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大変申し訳ございません。

あともう少しなんですが、最後まで書ききれませんでした。

続きは10月の上旬にアップさせていただこうと思います。

(できれば挿絵を付けた完全版もアップしたいですが、私生活、主に仕事が超忙しくなってしまったので……)


お待たせしてしまい大変申し訳ございませんが、何卒よろしくお願いいたします。




現時点で55,000文字です。




………………………………


平日の午前十時──。

通勤ラッシュを終えた駅の改札口は静かだった。

オフィス街へ向かう人々は既に勤務についている。

仕事場へ向かうでもない俺は、その静かな改札口の前に立っていた。


先日、控室で口約束させられた紗良とのデート。

昨晩綾乃には『急な出張が入った』と嘘をついた。

嘘はあっさりと通った。

綾乃は何も疑わず『そうなの?気をつけて行ってきてね』と、優しく見送ってくれた。

その笑顔を思い出すだけで、胃がキリキリと痛む。

愛する婚約者を騙し、その妹との密会に向かうための嘘。


こんなくだらない約束、反故にしてしまえばいいのに。

仕事だってあるし、急に休むのも変だし、行かなくたっていいはずだ。

それなのに俺は何を律儀に──。


「お義兄さ〜ん!」


改札を出た女の子が小走りで駆け寄ってくる。


「ッ……」


白いオフショルダーのニット生地のトップス。

鎖骨から肩甲骨のラインまで惜しげもなく晒け出し、夏らしく薄めの生地に仕上がっているせいで、下着のラインがくっきりと浮かび上がっていて。

更には小走りで近寄ってくるせいで、豊かな胸元が揺れに揺れ、見え隠れする谷間が強調される。

それに加えて丈の短いデニムのショートパンツから伸びる白くてムチムチとした太もも。

素足に履かれたサンダル。

健康的で肉感的な太ももが動くたびに揺れ、内腿同士で弾け合う。

足元は素足にヒールサンダル。

ペディキュアは今日のために塗り直したのか、鮮やかな桜貝のように艶めいていた。


大人びた容姿に反してあどけなさの残る笑顔。

まるでアイドルのような可愛さ。

それでいて、身体の方は成熟した女を醸し出していた。

道行く男性の誰もが一度は振り向き、二度三度と視線を送ってしまうであろう完成された美貌。


そんな多くの男たちから浴びる羨望の眼差しに全く臆することなく俺の前まで来た紗良は──。


「おはようございま〜す♡ お義兄さ……じゃなかった……えっと……」


一瞬言い淀んだ後、にっこりと笑って。


「悠真♡」


俺の名を呼んだ。


「え……?」


思わず息を呑む。

呼び捨て。

いつも使っていた『お義兄さん』ではなく、綾乃の使う『悠真さん』というわけでもなく、呼び捨ての『悠真』。

固まっている俺に向けて、紗良はもう一度にこりと笑った。


「今日はデートだからね? そういうことでい〜い?」


あどけなさの残る笑顔。

どこか憎めない笑顔。

呼び捨てにされる新鮮な衝撃に心臓が跳ねる。


「……紗良」

「はい?」


「いや……その呼び方は……」

「え〜? ダメですかぁ? 今日はデートなんでしょ〜? デートくらい呼び捨て許してくれてもいいじゃないですか〜」


「そういう問題じゃ……」

「何の問題ですか〜?」


首を傾げる。

肩口で揃えられた黒髪がさらりと揺れる。


「じゃあ、呼び捨てがダメならちゅーしてください。ちゅー。今すぐに、ここで! はいっ……!」

「え……」


「ちゅー。今すぐにこ・こ・で〜〜〜ほら!」

「ちょっ、待て!」


紗良の両手が俺の手首を掴み、自分の方へ引く。

紗良との距離が縮まれば、オフショルダーの首元から紗良の若い肌の匂いがふわりと漂ってくる。

紗良の体臭。

先日、嫌と言うほど嗅がされたカーディガンに染み付いていたものと同じ匂い。


「いや、待て。ここは人前だろ?」

「ん〜? 人前だからダメなんですか? だったら呼び捨てにするしかないですね〜? 悠真〜♡」


ニヤニヤと笑いながら俺の名を呼ばれ、背筋がゾクリと震えた。

何度も名前を呼ばれれば呼ばれるほど心臓の鼓動が速くなる。

どうしても嫌というわけではないのだ。

むしろこんなにも可愛い紗良に、フリだとしても一日恋人同士のような関係をできることに、男としての本能と他者への優越感が刺激されるのは確かで……。


……いや、いかんいかん。

俺は何を考えているんだ。


しかし、これ以上断るためのうまい方便も思いつかず、結局俺は紗良の提案を受け入れざるを得ないのも事実。

なので結局俺は──。


「……わかった。好きにしろ」

「やった〜♡」


紗良は俺の返事を聞いて嬉しそうに笑うと、繋いだ手を離さずに俺の隣へと並ぶ。


「じゃあ行こっか? 悠真♡」


──ぎゅっ♡


するりと自然に腕を絡ませる仕草。

紗良の男慣れした様子に驚く間も無く、至近距離から漂う甘い香りが強くなる。

柔らかな二の腕が触れ、豊かな胸が俺の腕に押し付けられていた。


「紗良……腕を組むのは……」

「ん〜? 腕組むのは〜? だって〜〜?」


上目遣いで見上げてくる。

開放的なトップスの胸元からはためく豊満な胸。

さらに繋いでいない手を口元に添えながら、紗良はふふふと笑った。


「これくらいで驚いてたら今日は大変だよ〜? 悠真♡」

「──ッッ♡」


楽しそうに笑う紗良に釣られて歩き出す俺。

周りの男共から『何見せつけてんだよ』とでも言うような恨みつらみの視線を感じるが……。


わかってくれ、俺も被害者なんだ……。

半分……いや、それよりももっと俺自身のせいかもしれないけど……。


「悠真♡ 今日、仕事お休みしてくれてありがとね〜♡」

「いや……まぁ……有給余ってるから……」


「へぇ〜? 有給余ってるから〜?」


ニヤニヤしながら顔を覗き込んでくる。

更に深くなった胸元を覗きそうになる視線を慌てて逸らす。


「嘘ついてお休みしたんでしょ〜? お姉ちゃんに〜♡」

「……バラすなよ」


「クスクス♡ もちろんバレないようにしましょうね〜? あたしもサボってきたし〜♡」


サボり。

浮気。

今までの生活では考えたこともないような背徳の言葉たち。

その言葉に甘いスリルを感じてしまう自分に嫌気が差す。

なのに腕に感じる紗良の体温と乳房の圧迫感が心地いい。


「ね、ね、今日はどこ行きたい? 悠真♡」

「いきなり言われても……」


「え〜? デートの場所は考えてないの? 男のくせにだらしないな〜♡」

「お前が急に決めたんだろ……」


「んふふ、ごめんごめん♡ じゃあさ〜? あたし水族館にいきたいな〜♡」

「水族館か……」


「いいでしょ〜? 平日だから空いてるし〜♡ 悠真とゆっくり見て回りたいな〜♡」


水族館。

無邪気なデートコース。

ただし今回は浮気……いや、不倫か?


「ま、まぁ水族館なら……」

「えへへ〜♡ じゃあ決まり〜♡」


平日昼間の水族館。

確かに空いているだろう。

平日に仕事を休んで女とデートする男。

『平日だし』と言う紗良の言葉が逆に背徳感を煽る。

仕事に行っているはずの俺が、こんなところにいる。

しかも隣には綾乃の妹。

道行く人々は俺たちをどう見るだろうか。


「ね〜、あたし達ってお似合いのカップルに見えてるかな〜? どう思う? 悠真♡」


──さわっ……♡


腕に抱きついたまま、紗良の指先が手の甲を撫でさする。

腕に押し付けられた豊満な女肉が形を変えて、より密着度を増していく。


「ッ……♡」

「あははっ♡ 何照れてんの〜? 悠真ったら〜♡ あたしと腕組んでその反応? もうそんなことでいちいち緊張するような関係じゃないでしょ〜?♡」


ドキリとする。

そうだ。

俺と紗良はもうそんな関係じゃない。

ただの妹と婚約者という間柄にはない。

あんなことやこんなことまでした仲だ。

俺の肉竿は紗良の手管により、何度も精を吐き出した後……。


なのに今さら腕を組まれたくらいでドキドキするなんて。

これじゃまるで初々しい恋人同士だ。

背徳感と新鮮な高揚感が混ざり合い胸の奥がざわつく。


「……悪い。ちょっと考えてた」

「ん〜? 何を?」


──ぐいぐい……♡


紗良の興味はもうそこにはないようだった。

スマホ片手に地図アプリを起動して、自然な流れで腕を引く。

そして引かれた腕は、これまた自然に胸の方へ。

むにゅりと手の甲が膨らみへと押し付けられる。


「……ッ♡」

「あははっ♡ いっくよ〜? 悠真〜♡」


逃げられない。

逃げようとしない俺の意思の弱さもあるのだろうけれど……。

甘い香りと胸の感触と、いくばくかのスリルに包まれて俺たちは歩き出していた──。


………


駅からバスに乗り水族館へ向かう。

平日昼間のバスの中。

主婦やお年を召した方々が多い車内で、俺たちは一番最後の席の一つ前のシートへと腰掛ける。

もちろん隣には紗良。

狭い二人掛けのシートで、当然のことのように太もも同士がぴったりと触れ合っていた。

肌の露出が多いショートデニム。

柔らかくきめ細かな素肌の感触が、嘘の出張の為に着込んだスーツの生地越しに伝わってくるようだった。


──むにゅっ……♡ むにゅっ……♡


「……ッ♡」


バスの揺れに合わせて紗良の太ももの肉感が俺の太ももに押し付けられる。

太ももと太ももの境目は生地が隔てているものの、紗良の太ももの柔らかな肉は、まるで俺の脚に絡みつくかのように密着して離れようとしない。


「ねぇ悠真〜? 今日さ〜──」


──むにゅっ……♡ むにゅっ……♡


「あ、あぁ……♡」


──むにゅっ……♡ むにゅっ……♡


「水族館の後は〜──」


──むにゅっ……♡ むにゅっ……♡


「ん、あぁ……♡」


──むにゅっ……♡ むにゅっ……♡


「──ねぇ、話聞いてる?」


──むにゅっ……♡ むにゅっ……♡


「んッ……♡ き、きいてる……♡」


──むにゅっ……♡ むにゅっ……♡


話なんかまともに聞けるわけがない。

隣に座る紗良の太ももがバスの揺れに合わせて、俺の太ももに擦り付けられているのだ。


──むにゅっ……♡ むにゅっ……♡


柔らかく弾力のある肉が擦れるたびに、以前太ももで挟まれ責められた時の記憶が蘇る。


──むにゅっ……♡ むにゅっ……♡


あの時の密室での感触、匂い、そしてあの時の快感。

それら全てが脳裏に刻み込まれた甘い甘い背徳の記憶として蘇ってくる。


──むにゅっ……♡ むにゅっ……♡


「……あぁ、そういうことね〜?」


そう囁いた紗良の手がふいに俺の太ももの上に置かれた。


──さわっ……♡


「ちょ、ちょッ……!♡」

「シー……♡」


『しょうがないな〜♡』とでも言うように、悪戯っぽく笑った紗良が、自身の膝の上に乗せていた鞄を俺の股間の上に移動させてきた。


「なッ、なにを……ッ」

「んふふ〜♡」


その鞄の下に……つまりは股間の上に紗良の手が置かれたのである。


鞄で隠された俺の股間。

その上に置かれた紗良の掌。

誰にも見えない。

誰にもバレない。

狭い二人席の、誰も知らない秘密の空間。


「ねぇ、悠真〜……♡ なんかちょっと硬くなってない〜?♡」

「や、やめっ……♡ ば、バスの中だぞッ……♡」


「そーそー♡ バスの中だから、硬くなんてしてちゃダメなんじゃないかな〜? 変態さん?♡」

「うっ……ぁっ……♡ いやっ……♡」


今日という日に至るまで、紗良に出会ってからというもの、俺は間違いを犯し続けてきたのだ。

そして、間違うたびに快楽という甘い毒を摂取させられ続けてきたペニスは、紗良の掌の感触を思い出して勝手に反応してしまう。

散々気持ちのいいことを学習させられた股間は、紗良の掌が被さってきただけで元気になってしまう。

もはや反射のようなものだった。


「これは確認だからさ〜♡ あたしの彼氏クンが、ところ構わず股間を硬くしちゃうような変態じゃないよね〜? っていうただの確認だからさ〜♡」


その言葉の通り、紗良の手が自ら動くことはなかった。

俺が反応して股間が硬くなったのを確認するために、紗良の手はじっと添えられているだけ。


「……ッ♡ や、やめッ……♡ さ、紗良ッ……ほんとに……ッ♡」

「ふふっ♡ 我慢我慢〜♡」


バスが揺れるたびに、紗良の太ももが俺の太ももに擦り付けられ、その揺れに同調するように紗良の掌も股間の上で揺れて微妙な摩擦を生み出していく。

直接触れているわけではない。

ズボンの生地越しに掌が押し付けられているだけ。

しかし密着きた太ももの感触、耳元で囁かれる甘い声や背徳感、そして何より、女の子の柔らかい掌の感触が合わさり、勃起を促進していく。


「お? ちょ〜っと硬くなってきたかも〜?」

「おッ、おまッッ♡」

『この先、揺れますので──』


「みたいだよ〜? 悠真〜?♡」


クツクツと笑った紗良が、身を寄せてくる。

柔らかな女体。

耳元を撫でる紗良の吐息が伝わってくる。


「どさくさに紛れて、硬くさせちゃお〜かな〜?♡」

「さ、紗良ッ……♡ やめろッ……♡」


俺の耳元で囁かれた紗良の言葉。

それが届いた瞬間に、肉竿は期待で大きく跳ねてしまう。


「ん〜、悠真のコレはあたしにシてほしいって思ってるみたいだけど〜?♡」


手のひら越しに筒抜けの反応。

それを受け取った紗良が耳元で囁いてくる。

その唇は、やれやれと言ったふうに歪んでいた。


──カリカリ……♡


「ぁっ♡ ぁっ♡ ぁっ♡」

「勃起させちゃダメだよ〜?♡」


甘い甘い快楽責めが始まった。

股間の上に被さった掌、鉤状に折り曲げられた指先が、硬くなりかけた竿の裏筋を浅く、優しく、でも執拗かつ確実に責め始めたのだ。


──カリカリ……♡ カリカリ……♡


「あ"っ♡ さ、紗良……ッ♡ やめろ……ッ♡」

「ダメ〜♡」


──カリカリ……♡ カリカリ……♡


「ぁぁぁ……♡♡♡」


生地越しに伝わる爪先の刺激。

シャープで鋭利な爪のエッジが敏感な裏筋を掠めるたび、腰の奥に流れる電気信号。

鞄の下でひくつく肉竿は紗良の掌に押さえつけられたまま。

その様子はまるで、紗良の手のひらの上で飼い慣らされたペットが甘えているかのようだった。


「だーめ♡ 勃起はだーめ♡」

「さ、紗良……ッ♡ こんなところで……ッ♡」


「はいはい〜♡」


──カリカリ……♡ カリカリ……♡


クネクネと蠢く紗良の指先。

俺の股間は紗良の余裕ある指先一つに翻弄されていた。

あの控室で快楽という快楽を紗良に刻み込まれた股間。

少量の刺激で快感を求めて腰が勝手に揺れる。


「あははっ♡ やっぱりダメじゃん〜♡ コレもう完全に勃起してるじゃん〜♡」

「うッ……♡ そ、それは……ッ♡ お前が……ッ♡」


「あたしが? あたしが何した〜? 何もしてないよ〜? ただ手置いただけだけど〜?♡」


──すりっ……♡ すりっ……♡


カリカリと引っ掻いていた指の動きを止めて、今度は硬さを確かめるように掌がゆっくりと前後に動く。


「んっ♡ あッ♡」

「ね? 硬いでしょ〜? コレ〜♡」


──すりっ……♡ すりっ……♡


「あ"ッ♡ さ、紗良ッ♡」

「ふふふっ♡ バスの中でシたいの? 悠真〜?♡」


耳元に熱く湿った吐息がかかる。

背徳的な興奮で全身が火照りだす。


──すりっ……♡ すりっ……♡


「や……ッ♡ そ、そんなわけ……ッ♡」

「そんなわけ〜? じゃあ何〜? この硬くなっちゃったコレは何〜?♡ あたしのお手々に撫でられて、悦んじゃってんじゃないの〜?♡」


──すりっ……♡ すりっ……♡


「ぁぁぁ……♡ さ、紗良ぁ……♡ やめてぇ……♡ 我慢が……我慢がぁ……♡」

「そーそー♡ 我慢しないとだね〜♡ 我慢しないと、このままお手々に捕まっちゃうよ〜? ……さぁ〜ん♡ にぃ〜♡ い〜ち……♡ ぎゅぅぅ〜……♡」


──ぎゅぅぅぅ……♡


「あああぁぁぁ……♡」


紗良の手指がカウントダウンの終焉と共にゆっくりと閉じられる。

細長い指の一本一本が、すっかり硬くなってしまった竿に服の上から巻き付き、締め付けられていく。


強い力ではない。

むしろ加減された力。

なのにまるで猛獣の檻にでも入れられたかのように股間の自由が奪われる心地がした。


「あ〜あ……♡ 捕まっちゃった……♡」


──ぎゅむっ……♡ ぎゅむっ……♡


「あッ……♡」

「じゃ、ここからは目的地に着くまで悠真が射精しちゃわないか……あたしが見張ってなきゃだね〜?♡」


──ぎゅむっ……♡ ぎゅむっ……♡


「ぅっ……♡ くっ……♡」


力を込められ、絞り上げられるようにゆっくりと手が上下に動けば腰の奥からジーンと甘い痺れが搾り出されていく。

柔らかくて、狭い紗良の手の中。

蠕動する手肉。

手中に収められた欲望は簡単に屈服させられ、快楽信号を次々と脳天へ送り続けていく。

揺れるバスの中で人目を盗んで握られ、微動するだけの背徳の手淫。

時折硬さを確かめるように、さわさわと竿の輪郭をなぞる指の動き。

繰り返される刺激は最小限。

なのに竿の中の血液は沸騰しそうなほどの勢いで集まっていき、生地越しの肉竿が紗良の手によってまるで直接握られているかのようだった。


「ねぇ悠真〜♡ きもちぃくて我慢できない〜?♡」


──さわさわ……♡ さわさわ……♡


「あ、あぁ……♡ くッ……♡」

「んふふ……♡ だいじょ〜ぶ……♡ ちんちんよわよわの悠真でも、あたしは大好きだから……♡」


「ぁぁぁ……♡♡」


大好きと囁かれた瞬間、脳の一部が溶け落ちていくような感覚があった。

婚約者の妹に大好きと言われ、手で握られ、公共の場で嫐られる。

真面目な綾乃は絶対にしてくれない背徳の快楽。

早漏という男にとっては情けの無いバッドステータスですらも受け入れられて、それでも好きだと認められることによる倒錯したマゾの快楽が、身体の中でふつふつと湧き上がってくる。

