ホムンクルスなりきり体験 (Pixiv Fanbox)
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「うーん、やっぱり今日はホムンクルスがいいかな」
今わたしは、食品売り場で今日買うお肉を絶賛品定め中。
牛肉は高いので選ばないし、豚は脂身が多いのしか残っていないのでちょっと今日は無理。
残るはヘルシーな鶏肉か、甘みの強いホムンクルス肉かだったのだが、迷った結果ホムンクルス肉にすることにした。
ホムンクルスとは、人工的に作り出した人間のことである。
幾人かの人に協力してもらってDNAを採取した後、それをかけあわせてできた生物がホムンクルスであり、先程言っていたホムンクルス肉とは、その生物のお肉のこと。
ちなみに今では、オスとメスの交尾によって普通にホムンクルスを生ませる。
人工的に作り出した生物ゆえ、人間に似ていても知能はなく、ただただ何も考えずぼーっとしていて、意味の無い言葉をたまに発するくらいの生物なのだ。
そもそもホムンクルスが生まれることになったのは、動物のみにかかる感染症が世界的な規模で発生したことにある。
その出来事により、多くの動物が亡くなってしまい、食肉事情が危機に瀕することになってしまった。
それを解消すべく生み出されたのがホムンクルスだったのだ。
それを作るなら、牛や豚などを人工的に作ればいいんじゃないかと疑問に思うのだが、この感染症が生き残った動物に感染していない保証はなく、DNAを採取して作った動物も感染症を後に発症するリスクがあるため、それをすることが出来なかったのだそう。
非人道的だと反対する人達もでてきたが、じゃあお前達は肉を今後食べれなくてもいいんだな?という賛成派の人達によってねじ伏せられたのだそうだ。
そもそもそれを言うならば、牛や豚だって食べてるじゃないか、それはいいのかと言ってしまいたくなる。
そんな危機にあった牛や豚などの動物も、現在は食肉として復活し普通に売られているが、数十年前に生まれたホムンクルス達のお肉も人々の生活に溶け込み、馴染みの味となっている。
そしてそのホムンクルスはその乳から出るミルクも人気で、牛乳ならぬホムンクルス乳として一般的に売られている。栄養豊富で、健康になりたい者や子供を持つ家庭が買うことが多い。
肉ホム乳ホム共に品種改良を繰り返し、今や各地域のブランドが出るほどに人気だ。
今買おうとしているこのホムンクルス肉もブランド肉の1つで、フルーツのような甘みと食感に特徴がある。そして実はこのお肉、友達の家で作られたものである。
友達の家はホムンクルス肉の生産をしている牧場で、住んでる地区に3つある牧場の内の1つなのだ。
明日は土曜日で学校がお休みなので、その友達の家で一緒に遊ぶ約束をしている。
今までは外で買い物したりして遊んでいたので、初めて友達の家で遊ぶ。どんな家か楽しみだ。
そんなことを思いながら、他の食材も買って家に帰った。
「ただいまー」
現在1人暮らしの寮は、部屋の中に誰もいないので返事はない。
1人暮らしをし始めてから、なんだか独り言が多くなった気がする。他の部屋にいる寮生も同じことを言っていた。
なぜ寮暮らしなのかというと、実家から遠かったのが理由に挙げられる。
入りたかった今の高校に合格したのは良かったが、家から通うのが困難だったため、寮生活を決めた。
1人暮しと言っても寮母さんが料理を作ってくれるし、食事の時間になると寮に暮らしている他の学生と一緒になるので寂しくはない。お風呂とトイレは各部屋についているので、共同じゃなくて安心な点だ。
ちなみに小さい調理場が部屋についていて、自分で調理して好きなものを食べることもできる。
今日のわたしみたいに、食材はもちろん自分で買わなければならないけど。まあ、たまに自分の好きなものを食べたい人は各自そうしている。
せっかくホムンクルス肉を買ってきたので、ステーキにしておいしくいただいた。やっぱりブランド肉は旨味が違う。
