ホムンクルス安全管理委員会 (Pixiv Fanbox)
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「そういうわけなんだ。父さん達にはどうすることもできないんだ...」
「そ、そうなんだ...お姉ちゃんが..」
わたしは知らされた真実に戸惑いを隠せなかった。
「このこと、お姉ちゃんは知ってるの...?」
「いや、知らないよ。学校から帰ってきたら話すつもりなんだ」
「舞希も辛いだろうけど、この決定は覆せないの...。分かってちょうだいね」
悲痛な顔で語る両親のその姿は、いつもの朗らかな様子とは程遠い。
返事ができずに俯くと、テーブルの上の書類が目に入る。
送り主にホムンクルス安全管理委員会と書かれたその紙は、政府からの警告及び無視した場合における罰則が記載されていた。
わたしとお姉ちゃんは同い年の17歳で現役の高校生だ。
顔や体格が似ていることで、初対面の人には双子だと思われるが実際はただの姉妹である。
都内の端にある区に両親と共に住んでいるので、学校へは電車での移動。中学の時も電車通学だったので慣れてはいるが、時々家が学校に近い人を羨ましく思う時がある。
ちなみに我が家はホムンクルスの牧場をやっていて、そのお肉やミルクを農業組合に卸している。家族経営なので、規模は小さいがそれなに稼げていると思う。売上のことは正直分からん。
先程話したホムンクルスとは人工的に作り出した人間のことで、幾人かの人にDNA提供に協力してもらい、採取後それらをかけあわせてできた生物がホムンクルスの始まりである。
今ではオスとメスの交尾によって普通に生まれる。
人工的に作り出した生物ゆえ、初めの頃は人間に似ていても知能はなく、ただただ何も考えずぼーっとしていて、意味の無い言葉をたまに発するくらいの生物だったらしい。
今では毎日話しかければ言葉を覚えるほどの知力があるらしく、それを危険視した政府が対策として数年前に専用の薬を作ってくれて、うちの牧場にも10本のみ無料配布された。
試験的な意味もあって無料となったらしいが、その10本以降については必要に合わせて購入せねばならなかった。
お父さん曰く意外といい値段するらしい。
歴史の教科書にも載っているが、ホムンクルスが誕生するに至った理由として動物のみにかかる感染症が世界的な規模で発生したことが挙げられる。
その出来事により多くの動物が亡くなってしまい、食肉事情が危機に瀕することに。
それを解消すべく生み出されたのがホムンクルスであった。
その技術があるのならば牛や豚などを人工的に作ればいいんじゃないかと疑問に思うだろうが、この感染症が生き残った動物に感染していない保証はなく、DNAを採取して作った動物も感染症を後に発症するリスクがあるため、それをすることが出来なかったのだそうだ。
見た目が人間に似ていることで忌避感を抱く者もおり、当然反対の声は上がった。しかしその声はすぐにかき消されることになる。
賛成派のじゃあお肉を今後食べれなくてもいいのか?という言葉に対して、反論することが出来なかったからであった。正確には代わりになる魚や野菜があるじゃないかと反対派は主張したのだが、この時の話し合いは栄養面のことではなく、国民の肉を食べたいという強い声から来るものであったため却下されたのだった。
やむなく受け入れることになった反対派は、そこから粗探しをしては騒ぎ立てる烏合の衆と化した。
そんな危機にあった牛や豚などの動物も、現在は食肉として復活し普通に売られている。100年程前に生まれたホムンクルス達のお肉も人々の生活に溶け込み、馴染みの味だ。
ホムンクルスはその乳から出るミルクも人気で、牛乳ならぬホムンクルス乳として一般的に売られている。栄養豊富で、健康になりたい者や子供を持つ家庭が買うことが多い。
肉ホム乳ホム共に品種改良を繰り返し、今や各地域のブランドが出るほどに人気なのだ。
そんな家族経営で牧場を営む我が家では、今まさに良くない出来事が舞い込んで来ていた。
