【グランシュヴァリエ】第3話 汝、敵を前にして退くことなかれ【未実装ウマ娘】 (Pixiv Fanbox)
Published:
2022-07-31 12:00:00
Imported:
2026-06
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Content
Part.1 風車をぶち壊せ!
グランが南部杯でウイニングライブに出たというのは驚くべき出来事で、この南部杯での成績が効いてグランはその年はフナバシで行われたJBCクラシックに出走できた。
だが、11番人気というのはグランを不満にさせる数字であった。ファンはグランを歓迎はしてくれても、実力は認めていないわけだ。南部杯は所謂フロックだと誰もが思っていた。
「あれだけやっても、私の評価はこの程度なんですね」
グランはパドックの掲示板を見て思わずトレーナーに愚痴った。南部杯では条件や展開にも助けられたのは確かだ。だとしても、あんまりな評価だとグランは思った。
「なら、間違っとったと思わせたれ」
トレーナーも面白くはなかったろう。そして、トレーナーのその一言でグランは闘志に火がついた。
自分は他のウマ娘だけでなく、コウチへの侮りとも戦っているのだ。ならば、その侮りを後悔に変えてやるのが使命ではなかったか。
結局グランは一見何も見るところなくレースに敗れた。だが、7着には残った。後ろには逃げ潰れたオーロマイスターも居た。誰も気付かなかったかもしれないが、グランはファンの予想を確かに上回った。
グランの孤独な戦いがそうして始まった。続いてゲンの良い報知オールスターカップでは7番人気で5着。久々に高知に戻っての凱旋レースは圧勝。
初めて訪れたサガの佐賀記念は7番人気で6着、またコウチに戻って圧勝。しかし、グランの苦悩がここから始まる。
フナバシのかしわ記念は7番人気で10着。これは1年ぶりに取った人気を下回る着順であった。
かしわ記念はダート戦線のトップが揃うレースなので諦めが付かないではなかった。だが、またコウチで1勝して初めて訪れたソノダでの園田FCスプリントは屈辱だった。
ソノダにコウチ、フクヤマと西日本のローカルトレセンの代表が集まるこの交流戦は僅かに距離820メートル。ローカルには短距離のレースが少なく、なら1000メートル未満の超短距離戦をやろうという事になって各シリーズで一斉に始まったレースの一つだ。
グランはコウチ代表に選ばれ、1番人気に推されたが、スタートで遅れて取り返せず5着。日本一ヤジがきついソノダのファンの罵声は、グランを大いに落ち込ませた。
Part.2 騎士団長の責務
だが、グランの活躍は地味ではあってもコウチを良い方向に導いていたのも確かだ。
グランは屈腱炎でURAを追われたウマ娘だ。なのに、グランは毎月のように遠征に出てはしばしばURAのウマ娘を脅かす。それはファンの視界の外であったとしても、ウマ娘達にとっては違った。
コウチにはグランが居る。グランをあそこまで走らせるトレーナーが居る。それは勝利に見放されてもがくウマ娘にとって地獄に垂れた蜘蛛の糸だ。その糸に多くのウマ娘がすがった。
故障を抱えたウマ娘が、もう上積みはないとされたウマ娘が、コウチに移って最後の望みをかける。かつてそれはキャリアの終わりを先延ばしにする悪あがきを意味した。
だが、グランの登場はその意味合いを変えた。コウチへ行けばもう一花咲かせる事が出来るかもしれない。そういう期待をもってウマ娘達はコウチへやって来るようになった。
GIは無理でも、勝つのは無理でも、入着さえおぼつかないとしても、せめて勝負服を着たい。ウマ娘達のその悲痛な願いはしばしば叶えられた。
グランの遠征に同行するウマ娘もレベルが上がった。最初はグランを安心させる為に先輩が彼女に同行した。しかし、今やグランが導く立場だ。
