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あかりの過去

外から戻り、自室で一息ついていると、ドアが開いてあかりが帰ってきた。


駅から施設までの帰りのバスは3便あったらしい。

あかりは1本遅い便で帰ってきたようだ。


「あっ、ゆき、ただいま!久しぶりの外は楽しかったね~。いっぱい買いすぎちゃったよ」


そう言うと、あかりは両手に抱えていたいくつものショッパーをベッドの上に置いた。


「ゆき、今日はどうだった?」


あかりが上機嫌でこちらを見てくる。

私は微笑みながら答えた。


「うん、楽しかったよ。きょうかちゃんと竹下通りを歩いたり、カフェでお茶したり……外の世界って、こんなに賑やかだったんだね」


あかりが目を細めて頷く。


「私はね、新大久保に行ってきたよ。ペアになった子とは今まであまり話したことがなかったんだけど、いい子だった」


あかりとはいつも一緒にいるだけに、今日一日だけ違うペアで行動するのは少し不思議な感じがした。


「それでね、韓国コスメがどれも可愛くて目移りしちゃって……いっぱい買っちゃったんだ~。はい、これはゆきへのお土産だよ」


「えっ!うそ!?ありがとう!」


急なサプライズに驚きながら、私はショッパーの一つを受け取った。


中を覗くと、淡いピンクと水色のパッケージが目に飛び込んでくる。

開けてみると、キラキラと輝くグリッターが入っていた。


「施設の中ではなかなか使う機会は少ないけど……私もおんなじのを買ったんだ!お揃いだよ」


あかりが少し照れくさそうに、自分のショッパーから同じグリッターを見せる。

私は胸がじんわりと温かくなった。


「ありがとう!すごく嬉しい」


容器を開け、グリッターを指で軽く触れてみると、細かいラメが柔らかい光を反射する。

あかりからのプレゼントだと思うと特別に感じられた。


「今日、きょうかちゃんとどんな話をしたの?ゆきの話ももう少し詳しく聞きたいな」


私はあかりとベッドに並んで座り、今日あったことをゆっくりと語り始めた。


——あかりは自分のことの様に楽しそうに話を聞いてくれた。


「……それでね、きょうかちゃんから聞いたんだけど……もうすぐ私たち、睾丸摘出の手術が行われるらしいんだ。知ってた?」


あかりは一瞬、驚いた顔をした。

少しだけ寂しそうな表情が浮かぶ。

あかりなら手放しに喜ぶと思っていただけに、少し意外だった。


あかりは膝を抱えるようにして、少し間を置いた。


「……知らなかった……。そっか、そうだよね」

彼女はゆっくりと息を吐き、窓の外の暗闇を見つめた。


「私、施設に来る前は……親が元々格闘技をやらせたかったみたいで、幼い頃から柔道や空手を習わされてたの」


私は黙ってあかりの言葉を聞いた。


「本当はすごく嫌だった。男らしく強くあれって言われて、毎日道場に通わされて……親に反抗して、学校もサボったりして、結局ここに送り込まれたんだ」


あかりの声は静かだった。

でも、そこに懐かしさと、ほんの少しの痛みが混じっているのが分かった。


「親の言う通りにこの施設で更生されていく自分は、最初は本当に嫌だった。でも……格闘技とは真逆の世界が、私には合ってるみたいで……女の子になれるのも、なんだか楽しかった」


私は胸が少し締め付けられるのを感じた。

あかりも、ずっと葛藤を抱えていたのだ。


「親のことは今でも嫌いだけど……男だった頃の自分を、完全に拒絶していたわけじゃなかったの。だから、睾丸を摘出するって聞くと……いよいよもう、元には戻れなくなるんだなって……少しだけ、寂しさを感じちゃった」


あかりはそう言って、力なく笑った。

私はそっとあかりの背中に手を置いた。

温かい体温が伝わってくる。


「でもね、やっぱり女の子になれるって思うと嬉しいよ!これで完全に吹っ切れると思う。それに、性別を変えることが、親に対する一番の反抗かも!」


その表情はいつものあかりとは少し違う、いたずらっぽい表情をしていた。


◆


数日後、噂通り教師から手術の説明があった。

壇上に立ち、静かに口を開く。


「みなさん、よく聞いてください。来月から、いよいよ本格的な外科的更生が始まります。具体的には、両方の睾丸摘出手術です」


生徒がざわついた。

教師は穏やかな声で続ける。


「これは男性ホルモンの分泌源を完全に取り除く手術です。術後は女性ホルモンの効果がより顕著になり、胸の成長、肌の質感、脂肪の付き方の変化が加速します」


私は息を飲んだ。

教師の言葉が、頭の中でゆっくりと反響する。


周囲の反応は様々だった。

喜びを隠せない子、顔を青ざめさせる子、うつむいて震えている子……。


あかりがそっと私の手を握ってきた。その手は少し冷たく、でも力強かった。

私はぎゅっと握り返した。

教師は優しく微笑みながら言葉を続ける。

「これはみなさんの更生のための一つのステップです。術後は、完全に女の子として生きる準備が整います」


私はあかりの手を握ったまま、静かに息を吐いた。


——それから10日後、いよいよ私たちの手術の日が来た。



【12章へ続く…】

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