それが冒頭に出てきた書類の存在である。
わたしが学校から家に着くと広げてあったそれ。
いつになく真剣な表情の両親から説明を受けるが、その内容は驚きと困惑を生む結果となる。
わたしはその真実を前にただ立ち尽くすしかないのであった。
同じことをお姉ちゃんにも説明するらしく、今はその帰りを待っているところだ。
時刻は18時27分。
「ただいまー」
玄関扉が開く音とともに聞こえてくる声は、姉の菜奈の声だった。
その声に反応して玄関へと向かう足音は、お父さんだろうか。
「おかえり....ちょっと大事な話があるからリビングに来てくれ」
「え、うん。荷物だけ部屋に置きに行ってくるね?」
「ああ」
しばらくして、荷物を置きに行ったお姉ちゃんが2階から降りてくる足音が聞こえた。
そのままどこかへ行く足音が聞こえたので、恐らくリビングに向かったのだろう。
話が聞こえるくらいの温風で髪を乾かしていたわたしは、水気が飛んだことを確認するとドライヤーをしまった。
それから洗面所を出てリビングへと近づく。中には入らない。いや、入れなかった。
自分自身もまだ受け止めきれていないが、これから話を聞く当事者のお姉ちゃんはもっとショックを受けるに違いない。
そんな時にリビングに一緒にいて、ただ黙って寄り添ってあげる?慰めてあげる?一緒に感情をぶちまけてみる?そんなこと今のわたしには出来ない。感情を整理する時間が必要だった。
リビングに入るためのドアについている小さなガラスから覗くと、ちょうどお父さんがあの事を話している最中だった。
「菜奈。お前は..本当は...ホムンクルス、なんだ...。今まで隠しててすまない」
「ごめんなさい菜奈...」
「え...は..?何の話してるの?私がホムンクルスって何?」
大事な話があるからと呼ばれたリビングで、突拍子もない事を言われ戸惑っている。
両親は至って真面目で、それがよりお姉ちゃんを困惑させていた。
「いや...うん、そうだよな..分からないよな...。..これから菜奈が生まれた時のことを話すから、ちゃんと聞いてくれ」
そうお姉ちゃんに話すお父さんは、覚悟を決めた人の目をしていた。
それからお姉ちゃんの生まれた時のこと、どうして人間として育てられてきたのかを話し始めた。
「お前が生まれたのは夏の暑い時だった。とう」
「な、何を話そうとしているの..?私は2人の子供でしょ...?」
姉は酷く困惑した様子でお父さんの話を遮った。
「な、菜奈、とりあえず聞いて。ね..?」
「聞く必要なんかないでしょっ!冗談を言ってるんだからっ!」
冷静になるようなだめようとするお母さんを見て、怒鳴るように反論する。
「お父さん冗談はやめてっ!私は2人から生まれた、だからこうして高校にも通ってるんじゃんっ!」
「菜奈!菜奈っ!落ち着いてとりあえず話だけ聞いてくれっ!」
「菜奈お願い」
両親の必死なお願いに開きかけの口を閉じて一旦叫ぶのを止めると、リビングのソファに歩いていく。そして興奮冷めやらぬままドサッと勢いよく座った。
「聞くだけね。とりあえず話は最後まで聞いてあげる」
お姉ちゃん自身のこれからに関わる大事な話だ。聞いてもらわなければ、何も知らぬままわけも分からないうちに事が進んでしまう。
お姉ちゃんの言葉に両親は少しほっとした。
「ありがとう...話を続けるよ。当時出産を間近に控えていたホムンクルスがいてな、いつ産まれるか分からないから母さんと交代しながら見守ってたんだ。
それほど時間を置かずに出産が始まって、無事に子は産まれたんだが、その子は普通よりも小さくて呼吸も危なかった。
すぐにうちの牧場にある救命道具で対処したから何とかなったんだけど、その間に母親のホムンクルスが亡くなってしまっていた。恐らく相当無理をして出産をしたんだろうな」
そこまで話すと、その時のことを思い出しているのか下を向く。そして少ししてから、また続きを話始めた。
「その産まれた子は弱すぎて心配だったから、目の届く自宅で育てることにしたんだ。
