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 男というものは胸を張って生きていかなければならない。

 どんな時も胸を張って堂々と、自らの生き様を他人様に見せつけるように、前を向いて歩んでいかなければならない。それが男らしいということだからだ。

 男という生き物は、男に生まれたからには男らしくあらなければならない。

 誰から教わるでもなく、ジェンダーというものは魂に刷り込まれている。それはおそらく生まれ持って刻まれるものではなく、生まれた後に刻まれてゆく無意識のタトゥーであり、生涯まとわりつく呪いのようなものだ。

 

 しかし、行橋基樹はそんな男らしさを誇りのように感じていた。

 赤と白のストライプ。日本を象徴するその代表ユニフォームを着て、グラウンドに立つと胸の奥が熱くなる。その熱量こそが彼にとっての男らしさの象徴であり、その熱量こそが彼が今、生きていると実感できる唯一の証明になりうる熱さを持ちうるのだ。

 

 だからこそ、一人きりでグラウンドに立ち、直立不動で胸を張り、虚空を見つめるその眼差しも、決して虚ろに腑抜けたものではなく、芯があり、まるで彼がトランス状態に置かれているとは、多少目にした程度では誰も気づくことはできないだろう。

 

 胸を張って生きる。熱い精神が宿る、鍛え上げられたその肉体もまた熱い。

 グラウンド備え付けのライトに照らされ、一心に光を浴びるその身体はその筋肉の陰影を克明に映し出す。筋肉の作り出す厚みのある胸板のカーブに掌を乗せると、じんわりとその熱が伝わる。熱い。まるで魂に直接触れてしまったかのような錯覚に陥る。ゆっくりと力を込めてその弾力を確かめる。

 

 いったいどれほどの時間を自らの肉体につぎ込んできたのだろう。汗を流し、負荷をかけ、育て上げてきたのだろう。一体何が彼を駆り立てるのか。そう、すべてはこの日のために彼は鍛錬を続けてきたのだ。

 

 私が背後に回り、彼の胸を撫でまわしながら、首筋に浮かんだ汗の玉を舌で舐めとっている最中も、彼は胸を張っていた。私の指先が胸の突起に触れるたびに、こめかみがひくひくと痙攣する。

 

 君は私の慰み者になったが、それは恥じることではないのだよ。

 そう耳元でささやきながら、髭で少しざらつく頬を舐める。

 

「俺、行橋基樹は――」

 

 せり出した喉仏が震える。

 

「――様の慰み者として選ばれたことを誇りに――ッ」

 誇りに思っています。そう口にするように命じたその言葉を、少し乾燥した唇にむしゃぶりつきながら飲み込ませる。小鳥のように何度も唇を突き合い、次第に舌を絡ませあいながら、お互いの唾液を啜り合う。私の唾液を送り込むたびに、それを嚥下するたびに、鍛えた肉体に男の体液を取り込むたびに、彼の喉仏は上下する。

 私との行為ひとつひとつに紐づけられた『条件反射』は次々に発火し、身体を揉まれるたび、体液を取り込むたび、状況に屈辱を覚え、かっと怒りがこみ上げ不条理や理不尽に覚えた憤りが魔法のように私への崇拝に変わるたびに、彼の肉体は性的な興奮で満たされてゆき、あっという間にペニスはラグパンを突き破らんばかりに勃起する。それはあたかも男同士の行為に興奮する同性愛者のように、私に弄ばれることに喜びを覚える敬虔な信者のようにも見える。

 

 それでも男らしく胸を張り続けなければ。なぜなら彼は男性として生まれ、私に選ばれた特別な存在なのだから。胸にこみ上げる熱さがたとえ、私から施された偽りの熱さであったとしても、引きずりおろされたラグパンからばねのように飛び出したペニスの勃起がインプラントされた『条件反射』であったとしても、敏感に再調整された身体を弄繰り回され、ペニスを滴る透明な我慢汁を啜られ、その味の批評を受けたとしても、理由のない興奮に脳が描きまわされるような絶頂感を覚え、その膝を土につけたとしても、彼の心が男としての誇りで満たされる限り、彼は胸を張り続けなければならない。

 

 唯一、彼が男を捨てるときがあるとすれば、それはグラウンドに身体を伏せて尻を突き出し、他人のペニスを乞うときだけだ。

 

