アンドロイドによる幸せのかたち (Pixiv Fanbox)
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「も、もうっ、ここで抱きつくのはやめてよ」
「そんなこと言わないでよ。かまってもらえないとさびしいよ?」
「そっ、そんな顔して言われたって...春香は他の人に見られてもいいの?」
「恋人同士なんだから、何も問題ないよ?それとも私の事好きじゃなくなった?」
「わ、わかったってば!...い、いいよ、抱きついても」
「由梨はちょろい」
朝からうるさいな。外から聞こえる声で目が覚めてしまったので、仕方なくベットから起き上がる。
誰だよと思ってカーテンを開けて外を見ると、20代くらいで栗色の髪をした女性2人が外でイチャイチャしていた。
騒いでたの近所の田原さんちの2人かよ。
こんな田舎で朝から騒がんでくれと、はぁっと息を吐くと、自室から出るために移動する。
「痛っ!」
プラスチック製の何かを踏んずけて、ちょっと足が赤くなった。片付けが苦手で、昨日食べた物の容器などが散乱している自分の部屋は、まあ、世間様からすればゴミ屋敷って呼ばれるんだろう。
今まで甘えて生きてきたので、ほったらかしてしまう癖が抜けない。
元々は祖父母とこの築52年の平屋で一緒に住んでいたのだが、3年前に祖父が亡くなり、半年前に祖母も亡くなった。現在1人では広すぎるこの家で1人暮らしをしている。
気づけば祖母が片付けをやってくれていたので、片付ける癖がなかったのだ。
ちなみに両親は、僕が幼い頃に一緒に行った遊園地の帰り道で衝突事故にあい亡くなっている。僕だけ助かり、両親は先に天へと登った。仏壇を拝み、今日何食べようかなと考える。
冷蔵庫を開けると食材が少なくなってきていたので、今日は買い出しに行かなければ。
朝食が終わり、少しくつろいでから、日課の散歩をするために外に出ることにした。
外に出てしばらく散歩していると、住んでる区のゴミ捨て場に、なぜか人間?が頭から埋まっていた。おいおい酔っ払いか?と近寄ってみると、それはピンクの髪をしたボロボロのアンドロイドだった。
「おいおいっ、この製造番号の型番、100年くらい前のアンドロイドじゃないか!?しかもメイドロボか?!」
とっくの昔に法律で禁止された、歳を取らないように施された特殊加工は所々とれており、そのとれた部分だけ皮膚が歳をとっている。
着ているメイド服は着ているのか分からないくらいに裂けていて、手や足も変な方向に曲がっていた。
「ま、まて、この子生きてるか?この時代のアンドロイドも今と作り方変わってないよなたしか」
アンドロイドを作るにはまず、元になる人間を人工的に作るところから始まる。幾人かの人に協力してもらい採取したDNAをかけあわせて人間を作るのだ。
それから頭にチップを取り付けて、主人の命令をチップに送信するために受信機をつけて、最後に太ももに緑色に発行する製造番号を入れる。
ただ、作られた直後は知識がない無垢な状態であるため、買われてから自分の存在、自分の心を形成していく。買った主人がどんな生活をさせるかで変わってしまう。
そんなわけで人工的に作ったとはいえ、元々は人間なわけなので、痛みとかもあるはずなのだ。こんなに痛々しい姿だと、生きてるかどうか...。
しかもこの時代のアンドロイドの型はもう作られていないので、今じゃ珍しく、格式のある家とかに骨董品として置いている人もいるくらいだ。
メイドロボと呼ばれるタイプもとっくに売られていない。別に普通のアンドロイドがこなせるので、1つのことに特化させる必要がないのだ。
「この時代のアンドロイドって、立場が弱かったって学校で習ったことあるな」
2100年頃のアンドロイドには、歳をとらないように特別な処理がされていた。しかし、アンドロイドも歳をとる資格がある、非人道的だとデモが起きて、その特別な処理は法律で禁止になった過去がある。
しかもこの頃の首につけている受信機は、神経と繋がっていて取り外せないことも問題になっていた。
普通の親から生まれた、人間の頭に取り付けていたチップだって問題になって、廃止されてる。
目の前のアンドロイドは、そのアンドロイドの立場が向上する時代を生きた生命だ。
今の受信機は、首につける受信機ではなく、ひし形を縦にしたデザインのイヤリング型受信機で、右耳につけるように変わっている。
