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前回


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 研究所を思わせる巨大な施設は五階建てで様々な施設が集められている。

 

 その最上階で1人の女性が椅子に座ってこちらを見ている。

 

「あなたが古川皆美さんね。ようこそ、マゾカトラズへ。我々看守一同はあなたを歓迎するわ」

 

 所長室――。

 

 机に座ってこちらを見上げている女性は三神晶子。

 

 白い雪の様なキメ細かな肌に真っ赤なルージュは対照的でアーモンド型のパッチリ二重の眼差しは同姓でも見つめられると身体が熱くなる様な鋭さとかっこよさがあった。

 

 滲み出るカリスマとも言うのか、彼女の声はとても耳に心地よい。

 

「はい。ご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い致します」

 

「フフ、東大卒なんて優秀なのね。それに奴隷科首席なんて、将来有望だわ」

 

「ここに勤めたくて必死でしたから」

 

「まぁ、ここは最高の職場だから当然よね。女性の働きたい職場の常に一位だから」

 

 採用された今年で二十歳になる皆美は晶子に見つめられ、若干顔を赤らめて頭を下げる。

 

 黒い看守服の晶子に対し、皆美はカジュアルスーツだった。

 

 タイトスカートにベージュのパンストと黒のパンプスとどこにでもいる就活生、新人社会人の姿だ。

 

 ただ、逆にボンテージや看守服、白衣などが多いここでは初々しくて新鮮なのだが。

 

「うぐぅ……」

 

 所長室にいるのは二人だけだった。

 

 人間は――。

 

 だが、呻き声をあげたのは当然、晶子でも皆美でもない。

 

「…………」

 

 その声が不幸にも聞こえてしまった。

 

 晶子は皆美の採用書類から顔をあげると壁に視線を向けた。

 

 所長室は豪華な造りだが所々にその部屋に似つかわない物がある。

 

 鎖やフックなどがカベや天井などに埋め込まれたいるのだ。

 

 しかも、扉の側には一匹の奴隷が土下座している。

 

 奴隷はその一匹ではなかった。部屋の壁際には両手首に着けられた手枷の鎖をフックに引っ掛けられて吊られている牡奴隷がオブジェの様にいたのだ。

 

「なにか雑音がしたわね。古川さん、少し待ってね」

 

 晶子はおもむろに椅子から立ち上がると、ツカツカとオブジェまで近づいた。

 

「おい、クズ。お前、今何か音をたてなかったかしら? 私の許可なく鳴いたの?」

 

 髪を掴み、無理やり上を向かせた晶子に奴隷は恐怖の色を浮かべたまま、小さな声を絞り上げて呟く。

 

「申しわけ……ございませんでした……どう……か……どう……かお……許し下……さいませ……お許し……下さいませ……お許し……下さいま……せ」

 

 壊れた様に謝罪を繰り返す奴隷に対し、晶子はゴミを見るような冷たい表情のまま側にあったヘラの様なゴム製のラケットを握り、

 

 バチィィィィン!

 

 乾いた炸裂音が部屋に響き渡る。


「ぎゃぃぃぃ!」

 

 彼の叫び声が部屋中に響くが、晶子も 皆美も当たり前のような表情をしていた。

 

 この島の頂点にいる晶子は勿論、皆美の世代は男は罰を受けるのが当たり前で悲鳴など聞いても罪悪感など欠片も感じないほどに男への差別意識が強いのだ。

 

「ふんっ! 今は忙しいからこれで済ましてあげるけど、次はもっとひどい罰を与えるからね」

 

 晶子はゴミを見る様な冷たい表情でオブジェである牡奴隷へ告げると笑顔に浮かべ机へ戻り、皆美へ視線を向けた。

 

 勿論、椅子も牡奴隷だ。

 

 四つん這いで這いつくばる奴隷は顔にマスクを被され、口も塞がれ、ただ彼女を支えるモノと化していた。

 

「では改めて歓迎するわ。古川皆美さん。ようこそ、女性の楽園へ。今日は書類に印鑑を貰うだけで施設の見学に向かって下さい。これは地図と牡奴隷の引き渡しの書類よ」

 

「引き渡しの牡奴隷ですか?」

 

「えぇ、あなたも知ってると思うけどここでは牡奴隷を飼育し、島外の学校や女性への個人販売もしているの」

 

 勿論、皆美も知っている。

 

 学校には牡奴隷がいたし、率先して苛めていた。

 

 授業で牡奴隷がどれほど下等な存在か習っていたし、痛めつける授業もあるのだから。

 

 個人への販売は高額商品だがかなり需要がある。

 

 それこそ労働力から性奴隷からストレス発散の玩具や玩具。製薬会社なら人体実験など非人道な扱いまで用途はとても広い。

 

 勿論、牡奴隷ならどんな扱いも許されるので非難もあがらない。

 

 むしろ、その犠牲によって人類は飛躍的な進歩を遂げたのだ。

 

「あなたはそんな商品になる牡奴隷の育成のため、一匹私物となる奴隷が配備されるの。いわば練習台ね。公務員である私達の特権の1つよ」

 

 いきなり売り物の牡奴隷を育てるのは難しいため、その練習用として一匹奴隷が与えられるのだ。

 

 勿論、無料。

 

 しかも、潰れたら交換もしてくれる便利な備品らしい。

 

 それを従順に育てれれば育成科、壊してしまう場合は処刑科へコースが振り分けられる。

 

 育成科は牡奴隷を社会へ販売するために育てるコースで、処刑科は返品されたり、使い物にならない牡奴隷を文字通り処刑――もとい処分するコースであり、拷問器具や牡奴隷へ投与する薬の開発なども行っていた。

 

「皆美さんは――育成科の希望だから牡奴隷の飼育はしっかりと見ておくといいわよ。あと、商品は若い奴隷から中年くらいまでを扱っているので、私物となる牡奴隷もその年代層から選んでちょうだい」

 

「わかりました。失礼いたします」

 

 晶子の笑顔に見送られながら一礼して皆美は所長室を後にした。

 

 地図に記載されている奴隷登録所へ向かうべく足を進める。

 

 その足取りはどんな奴隷がいるのかわくわくして若干弾んでしまうのだった。

 

 

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