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 裸の美女を侍らせて眠るというのは男の憧れだ。

 その美女のスタイルがよければなお良いし、金髪碧眼の白人美少女だったら最高だ。

 だけど今の僕にはそんなことはできそうもない。

 なぜなら、今の僕は男に侍らされる側――つまり、美女側なのだから。

 窓からの柔らかな光に照らされて目を開けると、僕はベッドの上にいた。

 目の前には男の平らな胸がある。少し細めだけど、それは充分男性的な体で――今の僕の体とは大違いだ。

 眠気に惑いながら、自分の体を確かめる。

 ベッドにふわふわ広がるブロンドのウェーブヘアー。細すぎる肩に不釣り合いな巨大すぎる胸。モデルのようにキュッと締まった腰。肉づきのよい尻とそれを支える太すぎる太腿。

 僕からは見えないけど、顔には青い瞳と高い鼻が備わっているはずだ。

 むしゃぶりつきたくなるほどの爆乳をもち、街を歩けばモデルのスカウトを受けるスタイル抜群の白人美少女。それが今の僕の姿だった。

「ん……♥」

 身じろぎすると僕の体が波打った。深すぎる谷間やむちむちの太腿が擦れ合い、胸の先っぽでさくらんぼのように膨らんだピンク色の乳首が揺れた。

 鼓動を高めつつ、眠ったままの男の体に自分の体をぴとりとつける。むにゅ♥ と風船のように膨らんだ胸が男の横胸で潰れていく。

「はぁ……♥ あぁ……♥」

「ふあぁ……」

 僕の動きに反応したのか、男があくびを漏らした。

 そしてまぶたを開くと、真っ直ぐな黒い瞳が僕に向けられた。

「あ♥ おはようシル……ふぁむっ♥」

 僕の挨拶は男の唇によって塞がれた。

 硬いかさついた唇が僕のぷるぷるの唇に重なっている。

 男が顎に手を添えているため、僕は男のキス攻撃から逃げることができない。

「んっ……♥ んん……♥」

 僕の出す喘ぎ声を楽しむように、男は何度も唇を重ねてきた。

 男に無理矢理キスされている。そうだというのに僕の体は火照り始める。

 そのうち男は僕の口に舌を挿し込んできた。

「んちゅ……♥ ふぁああ♥」

 女の舌とは違う分厚い男の舌。それが僕の口の中を舐め回す。

 力強さを感じる動きに翻弄され、僕の体は悶えてしまう。

「ふぃるふぃあさ……♥ ふわぁぁぁ♥ んりゅりゅ♥ ちゅうう♥」

 男に舌を絡め取られ、言葉を封じられる。

 男の黒い瞳は弧を描いていた。この人は僕を感じさせて楽しんでいるみたいだ。

「れろぉ……♥ んちゅちゅう♥ れりゅりゅりゅう♥」

 気づくと僕は男の舌に自分の舌を絡ませていた。

 五月半ばの爽やかな朝に、僕たちはぴちゃぴちゃといういやらしい音を鳴らし続ける。

「ちゅっ♥ ふぁぁぁ♥ ちゅうっ♥ ちゅうううっ♥♥」

 唾液交換を続けるうちに、じんじんと体の奥が熱くなってくる。

 男と異なる体中に広がるような快感――女の子の快感だ♥

「ふぁあぁん♥ れろぉ♥ ……はふぅ♥」

 男が唇を離すと、僕の体はベッドにしなだれおちていった。

 疼く体をもじもじとすり合わせていると、男が爽やかな笑いを浮かべた。

「おはようございます。カミサワさん」

「あん……♥ お、おはよう♥ シルフィアさん♥」

 僕は甘い声で男――シルフィアさんに挨拶を返す。

 元自分の顔を見つめながら、僕はここに至るまでのこと――僕とシルフィアさんの体が入れ替わる前のことを思い出していた。


◆   ◆   ◆


 私立姫の宮学園は進学校で有名だ。

 高い偏差値に安い学費。そんなところに僕なんかが入学できたものだから、両親はすごく喜んでくれた。

 四月初め。入学式を終えた僕はこれから楽しい学園生活が始まると確信していた……結果から言えばその考えは甘かった。

 僕は内向的で人と交流の持ち方を知らなかった。小学校でも中学校でもぼっちだったし、スポーツ系の趣味もインドア系の趣味も持っていない。たまに気を使って話しかけてくれる人はいたけど、無趣味な僕とは話が合わなかった。