主人が命令すると、イヤリングから頭につけてあるチップに信号がいって、アンドロイドが実行するという感じだ。
僕はアンドロイドと対等の立場でありたいから、もし買っても命令はしないと思うけど。
しかし本当、ボロボロになって動かないからって、その辺にポイとか最低すぎる。
おおよそアンドロイド専門病院でも修復できなくなって、勝手に廃棄していったのだろう。
かわいそうに。火葬もしてもらえなかったのか...。
普段こんなことする性格ではないが、この時ばかりはかわいそうだと思って、担いで家に連れ帰った。
「生きてますか?おーい、おーい。んー、分からん」
うんともすんともいわない。まだ主人登録がされたままなのだろうか。だとしたら主人にしか反応しないぞ..困った。
んー、まだ頭にチップがあるはずだけど...取り出せばデータを読み込めるんだけどな。
捨てられてたんだから僕がこの子をもらってもいいか。
アンドロイドさんよ、まだもうちょっと我慢してくれよ。
声をかけつつ、パソコンを持ってきて、昔の型のアンドロイドのチップからデータを移せるのか?で調べる。OK。アンドロイドショップで移せるみたいだ。
確かこの辺に....あった、展示会の広告チラシ。
こんな田舎でアンドロイドの展示会をやるらしく、広告チラシがポストに入っていたのを思い出したのだ。
なんでも、好評につき2度目の開催らしい。まだ開催期間中だから間に合う。
アンドロイドを担いで、車に乗った。
アンドロイドは少し高いと聞くが、これでも僕はそこそこ有名な漫画家だ。お金は足りる。
展示会をやっているというデパートの駐車場に着くと、7割くらいうまっていた。車を止めて、アンドロイドを担いでデパートに入る。
アンドロイドを担いで歩いているので、周りからの視線が痛い。変人だと思われてそうだ。
その視線から逃れるように早足で展示場へ行く。
展示場に着くと、かなりの数のアンドロイドがいて、皆コンセントから伸びたコードをイヤリング型受信機に繋いで、充電状態で目を閉じて立っている。
つい2か月前までは、充電と言えば、個室トイレみたいで扉が透明になっている充電スペースが主流だったのだが、今は携帯電話みたいにコンセントにさしてそのコードを耳の受信機につける方法に切り替わってきている。
そもそも充電するために充電スペースを作ったのは、充電中に動けないアンドロイドを他人が傷つけないようにするためだったそうなのだ。
充電中は睡眠ガスが出て、アンドロイドが強制的に眠らされるようになっていたのも、ただ充電中に動けないアンドロイドが暇だろうからと発明者がなんとなく付けただけの機能だったらしい。
確かに充電スペースが主流だった頃は、充電コードが短くてアンドロイドが動けるほどではなかった。
それに比べ、今のコンセントに繋いで充電するコードは長さが選べるので、長いのを買えば充電中でも活動が可能になる。進化ってすごいな。
さっそくレジに行くと、担いできたアンドロイドを預かってもらう。
そしてアンドロイドを見てまわるために、そちらへ足を運ぶ。
「あの子はピンクの髪だったよな。同じ髪色がいいのかな?んー、年齢と身長は同じくらいがやっぱり負担が少ないかな?」
迷いに迷った結果選んだのは、拾ったアンドロイドと同じく17歳くらいで、髪は黒のアンドロイドにした。あの子がこの髪色嫌だと言ったら違う色に染めてあげよう。
「このアンドロイドください。あ、さっき預けた、そうこの子のチップのデータを、今買うアンドロイドのチップに移動をお願いします」
「かしこまりました。他に各種機能でインストールしたいものはございますか?2つまで無料でございます」
「いえ、データだけ移してもらえれば大丈夫です」
「承知いたしました。2時間ほどかかりますので、お時間がたちましたら再度お越しくださいませ」
そういって受付の販売スタッフは、お辞儀をした。
デパートに入っている他の店を見てまわっていると時間になったので、展示場へ戻ることにした。
「お客様、こちらがご注文を承ったアンドロイドでございます。不具合等ございましたら、こちらの番号までおかけくださいませ。対応させていただきます」
「分かりました。ありがとうございました」
またのお越しをお待ちしておりますという声を背に受けながら、買ったアンドロイドを担いで車に乗った。
そう、データを移したのに目が覚めないのだ。おそらく、長く使われたことにより、精神的部分がやられているのだろうか。