そのあとお風呂に入り、明日遊ぶ友達に10時頃寮の下で待ち合わせねとメッセージのやり取りをして、少し早めに寝ることにした。
「おはよー!待たせてごめんね」
「おはよー。わたしは住んでるのここだし気にしなくていいよ。逆に、菜夏にこっちまで来てもらっちゃってごめんね」
「いやいや、それこそ気にしないで」
お互いの気にしないでのやり取りに2人で笑った。
「それじゃあ、行こっか」
そう言って、友達の菜夏の家へ行くために駅に向かって歩き始めた。
菜夏の家へは、この寮からだと電車で20分の所にある。
牧場を経営しているだけあって、都会から離れているのだ。
「どっかでアイス買ってからいかない?」
「りょーかい」
電車に乗り、菜夏の家に近い駅で降りて少し歩いたところでアイスが食べたくなったので、近くにあったコンビニに寄った。
そして買ったお菓子の入った袋を持ち、片手でアイスを食べながら家へと歩いて向かった。
「うわー、本当に牧場って感じだね」
「そりゃあ、牧場だからね」
目の前には中にホムンクルスがいるのであろう大きな建物がいくつかあり、柵も設置されている。
「気になるなら後で中見に行ってもいいよ」
たしかに普段見る事などないので、どんな環境で育っているのか気になっていた。
そもそもテレビでもホムンクルスを映すことはない。人工的に作られたとはいえ、見た目が人間なので倫理の問題で映せないのだ。なにせホムンクルスは、食肉用家畜ゆえに裸なので。
後で見に行きたい旨を伝えて、家の中に入った。
入って入ってと言われて入った家には、菜夏に若干似ている女性がいた。
「おじゃまします」
「いらっしゃい。ゆっくりしていってね」
「おかーさん、お茶はわたしが出すからいいよ」
先に部屋に行っててという菜夏の声で、示された階段を上がって部屋を探した。菜夏と書かれたプレートがかけてあるドアがあったので、この部屋で間違いなさそうだ。
中に入ると暖色系でまとめられた部屋で、オレンジ色系統の小物などがたくさんある。この色が好きなんだろうな。
そう思いながら座って、部屋の真ん中にある折りたたみテーブルに寄りかかって見まわしていると、ガチャっとドアが開いた。
「どう?部屋かわいいでしょ?」
「自分から言うんかい。かわいいけどさ」
この色好きなんだね。そうだよー。そんなたわいもないやり取りなどで盛り上がり、気付けばあっという間にお昼時になった。
菜夏のお母さんが、よかったらこれ食べてねと昼食を作ってくれたので、高橋家に混ざって一緒に食べた。高橋は、菜夏の苗字である。
食事の時に初めて弟の存在を知ったのだが、あまり家族以外の人と話すのが得意ではないのか、あ、どうも みたいなお辞儀をされた後は、会話をすることはなかった。
彼は颯真といって、小学6年生だそうだ。
食べ終わったら、気になっていた牧場を案内してもらえることになった。
来る時に予想していた大きな建物はやはり、ホムンクルス達を育成している場所らしい。
中に入ると、獣臭というか、土や草や排泄物の臭いなどが混ざった何とも言えない臭いが香ってきた。
「あー、慣れないときついよねー」
中学生の時、牛や豚を飼育している牧場に見学しに行ったことがあるが、その時の飼育されていた建物内の匂いと似ている。一瞬うっとなったがそれだけだ。
続けて周りを見ると、わたしと同じ歳か多くても3つ上くらいの性別バラバラのたくさんのホムンクルス達が、等間隔に拘束されて並んでいる。
外に複数あった他の大きな建物の中には、おそらくまた別の年齢のホムンクルスがそれぞれ飼育されているものと思われた。
しかし本当に人間にしか見えない。
髪と眉毛とまつ毛以外の毛は生えていないようで、少し羨ましく思った。なぜそこだけ生えているのかとは思うが、おそらく見た目が良くなるように品種改良されているのだろう。
拘束具は、コンクリートの地面から15cmくらいの鎖が出ていて、その鎖の先端には鉄でできた拘束するための鉄輪がついている。四つん這いになることで、首・両手首・両足首にはまる位置にくるようにしてあるようだ。