 唯一得意と言える勉強もこの進学校では下の方。なんの取り柄もない僕は流されるようにぼっちになってしまった。きっとこれから先もこうしてずっと一人で過ごしていくんだろう。

 そんな諦めを抱いていた四月半ば、僕らのクラスに留学生がやってきた。

 外国から来た少女は白い肌を輝かせ、透き通るような声で自己紹介をした。

「トラスラント公国から留学してきましたシルフィア・イン・トラスラントです。わたくしは日本の文化を学ぶため、そしてトラスラント公国の文化をこの国に広めるためにやってきました。みなさん。わたくしのことはお気軽にシルフィアとお呼びください」

 その白人金髪美少女――シルフィアさんがぺこりと頭を下げると、ゆさっ♥ と彼女の胸に備わった巨大なおっぱいが揺れた。

 お嬢様言葉の日本語は時代錯誤な気もしたけど、彼女の雰囲気とはとても合っていた。

 彼女を見て鼓動が高鳴った。一目惚れ……というよりも憧れと言ったほうがいいかもしれない。彼女を見ているだけで癒やされるような気がした。

 そして僕はその心を閉まっておくことにした。

 僕には友だちもいなければ趣味もないし、取り柄もない。容姿は悪くないと言われたこともあるけど、悪くないと言うだけでいいわけじゃない。

 僕なんかがシルフィアさんと知り合えるはずがない。

 そう思って僕は机に伏せる生活を続けていると――あの事件が起こったんだ。


 五月初頭。ゴールデンウィークも過ぎたある日、僕は下校するために校庭を歩いていた。

 面倒くさがらずになにかの部活動に入っておけばよかった、なんて後悔しつつ、校門へ向かって歩いていると、視界の隅に金色の頭が見えた。

 はっと気づいてそっちを向くと、シルフィアさんが花壇の前でうずくまっていた。

 色とりどりの花を見下ろす彼女はまるで花の妖精に見えて……気づくと僕は吸い寄せられるように彼女のそばに歩いていた。

「あら、あなたは……」

 ゆったりとした声とともにシルフィアさんが振り向いた。

「あ、あの。僕は……」

 彼女のそばに立って気づく。僕は彼女に話しかける用事なんてない。

 な、なにをやってるんだ僕は?

「うふふ、カミサワさん。ごきげんよう」

 彼女の口から僕の名前が発され、僕は天にも昇る気持ちになった。モブキャラに過ぎない僕のことを覚えてくれてるなんて……。

「し、し、シルフィアさんは、な、なにしてるの?」

「わたくしはお花を見ていたのですわ」

「お、お、お花?」

「ええ、わたくしの国では気候の影響でこういった花は育っていません。珍しくてつい夢中になってしまいましたの」

 彼女が花壇の方を向いて花たちを指し示す。

 僕にはどうということではない花たちでもシルフィアさんにとっては異文化の象徴ということらしい。

「そ、そ、そうなんだ……あっ……」

 その時僕は気づいてしまった。シルフィアさんのスカートの後ろ側がめくれあがり、大きなお尻と花の刺繍が施されている白ショーツが丸見えになってることに!

「カミサワさん。どうしましたの?」

「い、い、いやなんでもないよ……」

 パンモロ中ということに気づいていないらしく、シルフィアさんは僕を心配そうに見上げている。

「お腹が痛むのですか?」

「だ、だからなんでもなくてぇ……」

 ふわりと漂うシルフィアさんの甘い香り、困り顔の整った顔。震える彼女の爆乳。そのすべてが僕の下半身に血を滾らせる。

 だ、ダメだ。本格的に勃っちゃった……ここから離れよう……。

 この場を去ろうと僕が足を踏み出すと、シルフィアさんが僕の腕を掴んだ。

「お、お花を踏まないでくださいまし!」

 必死で気づけなかったが、僕が踏み出そうとした先には花壇があった。

 僕は慌てて腰を引くと、シルフィアさんに寄りかかる形になってしまった。

「ご、ごめん……んむっ」

「んっ……」

 首を横に向けると、唇にやたらと柔らかい感触が訪れた。

 瞳の前にはシルフィアさんの大きな瞳。それが驚きによってさらに大きく見開かれている。 僕、もしかしてシルフィアさんとキスしちゃってる?