だけど他のホムンクルスのミルクを飲んでくれなくてな。直接でも哺乳瓶からでも全くダメだった。これじゃあ成長出来ないし健康にもなれず死んでしまう。
そう思って悩んだ結果、母さんの承諾を得て母乳を与えてみることにしたんだ。
ちょうど舞希が産まれるかどうかの頃でな、なぜか母乳が出始めていたんだよ。母乳に似た分泌物ではなくて本当に母乳が。医師に相談したから間違いない。
まあ人の乳だから飲んでくれるか不安だったけど、その子母乳は大丈夫だったみたいでゴクゴク飲んでくれていた。
そして日が経てば経つほどに愛おしく思えてきてな、そのうちに舞希も産まれて、その頃にはもうこの子も家族の一員だって受け入れていたよ。
姉妹のように一緒に育っていく姿を見ていると嬉しかったんだ」
お父さんは嬉しそうな顔をしてお姉ちゃんを見た。
当人は複雑そうな顔をしている。
「今の話に出てきたその子が、私ってことなんだ...」
「そうだ。でもさっきも言ったが、たとえ血が繋がっていなくても、菜奈は父さん達にとって家族なんだ。娘なんだ。決してホムンクルスだなんだと思ったことはない」
「お母さんだってそうだよ」
お父さんは思い出を語るように優しく語る。それに同意するようにお母さんも頷いていた。
お姉ちゃんは告げられた自身の出生を受け止めようとしているのか、しばらく沈黙すると再びお父さんに視線を向ける。
「うん、まだ少し心の整理の時間が必要だけど今はいいや。それで?なんで今になってそれを話したの?」
その言葉を受けてお父さんはテーブルの上の書類を掴むと、お姉ちゃんに手渡す。
「今日の夕方これが届いたんだ」
「えっと...ホムンクルス安全管理委員会?聞いたことないな」
「ああ、牧場経営に関わってないと知らなくても無理はない。基本父さんが見るものだからな。母さんもたまにしか読まない」
「そっか。えっと、政府より警告と罰則についてのご案内...えっ?これって....」
お姉ちゃんは書類の内容に驚き、書かれていることが本当に実行されるのかお父さんに確認の視線を向けている。わたしも最初読んだ時は同じことをした。
その書類には、ホムンクルスを人間と同等に扱い育てた上知能を向上させたことに対する罰則と、政府への引渡しを3日後に行うことと記されている。これは強制執行のため拒否は出来ず、逃走を手助けしたり一緒に逃げようとすれば逮捕されるらしい。
引渡しはホムンクルス安全管理委員会の人がここに来て、牧場主つまりお父さんの立ち会いの元行われるとのことだ。
政府に引き渡せば、お姉ちゃんは本来そうであったように家畜として扱われる。
そもそも今まで普通に人間として暮らせていたのは、お父さんの幼馴染の誠司さんという人のおかげだったらしい。
誠司さんはお役所の人で、お父さんにどうしてもと頼み込まれお姉ちゃんの出生書類等人間だと示す書類を偽造した。
だが最近転勤で異動となり、その際に引き継いだ人がわたしの書類の情報と似ていることに気づき、生まれた病院に確認して二重書類が判明。
その情報が政府に渡り、誠司さんに行われた事情聴取からも確認がとれて、今回の強制執行となったようだ。
両親と誠司さんには罰金刑がかされた。
ただしこれは、お姉ちゃんを政府に引き渡すのが前提の話であった。
そうでなければ最低2年牢屋に入ることになる。
「それは政府からの書類なんだ。無視はできない、従うしかないんだ。でもと」
「嫌っ!家畜になるなんてっ!なんで今更こんなっ!」
「お、お姉ちゃん落ち着いて!」
お父さんの話を遮って再度叫び暴れだしたため、いてもたってもいられずリビングに入り、落ち着かせるために抱きついた。
言葉を投げかけるよりも効果的だと思ったからだ。
「お姉ちゃんお願い。ね、何かきっと方法があるはずだよ。皆で一緒に探そう?」
しばらく抱擁していたのが効いたのか、お姉ちゃんは怒りを鎮めた。
「....うん、舞希の言う通りだね。このまま家畜になるなんて嫌だよ。何か考えないと...」
