキライズアップ】第4話 もう戻れない【未実装ウマ娘】 (Pixiv Fanbox)
Published:
2022-05-07 12:00:00
Imported:
2026-06
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Content
※本作では競馬の綺麗事ではない暗部にかなり踏み込みます
※最終ページに予想と観戦マナーにも役立つ元ネタ解説があります
※私の独自解釈で、交流重賞並びに地方のビッグレースも勝負服着用です
※地方競馬だって頑張ってるんですよ
Part.1 私達のグランプリ
どうにかレースに復帰したライズだったが、コンディションは思わしくなく、復帰戦では久しぶりに敗れた。だが、それはライズの活躍に触発された他のウマ娘の成長の賜物でもある。ライズはコウチを根本から変えたのだ。
だとしても、主役の座を降りたライズは負ける度に悔し涙で布団を濡らした。もう自分のキャリアが終盤に入っている事は薄々感付いていた。それは仕方のない事だと諦められても、ライズには一つだけ未練があった。
実は、あれだけ勝ったというのにライズはまだ重賞を勝った事がなかった。オープンレースを1回勝っただけで、タイトルには無縁だ。
それだけに焦った。だが、焦るほどに勝利は遠のき、脚は痛みを増す。そして、その間にもウララはURAでも人気を獲得し、すっかり向こうに馴染んだようだった。
もはやライズは何もしていなくても脚の痛みに悩まされるようになっていた。引退を勧める人も居たが、ライズはあくまで走りたかったし、タイトルが欲しかった。
そのライズにトレーナーは常に真摯に向き合った。ライズのその思いを一番よく知っているのはトレーナーなのだ。だが、勝負という物は最後は時の運だ。
重賞を惜しい所で逃し続けるライズに運が向いたのはコウチのシーズンを締めくくるグランプリ、高知県知事賞での事であった。
2100メートルの長丁場で、砂の深いコウチのコース状況を差し引いても、酷い不良バ馬であった。だが、ライズはどちらも得意としていた。
年末なのでお客さんが集まる。ウララが居なくなって客足は落ちたが、それでも例年よりはずっと多い。確かにライズはコウチを守っていた。
「お前のパワーを生かす絶好の舞台や。後半追い込んで力勝負でいけ」
トレーナーの言葉を胸にライズはライバル達と一緒にスタートを待った。有馬記念や東京大賞典には及びも付かないが、これもグランプリだ。
ライズはいつものスタイルを捨てて中団からレースを進めた。逃げるウマ娘が多く、ハイペースになると踏んだ。なら付き合う必要はない。
こういうコースで中団を走ると泥まみれになる。だが、泥を嫌がるようなライズではない。冷たい泥を浴びながら少しずつ、しかし確実にライズはポジションを上げていく。
ハイペースを承知で逃げたウマ娘達が競り合う中、第3コーナーでライズは勝負をかけた。今までタイトルを明け渡してきた相手を目掛けてライズは一気にスピードを上げた。
ライズを見ている余裕のなかった先頭集団は既に消耗していた。最後の直線に入ったところで泥だらけのライズは一気に先頭に立ち、3バ身もの差を付けてゴールを駆け抜けた。
「やった!」
ゴールを確認してそう叫んだ瞬間、脚の痛みライズは顔を歪めた。白い髪が茶色くなるほど泥まみれになりながら勝ち取ったトロフィーは、左脚を庇うライズには何十キロもあるように感じられた。
「こういう時は、これしかないでしょう」
もし重賞を勝てたら、ウイニングライブでライズはこれを歌うと決めていた。
ライズにとって初勝利の時以来のよさこい節は、うんざりする程この曲でのライブを見て来て、ライズの成長を見守って来たお客さんにとって特別な感動をもたらした。
ライズは痛みを忘れて歌った。普段はやる気を見せないバックのウマ娘達も、今日ばかりは鳴子を手に踊って祝福してくれた。
悲願のタイトルをグランプリで勝ち取ったライズをねぎらうべく、トレーナー達が祝勝会を開いてくれた。と言っても、居酒屋で酒盛りをするだけだ。ライズにとって、祝勝会とはこういう物だ。
「ライズ、良かったねや。これで名実ともにナンバーワンじゃ」
トレーナーは前後不覚に酔って上機嫌だ。トレーナーも県知事賞を始めて勝ったのだという。ライズはまだ酒が飲めないので大人達が酒を飲んで楽しむのを眺めていると、携帯に着信が入った。
「ライズちゃん、おめでとう!」
声の主は涙声のウララだ。良くない別れ方をしたというのに、ウララはライズを気に掛けていてくれたのだ。
「良かったね。本当に良かったね。私レース見て泣いちゃった」
「…ウララ、ウララのおかげで私は頑張れたんだよ」
ライズは思わず貰い泣きしながら店を出た。年の瀬の夜空は妙に綺麗だった。
Part.2 涙は枯れる
悲願の初タイトルをグランプリで飾ったまでは良かったが、その代償は大きかった。ライズの脚の状態はいよいよ悪化し、もう限界を超えていた。だとしても、ライズは走るのを止めたくなかったし、止めるとトレセンが困るのだ。
