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番組のレポーターの仕事を終え、帰り支度を済ませた私は楽屋のドアに手をかけた。


あの『裸族への突撃取材』という体を張ったロケ以来、ありがたいことにレポーターの仕事が少しずつ舞い込むようになってきている。

どうやら私の体当たりな姿勢がウケているらしく、現場スタッフからの評判も上々だ。

あの時は死ぬほど恥ずかしかったけれど、結果的にやってよかったなと内心ホクホクしていた。


ちなみに、私のあの”恥ずかしいシーン”を撮ったスタッフの目星はついている。

だが、あまりにも駆け出しの下っ端すぎて今詰めても意味がないとの判断で泳がせている。

いずれ彼が出世した暁には、私に美味しい仕事のひとつでも振ってくれることだろう。

もし出世しても恩恵をもたらさないようなら、その時は容赦なく詰めるつもりだ。

とはいえ、わざわざ私にマスターテープを送ってきたのだから、彼なりに罪悪感はあるらしい。

きっと悪いようにはしないはずだ。


そんな打算的なことを考えながら、帰宅しようと楽屋のドアを開けた瞬間――そこには、満面の笑みを浮かべた見覚えのある男性が立っていた。


私は、無言でそっと扉を閉めた。


「ちょっとちょっと! 葵ちゃん、そりゃないんじゃないかな! 開けてよ!」


ドンドンと遠慮なく扉が叩かれる。

私は深いため息を一つ吐き出し、再びそっと扉を開けた。


「……なんなんですか? ここは女性専用の楽屋なんですから、男性は立ち入り禁止ですよ。」


そこに立っていたのは、私をあの裸族ロケへと引きずり込んだ張本人であるディレクターだった。

まあ、なんだかんだと途切れず仕事をくれるので、彼自身を嫌っているわけではない。

ただ、その”満面の笑み”からは嫌な予感しかしないのだ。


「もう葵ちゃんがこの楽屋のラストだってのは分かってるよ。この部屋、あと30分くらい使わせてもらえるように話つけてあるからさ。少し話そうよ。」


そう言うなり、彼はズカズカと遠慮なく楽屋に入ってきた。

片付けをしていたマネージャーも、急な訪問者に目を丸くしている。

本当に完全アポ無しで突撃してきたらしい。

この図太い行動力は、私も少しくらい見習うべきなのだろうか。


「お、吉田ちゃん久しぶり。いやあ、今日は暑いねー。俺は冷たいアイスコーヒーで良いからね。」


そう言いながら、彼はマネちゃんにお金を押し付けた。


「あ、はい! すぐに買ってきます。葵ちゃんもアイスコーヒーで良いかな?」

「……甘いやつでお願いします。」


……前言撤回。やっぱりこんな大人を見習ってはいけない。

結局、マネちゃんはパシリに出され、楽屋は私とディレクターの二人きりになってしまった。


「いやいや、最近葵ちゃん、テレビでよく見るようになったね。」

「おかげさまで。ありがとうございます。」

「でさ、そんな大活躍の葵ちゃんに、また俺の番組のレポーターとして同行してもらいたいんだよね。」


嫌な予感の正体はこれか。 ごく普通の仕事なら大歓迎なのだが、相手が相手だ。


「……また、裸族ですか?」


私は警戒心むき出しの声で尋ねた。


「そんな怖い顔しないでよ。今回はあんな秘境なんかじゃなくて、なんとヨーロッパだよ!」


『ヨーロッパ』という甘美な響きに、私の肩がピクリと反応した。

一度でいいから行ってみたいと憧れていたヨーロッパ。

そこに仕事で行けるなんて、控えめに言って最高じゃないか。


「現地のお祭りに参加してレポートしてもらうんだけど、前日と翌日は自由に観光していいからさ。」


なんとも魅力的すぎるオファーだ。

そのよく分からない祭りさえ頑張れば、ヨーロッパ観光がタダでできるなんて嬉しすぎる。

だが、あまりにも話が美味しすぎる。

絶対に何か裏があるはずだ……。


私が再びジト目で警戒を強めたのを察し、ディレクターはすかさず二の矢を放ってきた。


「葵ちゃん、何か希望はないかな? 行きたいところとか、見たいものがあれば観光コースに組み込んであげるよ。」


その悪魔の囁きに、ついつい私の長年の夢が口から漏れ出てしまった。


「本場の……オペラが、見たいです……」


私は……弱い……。


結局、戻ってきたマネちゃんを交えた打ち合わせで、なし崩し的にその仕事を受けることが決まってしまった。

肝心の「一体なんの祭りなのか」については何度聞いても「当日のお楽しみ!」の一点張りで教えてもらえなかった。


まぁ、さすがにヨーロッパだし、あんな秘境の時みたいな変な感じではないだろう。

……ない、よね?


あのディレクターの満面の笑みが脳裏に浮かぶたび、得体の知れない不安が私の胸を掻きむしっていた。

ーーー

あの秘境ロケの悪夢とは比べ物にならないほど快適なフライトで現地に到着した私は、初日からヨーロッパのエキゾチックな街並みを存分に満喫していた。


ちなみに、楽しみにしていた本場のオペラ鑑賞は「お祭りのロケが上手くいった時のご褒美」とのこと。

露骨な人質作戦だが、背に腹は代えられない。

絶対にロケを成功させて、なんとしてもオペラを観て帰るんだ。


そんな強い決意を胸に、その晩はベッドに潜り込んだ。


翌朝。空がまだ薄暗い早朝から、私は送迎車へと押し込まれた。


「葵ちゃんは目的地まで寝てていいからね。しっかり体力を温存しておいて。」


その言葉に一抹の不安を覚えつつも、お言葉に甘えてぐっすり寝かせてもらった。

ここまで来たらなるようにしかならない。


――次に目が覚めた時、車の外からは「ガヤガヤ」と大勢の賑やかな歓声が聞こえていた。


眠気眼のまま窓の外を覗き込むと、そこには祭りの熱気に包まれた大勢の人々が楽しそうに行き交っていた。


「……これがお祭りかぁ。」


ボソッと呟いて体を起こすと、私が目を覚ましたのに気づいたマネちゃんが、淹れたての温かいコーヒーを手渡してくれた。

ちょうど起こそうとしてくれていたらしい。


「これなんの祭りなんですかね。ずっと気になっているんだけど、だれも教えてくれないし。」


温かいコーヒーを一口啜りながら、改めて車の窓から周りの景色を見渡してみる。

視界の先には、どこまでも透き通った真っ青で美しい海が広がっていた。

そして何より異様なのは、行き交う人々がみんな水着姿だということだ。


(確かに『水着を持ってきて』とは言われていたけど……海辺どころか、街中を歩いている人まで全員水着なの?)


