アンドロイドの彼女 (Pixiv Fanbox)
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「先日行方不明になっていた、アンドロイド数名が無事保護されました。無理やり連れ去り、キャバクラ店で働か...」
ピッ
「..の天気は、晴のち曇り。夜から朝にかけては雨が...」
ピッ
「..ー、よかったですね無事で。この子達の所有者も見つかってほっとして...」
同じ事件のニュースやってる所ばっかりと、テレビを消して食器を片付ける。都会って怖いところだな..。
今日はアンドロイドの展示会に行く予定がある。今私が住んでいるところから近いデパートでやるらしい。普通こんな田舎で大手企業が展示会なんてやらないものだが、まあ来てくれるんだから、ちょっと見てみようかなと思って出かける準備をしている。
免許は持っているが、車は持っていないので、展示会をやるデパートにはバスで向かうことにする。なんでも今回から受信機の位置が変わるらしく、新しいモデルのアンドロイドが発売するらしい。
株をやっていてお金には余裕があるので、いい子がいたらぜひ買って帰りたい。今まで欲しいと思ったことはあるが、ネット購入ができなくて直接店で買わねばならず、しかも都会にしか店がない。つくづく田舎だなと思った。
だけど私は都会に行きたくはない。あのごちゃごちゃした感じが苦手なのだ。それ故に静かな田舎でのんびりと暮らしている。
化粧も着替えも終わったので、デパートの開店にはまだ時間があるが、少し早めに出ることにした。
バス停に着くと平日の火曜日だからか、学生が多く並んでいた。
しばらく携帯電話をいじってると定刻通りにバスが着いた。
ピッと電子決済して入ると、まばらだがバスの中はそれなりに人がいる。あ、そこの席なら隣いないな。
「お姉ちゃん、放課後どこかで甘い物食べない..?」
「いいけど、今日美彩がパフェ作るって朝言ってたよ?」
携帯電話をいじっていると、後ろの席に座る、中学生くらいの双子と思われる少女2人が話しているのが聞こえてくる。
「えっ、それ聞いてない!もしかして、またいじわるされた..?」
「いや美彩が話してた時、蘭々、ないない歴史の教科書どこやったっけって騒いでたじゃん」
「えー!その時だったの!あ、じゃあ今日の放課後はそのまま帰った方がいいね」
パフェか、そういえば外食することなくなったな。今日どこか寄ってこうかなそう思っていると、聖桜学園前のバス停について、2人の少女と他の学生たちも降りていった。
そのあともしばらくバスは走り、やっとデパート近くのバス停に止まった。
さって、少し早めに出てきたけど、ちょうどいい時間だな。
遠目にデパートが開店したのが見えた。
デパートに着いて中に入ると、朝イチだからか各店の前にその店の店員だと思われる人が並んでいて、通る度に挨拶とお辞儀をされた。そういうの慣れてなくて、目的地まで早足になってしまった。
目的の場所に着くと客はまばらにいて、等間隔に、個室トイレの大きさで扉が透明のアンドロイドの充電スペースに入ったアンドロイド達が見えた。
そのうちの1体に近寄ってみると、たしかに従来とは少し違っていた。
従来の主人の命令を受信する受信機は、首に黒い首輪型のをつけていたが、新型は右耳にひし形を縦にしたデザインのイヤリングを装着していた。
近くにいた売店スタッフに聞いてみると、命令するとこのイヤリングから電波を発して、頭にあるチップに送信してくれるのだそう。
しかもこのイヤリング型受信機本体が太陽光を浴びることでも充電ができるらしく、アンドロイドを連れた先で突然受信機の充電が切れて、命令を受け付けなくなったという心配はなくなるのだそう。
そもそも私はアンドロイドを買っても命令はしたくないが...自由に一緒に暮らしたい派だ。
命令で言うことを聞かせてきた人ほど充電が切れるのを恐れる傾向がある。だから前もって充電が切れないように切れる前に充電するよう命令する人がいるのだ。会いなれぬ人種だ。
まあでもこれなら、アンドロイドも十分ファッションを楽しめそうだ。ファッション業界の人達が、首輪タイプは何着せても目立つから改善してくれって要求をしているとネット記事で呼んだことあった。
まあ、太ももにある緑色に発光する製造番号は、従来通りなくならないのでパンツ系は着れないが。隠したら罰せられるし。
ただ今売られている展示場に限り、着ている裾の長いワンピースで製造番号が隠れている。ネットで事前に調べた中の1つにあったが、売り手は隠れるような服を着せて売っても問題ないらしい。製造番号を隠すのと隠さないのとでは売上が違うのだろうか?
