ゴブリンシリーズ 小塗マキ編 『人間キャンバス(笑) ~うんこタトゥー彫られたら、しっかりお礼言わなくちゃ♡~』 (Pixiv Fanbox)
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ゴブリンたちはキヴォトスを支配して生徒を凌辱していく中で、その愚かな知能では到底育まれなかったであろう、様々な芸術文化を学習していった。
『料理』、『音楽』、『演劇』、そして───────『絵画』。
一本の筆で線を引き、形を描いて色を塗る。個々人の思い描く情熱や哲学を筆に乗せ、真っ白なキャンバスに理想の世界を創造するその行為は、これ以上ないほど高尚で、人間的な儀式といえるだろう。
だからこそ、ゴブリンはそれを穢してく。
先人たちが紡いできた伝統も、若者から迸る瑞々しい情動も、全てを肥溜めの底に叩き落し、彼らにこそ相応しい、低俗で恥辱に塗れた遊戯へと貶めるのだ。
*
「オイ! 見ろよこレ!! 最高傑作だロ(笑)」
「ギヒ! お前下手すギ!! 俺のが上手いつーノw」
キヴォトスの中心部に位置する、荒廃した建物の跡地。
そこの開かれた一室にて、十数人のゴブリンたちが自ら作り上げた作品を、同胞へと自慢げに見せつけていた。
ここは、かつてキヴォトスに存在していた美術館を改造して作られた、『ゴブリン専用アトリエ』。生徒を捕食し、芸術性に目覚めた特異なゴブリンたちが、作品を作り展示するための場所だった。
「ギャハハハハハ! お前またうんこの絵描いたのかヨ(笑)」
「てめーこソw ちんこの絵ばっか描きやがっテw 下手すぎて右曲がりになってるじゃねーカww」
仮にも美術作品を展示する場所とは思えない、粗野な会話が大声で繰り広げられる。
芸術に目覚めたといっても、ゴブリンの持つ知能は5歳児程度の低級なモノ。彼らにとって絵画とは、身の回りの興味を惹かれたものをそのまま描く、暇つぶしの遊びに過ぎない。
そのため生まれる作品は、デフォルメされた排泄物と性器のイラストや、男子トイレを表すマーク、アヘ顔でイキ狂う生徒の似顔絵など、芸術とは名ばかりの、低俗で下品な落書きだけだった。
芸術に準じてきたあらゆる先人を嘲笑する、あまりに恥知らずで侮辱的な態度。だがしかし、これだけならまだましだったことだろう。
ゴブリンの残虐性。その真髄。
それは彼らの作品そのものではなく、使われる「画材」のほうにこそ、おぞましい形で表出していた。
「………う、ぅぅ…………………」
「いや、いやぁ……………………」
アトリエに満ちる、絶え間ない嗚咽の声。それは部屋の中で唯一人間らしく二足で立つ、ゴブリンのものでは当然なかった。無残な落書きが刻まれた「キャンバス」そのものが、微かに震え、涙を流し、苦痛に喘いでいるのだ。
瑞々しかったはずの肢体を裸に剥かれ、四肢はイーゼルに間抜けな形で磔にされている。もっちりとした白い肌を蹂躙するのは、身体に刷り込まれた二度と消すことのできない墨。この場において彼女たちはもはや人間ではなく、ただ弄ばれる道具に過ぎない。
そう、ゴブリンたちの扱うキャンバスの正体とは、戦争に敗れ、尊厳の全てを剥奪された少女たち─────────その白く健康的な肌を、稚拙な落書きで穢すためだけに存在する、残酷な『人間キャンバス』に他ならなかった。
「………………」
数十の絶望が陳列されたその中で、小塗マキは生気を失った瞳で、虚空をただ見つめていた。かつての天真爛漫な笑顔は影も形もなく、抜け殻となった顔には何の色も浮かばない。
両手両足を『大』の字のようにして大きく広げられ、ぷりぷり♡とした尻や胸を惜しげもなく晒している。太陽のような紅色だった髪はストレスからか一部抜け落ち、老人のように所々白く染まっていた。
乳首には金属製のちんぽ型分銅を取り付けられ、尻穴にはアーティスト気取りの細い絵筆が何本も突き刺さっている。生えっぱなしになっている陰毛は、安物のカラースプレーで、悪趣味な虹色に染め上げられていた。
そして真っ白だったはずの美しい肌には、ゴブリンたちによって描かれた下品な落書きや、『ブス』『便器』『うんこ人間』といった心無い罵倒の数々によって、顔や背を中心に、彼女の愛らしさを侵食するようびっしりと敷き詰められていた。
「………………………」
沈黙を続けるマキの瞳に、希望の色など一片も宿っていない。全身を覆う卑猥な入れ墨を意に介する様子もなく、彼女は感情の全てに固く蓋をしていた。