その首につける鉄輪からはさらに頑丈そうな糸が伸びていて、ホムンクルス達の舌にあいている穴と連結されていた。
舌が下に向かって伸びるようになっていて、これのおかげで話すのに苦労するため、あまり話そうとはせず、騒がしくなる事もないのだろうと思った。
もちろん地面は剥き出しのコンクリートではなく、その上に土や草などが盛られている。
コンクリートから鎖が出ていたのが見えたのは、鎖周りの土が若干なくなっていたからである。
「がっちり拘束されてるんだね。手足伸ばせないんじゃない?」
「そりゃそうだよ。逃げられたらダメだしね。知能がないって言っても、見た目人間なんだから分かんなくなっちゃうし」
目の前のホムンクルスを見ていると、生まれ方は違うとはいえ、たしかに人間そのものだからなぁと思った。
その体は自分の出した排泄物や土などで汚れていて、ひどい臭いを発しているし、耳標もついているので、さすがに分かるような気もするが。
そう考えているうちに、菜夏が何やらバケツを用意して、こちらに話しかけてきた。
「ちょうどエサやりの時間だから一緒にやらない?」
「え、いいの?やるやる」
そう言うと、バケツを1つ手渡される。
バケツの中身は、麦と果物がある程度形が残るように潰されて入っていた。これがホムンクルス達のエサのようだ。
先にエサをやる菜夏を見ながら同じように、各自それぞれホムンクルス達の目の前にある木でできた餌入れに入れていった。餌入れに入れていったそばから、顔を突っ込んでおいしそうに食べている。よほどお腹が空いていたのだろう。
ちょうど2人して終わったので、家に戻ることにした。その後はゲームしたりお喋りして楽しんだ。
「貴重な体験ができたよ。ありがとね」
「いやいや、いつもやってる事を見せただけだよ」
その日の夕方帰る前にそんなやり取りをしたのだが、今日の出来事でわたしは、心の中にもってはいけない感情をもってしまっていた。
帰ろうとせずにもじもじとするそんなわたしを見て、菜夏が口を開く。
「どうしたの?何か相談事?」
その言葉に言おうか言わないか、もし言ったら頭のおかしい奴だと思われるなど考えて黙ってしまった。
そんなわたしを悲しそうな顔をして見つめる。
「友達のわたしにも話せないこと?」
その悲しそうな声色に、少し勇気を出して話してみることにした。
「ひ、ひかないでね?....わたしね、さっきのホムンクルス見て、同じように扱われてみたいって思っちゃって...変でしょ..?」
それを言われた菜夏は、一瞬何を言われたのかとキョトンとしたが、すぐに笑顔に変えて笑った。
「いや、変っていうか、陽葉ってもしかしてわたしが知らないだけで変態だったの?」
ひかれなかったことに安堵しつつ、そんなに笑わなくてもいいじゃんと怒った顔をすると、ごめんごめんと謝られた。
「そんな趣味があるとは思わなかったけど、いいよ。ならやってみる?ホムンクルス体験。来週の土曜日家族みんなおばあちゃんの家に行って1日いないし、日曜日は夕方にしか帰ってこないし」
わたしはこの前おばあちゃんの家行ったばかりだし、ホムンクルス達の世話で残ることにしたんだーと言う。
からかいながらも願望を聞いてくれた菜夏にお礼を言って、やりたい旨を伝えた。
「じゃあそれまでに、両耳と舌に穴あけてきてね。じゃないと出来ないから」
そう言われて、その場で直ぐにやってくれるクリニックを探して予約した。決まったなら気が変わらないうちに、即行動あるのみだ。
ホムンクルス用に穴をあけるための道具もあるらしいのだが、あける時に患部を冷やすだけで、麻酔とか何もないのでかなり痛いと思うと言われたので、クリニックであけてもらうことにしたのだ。
わたし達の通っている学校は、そこまで校則ガチガチではないので、ピアス穴を開けるくらいでは怒られることはない。
