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前編

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 ……薄っすらと目を開くと、見慣れた謁見の間の風景が広がっていた。うたた寝でもしてしまったのか、頭がぼんやりとして考えがまとまらない。

 レオは玉座に着いたまま、眠気を覚ますように小さく首を振り、周囲を見回す。甲冑を纏う近衛兵たちが凛とした佇まいで並び、臣下たちが玉座を囲むように立っている。

 見慣れたはずの景色に、なぜだか胸を締め付けられるほどの懐かしさを抱かせられながら、レオは無意識のうちにその風景へと手を伸ばし、立ち上がろうとしていた。

「ぬぅ……?」

 しかし、立ち上がることができない。腰掛ける玉座から生温く柔らかい肉の感触が広がり、見下ろせばおぞましい不定形の肉塊へと変じながら、レオの体へと絡みついていた。

 玉座を中心に、景色が歪んでゆく。床が、壁が、人々が、腐り果てた肉塊へと変わり果て、気がつけば悪夢の如き肉の牢獄の中に、レオは一人取り残されていた。

「あ、あぁ……ッ」

 玉座から形を変えた脈動する肉塊に、ゆっくりと体を呑み込まれてゆく。身動きすらもできない。生きたまま大蛇に飲まれてゆくかのように、柔らかく生温かい感触に体が体を包む――。

「う、うぅ……」

 ――肉床の上に横たえた体を緩慢に揺さぶられながら、レオは弱々しい呻き声を漏らした。

 ぬるりと粘液を帯びた小さな手がひたひたと体の上を這い、悪夢よりも悍ましい現実へとレオの意識を覚醒させる。

「――ッッ、え゛ぇ……ッ」

 目覚めとともに感じたものは、こらえきれぬ吐き気だった。無様に声を上げて胃液を吐きこぼしながら、レオは膨れ上がった腹を揺らして身を捩る。

(また、大きくなっている……)

