Home Creators Posts Import Register Favorites Logout

Content

非日常な日常の始まり

「それじゃ……行ってきます」


俺は作り笑いを浮かべ、ドアを開けた。

朝の冷たい空気が頬を撫でる。


いつもと同じ通勤路が、今日はまるで違う世界のように見える。

朝の挨拶を交わすの同じマンションの人たち、見慣れた信号機、いつものコンビニ。


どれも変わらないはずなのに、すべてが俺を監視しているように感じる。


(今日の帰り……この道を、セーラー服で歩くんだ……)


スーツの内側で、白のパンティが尻の割れ目に食い込む。

ブラのストラップが肩に軽く食い込み、胸元を締め付ける。


足が自然と速くなる。

胸の奥で、羞恥と恐怖と、抑えきれない奇妙な興奮が静かに渦を巻く。


俺は深く息を吸い込み、いつもの駅へと足を進めた。

長い一日が、始まる。


◆


オフィスに着き、デスクに座る。

椅子に腰を下ろした瞬間、ほっと息をついた。


しかし、カバンがいつもより一つ多いため、隣の席の吉川さんがすぐに目を止めた。


「藤岡さん、今日は荷物多いですね!」


(うっ……中身を見られたら終わりだ……セーラー服、ウィッグ、メイク……全部入ってる……)


俺は慌てて笑顔を作り、声を抑えて答えた。


「帰りにジムに寄ってから帰ろうかと思ってね」


吉川さんは目を丸くして笑う。


「えー、藤岡さん、全然太ってないのに!私なんかつい食べ過ぎちゃって……」

なんとか誤魔化せた。

しかし、胸の鼓動は一向に収まらない。


お昼休みになり、昼食を済ませてトイレに行きたくなった。

カバンからナプキン入りの小さめのピンクのポーチを取り出す。


(……また、これを持っていくのか……男子トイレで、こんなものを……)


息を殺して平然を装い、廊下を歩く。

男子トイレの扉を開けようとした瞬間、運悪く他部署の社員とすれ違った。


「あっと、お疲れ様……です……」


挨拶を返すと同時に、彼の視線が俺の手に持ったポーチに止まった。

顔は知っている程度で、ほとんど話したこともない相手だ。

なのに、その目がポーチを一瞬、凝視したのは間違いなかった。


(見られた……よな?今、絶対に……)


ピンクのポーチを男子トイレに持ち込む姿は、明らかに怪しかっただろう。

中身までは分からないはずなのに、背中が熱くなる。


個室のドアを閉め、鍵をかける。

俺は大きなため息をついた。

(変な風に思われてなければいいけど……)


用を足しながら、今日の帰宅を思う。


(この後……本当にセーラー服に着替えて、家まで帰るのか……)


羞恥で頭がぼーっとする。

それなのに、下着を下ろした股間が、じんわりと熱を持ち始めていた。


個室の狭い空間で、自分の惨めさが胸に突き刺さる。

羞恥と興奮が混じり合い、息が浅くなった。


◆



夕方、就業時間が終わる。

仕事用のカバンは必要ないため、こっそり自分のデスクの下に隠しておく。


財布とスマホだけをジャケットの内ポケットに入れ、俺はセーラー服が入ったカバンを手に取った。


「あっ、藤岡さんお疲れ様です!ジム、頑張って下さいね」


吉川さんがなんの疑いもない笑顔で見送る。


「お、お疲れ様……ありがとう」


内心は今からの事を考えるだけで全く落ち着かない。

なんとか挨拶を返し、会社を後にした。


ここからが今日の本番だ。

俺はいつも使う最寄り駅ではなく、一駅分歩いて隣の駅を選んだ。

少しでも会社の人に見つかるリスクを避けるためだ。

人通りの多い改札を抜け、トイレを探す。


(よく考えたら……男子トイレで着替え終わった後に、あの格好で個室から出てくるのって……かなりヤバくないか?)


焦りながら駅構内をうろつく。

多目的トイレで長時間占領するのも迷惑になる。


そんな事を考えていると、なんとか人気が少ないトイレを見つけ、個室に入り、カギを掛けた。


スーツを脱ぎ、ワイシャツを畳む。

男子トイレの個室で、ブラとパンティ姿になる。

その姿はなんとも滑稽で惨めだった。


カバンからセーラー服を取り出す。

紺色の生地を頭から被り、ファスナーを上げる。

スカートを腰に通し、裾を整える。


次にウィッグ。

事前にセットしておいた髪を軽く整え、丁寧に被る。

前髪を指ですき、自然に見えるよう調整する。


メイクを始める。

ファンデーションを薄く伸ばし、アイシャドウを入れ、唇にグロスを塗る。

愛に教わった通りに、頰にも軽くチークを入れる。


鏡に映る“康介”が、“18歳の瑠香ちゃん”に変わっていく。

トントンッ


そのとき、個室のドアがノックされた。

心臓が激しく跳ね上がる。


俺は声を出せない。

喉が凍りついたように動かない。


トントンッ!


ノックがもう一度。

俺は震える声で、かろうじて答えた。


「……もう少し、かかります……」


足音が遠ざかる。

ほっと息を吐くが、心臓の鼓動はすぐには落ち着かない。


——一通り準備が終わった

セーラー服の裾を直し、カバンにスーツを詰め込み、鏡で自分を確認する。

そこにいるのは、完全に女の子の瑠香ちゃんだった。


(これで……家まで帰らなければならない……)


個室のドアに手をかける。

外に出た瞬間、誰かに見られるかもしれない恐怖が全身を包む。

愛の待つ家までの道のりが、今日ほど長く感じたことはない。


俺は外に人の気配が感じない事を確認して、そっとドアを開けた。



【7章につづく……】

Files

Comments

No comments found for this post.