最初の数日──────それこそタトゥーを初めて刻まれた日は必死になって暴れ回り、人間としての尊厳を守ろうとしたことを覚えている。だが、抵抗の果てに得られたものといえば、思い出すことすら憚れる壮絶な暴力と、針がずれたことでより一層滑稽な形になった、顔の中心に刻まれたちんぽのイラストだけだった。
「ギヒヒw 今日は昨日見つけた犬の糞の絵でも描いてみるかw」
ゴブリンの一人がタトゥーマシンを手に、マキの尻たぶを無造作に持ち上げる。全身を埋め尽くす落書きの中に残された僅かな空白を見つけると、何の下書きも準備もなしに、その針を無慈悲に突き立てた。
「………い、ぎッ…、ふぐッ、……んぎぃ─────!」
ジィーーという無機質な機械音と共に。マキの尻を中心にして、燃えるような、あるいは赤熱した鉄杭を打ち込まれているような、耐え難い激痛が全身を貫いた。幾度となく繰り返され苦痛にも、慣れという救いは決して訪れない。マキは奥歯を砕かんばかりに食いしばり、この拷問が一刻も早く終わることだけを祈り続けた。
対照的に、ゴブリンの手は淀みなく、鼻歌を唄いながら愉快にイラストを描いていく。刻まれる線はいい加減で乱雑であり、マキにとって一生消えないその線が、ゴブリンにとっては遊び程度のどうでもいいものであることが簡単に見て取れた。
「よしッ! 出来タ!!」
数分後。そんな上機嫌な掛け声とともに、マキの身を苛んでいた激痛が止む。安堵の息を漏らすのも束の間、ゴブリンは彼女から奪い取ったスマートフォンで作品を撮影し、その画面をマキの眼前へと突きつけた。
「ほラ、見て見ロ(笑)」
マキの視界に映し出されるのは、自らの尻に刻まれた新たなタトゥー。三重に巻かれ、先端がツンと尖がり、周囲にはホカホカと湯気まで描かれている────────見事なまでに、下品で立派な巻き糞だった。
「ヘヘ、上手くできてるだロ(笑)」
ゴブリンは鼻の下を擦りながら自慢げにそう言ってくるが、マキはただ茫然と、その屈辱的な画像を見つめることしか出来なかった。
下品で、低俗で、くだらない。
あまりにも馬鹿馬鹿しく、悪夢としても現実味のないその光景。
しかしそれは疑いのようない真実であり、彼女がこの先、己の一部として尻に背負っていく、永遠に消えない傷跡なのだ。
「─────…ぅ…ぁ……」
とうに何も感じなくなっていたはずの心が、軋みを上げて揺さぶられる。芸術に惹かれていたマキの─────そのかつての『青春』すら否定されたような落書き。そのあまりの屈辱に、喉の奥から嗚咽が込み上げた。
諦めの中に失われていたはずの感情が、再び形を取り戻し、魂の叫びとなって外に溢れ出ようとする。しかしその産声は、隣のイーゼルに磔にされた少女の絶叫に、突如として掻き消された。
「わ、私! まだ描くところ、あります!! 足の裏も! 顔の真ん中も! おまんこの中だって!! だ、だから──────────だから、『廃棄』だけは許してくださいッ!!」
マキと同年代であろう幼い少女が、にやにやと意地汚く笑うゴブリンに向かって必死に懇願し、惨めにも泣き叫んでいる。彼女の全身には既にびっしりと、おびただしい数の絵柄が敷き詰められ、新たな絵を描く余白はほとんど残されていない。
『人間キャンバス』として使い尽くされ、描く場所を失った哀れな少女たちは、不要な存在として『廃棄』されることになる。『廃棄』となったキャンバスは、リサイクルとしてゴブリンに散々レイプされた後、キヴォトスの全生徒が恐れる『ゴミ捨て場』へと、その身を送られるのだ。
「お願いしますッ! お願いしますッ! わたしで、わたしにまだまだたくさんゴブリン様の素敵な絵を描いてくださいッ♡」
それがどれほど恐ろしい場所であるかは、己を弄んだ仇に向かって尻を振り、無様に媚び続ける少女の笑顔が、何よりも雄弁に物語っていた。皮肉にも、彼女たちはこの狂気の役割を演じている間だけ、真の絶望の終着点から逃れられるのだ。
「──────おイ、せっかくお前のしょぼい身体にイカした絵を描いてやったんダ。何か感想はないのカ?」
隣の惨状に気を取られていたマキに、ゴブリンがスマホを揺らしながら不機嫌に言い放つ。画面では変わらず、お世辞にも上手いとは言えない汚らしい巻き糞のイラストが、彼女の尻の上で湯気を立てていた。
絶望。敗北。無力。
たとえこの一瞬を凌いだところで、訪れる未来は何も変わらない。マキの身に残されている余白はわずかであり、いずれ自分が『廃棄』となる運命は、もはや覆しようが無かった。この先に待つのは、ただ底のない屈辱と恥辱に塗れた、地獄の余生だけだろう。
────────────だが。だがそれでも。
「はいッ………とっても素敵な、─────素晴らしい絵ですっ♡」
瞳から大粒の涙を零し、身体を恐怖で震わせながら。
彼女はそう、嗤った。