 膨れ上がった腹の内に宿る忌まわしい脈動が、あり得ざる事実を絶えずレオに突きつけていた。

 体を包む倦怠感は日に日に増し、朦朧とした意識の中で夢とも現ともつかぬまま時間ばかりが過ぎていくの中で、それは着実に育ってゆく。

 形よく割れていた腹筋は臨月の膨らみによって歪み、その中央に浮かぶ臍は内側からの圧力に負けて丸く盛り上がっている。

 逞しい胸板も今や柔らかな膨らみを帯びて張り詰め、肥大した乳首から乳白色の液体が滴って止まらなかった。

 目覚めのたび、祈るように胸の内で繰り返す否定の言葉も、否応なく訪れる母体としての変化を前にしては気休めにもならない。

『――ッ、――ッ』

「……っ」

 目前に迫るその日の気配に慄き、虚勢すらも失いぐったりと横たわるレオへと、苛立ちを帯びた唸り声が向けられる。

 かつてならば歯牙にもかけなかったであろうその嘶きを前に、レオは怯えるように息を呑み背筋を震わせた。

「ど、どうか、お待ちを……」

 狼狽し震える声で、伝わっているかも分からぬ言葉を可能な限り丁寧に絞り出す。

 全身が鉛のように重く、今では横たえた体を起こす程度の動きにも時間を要した。

 握力を失った手のひらを丸めることも広げる事もできぬまま投げ出し、肘と膝で体を支えて四つん這いとなりながら、ゆっくりと顔を上げてゆく。

 その緩慢な所作を急かすように、触手の如くうねる舌が頬へと寄せられる。

「ん、んん……ッ」

 口を開き、牙の一本も残らぬ口腔へとその舌を招き入れながら、レオはぎこちない上目遣いでそれを見上げた。

 大口をいやらしく歪めた無貌の蛙。腐肉色の粘膜に包まれた醜悪な生き物。……その子種が、今やレオの腹に宿っている。

 顎に収まらぬほどに太く長く作り変えられた自らの舌を懸命に動かし、彼らの好む濃厚な口付けを行いながら、獅子の瞳に浮かぶ涙が頬を伝った。

『――ッ、――ッ』

「ん゛んッ、じゅ、ちゅ……っ」

 それは溢れ出す唾液を糸引かせ舌を動かしながら、獣のように四つん這いとなったレオを嘲るように嘶いた。

 丸く歪んだ背筋をわずかばかりに伸ばして、痩せこけた矮躯を誇るように胸を張って、己が持ち、しかしレオが失ったものを比べながら大口を歪める。

 細長くひ弱な指がレオの湿った鬣を撫で、頬をなぞり、今や閉じる事もできぬ顎へと挿し込まれた。

「――っ」

 牙も無く、柔らかく腫れた歯茎だけの残る口腔を掻き混ぜられながら、レオはかすれた吐息を漏らす。

 膣肉同然の性感帯となったそこを、責め立てられながら、レオは目を細め、異形の無貌を見上げ続ける。

 くつくつと喉を鳴らすような嘲笑が、異形の大口からこぼれ落ちていた。

「ん、ふぅ、ぅ……っ」

 絡め取られた舌を淡く引っ張られる。それは矮躯とは不釣り合いに大きな玉袋を揺らしながら床の上に腰を下ろし、そこへと覆い被さるようにレオを促していた。

 だらしなく垂れ下がり分厚い包皮に覆われた肉棒が、目の前で膨れ上がってゆく。

 肉棒が体積を増してにつれゆっくりとめくれ上がってゆく包皮の奥からついに亀頭が顔を出すが、それは爛れたかさぶたを思わせる表皮の異常を患い、左右非対称に歪んでいた。

 不格好に歪んだカリ首には恥垢が溜まり、包皮の中で熟成された雄臭がレオの鼻をつく。

『――ッ、――ッ』

 未だ拭いされぬ葛藤に動きを止めるレオへと、急かすように唸り声が向けられた。

「ぁ……っ」

 レオは背筋を伝う怯えを隠すこともできずに小さく声を漏らしながら、孕み腹を揺らし促されるままに這い進む。

「の、望むままに、尽くしましょうぞ……ッ」

 震える声で言葉を紡ぎながら、込み上げる屈辱と怒りに蓋をして、媚びるような作り笑いを浮かべて見せる。

 ずしんと重たいものが臓腑に蟠っていた。頭の奥には痺れるような感覚が広がっていた。

 ……抗えと、胸の奥底から声がする。全てを奪われた末に、唯一残ったものまでも明け渡してしまうのかと、魂が叫んでいる。

「嗚呼……」

 レオはその全てから目を背けながら、醜悪な肉の杭に頬を寄せ甘い声を漏らす。

「なんと、逞しい……」

 ひたすらに嬲られ貪られる日々の中、抗うたびに、拒絶するたびに、レオはその代償を取り立てられてきた。

 肘膝より先の手足は、今や自らの意思で動かすこともできぬ肉の塊と化し、残った四肢からもかつての膂力は失われている。

 ――ああ、もしも。

「どちらの穴も、早く味わいたいと卑しく疼いております……っ」

 ――もっと早く折れてしまえていたなら。

 かつてレオは、獣のごとく地を這うことしかできなくなってもなお、疲労困憊した身を捩り弛緩した四肢を力なく振るい、彼らの雌になることを拒み続けた。

 どれだけ貪られようが未だ屈してはいないと、なぜそれほどまでに意地を張っていたのか、今となっては自らにも理解できぬほど懸命に。

「で、ですが、まずは口で……、ん、じゅる、ちゅ……っ」

 しかし、異形たちの子種を宿した腹が目に見えて膨らみを帯び始めた頃、レオは識る。

 どれほどの逆境であろうとも、どれだけ困難な道程であっても、屈すること無く歩み続けられたのは、か細くとも確かな希望を胸に抱いていたからだったと。

 抗えと、立ち向かえと、胸の奥から湧き上がる叫びも、いつしかレオを奮い立たせてはくれなくなっていた。

 誇りにかけて誓った使命を成すための力はもはやなく、ただ一人の男として生きるだけの力すらも、とうに奪われた。

 凶悪な肉棒を突き立てられ、屈辱の中で絶頂を味わうたび、かつては知りもしなかった甘い悦びが胸の奥に根付いてゆく。

 己の深い場所にあって力を与えてくれていたもの、絶望の中でも折れずに抗い続ける不屈の意志を支えていたものが、失われてゆく。

 