「お父さんも皆で考えようって言おうとしてたの」
「母さんの言う通りだ。何かあるはずなんだ」
そうして一致団結して色々調べたりしたが、夜逃げその言葉がその日の成果だった。
そんなことしたら警告無視で罰則がかされるので、その手段は取れないが。
次の日は金曜日だったが、学校に休みの連絡を入れて調べ物をしていた。
だがやはり、どれだけ調べても欲しい情報が見つからない。
法の抜け道もなさそう。
「舞希、何か見つかった?」
「何も。でもまだ1日目だしこれからだよ」
「まだ1日目って...あと2日で政府の人来るんだよっ!早くしないとっ!」
「ご、ごめん...」
「あ...こっちこそごめん....私、また調べ物してくるね...」
「うん...」
確かに無神経だった。お姉ちゃんにとってはこれからの人生がかかっているのに。
より一層気を引き締めて調べ物にあたるのであった。
次の日も昨日に引き続き調べ物をしていた。
両親は牧場にいるホムンクルス達のお世話もあるので、昨日と同じく空いた時間を使って調べている。
だが結局何もいい情報など見つからずに徒労に終わった。
皆でリビングに集まって見つけた情報はあるかと聞くが、誰も言葉を発することはない。
「...ごめん、ごめんな菜奈..何も見つけられなくて...」
「..ごめんね...」
「...お姉ちゃん...こうなったら夜逃げ...そうだそうしよ..?」
「やめて...もういいから..十分だよ...ありがとう」
お姉ちゃんは諦めの表情をしている。
「心の整理をつけたいから、先に寝るね」
「あ、ああ...」
「皆探してくれて本当にありがとう。明日連れて行かれる前に皆に話したいことがあるから...少し早く起きてよね」
無理して明るく振る舞いリビングを出ていくお姉ちゃん。
わたしだけが見えたその顔は、先ほどとは打って変わりまだ全然納得したわけではないという顔をしていた。
「...もう遅い時間だし寝ようか」
お母さんのその言葉もあり、わたし達はおやすみと声をお互いにかけて自室へと足を運ぶのであった。
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私は家族皆が寝静まったのを確認すると、こっそり部屋を抜け出した。
皆にはああ言ったが、心の整理なんてつくわけがない。
わずか数日のうちに私の進む未来が変わろうとしていた。その道は絶望へと繋がっている。
まだこれからの人生なのに、閉ざされようとしているのだ。
私が家畜になる?そんなのは嫌だ。嫌に決まっている。
そう思い、昨日考えたある計画を実行するために、音を立てずに階段を降りてリビングに向かう。明かりはついていない。
誰もいないことを確認すると食器棚からコップを1つ手に取る。
そしてまた音を立てないように歩きながら、玄関へと向かってそのまま外に出た。次の目的地は畜舎である。
外は真っ暗で虫のざわめきが聞こえてくる。
少し肌寒い。上着を着てくればよかった。
身体をさすって体温を上げながら畜舎へと足を運ぶ。
中は薄っすらとした明かりがついているのみで薄暗い。
寝ているホムンクルス達を起こさないように気をつけながらゆっくり進む。
そしてホムンクルス達をお世話するための物が入っている小部屋に入ると、薬品が入っている棚からあるものを取りだした。
茶色い瓶のラベルには、ホムンクルス用麻酔薬と書かれている。
この薬品を持ってきたコップに少し入れると、蓋を閉めて棚の中に戻す。欲しい物が手に入ったのでここに用はもうない。
自室へと戻るために来た道を引き返す。
誰か起きてしまうかもという不安をよそに、なんの問題もなくスムーズに全ての行動を行えてしまった自分に少し驚くのであった。
自室に戻った私は、次の計画を実行する前に気持ちを落ち着けていた。
計画がバレないようにと思えば思うほど心臓がバクバクとなるのである。それを何度か息を吐き落ち着ける。
失敗は許されない。やらねば未来がなくなるのだ。
そう改めて決意をかため、妹の舞希の部屋へと足を向ける。