その穴にピアスなどを付けて登校してきた時にはさすがに怒られるが。学ぶ場所であって遊びに行く場所ではないので。
じゃあまた学校でねーと手を振る菜夏に手を振り返して、電車に乗って寮へ帰宅した。
その後の1週間は、土曜日に向けての期待感でいっぱいだった。この1週間の間に、予約したクリニックに行って穴をあけてもらった。貯めていたお小遣いがそれなりに減ったが、まあいいだろう。
学校帰りにあけた穴は、ふさがらないように透明なファーストピアスをして過ごした。意外と先生に気づかれなくて菜夏と2人笑ってしまった。
そして待ちに待った土曜日、待ち合わせしてまた菜夏のお家におじゃました。
家族全員いないと言っていたはずだが、なぜか弟の颯真君が遠目に居るのが見えた。なぜ居るのか菜夏に聞くと、颯真君は明日の日曜日に友達と遊びの予定があったらしく、結局今日はおばあちゃんの家に行かなかったとの事だった。
実は今日わたしが遊びに来ることは、高橋家の皆さんは知らないので、颯真君に見つからないようにこそこそと移動した。
なぜ見つからないようにかというと、これからやる事が露見してしまったら恥ずかしいからだ。
仮に友達が来ることを知っていた場合、友達が遊びに来ているはずなのにどこにもいない、探したらホムンクルスになりきって楽しんでましたって、やばいだけじゃすまなくなる。
今後会う度に絶対冷たい目で見られてしまう。そんなのは嫌なので、見つからないように移動したのだ。
ホムンクルスがいる建物の1つに着くと、菜夏が口を開いた。
「1つ分ホムンクルスどけて空けといたから、そこでホムンクルス扱いしてあげる。そのどけたホムンクルス、陽葉と髪も背格好も同じだし、仮に他の人に見られてもバレないと思うよ。
まあ、顔はちょっと似てるくらいだけど、どの道番号で管理してるからそこまで気にしないし大丈夫。それにこれだけたくさんいる中で顔なんてそんなに覚えてないしね」
そう言うと、空いている場所に連れていかれた。
「じゃあ着ているものを全部脱いで、そこに四つん這いで寝そべってね。あ、これからホムンクルス扱いされるんだから、恥ずかしいなんて思わないでね?」
たしかに友達の前で裸になるのは恥ずかしかった。だが、これも自分が望んだことと、顔が赤くなるのを感じながら何とか服を脱いだ。
そして、言われた通りに四つん這いで寝そべると、ガチャンと音を立てて首に鉄輪がつけられた。その冷たい感触にビクッとなっていると、両手首・両足首にも冷たい感触が伝わってきて、鉄輪がつけられたのが分かった。
ハッとして動いてみるが、それぞれ15cmくらいの鎖が繋がっているのでそれほど身動きもできず、四つん這いの状態から体勢を変えることは出来なかった。
「じゃあ次は、舌に糸つけるからね。舌出して」
この状況に興奮したわたしは言われるがまま舌を出して、菜夏の手によって首についている鉄輪から出ている糸で連結されてしまった。
「痛いところはない?」
「あいお、あいおうう」
質問に答えようとしたわたしの口から出たのはそんな言葉だった。
そんな菜夏は、なんて言ったのか分からないと首を小さく傾げたが、それを悟られないように、はいはいと苦笑いしながら次につけるための物を取りだした。
「今度はこの耳標ね。これ、どかしたホムンクルスに付けてた物で、本物の登録されてるやつだから、これ付けたら高橋ファームの管理番号57番のホムンクルスになるからね」
そう言って、バチンバチンとわたしの両耳に付けた。視界の端に黒い字で57と書かれた黄色い耳標が見える。
「おえっえ、おんおおあんあ?」
「ごめん、なんて言ってるか分かんないや」
舌が引っ張られているため上手く言葉が話せず、菜夏には伝わらなかった。
なんて言ったのか気にせず菜夏は作業を続ける。
「次は周りのホムンクルスと同じような体にするね」
と周りの少しドロっとした土を手袋をした手で持って、わたしの髪や顔や体に満遍なく塗りたくってきた。
塗られた鼻から息を吸うと、最初にここに来た時に感じた、土や草や排泄物の混じった臭いがした。