 ――もう抵抗などしないから、早く済ませてくれ。

 やがてレオは、そう願いながら自ら体を開き異形たちを受け入れていた。 

 分厚く腫れ上がり縦に割れた肛門も、酷使によって淫らに形を崩してゆく雌穴も、性器の一つへと作り変えられた口も、今や穴という穴が彼ら一匹一匹のペニスの形までをも覚えさせられており、腹の中に宿った忌まわしい鼓動は日に日に成長を続けている。

 未だ胸のどこかで騒ぐ雑音などよりも、身じろぎ一つすらも億劫になるほどの虚脱感の方が遥かに大きくなっていた。

 自分がどれだけ弱く惨めな生き物へと落ちぶれてしまったのか、それを繰り返し思い知らされてまで抗い続けることに、もはや意味を見出すことができない。

「じゅぽっ、んんっ、じゅるぅ……ッ」

 そして今、レオは引きつった作り笑いで雄へと媚びながら、必死に肉棒をしゃぶりあげていた。

 長く肥大した舌を竿へと巻きつけ、カリ首に溜まる恥垢を拭い、溢れて止まらぬ先走りを嚥下する。

 従順に、心底から屈服した好色な雌を演じて、首を上下に動かし続ける。

『――ッ、――ッ』

 それは満足げに嘶いていた。細く脆く、しかし今のレオを御するには十分な力を持った手が、湿った鬣の上に乗せられた。

 己が雌を魅了し尽くされる存在であると、そう勝ち誇るような笑いが頭上に響く。

(黙れ……)

 喉元まで込み上げる怒りを、不条理への憤りを、しかしレオは飲み込むしかなかった。

 反射的に頭に浮かんだ悪態を口に出す事もできず、胸の内で弱々しく呟く事しかできぬ情けなさに、気づけば再び涙が頬を伝う。

 いつの間にか、女々しく啜り泣いてしまう事が増えた。魂までもが脆く、弱く、彼らの求める御しやすい雌のそれへと成り果てつつあるのだろう。

 ……それだけはならぬと、どれほどに貶められようと失ってはならぬ矜持があると、往生際の悪い考えが心の奥底から湧き上がるが、だからこそまた別の相反する想いを抱かずには居られない。

「ん゛ッ、――ッ」

 まともに動かすことも難しくなった両腕で不気味な弾力を帯びた腰を抱きすくめるようにしながら、喉奥の深くへと肉棒を招き入れる。

 うねる舌を挿し込まれ食道を愛撫されるような口付けを繰り返されるうちに、いつしか彼らの剛直を根本まで咥えることも可能になっていた。

 醜く歪んだ肉棒の形に喉元を膨らませながら、レオは非力な両腕で自らの夫たる雄を抱きしめ続ける。

 絶望に屈し、心折れ、諦めてしまいながら、なお胸の奥底で燻り続けるものを、早く忘れてしまいたかった。

 身も心も、彼らが求め、自らが演じる都合の良い雌へと成り果ててしまいたい。

 それが終わりのない苦しみと葛藤から開放される、唯一の方法に思えてならなかった。

(頭が……割れそうだ……)