 自覚した直後――僕の意識は一瞬途絶えた。

 なにか大きなものによりかかられて体がよろめく。

足で踏ん張ろうとしたが、なぜか体がふわふわとして、そのまま尻もちをついてしまった。

「きゃんっ」

 まるで女の子のような悲鳴が僕の口から飛び出す。いや、まるでというか、本物の女の子のような高い声のように聞こえた。

「いたたた……え?」

 やけに大きく感じるお尻を撫でていると、僕の胸でなにか大きなものがゆさゆさっ♥ と揺れていた。

 見下げると、僕の胸は風船のように大きく盛り上がっていて、その上には女子がつけるようなかわいらしいリボンが置かれていた。

「なに、これ……?」

 ほっそりした手を胸の上に置くと、巨大な脂肪がぷにゅっ♥ と潰れた。

 太腿から下に外気を感じる。どうやら僕はスカートを履いているようだ……この一瞬で女子の制服に着替えさせられたのか? 誰に? なんの目的で?

 混乱しつつ見上げると、男子生徒がきょとんとした顔で僕を見下ろしていた。

 その男子は細い体にぶかぶかの学生服を身に着け、股間をもこっと膨らませていた。

「ぼ、僕がいる……?」

 僕を見下ろしているのは紛れもなく『神澤澄則』だった。

 突然現れたドッペルゲンガーは眉間にシワを寄せ、自分の手を見つめていた。

「一体これはどういうことですの……?」

『僕』はお嬢様のような口調で話している。その似合わない言葉遣いを聞いて、僕はひとりの人物を連想した。

 もしかして、目の前のこの男子は。いや、この男子の中身は――

「も、もしかして君は……シルフィアさん?」

 僕が尻もちをついたまま問いかけると、自分の平らな胸を触っていた男子生徒は黒い瞳で僕を見つめた。

「え、ええ。わたくしはシルフィア・イン・トラスラントですが……あなたは?」

 どう見ても日本人男子のその男子生徒は、ヨーロッパ生まれの美少女の名前を名乗った。 

「ぼ、僕は神澤澄則だよ……」

 僕が女の子の声で名乗ると、その男子――シルフィアさんは震えた声で僕たちに起こったことを総括した。

「つまりこれは――わたくしたちの肉体が入れ替わったということですの?」


 立ち上がるとますます体が落ち着かない。

 さらさらの金髪は腰まであるし、豊満な胸は常にふるふる♥ と揺れている。腰は細いのに尻や太腿が大きいせいで少し動くだけでも重心が変わってしまう。

 外から見ていた時はナイスバディだなとかえっちだなとか思うだけだったけど、中に入ると動かしづらすぎてたまらない……アソコになにもついてないって、こんなに安定感ないんだ。

「なぜこんなことが起こったのでしょう……?」

 僕の体になったシルフィアさんは額に指を当てて考え込んでいる。ちなみに『僕』の股間は平らになっていた。この異常事態に萎れてしまったらしい。

 勃起を知られなかったことにほっとしていると、胸についた巨大な脂肪ががぶるんっ♥ と震えた。この胸ってこんな小さな動きでも派手に動いちゃうんだ……。

「一度同じことを試してみましょう。そうすればまた入れ替わりが起こるかもしれませんわ」

「同じことって?」

「また同じ場所に立ってキスをするのですわ」

「き、キス!」

 その提案に寒気が走る。

 目の前の人物は中身はシルフィアさんでも見た目は自分であり、男子だ。男である僕が男とキスをするなんて。同性愛者じゃないんだしそんなの嫌だ。

 というかさっきのあれはやっぱりキスだったんだ。事故とはいえ、僕がシルフィアさんの唇を奪ってしまったのか……あれ、今は奪われた方なのかな?

