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異形化モノです。


ヘリオス調査機構は、表に出ない組織だ。

警察でも軍でもなく、どの省庁にも正式には属していない。

それでも、誰も手を出せない案件が発生したとき、最終的に名前が挙がる。

法の外に立つためではない。

法が届く前に、確認するための組織だ。

だから仕事は、いつも曖昧だ。

違法と断定できない。

敵とも言えない。

けれど放置もできない。

そういう対象を扱う。


「今回の調査対象はEIDOLON SYSTEMSね。」

ユイ、ミサキ、アヤ。

互いに軽く視線を交わすだけで、会話はない。こういう場では、それで十分だ。

正面に座っているのは黒崎ミレイさん。

この班の責任者で、判断を現場に下ろす立場にある。

「先端技術を扱う民間企業で、研究開発からシステム設計、コンサルティングまで幅広く手がけているわ。 表向きの事業内容に問題は見当たらず、違法性もこれまで確認されていないの。」

ここまでは、いつもの説明だった。

「ただ、失踪案件との接点がいくつか浮上している。 直接的な関与は証明できていないけれど、周辺情報を洗い直すと一定の割合でこの名前が出てくるのよね。 偶然と片付けるには数が多すぎる状況だわ。」

誰も口を挟まない。 ヘリオスが動くための理由としては、それで十分だった。

「調査は段階的に進めましょう。まずは潜入よ。

内部構造の把握と業務内容の確認が主眼で、社員との接触、施設の利用状況、情報の流れを整理してほしい。」

本来なら、ここから具体的な準備の話に移るはずだった。 時間をかけて動線を洗い出し、役割分担を決め、撤退条件を共有する――そんな手順が通常の流れだ。

だがミレイさんはそこで一度言葉を止め、柔らかく続けた。

「ただし、今回は上層部からの判断が出ているの。」

「確認のみ。深入りはしない。」

確認のみに留め、深入りはしない。 潜入は単独で行い、外部名義は使用せず、装備は最低限に抑える。 セキュリティへの干渉は禁止、記録は不要で記憶だけで持ち帰る。

時間は短く、異常を感じたら即座に撤退する。

説明はそこで終わった。

「……準備の話はしないんですね。」

ユイが静かに呟いた。

「今回はそういう段階ではない、ということね。」

「単独なら・・・」

「動きやすいのは確かね。」

「そうね。様子見ということでしょう。」

「カナエ」

ミレイさんが、私を見る。

「今回はあなた一人でお願いね。無理はしないで。」

「了解しました。」

「何かあったらすぐに引いてちょうだい。……待ってるから。」

「はい、了解しました。」

「侵入開始。地下区画へ向かいます 地下1階に足を踏み入れた瞬間——

イヤーピースにノイズが走った。

《……ッ》

ミレイさんの声が一瞬歪む。 すぐに回線は復帰したが、安定しない。 ザザッ、という小さな雑音が、耳の奥に張り付く。

「……地下に入りました。」

《……了解……通信、優先度……》地下1階に足を踏み入れた瞬間——

イヤーピースにノイズが走った。

《……ッ》

ミレイさんの声が一瞬歪む。 すぐに回線は復帰したが、安定しない。 ザザッ、という小さな雑音が、耳の奥に張り付く。

「……地下に入りました。」

《……了解……通信、優先度……》。」

《了解。侵入後は地下区画を優先。地下以降、通信は不安定になる可能性が高い》

ミレイさんの声が、いつもより少し遠く聞こえた。 想定通りだ。

地下1階に足を踏み入れた瞬間——

イヤーピースにノイズが走った。

《……ッ》

ミレイさんの声が一瞬歪む。 すぐに回線は復帰したが、安定しない。 ザザッ、という小さな雑音が、耳の奥に張り付く。


「……地下に入りました。」

《……了解……通信、優先度……》

声が途切れ途切れになる。 それ以上、呼びかけは来なかった。

(想定通りね)

事前資料に記載されていた通り、地下区画は強力な電磁遮断処理が施されている。

異常ではない。

壁面はガラスパネル張りで、向こう側にサーバーラックが並んでいる。

人の気配はない。

中央通路を進む。

だが、その廊下の中央に、

明らかに説明のつかないものが置かれていた。

床に直置き。 台座も固定もない。 通行の邪魔になる位置だ。

「……?」

足が止まる。

ガラスのようで、ガラスではない。 光を反射せず、内部も見えない。

私は一歩近づいた。

箱の表面に手を伸ばす。

指先が触れた瞬間——

何か、重たいものが落ちた。

頭の奥、胸の奥、腹の奥。 まるで鉛の塊が、ゆっくりと体の中に沈み込んでいくような感覚。

「あ……」

視界がわずかに歪み、思考が一瞬だけ重くなった。

……だが、それはすぐに消えた。

これを回収して、本部に持ち帰る。 それが、今の私にとって最も合理的な判断だった。

箱を持ち上げる。 意外に軽い。

相変わらず通信はつながらない。

(帰還後にまとめて報告すればいい)

途中経過を断片的に送るより、現物を提示した方が正確だ。

それは、潜入捜査官として、ごく常識的な判断だった。


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