グランに同行する彼女達もお供の立場に安住せず、機会あらば自ら遠征に打って出る。それも、他のトレーナーのウマ娘であったりする。
それもこれも、グランの活躍があればこそだ。グランはコウチは不可能を可能にする場所だと示す生きた見本なのだ。グランは走る事をやめる事は出来なかったし、またやめるつもりもない。走れる事のが一番嬉しいのはグランだからだ。
思い出のモリオカでのマーキュリーカップでは4着に残った。大差の付く決着だったが、最後の最後にグランが仕留めたミラクルレジェンドは後にGIを2回も勝った。
グランは条件さえ揃えばURAのウマ娘を切って捨てる事の出来る。南関シリーズにさえ何人も居ない類まれなウマ娘だった。
続くカワサキでの一戦こそ人気を裏切る着を取ったが、そこからは調子を上げ、2年連続で出走した日本テレビ盃では5着。
勝ったスマートファルコンにはとても及ばないが、どっちが好きかとファンに聞けば大半はグランだと答える。いつしかファンはグランを特別なウマ娘だと思うようになった。
グランはコウチを背負っている。コウチにはグランが居る。その事実は、交流重賞での勝利よりずっと価値がある。トレセンが潰れるという悲惨な現実を知るファンにとって、グランは紛れもないスターだった。
Part.3 汝、居場所を護るべし
グランはコウチで調整がてら1勝し、今年はオオイで行われるJBCクラシックに乗り込んだ。
「トキメキ☆ウマド…」
「ときめかねえよ!」
「アメリカへでもドバイへでも行って帰って来んな!」
「ローカルを舐めんじゃねえ!」
ファルコンへのファンの怒りは見かける度に凄まじくなる。URAのレースに出るでもなく、海外へ打って出るでもなく、確実に勝とうと南関東でばかり走って6連勝とあってはファンが怒るのは当然だろう。
「オッサン、勝てねえからってひがむなよ!」
「何だとこのガキ!」
「やっちまえ!」
ファルコンの強さを評価するURA贔屓のファンがやり返して客席で喧嘩が始まった。こんな調子なのにファルコンの勝敗予想は常に揺るぎなく1番人気なのがファンの屈折した心理を物語っていた。
偶然にも隣の枠になったグランは黒字に黄鋸歯形の腕章をサブトレーナーに着けてもらいながら、ファルコンへのヤジに恐れをなした。
「お前がコウチへ勉強しに来たばっかりの頃を思い出すやないか。南関から来たくせにてヤジられて」
トレーナーはその姿を見ながらサブトレーナーの方を向いてにやりと笑った。
「コウチがあって、先生と会わなきゃ俺はもうレースを辞めてますよ」
照れくさそうにサブトレーナーも笑う。彼もまた、グラン同様コウチに助けられた身の上だ。
「だから、俺にとってもコウチは特別なんだ」
そう言ってサブトレーナーはグランの背中を押してパドックに出した。
「グランシュヴァリエです。コウチ代表として頑張ります」
グランの挨拶はこの程度だ。コウチと言えばそれだけコウチが助かる。なら余計な言葉は必要ない。
「偉いぞ!コウチ代表!」
「前の奴、この心構えを見習え!」
「あいつに一泡吹かせろ!」
グランにはファンは妙に優しい。8番人気というのは、グランが地道に実績を積み重ねて来た事をファンも多少評価してくれたという事だろう。
「何でグランちゃんはあんな人気なの?」
それが勝つ為とは言え、どこへ行ってもファンに嫌われるのがファルコンも堪えたのだろう。あちこちで顔を合わせていて、いつも自分とは逆に歓迎されるグランに秘訣を訊ねた。
「私は、コウチの代表だから」
グランのごく単純な答えにファルコンは不思議そうな顔をした。その真意が分からないファルコンをファンが嫌う理由が、今のグランにはよく分かる。
だが、ファルコンはいつも次元が違う。向こう正面に出た時にはもう彼女は大差をつけて勝利を確実にしているのだ。屈腱炎が無くとも、グランはきっとファルコンには勝てなかったに違いない。
グランはファルコンに勝つ事が出来なくてもこの際構わないと思っていた。自分に求められているのは勝利よりも、意地と誇りなのだ。