どれもこれも、紗良に見抜かれ、教えられ、更には育まれてしまったマゾ快楽。

綾乃には口が裂けても言えないマゾの性癖。

それを紗良はいとも簡単に満たしてくれて、より刺激的なものへと昇華しながら俺の身体へと刻み込んでいく。


──ぎゅむっ……♡ にぎゅっ……♡


「んッ……♡♡ さ、紗良……ッ♡ も、もう……♡」

「もう? もう何〜?♡」


──さわさわ……♡ さわさわ……♡


「で、で……ッ♡ でそっ……♡ あ"ッ……♡ きもち……♡ よすぎ……ッ♡」


「あははっ♡ ダメだよ〜? バスの中で出しちゃだ〜め♡ まだデートは始まったばかりなのに、そんなことしたら〜……ただの変態さんだよ〜?♡ あたし大好きな悠真が変態さんになっちゃうのやだな〜♡ ほらほら、ぎゅっぎゅはやめて、手加減してちん先カリカリにしてあげるから〜♡ カリカリ〜♡ カリカリ〜♡」


──カリカリ……♡ カリカリ……♡


「あ"ッ……♡♡ さ、紗良……ッ♡♡ も、もう……ッ♡」


カリカリカリと先端を指の腹で軽く撫で擦られただけ。

ただそれだけなのに限界まで高められた射精感が、ゆっくりと首をもたげてくる。


──指の動きだけなんかで……ッ♡


そう強く念じて我慢を試みようとするものの、紗良の手の中に捕えられた肉竿はピクピクと跳ねるだけ。

しっかり巻き付いた四本の指と、躍動しようとする幹を押さえつける柔らかな掌の肉。

快感を逃す場所を封じられた状態で、裏筋をカリカリと撫で擦る人差し指の腹の摩擦の前に、固く結んだはずの決心はいとも簡単にほどけていく。


「ッ……♡ さ、紗良……ッ♡ なあ……♡ 本当……に……やめ……♡」


「いいよ〜♡ やめてあげるけど、悠真があたしの質問にちゃんと答えてくれたらね〜?♡」


──カリカリ……♡ カリカリ……♡


「質問……?」

「そう♡ 質問〜♡ あたしと綾乃お姉ちゃん……どっちが好き〜?♡」


「ッ……♡」


その質問は最悪なタイミングだった。

限界まで昂ぶった肉竿。

指の腹で裏筋の敏感な部分をカリカリと撫で擦られながら、紗良か綾乃か選べと迫られているのだ。


──カリカリ……♡ カリカリ……♡


「さ、紗良……ッ♡ そ、そんなの……ッ♡」

「あ〜、そうそう……♡ もしあたしが思ってない方の答えだったら、悠真のちんちんさん……あたしのお手々でいっぱい気持ちよくしてあげて、バスの中で、どぷどぷぅ〜って出させてあげよっかな〜って……♡」


──カリカリ……♡ カリカリ……♡


最悪の結末が目に浮かぶ。

バスの中での射精。

衆目に晒される背徳の刻印。

この世の地獄の具現化。

それだけなら、自分の恥で済むものの、警察沙汰や会社の懲戒解雇。

そうなるともちろん綾乃との婚約は……。


それらを回避するためなら──。


「紗良……ッ♡ 紗良が……ッ♡」

「ん〜?」


「紗良の方が……ッ♡ 好き……ッ♡♡♡」

「んふふっ……♡ いいこいいこ……♡」


──すり……♡ すり……♡ すり……♡


手のひら全体がゆっくり前後に動き出す。


「ぁッ……♡ ぁッ……♡ あぁぁ……♡」


純粋な快楽のみを執拗に与えられていた今までの責めとは一転して、射精感をキープしたまま心地よさのみを身体中に広げる紗良の緩やかな手淫。


「悠真……♡ いい子だね……♡ もっときもちよくなっていいんだよ……♡」


──すり……♡ すり……♡ すり……♡


「あぁ……♡ 紗良ぁ……♡♡」

「あたしが一番大好き……♡ だよね……?♡」


──すり……♡ すり……♡ すり……♡


「あぁ……♡ うん……♡ うん……♡♡♡」


与えられる快楽の心地よさに思考停止する。

身体の中を快楽という名の蜜が巡っていくような心地。

柔らかな手のひらの往復運動が与える刺激は、紗良への素直な気持ちを引き出していく。

『好きと言えば気持ちよくしてもらえる』という条件付きの餌から、『気持ちがいいから好きと言う』へ。

口から紗良への好きが溢れるたびに与えられる手のひらからの心地よさ。

紗良の撫でるような手つきも相まって、紗良への『好き』という感情が膨れ上がっていくような錯覚──。


しかしてそれはもはや錯覚ではなかった。


手のひらの下で、思うがままにピクピクと震える肉竿を利用して、紗良は手淫という形でその好意を植え付けようとしていた。

身体に刻み込んだ反射。

『好き』と『手コキの気持ちよさ』を条件付けで結びつけ、紗良の与える快楽こそが全てなのだと悠真に植え付けていく。


「んふふっ♡ ……あたし、悠真があたしのこと大好きって言ってくれてすごく嬉しいよ〜♡」


──すり……♡ すり……♡ すり……♡


「んっ……♡ さ、紗良……♡ 好きぃ……♡」


耳元で熱っぽく囁かれる言葉。

甘い毒を含んだようなその声が、脳の芯を痺れさせ、俺の口から『好き』という言葉を引き摺り出していく。

これは全て演技で、気持ちよくしてもらうために、こんなところで射精するわけにはいかないために、仕方なく俺は紗良を好きと偽って──。


「でも悠真はあたしとあたしのお姉ちゃんの両方が好きなんだよね?♡」


──すり……♡ すり……♡ すり……♡


「あぁ……♡ うん……♡」

「ちんちんのことなでなでしてあげてるお手々も……好き……?♡」


──すり……♡ すり……♡ すり……♡


「すき……♡」

「悠真はあたしのこと……あたしに気持ちよくシてもらうのが……好き……?♡」


──すり……♡ すり……♡ すり……♡


「あぁ……♡ すき……♡」


『好き』という言葉と快楽を条件付けられた俺は、快楽が与えられるたびに紗良に対して好意を露わにしてしまう。

綾乃のことが好きなのかとまた尋問されるのかと思いきや、むしろそれ以上に紗良への好意を伝えさせられることで、頭の中が紗良のことで埋め尽くされていく。

俺が好きだと言わないと快楽をくれない紗良。

好意を吐き出す度に撫でられ、好意を拒絶すれば社会的に抹殺される。

選択肢など最初から存在しない。


「あたしも〜♡ 悠真が好きだよ〜♡」


──すり……♡ すり……♡ すり……♡


この甘美で背徳的な最低の行為は、バスが目的の水族館へ辿り着くまで、緩やかに繰り返されていた──。


………


[newpage]


「ねぇ! 見て見てーー!! これすごい色の魚! きれーーーい!」


水族館に着くと、紗良のテンションは急上昇した。


館内の薄暗い照明に照らされた大きな水槽の前で、はしゃぎながら魚を指差す紗良の姿は、年齢相応の19歳の少女そのものだった。


「へぇ、本当だな。鮮やかだな」

「悠真も来て! こっちこっち!」


紗良が俺の手を引く。

繋いだ手の温かさ。

柔らかな掌。

普段の振る舞う時とは違い、今日の紗良はどこか浮かれたようだった。

これじゃまるでデートじゃないか……。

いや、デートなんだこれは……。

口に出して言えない俺は、水面の向こうで泳ぐ魚たちと同じように、ただただ状況に流されていく。


「わかった、わかったから。そんな強く引っ張るなって」

「えへへ〜♡ ごめんごめん♡」


俺の文句を笑って流しながらも手を離そうとはしない。

子供のようにはしゃぐその姿は、普段見せる小悪魔的な表情とは少し違って見えた。


「悠真〜♡ こっちの水槽すごいよ〜? クラゲがいっぱい〜♡」


クラゲの水槽の前で紗良が立ち止まる。

青い光に照らされたクラゲがゆらゆらと浮いている。

その淡い光が紗良の顔を照らし、水中の青と肌の白さが混じり合って幻想的な美しさを作り出していた。


「きれいだな……」

「うん……♡」


紗良が見上げる。

青い光の中で潤んだ瞳がこちらを向く。


「悠真も見てよ~? こっち向いて~♡」

「見てるよ」


「えへへ……♡」


握られた手に少しだけ力がこもる。

この瞬間くらいは、綾乃のことを忘れてしまってもいいのではないか。

そう思ってしまう自分が

いた。

クラゲの青い光が揺れるたびに、心の中で何かがほどけていくようだった。


「……なぁ」

「ん〜?」


「今日、その……すごく……」

「すごく?」


「……綺麗だなって思って」

「え?」


紗良が目を丸くする。

一瞬の間。

それからゆっくりと口元がほころんでいく。


「なにそれ急に〜♡」

「や、べつに……」


「ふふっ♡ 嬉し〜……♡ 悠真にそう言ってもらえて〜♡」


その笑顔を真正面から見た時、自分の心臓が跳ねるのを感じた。

可愛い。

素直にそう思ったのだ。

婚約者の妹に向けて口にする言葉ではないとわかっていても、綾乃と出会った時のような、あの甘酸っぱい高揚感を紗良に感じてしまう。


──違う。


これは不倫だ。

背信行為。

愛する綾乃を裏切る行為だ。

俺はいったい何を考えているんだ。


「悠真〜♡ 悠真〜♡」

「ん?」


──ちゅっ♡


「ッ……♡」


ふいに唇に触れた柔らかさ。

かと思えばその温もりはすぐ離れていく。

一瞬のキス。


「へへ〜♡」

「なッ……お前……!」


「だって〜? 可愛い悠真にキスしたくなっちゃったから〜♡」

「ここは公共の場だぞ……!」


「え〜? 誰も見てないよ〜?」


キョロキョロと周囲を見渡す紗良。

平日昼間の水族館。

人影はまばらだ。


「ね? 誰も見てないって♡」

「そ、そういう問題じゃ……」


「じゃあ何の問題?」

「……ッ」


「んふふ♡」


答えられない俺に向けて紗良は満足げに微笑む。

その笑顔の破壊力たるや、心臓が締め付けられるような甘酸っぱさが俺を襲う。


「悠真〜♡」

「なんだよ……」


「だーいすき♡」

「ッ……♡」


甘い声。

心の中で何かがこぼれ落ちそうになる。

危険だ。

これは危険だ。

俺は綾乃の婚約者で……。

でも……でも……。


「悠真〜♡」

「なんだよ……」


「大っっっ好き〜♡」

「ッ……♡」


何度も言われる。

耳元で甘く囁かれるたびに思考が溶かされていく。

頭が真っ白になる。

背徳感と罪悪感と高揚感などなど。

様々な感情が複雑に絡まり合って思考がまとまらない。

だが紗良は俺の返事を待たなかった。

紗良は俺の手を引いて歩き出す。


「次! 次どこ行く〜? 悠真♡」

「あ、あぁ……」


俺の思考などお構いなしに紗良は歩き出す。

広い水族館の中を次から次へと案内していく。

その歩く姿の後ろ姿は、あのいつもの小悪魔的な紗良とは似ても似つかないただの楽しそうな19歳の少女だった。

犯してしまった間違い、紗良の寝室や控室での誘惑、バスでの手淫、『好き』という言葉を何度も繰り返させられたこと……。

紗良が頭の中を占める割合が、彼女と出会ってからというもの、右肩上がりに上昇している。

それは罪悪感の裏返しなのかもしれないが……それだけではない気もする。


「あッ……♡」

「ん?」


不意に紗良が足を止めた。

振り返り見上げてくる。

薄暗い青い照明に照らされた横顔。

目が合う。

ドキリとした。


「……何?」

「ん〜〜? 何でもな〜い♡」


悪戯っぽく笑った紗良がまた前を向き歩き出す。

その後ろ姿を見つめながら俺は自分の頬の熱さに気づいた。


俺は今……楽しいと思ってしまっているのか……。


「あ、そうだっ!


またもや紗良が不意に足を止める。


「ねぇ悠真〜? ここでペアリング見ようよ〜♡」

「え……? ペアリング……?」


「そう〜♡ あたし達だけの秘密のペアリング〜♡」

「バレるだろ……?」


「んふふ〜……♡ 大丈夫〜♡ 悠真はお姉ちゃんがいない時だけつけてくれたらいいし〜? あたしがそれを付けてる時は、悠真への合図にしようかな〜って♡」

「合図……?」


「そ♡ 合図〜♡ あたしがこれを付けてる時は〜……♡ お義兄さ……じゃなくて、悠真〜♡ あたしとこっそりえっちなことしよ〜って合図〜♡ クスクス♡」

「ッ……♡」


「ね? それいいと思わな〜い……?♡」

「あっ……い、いや……それは……」


「え〜? 何言ってんの〜? 悠真〜?」


紗良が俺の耳元に寄せてきた。

柔らかい唇が耳たぶに触れそうなほどの距離。


「あたしの太ももで気持ちよくなったくせに〜? あたしのお口でいっぱい出したくせに〜? バスの中でもあたしのお手々でいっぱい気持ちよくなってたくせに〜?」

「あっ……♡ そ、それは……♡」


「あたしとこういうことするの……好きでしょ〜?♡」

「うっ……あっ……いや……でも……」


このラインは超えちゃダメだ。

幾度となく間違いを犯してしまった俺は、精一杯拒絶の意を示す。


「ふーん……じゃあ、しょうがないなぁ〜……」

「あ、ありが……とう……」


その願いが通じたのか、紗良はあっさりと引き下がってくれた……ように思えたのだが。



「勃起しろ……♡」



突如、放たれた言葉。

耳元スレスレまで近づいた唇から発せられた低く甘い声の命令が、鼓膜を震わせた。

唐突かつ冷酷なその命令に俺の身体は即座に反応してしまう。


「……ッ♡♡」


──むくっ……♡


植え付けられた条件付け。

紗良の太ももでの射精。

フェラでの連続射精。

『好き』という言葉と結び付けられた手コキ。

幾度となく紗良に植え付けられた快楽。

その全ての学習の成果が今、一つの命令に応える形となって現れてしまう。


──むくむく……♡


何の抵抗もなく股間に血液が集まっていく。

スーツのズボンの中で、下着に押さえつけられたペニスが瞬く間に硬さを取り戻していく。


「あははっ♡ やっぱり〜?♡ すぐ元気になっちゃった〜♡」

「んッ……♡ くッ……♡」


「ね? これこそ、あたしとこっそりえっちなことしたい〜っていう、悠真の意思表示だってわかるでしょ〜?♡」


勃起=紗良に気持ちよくされたいという合図。

紗良の匂い、身体の柔らかさ、それに度重なる射精と繰り返された寸止め、さらに愛の囁きも相まって、条件付けられた俺の股間は今や紗良の命令ひとつで勃起してしまう都合のいい男性器になっていた。


