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口移し

自室に戻ると、あかりは立ったまま、ずっと頭を下げていた。


「ごめんね……ごめんね、ゆき……」


あかりの声が震える。


「私がゆり先輩に相談したせいで……大ごとになっちゃって……」


私はあかりの背中に腕を回し、そっと抱きしめた。


「謝らないで。あかりは私のことを心配してくれたんだよね……」


彼女は大切なルームメイトだ。

もし立場が逆だったら、私も同じことをしたと思う。


それでも、ゆり先輩にこれから何をされるのだろうと思うと、怖い気持ちが止まらなかった。


昼間に見たひろみの姿が、頭から離れない。

虚ろな目、異様に膨らんだ胸、発情したように荒い息……。


あんな風に壊されてしまうかもしれないと思うだけで、背筋が冷たくなる。


◆


夜になり、私たちは2階の休憩室へと向かった。

廊下の照明が淡く、私たちの影を長く伸ばしている。


休憩室とは表向きは体調が悪い生徒が休む部屋とされている。

だが実際は生徒同士が自由に使うためのプレイルームだ。

施設側も黙認をしている。


ドアを開けると、大きなベッドが一つ置かれていた。

私とあかりはベッドの端に並んで腰を下ろした。


会話はない。

ただ、互いの体温だけが近くに感じられた。


しばらくして、ドアが静かに開いた。


「お待たせ」


ゆり先輩が入ってきた。

いつもの優しい笑顔を浮かべながら、私の隣に腰を下ろす。


「ゆきちゃん、あなたがこの施設に入れられた目的は何かわかるよね?」


「はい……更生のためです」


「更生とは何かな?」


「心も身体も女の子になって、自分も周りも幸せになることです……」


ゆり先輩は満足げに頷いた。


「そう。でも今、ゆきちゃんの中には迷いが生じているみたいね。ひろみちゃんにそそのかされたんだよね?」


私は答えられなかった。


ゆり先輩がポケットから小さなカプセルを取り出した。


「これはね、特別なお薬なの。心の迷いを優しく溶かしてくれる。でも、よくわからないお薬を飲むのは怖いよね?だから……私が口移しで飲ませてあげる」


私の心臓が激しく鳴った。

得体のしれない薬など、本当は口にしたくない。

だけど、今の私に拒否権は無いに等しい。


ゆり先輩がカプセルを唇に挟み、私の顎を優しく持ち上げる。

唇が近づく。

柔らかく、熱い吐息が触れる。


「ん……」


唇が重なり、ゆり先輩の舌と共に私の口内にカプセルが押し込まれる。

そのまま舌が絡みつき、ねっとりと掻き回される。


唾液とカプセルが混ざり合い、喉の奥へと送り込まれる。


(あ……んっ……あかりの前で……こんな……)


あかりはベッドの少し離れた場所から、目を輝かせて私たちを見つめていた。

まるで神聖な儀式でも見るかのように、頰を赤らめ、息を潜めている。


ゆり先輩の舌が私の舌を優しく吸い上げ、唇の端から透明な糸を引く。

深いキスが続き、薬の効果がじんわりと体に広がっていく。


「ん……ふ……ゆり先輩……」


私は息も絶え絶えに、甘い声を漏らした。

ゆり先輩がゆっくりと唇を離す。

糸を引く唾液が、私の唇と先輩の唇の間にかかり、ぷつりと切れた。


先輩は熱い吐息を私の耳元に吹きかけ、艶やかな声で囁いた。


「まだ足りないわね……」


ゆり先輩は私の体をベッドに優しく押し倒した。

上から覆い被さり、再び唇を重ねてくる。

今度はもっと深く、貪るように。


じゅるっ、ぐちゅっという淫靡な音が、静かな部屋に響き渡る。


あかりがベッドの端で小さく息を飲む音が聞こえた。


◆


———

「ゆりはうまくやってくれましたね?」

若い教師が、薄暗い監視室の中でモニターを見つめながら満足げに言った。

青白い光が眼鏡のレンズに反射し、その視線は画面から一瞬たりとも逸れない。


「彼女は優秀だからね。後輩たちからの信頼も厚い」


隣に立つ、上司と思われる教師も腕を組みながら静かに頷いた。

口元には隠しきれない笑みが浮かんでいる。


「ゆりは“導き方”を理解していますからね。力で押さえつけるのではなく、安心させながら更生させる。実に模範的です」


別の教師が口を開いた。


「学園の輪を乱すものは、早めに対処しなければいけませんからね。ひろみのように」


「ええ。本当なら、ひろみにそそのかされたゆきも“メス堕ち指導”をする予定だったんですけどね」


若い教師が肩をすくめる。


「ゆりが頭を下げてきたので、今回は彼女に任せることにしたんです。“ゆきは自分が責任を持って指導します”と。だから彼女に薬を渡したんです」


「彼女に任せたあかりも、順調に更生されているからな」


教師たちは小さく笑った。


「しかし、ひろみもゆきも、私たちにバレていないと思っていたんですかね?わざと泳がせていたのに」


「抵抗していた子ほど、メス堕ち後のギャップは見ていて心を打たれます。“素直になってよかった”と心底思えますよ」


そう言って、一人の教師がモニターの音量を少しだけ上げた。

部屋にお互いの唾液を吸い上げる音と、甘く乱れた声が微かに広がる。


「……もう大丈夫だな」


「ええ。もう、“男としての自己認識”もかなり薄れている頃でしょう。仮にひろみの様なものにそそのかされたとしても、問題ないでしょう」


教師たちは満足そうに頷き合った。

誰も罪悪感を抱いている様子はない。

それが当然の教育であるかのように、淡々と経過を確認しているだけだった。



【9章へつづく…】

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