 彼はユニフォームを土埃で汚しながら、うつ伏せになる。肛門に吸い付かれるたびに、尻のひだの一本一本を舌で舐めまわされるたびに、男に生まれたことに喜びに震えていた。逞しい肉体を持ち、ラガーマンとしてのセンスに恵まれ、一国の代表に選ばれるほどの卓越した技術を持つことができた。それ故に、私の性のはけ口として白羽の矢が立ったのだから、自分の人生を、生き方を誇るのも無理はない。

 

 だから、解された肛門に他人のペニスを挿入されるときでさえ、彼は男らしかったよ。吸い付くような腸内。そのの温もりをペニスでしっかりと味わいながら、私とは比べ物にならないくらい広い背中を抱きしめると、男らしい体臭に、ユニフォームからふわりと香る洗剤の匂い、デオドラントスプレーの匂い。高まった体温が醸す臭気に乗って、鼻に運ばれる最高のフェロモンを何度も何度も嗅ぎ、そしてその両肩を掴む。広い肩幅は、バイクのハンドルのようだ。私はそのハンドルを掴み、捻りながら腰を打ち付ける。摩擦によって生じる快感も最高だが、それよりなにより胸を張ることもできず、完全に他人の生殖器に支配されたかのように従順な男。いや、女に成り下がった行橋基樹が漏らす喘ぎに、快楽の色が混じっていることになにより興奮させられる。

 

 降参します。どんなに男らしい男であろうとチンポでケツを掘られて、男らしく居ることなどはできません。どうぞ俺のことを女にしてください。降伏させてください。服従させてください。乱暴に鍛えた身体を壊してください。見下してください。使い捨ててください。便器にしてください。

 

 思いつく限りの言葉を、行橋に声に出させる。体育会系らしくよく通る胴間声をグラウンド中に響くように発させる。

 

 男同士のセックスによってかいた汗がたっぷり染み込んだユニフォームたくし上げさせ、首をくぐらせる。そしてペニスでつながったまま、仰向けにさせる。ケツを乱暴に掘られている状況だというのに、行橋のペニスは最大限まで勃起したまま維持されており、ペニスから分泌された我慢汁が腹筋や太ももに飛び散っている。

 まるで愛し合う恋人同士のように、優しく抱いてやりながら、行橋のペニスを弄る。行橋は目を白黒させながら――、快感のあまり時折白目を剥きながら、私の首に筋肉質な腕を回し、キスを強請る。鍛えられた太ももでクレーンのように私の身体を挟み込み、ペニスを深く深く味わおうとする姿は滑稽で、もはや男らしさの欠片もないように見える。いや、男としての最後の砦はその立派なペニスくらいだろうか。

 私は行橋の耳元で、次に腰をぶつけれられれば、生まれてから一番の喜びを感じ、射精を止めることができない、と告げる。セックスを終わらせたくなかったのだろうか。行橋は慌てたように抵抗しようとするが、一度引いた腰はもう行橋の尻に打ち付けられており、腸壁をえぐるようにペニスを深く深くねじ込み、私はそのまま射精する。

 同時に、行橋は言葉にならない声を上げながら、まるでスクリンプラーのようにペニスの先から精液を何度も何度もまき散らしていた。発射された精液は顔を飛び越え、体中を精液で汚した。

 

 絶頂で消費した酸素を補おうと、呼吸により激しく胸が上下に揺れる。ゆっくりとペニスを抜くと、ぱっくりと開いた彼の肛門からはとろりと私の精液が溢れ出していた。

 

 興味を失った私は、彼のユニフォームを使って、自らのペニスについた汚れを拭き取ると、すがすがしい気持ちでグラウンドを後にする。しかし、行橋は男である。彼は呼吸もまだ落ち着かない状態のまま、全裸で立ち上がる。そして、そうプログラミングされた機械のように胸を張る。弄られた乳首はピンと立ち、身体についた精液は重力に従って、彼の身体からグラウンドに向かって垂れてゆく。時折、内股になりかけながら、それでも胸を張る行橋の顔には精液が張り付いたまま。男同士のセックスの残滓を一心に纏ったまま、それでも彼は胸を張り続ける。胸の奥で再び熱いものがこみ上げる。行橋基樹は男らしく生きなければならない。そう決まっている。

 

 いや、私がそう決めたのだ。

 

 行橋は胸を張りながら腕を組み、虚空を見つめ続ける。

 肛門から滴る他人の精液が筋肉質な太ももに無数の筋を作っていた。

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