「おえ、おううんうううおあう!?」
わたしの言葉が分からず菜夏は首を傾げたが、なんで塗ったのかを説明してきた。
「家に颯真いるし、万が一バレたらまずいと思って塗ったけど、良かったよね?ホムンクルス体験したいって言ってきたの陽葉だし」
それを聞きたいわけじゃなかったが、さっきの行動を考えてみたら、やばいものを全身に塗られたと気づいた。
ホムンクルス達は拘束によって動けないので、その場に排泄をしている。その排泄物が、足元やその周囲の土と混ざって少しドロドロとしていたのを思い出したのだ。
掃除はちゃんとしているようだが、それまではそこにあるわけで、つまりわたしにさっき塗られたこれは、どけたホムンクルスの排泄物と土が混ざったものである。すごく汚い。
うがーっ!と少し暴れると、お尻をバチーンと躾用と思われる鞭で叩かれた。
「あおっ!?」
驚いた表情を浮かべたわたしをニッコリと笑って見つめてくる。
「ホムンクルスが暴れたら、暴れないように躾ないとでしょ?さ、57番ちゃん、暴れないでね?また痛くなっちゃうからね?」
ブルブル震えるわたしにそう言って、乾いている土もわたしにふりかけてきた。
これでよしっと言うと、菜夏はどこかへと行ってしまった。
改めて見える範囲で周りを見てみると、わたしの居るここは、10列あるうちの3列目のちょうど真ん中辺りだ。
両隣や前方、後方はもちろんホムンクルスだし、その体はわたしと同じように拘束されていて、ひどい臭いを発するほど汚れている。
この広い場所で、たくさんいるホムンクルス達の中に人間が混ざっているとは、他の人が見ても気づくことはないだろう。そう考えただけで少し興奮してしまっている自分がいた。
しばらくすると建物内に人の足音が聞こえてきた。
うろうろと行ったり来たりしていて、誰だろうと思っていると、目の前の列をその人が通ったことで、颯真君だと判明した。
そしてその颯真君がわたしの列に来て、視界の端に白いバケツを持って歩いてくるのが見えた。
何かするのかなと思っていると、そのままわたしの後ろで足音が止まった。
「姉ちゃん!今日何日だっけ?」
遠くにいる菜夏に大きな声で話しかけている。
その声に反応した菜夏も大きな声をだす。
「え?ちょっと待ってね!...6月24日だよ!」
「分かった!」
そう言うと何やらわたしの後ろにいる颯真君から、パシャッバシャバシャコンコンという音が聞こえた。
「いぇぅっ!?」
次の瞬間には、冷たい何かの液体がわたしの背中に触れるのを感じ、筆かなにかの毛のあるものを使って文字を書いているのが分かった。
「もう姉ちゃん、57番明日出荷だって言ってたのに」
そんな独り言が聞こえて、何をされたのかが分かった。
先週来た時に、ホムンクルスの背中に赤い文字でデカデカと日付と高橋ファームという言葉が書かれているのが気になったので、これは何?と聞いたら、食肉加工工場への出荷日と、うちの牧場からの出荷が分かるようにするためのものだよと言われたのだ。
恐らくさっきわたしに行われたそれは、出荷日と牧場名が書かれたということ。57番が明日の出荷と言っていたので、わたしと入れ替わったあのホムンクルスが出荷を控えていたのだろう。
しかし、出荷日が近いのにまだ何も書かれていないのを見て、書き忘れだと思い書いたのだと思う。
わたしの背中に書き終わった颯真君は、バケツを持ってそのまま出ていった。
それからまたしばらくすると、違うバケツを持った菜夏が入ってきて、各ホムンクルスの餌入れにエサを入れていった。
わたしに視線を向けることもなく、ただただエサを入れていき去って行く。
まるでそれは、特別気にすることのないホムンクルスに向けられる扱いと同じで、お前はたくさんいる家畜であるホムンクルスの1人なんだと突き付けられているようだった。
そんなぞんざいな扱いに少し興奮してぼーとした後、目の前のエサに視線がいく。
(これ、食べなきゃいけないんだよね?)
