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1

「あて……ぬの?」

なんとか声を絞り出した。

───あてぬの。

───当て布。

あの布切れ。

みんなはそれを四つ折りにして、褌の中に入れていたんだ。

だから水に濡れても中身が透けずに済んでいた。

形が浮かび上がることもなかった。

俺はずっと───

考えるより先に、手が勝手に動いた。

周りからの視線を遮るように、褌の前に手を重ねていた。

「いや、今さら隠しても遅いだろ」

Gは俺の肩に腕を乗せて、笑いまじりに言う。

Tがボクサーパンツを履いて、こちらを見ている。

他の参加者たちも、着替えの手を止めてはいないが、こちらを窺っている気がした。

ずっと見えていたんだ。

透けた褌の中身が。

ずっと。

走馬灯のように記憶が駆け巡る。

───川から上がる。

───神輿を担ぐ。

───テレビカメラがこちらを撮る。

───おばさんに話しかけられる。

───Mさんに3人で写真を撮ってもらう。

───地域振興課の撮影係にも撮られている。

禊から公民館に戻るまでの3時間、参加者にも、ギャラリーにも、全員に───

体がこわばって動けない。

「───で?なんで当て布つけてなかったんだよ?」

再び聞いてくるGの声が、俺の意識を引き戻す。

「……いや、それは……」

もごもごとした言葉が口から漏れる。

耳が熱い。

寒いのに頭皮が沸騰して汗が滲むのがわかる。

冷えた空気が汗を蒸発させて、体温を奪っていく。

「おっさんに褌締めてもらわなかったのか?」

「あ、ああ、うん……」

俺の声は小さく、おそらくGにしか届いていないだろう。

「なんで?」

Gは構わず周りにも届く声量で聞く。

「なんでおっさんに締めてもらわなかったの?」

───チンコを見られるのが恥ずかしかったから。

Gはとっくに気づいている。

俺からその言葉を引き出すために聞いているんだ。

「それは……」

答えられないのが答えになっていた。

部屋にいる誰もに、俺がチンコの小ささを気にしていたんだろうとバレている。

自然と体が小さくなる。

背中が丸まって、視線が足元に落ちる。

隣のGの巨大なチンコが視界に入る。

「なあって」

肩に置かれていたGの腕が浮いて、俺の背中を辿って俺の褌を掴んで軽く持ち上げる。

股間が締められて、薄い布がキュッとチンコに張り付く。

途端にピリッとした緊迫感が俺を襲う。

無理やり褌を外されていたTを思い出す。

今、俺の腰にある薄い布は、股間も隠さない上に、簡単にGの大きな手で外されてしまうだろう。

俺の命をGの指一本が握っているような閉塞感。

周りではみんなが服を着ていく中、俺とGだけが未だ裸のままだった。

心許無く、みぞおちのあたりがざわざわとした浮遊感に襲われる。

「まあ、いいや」

Gは俺が答えられないのに飽きたらしく、俺から離れる。

掴まれた褌も離され、緊迫感から解放される。

思わず小さく息が漏れる。

ぶらぶらと巨大なチンコを太ももにぶつけながら、Gは自分の着替えが置かれた場所まで行くと、さっさとボクサーパンツに足を通す。

俺はまだ股間に手を置いたまま動けなかった。

2

各々、褌から服に着替えている。

さっきまで裸だったGもすでにズボンを履き、上のインナーを着はじめている。

俺だけが裸のまま取り残されている。

早く俺も着替えないと。

どうすればいい。

リュックにはタオルも持って来ている。

タオルを腰に巻いて完全に隠しながら着替えるか、諦めて一切隠さずに着替えるか。

隠せば───小さなチンコを気にしていると認めることになる。

隠さなければ───直に、全部見られる。

頭の中でその2択だけがぐるぐると回っていた。

頭が空っぽで、それ以上のことは何も考えられない。

本心では隠したい。

でも誰も隠して着替えない中、俺だけがタオルを巻くのも見苦しい。

かといって堂々とはできない。

もたもたしているうちに周りは、着替え終えた者が増えていく。

Gはすでに上着以外を身につけている。

自分だけが裸で置いていかれている。

俺はようやく褌を少しずつ解いていく。

片手で股間を覆いながら。

結局、どっちつかずな着替え方になる。

タオルを巻くことはできないが、さらけ出して見せることもできない。

空いている手で中途半端に隠すだけ。

隠しているつもりでも、片手では足りない。

指の隙間から、覆いきれない端から、どうしても見えてしまっているだろう。

「ふん」

Gが鼻で笑う。

片手ではうまく解けずに、両手を尻の結び目に持っていく。

周りから見られていないだろうか。

自然と、腰が引っ込む。

なんとか褌が解けて、床に落ちる。

腰回りを締めていた圧が消えて、途端に体が頼りなくなる。

すぐに手を股間に持っていく。

