祭り(M視点) (Pixiv Fanbox)
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1
「あんたさ、どうすんの?」
同僚のOが聞いてくる。
「どうするって、なにが?」
「バレンタインに決まってるじゃん、Sさんにあげるの?」
途端に顔が熱くなる。
「え、えっと……でも、迷惑じゃないかな」
「はあ〜」
Oが大きなため息をつく。
「Sさん奥手なんだから、アピールするいいチャンスでしょ!」
「そう……だけど」
「まだキスもしてないんでしょ?」
「うん」
「手は?」
「えっと……」
私は口ごもる。
「え?繋いだの?」
Oが目を見開く。
「うそ!いつ?聞いてないんだけど!」
「この前食事に行って……その帰りに……」
Oがずいっと顔を寄せてくる。
「ちょっと!詳しく言いなさいよ」
私はうつむいたまま答える。
「レストランからの帰り道、歩いてたら、たまたま手と手が当たって……それでその流れでS君が握ってくれて……」
Oの顔が明るくなる。
「なーんだ、やるじゃんSさん!」
暗い夜の並木道。
手の甲が軽く触れる。
ドキッとしていると、S君の手が私の手に絡まってくる。
S君の手は少し震えていた。
顔を見ると、硬く前を向いたままだった。
握り返そうとしたら、S君の手にぎゅっと力が入った。
思い出して顔が沸騰する。
「Sさん絶対あんたのこと好きじゃん」
「そう、かな……」
「とにかく、チョコはあげなさいよね!」
「うん……!」
その週末、駅前のチョコレート専門店で、小さな箱を二つ買った。
一つはS君に。
一つは自分に。
2
2月中旬。
バレンタインの前日だった。
祭りの撮影係としてOと一緒に公民館へ向かった。
公民館の前にはすでに褌姿の男性たちがいた。
(寒そうだな)
褌一丁の男性の体を、こんなに間近で見るのは初めてだった。
目のやり場に困る。
その中にS君はいなかった。
市役所からはS君とT君とGさんが参加することになっていた。
公民館の受付のおばさんに挨拶をすると、おばさんは優しそうな笑顔で答えた。
「ああ、はいはい市役所の。ご苦労様です〜腕章を渡しますね」
おばあさんは簡易テーブルの下をゴソゴソと探っている。
テーブルの上のバインダーが目に入る。
受付のシートが挟まれていて、参加者が名前を記入していっているようだった。
そこにはS君とT君の名前があった。
S君の丁寧な字が並んでいる。
(もう来てるんだ)
すぐそこの開かれた扉の向こうにガヤガヤと賑やかな声が聞こえる。
私のいる位置からでも部屋の中が少し見えてしまっている。
おばさんの位置からは丸見えなんじゃないか。
入り口近くにいる男性が服を脱いでいっているのが見える。
パンツ一丁になった男性は、そのままそれも脱いでしまう。
私は慌てて目をそらす。
それでも目は、パンツの中身を捉えてしまっていた。
そらした目が、床に置かれた段ボール箱を見る。
開け放たれた段ボールの中には、畳まれた白い布が積まれていた。
透け感のある素材の布。
これが褌なんだ。
結構薄く見える。
(S君もあの部屋の中でこれをつけているのかな)
少し胸がざわついた。
「あれ?おかしいわね」
おばさんはカゴの中を探しながら、言う。
「あ!そうだ、奥の部屋にあるんだった、すみませんね、勝手に入っちゃって大丈夫だから持ってっちゃってもらえますか?」
「はい、わかりました」
おばさんの奥に細い廊下が伸びていて、その奥に扉が見える。
奥の部屋に行くには、更衣室の前を通らなければならなかった。
横を見れば、褌に着替える男性たちが見えてしまうだろう。
さっき目にしてしまった男性の裸が脳みそに蘇る。
S君もいるかもしれない。
もしかしたら、ちょうどパンツを脱ぐ瞬間かもしれない。
私は前だけを見て歩いた。
更衣室の前を通り過ぎて、廊下を進む。
ふと振り返る。
更衣室からパンツ姿のS君が出てくるところだった。
手には白い褌を持っている。
おばさんの前を横切って、見えなくなった。
こちらには気づかなかったらしい。
「どうしたの?」
前を行くOが聞いてくる。
「う、ううん、なんでもない」
私は慌てて言う。
声が上擦っているのが自分でもわかる。
部屋に入ると、8畳ほどの部屋に備品などが仕舞い込まれている。
少し埃っぽい。
テーブルの上に置きっぱなしになった段ボールの中に、腕章をすぐに見つけることができた。
市と祭りの名称が書かれている。
それを取って、部屋を出る。
おばさんに挨拶をしつつ、さっき下着姿のS君が行った先を見ると、トイレがあった。
きっと着替える前にトイレに行ったんだ。
パンツ姿のS君を思い出す。
痩せた体。
でも不健康な痩せ方ではなかった。
スーツの下にはあんな体があったんだ。
パンツは男性がよく履いているボクサーパンツではなく、トランクスだった。
柄ものだったのが、少し意外だった。
S君らしくない気がして、でもそれもS君なんだ。
知らないS君を知れた気がしてうれしかった。
同時に、手に褌を持っていたことも思い出す。
トイレに行くだけなら褌は部屋に置いていくのでは……?
