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メイサは小さく息を吸い、

ぽつりと呟いた。


「……わたしね、お金欲しかったの」


思わぬ答えに、ショウタの胸が一瞬ざわつく。


「……へ? お金?…って……何に?」


自分でも驚くほど素直な声が出た。

踏み込むつもりなんてなかったはずなのに、

いまはもう抑えられなかった。


メイサはカウンターの下で指を絡め、

ほんの少しだけ恥ずかしそうに笑った。


「夢があるんだ。

 わたし、昼は看護師してるんだけど……

 夜は劇団でお芝居しててね」


ショウタの顔に驚きが混じる。


「看護師と……役者……?」


「うん。

 どっちも、すきなんだよ」


メイサの声が、照明よりも温かい光を帯びていく。


「お芝居って、

 自分じゃない誰かになれるの……

 あれがすっごく楽しくて……

 団員のみんなもすごく一生懸命で、みんなお芝居上手なの」


目が輝き、言葉が自然にこぼれていく。


「衣装も照明も自分たちでぜんぶ手作りで、

 劇場代なるべく安いところ探して……

 大変だけど……

 “あ、わたしこれが好きなんだな”って思うの」


そして、すこし照れくさそうに視線を落とした。


「でも、本気で続けたいなら……

 やっぱりお金、必要で。

 だから……ここで」


「そっか……そうなんだ……」


ショウタの胸の奥にあった嫉妬のざらつきは、

静かに溶けていった。


「……俺、観に行きたい。

 その…メイねーちゃんの芝居……ぜったい観たい」


メイサは カウンターに置かれた細いペンを、

無意識に指でくるくる回しながら、

ほんの少しだけ恥ずかしそうに笑った。


「……ありがと。

 ショウくんに言われると……なんか、頑張れそう」


甘い沈黙が落ちる。


ショウタは耐えきれず、ぽつりと言ってしまう。


「……あのさ。

 また来てもいい?ここ。

 メイねーちゃん……いや、メイサに会いに」


言った瞬間、ショウタの頭が熱くなる。


(……やば……これ、

 “またその格好見たいです”って言ってるような……?

 俺、何言ってんだ……)


自分で勝手に赤面し、そっと視線を落とす。

もちろん、メイサはそんな内心に気づかない。


「えっ……うん。

 来てくれたら、わたし……嬉しいよ」


ショウタは一瞬だけ視線を落とし、

耳の先が赤くなる。


「えーと…会社の帰り道だし、ここ。家近いんだ」


「え、そうなの?どのへん?」


「ああ、バス通りの……“ハイツ南桜”。

 会社の寮がボロくてさ。そこ借りてるんだ」


その瞬間、

メイサの指からペンが転がり落ち、

カウンターの下に軽い音を立てて消えた。


「………………え?」


「ん?」


「ハイツ南桜って……

 わたしのアパートだよ……?」


ショウタの思考が止まる。


「……え?

 えーと………………まじ?」


メイサは頬を両手で覆いうつむいた。


「まじ……同じアパート……」


「……すげぇ偶然……」


メイサは恥ずかしそうに、

それでもどこか嬉しげに笑った。


「てことは……またお隣さんだね」


「……てことだな」


拾おうとして同時に身をかがめ、

互いの手が触れそうになる。


その一瞬だけ、

十年前のふたりと、今日のふたりが、

静かに重なった。


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