「あら、日本語では接吻や口づけというのでしたか?」

「い、いや、大丈夫。つ、伝わってるから……」

「それはよかったです。では早速再現しましょう……今はカミサワさんが『シルフィア』なので、わたくしがいたところにお願いしますわ」

 突然男子の体になったのに、なんでシルフィアさんはこんなに冷静を保ててるんだろう。

 そんなことを考えながら花壇のそばにうずくまると、むぎゅぎゅっ♥ とおっぱいがむちむちの太腿に押し当てられた。

 こ、こんなえっちな体が今の自分なんて……は、早く戻らないと変になっちゃうよ……

「おそらくこのあたりでカミサワさんが腹痛を訴えていたのですわね」

 後ろからシルフィアさんの低い声が聞こえる。

 彼女は僕が勃起していたことを腹痛だと思っているらしい。流石に勃起してたことは言いたくないから黙っておくけど……あれ、そしたら僕もパンチラしなくちゃいけないのかな?

「そして花壇に踏み込みそうになったカミサワさんの手をわたくしが引いて、唇が重なった……そうですわね?」

「う、うん……」

「ではわたくしの手をお願いいたします」

 お腹を抑えたシルフィアさんのそばに立ち上がる。

 外から見た『僕』はやけに背が高く見えた。女子から見た男子ってこんな風に見えるんだ。

 僕は男子制服の袖に手を伸ばし、しがみつくようにして引っ張る。

「え、えいっ」

 シルフィアさんがわざと足をもつれさせて僕によりかかってくると、その腕が僕の爆乳の間でぎゅっ♥ と挟まれた。

 『僕』の顔が近づいてくる……こ、このまま僕、男にキスされちゃうの?

「きゃっ」

 体を抱きしめられて声が漏れてしまう。

 シルフィアさんの真っ平らな胸板に僕の巨大な胸が押し付けられ、むにょん♥ と潰れる。

「ひゃん♥ ……し、シルフィアさん。なにを……」

「すみません……そのまま転んでしまいそうだったので、つい」

 僕の小さな体をすっぽりと抱きしめながら、シルフィアさんは少し赤くなった顔で僕を見つめた。

 そして肩を掴むと、再び僕に顔を近づけてきた。

「では試しますわ」

「う、うん……」

 元に戻るなら仕方がない。覚悟を決めた僕がぎゅっと目をつぶると、すぐにかさついた唇が僕の弾力のある唇に重なった。

 ちゅっ♥

 僕、男の子と……自分とキスしちゃってる……。

 なぜか嫌悪感はなかった。中身がシルフィアさんだからなのかも。

 ゆっくり目を開けていくと、そこには変わらず『神澤澄則』が立っていた。

「ううん、戻りませんわね……もしかしたら、舌が入ったりしたのでしょうか?」

「し、舌って……」

 シルフィアさんの発言に顔が熱くなる。よく覚えてないけど、校庭でディープキスなんてできるわけがないよ。

 僕らがそうやって見つめ合っていると、遠くの方から男の声がした。

「おーい、君たちなにいちゃついてるんだ。部活がないなら早く帰りなさーい」

 そちらを向くと、初老の先生が立っていた。どうやら僕らを恋人同士だと思っているらしい。

「あ、いえ、その……」

 僕らはこの花壇そばでキスをして入れ替わった。ここから離れれば入れ替われなくなるかもしれない。かといって入れ替わりなんて現象をどうやって人に伝えていいかわからない。 

「はーい、わかりましたー……行こう。シルフィア」

 『僕』となったシルフィアさんはそう言うと、僕の手を引いて花壇から遠ざけた。

「え、な、なんで?」

 疑問の声をあげても今の僕は男の力には逆らえない。

 校門へと歩きながら、シルフィアさんが僕の耳元に顔を近づけてきた。

「監視がある前でキスを試すのは危険です。立入禁止にされては検証することもできなくなりますわ……今は引きましょう」

 同じ入れ替わり現象の被害者だというのに、シルフィアさんはどこまでも冷静で、僕はただ金髪と爆乳を揺らして弱々しくうなずくしかなかった。


◆   ◆   ◆


 ふたりきりで話しあうため、僕たちはシルフィアさんの家に向かった。

 シルフィアさんは姫の宮学園近くの高級マンションに一人で住んでいた。エントランスに受付人がいるマンションなんて初めて見たよ……シルフィアさんいわく、あの人達はコンシェルジュというらしい。