3
腕章をつけて、カメラを構える。
川辺で待機していると、褌姿の男性たちがゾロゾロとやってきた。
今日は仕事だ。
ちゃんと撮らなきゃ。
どうしてもS君を探してしまう。
いた。
遠目だからはっきりとは見えないけど、さっき見た細身の体に白い褌を締めている。
トランクスは、丈の短いショートパンツのようだった。
それが、今は腰回りのラインを少しも隠さない、体にぴったり沿った褌姿だった。
見てはいけないような気がして、目を逸らすが、また目をS君に向ける。
ファインダー越しなら、見ていても仕事だ。
そう自分に言い聞かせた。
男性たちは一様に、川へと入っていく。
見ているだけで寒い。
みんなの表情を見ているとその辛さがひしひしと伝わってくる。
「上がれー!」
おじさんが声を上げると、男性たちも水から出てくる。
私はカメラを構えて、男性たちを引きで撮る。
濡れた肌は光を反射する。
水に足を取られるのか、男性たちは腿を大きくあげて、水飛沫を飛ばす。
キラキラとした輝きに包まれながら、男性たちが上がってくる。
褌は水を含んでピッタリと体に張り付き、心なしか入る前より、縮まったように見える。
濡れていても、股間の部分は白いままだった。
あんなに薄い褌でも、案外透けないものなのか。
男たちの中にS君を見る。
S君は自分の体を抱きながら、寒そうに水から出てくる。
他の人の褌は真っ白なのに、S君の褌だけ色が違うような気がした。
ベージュというか、肌の色に近いような。
川の中で砂がついたのかな。
気になったが、カメラのファインダー越しでは、それ以上はわからなかった。
禊が終わると、参加者たちは神輿の置かれた神社に向かう。
Oと打ち合わせして、二手に分かれることにした。
一行の前からOが撮り、私は後ろから撮る。
祭りとはいえ、肖像権の問題がある。
後ろからの顔が判別つかない写真も充分に使い道がある。
T君の後ろ姿は確認できた。
細身で色白のT君はすぐにわかった。
少し離れたところに、体の大きなGさんもいる。
S君は───
観客をかき分けていくと、神輿の先頭の方にS君の後ろ姿が見えた。
色白で細身だけどT君よりも逞しく見える背中。
キュッと引き締まった尻。
後ろから見ると、白い褌はT字に尻に食い込んでいて、ほとんど肌を隠す布がない。
レンズ越しに神輿と褌の男性たちを捉えていく。
4
神輿は商店街でいったん休憩となる。
観客たちと参加者とがごちゃ混ぜになり、ざわざわと話している。
褌姿の男性は寒そうではあったが、同時に清々しい存在にも見えた。
その人混みからGさんの姿が見えた。
こちらに向かってくる。
「おうMちゃんじゃねえか!」
「あ、Gさん……」
ピリッとした警戒心が体を走る。
顔がひきつるのを堪えながら、軽く会釈する。
筋肉質の大きな体。
その股間には白い褌。
褌は大きく膨らんでいて、中に巨大なものが収められているのが見てわかる。
汚らわしいものを見た気がして、すぐに目を逸らす。
「そうだ!あっちにSたちもいるから行こうぜ!」
Gさんの腕にぐいっと引き寄せられる。
「え、で、でも」
「いいからいいから!」
Gさんの力に抗えず、引っ張られていく。
この先にS君がいる。
「ほらこっちこっち!」
先にS君とT君が見えはじめる。
それまで遠目に見ていたS君の裸が近くなっていく。
顔が火照る。
S君がこちらに気づいた。
「お、おつかれさまです」
「Mさんも来てたんだ」
「うん、ごめんね、生活課に参加をお願いすることになっちゃって。うちの課で出せればよかったんだけど、男手が課長と係長しかいなくて……2人ともおじさんで、ほら、腰が、ねえ?」
「いいってことよ、Mちゃん、裸で外歩くのなんてなかなかできることじゃねえし、いい経験ってやつよ」
Gさんの返答に苦笑いしかできない。
S君の体。
近くで見るS君の裸。
体毛の薄い、適度に引き締まった体。
視線が下がると、褌に目がいってしまう。
そこには布が透けて中の肌が見えていた。
黒々とした毛の中に、キュッと丸まった膨らみ、その上に茶色い小さな何かがちょこんとくっついていた。
見た瞬間には何かわからなかった。
次第にそれが何かがわかり、慌てて目を逸らす。
顔に血が上っていくのがわかる。
男性器と聞いてイメージするものとは異なっていた。
腕章を取りに行った時に見えてしまった、知らない男性のものは股にぶら下がる柔らかそうな棒だった。
それとは明らかに形が違って見えた。
あれがS君の……?