 この肉の迷宮に充満した狂気に染められたかのように、感情も、思考も、コントロールできなくなってゆく。

 絶えずせめぎ合う葛藤に苦しみながら、しかし今のレオが暴れだす激情に任せて傷つけられるものは、自身のみ。

 ……だからレオは、胸の底に沈めた怒りを、憤りを、そこへ向けるしかなかった。

 未だ屈してなどいないと、意味もない自己満足を得るために彼らに抗い続けてかつての己を。

 この地獄へと堕ちる末路へと、自らを導いた、かつての己自身を。

『――ッ、――ッ』

 異形が掠れた声で嘶く。そそり勃つ剛直がビクビクと震え、片方のみでも握りこぶし程はあろう玉袋が、きゅうっと縮み上がってゆくのが見えた。

 ――ごぽぉおおおおおおおっ

 レオは、狂気に染められた金色の瞳を爛々と光らせながら、喉奥で精液を受け止める。

 肉棒の形に膨れ上がった喉を震わせながら、濃厚な生命の源を飲み干してゆく。

「ん゛ッ、んん゛……ッ」

 ゆっくりと、ゆっくりと、にちゃあと水音を響かせながら、肉棒に浮き出た太い血管の一つ一つまでを長く肥大した舌先で丹念に舐め上げながら顔を上げてゆく。

 ゼリーのように濃厚な精液を最後の一滴までも嚥下しようと、鼻を啜るような汚い音を立てて吸い上げる。

「――ま゛、まんぞぐ、いだだけましだか……ッ」

 喉奥から立ち昇る噎せ返るような精臭に耐え、一滴とて吐きこぼすまいと堪えながら、レオは大きく顎を開いて白濁液に塗れた口腔を見せつける。

 獅子の顔に刻まれた媚びへつらいの笑みが作り笑いであるのか、それとも心底からのものであるのか、もはや分からなかった。

『――ッ、――ッ』

 それが僅かに上気した鳴き声を発し、腰へと抱きついたままのレオの体を起こすように、ゆっくりと立ち上がってゆく。

「き、今日は、どのような体位をお望みでしょうか……? の、望むままに応えましょうぞ……っ」

 粘液を纏う体から滑り落ちぬよう苦心しながら、レオは大口から舌を垂らす異形の顔を見上げ、未だ胸の内に蟠る葛藤に震えるぎこちない言葉を絞り出した。

 異形は思案するようにレオを見下ろしながら、やがてその細腕を緩慢に持ち上げ、レオの額へと置いた。

「は……?」

 浅く力が込められる。それだけでレオの体はぐらりと傾いた。今や形を残すだけの肉塊も同然に貶められた両腕による抱擁はぬるりと解け、動かなくなった指先が空を切る。

 肉床に背を打ち付け、仰向けにひっくり返った体の上で臨月の孕み腹が毬のように揺れた。

 臓腑を揺さぶられる衝撃にレオは目を見開き、そして数瞬の間を置いて悶絶する。

「――ッ、あ゛ッ、ひっ、いがああああああッ!?」

 レオの体はもう、自身一人の所有物ではなくなっていた。

 ゆりかごへと与えられた衝撃へと抗議するかのように、膨らんだ腹の中で忌み子が暴れだす。

 胎盤を内側から引っ掻き回されるような痛みに身悶えし、毒々しく花開いた女性器が震えて黄色い液体が漏れ滴った。

「あ゛ッ、も゛っ、も゛うじわげッ、も゛う゛じわげっ、あり゛まぜ……ッ」

 レオは目を見開き、長く肥大した舌を振り回すように頭を揺すりながら、息も絶え絶えに叫ぶ。

 未だ産まれ落ちてすらも居ない我が子へと、父親たちへ向けるのと同じへりくだった言葉遣いで、懇願していた。

 どのような姿で産まれるかも分からぬそれは、確かに父親たちの血を宿している。

 レオを、母を、この肉の迷宮でただ一匹の雌を、支配しようと望んでいた。

(――産みたくない)

 腰を浮かせて痙攣しながら、レオは今一度願わずには居られなかった。

(産まれないで、くれ……)

 己を貪り搾取する怪物を、自ら産み落とし増やさねばならぬなど、耐え難い悪夢だった。レオは見開いた目に涙を浮かべながら戦慄する。

 膨れ上がった腹から伝わる力強い脈動が、かつてなく恐怖を掻き立てた。

『――ッ、――ッ』

「――っ!」

 それでも、絶望の底で震えるレオを気遣う者など、ここにはいない。

 言葉もなく放心するレオの様子など意に介すこともなく、異形は自らの欲望を満たす事だけを考えレオへと手を伸ばす。

 力なく開いた股ぐらで赤紫の粘膜を晒すそれは、形作られた直後の初々しく整った形をとうに失い、惨たらしく捲れ上がった醜い姿となり、雄の名残である肥大した陰核は、抓られ、舐られ、異形たちの思いつく限りの方法で弄ばれた末に、今や腐り落ちた果実のごとく萎びて割れ目の上に垂れ下がっていた。

