the robber 03 <1,000文字程度> (Pixiv Fanbox)
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季節は梅雨に差し掛かっていた。
家に帰らない父親と、僕の母親は正式に離婚した。僕にはこびりついて離れない汚れのように思えた夫婦の関係も、それが剥がれ落ちる時は本当に呆気ないものだった。僕の生活は変わらない。変わったのは、帰ってこない父親が本当にもう二度と帰らなくなったということだけ。僕は今まで通りに母と暮らすことになる。
じきに母は、僕のことを殊更、邪険に扱うことになるだろう。そんな予感めいたものが僕にはあった。近いうちにそれはきっと確信に変わる。四六時中、スマートフォンの着信を待ち続ける思春期の乙女のような母の姿を見ていると、僕にはそう思えてならなかった。
ジメジメとした湿気に汗ばんだ肌が不快に思える。早く梅雨よあけろと思う。けれど、梅雨が明けて夏がやってきたとき、あの家に僕の居場所はまだ残されているのだろうか。
あまり考えたくないことばかりが、頭を占めている。唯一の救いは、この学校には僕の居場所と思える場所があるということ。
廊下の突き当たり、普段は使われていない生徒指導室。松原先生の許可をもらって放課後の出入りを許されている僕には、その部屋の片隅を定位置に決めた。
そこは、僕が居ても誰の迷惑にもならない。
そこは、僕のたった一つの居場所になった。
決して居心地がいいわけではなかったけど、誰にも邪魔をされずに、したいことができるその場所は、僕が欲しかったものに違いない。少なくともそれは、家の中にも、図書室にも教室にもなかった。
何もかもきっとうまくいく。
そんな楽観的に考えることは、僕にはできないけれど、こうして逃避できる居場所をくれた松原先生には感謝しないといけないと思った。
しかし、それが薄氷のような安寧に過ぎないのだと。叶うことなら、季節が夏に変わってもずっとこのまま、何もかもうまくいきますようにと願っていた。
変わらないことを望む僕の意思とは裏腹に、最初の変化は六月の初めに訪れた。
「平瀬勝です。よろしくお願いします」
自己紹介して軽く会釈をした転校生の第一印象は、決して悪いものではなかった。
そう、――決して悪いものではなかったのだ。