小説 【入れ替わり・上司】④ (Pixiv Fanbox)
Published:
2025-08-03 00:43:48
Imported:
2026-06
Content
-目次-
・10.朝の呼吸と違う体
・11.体が違えば、朝も違う
・12.扉の向こうで、自分と向き合う
10.朝の呼吸と違う体
「……ん……」
スマートフォンのアラームが、ベッドサイドで静かに震えながら7時を告げた。
その音に反応して、ふたつのベッドの布団がほぼ同時に、もぞっと揺れた。
先に顔を上げたのは、紗英(精神は翔也)だった。
ピンクのパジャマが少し乱れて、鎖骨のあたりからうっすらと胸の谷間がのぞいていた。
寝ぼけ眼のまま、髪をかきあげて起き上がろうとするも――
「……ん……あれ……体が……重……?」
鈍く、芯に残るようなだるさが全身に広がっていた。
手足は確かに動くのに、寝起き特有の“しゃきっと感”がまるでない。
「あ……そっか……僕、いま……」
そこでようやく思い出す。
自分が入っているこの体は――38歳、シングルマザー、女性管理職の高垣紗英の体なのだ。
それまで毎朝、自分の体でパッと目を覚ましていた感覚とは明らかに違う。
目は覚めているのに、血が全身に回っていないような、奥に引っかかるような鈍重さがあった。
(これが……年齢のせいなのか、女性の体だからなのか……)
ぼんやりと思っていると、隣の部屋のベッドの気配が動いた。
「……ふわぁ〜……ん、あれ……もう7時?」
聞こえてきたのは、翔也の声――けれど中身は紗英だった。
翔也の体で欠伸をしながら、のそのそとベッドから起き上がってくる。
「おはよ、村田くん。もう朝よ」
「あ……おはようございます、高垣係長……」
まだ寝ぼけた声で返すと、紗英は――翔也の体で、口元を指で軽くこすりながら笑った。
「なんかね、今日すっごく寝起きがいいの。いつもよりスッキリしてるっていうか……若い体って、こんなに軽いんだね♡」
「……!?」
紗英(精神は翔也)は言葉を返せず、まばたきを数回した。
(……僕の体で、そんなに機嫌よく起きられるのか……)
それは、どこか屈辱にも似た感情だった。
自分の若さが、体だけが、彼女にとってそんなに“好都合な資源”として感じられていることが、胸の奥に引っかかった。
「……すごいな。男って、起きたらすぐ体が動くんだもんね〜♡これ、クセになりそう♡」
にこにこ笑っている“自分の顔”を見ていると、ますます微妙な気持ちになっていく。
(こっちは逆に……目は覚めてんのに、重たいのに……)
紗英(精神は翔也)は無言のままベッドから足を出し、そっと床に降りた。
肩のあたりが冷えていて、毛布の外の空気に、どこか生肌の無防備さを感じる。
「大丈夫? 顔、眠たそうだよ?」
「……ちょっと寝起きが……。たぶん、慣れてないからです……」
「そっか。ふふ、そうかもね♡」
翔也の顔で無邪気に笑うその姿が、ほんの少しだけ、癪だった。
11.体が違えば、朝も違う
紗英(精神は翔也)がようやく体を起こして、髪を指でとかしていると――
ふいに、隣で伸びをしていた翔也(精神は紗英)が、ぽつりと言った。
「……ちょっとトイレ行ってくる」
その言葉に、紗英(精神は翔也)は思わず反応した。
「えっ……と、トイレですか?」
「うん。朝はだいたいトイレ行くでしょ?」
さも当然といった風に笑って、紗英は――翔也の顔で――のそりと立ち上がる。
その姿はどこか“男”らしく、堂々としていて、逆に違和感を生んでいた。
(……やめてくださいよ、僕の体で……そんな普通にトイレ行こうとしないでくださいよ……)
紗英(精神は翔也)はそう言いたかったが、言葉にできなかった。
なぜなら――
(……紗英(精神は翔也)も、実は……けっこう我慢していた…)
下腹部にじんわりとした重み。朝特有の感覚が、じわりと意識にのぼってくる。
その間にも紗英はもう洗面スペースを抜け、バスルームに向かってしまった。
「ちょっと借りるね〜」
「あっ……ちょ、ちょっと……!?」
制止しようと声を上げたが、扉はすぐに閉められてしまった。
紗英(精神は翔也)は顔を赤らめながら、パジャマの裾をぎゅっと握った。
視線を泳がせて天井を見る。
(……でも、自分も行きたいし……)
そう思った矢先――
「ふぅ〜〜っ」と満足そうなため息とともに、翔也(精神は紗英)が、軽やかに戻ってきた。
「……ねえ、村田くん」
「……はい……?」
「男の子のトイレって、楽しいのね♡立ったままって、あんなに楽だったんだ♡」
「…………っ」
言葉が詰まる。
紗英(精神は翔也)は思わず顔を背けた。
その無邪気すぎる感想に、どこか胸の奥がじくじくと痛んだ。
それは、単純な嫉妬や羞恥じゃない。
自分の体を“体験”として消費されているような、妙な屈辱感だった。
「え? ああ、ごめんごめん。つい、面白くて」
ニコニコ笑いながら、翔也(精神は紗英)は自分の髪をかき上げた。
その仕草すら、“女性の癖”を自分の体が使っているようで、なんとも落ち着かなかった。
(……早く戻りたいな……でも、まだあと2時間はこのままか……)