 未だ失禁を止められず、ちょろちょろと黄色い液体を滴らせ湯気を纏うそこへと、大半をかさぶたに覆われた亀頭を押し付けられる。

 爛れた入り口に雄の蹂躙を拒む力は欠片も残らず、くちゅりと音を立てながら挿入された先端が、絶え間ない酷使によって腫れ上がった淫肉のせめぎ合う雄膣を、みちみちと割り開いてゆく。

「お゛ぉ――ッ、ひぃんッ!?」

 甘い刺激が背筋を伝う。この淫獄に堕ちなければ、生涯味わうことなどなかっただろう極上の快感が、疲労困憊した脳髄へと流し込まれ、思考を寸断される。

 その快楽に抗う必要など、もうなかった。ただ悶え、淫れ、売女のように甘い喘ぎ声を上げ、雄に支配される悦びの中で絶頂すればいい。

 それが、未だに胸の奥に燻るものへの、在りし日の栄光を捨てされぬ己への、もはや行き場もなくなった郷愁への、攻撃だった。

 しかし――。

「お゛っ、お待ちを……っ!」

 レオは掠れた声で叫び、身を捩り、今まさに雄膣を深く貫こうとする肉棒から逃げる。

 半ばまで挿入されていた肉棒は、亀頭に隆起したかさぶたで膣肉を擦り上げながらあらぬ方向へと跳ね上がり、ちゅぽんと音を立てて愛液の飛沫を飛ばした。

「ひッ、ひぃぃ……、ぁ……ッ」

 レオは浮かせた腰をどしりと落とし、快感の余韻に肩を震わせながら裏返った声を漏らす。

『――ッ、――ッ』

 レオが久しぶりに見せた抵抗に、異形は苛立ちを隠さぬ鋭い吠え声を上げた。

 歪に折れ曲がり血管の浮き出た剛直が、だらしなく口を開き腫れ上がった小陰唇をだぶつかせる割れ目へと乗せられる。

 レオは息を呑み、恐怖に瞳を揺らしながら口を開いた。

「こ、このように、腹の子も育っております……!」

 言葉を重ねることに意味があるのかすらも分からぬまま、レオは必死に舌を動かし、不具となった両腕をぎこちなく動かして腹をさすってみせる。

 そこで微睡む我が子の機嫌を損ねればどうなるか、今しがた思い知らされたばかりだった。

 ようやく落ち着いた直後だと言うのに、あの剛直でゆりかごを揺らされればまた暴れだしかねない。

 ……もう苦しみたくなかった。己が己であることすら手放してまで、望まれた通りの従順な雌であること受け入れようとしているのに、それでもなお苦しみ続けねばならぬなど、耐えられなかった。 

