優しい妻のセーラー服調教:9 (Pixiv Fanbox)
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夜、女の子たちが立つ場所
金曜日。
会社から帰宅すると、玄関を開けた瞬間、愛がぱたぱたと駆け寄ってくる。
「おかえり、瑠香ちゃん」
その呼び方にも、少しずつ慣れ始めている自分が怖い。
愛は嬉しそうに俺のカバンを受け取った。
「今日は待ちに待った金曜日だからね?前に話をしていた通り、ちょっとお出掛けしようね」
——軽く食事を済ませると、愛はソファの横に置いてあった段ボール箱を持ってきた。
「じゃあ、お着替えしよっか?」
「……え」
「それね、瑠香ちゃんが喜ぶかなって思って買ってあげたの」
愛は楽しそうに笑っている。
俺は渡された段ボールを、恐る恐る開けた。
中に入っていたのは、濃紺のブレザーと白シャツ。
緑のネクタイにチェック柄のスカート。
思わず息が止まる。
「……これ……」
「可愛いでしょ?」
愛は制服を俺の胸元へ当てながら嬉しそうに笑った。
「自分で買ったセーラー服も似合ってたけど、こういう感じも絶対似合うと思って」
愛に促されるまま、俺は鏡の前でシャツを着て、ブレザーに袖を通す。
さらりとした生地が腕を滑る感触に、変な緊張が走った。
スカートを履き、緑のネクタイを締める。
愛は後ろから俺のウィッグを整えながら、小さく笑った。
「うん……やっぱり可愛い」
セーラー服とは違うブレザータイプ。
鏡に映る自分を見て、思わず目を逸らす。
女装は自分だけの秘めごとだったのに……。
「じゃあ、このまま外に出よっか?」
「えっ……」
思わず愛を振り返る。
だが彼女は当然みたいな顔をしていた。
「大丈夫。今日は私も一緒だから」
大丈夫じゃない。
だけど今日は愛が隣にいる。
それだけで、怖さが少し薄れてしまう。
◆
電車の窓に映る自分の姿を見るたび、胸がざわついた。
向かいの席のサラリーマン。
スマホを見ている女子二人組。
誰も俺を気にしていない。
なのに。
(みんな、本当は気づいてるんじゃないか……?)
膝の上で指先が震える。
愛はそんな俺の手をそっと握った。
「瑠香ちゃん、緊張してる?」
「……してるよ」
「でも、ちゃんと女の子に見えてるから安心して?」
その言葉が、胸の奥へ静かに沈んでいく。
やめてほしい。
そんな風に言われるほど、戻れなくなる。
電車を降りると、大きな繁華街のネオンが目に飛び込んできた。
金曜の夜特有のざわめき。
笑い声。
酔った人たち。
愛は迷いなく歩いていく。
その後ろを、俺は小さな歩幅で追いかけた。
やがて、人通りの少ない通りへ辿り着く。
そこには、ぽつぽつと女の子が立っていた。
スマホを見ている子。
壁にもたれている子。
通りをぼんやり眺めている子。
空気が違う。
通り過ぎる男たちの視線も、どこか粘ついて見えた。
「……あ」
背筋が冷える。
「ここって……」
愛は嬉しそうに俺を見上げた。
「瑠香ちゃん、わかる?」
「……なんとなく……」
「うん。ここ、そういう子が立って、待ってる場所なんだって」
背中に冷汗が流れる。
「ここで瑠香ちゃんが立ってたら、どうなるんだろうね?」
「……っ!?」
「試しにやってみよ?」
そんなの、絶対無理だ。
なのに拒否する言葉が出てこない。
愛は俺の背中を優しく押した。
「大丈夫。少しだけだから」
◆
俺はふらふらと歩き、通りの壁で立ち止まる。
薄暗い光が、チェックのスカートをぼんやり照らしていた。
何をしていいのか分からないまま、俺は視線を落として立ち尽くす。
胸の奥では、心臓が壊れそうなくらい鳴っていた。
通行人の視線が、一瞬こちらへ向くたびに心臓が跳ねる。
(見られてる……)
喉がカラカラに乾く。
逃げたい。いますぐこの場所から離れたい。
いや……、本当は離れたくないのかもしれない。
こんな場所に立たされて、知らない男たちに見られて、『女』として値踏みされている。
その事実が恐ろしくて、惨めで……だけど胸の奥を少しだけ熱く焦がしていく。
愛は少し離れた明るい場所で、街灯にもたれながら俺を見ていた。
目が合うと愛は、満足そうに小さく微笑んだ。
まるで、『ちゃんとそれっぽく見えてるよ』と褒めるみたいに。
その瞬間だった。
「……ねえ」
低い男の声。
全身がびくりと震える。
気づけばすぐ目の前に、男が立っていた。
黒いスーツに無造作に緩められたネクタイ。
仕事帰りなのだろうか。
男は俺の顔を見たあと、ゆっくり足元まで視線を落としていく。
その見られ方に、背筋がぞわぞわする。
「いくら?」
頭が真っ白になる。
(え……)
全身の血が一気に冷えた。
この男は俺を、本当に『そういう女』だと思っている。
呼吸が浅くなる。
男は怪訝そうに首を傾げた。
「違った?」
俺は何も答えられない。
喉が張り付いたみたいに動かない。
助けを求めるように愛を見る。
数メートル離れた場所で、静かにこちらを眺めている。
その表情は優しいのに、残酷だった。
愛はくすっと小さく笑う。
ここに立つ前に囁かれた言葉が脳裏に蘇る。
『もし声を掛けられたら、ちゃんとそういう女の子みたいに対応してね?』
心臓の音がより一層大きくなった。
【第10章につづく……】