紗英(精神は翔也)は、まだ行けていないトイレのことを思い出しながら、ため息をついた。
12.扉の向こうで、自分と向き合う
「……あの、高垣係長。僕もちょっとトイレ……」
紗英(精神は翔也)は、声を潜めるように言った。
翔也(精神は紗英)は、洗面台で寝癖を直していたが、鏡越しにちらりとこちらを見て、にやっと笑った。
「うん、いいよ。ちゃんと扉、閉めてね?」
「……は、はい」
軽く顔を引きつらせながら、紗英(精神は翔也)は急ぎ足で洗面スペースを抜け、トイレのドアを静かに閉めた。
中に入ると、静けさとともに、鏡に映った今の自分の姿が目に入った。
ふわふわのピンク色のパジャマ。首元から鎖骨がのぞき、胸元がわずかに膨らんでいる。
一晩過ごしたことで、鏡に映るその姿にも少しは慣れたような気がした。
けれど、これからすることには、まだ全然慣れていない。
(……えっと、座って、だよな)
便座の前に立ち、パジャマのズボンに手をかける。
そしてその下に履いていた、高垣係長から借りた紫色のレースのパンティを、ゆっくりと下ろした。
ひやりと空気が肌に触れる。
男だった頃には味わわなかった、下着を脱ぐときの“無防備さ”が、妙に恥ずかしかった。
そして、そのまま便座に座った。
視線は自然と膝のあたりへと落ちた。
女性の細い足首、丸みを帯びた太ももが、自分のものであることにまだどこか現実感が薄い。
そして、用を足す。
「チョロチョロ…」
(……うぅ……音とか、感覚とか、全然違う♡……)
ちょろちょろと出ていく感覚は確かにあるのに、どこか鈍くて、コントロールがしにくい。
音も、思っていた以上にはっきりしていて、思わず顔が赤くなる。
(……やっぱ、慣れない……でも、これが高垣係長の毎日なんだな♡)
自分が無意識に過ごしていた“当たり前”が、どれほど性別に依存していたか、こうしてみるとよくわかる。
やがて水音が止み、紗英(精神は翔也)は少しだけ背筋を伸ばした。
ふと、別の“気配”が、下腹部にじわりと広がってくる。
(えっ、……このタイミングで…めっちゃお腹痛い…)
便意。
生理的でありながらも、今この瞬間に“女性の体”で感じることへの強い興奮感が、思考をよぎる。
(でも……もう我慢できないし…♡…お互い様だよね…♡別にうんちぐらい…♡)
顔を伏せながら、小さく深呼吸をして、目を閉じ、少しニヤついた。
(……これも、経験だ。女性の体でうんちするなんて、中々できない経験だよな♡…おばさんだけど♡…)
紗英(精神は翔也)はゆっくりと便意に身体を預け、扉の向こうでは聞かせられないない汚い音を、思い切り出した…。
「ブッ、ブリリッ…ポチャン…」
紗英(精神は翔也)のお尻から出たその排泄物は、翔也が紗英の体で飲食した物では無く、紗英自身が飲食した物であった。
第十三章:静けさの中の違和感
トイレの個室に座りながら、紗英(精神は翔也)は気持ちよさそうに息をついた。
(……上司の、しかも女性の体でうんちしてる…♡)
肌寒い朝の空気が、太ももを伝っていく。
今はこの身体――高垣紗英という“女性”の体である以上、すべての排泄の作法が男性の時と変わっていた。
便座に腰を下ろし、パンティとパジャマのズボンを太ももまで下げて、両脚をそろえて座っている。
それだけで、自分がどれだけ無意識に“男”として振る舞っていたのかを思い知らされる。
(高垣係長の知らないところで、高垣係長の溜めていた排泄物を僕の意思で出してるんだよな…♡)
じんわりと広がる腹の圧、ブリッと抜けていく排便の感覚。
それは生理的な安堵をもたらしながらも、どこか「見られていないのに見られているような」奇妙な興奮感があった。
それでも――
(……人間の体って、性別を超えて、やることは一緒なんだな♡……)
そんな当たり前の事実に、小さな発見のようなものを覚える。
自分とは違う性別の身体でも、日々当たり前にこなされてきた“生活の動作”。
それに今、初めて真正面から向き合っているような気がした。
やがて排便を終え、トイレットペーパーに手を伸ばす。
「カラカラッ…」
(……高垣係長の肛門を僕が勝手に拭いていいんだよな…♡)
男の自分の体だったころには絶対に行うことができなかった行為に、意識を向けざるを得ない。
お尻に手を伸ばす角度、肛門を拭く方向、肛門を拭く時に気をつけること。すべてが違う。
だが、それが逆に高垣紗英という女性の“生き方”そのものに触れているような気もして――さらに興奮する。
「んっ…♡こ、これ…気持ち良い…♡」
(…男の体で肛門拭いてる時より、高垣係長の…女の体で肛門拭く時の方が気持ち良い気がする…♡………)
そう思いと、紗英(精神は翔也)の胸の奥に、ほんの少しの優越感が芽生えた。
終わったあと、パジャマのズボンとパンティを履いて整えて立ち上がる。
便器からは少しきつい匂いも漂っており、それも少し一応観察した…自分とは違う性別の排泄物…ほとんど同じに見えるが、少しだけ本来の自分の体の排泄物と匂いが違う気がした。
そのまま、すぐに流した…。
鏡に映る自分は、まだどこか他人のようだったが――
その顔にも、ほんの少しだけ、落ち着いた色っぽい表情が宿っていた。
-続く-