ヨーロッパの開放的な文化なのか、それともこの祭りの特性なのか。

少し不思議な違和感を覚えていると、車のドアがバタンと開き、ディレクターが楽しそうに顔を覗かせてきた。


「お、葵ちゃん目が覚めたか。せっかくだしみんなで水着に着替えて少し街を歩こうか。」


ディレクターが楽しそうに話しかけてきた。

まぁ、外は暑そうだしみんな水着だし、そう言ったこともありか。


「あ、でももちろん、歩いてる様子はカメラで撮影させてもらうからね?」


でしょうね。

昨日の観光も結構カメラ回していたしね。


「……着替えは撮らないでくださいよ?」

ーーー

ビキニにショートパンツという、健康的ながら露出度の高い格好で街を歩くことになった。


……そして、ここで予期せぬ問題が発生した。

着替えを終えたマネちゃんが、あろうことか私を遥かに上回る見事なプロポーションの持ち主だったのだ。

なぜか水着に着替えただけなのに、私は敗北感で打ちのめされそうになっていた。


「僕は葵ちゃんの方がいいと思いますよ!」


スタッフの一人が、フォローを入れてくれた。


「……ありがとうございます。」


思わずやけ食いでもしてやろうかと思ったが、これから水着姿でカメラに撮られるのにお腹が出るのは非情にマズい。

結局、私は心の中でマネちゃんの豊満なおっぱいにひたすら呪詛を送り続けることしかできなかった。


そんな私のドロドロした思考を知ってか知らずか、ディレクターが楽しそうに石畳の道を指さした。


「ところで葵ちゃん。今歩いているこの石畳なんだけどさ、ここを歩いてもらうのが今回の祭りのメインなんだよね。」


何を言っているんだろう。今歩いているというのに。


「ここを大勢でパレードするんだよ。葵ちゃんもその一員としてエントリーしてあるからね!」

「ああ、なるほどです。」


つまり、パレードに参加してリポートすればいいのだろうか。

特別な衣装でも着るのかな?

疑問は尽きないが、肝心な核心部分については相変わらず一切教えてもらえない。


「というか、私みたいな外国人が参加しても大丈夫なんですか?」


「うん。どうやらこの綺麗な海を称えるためのお祭りらしくてさ。『母なる海はすべてを受け入れてくれる』らしいよ。」


……そうか、海はこんなにも広いということか。それに引き換え私の心の狭さたるや。

なんだか急に自分が情けなくなってきたので、マネちゃんのおっぱいにかけていた呪詛は取り消してあげることにした。


「海に感謝するんだな。」

「えっ? 葵ちゃん、急になに……?」


唐突に意味不明なことを言われて困惑するマネちゃんを置いたまま、私は通りに並ぶ露店を軽く見て回った。

そして、石畳のゴール地点にあたる大きな建物の前へと到着した。


「ここが葵ちゃんに変身してもらう場所だよ。」


見上げると長めの階段が伸びており、建物の内部がどうなっているのか外からは伺い知れない。


「ここから先は男子禁制なんだ。悪いんだけど、葵ちゃんは吉田ちゃんと二人で行ってきてくれるかな。」

「通訳は任せてね、葵ちゃん!」


ディレクターに促され、私はマネちゃんと一緒に階段を上り始めた。

それにしても……男子禁制、か。なんだか嫌な胸騒ぎがする。

それにマネちゃんの表情を見ると、彼女はどうやらこれから何が行われるか知っている節があった。


(男子禁制って……一体なにをするの……?)


階段を上り切り、開けた空間を見た瞬間――私は絶句し、目を見開いた。


そこに広範囲にわたって広がっていたのは、全裸の女性たちの姿だった。

いや、ただの全裸ではない。

全裸の女性たちに、アーティストたちがペタペタと何かを塗りたくっているのだ。


「ま、マネちゃん……これって……」

「うん、ボディペイントだよ!」


……ハメられた。

秘境の裸族じゃないにしても、露出度という意味じゃ何一つ変わらないじゃないか!

なんであのディレクターは、こうも私を脱がせたがるんだ……!?


「……マネちゃん、一旦下に戻りましょう。場合によっては、あのディレクターを殴ります。」

「だよね。あはは……」

ーーー

階段を降りると、ディレクターが道のど真ん中で腕を組んで待っていた。

私が引き返してくることを完全に確信していた顔だ。


「ちょっと、これ何なんですか!? 裸族じゃないにしても酷すぎるじゃないですか!」


「黙っていたのはすまないと思っている。だがね葵ちゃん、このお祭りを撮影するためには、葵ちゃんがどうしても必要だったんだよ!」


どういうことなのだろうか。どうせ碌でもない理由に決まっている。


「実はこの祭りさ、番組の撮影クルーが入るには『参加者』が一人以上エントリーしていないと撮影許可が下りないんだよ。」


……つまり、撮影許可を取るためだけに私を人柱にしたということか。


「歯、食いしばってもらえます?」


私は握力の限界まで右手をグーに固く固く握りしめた。

人を殴ったことなんて一度もないけれど、今この瞬間だけは神様も許してくれるはずだ。


「わー! ちょっと待って! 葵ちゃんにもすごく良い話があるから! まずは話を聞いて!」


「……オペラ鑑賞のチケットだけじゃ、到底つり合いが取れませんからね?」


私は振り上げた拳をすんでのところで止めた。

いつでも顔面に叩き込めるよう、固く握ったまま構えを維持する。


「こ、怖いなぁ……。えっとね、葵ちゃん。レポーターが世界各国に行ってクイズを出題する、あの有名な番組知ってるでしょ?」


知らないはずがなかった。

私が子供の頃からずっと憧れて見ていた、あの長寿番組だ。


「あのレポーター枠にね、葵ちゃんを推薦しようと思っているんだ。」


「……本当ですか!?」


思わず拳の力がゆるむ。

それは、私にとって喉から手が出るほど欲しいビッグチャンスだ。


「正直なことを言えばね、この祭りに参加しなくても推薦する気ではいたんだよ。でもさ、ここで身体を張っておけば上層部への本気度のアピールになるでしょ?」


「最初からそう言ってくれれば良いじゃないですか。」


ディレクターは少しホッとした表情をしている。


「それで、参加してくれる? 裸とは言っても、ペイントするから全部見えちゃうわけじゃないし……やってみない?」


また深いため息を吐き出す。


「一応言っておくけど、俺が推薦したからって確定ってわけじゃないからね。脱ぎ損の可能性も十分にあるから。」


それはそうだろう。

でも、この祭りに参加することで選ばれる可能性が上がるのならば、やらないという選択肢はない。


「……わかりました。やります。でも放送するときは、しっかりボカシを入れてくださいね。」


少しだけ前向きになったものの、さっきより重い足取りで再び階段を上り始めた。


「葵ちゃん! 頑張ろうね!」


後ろから能天気に応援してくるマネちゃんに向けて、私は心の中で再び呪詛をかけておいた。

ーーー

階段を上り切ると、再び視界一面に女性たちの全裸が飛び込んできた。

あの中に私も混ざるのか……。

やはり人前で服を脱ぐのにはどうしても抵抗がある。


「えっとねー。あ! あの人だよ、葵ちゃんにペイントしてくれるの!」


マネちゃんが指さした先には、こちらに向かってにこやかに手を振る一人の白人女性がいた。

モデルのようにスタイルが良く、かなりの美人だ。

こんなに綺麗な人なら、自分でペイントして参加すればいいのに。


「あの人もね、後で自分でペイントしてパレードに参加するんだって。すごいよね!」


マネちゃんが補足する。なるほど、そりゃそうか。

よく分からないが、ここにいる人たちはみんなノリノリで楽しんでいるらしい。


「どうも、こんにちは……」


とりあえず日本語で挨拶してみた。

すると、その美人アーティストは私の手をキュッと握り、聞き馴染みのない言葉でまく立てるように話しかけてきた。

英語ではない、現地の言葉だ。


「えっとね、『はじめまして! お人形さんみたいに可愛いですね!』だって。」


即座に通訳してくれるマネちゃん。

とりあえず「センキュー」と返しておいた。

美人さんはさらにマネちゃんに向かって何かを伝えている。


「『青をベースにして、海をイメージしたペイントにしようと思いますが良いですか?』って言ってるよ。」


海のお祭りなのだから妥当なテーマだ。

私自身、青色は好きなので全く問題ない。


「よろしくお願いします、って伝えてください。」


マネちゃんが流暢な現地語で返答していく。

なんだかんだ頼りになるし、実はかなり優秀な人だったんだなと感心してしまった。


「あまり時間がないから、早速服を脱いでほしいみたい。このカゴに服を入れてねって。」


ついに脱衣の刻が来てしまった。

幸いにも周りは女性ばかりなので、男の目が無いだけまだマシなのだが……。


「……気のせいかな。周りの人たち、私のことチラチラ見てない?」


「確かにそうだね。ちょっと聞いてみるね。」


マネちゃんが再び美人さんに話しかける。


「なんかね、いろんな国の人が参加するお祭りだけど、日本人は珍しいんだって。あとは、この祭りは未成年の参加が禁止されているから……葵ちゃんのこと、未成年だと勘違いされてるかもって。」


