密かな私の楽しみとアンドロイドの困惑 (Pixiv Fanbox)
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「ありがとうございましたー」
お辞儀をして、最後のお客さんを見送った。
「はぁー、やっと終わった。さっ、早めに片付けないと」
今日も一日長かったとため息をつきながら閉店作業に入るが、一緒の時間に働いている佐藤さんがなかなか戻って来ない。仕方ない、一人で閉店作業するか。
そう思い閉店作業を始めてから少し時間が経ったところで、佐藤さんが帰ってきた。
「加藤さんすみません。今手伝います」
閉店間際にトイレに行ってなかなか戻ってこなかったのだ。まあ、生理現象なので仕方ないが、もうちょっと早めに行っといてよとも思わなくもない。
それから戻ってきた佐藤さんと共に片付けを始めるとすぐに終わった。さすが2人だと片付けが早く終わる。後は荷物もって電気を消して帰るだけだ。
「佐藤さんお疲れ様でした。私はもう少し残ってくんで、先行っていいですよ」
「分かりました。お疲れ様でしたー」
そう言うと、最近入ったばかりの19歳の彼女、佐藤さんは帰って行った。
誰もいなくなった休憩室で1人、店の中の電気を消して、他の店の人達が帰るのを待つ。これは最近はまってしまったことをやるためである。
私が今いるここは、大型デパートに入っている洋服屋で、主に10代後半から20代前半の女性をターゲットにしているお店である。
まだ20歳になったばかりの私ではあるが、店長を任せてもらっている。
だからなのだろうか、人には言えないことを静かになったお店の中でしちゃうことが、仕事終わりの楽しみになったのは。
そう考えながら少し店の出口から出て、周りの店舗を見てみる。よし、帰ったようだ。
後は警備として雇われている、アンドロイドに見つからなければ大丈夫だ。
ちなみにアンドロイドとは、幾人かの人に協力してもらい、採取したDNAをかけあわせて人工的な人間を作り、頭にチップを取り付けて、主人の命令をチップに送信するために受信機をつけて、最後に太ももに緑色に発光する製造番号を入れる。
そうして生まれるのがアンドロイドである。
このデパートで働いているアンドロイド達は、2つのタイプがいる。1つは、個人に買われて主人からの命令か、自分から働きに来た者。
もう1つは、国所有のアンドロイドで、人手が足りないから働きに来ている者。この2タイプだ。
今目の前を、そのどちらかのアンドロイドが歩いていった。こちらには気づかなかったようだ。
よしっと、休憩室に入って、暗いと思うくらいの明るさにする。
調節が終わったので、着ている服を全部脱いで裸になり、脱いだ服は綺麗に畳んで、自分のロッカーに入れておく。
体の毛はこのためにいつも全てなくしてある。
夜なので少し体がぶるっとしたが気にせずに、鞄の中からガサゴソと生体用クリームを取り出す。
このクリームは本来、アンドロイドについている製造番号を消すために用いられる物で、一般には売られていない。所持しているのはアンドロイドを作る会社のみだ。
そんな出回らない物だが、私には遠い遠い親戚にアンドロイドを作る会社関係の人がいて、この人とはよくやり取りをする仲であり友達なのだ。その人に頼み込みなんとか手に入れたものが、今手にしている生体用クリームだ。
まあ、今じゃ1回も2回も渡すのは同じだとか言って、高い値段で売ってくれる。
そのクリームの蓋を外し、多めに出して手に馴染ませる。
そして人肌に温まったのを確認してから、乳首に盛るように塗っていく。蓋をするように、初めからなかったように塗って形を整えてもう反対も同じように塗る。塗り終わると、つるんとなだらかな球形になった。
しばらくそのまま放置してから、しっかり乾いたか乳首を含めた胸を揉むと、塗った部分は胸の脂肪と同じ柔らかさが手に返ってきて、元々あった乳首の感触はなかった。
次に、股間付近の穴を全て塞ぐように整えながら塗って乾かす。乾くと胸の時と同じように、普通の肌と同じような柔らかさが手に返ってきた。
何をしようとしているかお分かりかもしれないが、私はマネキンになってバレないかハラハラするのが、1日の終わりの楽しみになっているのだ。
