小説 【入れ替わり・恋人同士】㉔ (Pixiv Fanbox)
Published:
2025-07-20 14:57:33
Imported:
2026-06
Content
-目次-
・70.病院からの連絡
・71. 八日目-土曜日-
・72. 再び病院へ
70.病院からの連絡
一方で陽真(精神は澪)は今日も残業であった。
夕方、風が涼しくて心地よい季節だった。
駅前のビル群の隙間から差し込む夕日が、長い影をつくりながら通りを染めている。
仕事を終えた陽真(精神は澪)は人込みを避けるようにして歩いていた。
ネクタイを少しゆるめ、シャツのボタンをひとつ外す。
額にうっすらとにじんだ汗が、ようやく一週間の終わりを感じさせてくれる。
そんなときだった。
ズボンのポケットで、携帯が短く振動した。
(ん……?)
取り出してみると、登録していた病院、――一週間前に体を入れ替えた“常盤台医科大学附属病院”からの着信だった。
「はい、もしもし……?」
通話口から聞こえてきたのは、女性職員の明るい声だった。
「安達様と入れ替わられている島村様ですね。お待たせしておりました、機械の修理が完了しました。明日から、体の再交換が可能になりましたのでご連絡差し上げました」
――ああ、ついに。
思わず立ち止まって、信号の手前で空を仰いだ。
(やっと……やっと戻れるんだ…)
“私”の体に。
小さな手、柔らかい髪、いつもの声と仕草、そして、私らしさ。
一週間、ずっと違和感を抱えたまま、彼氏の男の体で暮らしをしてきた。
長かった。正直、もう限界だった。
その夜。
マンションのエントランスを抜け、オートロックの扉を開けると、部屋の中からテレビの音がぼんやりと聞こえた。
「……ただいま♪」
玄関に入ると、澪の体――つまり“澪の姿”である陽真が、ソファに寝転びながらスナック菓子を口に運んでいた。
「おかえり~♡今日はまだ早かったな♡」
「うん……それより、ちょっと話があるの!!」
陽真(精神は澪)は、男性用の革靴を脱いでからリビングに向かい、少しだけ緊張しながら言葉を続けた。
「さっきね、病院から連絡が来たの。……あの、機械、修理終わったって!!」
「……えっ…もう…?」
ソファに寝転んでいた澪(精神は陽真)は、スナックを咥えたまま一瞬固まり、次いで、体を起こした。
「マジで…?」
「うん!!明日から体の入れ替え、再開できるって。ようやく……元の私の体に戻れる♡」
「……あー、でもさぁ……」
澪(精神は陽真)は、頭をかきながら、少しバツが悪そうな笑顔を見せた。
「なんか、もうちょいお互いの体で生活してみない?♡」
「は?」
「いや、あのね? 女の子の暮らしってさ、いろいろ新鮮で楽しいんだよ。服もかわいいし、化粧も慣れてきたし、♡――」
「絶対やだ…すぐにでも元に戻りたいんだから!!」
陽真(精神は澪)は、はっきりと言葉に出した。
「……明日、絶対行くから。病院!!」
陽真(精神は澪)は言った。
「ちゃんと、元の体に戻りましょ。……もう、これ以上、自分じゃない体でいたくない…」
その言葉に、澪(精神は陽真)は少しだけ視線を伏せた。
「……澪のエッチな体、手軽に堪能できなくなるな…」
「……最低」
陽真(精神は澪)は小さくため息をついて、自分の体――つまり、ソファに座っている“澪(精神は陽真)”を見つめた。
「あんたね。私の体でお菓子食べたり、足広げて座ったり、好き勝手して……戻ったら覚悟しなさいよ」
「うふっ♡お互い様でしょ…?♡」
「私はあんたの体で好き勝手してないです!!」
•
明日、二人は元に戻る。
71. 八日目-土曜日-
その朝、目覚まし時計の電子音が鳴るよりも早く、陽真(精神は澪)は、ぱちりと目を覚ました。
外はうっすらとした曇り空。
週末とは思えないほど静かで、街の喧騒がまだ動き出していないのがわかる。
それでも陽真(精神は澪)の気持ちは落ち着かなくて、ベッドからすぐに体を起こした。
(今日……やっと元に戻れるんだ)
思えばこの一週間、長かった。
慣れない体、慣れない生活、男としての振る舞い――どれもが疲れることばかりだった。
•
陽真(精神は澪)は軽く顔を洗い、陽真のクローゼットからTシャツとハーフパンツを取り出した。
適当に選んだつもりだったのに、鏡に映る姿を見て、やっぱり少しだけ自分に違和感を抱いてしまう。
「……やっぱり、私はこの体じゃないな」
鏡に映るのは、骨ばった肩幅に、すこし太めの首、短く整った髪。
それなのに、その奥には女の澪がいるのだから、どうしても馴染めない。
•
リビングに行くと、ソファの上でうつ伏せになっていた“澪の姿”がもぞもぞと動いた。
「……おはよ♡」
「おはよう。もうすぐ8時だよ、そろそろ準備してよ」
澪(精神は陽真)は、まだ眠たそうに顔を上げ、髪をくしゃくしゃと掻いた。
「え〜……まだ2時間あるじゃん。10時予約だろ?」
「だから言ってるの。先に着替えて支度しておけば安心でしょ」
「別に俺はずっとこの体のままでいいけどな…♡」
気のない返事に、陽真(精神は澪)はまた少しだけイラッとしながらも、ソファの脇で立ち尽くした。