隣の部屋なのでそれほど歩かずに辿り着くと、ゆっくりとドアを開けた。とりあえず寝ているかどうかの確認だ。
ベッドで眠る舞希にそおっと近づく。がここで、布団がもぞりと動いたかと思うとそのまま舞希が起きてしまった。音など立てたつもりはないのに。
まあ、起きていなかったら起こさなければと思っていたのでちょうどいい。
「んん...お姉ちゃん..?どうしたの?」
「あー...起こしちゃってごめんね。実は明日話したいことがあるって言ったことなんだけど、やっぱり舞希には今日話したくって...」
「そっか...分かった」
「ありがとう。えっと、リビングで話す?」
「うん、いいよ」
了承を得られたので2人でリビングへと向かう。
舞希は睡眠の途中だったので、少し眠そうに時々欠伸を漏らしていた。
「なにか飲みながら話そっか。その方がスムーズに会話できそうだから」
そう声をかけると台所へ行きお湯を沸かす。
「夜は冷えて寒いし、これがいいかな」
引き出しからコーンスープの素を取り出すと、用意した2つのマグカップに入れる。
それから少し間を置いて水が沸騰するとマグカップにお湯を注いだ。うん、ちょうどいい温度だ。
そして出来上がったコーンスープの片方に、畜舎から持ってきたホムンクルス用麻酔薬を入れる。
持ってきた分を全部入れちゃうと効き目が強すぎるので、少し入れる程度にとどめた。
この麻酔薬は畜舎から戻ってきた時に食器棚の奥に隠しておいたのだ。
しかしながら、衝立があるおかげでリビングから台所の様子が見えないので作業がしやすい。
最後に麻酔薬入りのコーンスープをかき混ぜると、それをリビングのソファに座る舞希の元へ持っていき手渡した。
「はい、コーンスープ」
「ありがと。あたったかいね」
舞希は体が少し冷えたのか、受け取ってすぐにフーフーと熱を冷まして口をつける。
「ん?なんか少し苦いような...いつもと違う味しない?」
「そう?いつもと同じ味だよ?これ、カリフラワーとか野菜たくさん入ってるやつだし」
舞希はいつもと味が違うことに気がついたが、そもそも用意したのはただのコーンスープではない。
野菜が多く含まれていて栄養面でとても良い、私が普段から愛飲しているものだ。多少の薬の苦味など紛らわせるにはうってつけ。
「えぇ...わたしが野菜苦手なの知ってるじゃん。これ残してもいい?」
そう知っているが、普段から飲んでいて自然を装えるものはこれしかないので仕方がない。
「最後くらい付き合ってよ。ね?」
「んー、はぁ...分かった。にしてもこれをいつも飲んでたのかぁ。わたしには結構きついかも」
「普段あまり野菜食べないんだから、これくらいは飲んだ方がいいよ。ほら、もうそんなに熱くないしグイッといけばそんなに気にならないよ」
「むー。わかったよぉ...んくっんくっぷはぁっ...にっが..。口の中が悲惨だぁ」
「あはは、偉い偉い。ほらお水飲みな」
「ありがと」
無事に全部飲んでくれたようだ。
「それで話したいことって?」
「あー、察しているかもしれないけど、最後になるからさ。その、感謝を伝えようと思って....なんかこういうのって少し気恥しいね」
そう苦笑いを浮かべると、舞希もつられて笑っていた。
「えっと...舞希とは本当にいつも一緒で毎日が楽しかった。もちろん喧嘩もたくさんしたけど、次の日には何事もなかったように仲良かったし」
「だねぇ。どっちも謝ろうとしなかったのにね」
私が思い出を語り、舞希がそれに相槌をうつそんなことをしばらく続けていると、突然舞希の目の開きが狭くなり欠伸をし始めた。
「..ごめん..ちょっと、眠くなっちゃった....」
「いつもならまだ寝てる時間だもんね。ごめんね起こしちゃって」
妹はとても眠そうで、目をしょぼしょぼとさせている。
「...全然大丈夫だよ....続きはあし...ふあーぁ...明日でもいい..?」
「うん、いいよ。話を聞いてくれてありがとうね」
「...ううん...部屋に戻るね....」