見た目も様々なので、どの子なら私と楽しく暮らせるかなと見てまわっていると、1つだけ空の充電スペースがあった。
買われたのかなと一瞬思ったのだが、充電スペースはアンドロイドとセットで買われるので、それはないと考え直した。
もしかしたら逃げした可能性もある。アンドロイドだって知性はあるから。
幾人かの人に協力してもらって採取したDNAをかけあわせ、人工的に作りだした人間が、アンドロイドの素体である。
生まれたままでは知識がないので、主人の望む用途に合わせて頭にあるチップに家事とかの基本知識をインストールするのだ。そして主人と長く過ごしていくうちに知力も高くなってやってくれることが増えるという感じだ。
なので、こんな売られてる段階で逃げるとかいう知識がそもそもないはずなのだ。
仮に逃げれるだけの知識があったとしても、この充電スペースからは充電が終わるまでか、設定解除されるまで出られないようになっている。中にあるコードをイヤリング型の受信機に繋いで充電が開始されると、充電スペース内に睡眠ガスがでて強制的に眠らされるようになっている。
探偵みたいに考えてみたところで、まあ逃げたところで私には関係ないかと、またアンドロイドを見てまわる。その後ろで販売スタッフ達が慌ただしくなっているのは、逃げられてまだ見つかってないという証拠だろう。
いやしかしワンフロア展示場って広すぎだよ。そりゃこれだけアンドロイドいたら逃げたの気づかんわ。
やっと半分くらい見終わって、ちょっと用を足しにトイレへと向かった。
誰も入っていなくて待たなくてラッキーと思っていると、進行方向の鍵がかかってなくて誰もいないと思っていた、トイレのドアが思いっきり空いて、頭をぶつけた。
「ぐっ、いったっ!」
「ご、ごめんなさい!ごめんなさいっ!」
痛みに頭を抑えてしゃがみこんでいると、何度も謝る声が聞こえた。
「い、いえこちらこそすみません」
反射的に謝って顔を上げると、栗色の髪の20歳くらいの女性が立っていた。
「本当にごめんなさい!」
いやいやそんなに謝られると逆にイジメてるみたいになっちゃうと、大丈夫ですからと手を振ると、その女性は顔を上げた。
ん?あれ?今この女性が着てる白のワンピースから緑色の...んー?よく見ればこの耳のイヤリングの形最新のって言ってた受信機じゃ?
「もしかしてあなた、逃げだしたアンドロっ...ぐぁっ!?」
「....ごめんなさ..ごめ....ナサイ..」
突然頭部に痛みが走り、彼女の謝る声がだんだん小さくなっていって、目の前が真っ暗になった。
「...ん....あれ?..ここは..いっ..!」
目を覚ますとトイレの個室にいて、便座の上に座っていたようだ。なんとなしに頭に手が触れた瞬間痛みが走った。
「あ、そうだ突然目の前が真っ暗になって...いや何かで殴られた?それにしてもいったいなぁ」
薄れゆく意識の中であの女性の謝る声が聞こえた。しかもあの場所には2人しかいなかったのだから、彼女が殴ったので間違いないだろう。
逃げだしたアンドロイドかどうか聞くタイミングでのことだったから、捕まえに来たと思って、確実に逃げるための行動だったのだと思われる。
「まだ彼女近くにいるかな」
痛みで出た涙も引いて、視界がクリアになったところで立ち上がると、自分の服装が変わっていることに気がつく。
「あれこれって、白いワンピース?ん?耳にも何かついてる」
慌てて個室から出て手洗い場の鏡を見ると、白いワンピース、コルクサンダル、右耳にひし形のイヤリングを身につけた私が映っていた。ワンピースの下に着ている下着も白の無地のものに変わっている。
しかも、家でしてきた化粧もとられて、童顔の素の顔がでている。
「こ、これさっきの彼女が着ていたというか、展示会のアンドロイド達が着てたものだ...」
やっぱり彼女が逃げだしたアンドロイドで間違いない。気絶してるうちに、私が今日着てきた服と取り換えたんだ。確かにそうすれば見つからずに逃げれるだろう。
いやその前に主人がまだ決まっていない状態で、あれだけ知能が高いと危険だ。知らないうちに間違って犯罪を起こしてしまう危険がある。
すぐにでも追いかけたいが、このままトイレから出たら主人が近くにいないし、私が逃げだしたアンドロイドだと思われる可能性がある。