「……ッ♡ あッ……♡」

「ね? 悠真〜?♡」


──さわっ……♡


紗良の手が膨らんだ股間に触れる。

誰も見ていない薄暗い水族館の通路。

薄暗い一角に追い込まれた俺の股間に、しっとりと汗で湿った紗良の手が置かれていた。


「ペアリング……買おうね……?♡」

「え……あ……♡」


──ぎゅ……♡


払い除ける間も無く、紗良の手指が閉じていく。

耳元で囁かれた言葉を否定しようとするが、紗良の指の動きと共に思考が麻痺していく。


「ペアリング……あたしと悠真だけの合図にしよう……?♡」

「ぁ……ゃ……♡」


──にぎにぎ……♡


「きもちぃ? あたしのお手々……♡」

「う……♡ うん……♡」


──にぎにぎ……♡


「悠真はあたしと……えっちなことしたい……?♡」

「うん……♡」


──にぎにぎ……♡


「大好き……?♡」

「すき……♡」


──にぎにぎ……♡


「あたしのことも……あたしに気持ちよくシてもらうのも……好き……?♡」


──すり……♡ すり……♡ すり……♡


「あぁ……♡ すき……♡」


………


水族館のギフトショップをあとにした俺達は近くのカフェに向かっていた。

青い光に照らされていた水槽の中とは一転、外の光は強く眩しく目を焼いた。


ハッとする。


俺は今、何を考えていたんだろう。

水槽の前で紗良に同意し続けていた記憶。

ペアリングの話。

えっちなことしたいという言葉への同意。

自分の口から出た言葉とは思えない情けの無い、懇願のような言葉たち。

紗良に促されるまま、水族館の暗い水槽の前で、紗良の言うことに同意してしまったのだ。


「ふふっ……♡ これかわい〜……♡」


紗良の細い長い指──右手の薬指に嵌められたシルバーのリングが太陽の光を弾いてキラリと輝いていた。


「これが……合図……」

「そ♡ 合図だよ〜? 悠真♡」


「合図……」

「これをあたしが付けてたら〜……♡ こっそりえっちなことしてあげるから、お部屋においで〜っていう、あたしから悠真への合図〜♡」


「う、うん……」

「ね? 見て見て〜♡」


紗良が右手をひらひらと振る。

指先で揺れるシルバーのリング。

それを目で追った瞬間だった。

脳裏に焼き付き、条件付けられた快楽がフラッシュバックする。


──むくっ……♡


「んふふ〜……♡ やっぱり〜♡」

「うッ……♡」


「かわいい〜……悠真♡」


………


カフェに入店した俺たちは一番奥の席に通された。

平日昼下が

りの店内は落ち着いており客はまばら。

窓際の席からは穏やかな日差しが差し込んでいる。


「わぁ〜♡ おしゃれなお店だね〜♡」

「あぁ……そうだな」


向かいに座った紗良は窓の外を眺めながら嬉しそうに目を細める。

その顔は年齢相応の少女のもの。

しかしその服装は少女のそれではなかった。

白いオフショルダーニットの胸元から覗く谷間。

ショートパンツから伸びる健康的で肉感的な太もも。

その全てが、大人の女として俺を挑発してくる。


「ねぇ、悠真ぁ〜……♡」


向かい側の紗良が身を乗り出してくる。

大きく開いた谷間が揺れて、狭いテーブルの上に巨大な肉の塊が鎮座する。

グラビアアイドル顔負けの身体と美貌。

事実、街を歩いているだけで男の視線を引き寄せ、俺が隣にいるのにも関わらず、スカウトが声をかけてきたほどだ。

俺には勿体ないほどの美貌と女体。

それが今、今日だけは彼女として俺の目の前にいるのだ。

対面の紗良は俺の目の前で胸元を強調し、見えそうで見えない神秘の領域をちらつかせていた。

わざとなのかそうでないのか……反応に困る。


「何だよ……」


俺は必死に目を逸らそうとする。

しかし目は勝手に紗良の谷間を追ってしまう。

バスや水族館で『好き』を刷り込まれた後だからか、紗良を見るだけで身体の芯が熱くなり、何も考えられなくなっていく気がする。


「今日この後どうする〜?」


紗良が小首を傾げて問いかけてくる。

あまりにもわざとらしい仕草。

テーブルの上に乗せた胸。

窓から差し込む陽射しが深い谷間の表面を照らし、そのたおやかな丸みを際立たせていた。

紗良の表情は見えない。

視線は自然と胸元に縫い付けられて、唯一視界には彼女の手元のみが映り込んでいた。


「どうするって……」

「ん〜? あたしはまだ帰りたくないな〜って思ってるけど、悠真は?」


紗良の指先が、先ほど届けられたアイスカフェラテに刺さった赤いストローの先端を弄ぶ。

細くて、長くて、白くて。

綺麗に整えられた爪がついた、しなやかな指先がストローを摘んだまま、口元に運んで。


──ちゅぅ……♡


紗良のピンク色の唇が細い管を咥えた。


「ん〜〜……♡」


窄められた唇と頬。

喉が小さく鳴る音と共に、カフェラテの水位が下がっていく。


「んはぁ……♡」


なんてことのない動作のはずなのに、自分が紗良の口から解放された時の記憶が鮮明に蘇る。

ペニスに吸い付かれ、幾度となく精を啜られたあの時の背徳の記憶。

紗良のたった一つの仕草だけで身体が反応してしまう。

紗良に仕込まれた条件付け。

ダメだダメだと自問しながら、紗良に甘え、流され、紗良を求め続けた弊害。

今にして思えば、全部紗良の計算だったのでは──。

考えても考えても答えは出ないが、股間だけはジンジンと熱を持っていた。


「あたし、まだ悠真と一緒にいたいな〜♡」


ストローから唇を離し、紗良が上目遣いでこちらを見る。

桃色に濡れた唇。

少し開かれた口元から覗く舌先。


「もっと……ゆっくりしたいな〜って♡」


ゆっくり。

その言葉が耳の奥で反響する。


ゆっくり。

二人きりで。

誰にも邪魔されない場所で。


「バスの中も……水族館も……楽しかったけどさ〜♡」


紗良の足先が、テーブルの下で俺の足首に触れる。

素足の感触。

サンダルから解き放たれた足指が、スーツパンツの裾から潜り込み、素肌の部分をゆっくりと撫で上げる。

丸みを帯びた指先はじっとりと汗ばんでいた。


「もっとこう、二人きりでのんびりできるとこがいいな〜……って♡」


のんびり。

休憩。


それはつまり……。


「ッ……♡」


心臓が跳ねる。


「ねぇ……悠真ぁ?」


紗良の左手が右手の薬指を撫でる。

そこにあるのは銀色の指輪。

昼間のカフェの明るい照明を受けて鈍く光る指輪。

先ほど買ったばかりのペアリングだ。


「あたし、足疲れちゃったな〜……♡」


素肌を撫でていた足指が、スーツに沿って登ってくる。

脛をなぞり上げ、ふくらはぎ、膝の裏へと続いていく。

くすぐったいような、それでいて甘い痺れが、紗良の足が這った部分に残っていた。


足。

疲れた。

だから横になりたい。

休みたい。

誰にも邪魔されない場所で──。


紗良の言いたいことはわかる。

痛いほど、わかる。

だが。


「どこか……」


言葉が喉の奥で詰まる。

言ってはいけない。

言ったらもう戻れない。

なのに。


「どこか……?」


紗良が小さく笑う。

足の指が膝の裏から太ももの内側へと滑り込んでくる。


「どこか〜? 悠真はどこに行きたい〜?♡」


誘われているのは明らかだ。

それでも紗良は俺の口から言わせようと、指先と視線と甘い声で追い詰めてくる。


「……のんびり……できるところ……」

「ん〜? のんびりできるところ? それは〜?」


「……誰にも……邪魔されない……ところ……」

「ふふっ……♡」


紗良が嬉しそうに笑った。

弾みでテーブルの上の胸が揺れる。

同時に足の指が太ももの内側で円を描くように蠢く。


「誰にも邪魔されないところ……かぁ〜♡ いいなぁそれ〜♡ 水族館も結構広かったしね〜……?♡ いっぱい歩き回ったもんねぇ〜……?♡」

「あぁ……」


紗良の言葉が俺の思考を蝕んでいく。

決して核心を述べない紗良。

だからこそ自主的に答えを選んでしまう俺。

紗良からではなく俺から──。


「休みたいなぁ〜……?♡ そしたらどこに行く〜……?♡」


足の指先が太ももの内側からゆっくりと奥へ進んでくる。


「どこか〜……ゆっくりできるところ〜……ないかなぁ〜♡」


ゆっくりできるところ。

その言葉の意味を考える前に身体が反応する。

脳裏に浮かぶのは一つの単語。

ホテル。


違う。

休むだけだ。

カラオケボックスでもいい。

ネットカフェでもいい。

でも紗良は『ゆっくり」と言った。

二人きりで。

誰にも邪魔されずに。


「ねぇ〜? 悠真〜?」


──すりっ……♡


太ももの内側を足先が撫で回す。

ぞくりとした感覚が背筋を駆け上がる。

バスの中で散々焦らされた股間が、気持ちよかった記憶を呼び覚ます。

紗良の足。

紗良の太もも。

紗良の手。

紗良の口。

紗良という女──。


「あたし今日は〜……まだ悠真と一緒にいたいな〜♡」


桃色の唇から吐き出された言葉が頭の中で反響する。

まだ一緒にいたい。

それはデートの続きという意味か。

それとも──。


「まだ帰りたくないな〜♡」


──ぎゅ……♡


紗良の両脇を締める。

谷間がいっそう膨らんだ。

露骨なアピールだ。


「ねぇ……悠真……♡」

「……ッ」


「どこ行く?♡」


問われているのは今日の予定だけじゃない。

俺自身の意思だ。

綾乃の婚約者として正しい選択をするのか。

それとも紗良の望むままに溺れていくのか。


足先がさらに奥へと伸びる。

それは硬くなり始めた中心部へと近づいていく。


「あたしは〜、悠真が決めてくれたら〜、どこでもいいよ〜?♡」


甘い声。

可愛らしい音を奏でているのに、責任を押し付けようとする残酷さ。


「でも……」


喉が渇く。

心臓がうるさい。

理性と本能のせめぎ合い。

断れ。

断るんだ。

これ以上間違いを犯すんじゃない。


そう心の内で自らを奮い立たせようとした瞬間──。


──すりっ……♡


紗良の足先が中心部を掠めた。


「ッ……♡」


ごくわずかな接触。

太ももの内側から中心部へと足先が滑り込み、薄い生地越しに隆起した部分を優しく撫でた。

ただ撫でただけ。

それだけのことで、俺の口からはもう言葉が溢れ出てしまっていた。


「ホテル……」

「え?♡」


「ホテル……行くか……」


この時、俺はようやく紗良の顔を直視できた。

潤んだ瞳は細められ、桃色の唇は歪んでいた。

俺の口から出た言葉を待っていた女の顔。


「んふふ……♡ やっと言ってくれたね〜♡」


紗良の足先が中心部をもう一度優しく撫でた。

まるで褒め称えるかのように、ゆっくりと円を描く。


──すりっ……♡


「えっち……♡ 悠真のえっち……♡」


言い返せない。

言い返したくない。

俺は自分の口で選んでしまったのだ。

もう戻れない道を。


「よかった〜♡ あたしも悠真ともっとゆっくりしたかったからさ〜……♡」


──ぎゅ……♡ すりすり……♡


足の裏が幹の輪郭をなぞるようにゆっくり動く。

紗良の柔らかい足裏がもたらす軽い刺激だけで、下腹部は早くも爆発しそうだった。


「あ……♡」

「ふふ……♡ ねぇ〜……ここじゃ人が多いし〜……」


紗良はニコリと笑うと足を引く。


「お会計しよ〜♡」


あまりにあっさりと解放されたことで、逆に名残惜しくなってしまう。

その感情すらも己のものではないように感じる。

紗良という魔性に全てを持っていかれてしまったかのようだ。


「……あぁ」


俺はなんとか頷くと、立ち上がる。

ズボンの中心部が僅かに膨らんでいるのがわかるものの、そんなことに構ってはいられなかった──。


………

[newpage]


カフェを出た俺たちは駅の近くのホテルへと向かった。

平日昼間。

ラブホテルの前。

昼下がりの街角に似つかわしくない派手な看板。

俺は紗良に手を引かれその入口へと足を踏み入れる。


「ねぇ悠真〜♡」


受付を済ませエレベーターへと向かう俺の耳元で紗良が囁く。


「きょうは……たのしみだね〜♡」


楽しみ。

その言葉が耳の奥で反響する。

楽しみだなんて言えるはずがない。

これは不倫だ。

許されざる行為だ。


「悠真が誘ってくれて嬉しかったな〜♡」


紗良は俺の腕を抱きしめる。

豊満な胸が腕に押し付けられ、柔らかな肉感を存分に感じさせる。

この感触。

この匂い。

この温もり。


──違う。

──俺は……。


思考が混濁する。

エレベーターが上昇するにつれ、腹の底から湧き上がる言いようのない罪悪感と期待感。


「あたし……悠真と一緒にいられて幸せだな〜♡」


紗良の声が耳の奥に直接響く。

それはまるで呪文のように俺の理性を溶かしていく。

婚約者の妹との禁断の関係。


いや、これは仕方がないんだ。

紗良がエロいのが悪いんだ。

俺は何も悪くな──。


──ちゅ……♡


突如唇を奪われる。

二人だけの密室。

誰もいないエレベーターの中で、ふいに紗良が俺の首に腕を回して唇を重ねてきた。


──ちゅぅぅぅ……♡


「好き……♡ 好き……♡」


花びらのような唇が緊張で乾いた唇へと押し付けられる。

そこから時折漏れ出す『好き♡』という言葉が、俺のことを縛り付ける呪詛のように染み込んでくる。


──ぢゅぱっ……♡ ちゅぱっ……♡


「んんっ……♡ さ、紗良……♡」


舌先が唇の隙間から入り込んでくる。

熱くてねっとりと唾液の絡んだ舌。

散々刷り込まれた紗良の味。

毒のような甘さが口腔内を犯していく。


「悠真……♡ 悠真……♡」


紗良が俺の名前を呼ぶたびに胸が締め付けられる。

逃げ惑う俺の舌を追いかけて、紗良の長い舌が這い回るせいで脳内がトロトロに溶かされていく。

エレベーターが到着するまでのほんのわずかな時間。

なのに唇を重ね合わせて舌を絡ませているだけで、それが何倍にも感じられてしまう。


「んむぅ……♡ ちゅぅ……♡ んん……♡ ちゅぱぁ……♡」


首を深く抱き寄せられて。

柔らかい紗良の身体に密着させられて。

股間に差し込まれた太ももで、張り詰めた膨らみの硬さを確かめるように何度も擦り付けられて。


──ぐり……♡ ぐり……♡


「ちゅぱぁ……♡ はぁむ……♡ んはぁ……♡ 好きぃ……♡ 好きぃ……♡ ちゅぅ……♡ ちゅぅぅ……♡」


我慢ができない。

頭の中に残っていた罪悪感が、全て背徳の快楽へと変換されていく。

狭いエレベーターの中の壁に押し付けられて、身動きの取れない中でされるがままに唇を貪られる。

膨らみを右に左にぐりぐりと刺激する太ももの快感も相まって、深い沼の底へと堕ちていく感覚が全身に満ちていく。


「好き……♡ 好き……♡ 好きぃ……♡ ちゅぅ……♡ はぁむ……♡ ちゅぱぁ……♡ ちゅぅぅ……♡」


口内を蹂躙し、吸い上げ、絡め取っていく紗良の深い深い口付けの前に、拒絶の言葉が喉から出てこない。

言葉にするより前に紗良の口の中へと吸い込まれて──。


──ちん……。


「好きぃ……♡ ちゅぅ……♡ んはぁ……♡」

「はぁ……はぁ……はぁ……ッッ♡♡」


エレベーターが到着する頃には息も絶え絶え。

最後にひと舐めとばかりに、長い舌が口内をぐるりと一周。

そして離れゆく紗良の唇に引いた銀糸を呆然と見つめる俺の目の前で、部屋のカードキーを手にした紗良は、嬉しそうに微笑んでいた──。


………


[newpage]