ちょうどお昼の時間だからエサやりに来たのだろう。わたしもお腹が空いていた。てっきりお昼は解放してくれると思っていたが、体感30分待っても菜夏は戻ってこなかった。
お腹は空きすぎて、ぐうぐう鳴っている。
目の前のこれは、麦と果物を砕いたものだ。普通に人間が食べられるものだと、顔を突っ込んで食べ始めた。空腹には抗えなかったのだ。
ちなみに、一緒に砕かれた果実から果汁を吸って麦は多少柔らかくなってはいたが、それでもめっちゃ硬かった。
しかも拘束されていて手は使えないので、顔を突っ込んで食べた結果顔中がベタベタになった。しかし、どこかに拭うこともできなかったので、そのまま放置するしかなかったのである。
食べ終わると少しうとうとしてきて、そのまま眠りについた。
ザザーココッ、そんな音が聞こえて目が覚めると、視界の端で菜夏が餌入れにエサを入れているところだった。
辺りを見まわすと建物内に電気がついていて、外は真っ暗なようだった。随分寝てしまったらしい。
わたしの目の前の餌入れにも入れに来たので、そろそろホムンクルス体験は終わりにして解放してちょうだいと目を向ける。
「おおおお、あいおういえ」
すると家畜のホムンクルスの1人として扱っていた菜夏が、こちらをしっかりと見てきた。
「え?なんて言ったの?んー、分かんないけど、今日は夜ここで過ごしていいからね?せっかくのホムンクルス体験なんだから、夜も楽しみたいんでしょ?分かってるから大丈夫だよ」
そう言うとエサを入れ終わって次へと移ってしまった。
「おっお、あっえ!」
そう叫んだが、上手く声も出せずに、エサを入れる音でかき消されてしまい、聞こえることはなかった。
そしてついに菜夏は最後のホムンクルスにエサを入れ終わって出て行ってしまう。
その光景を見ながら、わたしはすごく焦っていた。
偶然にも明日出荷を迎えるホムンクルスと入れ替わってしまったことにより、早めに解放してもらわなければ、わたしがそのホムンクルスと間違われて連れていかれる危険がある。
しかもその出荷の時間が分からない。颯真君とのやり取りから、菜夏が明日出荷のホムンクルスを把握しているのか分からないのだ。
もう今日はここに来ないと思われるので、明日の早朝にでも解放してもらわなければ、わたしはこのままホムンクルスとして、お肉になってしまう。
焦って体を動かしてもそれほど動けず、結局この状況を打破することは出来なかった。
少し動いたことで朝から1度も用を足してなかったのを思い出ししたくなったのだが、拘束のせいで動けず、恥ずかしかったがその場で用を足した。足を伝う黄色い液体や、茶色の排泄物は気持ち悪い。
しかも四つん這い状態なので、ちょっと動いただけでその自分の排泄物を、膝から足の甲まで全体で踏んでしまい、尚更不快感でいっぱいだった。
その後は仕方なく明日に祈りを込めて眠ったが、何度も途中で起きてしまい、なかなか眠ることができなかった。
翌朝、昨日の夕方と同じく、また餌入れにエサを入れる音で目が覚めた。
今日は颯真君が入れているようで、遊びに行く前に仕事の手伝いをしているようだ。
颯真君がわたしの餌入れに来た時、解放してもらえるように話しかけた。
「ああい、いんえん!あうええ!」
「ん?たくさん食べろよ57番。今日までだからな」
わたしの言葉は理解されず、優しそうな目をしてそう言った。
「ああい、いんえん!いんえんあっえ!」
分かってもらわないととそう言って、ガシャンガシャンと鎖の音を鳴らして暴れた。
「おいおい!暴れんな!ったく、どこやったっけな...あったあった。おとなしくしろ!」
「おぁっ!?」
そう言ってバチーンと鞭で叩かれた。
だがわたしは、人間だと分かってもらわねばならないので、再度暴れる。
「暴れんなって言ってんだろ!」
そんなことをしていると、バチーンバチーンと何度も叩かれ、怒鳴られて、わたしは恐怖と痛さで暴れることをやめた。そして、もうやめてとブルブルと震えるのだった。
