【裏バニー小説】 神田店:初出勤バニーさん(檜山アオイ・20)の場合 (ブラッシュアップ版) (Pixiv Fanbox)
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控室の重たい扉を開けた瞬間、
視界いっぱいに、ありえない面積の「肌色」が飛び込んできた。
「いらっしゃい!今日バニー体験の子だよね!」
店長バニーさんが、ぱっと花が咲くように笑って近づいてくる。
その笑顔の下は、
トップレスに鋭角なハイレグという、
正気とは思えない姿だった。
蝶ネクタイと白いカラーだけが「服を着ている」という記号として張り付き、
かえって剥き出しの素肌を額縁のように強調している。
歩くたび、たぷん、たぷんと重力を孕んで揺れる生の乳房。
皮膚と脂肪の柔らかさが、波打つように形を変える。
その頂点にある乳首は、隠されることもなく空気に晒されてそこに「在る」。
さらに視線を下げれば、鋭角に切れ込んだハイレグが、脚の付け根の柔らかな肉を無遠慮に食い込ませている。
この店では、この常識はずれの露出こそが“正装”なのだ。
店長バニーさんの自然すぎる微笑みが、その異常な事実を「常識」として突きつけてくる。
こんな姿で働く人が、本当にいるんだ──。
そして、 “数分後には、わたしもこの姿になる” という理解が、
胸の奥でカチリと音を立てた。
喉がからからに乾く。
「大丈夫、すぐ慣れるからね〜」
明るい声と共に、視界の端で“なにも隠していない胸”が揺れる。
作り物ではない、柔らかな質量の“実物”。
それが当たり前にそこにある光景に、平衡感覚が狂いそうになる。
これを……? この姿に今から、わたしも……?
喉の奥が、ひきつった音を立てた。
求人誌の片隅にあった一行。
『裏バニー倶楽部・神田店 体験入店可』。
ウサ耳、蝶ネクタイ、カフス、そして“あの衣装”で働く噂のガールズバー。
電話をかけた時の自分が、今の自分を殺しに来たのかと思うほど信じられない。
けれど—— 「わたしの知らない、わたしを知りたい」。
その衝動だけが、震える背中を支えていた。
「じゃ、まずは衣装ね。試着してみよっか」
店長はわたしが石になっているのを気にする様子もなく、
まるでカフェのエプロンでも渡すような手つきで、衣装一式を差し出した。
受け取った瞬間、指先が抜けるかと思うほど軽かった。
それは衣装というより、「隠すことを放棄した意思」そのもの。
ほんの指先で折りたためてしまう薄さ。
すべてを委ねてしまったら最後、自分で守れる尊厳など何ひとつ残らない——
そんな予感が、肌を粟立たせた。
(本当に?本当に?わたし……本当に、これを着るの?)
理性の頭は完全にそれを拒絶していた。
(帰ろう…これは体験入店…いまならまだ引き返せる…)
けど…なぜか——
身体はまるで自動運転モードのように服を脱ぎ始めていた。
それが義務であるかのように。
ロッカーの無機質な冷気が、背中を撫でる。
緊張で強張る脚を通すと、 ひやりとした化学繊維が肌を滑り上がり、腰骨のくぼみに沿って、ぴたりと吸い付いた。
そのあまりに頼りない感触に、視界がチカチカと白く明滅した。
そして、裸の上半身。
胸を覆うものが何ひとつ無い領域に、そっと蝶ネクタイをかける。
すると喉元のカラーだけが、残酷なほど潔癖に「ここから下は全部、あなたの素肌です」と境界線を引いてしまう。
鏡の中には、隠す術をすべて奪われ、ただの“雌”として晒された自分がいた。
エアコンの冷たい風が、敏感な先端を直接撫でていく。
照明を弾く肌の白さ。
脚の付け根に深く食い込む、赤いハイレグの鋭さ。
お尻の下の方で、ヒールに乗った重心が小さく揺れるたび、「わたしは今、ここにある」と身体全部が訴えてくる。
コンコン、と軽いノックの音。
「準備できた? ホール、今日ちょっと混んでるけど大丈夫だから!」
混んでる──?
その言葉に、背筋が震えた。
逃げ場のない檻に放り込まれるような錯覚。
自分が立っている床が、ぐにゃりと傾いたように感じる。
ふう。と息を吐き出す。
そしてロッカーのドアを開けると、 廊下の向こうから、客の笑い声、グラスが触れ合う音が、熱波のように押し寄せてきた。
(あの中に、この裸同然の姿で入っていくの?)
現実感が遠のく。
心拍数は跳ね上がり、心臓の音が耳の奥にうるさく響く。
でも、ヒールの中の爪先だけは熱を帯びていた。
一歩踏み出し、かかとがきゅっと上がるたび、ハイレグのラインがさらに深く、秘部に食い込んでくる。
ふう。ふーっ。
胸の鼓動がこれでもかと裸の乳房を叩く。
一歩、廊下へ。 さらに一歩、ホールへ。
重いドアが開いた瞬間。
──ッ。
息が止まった。
客、客、客の顔。
その視線が──物理的な質量と湿度を持って、全身に突き刺さった。
頬が一気に沸騰する。
逃げたい。隠れたい。
すぐ服を着てうずくまりたい。
それなのに。
極限の羞恥の奥底で、子宮のあたりがじん、と甘く痺れた。
(わたし……見られてる)
その熱が、暴力的なまでに分からせてくる。
わたしは、この姿で、女として生まれ、 そして、このカタチの身体をしているのだということを。
守られる感覚は一切ない。
無数の客の視線が、わたしの身体のカタチを、乳房の膨らみを、腰のくびれを、おしりの曲線をなぞっていく。
けど、耐え難いはずの恥辱が、
わたしの密かな欲望に火を付けた。
この熱を、“もっと感じたい”と思ってしまった自分がいた。
その瞬間、地味な大学生だった「檜山アオイ」の中で、 開けてはいけない扉が、音もなく開いた。