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<概要>

 竜族の見習い巫女のステラです。

 名前の由来は、タロットカードとなっています。

 そして、衣装を描くのがとても大変です💀

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<本編:人形化>

 湿った石の匂いと菌の生臭さが鼻腔を苛む。深い霧の森の奥、忘れられた地下水路の上層部。ステラは、昨日、仲間たちに放った言葉を反芻していた。


「竜族を侮らないで!上層の魔物討伐なんて、一人ででもやれるわ!」


 己の誇りを糧に、独りでダンジョン深くへと足を踏み入れた。その強気な態度の裏で、胸の奥では何かがちくちくと疼いていた。仲間を切り捨てた罪悪感か、それとも単なる不安か。判断を急がせるような焦燥感に、頬の紅が増す。


 「……誰の助けもいらない。わたしは誇り高き竜族の巫女見習い、ステラなのだから」


 小さく呟いては、足早に石畳を進む。そんな彼女の視界の隅に、倒れている人影が映り込んだ。


「――っ!?」


 血の気の引いた顔をした冒険者。かすかに腹部が上下している。ステラは躊躇なく駆け寄った。ステラは、竜族であるが困った人を放っておけない優しさも併せ持つのだ。


「大丈夫? どこを負傷したの⁉」


 彼女が手を伸ばしたその瞬間。


 シュルルルルッ……ッ。


 床から天井へと張られた見えない糸が、ステラの足首に深く食い込んだ。バランスを崩す。気づけば、全身が粘つくような、蜘蛛の糸に絡め取られていた。


「なっ……この糸は……!?」


 マリオネットスパイダーの糸だ。ステラはすぐに気づいた。だが、もう遅かった。糸は絡みつくだけでなく、何かを注入しているような不気味な感覚。腕や胴体に張られた糸から、身を切るような痛みではなく、鈍いしびれと重みが体中に広がっていく。


 よく見れば、助けようとした冒険者は精工な人形だった。よくできた「疑似餌」。ステラの鼻先で、木くずと樹脂の匂いが立っていた。


「くっ……!ど、どうする…力が入らない…」


 必死に体をよじらせるが、糸は強靭。しかも、力を込めれば込めるほど、体の感覚が鈍くなっていく。まるで、自分の体ではなく、遠くで動く人形を操作しているような、そんな感覚。

 ステラは右手を動かそうと試みる。意識は「動かせ」と命令している。しかし、指先は微動だにしない。見ると、人差し指の第一関節が、奇妙な球体になっていた。滑らかな光沢を放つ、お人形の関節だ。


「これは…、そんな…、上層の魔物がこんな術を…」


ステラの声は震えていた。


 その球状の変化は、まるで波紋のように彼女の全身に広がっていく。足首、膝、腰。あっという間に、関節と見間違えるほどの、滑らかでつるつるとした球体に姿を変えていく。肌は生き物としての温もりを失い、樹脂のような冷たい質感へと変わっていく。淡い水色の髪の毛も、艶やかすぎる合成繊維に変わっていく。


「まさか、さっきの人形…は…」


 ステラはやっと気づく。

 あれは、かつてこのダンジョンで消息を絶った冒険者だったのかもしれない。


 変化は留まるところを知らなかった。彼女の豊満な胸、Gカップの柔らかな肉感も、人形師が作り上げたような完璧な球体へと変貌。腰のくびれは彫刻のように鋭角になり、四肢はすらりと引き締まった棒状のパーツへ。肌には均一な塗装が施され、光が当たると不自然なまでに反射する。


「動け…、動くのよ…!竜族の力を…!」


 内部から力を振り絞ろうとするが、それは空っぽの容器に響く虚しい響きだった。魔法を唱えようにも、声帯はもはや振動しない。視界は、まるをかいたように曇り、聴覚はまるで水底にいるかのようにこもる。

 最後に意識が残ったのは、自分の右手が、まるで誰かに引かれるように無理やり持ち上げられ、指先がぴたりと折れ曲がる感覚。そして、全身ががらんと空洞に感じられたことだった。


 その直後、ステラの意識は、この人形の中に閉じ込められた。


 見える。聞こえる。感じる。だが、一切動かせない。声も出せない。


――ああ、あの時、あんな強気なこと言わなければ…。

――みんなを、傷つけた…。

――ごめんなさい…、ごめんなさい…。


 心の中で謝罪の言葉を繰り返すしかない。意識だけのステラは、自身の人形化が完了したのを感じていた。金色の湾曲した角も、ただの樹脂の飾り。黄〜金色の瞳も、ただの塗装。

 すると、天井の闇から、巨大な影がゆっくりと降りてくる。マリオネットスパイダーだ。それは、自ら作り上げた新たな人形に対して満足げに鳴くと、糸を巧みに操り、ステラの身体をダンジョンの床にうつ伏せに置いた。


◇ ◇ ◇


 どれくらい時間が経ったのか、遠くから足音が聞こえた。

 

「ステラ! いるなら返事をしてくれ!」


 それは、昨日口論になった仲間、一人の騎士の声だった。彼は心配したのだろう、必死に自分を探している。ステラの心臓が、もはや存在しないはずの場所で、激しく痛んだ。


――行かないで! ここは罠よ! 逃げて!


 叫び声は、彼女の意識の中だけで反響する。

 マリオネットスパイダーは、仲間の声を聞きつけたのだろう、ゆっくりと糸を引く。すると、ステラの体は、まるで何もなかったかのように、ふわりと起き上がる。その動きはぎこちない。人形が操られるような、不気味な動きだった。


 ステラは、自身の体が動くのを恐怖で見ていた。右手が勝手に挙がり、仲間のいる方に向けてゆっくりと振られる。それは「こっちだ」という合図だ。


「!? そこにいるのは…ステラか?」


騎士の声が、喜びと安堵に満ちている。


――違う! これはわたしであってわたしじゃない!

――これは罠! 近づかないで!


 意識は叫び続ける。だが、その声は誰にも届かない。ステラの体は、仲間を誘い込むため、さらに見せかけの動きをする。わざとよろけたり、倒れそうになったり。これは、仲間を思う冒険者には最悪の仕打ちだった。


 騎士は疑うことなく、足を速める。

 その足音が、近づいてくる。一歩、また一歩と。


――ごめんなさい…、ごめんなさい…。


 ステラは、涙も流せない瞳で、仲間が自分の仕掛けた罠へと歩み寄っていくのを見ていた。彼女の意識は、後悔という名の蜘蛛の巣に、いっそう強く絡め取られていくのだった。


ー終わりー


挿絵:黒蜂

SS:腹心A

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<あとがき>

 どんな時でも、単独行動は危険です。

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Comments

柳

球体関節の操り人形にされて罠の疑似餌にされちゃうシチュエーション最高です...❤ 自分の身体が人形化していくことで、自分をおびき寄せた疑似餌が他の犠牲者の成れの果てだと気づくのも良いですね❤ とても素晴らしいです❤

kuro-bee

ありがとうございます。 当事者にとっては嫌なループに組み込まれてしまいましたが、こちら視点だと大変なご褒美だったりします。 Hehehe.