 エレベーターに入り、丈の短いスカートやニーソックスにもじもじしていると、あっという間にシルフィアさんの部屋についた。

 その部屋は一人暮らしということが信じられなさそうなくらい広かった。リビングもキッチンもデザインが凝っていて、ところどころにヨーロッパ系のインテリアが飾られていた。

 シルフィアさんに手で示され、僕は椅子についた。

「改めて自己紹介をいたします。わたくしはシルフィア・イン・トラスラント。東ヨーロッパにあるトラスラント公国から来日した国家元首ヨハネス三世の第三公女ですわ」

「……公女?」

「トラスラント公国は公爵が治める国家ですもの。わたくしはその娘ですので……」

 つまり、彼女は王様の娘ということらしい。お姫様っぽいと思っていたけど、本当にお姫様だったなんて……。

 僕が衝撃を受けていると、シルフィアさんは黒い目で僕を見つめてきた。自己紹介をしてくれということらしい。

「ぼ、ぼ、僕は神澤澄則。日本の……男です」

 シルフィアさんの美しい声で話しながら、自身の持つ情報の少なさが恥ずかしくなった。人生経験の薄さを告白しているみたいだ。

「カミサワさん。どういうことかわたくしたちは入れ替わってしまいました……心当たりや解決法はご存知ですか?」

「ご、ごめんなさい……なにも思いつかない……です……」

 シルフィアさんに言われて思い浮かべてみたけど、入れ替わった原因や理由なんてなにも思いつかなかった。

「わたくしも同じなので謝る必要はありません……これから一緒に考えていきましょう。ひとりでは解決できない問題もふたりが力を合わせれば切り開けるはずですわ」

 僕が縮こまっているのを不安に思っていると勘違いしたらしい。

 僕を勇気づけるシルフィアさんは、『僕』の顔だって言うのにかっこよく見えた。

「しかし、原因がわからないことは困りますわね……キスをしても元に戻れませんでしたし……もしかすると、花壇の花が原因でしょうか……脳が入れ替わっているわけではないのに記憶や知識は元のままですし……」

 そう言ってシルフィアさんはぶつぶつと呟いた後、諦めるように肩を落とした。

「ともかく、元に戻るまではお互いの生活を交換するしかありませんわね……」

「う、うん……そうだよね……」

 入れ替わりの原因がわからない限り、僕らは生活を交換するしかない。

 周りに話したところで信じてもらえないだろうというのは、僕とシルフィアさんの共通意見のようだった。

 でも、僕なんかがシルフィアさんとして生活できるのかな……?

 僕が悩んでいると、なぜか体がぶるりと震えた。

「どうしましたの?」

「い、いや、なんかお腹が変で……」

 お腹の下辺りが膨れる感覚……なんだろう?

 せりあがるような感覚はどんどん大きくなり、全然収まっていかない。膨らむような、追い立てられるような……

 そこで僕はこの感覚のことを理解した。というか思い出した。これは――

「と、トイレ!」

 これは尿意だ。シルフィアさんの体がおしっこに行きたがっているんだ。

 慌てて立ち上がって気がついた。僕はこの部屋のトイレの場所を知らない。それに女の子のおしっこなんてしたことがない。

 それでもトイレに行かないと……!