ともかく体は新しくしてもらったので、後は目覚めるまで根気強く待つしかない。
そう思いながら運転して家へと帰った。
家に着いたら、今は使用してない部屋の1つを掃除して片付けて、ベットに新しいシーツをつけてタオルケットと布団を用意した。
とりあえず寝かせる前に何か食べさせないと餓死して死んでしまうので、家にあった市販の流動食を温めて、気管に入らないように気をつけながら口に流し込むようにして食べさせてあげた。目の前に食べ物を出すと無意識か、普通に口を開けて咀嚼して食べてくれるのだ。
それから歯磨きもさせて、ベットに寝かせてあげた。
何かあったらいけないからと、布団を引っ張り出してきて敷くと、ご飯を食べてお風呂に入って、僕もその部屋で寝ることにした。
次の日、目が覚めると異臭が彼女から香ってきていた。
まあ仕方ない。祖父も祖母も介護した経験があるので大丈夫だ。
ベット周りの汚れを綺麗にして、ごめんねと呟くと、下に着ているものを脱がして綺麗にしていく。
後は新しい下着と服を着せてあげる。これは昨日デパートで彼女用にまとめて買ってきたものだ。
あとあれだな、オムツ今日買ってこないといけない。買うのを忘れていた。
綺麗にし終わったら朝食を食べさせて、また寝かせてあげる。
その後は買い物に行って、素早く帰ってきた。
夜はまたごめんねと言いながら服を脱がせて、体を支えながらお風呂で洗ってあげて、新しいオムツと服を着せてあげる。
そしてご飯を食べさせたら寝かせてあげる。
そんな日々が何日も続いたある日、いつものようにおはようと挨拶すると、かすかに何か聞こえた気がした。
「.........」
今まで返事らしいものは聞こえたことがなかったが、初めてなにか声が聞こえた気がしてうれしくなった。
それからはたまにそんな気がする声が聞こえる日が続いた。
そしてさらに数日がたつと、今度は突然の奇声が聞こえ目が覚めた。
「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ...っ!」
「どっ、どうしたの!大丈夫!大丈夫だよ!ここにいるからね!大丈夫だよ!」
何度も声をかけて落ち着かせると、だんだん声も小さくなって、眠りについた。
やはり精神的なものだろう。少しずつ良くはなってきているようには感じる。
その奇声も3日くらい続き、今日も奇声で目が覚めたのだが、少しだけ違っていた。
「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"っ!...ぁ"ぁ"ぁっ......マスカ...」
「大丈夫!ここにいるよ!いるからね!」
手を握って話しかける。ん?まて今なにか喋らなかったか?ますか?とは一体何だ。なんて言おうとしたんだろう。
考えても分からなかったが、何かを訴えかけようとしているようだった。
言葉が混じった奇声は、それから2日間聞こえて、また挨拶しても静かな状態に戻った。
そこからさらに3日たつとすごいことが起こった。途切れ途切れながらも、しっかりとした声が返ったきたのだ。
「...わた..し...きこえ....か...?..ここに...」
だがそれは、僕に話しているのか、他の誰かに向けて話しているのか、うわ言のように宙に向かって話しかけているように見えた。
それでも僕はちゃんと、その言葉に返事を返してあげる。
「聞こえているよ。大丈夫。聞こえているからね」
そういうと安心したように目を閉じて眠った。
宙に向かって話しかける彼女に慣れてきた頃、今日もおはようと挨拶をしたのだが、昨日と違って返事はなかった。
返事がないのでまだ寝てるのかなと顔をのぞき込むと、目は半開きで宙を見ている。起きてはいるようだ。
「夢じゃないよ。ちゃんと聞こえているからね」
そういうと、その目からつーと涙がたれて、そのまま目を閉じて眠ってしまった。
その日からはまた少しずつ話してくれるようになって、だんだんその言葉数も増えてきた。
それから何日もたってようやく返事ができるまでに回復していた。
「おはよう」
「...おは..よう...ございま...す..」
顔もにこやかで、機嫌も良さそうだ。
「今日も散歩する?」
「..は..い...」
彼女の手を取って立ち上がらせる。それから手を繋いで、まずはご飯を食べるためにリビングに行く。