販売スタッフは商品名簿があるだろうし、私が人間だとわかるだろうが、一般客には確実に私が逃げだしたアンドロイドだと勘違いされてしまう。
「んっ!これどうやって外すの?」
下着になっちゃうのでワンピースは脱げないが、このイヤリング型の受信機だけは外そうと頑張っているのだが、人生で1回も耳にアクセサリーはつけたことがなかったので、外すのに苦戦する。
いやそもそもどうやってこれ付けてったんだ?私は耳に穴開けたことないぞと、鏡に近づいて確認すると、普通に耳に穴が空いていてそこに着いていた。人の耳たぶに勝手に穴空けて逃げてっちゃったよ..。
外すのに悪戦苦闘していると、トイレの外から女性の声が聞こえてくる。
「中見てくるから、そっちおねがい!」
そして中に入ってきた女性のスタッフさんと、鏡越しに目が合った。
「い、いたー!皆ー!いたよ!」
なにか悪いことしたっけと身構えるが、そんなのお構いなしに呼びかけに集まった人に取り押さえられた。
「もう逃げられないぞ!早く充電スペースに入れよう!」
その会話を聞いて、逃げだしたアンドロイドだと思われていることに青ざめた。
「まっ..!もがっ...まって..待ってください!わた..ドロイドじゃ...」
がっちりと拘束されて人の手が口をさえぎって、上手く話せないでいると、あの時1つだけ空いていた充電スペースに入れられる。体を抑えられたまま耳の受信機にコードが繋がれて、さっきまで私を拘束していたスタッフさん達が出ていって扉を締められた。
「ちょっ睡眠ガス出てるっ!ちょっとまってっ!商品名簿確認して...私じゃない....わた...し....」
拘束も口を遮る手もなくなったので、外に向けて叫ぶが全部内側にだけ反響して、スタッフさんは誰もこちらに振り返ることはなかった。そうこうしてるうちに眠くなってきて目を閉じた。
どれくらいたったのだろうか。目が覚めると充電スペースの外に出されていた。
目の前にはあの逃げ出したアンドロイドの彼女がいて、両腕をスタッフさんに掴まれている。
「こっ、この度は大変申し訳ありませんでした!」
1人の販売スタッフが言うともう1人のスタッフも、アンドロイドの彼女も頭を下げてくる。
突然のことにしばらく呆然としていたが、状況を理解し、だんだん怒りが湧いてきた。
「だからきちんと商品名簿で確認してって叫んだのに!」
製造番号の有無はこのワンピースで隠れちゃってるから判断できなかったとしても、商品名簿をきちんと見ればアンドロイドは別の人だと分かるはずだと、そう怒りのまま叫ぶ。
その声でスタッフが冷や汗をかきながら何度も頭を下げるので、怒りも落ち着いてきた。
起きてしまったことはしょうがない。次は気をつけてと話すと、スタッフも冷や汗が止まったようだった。
改めて今回の原因であるアンドロイドの彼女を見ると涙目で俯いていた。
まあ彼女に責任はあるが、同情もする。
人間たちの手で人工的に作られた存在だとはいえ、生まれ方が違うだけで彼女たちも受信機とチップと製造番号がなければ元は人間ではある。
本来この時点では知識がない無垢な状態であるため、買われてから自分の存在、自分の心を形成していくのだが、この目の前の彼女はそうではなかった。
既にどこかから知識を得ていて、自分という存在を分かっていた。ここで売られればどんな人の元へ行くか分からない。
もしかしたら暴力を振るう人だったり怖い人に買われる可能性もあった。
逃げだしたい。そんな彼女の願う気持ちが奇跡を起こしたのか、充電スペースの睡眠ガスがとまって外に出れるチャンスがころがってきた。
もうなりふり構わず逃げた。だけどここがどこか分からない。出口を探して手当り次第部屋に入っていった。
そしていくつ目かの部屋、トイレに入ってここじゃないと扉を開けた時に、私と出会ったわけだ。
私が逃げだしたアンドロイドと言いかけたことで、連れ戻しに来た人だと思い、連れ戻されたくない一心で近くにあったステンレス製のゴミ箱で殴った。
気づけばその人間は気を失って倒れていた。目の前には人間、自分の着てるものと交換すれば間違いなく疑われることなく外に出れる。そしてすぐにはバレないように個室に私を座らせて発覚を遅らせるようにしたと、そういうことだ。