なるほど。

日本では未成年に見られることなんてまずないが、背の低いアジア人だから幼く見えるのだろう。

とは言え、いちいち証明するわけにもいかないので、気にしないように努めることにした。

ーーー

さて、いつまでも往生際悪く引き伸ばしているわけにはいかない。

腹をくくった私は、意を決してさっさと脱いでしまうことにした。


まずは履いていたショートパンツを脱ぎ捨て、セパレートタイプの水着姿になる。

そして、水着の上をサッと外した。

それを見た美人さんが、「おー」と感心したように小さく拍手を送ってくる。

なんだか応援されているようで、猛烈に恥ずかしい。

勢いに任せて、そのまま一気に下も引き下ろした。

燦々と降り注ぐ異国の熱い日差しの下、私はついにすっぽんぽんになってしまったのだった。


「葵ちゃん、やっぱり体きれいね。」


そばで見守っていたマネちゃんが、しみじみと褒めてくれる。

だが――。


「……どうせ『もう少しおっぱいが大きかったら完璧なんだけどね』って言いたいんでしょ?」


過去に何度も聞き飽きた言葉を、私は先回りして口にした。

私自身、自分の体型は嫌いではない。

けれど、華やかな芸能界で戦っていくには些かインパクトに欠けるというか、武器として弱すぎるのは自覚していた。


「うーん。でも、今の葵ちゃんの体当たり路線なら、むしろこれくらい引き締まった体型の方が好感度高いんじゃないかなぁ。女の子受けも良いと思うよ。」


「……そうなのかな?」


マネちゃんにそう言われると、急に少しだけ気分が良くなってしまう。

我ながらチョロいというか、つくづく単純な性格をしていると思う。


すると、先ほどの美人さんが何やら現地の言葉でマネちゃんに話しかけてきた。


「えっとね、『日本人ってアンダーヘアを生やしている人が多いって聞いてたから心配だったけど、ツルツルで良かった!』だって。」


私は脱毛を完了させているから良かったものの、そういう重要な予備知識はもっと事前に教えておいてほしい。

もしペイントしてもらう部分の下がフサフサだったとしたら、塗る側も塗られる側も気まずくて集中できないところだった。


気になってそっと周りの参加者たちを見渡してみると、確かに誰も彼も綺麗に処理されている。

というか、これほど大量の「ワレメ」が一堂に会している光景なんて、人生でそうそう拝めるものではない。


(……一応、目に焼き付けておこう。)


普段のお風呂や温泉では他人の身体をジロジロ見ないのがマナーだが、全身がキャンバスとなるこの異国の会場においては、むしろ堂々と見立て合うことこそが正解な気がしてしまった。

ーーー

美人さんは何やら絵の具のような塗料を手際よく混ぜ合わせている。

気になってチラッと覗き込んでみると、それは驚くほど鮮やかな青色だった。


「すっごくキレイだけどさ……あれって塗ったあとちゃんと落ちるのかな?」


私が抱いた素朴な疑問を、マネちゃんがすぐさま現地スタッフに尋ねてくれた。


「うん。汗に強いから水じゃ簡単に落ちないけど、キレイに落とせる専用の石けんがあるんだって。」


汗で流れないのは助かるけれど、本当に石けんひとつで落ちるのだろうか。

ウタ○ロ石けん並みの強力な洗浄力を持つ特殊な石けんなのかもしれない。


そんなこんなで、いよいよペイントの準備が整ったようだ。


「まずは下地から塗っていくみたい。『くすぐったいけど我慢してね』って言ってるよ。」


キャンバスのお姉さんは、よく絵画教室で使うような太めの筆を青い塗料にどっぷりと浸している。

そして、その筆先がそっと私の首筋に当てられた。


「ひゃっ……!」


思わずピクッと身体が跳ねてしまう。 想像以上のくすぐったさと、肌に触れた塗料のひんやりとした冷たさに、背筋がゾクゾクと震えた。

とはいえ、カンカン照りの熱い日差しの中では、この冷たさはむしろありがたくもある。


筆は首筋からデコルテ、そして滑らかな曲線を描きながら肩へと塗り進められていく。

続いて、お姉さんが私の片腕をそっと持ち上げた。

(次は腕かな?)と思った瞬間――お姉さんは急に私のワキに顔を近づけ、クンクンと匂いを嗅ぎ始めたのだ。


「ちょ!? ええっ!?」


唐突すぎる狂気に、さすがの私も「なにごと!?」と叫びそうになる。

あまりにも恥ずかしすぎて引っ込めたいが、何かペイント上の重要な理由や儀式があるのかもしれないと思い、必死に抵抗を飲み込んだ。

するとお姉さんは、納得したように現地語で何やら呟いた。


「えっとね……『日本人って本当に全然匂いがしないんだね、すごい!』だって。」


……ただの好奇心かい!

ここまで会場を歩いてきて少し汗をかいていたので冷や汗ものだったが、とりあえず不快な思いはさせなかったようでヨシとしておこう。


「うんうん、確かに葵ちゃんのワキ、全然匂いしないね。」

「ちょっと、なんでマネちゃんまで嗅いでるの!?」


なぜかマネちゃんも嗅いでいた。恥ずかしいから本当に辞めて欲しい……。


そんなハプニングを挟みつつ、ワキも含めて両腕全体が鮮やかな青で塗りつぶされていく。

そしてついに、最大の第一関門がやってきた。


「さすがにおっぱいは恥ずかしいよね……葵ちゃん、頑張って!」


マネちゃんが笑顔で応援してくれるが、わざわざ恥ずかしいことを再認識させないで欲しい。


筆先が、おっぱいの丸みに沿って外側からゆっくりと描かれていく。

ムラにならないよう、お姉さんは時間をかけて丁寧になぞっていく。

その丁寧さが逆に拷問のようなじれったさを生んでいた。

そして、いよいよ右のおっぱいの中心に差し掛かった。

だが、お姉さんはなぜか急に右を放置し、左のおっぱいへと筆を移してしまったのだ。


「……え? 乳首は塗らないの?」


青く染め上げられたおっぱいの中央で、乳輪と乳首だけが本来の色のまま、ポツンと取り残されている。


「えっとね、そこはあとで塗るんだって。それも『儀式』の一環らしいよ。」


そうなのか。

なるほど、言われて周りを見渡してみると、確かに先端部分だけ塗られずに残されている女性がちらほら見受けられる。

ただ、私としてはこの強い日差しの中で、無防備な乳首が日焼けしないか心配だから早く塗って欲しいんだけど。

……というか、そもそも乳首って日焼けするのだろうか?