そう言う舞希は体に力が入らないのか、ふらつきながら歩こうとしている。
「なんかフラフラして危ないから、肩貸してあげる。ほら」
「...ありがとう..」
このまま1人で歩かせると、すごい物音をたてながら色んなところにぶつかったり転んだりする可能性があった。
舞希は私に寄りかかりながら、リビングから階段下までの道を進んだ。
だが結局舞希は眠気に勝てず、階段を上っている途中でそのまま眠ってしまい、意識のあるうちに部屋に戻ることはなかった。
「舞希起きてる?」
起きているか確認するために呼びかけるが反応はない。静かに眠っている。
しっかり眠っていることを確認すると、抱えるように支えながら音を立てずに慎重に歩く。自力で歩けない人を動かすのはとても大変だ。かなり重い。
苦労しながらなんとか私の部屋の前まで来ると、ドアを開けて中へと入った。
そのまま舞希を私のベッドに寝かせると、疲れた体を少し休ませる。
休んだ後は、舞希が着ている白のふわもこな7分丈トップスとショートパンツを脱がせた。
かなり深く眠っているようで、服を脱がせたところで起きる気配はない。
これからやることが成功した時のことを考えると、気分が高揚する。
「あ、しまった...」
胸の高鳴りもすごく、何か変に興奮してしまった。
股が濡れている感じがする。
成功した時のことは成功した時に考えよう。頭を振って冷静さを取り戻すと、私は服を脱ぎ始めた。
お気に入りの水色のツルサラとしたワンピースタイプのパジャマを脱ぎ終わると、少し悩む。
パジャマだけでいいのだろうか。いや、徹底した方がいいか。確認されることはないだろうけど一応。
そう考え直して、黒のナイトブラとピンクのショーツにも手をかける。
予想通りというべきか、ショーツを脱いだら股との間で糸を引いていた。ま、気にしてもしょうがない。
ショーツの内側で軽く股の液体を拭くと、ブラと一緒に地面に置く。
そして、舞希から白のカップ付きキャミソールと水色のショーツを脱がしてそれを着た。
脱がしたばかりで温かいそれは、身につけても体つきが似ているのできつくはない。むしろピッタリである。
白のふわもこな7分丈トップスとショートパンツも着ると、今度は舞希に私の衣類を着せる。
ショーツを履かせる時は、ぴちゃっとほんの僅かに音が鳴った。少し恥ずかしい。
問題なく着せ終わると、ふぅっと息を吐く。
計画のうちの1つ目が終わった。
恐らくもう私が何をやろうとしているのか、お分かりであろうか。
そうそれはまさしく、入れ替わりというものであった。
下に弟や妹という存在がいるという環境は、最初の頃はいいことだ。遊び相手になるし家族なので遠慮しなくて良い。
昔は妹の舞希が可愛くてしょうがなかった。後ろを着いて来たり、私のやったことと同じことをやりたがったりする姿を可愛いと思えた。
だけどいつしか、両親からたくさん可愛がられる舞希に嫉妬し始めた。
その心の変化を容認してはだめだと頭では理解していても、自分のことながらコントロールが難しい。段々と舞希に対しての気持ちが変化していく。
舞希は要領が良くて何でもそつなくこなせたが、反対に私は不器用で頭もそれほど良くない。
同じ顔で生まれてきたのに、どんなに努力しても勝てないことに焦り苛立つことが増えた。
お姉ちゃんだから妹より完璧でいたい。そんな気持ちもあったのかもしれない。
自覚はあったがそれでも頑張っていたのに、テストの点が上がることもなく平凡以下。運動とか料理とか色んなどれもこれも、得意と呼べることなんて何もなくてただただ悔しかった。
もしかしたら忘れているだけで、両親は私のこともたくさん可愛がってくれていたのかもしれない。そう思って記憶を呼び起こしてみるが、思い出すのは褒められて嬉しそうな舞希の顔。
そこにいる私は家族の誰からも目を向けられてはいなかった。
舞希は優秀だから。そう心の中で無理やり納得して感情を押し込めた。
だからだろうか。大きく膨らんだ感情が爆発して、憎しみという良くないものに変わってしまったのは。