精神的な問題で体を動かせなかっただけで、体は新しいのに変えてあるので元々問題なく動かせたのだ。
彼女が来てから少し料理ができるようになった僕だが、まだまだ作れるものが限られている。もっと努力して彼女においしいものを食べさせてあげたい。
そう思いながら、作ったシチューをテーブルに並べて一緒に食べた。
その後は一緒に、近くの公園まで手を繋いで散歩をした。
最近は外に出ると楽しそうに笑っているが、動けるようになって初めて一緒に外に出た時には、泣きっぱなしで、ただただ声をかけながら抱きしめるしかなかったものだ。
散歩からの帰り道、ご近所の田原さんと出会った。よく会うので挨拶を交わす間柄だ。
「あ、どうもーこの時間よく会いますね」
「こんにちは。お出かけですか?」
「はい、彼女と公園に散歩に行ってきたんです」
「あ、いいですね。私も由梨といこうかな」
由梨さんとは、田原さんといつも一緒にいるアンドロイドの女性のことだ。今日はいないようだが、お2人はとても仲睦まじく、きっと恋人か家族のどちらかだろう。
だいぶ前からアンドロイドと付き合ったり、結婚したりっていうのは普通のことになっている。
結婚すれば、アンドロイドということは変わらないが、公的に名前を人間用にちゃんと変えれるし、使用できるようになる。
田原さんと挨拶を終えて別れると、構って貰えなくて、ちょっと不貞腐れてる彼女と手をつなぎながら家に帰った。
「き、汚い...ちょっと!この部屋なに!」
あの日から半年の間に、彼女...桜は普通に話せるようになっていた。というか、元気がありすぎてやばい。
話せるようになって最初は敬語だったのだが、色々あって敬語はなくなって普通に話すようになった。
色々というのは、どうしてあの日あの場所で捨てられるようなことになったのかとかそういう話しだ。
誰かに伝えたかったんだろう。話せるようになって少したったあと、話を聞いて貰えますかと言われたのだ。
それから桜の過去の話をしてくれたのだか、その内容は衝撃的だった。
まず彼女は、元々人間だったそうだ。いや正確に言うならば、アンドロイドの元になる人工的に作りだした人間の方ではなく、普通に人間の両親から生まれた方の人間ということだ。
桜が生きていた時代は2102年頃で、その当時かなり高額であったという、今はもうないメイドロボと呼ばれるアンドロイドを22体は所有していたほど、街で名家と呼ばれる歴史が古い家の出身だったらしい。彼女の本名は、木崎桜。17歳だったそう。
父は木崎次郎といい、木崎グループというメイドロボ生産会社の社長をしていたんだそうだ。母は物心着く前には亡くなっていたそうで、父親に1人で愛情たっぷり育てられたこともあってかファザコンだったという。
そんな父に褒めてもらいたくて、家事をやっているところを見せたかったのだそうだが、過保護すぎて今までやったことがなくてやり方が分からなかった。
なので普段家事をやってくれているメイドロボに教えてもらおうと行ったのだが、父から既に教えないでと命令されていたそうで、教えて貰えなかった。
で、そんな彼女が次にとった行動は、得意だったというプログラミング技術でプログラムをいじって、当時はまだ禁止されていなかった人間にも埋め込んでいた頭のチップと、メイドロボの頭のチップのデータを交換することだった。
メイドロボの外見なら自分じゃないので教えて貰えると、自分とそっくりなメイドロボSAKURAと入れ替わって教えてもらおうとしたが作戦は失敗。
入れ替わりは成功したが作戦に穴があったようで、SAKURAになった体は主人の命令でしか動けなくなっていて、戻してもらおうとしたが、桜の体に入ったSAKURAは戻るつもりはなく、そのままこき使って働かせ続けたんだそう。
声も自分で出せないので、心の中で誰か助けてくれるよう見つけてくれるよう叫び続けていたが、誰も気づくことはなく、気づけば10年たち20年たち30年たち父が死んだ。
指示された行動しかできないので、家の外には出れず、大好きだった父が何で死んだのかも分からず、葬式の設営を勝手に動く体の中から見ていたんだそう。
設営が終わった後はすぐに家に戻され、火葬の現場も埋葬の瞬間も見れず、ただただ大好きだった父が亡くなったことを悲しく思いながら、心の中で泣き続けたんだそうだ。
その後、父の手腕で好経営をしていた会社は、桜の体を奪ったSAKURAが社長を務めたが、どんどん経営は悪化していき、借金を抱えながら何とか20年はもって、そのまま倒産した。