自称・ピンク色の乳首が、日焼けして黒ずんでしまったら泣くに泣けない。


そんな切実な葛藤を抱えている間にもペイントは進み、なんとかおっぱい周辺まで塗り終わった。


「葵ちゃん、すごく可愛いよ!」


乳首だけが塗り残されたシュールな私の上半身を、マネちゃんが楽しそうにスマホで連写している。


……よくよく考えたら、マネちゃんはこのボディペイントの企画内容を最初から知っていたはずだ。

つまり私は、あのディレクターと、目の前でニコニコしているマネちゃんの二人によって、見事にハメられたということになる。


「……マネちゃん。あとで『私に殴られる』か『美味しいご飯をごちそうしてくれる』か、どっちにするか決めておいてね?」


私はとびきり眩しい笑顔を向けながら、静かに釘を刺しておいた。

スマホを構えていたマネちゃんの口元が、分かりやすく引きつっていた。

ーーー

胸元からお腹へと筆が移り、おへその周りを滑るように筆先が走る。

さすがにこの部分はあまりにくすぐったくて、思わず「ふふっ」と声を出して笑ってしまった。


そして、舞台はいよいよ下半身へと進んでいく。

腰から太もも、そして足先までが一気に鮮やかな青で塗られていった。

さらに美人さんは私の背後に回り込み、お尻にも丁寧に筆を走らせ始める。

自分の目で直接見えないからこそ、余計に変な想像をしてしまい、羞恥心がどんどん膨らんでいく。


「『お尻の一番デリケートな部分も塗るから動かないでね』だって。」


美人さんと一緒に、なぜかマネちゃんまで私の真後ろに回り込んできた。

いやいや、ペイントしてくれるお姉さんは仕事だから仕方ないとして、なんでマネちゃんまでそんな間近で私のお尻の穴を見ようとしてるのよ……。


遠慮なくお尻の割れ目を少し開かれ、太陽光の下にすっかりお披露目されてしまう私の肛門。

そういえば世の中には「肛門日光浴」なんて健康法があるらしいな。

……なんてことを考えて、必死に現実逃避を試みる。


「葵ちゃん、お尻の後ろまで本当にキレイね。綺麗なピンク色だし、シワも整ってるし、ホクロとかも全然ないんだね。」


感心したようなマネちゃんの声が聞こえてきた。

お姉さんも「ワーオ」なんて感嘆の声を漏らしている。

……私はいったい何のために異国の地でこんな恥ずかしい目に遭っているんだろう。

目の前に広がる雄大な海を眺めながら、私は遠い目をして深い思案に浸っていた。


お尻の最もデリケートな部分に筆が走り、全身にゾクゾクッとした刺激が駆け巡る。

恥ずかしい声が漏れてしまわないよう、私は慌てて自分の口元を手で押さえた。


「葵ちゃんって、お尻でも感じちゃうタイプ?」

「……いじったことないから知りません!」


マネちゃんから飛んできた無邪気すぎる質問に、即座に反論する。

どうもマネちゃんは、私に対する遠慮というものを完全にどこかへ置き忘れてきている気がする。

これもあとで脳内復讐ノートにきっちり刻んでおかなければ。


どうにかお尻のペイントも終わり、ついに最終関門とも言える、前の一番大切な部分に筆が入る刻がやってきた。


「やっぱり……そこまで塗らないと駄目ですか?」


マネちゃんの通訳を通して、私は控えめに尋ねてみた。


「えっとね、『ここは命を宿す特別な場所。母なる海に対抗できる唯一の場所だから、しっかり整えましょう』だって。」


理屈は分からないでもないけれど、恥ずかしいものは恥ずかしい。


「あとね、『ここだけ塗り残すと余計に目立って恥ずかしいよ』って。」


言われてみれば確かにそうだ。

自分の下半身を見下ろしてみると、デリケートゾーンの周辺だけがポッカリと肌色のまま取り残されている。

そこばかりに目が行ってしまうのは火を見るより明らかだった。


腹を決めた私はそっと肩幅に足を開き、「……よろしくお願いします。」と一番の秘密の場所を差し出した。


「葵ちゃん、ここもキュッと閉じていて形がキレイね。」


マネちゃんがしゃがみ込んで、じっくりと覗き込んでいる。

そんなマネちゃんを見下ろすと、水着からとんでもないおっぱいの谷間が自己主張していた。


心の中で(垂れてしまえ……)と呟いておいた。


そして、ついにその柔らかな部分へ筆が当てられる。

デリケートな粘膜の周辺が、滑らかに塗られていく。

柔らかい筆の毛先、そしてひんやりとした塗料。

それらが私の大陰唇を優しく撫で上げていく。


「……んぅっ。」


耐えきれず、小さな声が漏れてしまった。

ハッとしてマネちゃんを見ると、案の定ニヤニヤとした笑みを浮かべている。

あまりにも恥ずかしすぎるし、そんな声を聞かれてしまった屈辱感でいっぱいになるが、今の私にはどうすることもできない。


すると、お姉さんが手先でクパッと押し開いた。


「ええっ!? 中の方まで塗るの!?」


思わず大きな声を出してしまい、周囲の参加者たちの視線が一斉にこちらへ集まってしまう。

顔がカッと熱くなるのが分かった。


「えっとね、『綺麗に閉じているから中までは塗らないけれど、クリちゃんだけは儀式として塗らないといけない』って言ってるよ。」


お姉さんは少し申し訳なさそうな表情を浮かべている。

……そこって本当にちゃんと塗料が落ちるのかな?

一生、青いクリトリスなんて嫌だよ。葵だけに。


「……うるさいわ!」

「なにも言ってないよ!」


マネちゃんに、理不尽な八つ当たりをぶつけておく。

なんだか今日の私は感情の起伏が激しくて奇行が多いかもしれない。


クパッと開かれたまま、そっと包皮が剥かれる。

カンカンと照りつける太陽の下で、私の一番奥深い秘密まで暴かれてしまったような感覚に陥る。


「……はぁー、葵ちゃん、ここも小さくて本当キレイね。」


マネちゃんが感心したように吐息を漏らす。

正直なところ、自分のその部分の形には少しだけ自信があった。

誰に見せるわけでもないけれど、日頃から清潔感にも気を配っていた。


……だからといって、こんな白日のもとで鑑賞されるのは恥ずかしすぎる。


そして、ついにその一番敏感な中心部に、そっと筆が乗せられた。

筆先がさっと一筋、撫で上げる。


「っ……あん!」


身体がビクンと跳ね上がり、情けない声が口から飛び出してしまった。

あまりの刺激に、膣の奥がじんわりと濡れていく感覚を覚える。

何度か筆がその小さな突起を往復し、やっと包皮を戻してもらえた。


「これ……ほんっとうに綺麗に落ちますよね?」


少し荒くなった息を整えながら、私は必死に確認した。


「うん、『あとで私が綺麗に洗ってあげるからね』って言ってるよ。」


……なんだか、少し不穏な響きが混ざっている気がする。

自分で洗うから、あの特殊な石けんだけ貸してほしいと、心から願うのだった。

ーーー

デリケートな部分のペイントもどうにか塗り終わり、私の身体は「乳首の周りだけがぽっかりと肌色のまま」という、なんともシュールな姿になっていた。


そこから色とりどりの絵の具が手際よく準備され、いよいよ本格的なペイントが始まっていく。

私の肌をキャンバスにして、海にまつわる様々なモチーフが描かれていった。

最初は不安と羞恥心でいっぱいだったけれど、お姉さんの鮮やかな筆さばきは見事で、私の体に美しく躍動感のある「海」が形成されていく。

その芸術的なプロセスを見つめているうちに、あれほど重かった憂鬱な気持ちが、少しずつ晴れていくような気さえしてきた。


最後に顔へも可愛らしいワンポイントのペイントを施してもらい、作業はほぼ終了となった。


(……そろそろ、この浮いた乳首も隠してほしいんだけどなぁ。)


