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カルデアの夜は深く静寂に包まれています。

私は自室でくつろぐ最愛の人のもとへ歩み寄りました。手にはあらかじめ用意しておいた浮き輪をしっかりと握りしめて。

「ユミ、泳ぎに行きませんか?」

突然の私の誘いにソファに座っていた彼女は目を丸くしました。

そしてバツが悪そうに人差し指同士を合わせながら、困ったように視線を彷徨わせます。

「えっ?う、嬉しいけど……私、泳げないんだよね。知ってるだろうけど……」

「ええ、もちろん知っています。むしろ、泳げないからこそお誘いしたのですよ?」

「え?」

きょとんとする彼女の顔が愛おしく、私はふわりと微笑んでみせました。

「貴女は特異点でも深い水場を警戒して避けていましたね。まるで水に濡れるのを嫌がる小動物のようで……それはそれで大変愛らしかったのですが。今、私が直々に貴女に水の恩恵と泳ぐ楽しさを教えてさしあげようと思ったのです。ほら、水着霊基でしたら泳ぎもそれなりにできますから」

「うーん……でも、沈んじゃったらどうしよう。アヴァロンに迷惑かけちゃうし」

「沈ませなどしませんよ。……それに泳げない貴女を支えこの手で守り抜くことは、私にとって至上の喜びでもありますから。何も心配はいりません、星の守護者たるこのアルトリア・アヴァロンにすべてお任せください」

私が少し大袈裟に胸を張って宣言すると彼女は照れくさそうに、けれど安心したようにふにゃりと笑いました。

「……そっか。うん、わかった。アヴァロンがそこまで言ってくれるなら、お願いしようかな」

「はい。今宵、シミュレーターで貸し切りのナイトプールを設定して待っておきますね。……ええ、特別な時間を用意しておきますから」

有無を言わさぬ微笑みを向けると彼女は少し頬を染めて頷いてくれました。

ええ、それで良いのです。貴女はただ私の導くままに身を委ねてくれれば。

──シミュレーター内に構築したのは、月光と水中の淡い照明だけが揺らめく、静謐で幻想的なナイトプール。

ピンク色のフリルがあしらわれたビキニに着替えた彼女は少し肌寒そうに、照れくさそうに腕で身体を隠していました。

「はい、まずは柔軟から。腕を伸ばして……」

私は彼女の背後に回りその滑らかな背中や細い腰にそっと手を添えました。

私の青いハイレグの装束越しにも伝わってくる、ユミの柔らかく、そして温かな体温。密着するたびに彼女の豊かな双丘が揺れ、甘い香りが私の鼻腔を掠めます。

(……これは……)

ただのストレッチのつもりでした。しかし、至近距離で触れる彼女の無防備な肉体は、私の霊基の奥底に眠る本能をじりじりと刺激してくるのです。ほら、私今バーサーカーですし。

理性の防壁にひびが入る音。いけませんね。今はまだ、真面目な水泳教師でいなくては。

私は小さく頭を振り、ふう、と熱い吐息を吐き出して、彼女を水の中へと促しました。

「まずは、水に慣れるためにバタ足から始めましょう。私の両手をしっかりと掴んでいてくださいね」

私が先にプールへ入り水面から両手を差し伸べると彼女は恐る恐る冷たい水の中へと足を踏み入れました。

しかし腰から胸へと水面が上がってきた瞬間、彼女の顔に明らかなパニックの色が浮かびます。

「ひいっ!し、沈んじゃう!沈んじゃうよぉっ、アヴァロン!」

「大丈夫です、私がちゃんと支えていますから。力を抜いて、足を動かして……」

優しく指導しようとする私の言葉も虚しく、水の浮力と恐怖に駆られた彼女はバシャバシャと激しく水を跳ね上げながら私の両手を引き寄せるようにして、強く身体にしがみついてきました。

「むぐっ……ユ、ユミ、落ち着いて……っ」

「やだ、やだっ、怖いっ……アヴァロン、離さないで……っ!」

水に濡れた彼女の豊かな胸が私の青いハイレグ装束越しにぴったりと押し付けられます。震える細い腕が私の首に強く絡みつき、すがるような彼女の甘い吐息が、直接私の首筋を掠めました。

(……っ、これは、いけません……)

私を唯一の命綱のように頼り必死にしがみついてくる愛おしい人の温もり。水着越しに伝わる、狂おしいほどの柔らかさと密着感。

ただでさえストレッチで揺らいでいた私の理性が彼女のこの無防備な行動によって、さらにじりじりと確実に削り取られていくのを感じます。

星の守護者たる余裕が音を立てて崩れそうになるのを必死に堪えながら、私はなんとか己の『飢え』を悟られないよう、彼女の濡れた背中をゆっくりとさすり続けました。

「……ふぅ。少し、水には慣れましたか? 大丈夫、貴女はしっかり浮いていますよ。……では、次は息継ぎの練習からいきましょうか。貴女は顔を水につけるのが苦手なようですから、まずはそこを慣らすことが大前提です。さあ、私の手を掴んで水面でゆっくりと息を吐いて、沈んで……」

私の手を取り彼女は恐る恐る水に顔をつけました。ぶくぶくと気泡が上がり顔を上げては息を吸う。その初々しい姿を、私は水中で腰を支えながら、必死に平静を装って見守っていました。

慣れてきた彼女は今度は私の手には掴まらず自分で必死に克服しようとしていまし。

しかし、何回かそれを繰り返した時のことです。

──上がってこない。

嫌な予感がする。すぐに水面に潜り確認すると

足でも攣ったのでしょうか、水中でバランスを崩し、パニックを起こしたように手足をバタつかせ始めます。

(ユミ……っ!?)

気泡が不規則に弾け彼女の身体が力なく水底へと沈んでいくのを見た瞬間、私は一切の躊躇なく水中へと潜りました。

(ユミ! しっかりしてください、ユミ……!)

私はすぐに彼女の青白い唇に自らの唇を重ねました。人工呼吸。普通の人間ではリスクが伴いますが──私はサーヴァントであり、魔術師です。引き上げるより先に口移しで、魔術を行使したうえで私の息を彼女の肺へと一気に送り込みます。焦燥感に駆られながら、ただ彼女の命を繋ぐことだけを考えて。

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