ホムンクルス乳-夢見る家畜- (Pixiv Fanbox)
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絶望という言葉が似合う未来しか待っていない現実を受け入れ早5年。
その間、わたしがホムンクルスとして飼育される元凶を作った愛彩ちゃん達3人...いや愛彩は一度乳搾りと嘲笑うために来ただけで、それっきり牧場へ足を運んではいなかった。
ホムンクルスとして置いていかれた当初は現実が受け入れられずに人知れず涙を流し元凶の人物を呪ったものだが、ガチガチに拘束されたこの状況ではどう足掻いても現実を変えることは無理だと悟り、1年を迎える頃には諦めにも似た気持ちで現実を受け入れホムンクルスとして大人しく過ごしてきた。
あんなことがなければ今頃は普通の高校生だったはずで、部活とか恋愛とか楽しいことがあったのではないかと夢を膨らませ妄想するのが今1番の娯楽である。
何かをしたくても体は拘束具によって逃げられないようにされているため、体を動かすなんてことも出来ないからそれしか楽しみがないのだ。
コンクリートの地面から35cmくらいの鎖1つと15cmくらいの鎖4つが出ており、その鎖の先端には鉄でできた拘束するための鉄輪がついていて、四つん這いになることで首・両手首・両足首にはまる位置にくるようにしてあり、それで体を拘束されていた。
首の鉄輪には35cmくらいの鎖、両手首と両足首の鉄輪には15cmくらいの鎖が繋がっている。
そしてその首につける鉄輪からはさらに頑丈そうな糸が伸びていて、舌にあけられた穴と連結されていた。
舌が下に向かって伸びるようになっていて、これのせいで話すのに苦労するため話すこともめっきりなくなっていた。
そもそもホムンクルスには言葉が伝わらないし、飼育員には話そうとしたところで言葉にならずコミュニケーションがとれない。それに前を見ても前列に繋がれたホムンクルスのお尻を向けた姿しか見えないし。
そんな理由もあって会話しようとしていたのは、人間だって分かってもらうべく頑張っていた最初の頃だけだ。
ちなみに地面は剥き出しのコンクリートではなく、その上に土や草などが盛られているので冷たくもないし固くもない。
まあ、拘束によって少ししか動けないので、自分の排泄物のせいで少し温かかったり柔らかかったりするのもあるのだが...。
そんな生活を続けるわたしに幸運が訪れたのは、いつもの朝に行われる搾乳が終わった時のことだった。
その日も胸にたまったミルクを搾り取られ、消耗した体力ではぁはぁ言いながら火照った体を休ませてると、目の前でミルカーとタンクの片付けを始めている飼育員が、作業着のポケットから何かを落とすのが見えた。
地面に敷き詰められている土と草の上に落ちたため落下音がなかったことと、中に入り見えずらくなったことで飼育員は落としたことに気づいていない。そうこうしているうちにミルカーとミルクの入ったタンクを代車に乗せてどこかへと行ってしまった。
まだ体力の戻っていない体とポワポワとした頭で何が落ちたのか考えられずにぼーっとしていたが、わたしの目の前に落ちたそれは拘束された手でも届きそうだった。
なんとなしに手を伸ばすと硬い感触があり、そのまま目の前に持ってくるとそこにあったのは古びた鍵。どこかで見た覚えのある形にしばらく見続けたあと、すぐに全身が沸騰するような興奮が訪れる。
はやる気持ちを落ち着けて深呼吸したあと、改めて見てみるとやはりそうだと確信できた。
これはホムンクルスの拘束を解くための鍵。あの日愛彩達が本物の34番のホムンクルスの拘束を解くために使った鍵と同じ形をしていた。
確かあの時の鍵は束になって1つにされていたと記憶していたが、作業前に従業員1人1人に手渡されて仕事の終わりに回収するみたいな感じだったから、あの時は束になっていたのかもしれない。
あの時も適当に選んだ鍵で拘束具を解いていたので、恐らくどの鍵でも等しく全てのホムンクルスの拘束を解くことができると思われる。