トレーナーもライズがどうにか走れるようにしてやるのが精一杯で、シーズンの初戦でついにライズは着外に落ちた。コウチでウイニングライブに出られなかったのはこれが初めてだった。
だが、これは序曲に過ぎなかった。痛みで眠れない夜を過ごしながら騙し騙し走るライズの姿は見る人を不安にさせ、レースの勝ち負けはもはや度外視というところまで落ちた。
つまり、ライズは数合わせのウマ娘になったのだ。だとしても、ライズが走るというだけである程度の集客力を望める以上、ライズはレースをしないわけにはいかない。ライズはライバルではなく、痛みと責任感と戦うようになった。
コウチで一番客を集める黒船賞にもライズは出走した。だが、スタートダッシュこそ決めたものの、そこからはもう集団についていけない。これには痛みよりも、ファンや関係者を失望させた事がこたえた。
いつしか、ライズはレースで負けても泣かないようになってしまった。痛みがそうさせるのか、無力感なのか、酷く不愛想になった。そして、ついにその日が来た。
それはスタート直後だった。左膝が爆発したような痛みとともに、ライズは崩れ落ちた。声にならない悲鳴を上げてのたうつライズは病院で麻酔を打たれ、痛みと朦朧とする意識の中で夜を明かした。
「先生、どうにかならんがですか?」
知らぬ間に眠りに落ち、トレーナーが病室で医者にそう掛け合う言葉で目が覚めた。
「いかん。これは切断せんと死にますき」
「けど、この娘はこれからの人生が…」
ライズはその時、自分の身に何が起こったのか思い知った。ライズは寝たふりをしながら、自分が左脚を失うという過酷な運命を妙に冷めた気分で受け入れた。
故郷から両親が呼ばれてトレーナーからその旨を説明され、ライズの番が来た。もっとも、嫌と言っても脚は無くなってしまうに違いない。
「トレーナー、私、脚を切られちゃうの?」
ライズは事を言い出せないトレーナーに先手を食らわせた。
「…許してくれ」
「義足でレースって出来ないかな?」
ライズはまだ走りたかったのでそう言った。だが、トレーナーは泣くばかりで、返事が出来なかった。ライズは不思議と涙が出なかった。
切断手術とリハビリは地獄だった。ライズはもう自分の人生に希望が無いのを知っていて、現役時代が嘘のようにリハビリを嫌がった。
トレーナーはそんなライズを仕事の合間を縫っては病院に足を運んで励ました。その時だけライズは頑張れた。
脚を無くしたウマ娘というのは少なからず居るが、もう走れない所詮は無名のウマ娘の為にこんなにも良くしてくれるトレーナーが居るだろうか?少なくとも、ライズは聞いたことがない。だが、その親切心が重荷になり、最後はトレーナーの面会を拒絶するようになった。
Part.3 南国土佐を後にして
そして独りぼっちになったライズは数か月に及んだ辛くて退屈なリハビリを終えて退院し、故郷に帰る事になった。
ウマ娘の引退後は過酷だ。レース関係の仕事はGIを勝つようなウマ娘でもあぶれる事がある。なので大半は人間に混じって生きる事になる。
そうなるとウマ娘の怪力や耳は却って重荷になる。そうして社会に馴染めないウマ娘がどんなに惨めなものか、誰もが見て見ぬふりをする。それ程惨めだ。
まして、ライズは左脚が無いのだ。普通の人間に戻れるはずがない。そして、コウチのウマ娘はこうした末路を先延ばしにする為に必死に走っているのだ。
「おい、何をしよらあ」
そこへ顔を出したのがトレーナーだったのでライズは驚いた。ライズは誰にも知らせずに消えるつもりで居たのに、トレーナーはどうやって調べたのか、見送りに来たらしい。
「渡したいもんがあってよ。引退する時に持たしちゃろうと思うて」
トレーナーは小さな紙箱を差し出した。ライズが箱を開けると、そこには赤いサンゴのあしらわれたかんざしが入っている。勝負服の物をくすねたらしい。トレーナーが誰もにこうした餞をするとも思えない。
「お前は特別やった。クニへ帰ってもどくれるなよ」
ライズはトレーナーの言葉と心尽くしに長い間見せなかった笑顔を見せ、かんざしを髪に挿した。
「似合います?」
「おう、似合うちゅうぞ」
トレーナーはそれを見て男泣きに泣いた。そうしてライズは夕焼けのロビーを消えていき、飛行機の中で久しぶりに涙を流した。
元ネタ解説
Part.1
高知県知事賞:
毎年大晦日に行われる高知競馬のグランプリレース。
イブキライズアップの優勝した2004年の優勝賞金は僅か175万円で、その後130万円まで減額したが、2021年にはバブル期の1200万円を超えて史上最高額の1600万円に増額した。
Part.2
左膝:
2005年7月10日、イブキライズアップはスタート直後に不安を抱えていた左脚を骨折して競走中止。
これからの人生が:
イブキライズアップを関係者はすぐに安楽死させず、何とか命は助けようと尽力した。
しかし、6日後に立ち上がれなくなって安楽死となった。地元紙が大きな追悼記事を載せたのがイブキライズアップの特別さを物語る。
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