「きゃうっ」

 そう思ってかけだそうとすると、フローリングでニーソックスを滑らせてしまった。

 僕は地面に大きなお尻をぶつけてしまい、その衝撃で――

「カ、カミサワさん。大丈夫ですか?」

「あ、あ、あ、あ……」

 ちょろ……と僕の股間から温かいものが漏れ出した。

 今の僕にはおちんちんがなく、その代わりにシルフィアさんのおまんこがある。

 一旦緩められたおまんこを締める方法なんて今の僕にはわからない。お腹の中の液体が割れ目からどんどんとこぼれていく。

「いやぁぁぁぁあん……」

 僕が拒否してもおしっこは止まらない。

スカートから黄色い液体が漏れ、きれいなフローリングを汚していく。

「はぁああああ……やぁぁあん……あぁん……」

 僕が悶える様子をシルフィアさんは呆然とした表情で眺めていた。

 僕、シルフィアさんの体で、シルフィアさんの前でおもらししてる……

 情けなくて、恥ずかしくて、僕の目尻が熱くなった。

「やぁあぁぁ……うぇぇぇ……」

 目から涙がこぼれ、爆乳の上に垂れていく。

 股間からは引き続きおしっこがじょわぁぁぁと漏れ、周りにアンモニア臭を漂わせていた。

「あぁん……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 謝っても謝っても涙もおしっこも止まらない。

 あそこからはしたなく尿を漏らしながら、僕は子どものように泣きじゃくるだけだった。


「気にすることはありません。異性の体なのですから。ミスすることは当然ですわ」

 僕の出したおしっこをタオルで拭きながらシルフィアさんはそう言った。

 彼女は自分の体でされた粗相を気にしないどころか、申し訳なく思っているようだ。

「体が汚れてしまいましたから、きれいにしましょう」

 シルフィアさんに手を引かれ、僕は脱衣所に連れてかれた。

 今、洗面所の鏡にはシルフィアさんが立っている。涙のせいで目と鼻が少し赤らんでいるけど、そんなところもきれいに見える……スカートはおしっこで濡れてるけど。

 でも、体をきれいにするってことは、僕がシルフィアさんの体でお風呂に入るってことだよね……僕に裸を見られてもいいのかな?

「ではカミサワさん。制服をお脱ぎください」

「制服を……って、ええっ? ぼ、僕が脱ぐの?」 

 僕が肩をびくりと動かすと、たぷんっ♥ と存在感たっぷりのおっぱいが揺れた。

「ええ。これからしばらくあなたはシルフィアとして生活するのですから、服の脱ぎ方くらいは覚えていただかないと」

「い、いやそうだけど……で、でも僕は男だよ。男には、はだ、裸を見られてもいいの?」

「今のあなたはシルフィアという女子ですわ。女子に自分の裸を見られてもわたくしはなにも思いません」

そのきっぱりとした口調に押し切られ、僕はシルフィアさんのサポートを受けつつ服を脱ぐことになってしまった。

 リボンをほどき、上着を脱いで、シャツを外し、スカートを下ろす。巨大なブラジャーのホックに手をかけると、ぶるるるんっ♥ とこぼれるように胸が溢れ出た。

「ひゃうっ」

 鏡にはかわいらしい声を上げて顔を真っ赤にしているシルフィアさんが立っていた。もちろんその大きい胸には布なんてなにもなくて、代わりにきれいな色の乳首がぷっくりと……

 思わず顔をそらしてしまう。あんなきれいな人の裸をこんな形で見ることになるなんて思わなかった……頭がくらくらする……

「ショーツの下ろし方は……わかりますわね?」

「う、うん……」

 シルフィアさんは制服をまくりあげていた。少し顔が赤く見えるのは彼女も流石に恥ずかしいのかもしれない。

 ぼんやりとそんなことを考えつつ、僕はショーツに手をかけた。おしっこを漏らしたせいで純白の生地が黄色に染まっていて、僕の顔はますます熱くなった。

「では、お風呂場に行きましょう」

 服を脱ぐだけで疲労困憊の僕は、シルフィアさんに手を引かれて風呂場に入った。

 その風呂場からは高級な印象を受けた。大理石でできた壁。数人が入れそうな大きな浴槽。そして壁一面の鏡……

 そこに映っていたのは生まれたままの姿で立っている美少女だった。ふわふわした金髪を持ち、形のいい大きな青目を見開いている。陶磁器のような白肌を持った手足は折れそうなほど細く、それとは逆に胸や尻は大きく外に突き出ている。

