正義のヒーローvs[ERROR]の指輪 01 <4,000字くらい> (Pixiv Fanbox)
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255.
ヤスカワ・リージョンに、新しい宇宙が生まれた。
時空間犯罪から並行宇宙群を保護すべく結成された組織、O.M.E.G.A。
O.M.E.G.A本部のモニタールームでは、その新しい宇宙が生まれる瞬間を観測していた。
観測したのは、時空間超越観測自動記述装置。
通称プロッタである。
プロッタは、時空間を超越して透視する人工の瞳で、世界を観測する。
プロッタは、任意の言語を用いて、世界を記述する。
プロッタは、感情も感傷も同情も、正義も悪も含まない。
ただ客観的に、観測した世界を言語化する。
それ以外の機能を有することはない。
0.
街では暴動が起きていた。
Crowded Apeと名乗る怪人が暗躍しているのだ。この怪人は、人々の心を操ることができる能力を持っていた。その能力を使って、群衆の心の中にある暴力的な感情を駆り立て、破壊行為に走らせていたのだ。
「これではキリがないな」
重機を操作して暴れていた作業員を手刀で気絶させると、コンクエストマンは真紅のマントを翻し、飛翔した。
コンクエストマンはこの街を守るスーパーヒーローの一人である。
真紅のマントとヒーロースーツの胸に刻印された剣と盾のシンボルがトレードマークだ。身体にフィットする特殊素材で作られている高機能なヒーロースーツは、その鍛え上げられた強靭な筋肉とその肉体美を強調していた。
彼が高層ビルよりも高く飛び上がると、メタリックなヒーロースーツに太陽の光が乱反射して、地上からは赤く瞬く光点に見える。
インカムにノイズが混じり、通信が確立する。
「こちら、キングマンだ」
コンクエストマンの直属の上司であるキングマンからの通信である。
「Crowded Apeの居場所を特定した。一気に叩くぞ」
「了解した」
コンクエストマンは受信した座標を確認し、そのポイントへと急行する。
マントをはためかせながら中空を高速移動するコンクエストマンは、真昼の空を駆ける流星だった。
Crowded Apeがいたのは、廃ビルの一室だった。
彼は、毛深い猿を模したコスチュームを着ており、ビルの壁を貫いて姿を現したコンクエストマンを見ると、キキッと笑った。
一気に距離を詰めようと地面を蹴り上げたコンクエストマンだったが、見えない壁でもあるかのように阻まれて、Crowded Apeに近づくことができない。それどころか、Crowded Apeに対して、無礼を働いているような気持ちになり、今すぐにでも跪かねばならないような、そんな気持ちがコンクエストマンを支配しようとしていた。
「くっ、一体、俺に何をした!」
「キキッ! 『畏れ多い』という感情を知っているか? それは今のお前の脳が感じている感情だよ。お前は、この僕を尊ぶべき存在として認識しているんだ。僕は王様で、君は家来。そういう風に心を操作しているのサ!」
コンクエストマンは片膝をつき、頭を下げた。目の前にいるCrowded Apeを憎むべき悪人なのだと理解しているにも関わらず、攻撃することができない。それどころか跪きたいという感情が身体を支配し始めている。コンクエストマンは、歯を食いしばった。
「キキッ、抵抗しようとしても無駄無駄。僕の洗脳能力は最強だからね。さあ、コンクエストマン! 平伏して僕を王様だと認めるんだ! そして、このCrowded Ape様の奴隷になると誓うのサ!」
「クソッ、誰がお前の奴隷なんかになるものか……ッ」
片膝をついたまま、コンクエストマンは不屈の精神を以て、Crowded Apeのことを強く睨みつけた。
「キキッ、ゾクゾクしちゃうよ。その生意気な目が、その精悍なヒーロー様の顔が、僕への崇拝心に染まりきり、お前が身も心も僕に捧げて、洗脳済みのヒーロー奴隷として、ひたむきなその眼差しはそのままに、従順に命令に従う下僕に堕ちる。その姿を想像するだけで、僕は勃起しちゃうのサ!」
Crowded Apeは、コンクエストマンにゆっくりと近づいていく。
「さあ、コンクエストマン。お前の脳に直接、僕の奴隷であることがどんなに素晴らしいことか焼き付けて、脳細胞に新しい回路を形成してやろう。お前は、僕の奴隷として生まれ変わるのサ!」
「ぐああああッ」
頭を触れられた瞬間に、痺れるような感覚がコンクエストマンを襲う。
それでも彼は、Crowded Apeを睨み続けていた。
そして、その手を振り払うと、弱々しくはあるがCrowded Apeを殴りつけた。
「イテテッ、よくもご主人さまを殴ったな!」
肩で息をしながらも、コンクエストマンはなんとか再び立ち上がることができた。
「……俺には主従ごっこをして遊ぶ趣味はない。そういったプレイを楽しみたいのならば、同じ趣味を持ったお仲間同士でやるんだな」
コンクエストマンは、砂埃の混じった唾を吐き捨てる。
そして、全身の筋肉に力を込めた。すると彼の身体に蓄えられたエネルギーが、オーラとなり彼の肉体を纏う。その圧倒的なエネルギーによって、彼を中心に周囲のコンクリートは、砕けていった。彼の逞しい筋肉の凹凸を強調するように、ヒーロースーツに張り巡らされたエネルギー・パスが赤く輝き、彼の肉体を葉脈のように覆っていく。
「――スーパーヒーローを、そう簡単に洗脳できると思うなよ」
ゆっくりと顔を上げて、コンクエストマンはCrowded Apeに向き直った。