その時にまだ使えるメイドロボは、SAKURAに入った桜も含めて売りに出され、桜は一般家庭に中古として買われた。そして50年たった頃、夫婦の喧嘩に巻き込まれて体に大きな破損を受けることになる。
アンドロイド専門病院に持ち込まれたが、木崎家でこき使われ、長年使われてきたことによって修復は不可能となり、火葬されることもなく、ゴミ捨て場に不法投棄された。
30年たった頃くらいから、もう何も感じなくなっていて、破損して傷ついた時、痛みも感じなかったそうだ。
そこから後は、僕が助けた話につながってくる。
泣きながら全て打ち明けた彼女は、たまりにたまった感情を一気にはき出しているようにも見えた。
そんな彼女を抱きしめながら、僕も誰にも言えなかった大好きな人達が死んだ心の内を、泣きながら語ったのだ。
そのあとはもうどちらとも遠慮はなくなり、砕けた関係になった。次の日の朝は少し恥ずかしさでお互いぎこちなかったが。
そんなこんなで、桜は家の中を自由に動きまわって、家事を僕と分担しておこなってくれているのだが、自室にだけはいれなかった。他の部屋は片付けられるのに、何故か自室だけ片付けられない。そんな部屋を見られたら怒られるに決まってる。
だけど一緒に生活してる以上、ずっと隠すことは無理なわけで、結局見つかって怒られてしまった。
そのあとの彼女は、これいるいらない?と聞いてきて、ぱぱっと綺麗にしてくれた。
「ほら片付いた方が空気もいいでしょ」
「確かに。うん、ありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
「じゃあ準備していこうか」
そう言って、2人で出かける準備をした。
今日は元々桜が住んでいた木崎家に行った後、先祖代々のお墓があるというお寺にお参りへ行くことになっている。
「準備できたー?」
そう聞いてくる彼女に、出来たよと伝えて家を出た。
桜が先導してくれて、木崎家があった場所に向かったのだが、そこはもう更地になっていて何も残ってはいなかった。
泣く彼女の肩を抱いて、落ち着くまで黙ってそばに居た。しばらくそうして、泣き止んで落ち着いた桜を連れて店に行き、お花とお線香を買って今度はお寺へと向かう。
お墓は少し手入れがしてはあったが、蜘蛛の巣がはっていて、お墓まわりの掃除から始まった。
掃除が終わった後は、お花をさして線香を立てた。
話したい事がたくさんあるだろうと、お墓を拝む桜から少し離れて見守った。
(パパ、お元気ですか。そちらでは楽しく過ごせていますか。パパが知らないうちに事件があってね、わたしそっちには行かずに、今もここで生きてるの。
今ね毎日がすっごく楽しい。啓介...高橋啓介さんっていう人に助けてもらって一緒に暮らしてるよ。
体はアンドロイドになっちゃったけど、普通に歳もとれるからそれはもう気にしてないの。顔も人間だった頃のわたしと違ってかわいくなってるの。DNA研究技術の進歩ってすごいね。
だからね、できればこのまま啓介と一緒に...。あ、今度紹介するね。それじゃあまたね)
一瞬こちらに視線を向けてきたけどなんだったのだろうか。
何か僕のことで報告してたのかな?
桜が立ち上がったので近づくと、またしゃがみこみ、もう1人話す人がいると言って拝み始めた。
(SAKURA、お元気ですか。そちらでパパと一緒に過ごしていますか。
わたしが軽率に行なってしまったのがいけなかったけど、それでもあなたがやったことは今でも忘れません。
あなたのことはとても許せないし怒りしかないけど、それでも、わたしだと思ってパパがあなたを最後まで愛した事実は変わらない。
だから、一緒のお墓に入ることは許します。
その代わりいつかそっちに行った時は、外でパパとあなたが過ごした日々を教えてください。
わたしは家から出ることが出来なかったから、知らない事がたくさんあるの。お願いね)
ん、終わったみたいだ。立ち上がった桜と一緒に、2人何も話さず家に帰った。
その日の夜ご飯中、この体は17歳くらいだけど、わたしはもっと生きてるからいいのと言って、止める僕を無視してお酒を飲んだ桜に、付き合ってくださいと告白された。
なんだかすっきりとした表情で、それでいて、顔は赤かった。
その日は返答せず、絡んでくる桜を何とか寝かしつけた。
後日何度も確認して、決心が着いたので、改めて僕の方から告白をした。