今すぐにでも拘束を外して逃げ出したいが、そんなことをしてもすぐに従業員に捕まって連れ戻されてしまうだけなので、とりあえず夜になるまで待つことにした。
それは夜になると従業員達は皆いなくなるからである。周辺にはこの牧場以外の建物はなく、近くに住んでる人もいない。田舎の山の中にある牧場のためかは知らないが、建物が施錠されることもないので脱出には夜がいい。
抜け出したところで朝になるまで誰も気づきはしないが逆も言えることで、このことがきっかけでホムンクルスにさせられた経緯を持つわたしには素直に喜べない管理体制であった。
時は夕暮れ。いつもより少し遅い時間に最後の従業員が扉を閉めて車の音が去っていくのを聞いたあとすぐに行動した。
いつもならもっと早い時間に帰宅するはずの従業員達は、鍵をなくした1人の従業員のせいで遅くまで残らざる得なかったようである。
結局見つからないため諦めて朝にまた探すことにしたみたいだが、その探す光景を見ていたわたしは自然ににやけてしまいそうになるのを我慢するのが大変だった。
従業員もいなくなったしと、さてっと口から息を吐き胸の高鳴りを抑えながら体の下に隠しておいた鍵に手を伸ばす。
長い間細かい指の動きなどしていなかったので、何度も鍵を落としモタモタしながらもなんとか右手に持つことができた。そのまま左手首を近づけて鍵穴に差し込むべくプルプルと揺れる右手を制御しながら鍵を近づける。
「...アぁ..」
が、上手いこと指が動かず鍵穴に差し込むことすら中々に難しい。
何度目かでやっと鍵穴に入り、カチリと音が鳴るまで鍵を捻ると音もなく柔らかい地面に鉄輪が落ちた。
「ぁ..あっア...ッ!」
思わずやったと口から言葉をこぼし涙もでてくる。
実は5年もの年月によって声帯は衰え、筋力低下によってその言葉は昔のように流暢には喋れてはいなかったが、まだ舌が糸で繋がれているのもあってそこに気づく余裕はない。
喜ぶのは後、ここで手を止めてはいけないと残りの鉄輪も全て外す。1番大変だったのは舌に空いた穴に繋がれた頑丈な糸だった。きつく結ばれた糸を満足に動かせない指で解くのはとても時間がいった。
それも終わり晴れて自由の身になったことで喜びそうになるが、まず出入り口である扉に向かわねばという気持ちが強く、そちらへ向かうために立とうとする。
だが歩いて扉へ行こうとした体は突然前に向かって倒れた。
「イっタ..ッ!」
それから何度も立とうとするが足に力が入らず立つことが出来ない。
もしかしてと頭に過ぎるのは筋力低下の文字。指がそうであったように、体を動かせなかったホムンクルスとしての生活は想像以上に筋力を低下させていた。
思い返せば先程言葉をスっと話せていただろうかと疑問が頭に浮かんだが、そんなことよりも今はやることがあると頭の片隅に押しやった。
歩けないくらいで脱出を諦める訳にはいかないと、どうにか進める四つん這いの状態でハイハイしながら出入り口に向かって動き出す。
体を動かす度に、5年間ろくに体を動かさなかったことを責めるように関節が悲鳴をあげている。
そういえば元の34番のホムンクルスも上手く歩けず何度も転んだって、前に愛彩が言ってたなと薄っすら思い出した。
生まれた時から四つん這いの状態で飼育され動くこともないのだから、そりゃ普通に歩かせるだなんて夢物語だ。
わたしでさえ5年動かなかっただけでこの有様なのだから、その行為そのものがどれだけ大変か分かる。
しばらくして扉の前に着くと、扉を支えにして寄りかかるように立つ。思った通り施錠はされていないようだ。
少し扉を開けて周囲を見渡すがやはり誰もいない。
よしっと扉を開けて外に出ると、外は牧場の建物の僅かな光のみであとは真っ暗闇。それでも外に出れたことで今まで我慢していた感情が膨れ上がり、涙がぶわっと溢れ出し嗚咽を上げながらその場でしばらく泣き続けるのであった。
ありったけ泣いた後、気持ちを切り替え脱出するためのルート選択を開始する。
ここからは記憶を辿りながらの下山だ。
人の手の入った道や獣道がいくつかあって、上りも下りもある。まあ、当然ながら上り道と獣道は論外だ。