冷えたチンコの先端が汗ばんだ手のひらに当たる。

落ちた褌には当然、当て布はない。

周りは服を着ている中、自分だけが全裸になる。

股間に手を当てたまま、自分の荷物のところまで歩く。

リュックのファスナーを開ける。

両手を使わなければならず、ちょこんとチンコがさらけ出される。

リュックの中からトランクスを探り出す。

同時に、使わなかった当て布も飛び出した。

白い小さな布が、畳の上に広がる。

近くにいた誰かの視線が、それに落ちた気がした。

慌てて当て布をリュックに押し込む。

さっさと履いてしまおう。

トランクスに片足を通した時。

「おい、パンツ、裏表逆になってんぞ」

Gが言う。

「えっ」

反射的に足を抜く。

トランクスを両手で裏返す。

その間も小さなチンコは丸出しになっている。

縮こまりすぎて、震えもしない。

一度履こうとしたトランクスを脱いで裏返し、また履こうとしている自分。

もたついた動作は、余計に目を引いている気がした。

今この瞬間にも、チンコに注目されているんじゃないかと考えてしまう。

急いで足を通し、トランクスをぐいっと上げる。

ゴムに小さな突起が引っかかったことも気にせず、へそまで上げる。

何かがおかしい。

「あれ?」

トランクスのゴムが外側に来ている。

トランクスを裏返しのまま履いてしまっていた。

Gがくすくすと笑っている。

嘘をつかれていたことに気づく。

言われるまま、まんまと騙されて、トランクスを裏返して履いてしまった。

それも自分の手で。

頭が真空状態でもはや何も考えられなくなっていた。

履き直すか?

せっかく隠せたチンコをまたさらけ出すのか?

裏返しのトランクスをそのままに、ズボンを履いてしまおうかと迷う。

そうすればもうチンコを見られなくて済む。

でもそれは───「やっぱり恥ずかしかったんだ」と認めることになる。

かと言って履き直せば───また、小さなチンコを見せることになる。

Gはまた俺に2択を突きつける。

あいつは俺がまた小さなチンコをさらすかどうかを高みから見物してるんだ。

どうすればいいか迷っていると、すでに上着を着たGが近寄ってくる。

「ま、今日はどんまい」

ニヤリと笑うと、「お疲れ、またな」と言って部屋から出ていってしまう。

俺は裏返しのトランクスを履いたまま立ち尽くす。

3

あいつにとって、俺のチンコなんてどうだってよかったんだ。

俺が小さなチンコを再び露出するかどうか、その結末にも興味がないんだ。

あいつは俺の粗チンを、暇つぶしでからかいはするが、居残ってまでバカにするほどの興味はないんだ。

そんなどうでもいいチンコに、俺だけがこだわっていた。

俺だけが気にして、見られまいと企てて、その結果全員に見られて───

勝手にGも興味があるだろうと思ってしまった。

俺がトランクスを履き直すか否か、再びチンコを晒すか否か。

俺が自意識過剰だったんだ。

粗末なチンコのくせに。

周りではぞろぞろと、着替え終えた者たちが帰っていく。

あいつだけじゃない。

他の誰も、俺のチンコなんてどうでもいい。

俺だけが気にしているだけだ。

自分がちっぽけだった。

眼球の奥がじんわりと熱くなる。

視界がにじんだ。

着替え終えた者たちは続々と帰宅していき、部屋は閑散とし始めていた。

Tはまだ上着を着ずに、俺を待っているらしかった。

「……Sさん、すみません」

Tが小さく言う。

「最初に気づいた時、言おうとしたんです……当て布のこと」

禊の後、Tが何かを言いかけて、Gに連れて行かれたのを思い出す。

そのことを謝るためにTは残ってたのか。

「……その後も、言わなきゃと思ってたんですけど……」

部屋にはもう数人しか残っていない。

鼻をすする。

「お前は悪くないよ。俺が───」

自分で褌を締めたのが全部悪かったんだから。

俺は裏返ったトランクスのゴムに手をかけると、足元に下ろす。

再び現れた小さなチンコ。

Tがこちらを見ていることはわかっていた。

その目は俺のどうでもいい粗チンに注がれている。

それでも俺は急がない動きでトランクスを足元から抜く。

丸まった背中を伸ばす。

姿勢よく立ち、ちょこんと先の尖ったチンコが前を向く。

全裸のまま、トランクスを裏返す。

ゴム部分を持って、干す前の洗濯物を伸ばすように、軽くパタパタと振りさばく。

その振動で、チンコがぴょこぴょこと震えるのがわかる。

足先をトランクスに入れる。

ゆっくりと、小さなチンコが隠されていく。

服を着終えるころには、部屋には俺とTしかいなかった。

上着を着る。

「帰るか」

俺は小さく言う。

まだTと目は合わせられなかった。

Tは少し微笑んで言った。

「はい、帰りましょう」

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