トータルコーディネート -逃げ場のない女装選択-:10 (Pixiv Fanbox)
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きっかけの店員さん
パンツを穿き替えて、僕はいつものように駅の階段を降りる。
(……今日も、ちゃんと予備持ってきて正解だったな……)
足早に服屋さんへと向かう。僕が女装するきっかけになった、あの服屋さんに。
テナントが入っているショッピングモールに着いた。
相変わらず週末は人が多い。
初めて女装した日は、早く女の子の服を脱ぎたくて、必死にトイレを探して走り回っていたのに。
今では、自ら女装を選んで、悠々とモール内を歩いている自分がいる。
視線が集まるのも、むしろ少し嬉しいくらいだ。
(……変わっちゃったな、僕)
お店に入ると、あの店員さんがすぐに気づいてくれた。
レジカウンター越しのにこっとした笑顔が、いつものように優しい。
「凌空ちゃん、こんにちは!今日も可愛いね。もうすっかり常連さんだね」
あの最初の一回、なすがままに女装させられて、店頭で震えてた自分が嘘みたいだ。
僕は少し照れながら、「春っぽいコーデがいいです」と、伝える。
彼女は目を輝かせて、すぐに棚を回り始めた。
「じゃあ、今日はショート丈のブラウスをメインに持ってこようか。おへそもチラ見せできるし、春にぴったりだよ。黄色のボウタイに合わせたリボンのヘアアクセもセットになってるんだよ。グリーンのチェック柄のミニスカートで、優しい春の女の子って感じになると思う」
試着室のカーテンを閉めて、まずはブラウスから。
ボタンを留めていくと、柔らかな生地が胸のあたりを優しく撫でて、肌がぴりっと敏感に反応する。
袖を通すと、腕全体を包むような軽い感触が心地よくて、思わず鏡の前でくるっと回ってみた。
次にミニスカート。
腰に当ててファスナーを上げると、ヒップラインにぴったり沿って、裾が太ももの中ほどでふわっと広がる。
黄色のリボンクリップとブラウスのボウタイで、全体のコーデがまとまる。
鏡の中の自分は、表情も含めて、もう完全に「女の子」だ。
カーテンを少し開けて外を見て、店員さんを呼んだ。
「あっ……どうですか?」
彼女は僕の姿をじっくり眺めると、ふっと目を細めて満足そうに頷いた。
「うん、完璧。凌空ちゃんってほんと、何着ても似合うよね……!」
女の子の服が「似合う」と言われると、今はもう本当に素直に嬉しい。
つい顔が緩んでしまう。
その時、店員さんがそっと近づいてきて、
まわりに聞こえない小さな声で耳元に囁いた。
「……ねえ、凌空ちゃん。もしかしたらさ……今日も来る途中、痴漢されて……イっちゃったでしょ?」
「!?……わ、わかりますか……」
照れた感じで目を逸らすと、彼女はくすくす笑った。
「分かるよ。顔がちょっと火照ってるし、歩き方が内股気味だし……なにより……雰囲気で分かるよ」
「そ、そんなに分かるものなんですか……?」
彼女は周りを見渡し、店頭にお客さんが少ないことを確認すると、静かな声で話し始めた。
「凌空ちゃんには言ってなかったけどね……わたし、昔は男だったんだよ」
「えっ!?ほ、ほんとですか?」
目が大きく見開いて、息を飲む。
彼女は穏やかに微笑んで、ゆっくりと過去を語ってくれた。
「うん、そうだよ。わたしね、昔、プレゼントを買うために百貨店のコスメフロアにいたの。そしたら、あるブランドの美容部員さんが声をかけてきて……。
“メンズメイクのお試し”って言うからお願いしたら、まるっきり女の子メイクをされちゃって……」
「そのまま彼女とデートに行ったら、彼女も彼女で、わたしを女の子扱いしてきて。最終的には性転換手術までしちゃった」
「でも、今の自分が本当に幸せで、後悔なんて一つもないの。だから、今はこのお店で『あっ、この人、女の子の服、着てみたいんだろうな』って人を見つけると、
トータルでコーデして、着せてあげてるの。要は……きっかけを作ってあげるのよ。自分がしてもらったみたいに」
「塚川さんが男だったなんて、想像できないです!信じられないくらい……綺麗ですし、女の子そのもので……すごいです」
塚川さんはふふっと笑って、僕の頭を軽く撫でた。
「ありがと。だからね、凌空ちゃんがお店に来る前にイっちゃったってのも、なんとなーくわかるんだよ」
◆
会話を終えて、僕は塚川さんに選んでもらった春服コーデを一式、その場で購入した。
「タグ、切ってもらえますか?今からお姉ちゃんとご飯に行くので……この服、見てほしいんです」
塚川さんはにこっと笑って、ハサミを手に取る。
「凌空ちゃん、お姉ちゃんと本当に仲いいよね」
「昔はちょっと怖かったんですけど……女の子の服を着るようになってから、急に仲良くなっちゃって」
「へえ~、女の子同士だと服の貸し借りとかできて楽しいよね! ……あ、凌空ちゃんはまだ一応、男の子なんだっけ。ふふっ、また絶対寄ってね!」
ショッパーを手にモールを抜けると、春の柔らかな陽射しが新しい服に優しく降り注いだ。
白いブラウスも、風に揺れるスカートも、まるで僕の肌の一部になったみたいに自然で、心地いい。
お姉ちゃんは朝から美容室に行っている。
待ち合わせの時間まであと少し。ランチの約束だ。
(……新しい服、お姉ちゃんにどう見られるかな)
胸の奥が小さく跳ねる。
恥ずかしいような、嬉しいような、期待のような……
そんな気持ちがふわふわと広がっていく。
【第11章につづく……】