前に愛彩達に連れてこられた時の薄っすらとした記憶を呼び起こして、こっちだったはずと人の手の入った下り道の1つを選択して少しずつ進む。いないだろうが念の為、周囲に従業員がいないことを確認しながら。
当然ながら飼育中着るものなんてなかったので、現在脱出中のわたしは全裸な上に裸足。そんな状況なので、道中に生えている木の枝や道に落ちている石などが体にあたって痛い。
さらに言うならば、ミルクを出すために大きくされた胸が移動する度にひどく揺れて根元が痛い。
こんなことなら牧場内にある従業員用の作業着を持ってくればよかったと思ったが、もう結構な距離を進んできた上にこれから取りに戻れば従業員達が出勤する時間までに脱出できるかどうか分からない。
そう思い直し再び進み始めた。
森を抜けしばらくすると、見た覚えのある住宅街に出た。
「...こコッ..て..」
そうだここはと思い出す。愛彩が住んでいる家のある場所だ。
わたしのことを覚えているかどうかも怪しいが、彼女に見つかればややこしい事になるに違いない。
どの道自分の家にたどり着くまで誰にも見つかってはまずいと、夜で真っ暗な道を進む。
住宅街の終わりが見えたところで、近くにゴミ捨て場があるのを発見した。
ここでハッとする。自分は全裸で人と会うかもしれない公共の場所をうろついていると。
何を今更と思うかもしれないが、5年もの間人の目に触れる場所で強制的に裸のまま生活させられていれば、どんなに羞恥心を持っていたとしても1年2年と続けば無意味だと悟りやがて受け入れざるを得なくなる。
そしてそれが当たり前になって、非常識だということも頭の片隅に追いやられ気づかなくなる。そんな状態になっていた。
なので道中木の枝や石が当たって痛いと感じた時も、痛みを防ぐために作業着を持ってくればよかったとしか考えられず、羞恥心のために着るという考えがわかなかったのである。
だがここで気づくことが出来てよかった。さすがに裸の状態で誰かに遭遇したらまずいと思い出すことが出来た。
ホムンクルスならばなんとも思わないだろうが、わたしは人間だ。そう裸を見せつけて平気な顔をする家畜でも変態でもない。
家にたどり着く前に人と遭遇して悲惨な状況になる、そんなことがあってはいけないのだ。
そんな思いもあり、偶然ゴミ捨て場を見つけたことで何か羽織るものでもあればと立ち寄ることにした。
中に入ると、ここの住宅街に住む人達の燃えるゴミの袋が3つ程入っている。
こんなにも少ないものかとも思ったが、燃えるゴミの日は明日で、ゴミ出しルールを破り早々と捨てた人のゴミかなと思い直した。
ゴミ袋が少ないことで探しやすかったが、その分収穫はあまりない。
見つけたのは小学生が着てそうなでかいロゴと可愛いキャラクターが入った着丈の長いシャツワンピースだった。
白い生地のそれは土を使った遊びか何かをしたのか、落ちきらない酷い汚れが目立ちあまり嗅ぎたくはない臭いもする。
まあそれでも着れないよりはいいと頭から被ると、胸につかえそれ以上入らなかった。
小柄なわたしならギリギリ入るかと思ったがダメだったみたい。
それより何より気づかなかったが、裾付近が黄色く染っており、着る時に通った髪と顔が若干湿っていることに気がつく。
なんだと顔に近ずけるとアンモニアの臭いが微かにした。慌てて脱ぎ捨てるが、他人の尿がついた事実は変わらない。ゴミ捨て場にあった拭けるものでついた箇所を拭ったが、臭いはうっすらと香ったままだった。
特に収穫もなく、逆に酷い目にあったゴミ捨て場から離れ、結局全裸のまま自分の家へと進む。
そうして何とかたどり着いた家には明かりが灯ってはいなかった。
いや夜だし明かりが灯ってなくとも不思議じゃないと頭を振り家の敷地に入るが人の気配がしない。
よく見れば表札はおろか、取り付けられているはずのカーテンもない。そのまま外から部屋の中を除くことが出来た。
「...トぉ..シて...あエも...」
そう呟くが頭では分かっていた。恐らくもうこの家には両親はいない。引っ越したのだと。