最近のマネキンは、肌も人間に近くて触れば返ってくる柔らかさも同じだし、目も人間みたいに涙に濡れたキラキラとした目だ。しまいには、手などのしわや喉付近などもリアルで、怖いという人もいるくらいだ。
まあ、乳首と股間付近の全ての穴はマネキンに存在しないので、何もなくのっぺりとしていて、そこは人とは違うが、確かにお化け屋敷とかにいたら怖い人は怖いかもしれない。
私はそんなこと思わないが。暗い中1人で残ってここにいるのが証拠だ。
マネキン自体は、アンドロイドと違って人工的に作り出した人間を使っている訳じゃなくて、人口の骨に特殊なぷるぷるの物体で肉付けして作っているらしい。
機械で作っているから、ここまで精巧にできているのだろう。
そう考えながら、さっそくさっきまで働いていた店の中に行く。
店の中は真っ暗だが、非常口のランプがついているので、一応見える。その明かりを頼りに、お店の正面にディスプレイされている4体の内1体のマネキンの所まで慎重に歩く。
そこまでたどり着くと、立ってポーズを決めているマネキンを後ろから抱えるようにして降ろす。
(そうだった、今日はこの洋服を着せてたな)
そのマネキンから、夏らしい透かしの入った水色のフリルレースワンピースを脱がすと、それを今度は私が着ていく。
マネキンには下着など着せないので、私も裸に直接着るが、ワンピースが擦れてくすぐったい。
後はバックを持って、ディスプレイスペースに入る。ヒールのある靴は足元に綺麗に並べて置いて、バックは曲げた腕にかけるようにして持った。
横に寝かして私の後ろに置いたマネキンは、外からでは暗くて見えないのでそのままにしておく。
ここから10分ほどマネキンに成りきるのが、私の楽しみである。
ガラスにわずかに反射する、マネキンの私が見えて興奮する。
そうして立っていると数分して、コツコツと足音が聞こえてきた。
目を閉じないようにじっとしていると、前方から明かりで照らしながら見回る警備のアンドロイドがやって来た。
気付きませんようにと、気づいてもいいよという2つの気持ちでドキドキしながら通り過ぎるのを待った。
やがて足音は遠くへと行き、ちょうど10分経ったので、ワンピースを脱いでマネキンに再度着せたあと、ディスプレイスペースに戻した。
そのあと、足音を立てずに休憩室に入ると、自分の服を着て靴を履いて帰宅した。
「今日もドキドキしたけど、スリルがあって楽しかったなー」
ふんふんと鼻歌を歌いながら、湯船に浸かった。
生体用クリームは、1度つけると肌にピッタリくっついて、まるで最初から自分の肌だったというように動いても、水に濡らしても何しても落ちないので、取るのが大変だ。
しかし、つけた場所が場所なので、取らないと用を足せなくなり生活に支障をきたしてしまうので、しっかり落としていく。
落とし方は、専用の除去クリームを塗るだけである。これも一般には手に入らないが、同じく友達から特別に買っている。塗ってから5分待って、あとは水をかければ簡単にするりと落ちる。
生体用クリームを落とすためだけのクリームなので、他の肌に着いたからと言って何の心配もない。ちゃんと配慮されている。
お風呂から上がったら、テレビを見ながら夕食を食べた。
一人暮らしだか、面倒くさがらずに一応毎日料理を作っている。今日はたらこが安かったので、たらこパスタだ。
基本食べたいものしか食べないので、食事バランスとかは気にしてはいない。
本当はだめだよなぁと思いつつも、休日は意識高めにランニングをしているので、よしとしてしまっている。
食べ終わったら食器を洗い、歯磨きをして、明日も仕事があるので、早めに就寝することにした。明日はどうしようかなと、仕事終わりの楽しみに胸を踊らせながら夢へと旅立った。
「ふぅっ、終わったー」
今日も今日とてしっかり働き、お客の入りもぼちぼち。まあいいんじゃないかと思える売上で終わることが出来た。
今日は閉店間際にトイレへ行かなかった佐藤さんと、2人で閉店作業をしたので、昨日より早く片付いた。
「加藤さん、お先です。お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
佐藤さんを先に帰して、昨日は置くのを忘れていた紙を机に置いておく。内容は、トイレに行っていますと書いたものだ。何らかの事情で店に戻ってきた時のための、時間稼ぎアイテムである。その紙を置いてから、お店の電気を消した。