私がそう思い始めたタイミングで、お姉さんがマネちゃんに向かって何やら話しかけた。

それを聞くマネちゃんの顔が、「あー……」と言いたげな、微妙な表情に変わっていく。

……なんだか不安だなぁ。


「あのね、葵ちゃん。えーっと……」


珍しくマネちゃんの歯切れが悪い。


「もうここまできたら何でも受けて立つから、はっきり言ってよ。」


私が腹を括って促すと、マネちゃんは直球を投げ込んできた。


「じゃあ単刀直入に聞くけどさ……葵ちゃんって、バージン?」


「……え!? ええっ!?」


唐突すぎる質問に、私の思考回路が一瞬でフリーズした。


「な、なんで今そんなこと聞くの!?」


「うん。話を聞いたらね、胸に描く絵柄に関係してるらしいの。経験者は『月』を、未経験者は『太陽』を胸に描いて、そのマークで先端を隠すんだって。」


なんだその究極の二択は……!

焦って周りの参加者たちを見渡してみると、確かに多くの女性たちの胸元には綺麗な「月」のマークが描かれている。

さらに必死で視線を走らせると、ごく少数だが「太陽」が描かれている人も確認できた。


「いやいやおかしいでしょ!? 『私はバージンです!』ってアピールしながら歩かなきゃいけないの!?」


そんなの恥ずかしすぎるよ……。

パニックになる私を見て、お姉さんが何やらフォローするように言葉を足した。


「えっとね、マークの本当の意味を知っているのは、ここにいる女性だけなんだって。毎回絵柄も変わるらしいから、葵ちゃんが自分から触れ回らない限りは、ただのおしゃれなマークにしか見えないみたいだよ。」


「そうなんだ……」


わざわざ自分から言うつもりは毛頭ないけれど、意味を知ってしまった以上、本人としては恥ずかしさで悶絶しそうだ。


「じゃあ、葵ちゃんがバージンだってこと、お姉さんに伝えていい?」

「ちょっと待って! なんで私がバージン前提なのよ!?」


私の抵抗に、マネちゃんは心底不思議そうな顔を浮かべた。


「え? だってさっき自分から『私はバージンですってアピールしながら歩かなきゃいけないの!?』って言ってたじゃない」


「……あ。」


気が動転して口走っていたようだ。今日の私は色々とおかしい。

観念した私は、蚊の泣くような声で絞り出した。


「……はい。私はバージンです……」


その言葉を通訳された瞬間、お姉さんの表情がパッと花が咲いたように華やいだ。

話によると、この祭りで祀られている「海の神様」はバージンの参加者を特に喜ぶらしく、今年は特に少なかったため、遥か東洋から来たバージンの参加は祭りにとって大歓迎なのだという。


私としてはなんとも情けない話だった。

ーーー

こうして、私の両胸には、燦々と輝く見事な「太陽」の絵柄が刻み込まれることとなったのだった。


両胸にしっかりと「処女の証」である太陽のマークを刻み込まれ、少し気落ちしている私を余所に、マネちゃんは目をキラキラと輝かせていた。


「葵ちゃん、これ本当にすごいよ! パッと見じゃ裸なんて言われないと絶対わからない! まるでぴったりのボディスーツを着ているみたいだよ!」


そう言いながら、マネちゃんは手元のスマホをパシャパシャと光らせた。

画面に映し出された自分の姿を確認して、私も思わず「あ……」と声を漏らした。


「たしかに……。全身タイツというか、身体のラインに極限までフィットしたスーツを着ているように見えますね。」


あれほど心配だった乳首も、ワレメさえも緻密なグラデーションとアートの模様によって驚くほど自然に目立たなくなっていた。

やはり塗ってくれたお姉さんの腕前は、超大当たりだったようだ。


「本当にありがとうございます!」


私は感謝を込めて、美人のお姉さんに向かって深々と頭を下げた。

すると彼女は私の両手をやさしく包み込み、とびきりの笑顔で何かを語りかけてくれた。


「えっと、『喜んでくれて嬉しいわ。でも歩く時は気をつけてね。足を大きく開くと大事なところが見えちゃうからね。』だそうだよ」


確かにそうか。

ワレメとクリ辺りは塗って貰ったけど、中全体が塗られているわけではない。

うっかりガニ股で歩こうものなら大変なことになる。

少しおしとやかに歩くことを心がけよう。


そんなアドバイスをくれた直後、お姉さんも服をスルリと脱ぎ始めた。

彼女の肌にも既に色鮮やかなペイントが施されていた。

猛暑の中で薄手とは言え長袖長ズボンを着込んでいるのを少し不思議に思っていたのだが、こういうことだったのか。

ふとお姉さんの胸元に視線をやると、そこにはくっきりと「月」のマークが刻まれていた。

……当たり前の話なのだが、なぜだか急にもの凄い敗北感が込み上げてきたのは秘密だ。


すると彼女は、手元にあった細い筆を「はい」と私に差し出してきた。


「『これで私の頬っぺたに絵を描いてくれない?』だって。」

「えっ、私がですか!?」


一瞬躊躇して断ろうとしたものの、彼女の純粋な笑顔に押し切られ、お礼の意味も込めて引き受けることにした。


少し手が震えたけれど、私は集中して、彼女の頬に小さな蝶のイラストを書き込んだ。

お姉さんは手鏡でそれを確認すると、子供のように声を弾ませて大喜びしてくれた。

自分で筆を握ってみて改めて痛感したが、彼女のように真っ白な肌へ一発勝負で美しい芸術を描き上げるというのは、本当に途方もない技術なのだと深く感心してしまった。


その時――階下の方から、腹に響くような賑やかなパレードの音楽が流れ始めてきた。


「葵ちゃん、そろそろパレードが始まるみたいだから、心の準備をしておいてね。」


マネちゃんに声をかけられ、私は胸に手を当てて大きく深く息を吸い込んだ。


一期一会で見ず知らずの外国人観光客に見られる分には、もう開き直れる。

問題はあのディレクターや、撮影スタッフの男性陣の前にこの姿で立たなければならないということだ。

やっぱりどうしても緊張してしまう。


でも、ここまできたら逃げ隠れはしない。

変にコソコソ恥ずかしがったりせず、堂々と胸を張って歩いてやろう。

それが、夢へ一歩でも近づくきっかけになると信じて――。

ーーー

「じゃ、私はディレクターさんのところで一緒に応援してるから、葵ちゃんはカメラにしっかり映るところを歩いてね!」


急に一人取り残されることになり、途端に心細さが押し寄せてくる。

たった一人でパレードを歩くなんて本当に大丈夫なのだろうか。


おどおどしていると、隣にいたペイント担当のお姉さんが、私の手を温かく握り締めてくれた。


「お姉さんが一緒に歩いてくれるって言ってるよ。良かったね!」


マネちゃんが通訳してくれた。

お姉さんのその優しさが身に沁みて、私は「ありがとうございます!」と満面の笑顔で感謝を伝えた。


階段の周辺には、ペイントを施された参加者たちがぞくぞくと集まり始めていた。

いよいよパレードが始まるのだ。

すると、お姉さんから小さな空のガラス瓶を一つ渡された。

彼女は石畳の先にある美しい海を指差し、「この瓶に海水を汲んで戻ってくるのよ」とジェスチャーで教えてくれる。

本当に頼りになるお姉さんだ。


私は意を決して、日本の番組カメラが構えている石畳の端に陣取り、スタートの合図を待った。


やがて先頭のグループから順番に、階段を降り始めているようだ。

私の心臓はバクバクと鳴り響いていた。

いくら全身に芸術的な絵が描かれているとはいえ、実質的には素っ裸でテレビカメラの前に立つのだ。

緊張しないわけがない。

大きく深呼吸を何度も繰り返し、一段ずつゆっくりと階段を降り始めた。


沿道を見回すと、集まった大勢の観客の中に、私に向かって猛烈に手を振っている集団が目に入った。

周りの参加者たちも笑顔で手を振りかえしているので、私も負けじと大きく腕を振ってみた。


(……よし、ここまできたら開き直ろう! 減るもんじゃないし、全部見てもらおう!)