「..そンア...」
偶然にも脱出できる機会が手に入り、希望を持ってここまで来たのにこんな仕打ちはあんまりだと心が暗くなる。
嘘であって欲しいと部屋の様子を何度も見るが、そこにあるのは家具も何もなくがらんとした空間だけだった。
しばらくその場から動くことができなかったが、何もしなければわたしは不審者として捕まり、やがて逃走したホムンクルスとしてあの牧場に戻されるのは想像できてしまう。
そんな未来があってはいけないと、避けて通ってきた愛彩の家に向かうことにした。結局のところ事情を知っている愛彩達にすがるしかなかったのである。
しかし時は残酷で、来た道を戻れば戻るほど空は段々と明るくなってきた。
そうこうして何とかゴミ捨て場に戻ってきた頃には、明るさからいって5時頃と思われる時間帯であった。
太陽の光によりできた自分の影を見てまたハッとする。影に耳標が揺れる様が映し出されていたのだ。
つけていることなど当たり前で、そんな物と思えるほどに身近なものとなっていた耳標をおぼつかない手で急いで外す。
こんなものがあっては自分はホムンクルスだと言っているようなものだとゴミ捨て場に捨てようと思ったところで、中に汚れた肌色のそうそれはまるでホムンクルスのような、いやホムンクルスがいた。
こちらに背を向け四つん這いでゴミを漁っているようで、こちらに気づいてはいない。
「..まあカ...タッ..お..ゥ?...」
まさか脱走かと思ったが、わたしも脱走みたいなものだしと耳標だけ捨てて見逃そうと思っていると、声に反応したのかそのホムンクルスがこちらを振り向いた。
「えぅ?」
不思議な顔をして首をかしげるそのホムンクルスは、やがてわたしを仲間のホムンクルスであると認識したのか、近寄って抱きついてきた。
「んァ..ッ!やェテ!」
わたしの声などお構い無しに抱き続け、しばらくした後開放される。
というか近くで見たからなのか、どう見てもこの子わたしと同じ顔なのでは?そう思えるほどに似ていた。道中水たまりで自分の顔を確認したので間違いはない。
ホムンクルスと入れ替えられたあの時と同じように、目の前に自分と同じ顔のホムンクルスが存在している。
顔が似ている人ってそんなにいるものなんだろうか。この子は人ではないが。
若干幼い顔つきの童顔も体格も、似ていて同じそうだしとそこまで観察した所である考えが頭に浮かぶ。
そうと決まればと、じっとしているホムンクルスの耳にさっきまで自分がつけていた耳標をつけると、持ってきてしまっていた拘束具の鍵を近くに置いた。
脱走中に取れたのかはたまた経年劣化による破損か、都合の良いことにホムンクルスの耳に耳標がついていなかったのは運がいい。
これでこのホムンクルスが、脱走した34番のホムンクルスとして代わりに連れていかれるはずだ。
たまたまここにいたことと、同じ顔に生まれたことを呪ってくれ。
わたしはまあ、追っ手に捕まらないように早いところ愛彩の家に行って人間だと証明出来るように服とか融通してもらえば良い。
散々迷惑をかけられたのだこれくらいしてもらってもバチは当たるまい。
昔は彼女に虐められていたとかそんなことはもう関係ない。脅せる材料があるのは確かなのだから。
そんなことを思いながらゴミ捨て場から出たところで、誰かがこちらへと走ってくるのが見えた。
「おいっ!いたぞっ!あいつだ!」
「って、ああっ!一緒に出てきたの12番のやつだ!」
遠くから聞こえてくるその声の正体は、見慣れた作業着を着た従業員。
やばい見つかったと慌てて逃げるが、四つん這いの上に度重なる移動による体力の消耗ですぐに捕まるのであった。
わたしの暴れなどもろともせず、駆けつけた6人の従業員達はわたしともう1頭のホムンクルスに注射を打つ。中身はホムンクルスを大人しくするために使用する麻酔だと思われた。
麻酔を打たれようが逃げ出してやると暴れるが、やはりというべきか従業員達の拘束はビクともしない。
その間にも従業員達の声が聞こえてくる。
「これお前の失くした鍵じゃないか?」