「そうだ、ちょうどいい、せっかくだし撮ってもらおうぜ!」
「え?で、でも……」
「いいから!ほらMさんカメラ構えて!」
Gさんに言われるまま、カメラを向ける。
レンズを覗く。
Gさん、S君、T君。
体の大きいGさんに合わせるようにS君の体がピンと伸びている。
その股間には、こじんまりとしたもの。
隣のGさんの股間は褌越しでもわかるほど大きなもの。
私はシャッターを押す。
S君のものが、データとして記録されていく。
5
神輿の練り歩きは再開された。
S君は列の前の方で神輿を担いでいる。
他の参加者を見ても、褌が透けているのはS君だけのようだった。
なんで透けてるんだろう。
S君は気づいているのかな。
気づいた上でそれでもしょうがないと思っているのか。
裸祭りなんだし、褌が外れるハプニングも起こり得るだろう。
男の人にとっては、あそこが見えてしまうことは、さして問題ではないのかな。
写真を撮りながら頭ではぐるぐると考え込んでしまう。
───でも
もしS君が気づいてないんだとしたら。
自分の知らないうちに、裸を晒していることになる。
でもそんなこと聞けなかった。
「S君、褌の中、見えてるよ」なんて、言えるわけがない。
神輿は進んでいく。
考えれば考えるほど、休憩の時に聞いておくべきだったんじゃないかと、思えてくる。
考えているうちに、神輿は神社にたどり着く。
これで祭りは終了になる。
参加者たちは公民館へ向かっていく。
S君とT君が並んで歩いている背中が次第に遠ざかっていく。
町内会のおじさんが、腕章を受け取ってくれたので、私は公民館に返却に行かずに済んだ。
「おつかれ〜」
Oが話しかけてくる。
「おつかれさま」
「意外と疲れたね〜」
「そうだね」
私たちは自転車で来ていた。
自転車はここから近い市役所に停めてある。
Oと一緒に駐輪場まで向かう。
「あんたさ、S君のことは誘ったの?」
「え?」
いきなりS君の話を振られて驚く。
「バレンタインだよ」
「あ……まだ」
「あんたね〜明日なんだよ?」
明日の日曜日はバレンタインデーだった。
平日だったら、職場で渡せたかもしれないが。
「せっかく今日会えるんだから、誘っておいでよ」
「え?今から?」
「うん」
「でも……」
「そんなこと考えてる間に、他の女の人に取られちゃうかもしれないよ?」
Oの言葉に少しどきりとする。
確かにS君はモテる方だろう。
普段のスーツ姿が思い浮かぶ。
でもそれがすぐにさっき見た褌姿に変わる。
褌には透けた中身が丸見えになっている。
慌てて想像をかき消す。
「あたし、ちょっと行ってくる!」
「うん、行ってらっしゃい」
公民館に向けて漕ぎ出そうとしたその時。
「あ、そうだ」
Oが言って何かを差し出す。
「これ持って行って、あたし月曜日休みなんだ」
カメラから取り出したSDカードだった。
祭りの写真は市のパンフレットに使う予定で、デザイン担当に渡すことになっていた。
「うん、わかった」
私はそれを受け取って、自転車を漕ぎ出した。
6
時刻は夜に差し掛かり、空はだんだん暗くなってきている。
市役所から最短で行くと、公民館の裏手に出る。
そのまま建物の横に位置している駐輪場に乗り入れる。
S君を誘う台詞を、頭の中で何度もリハーサルしていた。
自転車を停める。
駐輪場はちょうど、褌の更衣室に面していた。
公民館の角部屋に位置している更衣室は、正面玄関側と駐輪場側に面している。
部屋には電気がついていた。
電気のついた更衣室は薄いカーテンのため、暗くなった外からは、中が完全に見えていた。
そこにはパンツを履いたS君がいた。
他の参加者はすでに着替え終えて、帰っていく途中だった。
なんでS君だけまだ着替えてないんだろう。
腕章をもらいに来た時に見た柄物のトランクス姿のS君がそこにいた。
心なしか、パンツの柄が少し薄く見える。
それにしても、パンツを履いていてよかった。
もしちょうど着替えるところだったら───
そう思っていると、S君はそのパンツを下ろし始めた。
え───
ゆっくりと下されていくトランクス。
足を抜くと、S君は全裸になった。
股間にはちょこんと突起がついていた。
褌の中に見たものは布で押し付けられて、体に張り付いていた。