階段を降り切り、いよいよカメラの真っ正面にさしかかる。


「葵ちゃーーん!」


ディレクターが大声で私の名前を叫んだ。

名前を呼ぶのはどうなんだろうと苦笑いをしつつ、カメラに向かって手を振った。

レンズ越しに、私の全身ペイント――つまり全裸姿がバッチリと記録されていく。

無意識に胸や股間を隠したくなる衝動を必死に抑え込み、堂々とカメラの前を通り過ぎた。


ふぅ、とひとつ息を吐く。

ここを過ぎれば、あとは海まで歩いて海水を汲んでくるだけだ。

せっかくだからと、沿道にぎっしり詰めかけた外国人観光客たちにも思いきり愛想を振りまいてみた。

吹っ切れてしまえば、恥ずかしがっている方がむしろ野暮というものだ。


そのままお姉さんと並んで砂浜へと降り立ち、瓶に波打ち際の海水を並々と満たす。

そして再び、来た道を戻っていく。

私が観客に向かって大きく手を振ると、「ウオーーーッ!」と割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。

……なんだろう、この快感。

だんだん癖になりそうなほど良い気分になってきた。


そして再び、我が番組クルーの前に戻ってきた。


「葵ちゃんキレイだよー!」「葵ちゃん、サイコー!」


スタッフたちが口々に大きな声を張り上げて、私を盛り上げてくれる。

なんだかんだ言っても、身内のこういう声援は心強いものだ。


すると、カメラの脇からディレクターがそっと近づいてきた。


「葵ちゃん、めちゃくちゃ良い画が撮れてるよ! できれば後で、そのままの格好でまた下に降りてきてほしいんだけど……大丈夫かな?」

「あ、いいんですかね、このまま降りてきても。大丈夫なら全然降りてきますよ!」


カメラ映りが上々だと聞いて、まんざらでもない私は二つ返事で引き受けた。


そのまま再び階段を上り、祭壇へと向かう。

カメラはずっと私の後ろ姿を追い続けてくれているようだった。

持って戻った海水の瓶を中央の特設祭壇に捧げ、この祭りのメインである幻想的な神事のプロセスは無事に終了を迎えた。


ちょうどその頃、下で見守っていたマネちゃんも階段を上って、私の元へと駆け寄ってきたのだった。

ーーー

「これからしばらくはフリータイムだから、下に降りても大丈夫だって。お姉さんは『1時間後くらいに来てくれればきれいに洗い流してあげるよ』って言ってるよ。」


マネちゃんからそう告げられ、私はペイント担当のお姉さんに手を振って、マネちゃんと一緒に階段を降りることにした。

最初はあんなに抵抗があったというのに、大勢の観客に見られ続けているうちに、すっかり今の派手なペイントの姿が身体に馴染んでしまっていた。

慣れというのは恐ろしいものだ。

他の参加者たちに混ざって、私も堂々と胸を張って階段を降りていった。


そして、待機していたテレビクルーの前に到着する。


「いやー! 葵ちゃん、本当によかったよ! ボディペイントも全然いやらしくなくて、すごくテレビ映えしそうだし最高だね!」


そう言われても、素直に喜んでいいのかは謎である。

周りを見渡してみると、同じようにペイントされているのに、体のラインやポーズのせいでドエロく見える外国人の女性も大勢いた。

まあ、そのあたりのセクシー感に関してはもう諦めるしかない。


カメラが下から上に舐めるように撮影していく。


「……あまりアップにし過ぎないでくださいね。ペイントしてても一応全裸なんですから……。」


何人かの男性スタッフが、なぜか前屈みになっているのを見て、私は深いため息をひとつ吐き出した。


「海をモチーフにしたペイントなんだよね。すごく綺麗だし、葵ちゃんにすごくよく似合ってるよ。」


ディレクターがうんうんとうなずきながら褒めてくれる。

それから、カメラに向かってインタビュー形式の会話をいくつか進めていった。


「そういえばさ、葵ちゃん。胸のマークって『太陽』の人と『月』の人がいるよね。これって何か特別な意味があるの?」


ドキッとしてしまう。


だが、私さえ口を滑らせなければ意味は通じないはず。

私が必死に言葉を濁して話を逸らそうとした――まさに、その瞬間のことだった。


「あー、それですね、『太陽』がバージンで、『月』が経験者らしいですよ。」


隣で、マネちゃんがニコニコしながら口を開いていた。


パリン、と脳内で何かが悲しく割れ砕ける音がした。


その場の空気が一瞬で凍りつき、静まり返る。

言葉を発した当のマネちゃんは、即座に自分の口を両手で塞ぎ、「やってしまった……!」という絶望的な表情を浮かべていた。


周囲のスタッフ全員の視線が、一斉に私の胸元――燦々と輝くふたつの『太陽』マークへと集中する。


今更隠すのも自意識過剰っぽくてダメだ。

ただただ、時間だけがゆっくりと過ぎ去っていくのを感じていた。


「……あー、ちなみに俺は『月』のマークかな。」


沈黙に耐えかねたように、ディレクターがそっと口を開いた。


「わ、私も『月』です……!」


マネちゃんも叫ぶ。


「俺も『月』ですね。」「僕は『太陽』っす! 葵ちゃんと一緒っす!」「俺はそろそろ月になりそうです!」


スタッフたちが、誰も頼んでいない自らの「属性」を口々に告白し始めた。

……彼らなりの、精一杯のフォローなのだろう。

みんないい人なのは分かっている。

だが、今の私には彼らの顔をまともに見直すだけの精神力は残されていなかった。


最後にカメラに向かって無理やりの引きつった笑顔を作り、 「お祭り、とっても楽しかったです!」 と絞り出すように言い切って、本日の撮影はすべて終了した。


全スタッフに自分が処女であることが大々的に暴露され、なんとも言えない切なさと恥ずかしさを抱えながら、私は重い足取りで階段を上っていった。

隣でマネちゃんが「ごめんなさい葵ちゃん……!」と必死に謝り続けているけれど、今の私にはただ静かにそっとしておいてほしかった。


階段を上り切ると、ペイント担当のお姉さんが笑顔で大きく手を振ってくれていた。

彼女は既に体のペイントを綺麗に洗い流し、爽やかな水着姿になっている。

なんだか彼女の屈託のない笑顔を見ていると、さっきの「処女大暴露大会」のショックも「まあいっか……」とどうでも良くなってくるから不思議だ。


「さ、早くペイントを落として美味しいものでも食べに行こうか。」


私がそう声をかけると、落ち込んでいたマネちゃんの表情がパッと明るくなった。


お姉さんは手招きをしながら、特設シャワーブースへと私たちを誘導してくれた。

このボディペイントフェスティバルのために、大量の簡易シャワーが用意されているらしい。

案内された個室に入ってみると、大人三人が入っても十分に余裕のある広さがあった。

こうして、お姉さん、マネちゃん、私の三人でシャワー室に入り、全身のペイントを落とすことになったのだ。


シャワーの栓を捻ると、勢いよく冷たい水が吹き出してきた。