以上が私の推測と、彼女による謝罪説明で判明したことだ。
ちなみになぜ逃げれたはずの彼女がスタッフさんに捕まったのかと言うと、デパートの外に出れて、視界に入ってくる見たことない景色を時間をかけて見ていたら、こんな素敵な色んなものに囲まれて生活を送る私の人生を奪うことになってしまったと、後悔したのだそうだ。
そのまま逃げ出して彼女の思う素敵な世界で生きていけただろうに、展示場に戻ってきて販売スタッフに自分のやったことを話した。そして事件が発覚して、私が解放されたということである。
結局自分の願ったことを叶えられないまま終わった彼女。
同情もあるのかもしれないが、誤っても正せるその心が少し眩しく見えた。
真っ直ぐな心を持っているのに、ずっとオドオドしていて、なんともいえない感情が湧き上がってきて、無性に構ってあげたくなる。
気づいたら頭に手を乗せて撫でていた。
「あうぅ....あっ..」
恥ずかしそうにする彼女を見て、ハッとなって手を離した。
なんだろう、この感情は..。ペットを可愛がる感じと似てる?分からない。頭から手を離したことで、まだ撫でてもらいたかったと物欲しそうな彼女を見ながらそう思った。
これも何かの縁だろうか。
奇妙な形での出会いになってしまったが、彼女となら楽しく暮らせるかもしれないそう思った。
気がついたら彼女に惹かれていて、誰かに買われる前にすぐに買った。彼女の名前はYURI。これから家族として暮らすのだから家では、田原由梨と呼ぶことにした。
「ご、ご主人様のお名前ってなんていうんですか?」
「ご主人様はやめて。私は春香っていうの。呼び捨てでいいよ」
デパートの帰り、バス停に向かって2人で歩いていると名前を聞かれたので、携帯電話で運転免許証を見せながらこういう字を書くのと由梨に話した。
「は、はい!分かりました!」
そういうと、由梨がなんだかソワソワしてるので話しかける。
「何か気になることあった?質問?」
「ほ、本当にチップに何もインストールしなくて良かったんですか..?今から戻れば無料でやってくれるかもしれないですし...」
「いいの!何もしなくて!もうっ、由梨はこれから私の家族として、人間と同じように生活してもらうんだから、自由にしなさい自由に」
質問がそんなことかと、そんなことしなくていいと言うと泣き出した。
ありがとうございますと泣きながら話す由梨を見て、慰めるように抱きしめると、彼女はされるがまま私の胸の中で泣いた。
しばらくして泣き止んだ由梨の顔はまだ真っ赤で、目も少しうるうるしている。
間近で見たその顔に、心臓がドクンとはねるのを感じた時には、すでにおでこにキスをした後だった。
「うぇっ...い、今のはっ...?..そ、そういうことを...お望みなんです..か...?」
顔を赤くして俯きながら、目だけちらりとこちらを見る。
か、かわいいなぁ!もうっ!
「し、知らない!」
由梨へ返答はせずにスタスタ早足で歩いた。
「まっ、待ってください!さっきのってどういう...ちょっと待ってくだ..ふぎゃっ..!」
変な声を出したので振り返ると、こけたようで地面に倒れている。
はぁっと息を吐いて近くに行って、手を掴み起き上がらせる。
「いったぁ...うぅ..あ、ありがとうございます。それでさっきの」
まだ言ってくるので、頭をポンポンと軽く叩いて、今度は転ばないように手を繋いで先導するように歩く。
「ちょ、ちょっとはぐらかさないでください!おでこのってそういう家族になりたいってことですか!?恋人的な!ねえ、春香さんってば!」
「春香」
「え?..は、春香...さん..?」
「春香」
「...春香..」
「うん、じゃあ行こう。あ、バス来てる急いで!」
「あーっ!ちょっとまってーっ!」
これから家が賑やかになりそうだ。
確実に楽しい日々が過ごせる心からそう思える。
ああ、そうだ。無事にこれから一緒に住む私の家に着いて、これからの素敵な日々を思い浮かべている、キラキラとした目をしている彼女を抱きしめたことはここで話しておこう。
その後、恥ずかしそうにしていた彼女はとてもかわいかった。
ーー[完]ーー