お姉ちゃん、そう呼ばれる度にイライラした。
そんな時に判明した私が人間ではないという事実。それは酷く心をざわめかせ暗くさせた。
なんで私ばかり。そう思ったら体が動いていた。
もう後戻りはできないし、することはない。
私のベッドに眠る舞希の姿は、まさしく私そのもの。
人は顔がそっくりな人物と知り合いや友達になった時、ホクロの有無などの些細な違いや、着ているもの身につけているものの違いを見て誰か判断する。もちろん声や話し方の特徴で見分ける方法もあるだろう。
私と舞希も周囲に双子と思われるくらいにどこもかしこもそっくりで、違いを示すために服装やアクセサリーを変えたりした。
話し方が2人して少し違うのだが、学校ではヘアピンの位置や色とかで判断されていたし、私服や普段着でいえば、私は可愛いながらもスッキリとしたキレイめが好きで、舞希はフリルが多い甘々なものが好きだった。
普段私が着ている下着やパジャマに身を包んだ妹は、もはや姉である私にしか見えない。
「ふふっ...おっと..」
思わず笑みがこぼれてしまった。いけないいけない。
両手で顔を掴み少し揉んで顔を引き締めると、作業を再開させる。
寝相が少し悪い私に似せるために、まずは頭を右に向かせる。
そして髪をボサボサに乱れさせて、左手はお腹に、右手は少し曲げて上に向けバンバイ状態に、左足は真っ直ぐにして、右足は曲げた。
バッチリだと頷くと、タオルケットを掴む。
「家畜になるなんて嫌なの。私は家畜じゃない、人間なんだよ...ごめんね..」
舞希の体にタオルケットと毛布をかける。
「....でもね、あなたが悪いんだからね?お父さんとお母さんを独り占めして...私だって愛されたい」
私は舞希の顔をのぞき込みながら願望を口にすると、最後に布団をかけてあげた。
それから机に向かいペンと紙を取り出すと、予め書くと決めていたことを記した。
書き終わった紙は3つ折りにして茶色の封筒の中に入れ、机の真ん中に置く。これは直筆の重要なアイテムになる。
そして再び私のベッドで深く眠る舞希のそばへと行く。
「これからはあなたが菜奈で、私は妹の舞希ね。2人だけの秘密だから、しーっだよ?ふふふっ」
そう声をかけると、偶然舞希がにこやかな嬉しそうな顔をした。
「幸せな夢でも見ているのかな?きっと夢から覚めるまでに全部終わっているはずだから...」
囁くように声をかけると、舞希の頭をひと撫でして部屋のドアの前に行く。
そして少し振り返ると、
「....ゆっくり目覚めてね...」
そう言って部屋を後にするのであった。
「...起きてこないな..」
朝になっても起きてこないことを心配するお父さんは、少し落ち着きがない。
「..相当ショックだったみたいだから...」
お母さんも一応それらしい理由を述べて自分を納得させているが、その顔は心配している時のものだった。
ここからは私の演技力が試される。いや、わたしか。
「...わたしお姉ちゃんの部屋見てくるね..」
「そ、うだな。起きているか確かめてきてくれ。....最後だから話をしたい」
「..そうね」
その言葉を聞くとわたしはお姉ちゃんの部屋に行く。
階段を上って右に曲がった所の手前にある部屋。そこに立つ。
「...お姉ちゃん、起きてる..?」
ドアに向かってそう声をかけると、返事を聞かずにドアを開けた。
「...やっぱり眠ったままだね」
小さい声でつぶやくと、起きないか少しだけ体を揺する。
予想通りというべきか、身じろぎをすることもなく起きる気配などまったくない。
聞こえるのはスースーという、深く眠っていることの証である呼吸の音だけだ。
それを確認し部屋を出て階段を下りると、両親の元へと向かった。
「お姉ちゃん寝てたよ。体揺すっても起きなかった...。政府の人もうすぐ来るんだよね..?」
「...ああ..」
政府の人が時間通りに来るとすれば、そろそろ次へ行かなくては。
「....最後になるんだから、声くらいかけてあげない?」
「...そうね...そうしましょう。ね、あなた」