「……そんなにも逞しい雄竿で小突かれては、御子にも障りがあ゛――ッッ」

 しかし、その願いを汲む者などいない。この淫獄の中で、レオはただ一人の獲物であり、貪られるだけの存在だった。

 異形の細い指が、萎れた植物のように傷み垂れ下がる陰核を抓り、爪を立てる。

 傷みとも快楽ともつかず、しかし脳を焼き焦がすかと思うほどの衝撃に、弁明の言葉は半ばに途切れた。

「あ゛ッ、ひっぎっ、いいぃぃあああっ!?」

 レオは白目を剥いて叫びながら、今もかつてと変わらぬ逞しい見た目を保ちつつも抗う力を奪い取られた太ももを必死に持ち上げ、異形の細腕を緩く挟む。

 雄の蹂躙を拒む術のない使い古された割れ目を覆い隠し、代わりに分厚く腫れ上がり縦に割れた肛門を見せつける。

「じりっ、しり゛に゛ッ、ぐだざい゛ッッ!」

 陰核を乱暴に捏ね繰り回される刺激に悶絶し、掠れた声で叫ぶ。

 絶え間なく酷使された女性器に比べれば、まだ幾ばくの締め付けを残すそこを物欲しげに収縮させ、いやらしく腰をくねらせ、懇願した。

「じりにっ、こだねっ、しり゛ぃ……ッ!」

 とぎれとぎれの悶え声でどれほどに訴えかけても、責め苦は緩まない。

 精一杯の力で閉じた股の間へともう片方の手が挿し込まれ、ゆっくりと股ぐらを割り開かれてゆく。

 脆く、細く、童ほどの膂力も持たぬ細い腕が、レオを力づくで屈服させてゆく。

 この肉の迷宮に潜むどんな魔物にも劣る彼らにすら、今のレオは敵わない。

 その事実を今一度教え込むように異形はレオを押さえつけ、濁った愛液を零す割れ目へと肉棒を押し当てた。

「どうか……、どうか――」

 レオはか細い声を漏らしながら、獅子の顔を絶望に染めて啜り泣く。

 無残に処女を散らされた生娘のように震え、萎縮し、涙を零し続ける。

『――ッ、――ッ』

 心底からの屈服を示すその姿を見下ろし、異形が満足気に嘶いた。

 何百回、何千回、これを繰り返しただろう。レオにはもう分からなかったが、一度として別の結末が訪れた事などなかった。

「あっ、あぁ、あ……ッ」

 焦らすようにゆっくりと、腫れ上がった膣肉を剛直で掻き分け、貫かれてゆく。

 己がもはや雄ではないという事実を、ただ貪られるのみの獲物であるという事実を、深く刻まれてゆく。

 ……もう二度と抗いません。どんなに苦しかろうが、怖かろうが、黙って体を差し出します。

 そして早く、こんな惨めさなど分からなくなるくらいに、壊れてしまいたかった。

「あ゛ッ、ひっ、、イ゛ぃんッ……!」

 膣肉をねちっこく掻き混ぜるような、ゆるいピストンが始まる。

 雄竿に浮かぶイボや歪みが、淫肉を捏ねては引っ掻き回し、腰が砕けるほどの快感に喘ぎ声を止められなかった。

 絶望の後に与えられる甘いご褒美が、摩耗した精神へと深く染みてゆく。

 徐々にペースを上げてゆくピストンに合わせて、気づけばレオは自ら腰を動かし始めていた。

「ひっ、あっ、あぁッ、あ゛ぁ~~っ!」

 絶望に染まっていた獅子の顔が、だらしなく緩んでゆく。口角が自然と釣り上がり、牙を失った口腔が露出する。

 まともに動かすこともできなくなった脚をゆっくりと持ち上げ、曲がったまま固定された膝を細くぬるりとした異形の腰に引っ掛ける。

 あれほど拒絶し続けたのに、醜悪で悍ましい怪物を、受け入れてもいいような気がしてしまう。

 ああ、こんなにも気持ちいいのだから。

「はっ、あぁ、ん……ッ、はぁ……ッ」

 呆けた笑みを浮かべながら、レオは緩慢に腕を持ち上げ、母乳で張り詰めた胸元へと異形を誘うような仕草をしてみせる。

 淫獄に閉じ込められ、終わりのない陵辱の中で、遅々としながらもレオは変わり始めていた。

 レオの内に植え付けられた雌としての本能が、その魂に根を張り混ざり合ってゆく。

『――ッ、――ッ』

 快楽に魅了された雌の誘いに応え、異形は膨れ上がったレオの腹へと乗り上げるように覆いかぶさった。

「ひっ、深っ、いぃ……ッ!」

 太く固く、凶悪な肉棒がレオのより深い場所を射抜く。子宮口をノックするように小突き上げられ、矮躯ながら体全体を使うようなピストンに臨月の腹を揺さぶられる。

 ……気持ちいい。いつも交尾が始まってしまえば、さっきまでの自分が何を恐れていたかなど分からなくなってしまう。

 長く延した舌を絡め合いながら、レオはより一層に深く快楽に酔いしれてゆく。