「えっと...その..一応買ってはあるから..」
「....うん..」
その日の夜はいつもよりもさらに、桜がかわいかったことは言っておこう。
ちなみに、アンドロイドだって生まれ方が違うだけで、元々は人間なのだから、やることをやればそりゃ子供ができるし、出産もする。
生まれた子供はちゃんと人間として扱われるし、法律でも決まっているので差別されることはまずない。
まあ何はともあれ、生まれた時は2人で子供をたくさんかわいがろうと思う。
あれから僕たちは恋人として、たまに喧嘩することもあるけど、幸せな日々を過ごしています。
そして今日は、2人で婚姻届を提出しに行く予定なんです。
「ほ、本当に後悔しない?僕で大丈夫?」
と不安な僕をくすりと笑って、桜は自分の手を僕の手に絡ませてきて、その上から反対側の手で愛おしそうになでる。
「こんなに幸せなのに、後悔なんてしないよ」
そうやわらかく笑う。
もっと幸せにしてみせると、抱きしめていると、声が聞こえてくる。
「おはようございます」
「お、おはようございます」
田原さんちの2人だ。慌てて離れて2人で挨拶を返す。
「おはようございます」
すると抱きしめていたのを見られていたらしく、微笑ましそうに笑いながら話しかけてきた。
玄関から出てすぐの所で抱きしめてたから、他の人にも見えていたようだ。
「なんだか幸せオーラが出てますね?」
「あ、はい、分かりますか」
照れくさそうにそう返すと、私達も幸せオーラ出てるはずなんですよと返してくる。
「実は私達結婚したんです」
「ちょ、ちょっと春香!」
「どうしたの?隠す必要もないでしょ?よく話すご近所さんなんだし。私達だって幸せなんだから」
「う、うん幸せだけど」
確かにあちらも幸せオーラが出ている。
近いうちに僕たちも結婚しようと話し合っている。
ただ、結婚式はしなくていいらしい。祝ってくれる親族が桜もだが僕もいないので。
なので、ウエディングドレスとタキシードを着て写真を撮ってもらうだけにとどめることに決めている。楽しみだなぁ。
新婚旅行はどこに行こうそう考えていると、とんでもない発言が聞こえた。
「子供も欲しいから、精子バンクから提供してもらうつもりなんです」
「そ、そこまで言っちゃだめ!もうっ春香!」
何でもかんでもぶっちゃけすぎだ、田原さんってやばい人なのかと思ってしまう。
オドオドしているが、由梨さんの方がしっかりしてるようで、上手くまわっているのだろう。
「そ、それじゃあ失礼します。お幸せに」
「お幸せに!」
と嵐のように去っていってしまった。ご近所さんなのでまたすぐに会うだろう。
「嵐のような人達だったね」
と、2人して笑った。
あれからさらに1年が経ち、その間に結婚もした僕ら夫婦の仲の良さは変わらない。
強いて言えば、恋人時代の時よりも、桜のしりにしかれているって事くらいだろうか。
「啓介、時間大丈夫?今日外で打ち合わせじゃなかった?」
「あ、だ、大丈夫!もうちょっと!」
慌てた僕を、はぁっとため息をついて、しょうがないなと準備を手伝ってくれる。
いつもはリモートでやるのに、今日は出版社での打ち合わせだった。忘れてたとは言えない。
手伝ってくれた彼女にお礼を言って、優しく軽めに抱きしめる。
今、桜のお腹の中に僕らの赤ちゃんがいるので、慎重になっているのだ。
初めてのことで僕も彼女も戸惑いながらだが、子供が生まれる前とか生まれた後だとか色々学びの最中だ。
そういえば、田原さんちもお2人共妊娠したとか話してたな。
どんどん田原さんちと関係が深くなっていく。もはや家族ぐるみで仲が良い。
まあ、これからも楽しい関係が続きそうで何よりだよ。
「いってきます」
「いってらっしゃい。運転気をつけてね」
妻の桜に見送られながら出版社に向かった。
ふと空を見上げると、これからの人生を祝福するかのように、雨上がりの虹がかかっていた。
父さん、母さん、じいちゃん、ばあちゃん。
元気ですか。お茶でも飲んで僕のことを見守ってくれていますか。
僕のことは心配しないでください。
幸せにしたい人、幸せにしてくれる人を見つけました。
妻の桜は、何があっても味方でいてくれて、隣で笑っていてくれる大切な人です。真っ直ぐで、とてもかわいくて素敵な人です。
まだまだそちらに行く予定はありませんが、いつかそちらに行った時には、自慢させてください。
今僕は幸せです。
ーー[完]ーー