「あっ、本当だ。すまん」
「本当だじゃないよまったく。次気をつけろよ。てかよくこの鍵の使い方分かったな。いやまぐれを連発させたか?」
「どっちみち見つかって良かったじゃないですか。これで12番加工にまわせますね。辛いですけど25歳だし」
「だね。まさか拘束外した瞬間に逃げ出すなんて...追いつけない速さって何って話。そういえば12番の耳標どこいったの?ん、あれ?もしかしてホムンクルスじゃなくてこの子人間じゃない?」
「いやいや、露出狂じゃあるまいし。てかこんなに汚れて家畜臭するし、耳にも舌にも穴あいてんだからホムンクルスに間違いない。さってそろそろ麻酔も効いてきたな。34番はこれから搾乳だな」
「ですねー。あと.....」
麻酔によってだんだん体が動かなくなってきたわたしは、その言葉を聞きながら眠りに入るのであった。
そして次に目を覚ました時に耳にしたのは、ブチブチベリッそんな音だった。
「..んンぅ...ェ?」
一体なんの音なのかと意識を向けようとしたが、突然の下腹部の痛みに悶絶することになる。
「イぎっ!?あ"ア"あ”ア”ァ”ーーーッ!!」
そんな大声に近くで作業していた作業員の2人は耳を塞ぐ。
「うわっ!うるさっ!」
「え、最悪。麻酔切れてんじゃん....ちょっと勘弁してよ」
作業員が手を止め会話し始めたおかげで、少しだけ意識を他に持っていくことができ視線を痛みの元へと送る。
「えッ...エっ?!」
視界にとらえたその光景に頭が混乱する。
なんとわたしのヘソ下から横一直線に刃物傷が付けられ、皮膚が太ももの辺りまで垂れ下がっていたのである。
いや正確に言うのならば、皮膚を筋肉から剥がしていたと言うべきだろう。剥がされた場所からは赤黒い筋肉が見え、血を送っているため血管が蠢き、剥がされた皮膚のせいで露出した部分からは血が溢れている。
それを認識してしまうのと同時に、少しだけ痛みが和らいでいたのが嘘のように激痛が体を支配する。
「い"っ!あ"ア"ア"っ!ぃ"ア"ィ"ぃ"ッ!!!」
そんな叫ぶわたしを従業員は無視し、手に持った剥がしかけの皮膚を離さない。
「まさか起きるなんて思わなかったけど、麻酔もったいないしなぁ..」
「とりあえず作業進めてけば気絶するんじゃないっすか?」
「あぁ、だね。まったく最初から頭飛ばせば叫ぶこともないのに」
「パーティー用ホム肉でしたっけ?皮膚剥がした姿の家畜丸々出荷ってグロいっすよね。まだ人体模型の方がリアルじゃない分ましっす」
「気持ち分からないでもないけど、まだ他のホムンクルスの皮剥ぎあるんだからさっさとやらないとね。梨璃愛ちゃんは背中側からお願い」
「はいっす」
激痛が体を襲う中そんな会話が聞こえると同時に、2人がせーのっ!と声を上げ剥がしかけの皮膚を下に引っ張った。
ズルッベリッ!と一際大きく響くと、膝の辺りの途中でちぎれたらしく作業員の手にはプラプラと揺れる皮膚があった。そしてその皮膚はどこかへと投げられ宙を舞う。
「い"ア"ぃ"イ"っ!ヤ"エ"え"あ"ぁ"ア"ッ!」
激しい痛みに絶叫しながらもどうにか状況を確認しようと、とめどなく溢れる涙で視界が悪い中辺りを見回す。
先程わたしの皮膚を投げた先には、袋の口をあけて入れてある大きなプラケースがあった。その中には先に他のホムンクルスに行われたであろう皮剥ぎの形跡がある。たくさんの皮膚が折り重なり、溢れんばかりに入っている。
そして今までそこに注意を向けることが出来ていなかったが、どうやらわたしは天井から伸びている鎖に両手首を拘束されて、宙ずりの状態で皮膚を剥がされているようだった。
麻酔を打たれる前に聞いた加工にまわせると言う言葉。恐らくここがその場所、食肉加工工場であるということが分かった。
わたしはあの時一緒にいた12番のホムンクルスと間違われて加工されつつあるようだ。
そりゃそうだろう。自身についていた34番の耳標はあのホムンクルスにつけちゃったし、残る脱走したホムンクルスといえば12番だけのよう。