逃げるなら放っておけばいい。無理に付いて行って事故など起こせばそれこそコウチは駄目になる。自分のレースをして1つでも良い着を取る。その積み重ねがコウチの将来になる。
場内はファルコンが予想通りURA勢を引き連れて勝ちそうなのを見て騒然としている。こういう時にチャンスが来る。グランは後ろからゆっくりとポジションを上げ始めた。
猛然とグランは追い上げる。だが、第4コーナーに入った時にはもうファルコン達は直線に居る。
グランは最後の直線に出たところで6番手。だが、オオイの直線は長い。脚を温存したグランの根性の見せ所だ。
ファルコンが危なげなくトップでゴール版を通過するのが見える。だが、レースは終わらない。グランは1人追い抜き、最後の最後でもう1人。4着に飛び込んだ。
「まぐれやなかったな」
記者にもみくちゃにされるファルコンを後目に、トレーナーはグランを労った。その4着はURAしか観ないファンはすぐに忘れてしまうだろう。
だが、コウチトレセンの歴史にはいつまでも残る。それはグランの咲かせた大輪の花だった。
元ネタ解説
Part.1
コウチへの侮り:
高知所属馬の積極的な遠征はこの頃始まったが、高知所属という肩書で過小評価される流れはかなり後まで続いた。
人気を下回る着順:
グランシュヴァリエは高知移籍以来通算で38戦の遠征を重ねたが、人気を下回る着は6回に過ぎない。
超短距離戦:
2011年から地方競馬を挙げて始まったシリーズで、各地でトライアルレースが行われ、船橋の習志野きらっとスプリントを目指す。
初期はノウハウが乏しく、追込馬が不利をこうむって人気を裏切る展開が目立った。
Part.2
地獄に垂れた蜘蛛の糸:
高知の調教師は故障馬の扱いが上手く、グランシュヴァリエの活躍で故障馬を高知で再生する流れが出来始め、レベルが格段に向上した。
同行するウマ娘:
馬は群れで生活する生き物なので、慣れない場所へ遠征する際には仲の良い馬を一緒に遠征させることが望ましいとされる。
そうした馬を「帯同馬」と呼び、海外遠征では特に重視される。
ミラクルレジェンド:
2007年産の牝馬。後にJBCレディスクラシックを連覇するが、厳密には当時は格付け無しでGIになったのはその翌年から。
類まれなローカル:
当時の交流重賞は中央馬のボックスを買えば収支はともかく的中した。南関東以外の地方馬が馬券に絡むようになるのは2010年代後半を待たねばならない。
トレセンが潰れる:
2001年の中津競馬を皮切りに次々と地方競馬は廃止になり、2013年の福山競馬まで実に11の競馬場が廃止になった。
JRAが競走馬の需要の減少を恐れる馬産家からの要望で地方競馬を救済するようになってようやくこの流れが止まった。
Part.3
南関東でばかり走って:
この後スマートファルコンは南関東で連勝を9まで伸ばし、ドバイ遠征を行って引退した。
古くから南関東に通い詰めるオールドファンからの憎まれ方は凄まじかった。
客席で喧嘩:
これは競馬場ではまま起きる。交流重賞は常連客の気が立っている為特に危険である。
黄鋸歯形の腕章:
グランシュヴァリエの南関東での主戦騎手、本橋孝太騎手の勝負服の意匠。
コウチに助けられた身の上:
本橋騎手は雑賀師に大変な恩義を感じ、今でも母の日には夫人に花を贈るという。
コウチの代表だから:
若い、中央競馬しか知らないファンは往々にして競馬場の経営という物についてあまり考えが及ばない。当時の地方競馬の経営は綱渡りであった。
ファルコンはいつも次元が違う:
スマートファルコンの連勝は武豊が騎乗して逃げに徹するようになってから始まった。
なので「砂のサイレンススズカ」というニックネームがあるが、地方でも中央でもこれはあまりファンに良い顔はされない。
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