澪の体で気だるそうにのびをする陽真は、自分の腕をゆっくりと頭上に上げて、体をほぐすように動かしていた。
「……あんた、戻りたく無いの…?」
ふと、陽真(精神は身)は口にしていた。
澪(精神は陽真)はにやっと笑うと、両膝を抱えて、あどけない声で答えた。
「惜しい気持ちはあるかも? 澪の体ってエッチで気持ちいいし。服も可愛いし、あと、股間に変なの付いてないのが興奮する♡」
「……あんた、やっぱり最低よ…」
陽真(精神は澪)は呆れ混じりに言った。
「じゃあ……これが最後の“お着替え”か♡」
そう言って、澪(精神は陽真)はすたすたと澪の部屋へ歩いていき、クローゼットをガサガサと漁り始めた。
「ちょっと! だから、ずっと私のクローゼット勝手に開けないでって言ってるでしょ!?開ける前は絶対声かけてよ!!」
陽真(精神は澪)はの太い声で叫んだ。
「だって今日で終わりでしょ〜? 記念にエッチなパンティ履きたくて、それと可愛い洋服も♡」
「記念って……なんの記念よ……」
陽真(精神は澪)はリビングの端でため息をついた。
やがて、澪の部屋から“澪”の声が聞こえてくる。
「おぉ、これとかエロいな~♡あ、これも似合いそう……いや、やっぱ最後は水色にしよ♡」
ぱたぱたと足音が戻ってきて、現れたのは――
ピンク色のミニスカート。薄いピンク色の無地で、ふんわりとした春の一着だった。上は白色のノースリーブニット。
「ちょっと、それ私のお気に入りなんだけど……!?」
「別にいいだろ?減るものじゃないし…今日で終わりだし、もう着れなくなるんだから、せっかくなら楽しんでもいいだろ?♡」
「ほんと、図々しいんだから……」
文句を言いながらも、陽真(精神は澪)はすでに「戻る」という事実に気持ちを切り替えていた。
この一週間の違和感も、気疲れも、全部あと数時間の我慢で終わるのだと思えば、細かいことはどうでもよくなってくる。
•
10時の予約時間はもうすぐだ。
二人並んで、鏡の前に立つ。
どちらも自分の姿じゃない、でも、今は「互いの体」。
「……変な感じだったね」
「俺は澪の体のままでもいいけど♡」
陽真が、澪の顔でニヤついた。
「何言ってるのよ!?……私はもう二度とごめんよ!?」
そして、二人は玄関を出た。
これが、元の“自分に戻る”ための、最後の朝だった。
-最寄り駅までの道中の公園-
病院への道中、澪(精神は陽真)は女の体で陽真(精神は澪)を揶揄うのも最後だと思い、わざとらしく、スカートを捲り上げて揶揄った。
「ねぇ…♡ダーリン?♡アタシのパンティちょっと見せてあげるから…もうちょっとだけ入れ替わったままでいな〜い?♡」
「なっ!?やめてよ!!誰がダーリンよっ!!」
「そんなこと言ってるけど…本当はパンティ気になるんでしょ?♡勃起してるわよ…♡」
「うぅ…やだっ!?なんで自分の下着見て勃起しないといけないのよ…」
72. 再び病院へ
病院の正面玄関をくぐった瞬間、陽真(精神は澪)は、焦りからか足早になっていた。
「……はやっ」
後ろを歩いていた澪(精神は陽真)が、気だるそうにぼやく。
「ちょっと落ち着けよ。そんな焦らなくても機械は逃げないって♡」
「焦ってなんかないわよ。ただ……やっと戻れるんだから、足早になるのは当然でしょ」
受付で名前を告げると、若い女性スタッフがにこやかに応じた。
「安達様と島村様ですね。お待ちしておりました。本日、再交換の手続きとなります。先に着替えをお願いしていますので、こちらのお部屋へご案内します」
スタッフの後をついて行くと、男女別々の更衣室に案内された。
•
更衣室で渡されたのは、男女それぞれの患者衣と下着のセットだった。
陽真(精神は澪)が受け取ったのは、白色の半袖患者衣に、無地の白色のボクサーパンツ。
「……うぅ、最後まで“男扱い”よね…」
思わずぼやくと、自分の手の大きさと、ゴツゴツした脚にまた少しため息がこぼれた。
この一週間、ずっと“自分じゃない”ことを耐えてきた。
それが、病院の着替えひとつで、もう一度突きつけられるような気がして――
(……もう、すぐ終わるんだから)
陽真(精神は澪)は気持ちを切り替え、黙って着替えを始めた。
•
一方その頃、女性用の更衣室。
「うふっ♡ありがとうございます♡」
澪(精神は陽真)は、女性スタッフから渡された着替えが入った袋を覗き込み、にんまりとしていた。
中には、白色の女性用患者衣と、病院用のシンプルな白いブラとパンティのセット。
「ちゃんとブラもあるんだ~。気が利くわね♡」
そう言いながら、陽真は“澪”の体に手をかけてノースリーブニットやミニスカートを脱いでいく。
この一週間で、すっかり鏡の中のこの姿にも慣れてしまった。
着替えながら、ふと笑みが浮かぶ。
(澪の体で好き勝手できるのも、今日で最後か…)
自分の胸にフィットする下着を身につけながら、澪(精神は陽真)はふと、心の奥にやっぱり名残惜しさがあることを自覚した。
•
着替え終えた二人は、男女別々の更衣室から出て、廊下で顔を合わせる。
陽真(精神は澪)は患者衣の姿でやや硬直気味。
対する澪(精神は陽真)は、軽やかにスリッパを鳴らしながら、患者衣でニヤニヤしている。
-続く-