「わぁ〜♡ 広いね〜♡」


扉を開けて開口一番、紗良の声が弾む。

部屋の中央に鎮座するキングサイズのベッド。

天蓋から垂れ下がるシースルーのカーテン。

薄暗い間接照明が、甘く湿った空気を醸し出している。


──ガチャ……。


そきて分厚い防音扉が閉まり外界の音が消えた。

日常が切り取られたようだった。

清廉潔白な綾乃とは無縁の世界。


「ねぇ悠真〜♡ あっちも見て〜♡」


紗良が俺の手を引く。

オフショルダーの白い肌が、照明に照らされて艶めいている。


「あぁ……」


俺は引きずられるまま歩く。

頭の中では警鐘が鳴っている。

綾乃への罪悪感。

倫理観。

理性。

それらがぐるぐると回っているのに、足は止まらない。

俺を引っ張る紗良の手の温もりが、現実から引き剥がしていく。


「ふふっ♡ ベッドふかふか〜♡」


紗良がベッドに腰掛け、ボフっと跳ねた。

豊かな胸も同時に揺れる。


──バルンっ♡


その無邪気な姿は歳相応の妹そのもの。

でも、その身体は男を誘う魔性の女そのもの。


「ねぇ悠真も座って〜?」


ポンポンと隣を叩く。

俺は観念して腰を下ろす。

沈み込むような柔らかさ。

紗良の匂いが鼻腔を満たす。


「……なぁ」

「ん〜?」


「俺たちは……」

「ん?」


言葉が続かない。

何を言おうとしているのか自分でもわからない。

ただ、綾乃に謝りたいという気持ちだけが胸の奥で渦を巻いている。

この期に及んで。


「悠真♡」


呼ばれて振り向くと、紗良の顔が目の前にあった。


──ちゅ……は


唇が重なる。

柔らかく、甘い、キス。


「っぁ……♡」


──ちゅぅ……♡


キスが深くなるにつれ、絡み合う舌。

紗良の唾液の味、鼻から吹き付ける吐息、密着した柔らかさと体温。

全てが俺を飲み込んでいく。


「んふっ……♡ ちゅぱ……♡ ちゅぅ……♡」


理性が溶かされていく。

綾乃。

ごめん。

心の中で謝罪しながら、俺は紗良の背中に手を回していた。


「んちゅっ……♡ はぁむ……♡ ちゅぱっ……♡ んふぅ……♡ ふふっ♡」


キスが終わると、『えいっ』と紗良が短く声を上げた。

俺の胸を押したのだ。


「あっ……」


倒される。

背中がベッドに沈み込む。

見上げた天井。

その視界に、紗良の顔が割り込んでくる。


「ふふっ♡ 悠真、緊張してる〜♡」

「そ、そうか……?」


「うん♡ だって身体硬くなってるもん♡」


間髪入れずに紗良が俺の上に跨ってくる。

太ももの肉感が腰に伝わる。

だが、ふと、紗良の視線が俺の左手薬指に止まる。


「……あ」


小さな声。

金属の光沢。

銀色の指輪。

綾乃と婚約した時に交換した、愛の証。

紗良は俺の左手を両手で包み込むように持ち上げた。


「これが……お姉ちゃんとの……」


囁くような声。

目が細められる。

そこにある感情は、嫉妬か、それとも──。


「ねぇ……♡」


紗良が俺の薬指を顔に近づける。

唇が指輪に触れるか触れないかの距離まで迫る。

綾乃と俺を繋ぐ愛の証をじっと見つめる紗良の瞳には、底知れぬ光が宿っていて──。


「紗良? 何を──」


薬指が紗良の唇に触れる。

柔らかなリップの感触。

そして──。


──ちゅっ……♡


「ぁ……」


キス。

紗良が指輪にキスをした。

いや、違う。

指輪ごと、薬指にキスをしている。


「んちゅっ……♡ ちゅぱ……♡ ちゅぅ……♡」


そのまま唇の隙間から出てきた舌が指の上を這っていく。

指輪の表面を舌先がなぞる。

金属のリングが紗良の唾液で濡れていく。

生温かい舌の感触が、指に伝わってくる。


「ッ……♡ さ、紗良……♡」

「んふふ……♡」


紗良は答えない。

代わりに口を開く。

俺の薬指を口の中へと招き入れようとしているようだった。


「さ、紗良っ……」


──はむっ……♡


「あっ……♡」


一拍遅かった。

紗良の思惑に気づいた頃には、既に指は咥えられていた。


薬指が温かくて湿った口腔に包まれる。

舌表面のつぶつぶが指の根本を這い上がり、舌先が指輪と皮膚の境目に潜り込もうと伺っている。


「んへぇ……♡」


鼻息が指を撫で、粘膜の柔らかさが包み込む。

何故だろう。

指一本のはずなのに。

咥えられているのは指のはずなのに──。

口内の柔らかさに包まれると、股間がピクリと反応してしまった。


紗良の唾液で濡れていく。

綾乃との愛の証が紗良の涎で汚されていく。

紗良の舌先は、指輪と指の隙間をほじくり返すように、何度も行き来していた。


「んぢゅっ……♡ ぢゅぱっ……♡ れろぉ……♡」


次第に紗良の口の端から唾液が溢れてくる。

指輪だけでなく、左手が紗良の唾液でドロドロに濡れていく。

粘度の高い液体が指を伝い、手のひらへと滴り落ちていく。


「あッ……♡ な、何を……♡」

「んちゅっ……♡ れろれろぉ……♡」


紗良は答えない。

ただ執拗に、指輪を舐め続ける。

舌で指輪を押し上げ、唇で挟み込み、吸い上げ、小刻みに前後に顔を揺する。


──ぢゅぷっ♡ ぢゅぷっ♡ ぬぷっ♡


「ん"ッ……♡ くッ……♡」


指輪が動く。

指から抜けていく。

紗良の舌の動きに合わせて、指輪が回転し、指の関節を越えていく。


「あッ……♡ ま、待っ……♡」


その時初めて気がついた。

紗良は俺の指から指輪を抜き取ろうとしているのだと。

しかし、左手を紗良の手から引き抜こうとしたところで、既に指輪は動き始めているのだ。

当然無理やりにでも左手を引っ張れば、すぽっとあっという間に指輪は抜けてしまうだろう。

手を動かすことができない。


「んぢゅっ……♡ れろぉ……♡」


紗良の思うがままに、指輪が動く。

唾液でぬるついた指輪が、紗良の唇と舌によってゆっくりと引き抜かれていく。

指から指輪が離れる瞬間の喪失感と、それを奪われる背徳的な興奮。

そしてとうとう、窄まった唇の内側がリングをゆっくりと啜っていき……口の中で指輪が転がった。


──ぽろっ……。


綾乃との愛の証が、紗良の口内へと奪われてしまったのだ。


「んふっ……♡ 取れちゃった……♡」


妖しく嗤う紗良。

窄めた唇の隙間から、舌の上に鈍く輝く銀のリングが乗っているのが見えた。

取り返さなきゃ。

咄嗟に反対の手を伸ばす。

しかし。


「んむっ……♡」


閉じられた。

紗良の上唇と下唇が拒絶するようにリングを包み隠してしまった。

そして次の瞬間には紗良の頬がもごもごと動き出す。

ゆっくりと舌の上で転がし、奪い取った戦利品を確かめるようにうっとりと目を細めていた。


「んっ……♡」


──こくっ……♡


喉が動く。


「おいっ……!」


まさか飲み込んだのか──しかし、そうではなかった。


「ふふっ♡」


喉の奥から彼女の笑い声が響く。

焦る俺を見下ろしながら、紗良はにっこりと笑うと、口を開いた。


「れぇ〜〜♡」


舌の上に銀色の指輪が乗っていた。

紗良の唾液でべったりと濡れた指輪。

綾乃と俺を繋ぐはずの愛の証が、紗良の舌の上で汚されていた。

一瞬安堵するものの、紗良はひとしきり舌の上に捕らえた獲物を見せびらかした後、唇を尖らせて──。


「ぺっ♡」

「あッ……」


鈍く輝く銀色のリングが紗良の桃色の唇から飛び出した。

鮮やかな放物線を描きながらそれは着地する。

ベッドの上、少し手を伸ばせば届きそうなところに指輪が転がっていく。


「ふふっ♡」

「か、返せっ……!」


大切な婚約指輪を、道端へガムでも吐き捨てるかのように雑に扱われたのだ。

無性に腹が立った。

一刻も早く左手に綾乃を取り戻さなければと思った。

そんな思いで右手を伸ばしたものの、紗良の手は俺とは違う方向へと伸ばされていて──。


──むぎゅっ……♡


「あ"ッッ♡」

「んふふ……♡ どこ行くのかな〜?」


仰向けの俺に跨ったままの紗良。

俺の手が指輪に届くよりも早く、紗良の手は迷うことなくまっすぐに股間へ。

スーツパンツの上から、あろうことか、既に硬く反り返り始めている肉竿を握り締めていた。


「か、返せ……♡」


──にぎにぎ……♡


「はぁ……♡ あ"ッ……♡」


紗良の手のひらが、ズボンの上から硬さを確かめるように肉竿を揉みしだく。

紗良の手のひらの感触が直接的な快楽を次々と与えてくる。


「か、返して……それは……」


──にぎにぎ……♡


「はぁ……♡ あ"ッ……♡」

「……♡」


片手に収めた肉竿を揉み込むことで俺の動きを軽々と封じた紗良が、自由な片手を自分の首元へと伸ばす。


「ッ……? な、何を……」


紗良の細い指がネックレスのチェーンを外し始める。

シンプルな銀のチェーン。

彼女がいつも身につけているもの。


「んふふ……♡」


外したチェーンの留め具を器用に外し、紗良は俺の届かない場所に転がった指輪を悠々と拾い上げ、チェーンに指輪を通す。

銀色のリングが細い銀の鎖にぶら下がる。

最後に留め具を首元で直すと紗良はそのチェーンを胸元へと隠してしまった。


──むにゅっ……♡


「これでいいでしょ〜♡」

「なッ……♡」


紗良に奪われた指輪。

細いチェーンにかけられたままゆっくりと谷間の奥へ沈んでいくそれは、白い肌に挟まれつつ、二つの豊かな乳房の隙間へと埋もれていった。


「お姉ちゃんとの愛の結晶……あたしのおっぱいが預かっておきますね♡」


まるで俺が自らお願いしたかのような物言い。

俺が見ている目の前で、姉の綾乃との愛の証が、妹の紗良の肉欲の証の中に封印されてしまったのだ。


「あっ……♡ あっ……♡ あぁぁぁ……♡」


白く豊かな肉丘に埋もれた銀色の指輪。

それはまさに、綾乃への愛そのものが、紗良の肉欲の中へと飲み込まれてしまったかのような光景だった。

肉欲の沼に沈んだ愛の形。

俺の目はその残酷で背徳的な光景に釘付けになってしまっていた。

そして未練がましく、手を伸ばそうとした。

だが、紗良の左手が、ズボンの上から硬く張り詰めた俺の欲望を、もう一度『ぎゅっ』と握り直した。

たったそれだけ。


──ぎゅむっ♡


「ん"ッ……♡」


腰が砕ける。

伸ばしかけた腕が力なく落ちる。

指輪を取り返そうという意思よりも、股間を握られた快感が、俺の身体から力を奪っていく。


「ふふっ♡ だ~め♡ お姉ちゃんとの大切な指輪、無くさないようにココに大事にしまっててあげるからね~♡」


まるで呪いのように響く言葉とぼよんと弾む豊かな胸。


「さ、紗良……」

「ん~?♡」


紗良が俺の上から降りた。

柔らかい太ももの重みが離れ、代わりに彼女がベッドの端に腰掛ける。

続いて俺も起き上がろうとするものの、二度三度と股間を撫でつけられただけで抵抗する意思が霧散する。

まるでペットの犬のようだった。


「今日は暑いですね〜♡」


呑気な声。

のびをするように両腕を上げた紗良が、サマーニットの裾を掴む。

俺の目の前で。


「あっ……」


──するっ……♡


まず現れたのは腰。

裾がくしゅっと持ち上がると同時に、デニムのショートパンツの腰回りとニットの裾の間に隠されていた素肌が露わになった。

服の下に隠れていた白い素肌、しかして、そこにあるのは単に白いだけの平らな面ではなかった。

腰骨の辺りは確かに骨のラインが浮いている。

程よく引き締まった括れ。

脇腹から腰骨へかけての曲線は細く、服の上からではわからなかった上体の絞り具合が、こうして横から見るとはっきりとわかる。


そこでふと、今まで紗良の裸を見たことがなかったことを思い出す。


幾度となく密着され、搾り取られ、異質な関係を築いてきたのに、紗良の女体をついぞ目にすることはなかったのだ。

そう思うと心の奥底に眠っていた羞恥心が首をもたげ、思わず視線を伏せてしまう。


「……ッ♡」


だが、紗良の肉付きの良い身体は俺の視線を先回りしていた。

腰の括れから下、デニムのショーパンに覆われた腰回りへかけてのラインは急激に広がっていたのだ。

座った状態で圧迫された臀部が、ショーパンの布を内側から押し広げ、布に収まりきっていない肉が、ショーパンの丈の境目でほんの僅かにはみ出しているのが見えてしまう。

所詮、視線を落ち着かせる箇所なんてないのだ。

そうなると目線は自然と紗良の動きを追ってしまう。


さらに上昇するニット。

露出する脇腹。

肋骨の輪郭が浮きそうな脇腹にさえ、うっすらと柔らかな肉が乗っている。


引き締まってはいるのだ。

いるのだが、紗良は綾乃とは違い、決して痩せ型ではなかった。

その部位に手を当てれば、指は間違いなく沈み込むだろう。

そんな肌の表面には、珠のような汗が張り付き、ホテルの間接照明を拾って艶めいていた。


「ん~♡ ちょっと汗かいてて蒸れちゃってるかも……♡」


紗良が独り言のように呟きながらニットをさらに上へと引き上げる。

そして、ニットがちょうど胸の下まで上がった時だった。

持ち上げられた布地が、豊かな膨らみの下端に接した瞬間、布に引っ張られて一度持ち上がり、そのままバルンっと落下する二つの肉鞠。


──たぷんッ……♡


「ぁッ……♡」


声が抑えられなかった。

立っている時に見る紗良の胸も確かに豊かであることは間違いなかった。

しかし、ななめ下から見上げることで、ベッドの縁に腰掛けた紗良の胸が、前方に突き出すように存在していることを改めて知覚する。

豊かな厚みの立体を十分に把握できてしまうのだ。

単に大きいのではなかった。

胸の下部から先端に向かって緩やかに、しかし確かに盛り上がる曲線。

所謂お椀型と言われる、形の良い乳房の持ち主であることを改めて認識させられる。

腋から中央にかけて寄り集まる肉の密度。

持ち上がったニットの下で、キャミソールの薄い生地に隠された全容を、紗良の胸は俺に見せつけるようにそこに存在していた。


「やっぱ今日は暑いかも~……♡」


釘付けとなった俺の視線に臆することなく、ニットを脱ぎ捨てた紗良の手が、今度は残されたキャミソールの裾へとかかると、それは躊躇なく捲り上げられた。


──するっ……♡


途端、顕になる白磁の素肌をまじまじと見つめる暇もなく、すぐに双丘が視界をジャックする。


「……ぁ」


紗良の豊かな膨らみを支える桃色の布地。

溢れんばかりにミチミチと詰まった肉が、ブラの境界線上で零れそうになっており。

深くて長いIの字を、一直線に描かれた谷間の上には、先程紗良によって奪い去られた銀色の指輪がかろうじて存在していた。

その一点に視線が釘付けになった俺を見て、紗良はクスリと笑うと、人指し指をピンと立て。


──ずぷずぷずぷ……♡


「あぁッ……」


まるで頭を押さえつけるように、指輪を埋没させてしまう。


「ふふ……♡」


さらに人指し指を沈み込ませる、乳肉の中に指輪を取り込んだままゆっくりと指で掻き回し始めた。

もはや指輪は肉の海に没し、見えはしない。

完全に飲み込まれた形。

綾乃との愛の証が、紗良の肉欲の只中で溺れる。


「悠真のことも……。あたしの中に……はぁ……♡」


吐息を僅かに漏らしながら呟く紗良。

そして彼女はゆっくり人指し指を引き抜くと、肉穴から、ぬぽっと抜ける音が脳内に反響する。


「取れなくなっちゃったかも……♡ だってこの部屋暑くて……♡」


言い訳にもなっていない。

汗ばんで湿った胸元にチェーンが張り付き、さらに密室状態となった谷間の奥へと封印された指輪。


「ふふっ……♡ ブラ、外してくれたら指輪も見つかるかもね……♡」


拒否する間もなく、紗良は背中を向ける。

白い背中。

肩甲骨のライン。

ブラのホックが見えていた。


「……」


手が震える。

指輪を奪われた左手。

その薬指には、まだ紗良の唾液のぬめりが残っていた。

綾乃との誓いが消えた指。

そこに残ったのは、紗良の粘液。


「ん〜? 悠真〜♡ 早く〜♡」


急かすように、紗良が身体をよじらせた。

背中のブラのホックへと手が伸びる。

手先に当たる金属の感触。

そして、カチャリとホックが外れる小さな音がた。


「んふふ♡ ありがと〜♡」


振り返った紗良が笑うと同時に、支えを失ったブラの紐が肩から滑り落ちる。

解放された二つの豊かな膨らみが、ぶるんと揺れながら露わになった。


──ぷるんっ……♡


「ッ……♡♡」


紗良の胸。

豊満で、白くて、柔らかそうで、先端は淡いピンク色の蕾が咲いている。

そして谷間の奥には、銀色の指輪が埋もれていた。


「見ちゃったね〜♡」


紗良がくすくす笑う。


「お姉ちゃんの指輪もあたしのおっぱいの中で気持ちよさそ〜♡」


紗良が胸を両手で押し合わせると、谷間が深くなり指輪がさらに奥へと沈んでいく。


「や、かえし……」

「あ、ダメ♡」


手を伸ばそうとした俺の手首を、紗良が掴んだ。


「悠真はあたしを脱がせてくれるんでしょ~?♡」


掴んだ手首を引き、次に紗良は自分の腰へと導く。

ショーパンの腰の部分に指をかけさせられる。


「……ッ」

「ほら♡」


紗良が腰を少し浮かせた。

ショートデニムのホックが呆気なく外れ、ファスナーまでが肉に押されて降りていき。

やがて膝まで降ろされたそれを、紗良は笑いながら蹴り上げた。

はしたなく映るその行為であったが、それよりも、ショートデニムの下から現れた光景に、俺の目は縫い付けられていた。


残りは下着──パンツのみ。

先日、俺の下半身を取り込んでいた太ももの肉感。

今は面積の小さなピンク色の布一枚を残しただけの彼女の脚として晒されていた。

バスの中で何度も押し付けられた弾力。

その現物。

彼女の下着は白い太ももに食い込み、肉が浮き上がるほどキツく食い込んでいる。

それは決して太っているわけではない。

肉付きがあまりにも良すぎるのだ。

細いウエストを見ればわかる。

扇情的なコントラストは俺の股間をさらに興奮させ、ズボンが中から張り裂けそうな程に膨れ上がっていた。


「ねぇ、悠真も脱いじゃったら?」

「……ぇ」


「あ〜、脱がせてあげよっか?」

「い、いや、ぁ……」


立ち上がろうとした。

いや、逃げようとしたのかもしれない。

しかし、それよりも早く伸びてきた紗良の手がネクタイを掴み、クイっと引っ張った。


「んっ♡」


飛び込んだ先は紗良の唇。

豊満な女体にもたれかかるように、唇同士を重ね合わせながら、ベッドの上へ二人揃って倒れ込む。

至近距離で紗良と見つめ合いながらの情熱的な口付け。

すかさず逃さないとばかりに、紗良は脚を絡ませ、膨らんだ股間の上に太ももを乗せてきた。


「あ"ッ……♡ さ、紗良……♡」


もたれかかるように押し付けられた柔らかな乳房。

太ももの肉感。

唇の甘さとねっとりとした舌の感触。


「んふふ……♡ 悠真のちんちん……さっきよりもおっきくなってるね〜♡」

「ッ……♡」


囁く声と同時に、股間を布越しに柔らかな内ももでふにふにと揉み込まれ理性のタガが緩んでいく。

バスの中でもそうだった。

紗良に責められることへの期待と悦び。

背徳的なスリル。

今更ながら身体は正直なのだ。

綾乃に謝りたくて、紗良から逃げたくて、でも身体は紗良に触れられるだけで歓喜の声を上げていた。


「ねぇ……悠真……♡」

「……ッ♡」


「あたしと……えっち、したい……?」


紗良の手はするするとネクタイを解いていく。

拒む間もなく、ワイシャツのボタンを外し始めた。

上から順に、ひとつ、またひとつ。


「やっ……やっ……それはッ……♡」

「だって、いいでしょ? お姉ちゃんの指輪もあたしのおっぱいの中に閉じ込めちゃったことだし」


ボタンが外れていく。

露わになっていく胸元に冷たい空気が触れ、背筋が痺れる。


「今日は、悠真にあたしの裸をたくさん見てほしいな〜って……」

「や、やめ……」


「やめない♡」


鎖骨までボタンが外され、胸板が露わになる。

紗良の指先が素肌をなぞる。

湿った指先。

熱い吐息。


「お姉ちゃんはここも触ってくれなかったでしょ〜?♡」


──すりすり……♡ カリっ……♡


指先が左胸の突起に触れた。

布越しに捏ね回されると、今までにない快楽が身体中を駆け巡る。

とっさに俺は紗良の腕を掴んで動きを止めようとした。

しかし、その腕を掴む手を反対の手で掴むと、紗良は嘲笑うように自分の胸へと導いていく。


「それで抵抗してるつもり〜?♡」

「やッ……♡」


──むにゅっ……♡


「悠真のお手々はこ〜こ……♡」


掌を押し付けた先には、吸い付くような柔らかさと張りがあった。

指が勝手に沈み込む。

止めることなんてできない。

紗良の胸に触れてしまった。

自分から。

拒絶のために動いたはずの手が、あっという間に誘惑を受け入れていた。

最初からそのつもりで紗良の腕を掴んだのではないかというくらいに。


「んふふ……♡ やっぱり悠真はおっぱい好きなんだ〜♡」

「ち、違ッ……!」


「違わないよ♡ だって手、全然離してくれないもん♡ やんっ……♡ えっち〜……♡」


甘い声で耳元で囁かれつつ胸の突起を指先でクニクニと。

感じたことのない刺激に腰が浮く。

太ももに押し潰された肉竿はパンツの中で痛いほど熱く硬くなり、欲望が自分の意志とは別の生き物のようだった。

そうしている間にも、紗良の手がシャツを捲り上げていく。


「ね? もう脱いじゃおうね♡ あたしと悠真、おんなじ裸になろ?♡」


「あ"ッ……♡」


──むにゅっ……♡ にぎゅっ……♡ かりっ……♡


「や、やめ……♡」

「やめない〜♡」


耳元で悪戯っぽく笑った紗良の手がズボンのベルトに触れた。


──カチャ。


金属の音がやけに大きく響く。

ベルトが緩む。

ズボンのボタンが外れ、ファスナーが下ろされる。


「んふふ♡ 今日はいっぱいしてあげるからね♡」


──するっ……♡


ズボンが引き下ろされる。

そして下着。

最後の一枚。


「あ……」


股間が露わになる。

硬く反り返った肉竿が、赤く張り詰め、鈴口から先走りを滲ませながら、天を向き、反り返っていた。


「わぁ〜……♡」


──グニュっ♡


「ん"ッッッ♡♡♡」


感嘆の声を漏らした紗良の太ももが肉竿に圧し掛かり、再度俺に快楽の波が押し寄せる。


「悠真も真っ裸だ♡」

「さ、紗良……ッ♡」


「ん〜♡」


仰向けになった俺の肩に、すっぽりと身体を収めてきた。

素肌と素肌が密着する。


──むにゅっ……♡


豊満な胸が胸板に当たる。

潰れて広がった胸と胸の間から、先ほどの指輪が転がり落ちそうになるものの、しかし俺の思惑に反して紗良に見つかってしまうと、『ふふっ』と小さく笑った紗良がまたもや人差し指で押し戻してしまう。