「やっと落ち着いたか。しっかり食えよ」
はぁっと息を吐いた颯真君は、まだエサを配り終えていないホムンクルスの元へ行ってしまった。
わたしはブルブルと震えながら、迫りくる出荷への恐怖で、お腹が空いているのにも関わらず、目の前のエサに口をつけなかった。
よく考えたら颯真君は、わたしが高橋家に遊びに来たことも、ホムンクルスと入れ替わっていることも知らないので、伝えようと必死になっても無意味だったのだが、この時のわたしは冷静な状態ではなかったので、気が付かなかったのである。
何とか心を少しだけ落ち着けた時にはすでに、颯真君はこの建物の中にはいなかった。
仕方なく目の前のエサを食べていると、颯真君の声が聞こえてきた。戻ってきたようだ。
その声が近づいて来る度に1人の声ではないことに気がついた。
「えーと、1、3、4、12、23、27、54、57を出荷お願いします」
「分かりました」
その声が聞こえるとともに、呼ばれた番号のホムンクルス達が次々、暴れたら危ないからと麻酔をうたれて、引っ張られて連れていかれる。
(まずいまずいまずい、どどどどうしよう!菜夏!菜夏ー!)
「ああ!ああー!あうええー!!」
連れていかれたらまずいと必死に叫ぶが、その声は誰にも理解されず、ただ意味のない言葉を発しているように思われていた。
視界の端で、54番のホムンクルスが引っ張って連れていかれるのが見えて、次はわたしだとガシャンガシャンと鎖を鳴らして暴れたが、颯真君が駆けつけてきてまた何度も叩かれた。
そしてついに、わたしを連れていこうと、麻酔をうつ手がこちらへ伸びてくるのと同時に拘束を解き始める。
「じゃあこのホムンクルスも連れていきますね」
そんな声が聞こえても、恐怖心でガクガクと震え、もう暴れる気力もない。すでに肌に刺さる1cmの所に麻酔の針がきてる。ああ、もう終わりだ。
そう思っていた時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あー、そのホムンクルス違います。あっちの子が57番です。昨日ちょっと別の育成途中のホムンクルスと場所交換してたんで」
「えっ?!姉ちゃん!それ先に言えよ!昨日言ってくれないから、日付書いちゃったじゃんか!後で怒られるんだけど!」
「ごめんごめん。あの子を出荷お願いします」
「あ、分かりました」
そのやり取りに安堵して涙を流した。このまま本当に出荷されてしまうのではと思ったが、それは杞憂ですんだようだ。
その後無事出荷が終わり、颯真君は遊びに出ていった。
それを見届けた後、菜夏がニヤニヤしながら解放してくれた。
「どう?ドキドキしたー?」
「ほ、ほんとうに食肉加工されるのかと思った」
ずっと舌を下に引っ張られていたので、少したどたどしくそう言うと、友達にそんなことするわけないじゃんと、ケタケタと笑っていた。
本当は出荷日のホムンクルスを把握していて、わざとそのホムンクルスと入れ替わってもらって、ドキドキさせようとしていたらしい。心臓に悪い。
それから外で、蛇口に繋いだホースから出る水で洗われ、家の中のお風呂場でも洗われた。洗っても少し臭いがしたが、明日になれば落ちるだろう。
その後は一緒に菜夏特製の朝食を食べて、寮へと帰った。
この1日の特別な体験はずっと忘れることはないだろう。そう思った。
季節は夏。もうすぐで夏休みに入る。
そんなわたしの頭の中では、菜夏の家に行って、またホムンクルスなりきり体験をこっそりさせてもらおうかなと考えて、妄想を膨らませていた。
あれだけの恐怖を味わったが、逆にとても興奮している自分に気がついたのだ。今度はもっとたくさん逆らって暴れて、躾られるのもいいかもしれない。
きっとまた素敵な1日になることだろう。
興奮して下向きになった舌から、よだれが少し垂れるのを感じた。
ーー[完]ーー