 そしてぺたりと平たい股間にはなにもついておらず……いや、あの下にはアレがついてるはずだ。シルフィアさんのおまんこが……

 僕の頭は沸騰しそうになった。この体は僕みたいな男子には刺激が強すぎだよ……

「ちょうどいいですから、このまま体も洗ってしまいましょう」

「は、はいぃ……」

 椅子に座るとさらに鏡が近くなって、シルフィアさんの血色のいい乳輪と乳首を間近で見ることになってしまった……こ、これ以上見てたら鼻血が出ちゃうよ……

「シャワーをかけていきますわね」

 シルフィアさんが手に当てて温めたシャワーが僕の太腿に当てられる。

 温かい感覚とともに足にこびりついていた尿の跡が流されていく。緊張は続いているけれど、きれいになったことにひとまず安心感を覚える。

「足から洗いますから、じっとしていてくださいませ」

 そう言うと、僕の体のシルフィアさんがスポンジを這わせてきた。

 男の子の力のコントロールができていないようで、シルフィアさんは僕のむちむちの足に手を食い込ませていた。そしてその手は下腹部のさらに下に滑っていって……ぴりっ♥

「あふっ♥」

 股の間を撫でられて、僕の口は高い声を上げていた。

「どうしましたの?」

「あ、あの……なんか……へ、変な感じで」

 気まずそうにする本人の前で、僕は曖昧にごまかしてしまった。

 おまんこを撫でられて気持ちよかったなんて言えるわけないよぉ……。

「力が強かったかもしれませんわ。わたくしも男性の力加減を学ばないといけませんわね」

「う、うん……そ、そうだね……んっ……♥」

 その後も僕はシルフィアさんの愛撫のような洗いに耐えることになった。

 歯を食いしばって耐えていたけど、流石に乳首をこすられた時には耐えられず、激しい喘ぎ声を出してしまった。


 入浴を終えた後、シルフィアさんは『神澤澄則』として神澤家に帰っていった。

 シルフィアさんが用意してくれた食事を食べ終えて、シルフィアさんの自室に入る。

 他の部屋と同じく、どの調度品もオシャレで、女の子の部屋というよりは高級オフィスのように見えた……まあ、高級オフィスなんてドラマでしか見たことないんだけど。

「ふぅ……」

 ため息をつくと、胸がゆさっ♥ と揺れた。

 今の僕は肩と足をほとんど出したネグリジェを着ている。かなりセクシーなので僕としては遠慮したかったんだけど、これはシルフィアさんが毎日着ているものらしい。僕も慣れるしかないのかな……。

 大きなベッドに腰掛けてシルフィアさんの携帯電話にパスワードを入れると、『神澤澄則』からメッセージが入っていた。

『今日の出来事はふたりだけの秘密です。解決方法については一緒に考えていきましょう。先程も言いましたが、ひとりでは難しい問題でもふたりならば解決できるはずです』

『学園ではできるだけ自分もフォローします。それによって人間関係が変わってしまうことがあると思いますが、定期的な情報交換でカバーしていきましょう』

『完璧な演技はしなくても大丈夫です。違和感をもたれないことを目的に動いていきましょう。都合の悪いことが起きた時は寝不足や体調不良を訴えてください。今日のところは友人からのメッセージは無視して大丈夫です』

 シルフィアさんはお互いの生活を守るためにオンライン文章も作成してくれるらしい。

 彼女はすごい。突然冴えない男子生徒になったっていうのにまったくうろたえていない。そればかりか僕へのフォローまでしてくれている。

 僕は事態に対応できずにうろたえて、おもらしして、泣きじゃくっただけ……。

「せめてシルフィアさんの評判を傷つけないようにしなくちゃ……」

 明日からは僕がシルフィアさんとして学校に行くことになる。

 発言だけではなく、一挙一動がすべてシルフィアさんの評価につながってしまう。細心の注意を払って過ごさなくてはいけない。

 電気を消した僕はシルフィアさんの匂いのするベッドに横たわった。

 いつかは彼女を助けられるようになりたいな……。

 そんなことを考えつつ、僕はシルフィアさんとして眠りの世界に入っていった。


(後編に続く)

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