「これ、あたしのものになっちゃうかもね♡」

「かえせ……♡」


「え〜? それってあたしが悠真のものになるってこと〜?♡ それとも指輪のこと〜?♡」

「ふ、ふざけっ……! ゆ、指輪に決まって……ッ♡」


「ふーん、つまんないなぁ〜……。じゃあ、またあとでね?♡」


耳元での囁きと共に耳に唇が触れる。

怒気を込めた俺の反論は、耳元の甘い声にかき消された。


──ちゅ……♡ ちゅぱ……♡ れろぉ……♡


「ん"ッ……♡ さ、紗良……♡」

「んふふ……♡」


耳元での甘い囁きと密着した身体の温もり。

紗良は自分の身体を俺の右腕に巻き付け、豊満な胸を俺の胸板に押し付けながら耳元で囁く。


「悠真……♡ きもちぃ?♡」

「ッ……♡」


答えられない。

気持ちがいいに決まっている。

紗良の柔らかくて温かい身体に包まれているのだ。

肌と肌の触れ合い。

密着した乳房の感触。

絡みつく太ももの肉感。

鼻腔を満たす甘い匂い。

鼓膜を震わせる囁き声。


全てが快楽として俺を包み込んでいた。

綾乃との行為とは違う。

もっと生々しくて、甘くて、背徳的で。

そして何より──。


「ねぇ……悠真……♡」

「ッ……♡」


「あたしの身体……好き?♡」

「ッ……♡」


「お姉ちゃんのより……きもちいい?♡」

「ッ……♡♡♡」


その問いかけに身体が震える。

答えろと言うのか。

そんなの──比べるなんて──でも──。


「んふふ……♡ おちんちんはあたしの方が好きだってさ〜……?♡」


紗良の視線が下へ向く。

その先にあるのは太ももの柔肉で押し潰されて、ピクピクと小刻みに震える肉竿。

紗良という女体に絡み付かれて、助けを求めているかのようにも見えた。


「……ッ♡ なに勝手に……」

「悠真のココは悠真よりよっぽど正直だもんね〜♡ ず〜っとあたしの太ももに好き好き〜って……ね〜♡」


──むにゅっ……♡ すりすり……♡


太ももがゆっくりと上下に動き、肉竿に刺激を与える。

張り詰めた竿の浮いた血管を押し潰しながら、内ももの柔肉が行き来すれば、情けないことに鼻から甘い吐息が漏れてしまう。


「ん"ッ……♡ あ"ッ……♡」

「声、堪えてる〜♡ かわい〜……♡ ほら、好き好き〜って大きい声で言ってごらん?♡」


ダメだ。

負ける。

そう思うのに。

紗良の身体の温もりが、匂いが、心臓の鼓動が、俺を浮かび上がらせていく。


「さ、紗良……♡」

「ん〜?♡」


「ち、近い……♡」

「近い? 今更でしょ♡ それに……♡」


──ぎゅむっ……♡


もっと近づいてきた。

全裸の紗良が、自らの乳房を押し付けながら、俺の体の上に覆い被さってくる。

鼻先が触れるほどの距離。

髪が頬を撫でる。


「ね? これで抵抗とかやめよ?♡」

「やっ……そのっ……♡」


「もっと気持ちいいことしてあげるから♡」


後頭部に回された手。

引き寄せられ、顔が胸へと導かれる。

真っ白な谷間が迫る景色がスローモーションで流れていく。

視界が最後に捉えたのは、谷間の奥で鈍く光る銀色のリングだった。


「ん"ッッ♡♡♡」


顔が柔らかな胸の中に埋もれる。

甘い匂いが充満し、温かい肉の感触が顔を包み込む。

やわらかく、優しく、それでいて息ができない程の圧力。


「ん"ッッ♡♡♡ ん"ッッ♡♡♡」


声を出そうとも吸い込まれる。

股間には相変わらず太ももの重みがあり思考がまとまらない。


いい匂い。

柔らかい。

なんだろう、これ……頭の中が白くなっていく。

気持ちいい。

気持ちがいい……。


「ふふ……♡ あたしのおっぱいに窒息させられそうになってる……♡ 悠真、かわい〜……♡」

「ん"ッ……♡ ん"っ……♡」


空気を求めて顔を離そうと首を動かしても、後頭部を抱き締めた腕がそれを許さない。

呼吸をするたび鼻を甘い香りが突き抜けていく。

肺胞のひとつひとつ、隅々にまで紗良の甘い匂いが染み込んでいく。

酸素を求めるたびに、匂いが染み込んでいく。


「はい、深呼吸して〜♡ す〜〜は〜〜♡」

「ん"ッ……♡ ん"ッ……♡」


──すぅ〜〜〜♡♡♡


深呼吸をした途端に鼻腔いっぱいに広がった甘美なる芳香。

以前嗅がされたカーディガンに染み付いていた匂いの数倍濃い匂い。

汗ばんだ素肌の匂いに胸の谷間に溜まった熱気。

そこに、紗良のおっぱい特有の甘ったるい匂いが混じり合い、脳髄まで痺れさせていく。


耳元で甘く囁く声。

胸の柔らかさと体温。

太ももの肉感。

鼻から抜ける匂い。

全身が紗良という女に押し潰されて……それが何よりも心地よくて──。


「〜〜〜♡♡♡」


目眩がした。

脳の奥がピンク色に、紗良一色に染まっていく心地。

全身が痺れる。


抵抗できない。

いや。

したくない。


紗良の胸に顔を埋めさせられ、紗良の太ももで股間を押し潰され、紗良の匂いを肺の奥底まで吸い込んでいる今の俺に……もう言葉はいらなかった。


もう。

何も。

考えられない。


ただ──。


「んふふ……♡ 悠真……♡ 好き♡」

「〜〜〜♡♡♡」


耳元で紗良が囁く。

紗良の太ももがゆっくりと動く。

紗良の手が全身を弄ると同時に、手のひらが這った跡がぞわぞわと疼き出す。


「好き……♡ 好き……♡ 好き……♡」


一貫して好意を伝えてくれる紗良。

鼓膜を震わせる『好き♡』という言葉が脳神経を犯していく。


「好き……♡ 好き……♡ 好き……♡」


洗脳されている。

その自覚はあった。

『好き♡』という言葉と女体の快楽。

それが結びついてしまった洗脳だ。


「好き……♡ 好き……♡ 好き……♡」


だがそれがどうしたというのか。

洗脳だと自覚したところで止められない。

彼女に触れられれば快楽が与えられ、同時に耳元で囁かれる。

これが彼女の思い通りなんだとわかっていても、全身を弄る彼女にどんどん開発されたとしても、身体は正直だった。

快楽は全てにおいて優先される。

理性より本能が勝る。


「んぁッ……♡ さ、紗良……♡」

「ん〜♡ 好き……♡」


胸の中でどれだけ彼女へ訴えかけようとも、押さえ込まれて耳元でそれ以上の愛を囁かれる。


「んふふ……♡ あたしが、一番……♡」

「ん"ッ……♡♡♡」


愛する綾乃の顔が頭から離れていく。

代わりに今、脳裏に浮かんでいるのは、俺の頭を抱える紗良の恍惚とした顔。

指輪を奪われ、紗良の胸の中に閉じ込められ、紗良の太ももの柔らかさに圧迫され、紗良の胸の感触と匂いで思考は停止、理性のタガはとっくに外れていた。


「好き……♡ 好き……♡ 好き……♡」


──にちゃ……♡ にちゃ……♡ にちゃ……♡


耳元で絶え間なく囁き続けられる『好き♡』という言葉。

それだけでなく、次第に耳の穴にも舌先を侵入させられ、脳に直接快楽信号が送り込まれてくる。

抵抗も言い訳も。

愛する綾乃への想いも。

全てが、紗良の甘い快楽で押し流されていく。


「お手々で、シてあげるね? 悠真、これ好きだもんね♡」

「ん"ッ……♡♡♡」


──にぎにぎ……♡ にぎにぎ……♡ にぎにぎ……♡


太ももの拘束から解放された肉竿に、紗良の右手が包み被さった。

直接の接触。

柔らかい掌の感触。

包み込む指先の微細な動き。

指の腹がそれぞれバラバラに動き、裏筋をなぞり、カリの裏を撫で回しながら先端をくすぐり上げる。

何度体感させられたかわからない、紗良の手淫。

俺の弱点を知り尽くした極上の手管。

与えられるのは、ただただ己が敗北を知るための快楽だった。


──すりすり……♡ すりすり……♡ くちゅくちゅくちゅ……♡


「あ"ッ……♡ あ"ッ……♡ あ"ぁ……♡」

「ふふっ♡ イイ声だね〜♡ もっと聞かせて?♡」


──にちゅ……♡ にちゅ……♡ にちゅ……♡


手のひらの肉づきが、限界まで張り詰めた肉竿の凹凸を味わい尽くすように扱かれる。


「ん"ッ♡ ん"ぉ♡」


口元を埋められたまま襲いくる快楽に、呼吸困難に陥っていく。

胸の重みで目が回る。

くらくらする。

鼻から吸い込む空気は甘く熱く、酸素が足りない。

それなのに、股間から流れ込む快楽が俺の全身をビクビクさせて、血中の酸素の無駄遣いを促していく。


「んふふ……♡ 悠真のちんちん、もっと大きくなった〜♡」


手の中で暴れる肉竿が、紗良の掌を堪能しようと大きくなっていく。

今の俺は紗良の手の中に収められた肉竿そのものだった。


──すりすり……♡ にぎにぎ……♡ くちゅくちゅくちゅ……♡


「あ"ッ……♡ あ"ッ……♡ あ"あ"ッ……♡♡♡」


紗良の舌が耳の穴の中を掻き回す音と、肉竿が扱かれる音が頭蓋の奥で響き渡る。

我慢なんてできるはずがなかった。

腰の奥からふつふつと湧き上がる射精感が、暴走した機関車のように加速していく。

止まらない。

止められない。

俺は、俺は、俺は──ッッ♡♡♡


「──は~い、ぴゅっぴゅはダメですよ〜♡」

「ん"ッ……♡」


──すっ♡


「あぁぁ……♡♡♡」


紗良の手が止まり、肉竿から離される。

行き場を失った快楽が腰の奥で暴れ出す。


「あぁ……♡ あぁぁ……♡」


なんで。

なんで止める。

なんで止めるんだ。

あと少し。

あとほんの少しで──。


「今勝手にイこうとしたでしょ~?♡ ダメだよ~? 勝手しちゃ……♡ あたしはもう、悠真のおちんちんの射精のタイミング、完璧に把握しちゃってるんだからね~?」


ケラケラと笑う声。

掌から伝わっていたはずの温もりは遠く、しかして昇り詰めた射精感が引くことはなかった。

股の間に差し込まれた太ももが、睾丸の表面のみを絶妙に撫でていたのだ。

だからこそ、根元から湧き上がる射精感が収まることなく、ただ行き場を失くして下腹部を彷徨っていた。


「ん"ぁ……♡」


紗良の胸に押し潰されたまま、脳裏に浮かぶのは射精の二文字。

言葉を奪われ懇願することすら許されぬまま、紗良の胸という極上の揺り籠の中で、紗良という存在のみを刷り込まれていく。


「悠真~……♡」


甘く名前を呼ばれる。

顔面に押し付けられた胸が少しだけ持ち上がる。


目の前には紗良の顔があった。

至近距離、垂れ下がる前髪、潤んだ瞳と歪んだ唇。

俺を見下ろす紗良の表情はひどく淫靡だった。


「あたしのこと、好き~……?♡」

「……ッ♡」


ここで答えを間違えるわけにはいかなかった。

この前の式場の下見の時のように、ただただ言葉で伝えればいいだけ。

それが本心でなくとも、とにかくこの場は──ッッ♡


「す、好き……♡」


答えた。

紗良の望む通りに答えたんだ。

だから、だから、射精を、一刻も早く、射精を、──ッッッ♡♡♡


「──しょうがないな〜♡」


そう囁いた紗良の一本の指の腹が竿の根元に触れた。


「ん"ッッッ♡♡♡」


それだけなのに、一度寸止めされ射精をお預けにされた肉竿がビクンっと大きく脈打った。


「ひとぉ〜つ♡ ふたぁ〜つ♡ みぃ〜っつ♡ ………♡」


揶揄うような紗良の声と共に、細長い指が一本一本巻き付いていく。

一本また一本と指が増えるたびに肉竿への圧迫は強まり、これ以上ない程に高まった射精感が、指の締め付けと共に一点へと絞り上げられていく。


「いつ〜つ……♡」


──ぎゅむっっっ……♡♡♡


「ん"ッ……♡ あ"ッ……♡ あ"あ"ッ……♡♡♡」


射精させてらえる──。

そう思っただけで、快感が倍増し肉竿の震えが止まらない。

紗良の手の中で脈打つ肉竿は既に限界まで高まっていた。


「ゆぅ〜っくり……ゆぅ〜っくりね〜……♡」


──にゅくっ……♡ にゅくっ……♡


聞き分けのない子どもへとまるで言い聞かせるように、小さく小さく囁いた紗良の手が、上下に動き出す。

上へと引き絞るような動きと共に、ほどよく調整された握力が手の中の柔らかさと凹凸を強調し、下へとくだっていく際には締め付けを緩めて開放感を与えつつ、睾丸の奥底で爆ぜる精子の通り道を作っていく。

男の生理現象の制御を奪い取っていくよう俺専用に形作られた手淫。

肉竿の限界点を狙い澄ましたかのような的確なストローク。


堪えようとしても言葉にならない。

手のひらに蓄えられた温もり、ゆったりと扱かれるリズム、絡み付いてくる指先の動き。

気持ちがいいというそれだけが頭の中を支配する。

心臓がはち切れんばかりに強く脈打ち、紗良に押し潰された全身がビクビクと震えていた。


「んふふ……♡ イク〜?♡」


──にゅくっ♡ にゅくっ♡ にゅくっ♡


「ん"ッ……♡ あ"ッ……♡ さ、紗良……ッ♡♡」


射精の瞬間が近づいている。

全身が強張り、指の先端までが痙攣する。

その様子を目を細めた紗良にじっと見下ろされ、散々に植え付けられたマゾ快楽を呼び起こされて。

俺は……俺は……もう……ッッ──♡♡♡


──すっ……♡


紗良の手が、離れた。

寸前。

放物線の頂点から射出されるまさにその寸前で、ゆっくり扱き上げた紗良の手が肉竿から抜けていったのだ。


「ん"お"ッッ♡♡♡」


身体は射精の衝動を求めて、勝手に腰を浮かし、肉竿が紗良の手を追いかける。

そんな俺の情け無い姿を見て、紗良が笑う。

くすくすと、天使のように朗らかに。


「な、なんっ……なんでッッ……♡♡♡」

「なんでって……さぁ〜……?」


紗良の顔が近づいてくる。

視界の端に映るたわわに実った乳房の谷間。

その奥で鈍く光る銀の指輪が溢れそうになっていて。


「悠真が勝手に射精しようとしたからだよ〜?」

「ち、ちがッ……! さ、紗良が……♡ 紗良が、イかせてくれるって……♡」


「はいはい、そうでしたね〜♡ でもさ〜?」


──さわさわ……♡ さわさわ……♡


紗良の掌が、張り詰めた肉竿の表面を優しく、軽く、羽毛で撫でるかのように触れ始めた。


「あたしが『イカせてあげる』って言ったのは……悠真があたしのこと『好き』って言ったからだよね〜?」

「う、うん……♡」


「じゃあ、悠真は……さっきの『好き』は本心?」

「そ、それは……♡」


「ふふっ♡ 答えられないんだ〜♡ やっぱり嘘だったんだ〜♡」

「ち、違ッ……! 違うッ! 嘘じゃ……ッ♡」


「じゃあ、何?」

「ほ、本当に……♡ 紗良のこと……好きだって……♡」


震える声で紗良に告げた。

『嘘じゃない』と。

すると、嬉しそうに微笑んだ紗良が耳元に唇を寄せてくる。

熱っぽい吐息が耳の穴を撫でる。


「……嘘つき♡」


薄っすらと、しかし、ハッキリとそう告げられた──。


怒られるでもなく否定されるでもなく、面白がられるでもなく……ただただ見抜かれていた。

男の見苦しい命乞いのように、股間をヒクつかせながら媚びへつらい、安い口約束を交わしたことが白日のもとへ晒された。

彼女は俺を理解した上で、俺のその薄っぺらい口車を『嘘つき♡』の一言で嘲笑って見せたのだ。


「嘘じゃッッ……♡」


あまりに残酷なその一言に胸がギリギリと締め付けられ、視界が歪む。

最後に見えた紗良の口元の笑みが断頭台のギロチンのように見えたのは、きっと俺の被害妄想などではなく、現実に彼女は俺という人間の浅ましさを断罪したのだ。


「ん"ッ……♡ くッ……♡」


無意識のうちに俺は顔を背けようとしていた。

だが後頭部を抱えていた紗良の手がそれを許さない。

そのまま耳元に紗良の唇が触れる。

あたたかく湿った吐息が触れる。


「悠真……♡ 悠真は嘘つきだね♡」


「あたしのこと好きって言ってたのに……♡」

「ッ……♡」


「でも……♡」


紗良の声は少しだけ低くなった。

耳元で囁かれるその声は甘く湿っていて……頭の芯を直接揺さぶる響きを持っていた。


「あたしは悠真のこと……大好きだよ♡」

「〜〜〜ッッ♡♡♡」


真っ白になる頭の中。

そして、耳元で囁かれた『大好き♡』という言葉と同時に──。


──にぎゅぅぅぅっ……♡♡♡


「あ"あ"あ"ぁぁぁ……♡♡♡」

「好き……♡ 好き……♡ 好きだよ♡」


──にゅくっ……♡ にゅっ……♡ ぬちゅっ……♡


紗良の唇が俺の耳元で好意を囁き続けながら、緩やかな手淫を再開させたのだ。

強弱のない一定のリズムで上下にゆっくりと扱かれる肉竿。

耳元で囁かれる好意。

全身を包み込む紗良の体温と匂い。

全てが同時に与えられ脳の処理が追いつかなくなっていく。

頭の中が紗良の色へと染められていく。


「〜〜〜ッッ♡♡♡」

「ふふっ……♡ ダメだよ〜? 勝手に出そうとしちゃぁ〜……♡」


しかして、絶頂の間近でまた紗良の手は離れていく。

寸止め。

何度目だろうか。

限界まで高められた射精感が行き場を失い下腹部を彷徨う。

もうどうにでもなれ。

もうどうでもいい。

早く出させてくれ。

そう思っていると──。


「ねぇ……悠真……♡」

「ッ……♡」


耳元の声。

ただならぬ響き。


「あたしの中に……挿れたい……?♡」

「ッッッ!?♡♡♡」


心臓が止まるかと思った。

挿れたい。

挿れたいに決まっている。

今日はこの日まで、紗良によって散々開発された身体は、紗良に許されればすぐにでも限界に達してしまう状況にまで陥っていた。

その紗良が『挿れたい?』と聞いてきたのだ。

挿れる、それ即ち射精のこと。

そんなのもちろん挿れたいに決まっている。

俺の身体は紗良の命令ひとつで勃起し、紗良の言葉ひとつで射精を求める機械になってしまっているのだから。


しかし一方で綾乃の顔が脳裏をよぎる。

綾乃と結んだ堅い約束。

婚約の契り。

『挿れてしまう』ということは、明らかな不貞行為だ。

そうならないよう……せめて最後の一線は越えないよう、自らに誓ったはずだった。

なのに──。


「あたしの中に……挿れたい……?♡」


甘く、たおやかな声が脳裏を焼き尽くしていく。


「ッ……♡ さ、紗良……♡」

「ん〜?♡」


紗良の顔が近づいてくる。

潤んだ瞳。

桃色の唇。


「ねぇ……悠真……♡」


「あたしのおまんこに……挿れたい……?♡」


答えられない。

答えられないのに身体は正直だ。

肉竿は痛いほどに脈打ち、紗良の秘裂に触れたいと、先走りを垂らしながら震えている。

紗良の中に入りたい。

紗良のぬくもりに包まれたい。

紗良の深い深い場所で射精したい。


だが……だが……だが……ッッッ♡♡♡


「──じゃあこのままずぅ〜っと、寸止め〜♡」

「あ"ッッ♡♡♡ 待っっっ──♡♡♡」


──むにゅぅぅぅ……♡♡♡


楽しそうに笑った紗良が突如、上半身を倒したことによって、顔面に覆い被さった豊満な乳房が俺から発言の機会を奪い去る。

同時に肉竿が温かくて柔らかい肉に包まれていくのがわかった。

体勢を変え俺に乗り上がった紗良が足を伸ばし、今度は太ももで竿を挟み込んだのだとわかったのは、柔らかな肉が微動し始めたからだった。


──むにゅ……♡ すり……♡ むにゅ……♡ すり……♡


「〜〜〜ッッ♡♡♡」


顔面はおっぱいに埋もれ、股間は太ももに包まれている。

太ももで責められているのだとわかっているのに、酸素が十分に行き渡らない脳内では、紗良の膣内に挿れられているという錯覚が起こっていた。

性交と見分けがつかないほどの密着感。

濡れそぼった秘裂が肉竿の上側に密着し、布地一枚を隔てて、しかして確実に熱が伝わってくる。

それが熱く濡れた狭い場所へと誘われているようで、まだ見ぬ快楽への渇望が脳内で花開く。


しかして紗良は、その自らの豊満な巨峰で俺から発言の機会を奪ったまま、女体で押し潰した獲物の耳元でただただ愛を囁き続けるのみで。

紗良の唇から何度も繰り返される『好き♡』という言葉と、太ももの隙間で擦り潰すように捏ね回される肉竿への快楽とが、一緒くたになって脳内を満たしていく。


──紗良……♡ 出るっ……♡ 出るッッ♡♡♡


封じられた口の代わりに脳内で必死に訴えたところで、返ってくるのは無慈悲な寸止め。

どういうわけか絶頂のタイミングを完璧に把握している紗良は、本当にその間際のところで太ももの締め付けを緩めてしまう。

ならばと抗議と嘆願の意味を込めて腰を突き出してみるものの、肉の海を突き進む竿が少しでも絶頂の気を見せれば、すかさず圧迫は緩められ、耳元からクスクスと小馬鹿にしたような笑い声が響いてくる。