カンカン照りの太陽の下で全身火照っていた今の私の身体には、この冷たさが最高に心地よかった。


お姉さんがマネちゃんに向かって何やらジェスチャー交じりで話しかけている。


「えっとね、『私がきれいに洗ってあげるから両手を広げてね。絵の具を落とすのにはちょっとコツがいるの』だって。」

「あ、そうなんですね。」


今日初めて会ったばかりの人に身体を洗ってもらうというのは恥ずかしいけれど、このお姉さんは信用が出来る。


「よろしくお願いします。」


私は意を決して、お姉さんに向かって深々と頭を下げた。


まずは顔のペイントから丁寧に流してもらう。

肌の上から鮮やかな青い絵の具が溶けて流れ出していくのを見ると、なんだか少しだけ祭りが終わる寂しさが込み上げてくる。

顔から首筋、そしてデコルテへと、泡立てられた石けんとともにお姉さんの滑らかな手が滑っていく。

背中側は、お姉さんから洗い方のコツを伝授されたマネちゃんが、シャワーをかけながら丁寧に洗ってくれていた。


(……なんだか私、ちょっとした女王様気分じゃない?) なんて思いつつ、目を細めて身体を預ける。


すると、お姉さんの手がそっと私の胸元へと伸びてきた。

石けんの泡で包み込むように、おっぱいに優しく手が添えられる。

思わず過剰に反応してしまい、手でキュッと胸を隠してしまった。

するとお姉さんは困ったような、でも優しげな笑みを浮かべて何かを囁いた。


「えっとね、バストは丁寧に泡でもみ洗いして落とさないといけないんだって。」


マネちゃんの通訳を聞いて、私は恥ずかしさを抑えてゆっくりと手を離した。


お姉さんは再び両手にたっぷりと泡を立て、私のおっぱいを包み込むようにして優しく洗いはじめた。

丁寧な手つきで、形を変える私のおっぱい。

今日一日、大勢の観客やスタッフにこの裸を見られてしまったという羞恥心が、冷たいシャワーの中でも胸の奥でくすぶっているようだった。


「……ん。」


あまりのくすぐったさと、丁寧すぎる手つきに、つい小さな声が漏れてしまう。

気のせいか、目の前のお姉さんの口元に、フッと小さな笑みが浮かんだ気がした。


胸の周囲から順番に泡で撫で上げられ、いよいよ先端の乳輪のあたりへと指先が伸びる。

お姉さんは親指の腹を使って、太陽のマークが描かれた乳輪の周りを、もみ洗いするような手つきで丁寧に洗っていく。

まるで愛撫されるように。


「くっ……」


必死に下唇を噛みながら快感に耐えようとするが、どうしても声が漏れてしまう。

背中側ではマネちゃんがマッサージするように洗ってくれており、挟み撃ちにされた私の身体はすっかり快感を呼び起こしていた。


「んぁ……っ!」


ついに耐えきれず、少し大きめの声が漏れ出てしまった。

お姉さんが、太陽のマークを綺麗に浮かせようと、両方の乳首をキュッと指先で優しくつまむように洗ってきたのだ。

ぎゅっと指が動くたびに、乳首から脳へと甘い痺れのような感覚が響いていく。


「葵ちゃん大丈夫……?」


後ろからマネちゃんの、少し心配そうな声が飛んできた。


「あ……ん、はい……大丈夫、です……くっ」


言葉を発するたびに、お姉さんの指先が私の乳首を優しく刺激してくる。

これ……本当にただの洗浄作業なんですよね……!?


最後にギュッと少し強めにキュッとつまみ洗いをされて、ようやく胸元から手が離された。

ほっとして自分の胸を見下ろすと、あんなに鮮やかだった「太陽のマーク」は、影も形もなく綺麗に洗い流されていた。

……なんだか少しだけ解せない気もするけれど、仕事としては完璧に洗い落としてくれたようだ。


そのままお腹、脚のラインへとスムーズに泡が滑り、色鮮やかだった塗料がどんどん流されていく。

そしてついに――ペイントが残っているのは、一番大事な穴があるデリケートゾーンのみとなった。


「あの……そこは私、自分で洗いますから……!」


慌ててそう申し出ると、お姉さんは首を振って何やら真面目な顔で言葉を重ねた。


「えっとね、『ここはすごくデリケートだから、プロの私が落とさないと肌を傷つけちゃうかもしれない』って言ってるよ。どうする?」


そう言われてしまっては、もう返す言葉はない。

無言の肯定をしてしまい立ち尽くす私の前と後ろに、お姉さんとマネちゃんが静かに膝をついたのだった――。

ーーー

お姉さんは今まで以上にしっかりと石けんを泡立てている。

それを真似するように、後ろのマネちゃんも手際よく泡を作っているようだ。


そして、お姉さんの手が私の最も繊細な部分にそっと当てられた。


「ひっ……!」


思わず声が漏れそうになり、慌てて両手で自分の口を固く押さえた。

この簡易シャワールームは、当然ながら隣のブースでも他の参加者たちがペイントを流している。

こんな場所で変な声を出すわけにはいかなかった。


優しくなでるように、大陰唇のペイントが落とされていく。

と同時に、お尻にもマネちゃんの温かな手が添えられるのを感じた。


(……嘘でしょ、前と後ろから同時に洗われることになるなんて聞いてないんだけど!?)


どこまでも丁寧に、前後のデリケートな部分の塗料がもみ洗われていく。

私は必死で声を殺すために口を抑え続けた。

第三者から見れば、あまりにもおかしなな光景に違いない。


そして、お姉さんの手が私の大事な扉をあっさりと開いてきた。

同時に、後ろの隠すべき部分まで遠慮なく広げられてしまう。

太陽の光が差し込む中で、女の子として絶対に死守しなければならない二大聖域が、同時に白日のもとに晒されてしまったのだ。

喉の奥で「ひぃっ……!」と引きつった声が出たが、なんとか根性で飲み込んだ。


するとお姉さんは、ペイントを細かく拭き取るための綿棒のようなツールを取り出した。

視線を落とすと、そこには青く染められた私の大事な真珠が鎮座している。

まさかあれを使って直接ペイントを落とすつもりじゃ……。


その恐ろしい予想は、見事に的中した。

石けんの泡を纏った綿棒が、容赦なくその小さな突起をキュッキュッと磨き上げていく。


「あはぁっ!?」


ついに抑えていた手が弾け飛び、情けない悲鳴が漏れてしまった。

それと同時に、後ろのお尻の穴にも、塗料を拭い去るための指先がぬるりと滑り込んでくる。


必死で耐えようとするが、あまり自慰行為をしない私にとってその刺激は異次元だった。

こしょこしょと繊細に磨かれていく一番の敏感スポット。

そして、肛門の周りを丁寧に這いずり回る指先。

あまりの快感に、全身がビクビクと痙攣してしまう。


私の中で、どんどん上り詰めていく感覚がわき上がる。


(だ……ダメ、こんなの耐えられない……っ!)


周りが囲まれている簡易ブースとはいえ、こんな太陽の下で絶頂なんてするわけには行かない。

チラッとお姉さんの顔を見てみるが、彼女は至って大真面目な顔でペイントを落とす作業に没頭している。


(落ち着け私! これはペイントの落としてもらってるだけ! エッチなことをされているわけじゃないの!)