そしてまた休憩室で他の店の人達が帰るまで待ち、正面に行って店の中から見渡して、帰ったのを確認したあと、着ている服を脱いで自分のロッカー畳んで入れた。
次に生体用クリームで乳首と股間付近の穴全てをなくし、正面のディスプレイの所へ向かう。
マネキンから今日着せていた、グリーンのオフショルカットソーチュニックと、白のカラーパンツを脱がしてそれを着た。
トップスはフリルがあり、動く度に肌に触れて、昨日と同じくくすぐったく感じる。パンツは直接だとゴワゴワしてなんだか不思議な感触だ。
今日は昨日よりも成りきるために、この脱がしたマネキンは店の奥にある在庫置き場に、抱えて持っていくことにした。
その部屋には店に並べきれなかった洋服の在庫が所狭しとあり、奥には使われていないマネキンが15体置いてある。
どのマネキンも黒髪か茶髪で、長さはバラバラ、顔つきもそれぞれ違っている。なのでマネキンのふりをしてもばれないのである。多少、暗いせいもあるかもしれないが。
そのマネキンが立っている所に紛れさせて並べてあと、部屋を出てディスプレイスペースに入った。
右手を足に沿わせて下ろして、腰に左手を当てた状態でポーズをとっていると、コツコツとこちらへ歩いてくる音が聞こえてきた。
昨日と同じく通り過ぎ、そろそろ戻ろうかなと考えていると、声が聞こえてきた。
「き、気のせいだよね。うん、出ないよ出ない」
先程通りすぎた警備のアンドロイドが声を発しているようだった。怖いのが苦手なのかもしれない。
明かりが同じ場所で光っているので分かるが、その場から動いていないようだ。
こっちにはもう戻ってこないだろうと思って少し動いたら、キュッと音が鳴ってしまった。まずいっ!と思ったが、その小さな音が聞こえたことにより、恐怖心で警備のアンドロイドは、ひぃーっ!と言って奥へと走り去ってしまった。
こちらに来なくて助かったが、彼女には悪い事をした。
今日はもうさすがに帰ろうと休憩室に入ろうとした時、スタッフ用の裏口玄関から声が聞こえてくる。
「加藤さんまだいますかー?あれ?まだ開いてるからいるはずだよね...?どこにいますかー?」
誰だよと思ったら、まさかの佐藤さんが戻ってきてしまった。この格好のまま会ったら面倒なことになると、ドキドキしながらおぼつかない足で在庫置き場に入った。人間、極度に緊張や興奮した場面であると足が震えて、上手く歩けないのだと実感した。
着替えに行きたかったが、スタッフ用の裏口玄関があるのは休憩室の中なので入れない。
今日の私が着ていた洋服と違うし、靴も履いていないし、近くにこられたら裸で着ているのが分かってしまうしで、隠れる他なかったのである。
在庫置き場に入ったら、服を脱いで在庫で置かれている服の間に隠すように入れる。そしてまとまって立っている、1体増えて16体になったマネキンの後ろに紛れるように立った。ここならば仮にこの部屋に入られても後ろにいるため、顔が見られず人間だと気づかれない。体はもしかしたら少し見えるかもしれないが、人間の特徴を消してマネキンの体になっているので、分からないだろう。
そう思っていると、この部屋のドアの向こうから、ドアにさえぎられてくぐもった佐藤さんの声が聞こえてきた。
「あ、メモ?これ加藤さんの字だ。トイレかー、もうちょっと待ったら来るかな?んー、いややっぱり迷惑かもしれないし...明日でいいや帰ろ」
そう言って、扉の閉まる音が聞こえた。
よかった置いておいて。昨日みたいに置くの忘れてたら探しに来たかもしれないと、ふぅっと息を吐いて安堵した。
念の為本当に帰ったか忍び足で休憩室に行って、こそっとドアから見たが、誰もいなかった。本当に帰ったようだ。
それから、急いでロッカーから自分の服を出して着ると、靴を履いてマネキンを元に戻した。もちろん服も元のを着せてあげた。
やる前と違うところがないか確認したあと帰宅した。
「あ、待ってやばい...はやく、はやく..っ!」
帰宅途中、あとちょっとで家に着くという所で、いつもより長くお店に居たためか、用を足したくなった。
「信号...はやくっ..変われよぉー..っ!」
プルプルと震えながら、着てる服の上から、現在マネキンのように何も穴のないのっぺりとした股を押さえていた。