 そして――。

「お゛ッ、ぎいいっ、あぁあああッッッ!?」

 玄関先を乱暴にノックされゆりかごを揺さぶられるに任せる母へと、それは苛立ちを叩きつける。

「や゛ッ、やっめ゛ぇっ、ひっ、いぎぃぃぃいっ!」

 傷みと快楽が混沌と掻き混ぜられ、疲れ切った脳髄を焦がすほどの奔流になっていた。

 気を失うかと思うほどの刺激に視界が薄らぎ、光が明滅する。

 体が引きつったように痙攣して、異形を抱きすくめる手足を動かす事もできなかった。

『――ッ、――ッ』

 かつてなく強烈に肉棒を締め上げ、痙攣する膣肉の動きに責め立てられ、異形が掠れた嘶きを漏らしながら、レオへと向けられるピストンの激しさが増してゆく。

 それは膨れ上がった腹に身ごもるそれも同様で、どれほど苛立ちを訴えても言うことを聞く気配を見せぬ母への怒りに、狂乱を見せていた。

 それはもう、快楽でも苦痛でもなく、思考さえ押し流す衝撃だった。

 レオは白目を剥き、悲鳴を上げながら気を失っては叩き起こされてを繰り返す。

 そして、ついにその瞬間が訪れた。

「あ゛ッ、ひゃめっ、あっ、あ゛ぁッッッ――」

 深く突き立てられた肉棒が、ついに子宮口を貫く。痙攣を繰り返す割れ目から、ぷしゅうと暖かな液体が溢れだし、湯気が立ち昇った。

『――ッ、――ッ』

 ――ごぽおおおおっ!

 異形が吠えるように唸りながら絶頂へと達する。羊水と精液、そして血の混じり合った液体がとめどなく溢れ、肉床の上に広がってゆく。

「あ゛ッ、あぁ――ッ」

 産まれる。悶え声を上げて全身を強張らせながら、レオはその確信に震え上がる。

 どれほどに醜い怪物が産まれ落ちるのか、考えることすら忌まわしかった。

 やめてくれ。産まれないでくれ。少しでも母を思うなら、産まれないでくれ。

 朦朧とした意識の中で、レオはそう願い続け今まさに産まれようともがき、産道へと向かう赤子の動きに逆らうように、あらん限りの力で膣を締め上げ抵抗した。

「ひっ……!」

 深く挿し込まれていた肉棒が、溢れ出す羊水の水圧によって押し出され抜き放たれる。

 赤子は力強くもがき、産道を割り開きながら出口を目指す。その力強さに、レオの抵抗は意味をなさなかった。

「あ……」

 そして、分厚く緩んだ割れ目を限界まで拡げながら、ついにそれの頭が覗く。

 醜い異形の生き物たちと、母であるレオの遺伝子を宿した忌み子。

 出来損ないの胎児と魚を混ぜ合わせたかのようなそれは、身を捩り、指の数も長さも不揃いな腕を緩慢に動かし、産まれ落ちようともがいでいた。

 ……産まれるべきではない。産まれてはならない。今すぐにでもそれを絞め殺してしまいたかった。そうできないという事実が、耐え難くレオを苛んだ。

「こ、ころして、それを、ころし……ッ」

 気づけばレオは、父親たる異形へと向けそう懇願していた。

「あ……」

 その言葉を聞き入れたのか、他に理由があるのか、半ばまで姿を表したそれへと手をのばす。

「――ッ、ぎぃい……ッ!?」

 そして、穴を塞ぐ邪魔者を無造作に引っ張り出し、へその緒を垂らす割れ目へと、再び己の肉棒をあてがった。

 赤子を産み落とし拡がりきった雄膣へと、剛直が挿し込まれてゆく。

 血液と、羊水と、精液と、愛液と、あらゆる体液が混ざりあったものに塗れ震える膣肉を、異形の肉棒が擦り上げる。

「あ……、あ゛あ゛あ゛あ゛ぁっ!」

 怒り、失望、困惑、悲嘆、あらゆる感情が迸り、獅子の顔を引きつらせながら、レオは金切り声を上げていた。

 ……捨て置かれたそれが、肉床の上をゆっくりと這いずってゆく。

 底無しの性欲に駆られピストンを続ける父の足元を抜け、なすがままにそれを受け止め揺れる母の体へと這い上がる。

 血を分けた母子の証であるへその緒を引きずりながら、それはついに母の胸元へと辿り着いた。

「……、……」

 それをはたき落とすことすら、レオにはもうできなかった。

 顎もなく、吸盤のように丸い口が、母乳を滴らせるレオの乳首へと吸い付く。

 奇形じみた口の中には人のそれと変わらぬ形の歯がすでに生え揃い、レオの胸元へと食い込んでゆく。

 ちうちうと、母乳を吸い上げるか細い音が、レオの耳にも確かに届いていた。

続く

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