「あ〜あ……♡ また勝手にイこうとしたね〜?♡」

「〜〜〜ッッ♡♡♡」


耳元の声。

甘く、柔らかく、そして残酷な声。

紗良の太ももで包み込まれた肉竿は、限界をとうに超えているはずなのに、紗良から射精の許可が下りない限り、どんなに快感が高まろうと決して自ら吐き出すことはできなかった。

紗良の掌の中でたっぷりと焦らされ、紗良の太ももの隙間で存分に煽られた末に、幾度となく寸止めの限界に達してしまった肉竿は、紗良の太ももの少しの動きに合わせて小刻みに震え、射精の衝動を紗良に訴え続けていた。

それに加えて耳元で囁かれる愛の言葉がぐるぐると脳内を駆け巡り、いよいよ頭がおかしくなっていく。

それもそのはず、この状態でたっぷりと1時間。

いや、俺はいつからいつまで紗良の下敷きになっているのか、もはや自分ではわからないほど。

快楽によって空っぽになった頭の中に注がれていく紗良の言葉、紗良の愛。

半ば洗脳じみた行為によって、ひたすらに刷り込まれ続けた偽りの愛が、踏み越えてはいけない一線を、今踏み越えさせようとしていた。


──挿れたい挿れたい挿れたい♡♡♡


脳裏で呪詛のように反響する『挿れたい♡』という言葉。

何も考えられない。

射精を延々とお預けにされて、ただ挿れたいという欲望だけが俺を埋め尽くしていく。

綾乃への愛。

倫理観。

罪悪感。

そんなものはもうとっくに──。


「〜〜〜ッッ♡♡♡」


「んふふ……♡ じゃ、そろそろもう一回聞いてあげよっかな〜♡」


太ももの締め付けが緩む。

代わりに紗良の上半身が起き上がり、顔面を埋めていたおっぱいが離れ、紗良の顔が見えるようになる。

相変わらずの潤んだ瞳と歪んだ笑み。


「あたしの中に……挿れたい……?♡」


紗良の問いかけ。

それはまるで、暗闇の真っ只中に垂らし堕とされた救いの糸のようだった。


「ッ……♡ さ、紗良……♡」

「ん〜♡?」


「……挿れたい……♡」


紗良の顔が歪む、歪む、歪む。

極上の笑み。


「もっと……♡」

「え……♡」


「もっとちゃんと言って♡ あたしの中に挿れたいって♡」

「……紗良の中に……♡」


「うん♡」

「挿れたい……♡」


「あたしのどこに?♡」

「……紗良の……♡ おまんこに……♡」


「ふふっ♡」


紗良の目と口が三日月のように細められる。

獲物を見下ろす捕食者の目。

いやむしろ、迷い込んだ仔羊を愛玩する魔性の笑みというべきか。


「じゃあ……♡」


──むにゅり……♡


紗良が体重をかけてくる。

柔らかな胸と腹とが押し付けられて、汗とそれ以外の体液とが混ざったぬるぬるの太ももが股間を撫でる。

秘裂の熱が肉竿の付け根に触れたかと思うと紗良はそのまま俺に覆いかぶさるようにして耳元で囁いてきた。



「お姉ちゃんの婚約者のおちんちんを〜……♡ お姉ちゃんの妹のおまんこに挿れて欲しいんだぁ〜……?♡」



「──ッッッ♡♡♡」


肌という肌がゾワゾワと粟立った。

耳元で囁かれた背徳の言葉は俺の理性を完全に焼き尽くし、脳内の倫理観を粉々に砕いたのだ。

紗良の言葉は甘く、そして毒のように俺を犯す。

この上ない背徳感に身体が震え、性欲という原始的な衝動が俺の全てを支配していく。

もはや限界だった。

もうどうでもよかった。

ただ、ただ紗良の中へ──。


「お願い……♡ 挿れて……♡ 紗良の中に……♡」

「あたしの……おまんこに……♡」


「あぁ……♡ 紗良のおまんこに……♡ 挿れたい……♡♡♡」


限界まで焦らされ、寸止めを繰り返され、心身ともに疲弊した俺の口から紗良が待ち望んだ言葉が溢れ出る。

紗良は満足そうに笑うと、ゆっくり腰を浮かせ、人差し指で下着をずらした。

そこから溢れた蜜が糸を引く。

そして紗良は俺の上に跨ったまま、秘裂が肉竿の上に触れる位置へと腰を下ろしていき──。


「〜〜〜ッッ♡♡♡」


──むにゅ……♡


「あ"ッッ……♡♡♡」

「んふふ……♡ 挿れるかと思った〜?♡」


──すりっ……♡ すりっ……♡


紗良の濡れた秘裂が肉竿に直接触れる。

熱と湿り気とぬめり。

が、しかし違うのだ。

これではないのだ。

挿入と見分けがつかないほどの密着度なのに、肉竿は決してぬかるみに包まれることはなく。

所謂、素股と呼ばれる行為。

ぬちぬちと紗良の入り口が肉竿の表面を舐めしゃぶる癖に、その中へと導かれることはなく、太ももの肉と肉の隙間でゆっくりと擦り上げられる。


「あたしの中には挿れてあげないよ〜♡」

「あ"ッッ♡♡♡ う、嘘……♡ さらぁッッ♡♡♡ いれてくれるってぇッッ♡♡♡」


──ぬちっ♡ ぬちっ♡ ぬちっ♡


「ふふっ♡ だってよく考えたらこのまま挿れたら赤ちゃんできちゃうかもだし〜? そもそもえっちなんかしちゃったら、完全に浮気だしね〜? それにぃ、お義兄さんはお姉ちゃんのこと愛してるんでしょ〜?♡」

「〜〜〜ッッ♡♡♡」


残酷な、それでいて矛盾した言葉。

今更何を言っているんだ??

ここまで俺を追い詰め寸止めにして散々焦らした上に、懇願までさせておきながら挿れさせてくれないなんて。

あまりにも無慈悲で残酷で、崖から突き落とされた心地に陥るものの、言い返せない俺がいた。

事実挿入してしまえば完全な不貞行為だ。

素股だって不貞行為であることには変わりない。

しかしどうしてもその一線だけは越えられない心の壁がある。

だがしかし、それをやっとのことで踏み越えた俺は……紗良の巧みな誘導によって踏み越えさせられた俺は……俺は……俺はぁ……ッッ♡♡♡


「あははっ♡ あと一時間このまま射精我慢できたら今度はマジで挿れてあげてもいいよ〜?♡」

「あ"ッ……♡ い、いい、一時間!?」


「そ〜♡ 一時間♡ このまま悠真のちんちんあたしの太ももで挟んで、えっちするみたいに、ぱんっ、ぱんっ、ぱんって叩きつけてあげながら〜♡ 耳元であたしが悠真のこと好き〜♡って言い続けてる間〜♡ 我慢できたらあたしの中に挿れてあげてもいいよ〜♡」


──ぬちっ♡ ぬちっ♡ ぬちっ♡


紗良の素股の動きが加速する。

秘裂の熱とぬめりが肉竿のカリを執拗に擦り上げていく。


「あ"ッ……♡ あ"あ"ッ……♡♡♡」


無理だ、耐えられるはずがない。

事実、今の状態ですら既に精は溢れかけている。

睾丸の奥底でグツグツと煮えたぎったマグマのような白濁が、放出を今か今かと待ち望んでいる。

それを今から一時間も我慢しろというのだ。

今の今まで寸止めを繰り返し限界まで高められた肉体には到底無理な話だ。


「さ、紗良……♡ お、おねがい……♡」

「ん〜?♡ 何〜?♡」


「い、挿れて……♡ お願いだ……♡」

「え〜? さっき言ったじゃん? あと一時間我慢できたら挿れてあげるって〜♡」


「そ、そんなの無理だ……♡ もう……もう限界だ……♡」

「ん〜……じゃあ……♡」


紗良の動きが止まる。

素股の摩擦が消え、反対にゆっくりと締め上げられて。

近づいてくる紗良の顔。

潤んだ瞳に見下ろされ、歪んだ唇から甘い吐息が吹きつけられる。






「イケよ♡」

「──ッッ♡♡♡」


──びゅくッ……♡ びゅくッ……♡ びゅるるるッ♡♡♡


呆気ないほど一瞬だった。

甘く囁かれた禁忌の言葉に、身体は従うしかなかった。

張り詰めた肉竿から今まで我慢してきた白濁が一気に噴き上がる。

何度も出された。

どくどくと脈打つ肉竿から堰を切ったように大量の精液が溢れ出ては紗良の太ももを伝い、シーツを汚していく。


「ん"ッッ♡♡♡ あ"ッ……♡ あ"あ"ッッ♡♡♡」

「んふふ……♡ やっぱり出しちゃいましたね〜♡ じゃあ、このまま……♡」


──むぎゅぅぅぅ〜〜〜♡


「〜〜〜ッッッ♡♡♡」


全身にのし掛かってくる紗良の女体。

太ももと太ももの間で、肉竿はほどよく締め付けられ──。


「イケ♡ 好き♡ イケ♡ 好き♡ イケ♡ 好きぃ……♡ イケっ……♡」


耳元で囁き続けられるイケと好きの二重奏。

好きという言葉と共に射精の命令を注ぎ込まれ、身体は従順に反応してしまう。

脳内が紗良に書き換えられていく。

自らの意思で紗良と身体を重ねるかのような錯覚を植え付けられ、思考回路を紗良の色へと染め上げられていく。


──紗良ッッッ♡♡♡


──びゅるるるッッ♡♡♡ どぷどぷどぷッッ♡♡♡


紗良の太ももの隙間で一度漏れ出し始めた精液はとどまる気配がなかった。

何度出しても少しも穏やかになっていく気配はなく、むしろ身体の奥からより強い快楽がせり上がってくる。

助けを求めて身をよじろうとも、紗良の女体に圧し潰された身体は彼女の下から脱する力を既に失っていた。

時折力を込めてみるものの、ふふっと笑った紗良によって太ももと太ももの隙間を少し狭められ、そのまま二度三度と腰を叩きつけられてしまえば俺の身体はあっさりと屈服する。


──ばちゅッ♡ ばちゅっ♡ ばちゅッ♡


「〜〜〜ッッ♡♡♡」


紗良が耳元で囁きながら腰を動かすたびに肉竿が擦れ、肉竿から放たれた精液と汗と紗良の蜜とが混ざり合い卑猥な水音を奏でていた。

精液を吐き出し続け疲弊しきっているはずなのに、紗良の太ももが動くたびに強烈な快楽が走り射精の衝動が止まらない。

もう出るはずがないのに出る。

出たばかりなのにまだ出る。

異常なほどの連続射精。

身体の中身が全部抜け落ちてしまいそうだった。


「自分で腰振ってもいいよ~♡ あたしはこうして好き好きって囁き続けててあげるから~♡」


紗良の言葉に反射的に腰が動いていた。

自ら紗良の太ももの間に肉竿を擦り付けていく。

今まで紗良が与えてくれた快楽を、今度は自分から求めてしまう。


──ぬちゅっ♡ ぬちゅっ♡ ぬちゅっ♡


「んふふ……♡ こうしてると、ほんとにえっちしてるみたいだね~♡」


紗良の太ももの肉感と熱。

秘裂の湿り気。

耳元で囁き続けられる好意。

全てが混ざり合い、快楽の波が押し寄せる。

もう止まらないし止められない。

俺は自ら腰を振り、紗良の太ももに擦り付けて射精を求めているのだ。

紗良の中へと挿れたくて、挿れたくて。

だけれども最も距離の近い太ももの隙間で精を吐き出す。


──びゅくっ♡ びゅくッ♡ どびゅるッッ♡♡♡


「好き……♡ 好き……♡ 好き……♡」

「〜〜〜ッッ♡♡♡」


耳元で囁かれる『好き♡』という言葉と共に、射精の衝動が波のように押し寄せては引いていく。

紗良の太ももに腰を打ち付けるたびに、脳内の綾乃の顔が薄れ紗良の顔が重なっていく。


「好き好き好きぃ~……♡ んふふ……♡ 大好きぃ~♡」


打ち付ける腰が一向に止まらないのを見て、紗良が笑う。

もはや自分が何をしているのかさえ曖昧だった。

ただただ、紗良にしがみつき、腰を振る。

これ以上離れたくないとばかりに両手に力が籠ってしまう。

全身を包む紗良の肌は暖かく、口から吐き出される好意は甘く──。

紗良の柔らかさ、温もり、匂い、好意。

全てが混ざり合って、頭の中を完全に埋め尽くしていく。


──好き……♡ 好き……♡ 好き……♡


耳元で囁かれるたびに快楽の波が押し寄せ射精を繰り返す。

もう何も考えられない。

綾乃への愛も、罪悪感も、倫理観も。

全てが紗良の快楽という甘い毒で溶かされていく。


──〜〜〜ッッ♡♡♡


目の前がチカチカして光の粒が見えるようになる。

限界を超えた快楽を摂取し続けた結果、意識はふいに途切れていったのだった──。


………

……

…

[newpage]

紗良とのデートの後、どう帰ったのか、いつ帰ったのか……全く記憶には残っていなかった。


その代わり残っていたのは紗良との濃密な接触。

事後もなお、紗良は動けない状態の俺の上に跨り、あろうことか69の体勢に。

そのまま睾丸を揉み解しながら竿に吸い付き、一滴も残さんとばかりに精を啜り上げていったのだ。

何が何だかわからないまま、ふと意識が戻ったのは自宅のベッドの上だった。


そんなラブホデートから数日後。

俺は自宅のバスルームで鏡に映る自分の姿を見ながら深い溜め息を吐いた。

目の下の隈。

明らかに浮ついた足取り。

心配する綾乃には『仕事で疲れているんだ』という嘘の言い訳をするばかり。

当然、罪悪感で押し潰されそうになる。

会社でも仕事が手につかず、打ち合わせ中に何度も上の空に。思い出すのは紗良の太ももに挟まれながら射精し続けた時の快楽。


『悠真……♡』


あの舌足らずな声で名前を呼ばれるたびに、背筋に電流が走るのを感じていた。


……ダメだ。

これじゃダメなんだ。


俺の心を埋め尽くす紗良の残り香に、綾乃への愛が圧し潰されてしまうようで。

逃げ出すようにバスルームの扉を開け、廊下へと出ていく。


(紗良……のせいで……)


心の中で紗良を責める言葉はすでに砂上の楼閣も同然であると気づきながらリビングへと足を向ければ、ソファに座っていたのは綾乃ではなく──。


「んふふ♡」


お風呂上がりのラフな格好のまま、右手の薬指につけたペアリングをいじりながら俺を見つめる妹の姿があった。

それを見て急速に思い出す。

あの時取り付けられた約束を。

紗良がペアリングを嵌めていれば、それは『淫らなことをしてあげる♡』という隠された合図であったことを。

全身を紗良のフェロモンに犯され尽くした今、その条件付けはもはや本能と言っても差し支えのないものへと昇華されていた。


──むくっ……♡


「あははっ♡ やっぱり〜♡」

「さ、紗良……お前……」


「あたし、見てわかるよ~? お義兄さん、元気になっちゃってる〜って♡」

「〜〜〜ッ♡♡♡」


条件付けの完成だ。

紗良の指先でキラリと光る銀色のリングが俺の瞳に映ったその瞬間、俺の身体は即座に反応を示してしまったのだ。

洗い流したはずのホテルでの淫らな記憶。

そこで紗良の口から聞いた甘い言葉の数々。

ペアリングを見るだけで脳内で紗良の身体の感触が蘇り、股間が熱く疼き出す。


──むくむく……♡


「あ〜あ〜、この前あれだけ搾り取ってあげたのに、お義兄さんはまーたおっきくして~……♡ お姉ちゃんが居ない間に、あたしのこと襲っちゃう気ですか~?♡」

「そ、そんなわけ……ッ♡」


「ん~? じゃあなんでおっきくしてるんですか~?」


紗良の視線が股間に向けられる。

さっきまでの無邪気な妹の顔から、俺を値踏みするような艶めいた女の顔つきへと変わっていく。


「ち、ちがっ……こ、これはぁ……ッ♡」

「へぇ〜〜? 違うんですかぁ〜?」


紗良がソファから立ち上がり、ゆっくりと近づいてくる。

バスルームから出たばかりの俺はバスタオル一枚の頼りない姿。

上背は俺の方が高いはずなのに、こちらへと歩み寄る紗良からは圧倒的な圧迫感が放たれていた。


「あたしのコレ、見えちゃいましたか〜?♡」


紗良の右手が顔の前へと持ち上げられる。

そこには確かに銀色のリングが輝いていた。


「あたし言いましたもんね~♡ これ着けてるときは悠真のこといっぱい気持ちよくしてあげるって♡」

「……っ♡」


──むくっ……♡


「あははっ♡ もう硬くなっちゃった♡ やっぱり効いてるね~あたしの合図♡」

「さ、紗良……やめ……♡」


「やめないよ~♡ だって……♡」


──さわっ……♡


「あ"ッッ♡♡♡」


紗良の掌がバスタオル越しに硬くなった肉竿に触れる。

さわさわと数度撫でつけられるだけで、あっという間に腰が引けてしまうものの、紗良の掌はピタリと吸い付いたかのように離れてはくれなかった。

逃げ惑う俺の意志に反して身体は正直。

紗良の手の温もりと優しい手つき、そして指先が硬くなった竿の形を確かめるように輪郭をなぞり、亀頭の裏側の裏筋をカリカリと引っ掻くだけで、腰の奥から痺れるような快感が込み上げてくる。