ただ最悪なことにその12番のホムンクルスはどうやら25歳で、食肉加工対象の年齢に達していたようであった。
不幸だ。不幸が祟ったのだ。あのホムンクルスに全部押し付けて逃げようとしたから。
今すぐここから逃げ出したい。そう思うのに、体は言うことを聞いてくれない。
意識が朦朧としていることからも、垂れ流す血の量が多くて限界に達してきているのかもしれない。
もともと5年もの間体を動かせない環境にいたのだ。血の量が足りていたとしても、逃げるために体を動かして暴れられたか分からない。
そんな絶望的な状況に目の前が暗くなったが、こんな最後は迎えたくないと一縷の望みをかけて人間だと説明してみよう。そう思い口を開く。
「..ぁァい...ンんっ..コホッ..わぁし..ィ..ンえン..ぇうっ!ゴホッ...タぅェ..ぇ..」
しかし口から出たのは普通の人では理解出来ない言葉だった。
まさしく覚えた単語を繋ぎ合わせるだけの意味の無い言葉を話すホムンクルスらしい鳴き声ともとれた。
長年言葉を交わすということもなく話すということをしなかった結果声帯は衰え、下に向けて拘束され続けた舌は本来の役割を果たさず口の中にも戻ることもない。そんな状況にもかかわらず先程痛みで何度も叫んだ結果、喉は悲鳴をあげもはや使い物になりはしなかった。
必死の叫びは鳴き声と判断されており、作業員達は作業の手を止めはしない。
やがてずりゅっという音と共につま先も空気に触れる感じがした。
「ふぅ、とりあえず下半身は終わりだね」
「そぅっすね。あとは首に一刺ししてっと...先輩、そっちの皮よろしくっす」
「はいはい。頭皮が1番剥がしづらいから慎重にって、何度も言ってるから分かるか」
「もう先輩っ、自分そこまで馬鹿じゃないっすよっ!こうなったら、今度の休みスイーツバイキング一緒に行ってもらうっす!」
「何がこうなったらなのか分かんないけど、まあいいよ。今度ね。次のホムンクルス運ばれてきたし、上半身一気にやっちゃおうか」
「はいっす!自分背中側持つっす!...じゃあ、せーのっ!」
下半身の皮膚が剥がされ露出した痛みで何も出来ないわたしに残された最後の時間。
痛みに耐える中で耳に聞こえてきたのは、わたしの皮膚を剥がす作業員の休日のお出かけの約束話と、遠くの扉から聞こえるこんな声だった。
「す、すみません!わたし人間です!人間なんですっ!」
「おい!わめくんじゃねえ!お前が人間なわけあるか!ちゃんと登録されてんだからな!」
「おいお前ら2人こっち来てこいつ抑えとけ!うるさくてかなわん!」
「待ってください!本当に誤解なんです!わたしはホムンクルスじゃない!」
他にもわたしみたいにホムンクルスと間違えられた人がいるのだろうかと思ったところで、他人の心配ができる余裕がある自分に気づき薄っすら笑みがこぼれるのであった。
「うわっ、笑ってるよこいつ...こわっ」
「まじっすか...背中側で良かったっす..」
作業員のそんな会話と、ブチブチと筋肉から皮膚が剥がされる音を聞きながら、壮絶な痛みに意識を手放すのであった。
「誕生日おめでとっ!」
「愛彩ちーおめでとー!」
「ありがとー2人とも!このホム肉高いのに本当にありがとね!」
「友達の誕生日なんだから今日は豪勢にねー!大丈夫、ほとんど莉香ちーの奢りなんよー」
「いや折半って話しじゃ...まあ、いいけどさ」
「私はプレゼントを豪華にっと、はいどうぞー」
「ありがとっ!」
「こっちのプレゼントも豪華だわっ!っと、ごめん。気に入ってくれるといいんだけど」
「ありがとねっ!大切にする!」
「とりあえず料理冷める前に食べよっか?」
「オッケー。じゃあ私取り分けるよー。えっと...あれー?ナイフない?すみませーん、ナイフくださーい」
望乃は店員にナイフを持ってきてもらうと、目の前に横たわる豪華な1等丸々のホム肉を切り分け始めた。
ホム肉はこんがり焼け、食欲をかきたてる匂いを漂わせているため、お腹の空いた友達3人組は思わず口にたまった涎を飲み込む。
切り分けられても多くの肉が残るそのホム肉の顔は、薄っすら笑みを浮かべていた。
ーー[完]ーー