優しい妻のセーラー服調教:7 (Pixiv Fanbox)
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いつもの帰り道
誰もいない。
そう確認してから、俺はそっと個室の外へ出た。
白い照明の下、洗面台の鏡に映るのは紛れもない“瑠香ちゃん”だった。
自分がセーラー服姿で男子トイレに立っているという事実に、心臓の鼓動が早くなる。
(……もう、行くしかない……)
ここでモタモタしていれば、いつ人が入ってくるかわからない。
気まずいどころか、最悪の場合——。
俺はカバンを胸に抱き締め、足早に男性トイレの出口へ向かった。
扉を開けた瞬間、駅構内の喧騒と視線が一斉に流れ込んできた。
視線を上げられない。
ただ、スカートの裾が脚に触れる感触だけが、やけに鮮明に肌を這う。
ホームへ向かう途中、前から女子高生のグループが歩いてきた。
俺は反射的に肩を縮め、視線を床に落とした。
「……ねえ、あれって……?」
「……えー、マジ?」
「……ウソでしょ?」
すれ違いざまに聞こえた囁きが、背中に鋭く突き刺さる。
(俺の話……?)
怖くて振り返れない。
自分とは全く関係のない話だったのかもしれない。
それでも『自分のこと』だと思い込むだけで、手のひらにじんわりと汗がにじむ。
(気にするな……誰も俺の事なんて気にしていない……)
そう自分に言い聞かせながら、俺は今にも潰されそうな気持ちを抱えてホームに着いた。
◆
ホームは案の定、帰宅ラッシュの人混みで溢れていた。
スーツ姿のサラリーマン、疲れた表情のOL、部活帰りの学生たち。
その中に、俺は紛れもなく異物として混ざっている。
セーラー服を着た、18歳の女の子として。
(無理だ……やっぱり無理……)
逃げたい衝動が喉まで込み上げる。
しかし、ここで逃げたところで状況は変わらない。
心の中で葛藤していると、電車が到着した。
ドアが開き、人波に押されるように乗り込む。
「っ……」
吊り革を掴もうと腕を上げた瞬間、脇腹に複数の視線が集まる気がした。
向かいに座っていたサラリーマンが、ちらりとこちらを見ている。
その視線がゆっくりと上下に動き、セーラー服の胸元からスカートの裾までを舐めるように這う。
俺は慌てて顔を逸らした。
(見ないでくれ……)
——なのに。
その視線に、どこかぞくりとしてしまう。
見られている。
このセーラー服姿を、他人に。
それが恐ろしくて、恥ずかしくて、でも胸の奥底では甘く疼き、悦んでいる。
そんなクラクラする感情を必死に押し殺し、俺は電車の中でじっと息をひそめていた。
◆
最寄り駅に到着し、降り立った瞬間、緊張がさらに強くなった。
ここからは生活圏だ。
知り合いに遭遇する可能性が一気に高まる。
俺は俯いたまま改札を抜け、夜の道へ出た。
スカートの裾が夜風に揺れるたび、自分がどんな格好をしているのかを、痛いほど思い知らされる。
交差点で赤信号に捕まる。
隣に誰か立った気配がした。
「あら?」
聞き覚えのある声。
全身が凍りついた。
恐る恐る顔を上げると、同じマンションに住むおばさんだった。
何度も朝の挨拶を交わしたことがある相手だ。
おばさんの視線が、ゆっくりと俺の全身をなぞる。
セーラー服。ウィッグ。薄く引いたメイク。
全部、見られている。
心臓が壊れそうなくらい激しく鳴る。
(終わった……)
頭が真っ白になる。
するとおばさんは、柔らかく微笑んだ。
「こんばんは。高校生?この辺じゃ見ない制服ねぇ」
「あ、えっと……」
意識して高い声を出す。
喉がからからに渇いていた。
おばさんは特に疑う様子もなく、青信号になると横断歩道を渡っていった。
取り残された俺は、その場で数秒、動けなかった。
(バレて……ない?)
むしろ完全に女の子だと思われていた。
その事実が背筋をぞわぞわと這い上がる。
『瑠香ちゃん』として認識されたことに、どこか歪んだ喜びさえ感じてしまう自分が怖い。
羞恥と恐怖が混ざり合い、足が小刻みに震える。
一刻も早く自宅に帰りたい。
しかし、今はその衝動を必死に押し殺した。
俺はおばさんと鉢合わせしないように、少し遠回りをする道を選んだ。
人気の少ない裏道を、セーラー服の裾を押さえながら歩く。
ようやくエントランスが見えてくる。
(やっと着いた……)
そう思った瞬間。
入口の前に人影が立っていた。
長い髪に細いシルエット。
愛だった。
俺が最寄り駅に着いた時に『もうすぐ着くよ』とメッセージを送っていた。
それを見て、愛はエントランスで待っていたらしい。
愛は俺を見るなり、嬉しそうに目を細めて微笑んだ。
「おかえり、瑠香ちゃん」
その呼び方で、顔が一瞬で熱くなる。
愛はゆっくり近づいてきて、俺のセーラー服の襟を優しく指先で整えた。
「ちゃんと帰ってこれたんだ?」
「……うん」
「ふふ。すごく似合ってる」
耳元で甘く囁かれ、全身がびくりと震える。
俺は慌てて周囲を見回した。
「あ、ありがとう……でもここで誰か来たら……早く部屋に……」
「うん、そうだね。すぐに戻ろっか」
愛はくすくすと笑いながら頷いた。
「あっ、でもね……」
——嫌な予感がした。
愛はわざと焦らすように、言葉を区切る。
「今日は家にお客さん来てるから」
「……え?」
「芹菜(せりな)が瑠香ちゃんに会いたいって」
背筋が凍りつく。
愛の瞳が、優しく、しかし底知れぬ残酷さで輝いている。
(芹菜……?なんで……?)
胸の奥で、羞恥と恐怖が激しく渦を巻いた。
【8章につづく……】