──カリカリ……♡ カリカリ……♡


「あ"ッ……♡ さ、紗良……やめ……♡」

「やめない♡」


紗良の顔が近づいてくる。

延々と見下され続けたあの至近距離。

潤んだ瞳は弧を描き、桃色の唇は艷やかに湿っていて。

そして、そのまま通り過ぎた紗良は耳元に唇を寄せ、柔らかな吐息を吹き込んでくる。


「悠真……♡ あたしのこと……好き?♡」

「〜〜〜ッッ♡♡♡」


その言葉が引き金だった。

ホテルで刷り込まれた『好き』と『イケ』という条件付け。

その条件付けの意味を持つ『好き』という言葉が耳元で響いた瞬間、身体中の血液が股間に集中し、肉竿が脈動し始める。

そして、それは到底止められるようなものではなかった。


「あ~……♡ きもちぃねぇ~……♡」


──どぷっ♡ どぷっ♡ どぷぷぷっ……♡


紗良の言葉に導かれるように、早々に白旗を上げる股間。

バスタオルの上から数度揉み込まれただけで、先端からは白濁が漏れ出していた。


「こんなんでお姉ちゃんとえっちできるのかな~」


冗談めいた口調のクスクス笑い。

とぷとぷとお漏らしのような射精が止まらない股間をじっと見下され、我慢が効かなくなった俺はついつい腰を突き出してしまう。

紗良の手に向かって甘えるように、もっと強く触れてほしいとねだるように。


「あははっ♡ 自分から腰振っちゃって~♡」


しかし紗良の手は無情にも、俺の腰の動きに併せて引いていく。

追いかけても追いつけない。

触れたいのに触れられない。

もっと触れてほしいのに自分だけが勝手に腰を振っている惨めな男の姿。

そして数度ばかり、そんな不毛な攻防を続けたところで──。


「くすっ♡」


──ぎゅぅぅぅぅぅ……♡♡♡


「~~~ッッッ♡♡♡」


今度は反対に、紗良の掌が肉竿に吸い付いた。

着地点のないフラフラとした腰の動きに飽き飽きした彼女による一撃。

俺の敗北を決定づけるべく、バスタオルの上から亀頭と裏筋をしっかり握り込み、肉竿を締め上げる。

指の一本一本まで余すところなく肉竿に絡み付いた極上の圧迫が、あっという間に下腹部に快楽を溜め込ませていく。


「はいは~い……♡ ちょ~っとだけだよ♡」

「ん"ッ……♡ あ"ッ……♡ ん"ぁ……♡」


──にゅちっ……♡ ぬちぅっ……♡ にちゅ……♡


右手のリングが、その動きに合わせてキラキラと光を放つ。

それを見るたびに、ホテルで『好き好き』と囁かれながら搾り取られた記憶がフラッシュバックし、身体の奥底からぞくぞくと快楽がせり上がってくる。

射精しようとしまいと、紗良の意思一つで簡単に射精へと近づいていく肉体。

堕ちるところまで堕ちた醜態を、紗良は嬉しそうに見上げながら手を動かし続けた。


「ほらほら~♡ きもちぃ? 今さっき出したばっかだけど、もう出せそ?♡」


「〜〜〜ッッ♡♡♡」


──にゅちっ……♡ ぬちゅっ……♡ にちゅ……♡


「あははっ♡ もう我慢できないんでしょ?♡ あたしのお手々の気持ちよさに逆らえないんでしょ?♡」


羞恥と屈辱と快楽が同時に脳を焼き尽くしていく。

言葉も意思も、何もかも紗良の手に刈り取られていく。

そして紗良の意思一つで射精をし続けるだけの──。


「んふふ……♡ じゃあ……イッちゃっていいよ〜♡」

「あ"ッッ♡♡♡』


──びゅくっ♡ どぷっ♡ どぷっ♡ どぷぷぷっ……♡


許可が下りたその瞬間に、再び肉竿が脈打ち、どぷどぷと精液が溢れ出す。

紗良はその様子を笑いながら見つめ、最後の一滴まで絞り取るかのように手の動きを緩めなかった。


──にちゅぅ……♡


──びゅくぅッ♡♡♡


「はいはい……♡ いい子いい子♡ いっぱい出ましたね〜♡」


ようやく最後の一滴が飛び出したころには、バスタオルの内側はドロドロ。

風呂に入ったばかりの俺は再び風呂に入るハメに。


「あははっ♡ お姉ちゃんが帰ってくる前にお風呂入り直さないと、ニオイとかやばいですよ~」


ケラケラと笑った紗良が、手をひらひらとさせ、リビングへと消えていく。

その手には銀色のペアリングが鈍い光を放っていて。

浴室へと再度飛び込んだ俺は、精液を洗い流し、再び身体を清めながら、深い深い溜め息を吐くのだった──。


………

……

…

[newpage]

ホテルでの背徳デートから半月が過ぎた。

紗良との行為は、すっかり日常の隙間へと浸食してしまっていた──。


ある時は手で。

背後から抱きつかれ、脇腹の方から伸びてきた掌のなすがまま。

あの白く柔らかな手が下着の中へ滑り込み、俺の分身を包み込むかと思うだけで、背筋に甘い痺れが走り出す。

『今日はいっぱい出るかな~?♡』

耳元で囁かれる声だけで腰が砕け、結局紗良が満足するまで何度も精を吐き出してしまう。


ある時は口で。

廊下の壁に俺を磔にしたまま、膝を曲げてしゃがみ込んだ紗良がパクリと逸物を咥え込む。

『ん~~~♡』と喉を鳴らしながら、亀頭を喉奥深くまで飲み込み、唇の輪で締め上げながら頭を前後に振りしだけば、脳が溶けるような快楽に頭が真っ白になっていく。

精を吐き出す間際に乳首を何度も摘み上げられたせいで、すっかり新たな弱点となっていた。


ある時は足で。

ソファに座る紗良の足元に這いつくばって、大学から帰ってきた紗良の足置きとして奉仕をさせられる。

顔面に置かれた生足の蒸れた匂いを必死に嗅ぎ取り、汚れを舐め取っていく。

年頃の女の子の生の体臭──それも足の匂いという強烈な匂い──に始めは嫌悪感を抱いたものの、舌を這わせるごとに竿を擦り上げる反対の足の前に飼いならされた身体はあっという間に陥落。

射精をさせてもらった後には、むしろ自ら進んで足に顔を埋めようとしていた。

紗良の足の匂いは当然として、精液の匂いが混じる生足の匂いを嗅ぐだけで勃起するようになってしまった俺の身体。

もはや人間としての尊厳も何もあったものではなかった。


当然太ももでの搾精も行われた。

『あたしの太ももでえっちの練習もしておかないと、お姉ちゃんとえっちする時困るでしょ~?♡』という口実の元、太ももの隙間に向かってピストン運動。

無論長く持つはずもなく、ものの数往復で精を吐き出し白旗を上げてしまう。

だが紗良はそこで許してはくれずに太ももを閉じたままさらにピストンを強要してくるのだ。

『お姉ちゃんはそんなんじゃきっと満足できないよ~? いいの~? 悠真がつよぉ~いオスなんだって証明できなくても……?♡』

ただの太ももコキのはずなのに、綾乃との行為以上に昂りを感じてしまう俺。

もはや射精をしていようとお構いなしの連続ピストンに背を反らし、死に物狂いで彼女の腰にしがみつくことしかできなかった。

そう、まるで紗良の言いなりになる快楽の奴隷として──。


………


紗良にされるがままになってからというもの自慰ですら彼女の許可が必要で。

『お姉ちゃんがいるからいいでしょ〜?』と呆れられつつも結局部屋に連れて行かれいつもの如く手や足や口で抜かれる日々。

紗良という存在なしでは性処理を完了できない男。

紗良は俺のセックスライフを完全に掌握していたのだ。


………


一方で、綾乃との関係はどんどんぎこちなくなっていく。

結婚式の準備は進んでいるのに、俺はいつもどこか上の空。

以前からは考えられないほど夜の回数も減り、行為の質も低下の一途。


「悠真さん……♡」


綾乃が身を委ねてくる。

いつもの優しいキスに正常位。

そして控えめな喘ぎ声。

実に綾乃らしい男を立てる性行為。


──ずぷっ……。


「ん……♡ 悠真さん……好き……♡」


綾乃の中は温かいぬかるみで満たされていた。

柔らかく、優しく包み込まれるような。

それは間違いなく心地いいはずなのに──。


(紗良……)


脳裏に浮かぶのはクスクスと笑う紗良の顔。


『あ~♡ もうイキそうになってる~♡」


紗良の手や足、ぬるついた口内や、太ももの肉と肉に挟まれた時の感触。

そして耳元で囁かれる揶揄うような言葉。

マゾの男性を知り尽くし、男を手玉に取る魔性──。


「悠真さん……?」


気がつけば綾乃が不思議そうに俺を見ていた。


「大丈夫?」

「あ、あぁ……大丈夫だ……」


嘘だ。

綾乃の中にいるのに、感じるのは紗良のこと。

綾乃の優しい声が、紗良の甘い囁きに変換されて脳内に響く。


(紗良だったら……)


紗良だったらどうするか。

上に乗って太ももで挟み込み、何度も寸止めをして快楽に喘ぐ俺を見下ろしながら、最後は笑って射精の命令を下す。


(あ……紗良……♡)


妄想の中の紗良が、俺の上に跨ってくる。

豊満な胸が揺れる、太ももが腰に絡み付く。

どう頑張っても逃げられない体勢。


『悠真~♡ 好きぃ♡ ……イ~~~ケ♡』


「ん"ッ……♡♡♡」

「──ゆ、悠真さん……? こんなに硬く……♡」


綾乃が驚いた声を上げた。

突然中で竿が硬くなったのだ。

妄想の中の紗良の命令で、限界が近づいていく。


『あ~あ……♡ お姉ちゃんとえっちしてるのに、お姉ちゃんじゃなくて妹のあたしのこと思い出しちゃってんだ~?♡」


紗良の声が脳内で響いた。

ふと綾乃の顔を見下ろせば、紗良の笑顔が重なるように映っていた。

目を細めニヤニヤと笑う小悪魔じみた表情。

姉妹ということもあり、どこか綾乃に似た……見た目は似ているのに、その性格はまるで真逆の紗良が、頭の奥で短く呟いた。


『……イ・ケ♡』

「ん"ッ……♡♡♡ あ"……♡」


──びゅくっっ♡♡♡ びゅるるっ……♡♡ どぷっ……♡


綾乃の中に精を吐く。

しかし頭の中にあるのは紗良だけ。

綾乃の中に包まれたまま、その妹の紗良の命令で射精する。

愛する綾乃との性行為が、ひとりの妹によって完璧に支配されてしまっていた。

どれほど惨めで、それでいてどれほど心地よいのだろうか。


「ぁっ……♡ いっぱい出してぇ……♡」


何も知らない綾乃が嬉しそうに微笑んだ。

その笑顔が胸に刺さる。

自分の中に吐き出された精液が、妹への想いと共に放たれたことを、綾乃は知りようがないのだ。


「ふふ……♡ 悠真さん、今日すごく元気だったね♡」

「あ、あぁ……」


嘘で塗り固められた夜。

綾乃が満足して眠りについた後、俺は静かに寝室を抜け出し、トイレへと飛び込んでいた。


──がちゃっ……。


鍵をかけて便座に座り、スマホの画面を点灯させると、即座にメッセージアプリを開き、紗良へと打ち込む。


『紗良……』


キーを打つ指先が震える。

たった今しがた精を注ぎ込んだ綾乃を裏切り、綾乃の妹へと深夜にメッセージを打つ背徳行為。

顔が熱い。

心臓がうるさい。

鍵をかけているのに誰かが入ってくる妄想をしてしまう。


『悠真~♡ 返事くれたんだ〜♡』


数秒で返信が来た。

まるで待っていたかのように。


『ね? 今なにしてるの〜?♡』

『トイレで……スマホ……』


『ねぇ、お姉ちゃんは~?♡ ついさっきまでよろしくヤってたじゃ~ん?♡』

『……寝てる』


『あははっ♡ 寝ちゃったんだ〜♡ じゃあ今は悠真ひとりぼっち〜?♡』

『あぁ……』


『あたしとチャットしてるのも、な~んかえっちだね〜♡』

『……ッ♡』


『ね? またあたしのこと考えちゃってた?♡』


そのメッセージとともに添えられた画像。

筒状に握られた紗良の右手。

薬指には当然のように銀色のリングが光っていた。

それをまじまじと見ていると、続けてボイスメッセージが送られてくる。


「勃起しろ……♡」

「~~~ッ♡♡♡」


ボイスメッセージはたった一言。

紗良があの夜そうしたように、ただ『勃起しろ……♡』と命じた一言。

その一言だけで、俺は便座の上で、自分のそれを勃たせてしまっていたのだ。


脳内に響く紗良の声。

夜の闇に光るスマホの画面。

便器の上で勃起した男の姿。

深夜のトイレという状況全てが──。


『あ~あ、勃起しちゃった……♡』


『えらいえらい〜♡』


『じゃあ、今からこっそり抜いてあげようか〜?♡』


『お姉ちゃん寝てるし……♡』


『トイレの鍵あけといてよ~♡ あたしもすぐ行くからさ~♡』


「……ッ♡」


返信を打とうとしたところで、トイレのドアをノックする音が響いた。

控えめな音だが間違いない。

俺は鍵を開け、ドアノブに手をかける。

そこには……。


「ふふっ♡」


パジャマ姿の紗良がいた。

右手の薬指には、あの銀色のリング。

そして俺の顔を見るなり、にやりと笑った紗良が口を開く。


「勃起してるんでしょ〜?♡」


──むくっ……♡


「あははっ♡ やっぱり〜♡」


──さわっ……♡


「あ"ッッ……♡♡♡」


トイレという狭い空間になだれ込んでくる紗良の匂い。


「玉の中、からっからになるまで搾り取ってあげて~……♡ あ、そうだ、お姉ちゃんとのえっちした記憶も、あたしのきもちぃのでしっかり上書きしてあげるからね~♡ クスっ♡」


後ろ手に鍵をかけトイレの中に座り込もうとする紗良を止めるだけの力はもう俺には残されていなかった──。



………

……

…

[newpage]


そして今日。

綾乃が急遽実家へ一泊で帰るという日。

朝の支度を終えた綾乃は、玄関先で振り返りながら笑顔で。


「悠真さん。紗良のことお願いね?」

「あぁ……任せてくれ」


「ふふっ。じゃあ行ってきま~す」

「いってらっしゃい」


何食わぬ顔で挨拶を交わした俺の股間は期待で既に硬くなっていた。

今夜、綾乃は帰ってこないのだ──。


「ん? もう硬くしてんの?」

「や、ぁ……そ、そういうわけじゃ……」


一緒に手を振っていた紗良が呆れたように呟いた。


「まぁいいけど……じゃ、お義兄さんは全裸ね」

「は……?」


「全裸。全部脱いで」

「……正気か?」


「嫌なら別にいいですけど?」


──カチャリ。


玄関のドアの鍵を締める音が響く。

益々世間から隔絶された心持ちになっていく。


「で、どうするんです? 脱ぐの? やめるの?」


煮え切らない俺を見て、紗良が短く息を吐いた。

その足は廊下の方へと向いている。


「……ッッ♡ ……ぬ、脱ぐ…………」

「なんて?」


紗良の足は止まらない。

俺を置いて廊下の奥へと行こうとしていた。


「脱ぐからッ……!」


叫んだ俺の声に紗良の足が止まる。


「はいはい。じゃあ全部脱いでね?」


しかし紗良は少し立ち止まり、短く言い残しただけで俺に背を向けたまま自室へ向かって歩き出していた。


「ちょっ……まっ……!」


俺は言われた通り、急いでパジャマを脱ぎ捨て全裸になる。

冷たい空気が肌に触れ、ピンと勃ち上がったペニスがパンツに引っかかるものの、そんな俺を見ることもなく紗良は自室へと消えてしまった。


「ぁ……」


──もっと早く従っておけば。


後悔が先に立つ。

廊下には俺という全裸の男性。

それも婚約者の妹に命令されて。

従う義理もないはずなのに、期待に震える肉竿のせいで身体の制御が効かない。

何をしているんだ俺は……。

情けなさと背徳感と、それでも湧き上がる興奮。

どうしても期待してしまうのだ。

紗良が自室から出て時、全裸のまま廊下に放置された自分を見て、何をするのか──。


「……」


時間が経つ。

5分。

いや、10分だろうか。

廊下の冷たい空気が肌を冷やしていく。

ペニスの硬さは変わらない。

いや、むしろ硬くなっている気がする。

ドキドキが止まないのだ。

紗良が自室から出てくるのを待って。


「紗良……?」


小さく呼んでみた。

反応はない。


「ねぇ……」


もう一度。

反応はない。

裸のまま廊下に立ち尽くす。

何とも情けない姿だ。

26歳の社会人が全裸で廊下に立ち、19歳の女の子が出てくるのを待っている。

それも婚約者の妹だ。

背徳的なシチュエーションにペニスは更に硬度を増す。


「紗良……?」


三度目の呼びかけ。

すると紗良の部屋のドアが開く。


「ん〜? 何か呼んだ?」


部屋から出てきた彼女は着替えていた。

淡いピンク色のルームウェア。

ゆるいTシャツとショートパンツ。

寝巻き姿から変えたものの、生足を晒し、胸元の谷間が見え隠れする露出多めな部屋着姿。

肉感の詰まった豊満な女体がそこにあるものの、その右手の薬指にペアリングは嵌められていなかった。


「あ、あの……」

「ん〜? 何?」


紗良は何事もないかのように、トイレの方へ歩いていく。

全裸の俺の横を通り過ぎようとする。


「な……っ」


驚きと困惑と、何より……失望。

せっかく脱いだのに紗良は何もしてくれないのか?

渦巻く欲望と期待に対して得られた快楽は何一つなく、ただただ紗良の反応が胸の奥を締め付ける。

だから手を伸ばそうとした。

立ち去ろうとする紗良に向かって手を伸ばそうとしたのだが──。


「正座ね」


ピシャリと紗良は言い放った。

それこそ有無を言わさぬ命令。

その声は普段の甘い声色とは全く異なり、人を小馬鹿にしたような冷ややかな響きを持っていた。

当然紗良は振り向きすらしてくれない。


──い、いやだ……。


この胸の奥に沸いた感情はなんなのか?


──そんなのいやだ……。


命令への拒絶か?

それとも服従への拒絶か?