「俺は、コンクエストマン。この街の平和を守る正義の味方だ」
握り拳を突き出し、コンクエストマンは力強く宣言した。
「決して悪に屈しはしないッ!」
「その通りだ、コンクエストマン」
Crowded Apeは、唐突に背後から聞こえた声に、はっと振り返る。
そこに居たのは、広い背中に金色のマントを背負うヒーローだった。
彼は、Crowded Apeに背を向けたまま、アーティファクトである『髑髏水晶』を片手で、粉々に握り潰した。
「ぼ、僕のアーティファクトがッ!」
Crowded Apeは頭を抱える。
「そんな馬鹿な! どうして僕の『王の間』で自由に動けるんだッ!」
Crowded Apeが慌てるのも無理はなかった。彼はアーティファクトの力を使って、周囲の空間を『王の間』という特殊なフィールドで覆っていた。『王の間』では、アーティファクトである『髑髏水晶』と、その持ち主に近づくものは、『畏れ多い』という感情を肥大化させられていく。
『髑髏水晶』の周囲は最もその力が強くなり、誰も近づけないどころか、『髑髏水晶』を傷つけること、ましてや砕き、破壊することなど絶対に不可能なはずであった。
「『王』が『王の間』で自由に動けて何が悪いというんだ?」
ヒーローはマントを翻しながら振り向いた。
「まさかお前は!」
その金色のヒーローは、力強く胸を張っていた。
分厚い胸板を包むヒーロースーツの胸部には、王冠のシンボルが刻まれている。
「私は、この街の平和を守る正義の王者、キングマンだ」
彼こそがコンクエストマンの上司であり、現役のベテランのスーパーヒーロー、キングマンなのだった。
「コンクエストマン、遅くなってすまなかった。よく持ち堪えたな」
キングマンの呼びかけに、コンクエストマンはサムズアップで応える。
「さて、Crowded Ape」
二人の屈強なヒーローに挟み撃ちされ、アーティファクトを失ったCrowded Apeは両手で頭を覆いながら、しゃがみ込んでいた。
「チェックメイトだ」
キングマンは、凛々しくも頼もしい声を響かせた。
1.
拘束されたCrowded Apeは、警察へと引き渡された。
街は未だ混乱に包まれていた。しかし、人々の心を狂わせていたアーティファクト『髑髏水晶』が破壊されたことにより、群衆は正気を取り戻し、新たに破壊活動が行われるようなことはなかった。
元凶であるCrowded Apeを逮捕することができたことで、今回の事件でのスーパーヒーローの役割は、一段落ついたということになる。
キングマンとコンクエストマンは、念のため、街をパトロールしながら、帰還するためにヒーロー基地へと向かっていた。
「陽動作戦が成功したのは、君の頑張りのおかげだ。コンクエストマン」
「こちらこそ。助かったよ、キングマン」
二人のヒーローは上司と部下という関係であり、同時に強い信頼関係で結ばれたバディでもあった。
「それにしても、よく『髑髏水晶』の精神干渉に耐え切ったな。最悪、君が洗脳されたとしても問題ないという計算においての作戦だったわけだが、改めて君のヒーローとしての強靭な精神力に、私は心から敬意を表したい」
「キングマン。もし、あなたが俺と同じ役割だったとしても、あなたは絶対に精神干渉に屈したりはしないだろう。俺たちのヒーローとしての矜持や覚悟は、アーティファクト程度の力では決して捻じ曲げることはできない」
「ああ、君の言う通りだな。何しろ我々はスーパーヒーローなのだ。スーパーヒーローは常勝。全員が最強、かつ無敵であらねばならない。とはいえ、言うが易しだ。私もキングマンの名に恥じぬ強さを保つことを心がけるとしよう。君のそのヒーローとしてのストイックな姿勢を見習って、な」
キングマンは、コンクエストマンの肩を叩いた。
尊敬するベテランヒーローであるキングマンからのその力強い賛辞に、コンクエストマンは正義への思いが強く湧き上がるのを感じた。
そして改めて、決して何物にも屈することのない強靭な心と身体によって、この街の秩序と平和を守ることを誓うのだった。
そんな二人の逞しいスーパーヒーローたちの姿を物陰から眺めている人物がいた。
彼は、安川という名前の同性愛者の男性だった。
彼は、指輪型の[ERROR]を所持していた。[ERROR]とは、アーティファクトに近い性質を持つ強力な道具である。この指輪型の[ERROR]を、安川は[ERROR]の指輪と呼称していた。
この指輪型の[ERROR]は、所有者の『提案』に強制力を持たせる。
例えば、相手に「コーヒーを飲みませんか?」と『提案』すれば、「では、いただこうかな」と『提案』を肯定する。「服を脱ぎませんか?」と『提案』すれば、「折角だから脱ごうかな」と『提案』を肯定する。
というように、相手に対して肯定的な返答を強制することができる。
そして、肯定的な返答をしてしまった相手は、その『提案』に対して返答だけではなく、その心さえも自然と肯定的に傾いてしまうのだ。
ただし、この指輪が一度でも誰かに[ERROR]であることを気づかれてしまうと、今まで発動した指輪による強制力は全て消失してしまい、指輪自体も失われてしまうという致命的な弱点が存在していた。
安川は、この[ERROR]を使ってスーパーヒーローたちを貶めようという邪悪な計画を考えていた。その安川の計画とは、当該オブジェクトを参照することができません。プロッタによる記述を中断します。 /
注意: プロッタによる記述に失敗しました。一部の記述に欠落が生じる可能性があります。同一の宇宙に再接続しています。