震える足で何とか家にたどり着き、急いでトイレに入って便座に座ったが用を足せない。
「あっ...くぅ..そうだった...っ!」
急いで除去クリームを塗ったが、5分待つのがしんどかった。
最後に水で流さなきゃいけないので、お風呂場で塗っていたのだが、5分経った生体用クリームにシャワーで水をかけて流すと、クリームが取れ始めるのと同時にその隙間から、プシッと音を立てて黄色い液体が飛び散り、お風呂場がアンモニア臭くなったのであった。
「あー、今日はめっちゃ緊張したー!足がガクガクして本当にやばかった!」
あの後、ピカピカにお風呂場を掃除した。匂いは若干するが、掃除は終わったのだしと、髪も体も洗って今は湯船に浸かっている。
しかし本当に、足がガクガクしてやばかった。産まれたての子鹿になった気分だった。さすがに私は鹿じゃないんでそれと同じなのかもと思っただけだが。
お風呂から上がったら、夕ご飯を食べて寝た。今日はいい夢が見れそうだ。
次の日出勤すると、佐藤さんから、明後日お休みいただきたいですという報告を受けた。
1週間前から言おうと思ってたが、言うのを忘れていたので、お休みとりたい旨と急になってしまったことへの謝罪をされた。
佐藤さんといつも一緒の時間帯は、お客さんもほぼ来ないので、1人でも対応ができる。なので、お休みとっていいよと伝えた。
それからいつも通り働き、閉店の3時間前になると佐藤さんは帰って行った。元々今日は早退の予定である。
そしてそれを利用して今日はあることをする。
とりあえず閉店40分前になると、早々と閉店作業を始めた。
前もって作っていた、”本日は都合により通常よりも早い時間帯での閉店となります。ご了承くださいませ” と書かれた看板を店の内側に吊るして外に見えるように飾った。
10分で片付け終わると電気を消した。まだ他の店舗がやっているので多少明るい光が入ってくるが、気にせずに作業を進める。
まずマネキンを抱えて在庫置き場に運んだら、休憩室の自分の鞄から持ってきた生体用クリームを塗り、マネキンの着ていた服を着る。
今日は白のフリルブラウスと、黒のサイドプリーツスカートに肩掛け鞄だ。ブラウスはサラサラしていてくすぐったいし、スカートは生地がしっかりめなのでゴワッとする。下着がないせいで股の間に入ってくる風が少し心地いい。
そのまま誰もいない時を見計らって、ディスプレイスペースに立った。靴は相変わらず足の横に綺麗に並べて置いている。はかせないで飾るマネキンが多いので。
そうして立っていると、近くを通り掛かった若い女性がこちらを見てきた。まさかバレたのかとドキドキしていると、男性も近寄ってきた。
「どうした佳奈?」
「いや、この服かわいいなーって思ったんだけど、お店もう終わっちゃったみたいで」
「そっか、じゃあ明日また来よっか」
「うん。マネキン着てる服、明日残ってるといいな」
ガラス越しに聞こえたその会話に、物である有象無象のマネキンの一体として見られている事実に興奮した。
そしてカップルと思われる男女が離れて行ったので、私も今日はもう終わりにした。
服を着替えて、また同じように全部戻して、帰宅した。
「フンフンフフーン。緊張するけどやっぱり楽しいなー」
今日もご機嫌で私は湯船に浸かる。
こうして私の1日は過ぎていく。
このスリルと興奮とドキドキは当分やめられない。
いつかこの行為が見つかってしまうのかもしれないが、それはそれで考えるだけでドキドキしてきちゃうので、見つかったその時に考えることにしよう。
「佐藤さんに見つかったら、罵られて調教してもらえたりして...ふふっ」
私の独り言は誰にも聞かれることなく、空気に消えていった。
「ねえねえ聞いたー?夜の警備をしてるアンドロイド達が、日が沈む夕方に見回りしていると、誰もいないはずの所から音がするんだって。怖いよねぇ」
「聞いた聞いた!水曜日には聞こえないらしいね」
「え、そうなんだ。でも本当に出るのかなー?」
朝に警備しているアンドロイド達の会話が聞こえて、水曜日って私の固定休と一緒だなと不思議に思った。
このデパートに本当にそういった存在がいるのか分からないが、出ない日を私と同じ水曜日にしてくるとはと笑いながら、今日の仕事へと戻った。
ーー[完]ーー