それが、今は何にも抑えられずに、ちょこんと前を向いている。
鼓動が高鳴る。
見ちゃいけないと思っても、目が離せない。
S君のものが、一般的には小さいんだろうということはなんとなくわかった。
先が窄まっている。
子供の時にギャグ漫画で見たイラストを思い出す。
デフォルメされたそれは、絞られた巾着袋のように、キュッと窄まって、余った布がフリルとなって先でほんの少しだけ広がっている。
そのイラストと同じ形状のものが、S君の股間についていた。
S君はパンツを裏返して、パタパタと伸ばしている。
その度に、股間のものはちょんちょんと震えている。
パンツを反対側に履いていたから履き直してるようだった。
その様子をT君は目の前で見ている。
T君の目が、まっすぐにS君の股間に向けられていた。
意外だったのは、S君が堂々としていて、少しも恥ずかしがっていないということだった。
見られることを全く気にしていないようだった。
褌が透けていたことも、特に気にしていなかったのかもしれない。
よく男の人は、大きい方が自信を持つと聞く。
言い換えれば、小さいサイズだと、自信を持てないのかと思ったが、S君はそうではないらしい。
安心すると同時に、そんなS君がかっこよく見えた。
あそこのサイズなんてものにとらわれないS君が、より大人に見えた。
そんなS君の股間にあるものは対照的に可愛らしい。
小動物を見た時のような感覚。
可愛らしく守りたくなるような。
S君はゆっくりとパンツを履いてあそこが隠れていく。
私はハッとする。
心臓はバクバクとなっている。
私は人の着替えを盗み見たんだ。
とんでもなく汚らわしい自分に眩暈がして、自転車にまたがる。
S君を誘えずに、私は家に帰った。
7
『おつかれさま!明日よかったらちょっと会えないかな』
家に着くと、S君にメッセージを送る。
何度も文面を書き直した。
結局、一番シンプルな言葉になった。
すぐに既読はつかなかった。
スマホをテーブルに置いて、パソコンの電源をつける。
脇にはチョコレートの入った小箱がある。
S君に買ったものと同じブランドのものを、自分用にも買っていたものだった。
S君にあげるものだから、味見しておかないと、という言い訳で。
箱を開けると一粒のチョコレートを手に取る。
小さい。
指で摘めるほどの小ささ。
緩やかな円錐の形をしたチョコレートは今日見たS君のものにどこか似ていた。
口に含む。
パソコンにSDカードを差し、今日撮影した写真のフォルダを開く。
褌の男たち、神輿、観客たち。
S君の写真もあった。
その股間にある褌はやはり、透けていた。
Oのカメラのデータも確認する。
前から撮った写真。
自分が後ろから撮ったものよりも、S君の股間がはっきりと映っていた。
口の中にある小さなチョコレート。
S君のものを連想してしまい、噛み砕くことが躊躇われた。
舌を使ってチョコレートを溶かしていく。
S君の写真を編集ソフトで開く。
この写真はパンフレットに使用するかもしれない。
S君が自分の股間を気にしていないとしても、このままでは載せられない。
修正ツールで、S君の褌をなぞる。
小さなものは次第に、褌の色で塗りつぶされて、隠されていく。
他の写真に移る。
同じように、修正ツールで、S君の股間をなぞっていく。
小さなそれを、くすぐるようになぞっていく。
男の人は誰でも自慰をするものだと聞く。
S君もそうなのだろうか。
スーツを着たS君からは、あまりイメージができない。
S君の股間を続けて、なぞっていく。
口の中のチョコレートは体温で徐々に溶けてくる。
緩やかな円錐の尖った部分が優先的に溶けて滑らかになってくる。
S君の股間をなぞる。
チョコレートが溶ける。
S君の股間をなぞる。
チョコレートの中から、とろりとしたものが溢れ出した。
じわりと舌の上に広がっていく。
少しだけ苦い。
甘さの奥に、ビターな後味。
箱の中にはチョコレートの説明文が入っていた。
『ビターショコラの中に、なめらかなホワイトガナッシュフィリングを閉じ込めました。濃密でとろりとした味わいが口いっぱいに広がります。』
茶色いチョコレートには白いソースが入っていたらしい。
チョコレートは次第に溶けてなくなっていく。
口の中に少しだけの寂しさが残った。