頭の中で必死に自分を説得しようとするが、もはや私の身体は言うことを聞いてくれなかった。

逃げ場を失った腰が、前後にガクガクと小さく揺れてしまう。

けれど、後ろに引けば肛門への刺激が強まり、前に逃げればクリトリスを磨く綿棒が深々と当たる。

前後を挟み撃ちにされた今の私に、この極限の恥ずかしさと刺激に耐える術など残されていなかった。


(だ……ダメぇ! イッちゃう……ッ!)


心の中で絶叫した瞬間、私の全身から完全に力が抜け落ち、ガクガクと大きく震えてしまった。

お姉さんの綿棒によるクリトリス責めと、マネちゃんの容赦ないアナル攻めに、私はあえなく屈してしまった。


私はその快感と全身の脱力感に耐えきれず、そのまま後ろにいたマネちゃんに向かって倒れ込んでしまった。

どうにか私を支えてくれたマネちゃんと、お姉さんの目の前でだらしなく開いた足の間から黄色い液体を漏らしてしまった。


「あらあら……葵ちゃん、完全に腰が抜けちゃってるじゃない。」


お姉さんはなぜだか満足そうに、嬉しそうな笑顔を浮かべながらシャワーの水で泡とおしっこを綺麗に洗い流してくれたのだった。

ーーー

どうにか息を整えて落ち着いた私に、お姉さんはニコニコと笑いながら小さな手鏡を手渡してくれた。

そして、私の確認を待たずにデリケートな部分をクパッと広げた。

どうやら「綺麗になったでしょ?」と状態を確認させたいらしい。


力なく手鏡に視線を落とすと、そこには絵の具の一片すら残っていない、本来の綺麗なピンク色のそれが鎮座していた。

ただ、度重なる刺激のせいかすっかり膨らんで大きくなってしまっている。

私は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしながら、包皮をそっと被せた。


「あ、ありがとうございました……」


鏡をお姉さんに返して、ようやくこの恐ろしい「ペイント洗浄劇」は終焉を迎えたのだった。


水着を着直し、腰が抜けた私はマネちゃんの肩を借りて、どうにかシャワーブースから外へ脱出した。

最後まで笑顔で手をブンブンと振って見送ってくれるお姉さんに、私もフラフラと手を振り返し、少し虚ろな目で一歩一歩階段を降りていく。


まだおまたがジンジンと熱く痺れるような異様な余韻を残していて、階段の段差を降りるたびに、身体の奥に甘美な刺激が走ってしまう。


(……私のこのすっかり敏感になっちゃった身体、ちゃんと元に戻るのかな……)


そんな切実な心配を抱えながら階段を降りきり、待機していた番組クルーたちの前に到着した。


「あ、あれ? 葵ちゃん大丈夫……? もしかして、さっきのこと、まだ気にして落ち込んでるの?」


ディレクターが心配そうに顔を覗き込んできた。


「あ……はい、大丈夫です……。ちょっと疲れちゃったので、少しだけ休ませてください……」


流石にシャワー室で何があったかまでは言えるはずもなく、マネちゃんもこの件に関しては口を噤んでくれていた。

……まあ、半分はマネちゃんのせいでもあるのだが。


その後、近くのカフェに駆け込み、冷たいジュースを飲みながら1時間ほどじっと休ませてもらった。

時間が経つにつれて身体の火照りも引き、ようやくあの過剰な快感の余波から解放されることができたのだった。


それと同時に――静かな店内に「ぐぅぅ〜〜っ」と情けないお腹の虫の音が豪快に響き渡った。


「あはは! 葵ちゃん、やっといつもの元気が出てきたかな? もう水着の撮影は全部終わったんだから、遠慮しないで好きなものたくさん食べていいからね!」


ディレクターの言葉に、私の胃袋が歓喜の悲鳴を上げる。


「……言いましたね? いっぱい食べるので、お会計の覚悟をしておいてくださいね!」


私の宣言に応えるように、またしても「グ〜〜ッ!」とみんなに聞こえるほど大きな音が腹の底から鳴り響くのだった。

ーーー

エピローグ

本場のオペラ鑑賞を含んだご褒美観光も無事に終わり、日本に帰国してからしばらくの時間が経った。


例のボディペイントフェスティバルの体当たりレポートは、おかげさまで大好評だったようだ。

レポーターとして結果を残せたのは素直に嬉しかったのだが、一つだけ予想外の問題が発生していた。


あのお祭りには、当然ながら日本のスタッフだけでなく海外のテレビクルーも取材に来ていた。

そして、海外の番組でその模様が放送された際、私もバッチリ画面に映り込んでしまっていたらしい。

日本国内の放送ではしっかりとモザイク処理を施してもらえたのだが、海外の放送では無修正のそのままの姿で流れてしまっていたのだ。


幸いにも、ペイント担当のお姉さんの技術が神がかっていたため、デリケートな部分は綺麗に隠れて見えていなかった。

だが、それでも私を切り抜いた動画が海外の動画サイトに出回り、結果として私は意図せず「世界デビュー」を果たしてしまっていた。


「うーん……乳首やあそこが見えてないとはいえ、おっぱいとお尻の形はくっきり丸分かりだよね……」


事務所のパソコン画面を覗き込みながら、私は世界中で再生されている自分の姿に頭を抱えた。


「どうしようか、葵ちゃん? 権利者申し立てをして消してもらう?」


マネちゃんが心配そうに尋ねてくる。 けれど、私は画面を見つめたまま、あえて首を横に振った。


「ううん、このまま残しておこう。これくらいの露出ならグラビアアイドルだってやってるし、世界中でバズってる間はむしろ認知度を上げる『チャンス』だと思って活かすよ!」


転んでもタダでは起きないのが私の取り柄だ。

そんな前向きな議論を交わしていると、デスクの上のスマホが賑やかに鳴り響いた。

画面に表示された名前は――例のディレクター。


「はい、葵です。」

「葵ちゃん! やったよ! 例の番組のレポーターの仕事が決まったよ!」


電話に出た瞬間、破顔した彼の弾けるような大声がスピーカー越しに響き渡った。


「えっ! 本当ですか!?」


思わず立ち上がる。あんなに恥ずかしい思いをした甲斐があったというものだ。

ついに夢が一つ叶ったのだと、胸が熱くなる。


「まあ、まだレギュラー決定じゃなくて仮採用みたいな形なんだけどね。でも、今の葵ちゃんの勢いなら絶対に正式なレポーターの座を掴み取れるよ!」

「あ、ありがとうございます……!」


ずっと追いかけてきた大きなチャンス。

今度こそ絶対に手放さないぞと、私は受話器を握りしめながら心に強く誓った。


「それでね、記念すべき第1回目のロケなんだけど、俺がディレクションを担当して撮影しに行くことになってさ。」


その言葉を聞いた瞬間、猛烈に嫌な予感が込み上げてきた。


「ねえ葵ちゃん……『泥の温泉』って知ってる?」


どうやら、私が「裸」と「過激ロケ」の運命から逃げ切れる日は、まだまだ先のことになりそうだった。


END

ーーー

後書き

クソ長文章になってしまいました。

23,000文字ほどあります。

前後編に分けるべきだったのかもしれませんが、そうすると前編はほとんどエロがない状況に。

難しいですね。


なんにしても、ずっと書きたかった葵ちゃんの続編が書けたので満足です。

また何かネタが出たら葵ちゃんの続きを書きましょう。

需要とかは知らない。

今回は書きたいことを書く回でしたね。

うむ。


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