いや、そうではなくて──。


──す、捨てられるのは……ッ♡♡


そう頭に過った瞬間、膝が勝手に折れ始める。

冷たい廊下の床に膝をつき、その膝の上に両手を揃え、正座の形へ。

『屈辱的な命令に従うな』という克己心よりも、『紗良に捨てられるかもしれない』という恐怖の方が勝ってしまった結果の行動。

紗良がいつもの快楽を与えてくれなくなるかもしれないという下卑た思考。


──こんなことさせられて……ッ♡♡


紗良なしでは性処理すらままならない身体。

ペアリングを見るだけで勃起する条件付け。

紗良によって何度も射精させられた肉竿。

そんな身体に開発され、紗良の命令を待ち望むことしかしない男が、もし唯一の存在に見捨てられたら──。


「あ"ッ……♡ さ、紗良……♡」

「ん〜? 何?」


紗良が振り返る。

その瞳に映るのは、全裸の男が廊下に正座している姿。

しかしてその表情は相変わらず無であった。


「だからぁ~……何してるんですかって?」

「……ッ♡」


何をしているんだ俺は……。

全裸で廊下に正座し、婚約者の妹の言葉を待っている。

何とも情けない姿。

しかし──。


「い……いえ……何も……」


『紗良がしろと言ったんだろ!』などという威勢の良い言葉は出てこなかった。

命令を下した紗良の冷たい視線に晒され、必死に口を開いたはいいものの、頭の中は快楽への期待と絶望的なまでの従順さでいっぱいだった。


紗良の機嫌を損ねてはいけない。

紗良に捨てられるわけにはいかない。


そんな思考が頭の中を埋め尽くし、口はパクパクと繰り返すのみ。


紗良の視線が下に向く。

正座した膝の上に載せられた両手。

その向こうにある、張り詰めた股間。


──ぁっ……み、見られて……ッ♡


──バタン。


しかしそれ以上何も言わず、紗良はトイレの向こうへと消えていってしまった。


廊下の静寂。

トイレから聞こえるかすかな水音。

全裸の身体に冷たい空気が当たる。

剥き出しの肌が粟立ち、肉竿が小刻みに震える。


「うぅ……♡」


惨めだった。

だがそんな惨めな気持ちにも関わらず、股間は未だ熱く硬いまま。

それどころか先端には先走りすら滲んでくる始末。


──なんで……ッ♡


そう自問するものの、この状況自体が、惨めさを凌駕する興奮を生んでいるのだ。

いや、この状況すらも興奮の燃料となっているかもしれない。

事実、紗良によって暴かれたマゾという性癖のせいで、この上ない興奮となって身体の中へと流れ込んでくる。

廊下に放置され、与えられる快楽の到達を待つのみの状態。


──ガチャ。


その暫くのち、トイレから出てきた紗良は再び無言のまま、全裸の俺の前を通り過ぎていく。

しかし今度は俺の前で立ち止まり、見下ろすように首を傾け少しの間だけ無表情で股間を眺めていた。


ぺニスがビクビクと震える。

期待と緊張と不安……そして興奮。

あまりの緊張に射精しそうになる自分の分身を必死に宥める俺の前で、紗良の唇がもごもごと動く。

とうとう何か命令をくれるのだ。

そう思った瞬間──。


──ぺっ…………ぬちゃっ♡


「──ッッッ♡♡♡」


ガムでも吐き捨てるような無造作さで。

尖った唇の先端から、飛び出した唾の塊が空中に放物線を描き、真っ赤に充血した亀頭にべちゃりと直撃したのだ。

ぺっと吐き捨てられた粘度の高い唾液が、亀頭の表面を伝い、裏筋に沿って根元まで滑り落ちていく。

冷たい感触と共に、熱く張り詰めたペニスがビクンと跳ねる。


「んぁッッ♡♡♡」


しかし、紗良はそれ以上は何もしてくれなかった。

『ふん』と鼻で笑い、再び廊下を歩き出し今度はリビングへと消えていく。

その片手にはスマホが握られていた。


──ビクンッ♡ ビクンッ♡


こんな仕打ちをされて……こんな酷い仕打ちをされているのに、竿の表面をぬらぬらと伝い落ちる唾液の前に、自分は射精を堪えるので精一杯だった

許しを待ちわびるペニスにぶっかけられた蔑み。

それだけで狂いそうな快楽が背筋を這い上がる。

全身がぞくぞくと粟立ち、淫らな期待感で頭がいっぱいになってしまう。


──なぜッッ♡♡♡ なぜッッ♡♡♡


しかしどうしようもないのだ。

快楽という餌を取り上げられたはずなのに、取り上げるという行為そのものに興奮し、脳内からは快楽物質が溢れてくる。


悔しい。

悔しいのに、気持ちがいいのだ。


──紗良ぁッッ♡♡♡


リビングの方からテレビの音が聞こえてくる。

脳裏に浮かぶのは、リビングでくつろいでいるであろう彼女の姿。

シャツの胸元をはだけさせ、生足を組み替えながら見えそうで見えないパンツを意識させられる格好。

扇情的な肢体。

そんな紗良の姿と、冷たい視線で全裸の自分を見下ろし、罪人の如く廊下に正座させられた己の姿を比較してしまう。

とんでもない格差だった。


「ぁっ……♡」


だが今の俺には何もできない。

全裸の男が立ち上がる勇気すら持てずに正座した状態。

尻が床に密着し、全身が汗ばんでくる。

血管が浮き出るほどに硬くなったペニス。

唾を吐かれたそれは膨らみを抑えきれずヒクヒクと震え、先端からは先走りが唾液に混じって雫のように滴り落ちてしまう。


そんな惨めな俺に紗良が接触してきたのはお昼も過ぎた頃だった。


「──服、着てもいいですよ」

「ぇ……」


「服着ていいですよって言ったんです」


何事もなかったかのようにリビングから出てきた紗良が、俺の前に立って言い放ったのだ。

その手には今日洗濯したであろう、昨日着た俺の服が畳まれた状態で

抱えられていた。


「えっと……あの……」

「何ですか?」


「こ……これ……終わり……?」

「終わりって? 何がですか?」


紗良は小首を傾げる。

その表情は出会ったばかりの頃と似通っていた。


「……あ…いや……」

「服着てください。風邪ひいちゃいますよ?」


そう言って紗良は俺の目の前に服を置く。


「……」


俺は無言で服を着るのだった──。


………


昼以降、紗良は何もしてくれなかった。

何もしない……本当に何も。

ただそこにいて、日常生活を送るだけ。

朝の一件など何事もなかったかのように、リビングのソファでテレビを見て、お菓子を食べて、スマホをいじる。

俺の方を見ることもなければ、合図を送ることもない。

廊下に正座させられ、唾を吐きかけられ、それでも勃起し続けた惨めな記憶は何事もなかったかのように。

前日までの出来事がまるで全て夢であったかのように。

俺はといえばソファの反対側に座り、ただただ紗良の様子を伺うのみ。


一時間。

二時間。


時間は過ぎていく。

やがて日が傾き始めた。


紗良はよくできたただの妹だった。

姉の綾乃の代わりに部屋を掃除し、日常の家事をテキパキとこなしていく。

時折くつろいでゆっくりしているものの、何かしら見つけては台所に立ち、食器を片付け落ち着かない。


俺はといえば、ソファに座ったまま無為な時間を過ごしていた。

当然スマホをいじる気になどなれやしない。

いつもは早く感じる休日が永遠にも等しい苦痛として俺を苛んでいく。


──紗良……。


心の中で彼女の名前を呼ぶこと数百回。

それでも彼女は一度たりとも俺を見ようとしなかった。

俺の期待などまるで知らんぷり。

俺が望んでいることを知っていて知らん顔をしているのか、それとも別の理由があるのか……。

紗良に捨てられてしまったのかと思うと、胸中がぐちゃぐちゃに渦巻いていくが、それを確かめる術はない。


何せ紗良とて、いつもの調子──それこそ部屋に転がり込んできた時分と同じ調子──で会話をするものだから、そもそもそんな野暮なことを確認するのも憚られたのだ。

会話も当然他愛のないもの。

テレビの話題だったり昼飯は何を食べるかだったり、とりとめのないこと。

そこにはあの甘く囁くような色気も、淫らで甘美な快楽への誘いもない。

ただただ、姉の婚約者とその妹という当たり前の関係が存在するだけ。

朝の全裸命令や唾液での接触ですら、今ではすっかり遠い過去のようだった。


夕方になり、陽が落ちる頃俺はソファに座ったまま、ぼんやりとテレビを見ていた。

気づけば、無意識のうちに薬指へと目をやっている。

あの日ラブホテルで奪われた指輪。

今は元の持ち主に戻され、まるで何事もなかったかのように銀色の輝きを放っている。

綾乃との愛の証。


しかし、反対に俺の視線はちらちらとテレビから紗良の指へ流れていくものの、そこに銀色のリングが嵌められることはなく。

紗良がお手洗いなどで少し外して戻ってきた際には、そこに指輪が嵌められてないか、一瞬期待してしまう自分がいるものの。


──……やっぱり、何もないのか。


収穫は何もない。

心のどこかで期待している自分がいることに情けなくて悔しくて消えてしまいたいのに、身体は正直だったのだ。

あの、甘く淫蕩の日々を追い求めて何度も何度も、視線を走らせてしまう。

無駄だということはわかっている。

しかし意識はどうしてもあの指へ向いてしまう。


──だけど今日は何もないんだ。


そう思っていた矢先。

紗良が『あ、そうだ』と小さく呟いたかと思うと唐突に俺の視界に指輪が現れた。


「──ッ♡♡♡」

「……これ?」


紗良が小首を傾げつつ、左手から取り出した指輪を右手の薬指に嵌めようとする。

その光を放つ銀色の輝きを見て、俺の股間は一瞬で熱く硬くなり始める。

呼吸が浅くなる。

心臓の鼓動が速くなる。

だが──。


「……今日は別にいいかな」


言いながら紗良はリングを指から外し。


「え……?」


──コトっ……。


テーブルの上に置いてしまった。


「────ッ♡♡♡」


全身の血圧が下がり、冷や汗が流れた。

同時に心臓がきゅうと縮む。

苦しい。

何かが、終わってしまったような気がした。


「……ちょうどいいしね」

「え……?」


「お姉ちゃんもいないし。ゆっくりする?」


何もかも、儚い夢だったのだと、俺はその時気づいたのだった──。


………

……

…


夜になった。

リビングでテレビを見ながら時間を過ごしたものの、心ここにあらずの俺はずっと上の空。

紗良はというと、テレビを見たりスマホを触ったり……。

お風呂へ入る際もこれと言っての誘惑はなく、むしろ一切の隙を見せないように、念入りに確認する始末。

これじゃ真っ赤な他人同士じゃないかと愚痴りたくなるような距離感。

いつもの彼女なら、隙を見ては俺に触れ、耳元で甘く囁き、ペアリングの合図を送ってくれるはずなのだ。

だが今日の紗良にはそれが一切ない。

ただの妹として、当たり障りのない生活を送っているだけ。

当然と言えば当然なのだが、俺は既に気が気ではなかった。

そして、日もすっかり暮れた頃。


「──じゃ、お義兄さん、おやすみなさい」


続けて『テレビ消しときます?』などと聞かれてしまえば、それこそ俺の割って入る隙はなかった。

テレビのリモコンをポチッと押し下した紗良が立ち上がり、スタスタと自室へと向かっていた。

踵を返し廊下の奥へと歩いていく彼女の背中は、俺がよく知る小悪魔的な妹の背中ではなかった。

ただただ綾乃の妹としての、ありふれた背中。

俺はと言えば一瞬何かを言いかけたものの……。


──終わ、り……?


急速に全身が冷えていく。

紗良が何もしてくれないことへの失望と喪失感。

紗良の特別な扱いが、今日を境に終わってしまうかもしれないという恐怖。


──やっぱり……やっぱり俺は……。


俺は……期待していたのだ。

今日は紗良と二人きり。

綾乃が一晩中帰ってこない。

だから、きっと紗良が何かしてくれるはずだと。

あの甘い快楽を与えてくれるはずだと。


──最低だ……でも……でも……ッッ♡♡♡


そう自覚した瞬間、何かが外れた。


「──紗良ッ……!」


呼び止める声は震えていた。

廊下の暗闇に吸い込まれそうなほど弱々しい声。

しかしその声は届いたようだった。


紗良の足が止まり、振り返る。

廊下の奥から見返す瞳は、いつもの悪戯っぽい光を宿してはいなかった。

ただ静かに、俺を見ている。

見ている、だけ。


「……何ですか?」


静かだった。

他になんの音もないくらいの静寂の中、紗良の静かな声がすっと通る。

いつもの甘くねばつくよつな響きはなかった。

唾を飲み込む。


「あ、その……」


言葉が出てこない。

何を言えばいい?

『何もしてくれないのか?』と聞くのか?

『もっと何かしてくれ』と懇願するのか?


それを口にした瞬間、俺は自ら──。


唇が震える。

喉が詰まる。

しかし紗良は待ってはくれなかった。

『はぁ』と溜息をついた後、『おやすみなさい』と告げて、踵を返し廊下へと歩き出す。


「……ッ♡」


違う。

違うんだ。

俺はまだ……このままじゃ……このまま、どうして終わってしまうんだ。


「──紗良……ッ!」


立ち上がった。

無意識だった。

気づけば体が、口が動いていた。


「……紗良の……」


廊下を歩く少女が、足を止め、振り返る。

無表情のまま、瞬きすらない目の光が全身に突き刺さる。

胸が焼けそうなくらいに締め付けられる中、俺は立っていた。

そしてじっと見つめていた。


「……リング、見せてませんよ?」


冷たい声色だった。

その声だけで。


──むくっ……♡


「あ"ッ……♡」


俺の身体は、紗良の機嫌などお構いなしにこれ以上ないほど反応してしまっていた。


「お義兄さんもちらちら見てたでしょ? あたしの指、何もつけてなかったですよね?」

「っ……」


俯く。

言い返せない。


「あの、だから……」

「何ですか?」


「……まっ……待って……」

「……で?」


自分の口から紗良を求めて『待って』なんて言葉が出るなんて思わなかった。

しかし思わず口から出てしまった『待って』に対する返しは、紗良のあまりにも素っ気ない声だった。


「……ッ」


──ガクッ……。


自然と膝が折れていく。

苦しい。

口がパクパクと動く。

それでも言葉が出てこない。


紗良は廊下の奥から静かに見ている。

ただ見ている。

膝をついた男の哀れな姿を見下ろしている。

光の加減でその表情はよく見えない。


──助けてくれ……頼むから……あの声で……あの手で……。


──紗良……お前の手が……お前の口が……お前の身体が……ッッ♡♡♡


膝が折れ、冷たい廊下の床に手をつく。

心臓が痛い。

苦しい。

寂しい。

そして──。


「──どうしたんですか? 土下座なんかしちゃって」


紗良の声が、足音が、遠くの方から近づいてくる。

『ギシリ、ギシリ』と、フローリングを踏み締める音がどんどん大きくなってくる。

そしてとうとう、紗良の足の指の爪の先が、床に伏せた俺の視界の端に映り込む。

桜貝のように艶やかなペディキュア。

ふっくらとした肉付きの良い足の指先。


「あっ……あのっ……そのぉ……」


床に向かって小さく呟いた俺であったが、視界の端に映り込んだ紗良の足先は微動だにしない。

ただ冷ややかにそこに在るのみ。


「い、今までみたいにぃ……き、気持ちよくぅ……してほしい……かも……」


だがそれでも紗良の足先は微動だにしなかった。

言葉足らずの俺の言葉など届くはずもなく……いや届いているはずなのに反応してくれないのだ。

冷たい。

ただただ冷たい。


「……あたし、指輪つけてないですよ?」

「っ……」


紗良の指輪。

二人だけの合図であるペアリング。


「だから今日は……何もしてないですよね?」

「……うん」


「合図もなしに……何を期待してるんですか?」

「……」


答えられない。

その通りなのだ。

紗良がペアリングをつけたら淫らなことをするという合図。

その合図がなければ何もしないという逆もまた然り。

このルールを決めたのは他ならぬ紗良と俺だ。

俺の方はともかく紗良は律儀にこのルールを守っているだけなのだ。

だから今日は……本当は……。


「──あたしに何かしてほしいんですか?」


紗良の声が上から降ってくる。

冷ややかで、静かな声。

頭を上げられない。


「……したい」

「何を?」


「……紗良と……えっち……したい……」


言ってしまった。

とうとう言ってしまった。

決して踏み越えてはならない一線。

それを俺は自ら──。


「あたしと?」

「……あぁ」


「お姉ちゃんは?」

「っ……」


「あたしじゃなくて、お姉ちゃんとえっちすればいいんじゃないですか?」


──違う……違うんだ……。


心の中で否定の言葉が渦巻く。

俺は綾乃と結婚する。

愛する婚約者と、一生を共にする。

それは確かなんだ。

確かなんだから、こんなことを紗良にお願いするのはおかしいんだ。


「あたしは……お姉ちゃんの代わりになんかなりませんよ?」


「紗良……ッッ♡♡♡」


違う。

違うんだ。

俺が求めてるのは、紗良との蕩けるような蜜月の──。


彼女の顔が見たい。

しかしどうしても顔を上げられなかった。

怖かったのだ。

紗良の表情を見てしまうのが。

冷ややかに見下ろされているだけと確認するのが。


紗良のその瞳には今、俺はどう映っているのだろうか。

情けないだろうか。

惨めだろうか。

それとも──。


「お姉ちゃんの……綾乃の代わりなんかじゃ……ない……ッ……」


震える声で、なんとか言葉を紡ぐ。

きっともう、俺は泣きそうな顔をしていた。

そんな顔をしながら、精一杯声を上げる。

まるで足に向かって祈りを捧げているようだった。


「紗良じゃなきゃ……紗良がいいん、だ……ッ♡♡♡」


沈黙。

頭上から女神の神託は降ってこない。

代わりに見えるのは、紗良の生足。

だが……だがしかし──。


──ずしっ……。


「ッッッ♡♡♡」


後頭部にかかる圧力。

それが紗良の足だとわかるまで、そう時間はかからなかった。

そして、紗良が俺の後頭部を踏み締めているのだと理解した瞬間。


「ん"ぅッッッ♡♡♡」


勃起。

肉竿が限界まで張り詰め、先端からは先走りが滲み出てくる。

頭を床に押し付けられているというのに、その屈辱感すらも快楽に変換されていく。


「……なんでしょう?」


頭上から降ってくる紗良の声。

冷ややかで、静かで、どこまでも残酷な声。

まさしく女神様の御神託。


「あ"……あ"……紗良……あ"……♡」

「ちゃんと言葉にして?」


足の裏が後頭部をグリグリと押し回す。

指先の柔らかな感触が後頭部の上で捻られる度に、脳が痺れるような快感が走る。


「ん"ッ……♡ お、おねがい……♡」

「何を?」


「き、きもちよく……して……♡」

「お姉ちゃんとじゃダメなの?」


「紗良じゃ……ないと……ッ♡♡♡」

「ふーん?」


──ぐりっ♡


「ん"ッッ♡♡♡」


後頭部を踏む足の力が強くなる。

同時に、脳裏に焼き付いた条件付けが作動する。


「ん"お"ッッ♡♡♡ き、きもひ……♡ ぃぃ……♡♡♡」

「お姉ちゃんとじゃ、得られない?」


「ん"ッ♡ あ"ッ♡ あひゃのと……♡ ほの……♡ とくべちゅ……♡♡♡」


踏み潰された頭では口がろくに回らない。

それでも紗良は足の指を後頭部で何度も伸び縮みさせ、俺に答えさせるよう促してくる。


「あ"ぁ♡ さら……♡ ひゃらひゃなきゃ……♡ いきれない……♡♡♡ おねがいひゃからぁ……♡♡♡ ひゃらの……おまんこ……♡♡♡ ほしい……♡♡♡」


紗良の足が止まった。

そしてゆっくりと足を下ろす。


「……じゃあ、連れてって?」

「ん"ぁッ♡♡ はっ♡♡♡」


まるで犬のようだった。

一挙手一投足が紗良に見下ろされていることも気にもせず、這いつくばりながら俺は廊下の奥を目指していた。

股間を腫らし、一心不乱に。

そしてその後をヒタヒタとついてくる紗良。

もしもこの場に傍観者がいたのなら、なんとも奇妙な光景だと言わざるを得ないだろう。

四つん這いで先導する俺。

そしてその後を悠々とついてくる紗良。

存在しない首輪が繋がっているみたいだった。

そこに繋がれた手綱はもちろん紗良の手中に収められているのだ。


床に這いつくばってのたうち回る俺の痴態をじっくりと見つめているようだった。

快楽に全身を支配された情けのないオスの無様な姿を、その目に焼き付けるように。


廊下のど真ん中をじりじりと這っていく。

手と膝が痛むのも気にならず、限界寸前まで膨らんだ股間からはとろりと先走りが垂れ落ちていた。


そんな俺のすぐ後ろには、ピンク色のルームウェアを纏った一人の女。

プールサイドを歩くモデルのようなスラリとした脚線美を惜しみなく披露しながら、俺の後をゆっくりと歩いてくる。

その美脚をひたと地につけ、まるでご主人様のような振る舞いをしながら。


「ぁ……ぁぁぁ……♡」


自分でもふざけていると……いやはや狂っているとしか言いようがなかった。

恥ずかしさに死にたくなりながら、欲情のあまり這うことを選んでしまう。

そして、俺はとうとう目的の場所へと着いてしまう。


「──ここ?」

「ぁ……は、はい……♡」


止まったのは綾乃と俺が毎晩共に寝起きを共にしている寝室。

その扉の前。


「ここでいいんですか?」




…………


<続く>



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