「..うん..」
両親を上手く誘導し、3人で私の...お姉ちゃんの部屋に入る。
中に入った両親は、ベッドで寝ている私に扮する舞希の近くに行くが、わたしは何かに気がついたふりをして机に向かう。
「あれ?なんだろこれ。手紙...?」
最後になるであろう会話をしようと、起こそうとする両親に向かって声をかける。
「お、お父さんお母さん手紙。手紙があるよ。お姉ちゃんの字だ...」
「手紙?」
「何か書いてあるの?」
両親のその問いに、茶色の封筒を開けて手紙を広げる。
しばらく読んだふりをすると、驚くような仕草をした。
「...え....これは..」
「どうしたの?見せてちょうだい」
お母さんにその手紙を手渡すと、わたしはショックを受けた顔をしてその場に座り込んだ。
やがて両親もその手紙を読み終わり、わたしと同じように暗い顔をする。
「...そうか...菜奈は..」
お父さんは悲痛な顔でそう呟いた。
この手紙にはこう書いてある。
(お父さん、お母さん、舞希へ
たくさん考えた結果、やっぱり私は現実を受け入れることは出来ないという結論に至りました。
まさか自分が人間じゃないなんて思わなかった。将来の夢だってあったのにこれはあんまりです。
これから先のことを考えると絶望しかありません。
こんなことなら人間として育てて欲しくなかった。
でも拒絶したところで事実は変わらないし、色々全部どうでも良くなりました。
悩んだ末、畜舎にあったホムンクルス用の麻酔薬を飲みました。多くは飲んでいないので死にはしません。深く眠る程度です。
本当は皆に言いたいことはたくさんあったけど、そんな気力は残ってません。精神的にも疲れてるんだと思う。
なので、私が眠っている間に全てが終わっているようにしてくれればいいなと思っています。それだけです。
寝ている間に、政府の人に引き取ってもらってください。
もう会うこともないでしょう。願っても会えないと思うし。
来世ではちゃんと人間に生まれるといいな。そしたら今度も2人の子供にしてね。
最後に。
今まで素敵な時間を、人生をくれてありがとう。両親と妹に感謝を。
舞希)
手紙を読み終わると、両親はベットに近づいてそこに眠る私に扮する舞希にありがとうと声をかけて頭を撫でる。
2人に続いてわたしもありがとうと頭を撫でるが、これだけ触られても舞希が起きることはなかった。
しばらくの間両親とわたしはそうした後、最後の別れをすませ部屋を後にする。
結局直接会話をすることもなくリビングに戻ったわたし達は、政府の人が来るまで一言も話すことはなかったのであった。
リビングはしんみりとしていた。
ピンポーン。
インターホンが鳴り玄関に出ると5人の政府の人。
皆スーツではなく作業着のようだが、胸の部分には立派な政府のマークが入っている。
「失礼します。ホムンクルス安全管理委員会です。君がえっと、菜奈さんかな?」
政府の人は持っている携帯タブレットの写真と私を見比べながら質問をする。
「いえ、わたしは妹の舞希です」
その言葉に写真を見比べていた人は両親の方へと視線を向ける。
「はい、この子は舞希です。....菜奈は...上で寝ています。あの子と舞希は血の繋がりはなくても似ているんです」
「そうでしたか。失礼しました。それでは上がらせていただいても?」
「どうぞ」
お父さんは政府の人を家にあげると、そのまま私としてベッドで眠っている舞希の元へと連れて行った。
わたしとお母さんはそれに同行せず、リビングに行って椅子に座る。会話はない。沈黙だけがそこにあった。
しばらくすると、政府の人が降りてくる足音が聞こえてきた。
リビングから顔を出すと、降りてくる人の中に私に扮した舞希が抱えられて連れられている姿が見える。パジャマ姿のままだ。
人の思い込みとはすごいもので、普段私が着ている衣類を身につけた妹は完全に私だと間違われていた。
玄関まで行くと、政府の人達はこちらを向いて口を開く。
「私達はこれで」
「よろしくお願いします」
最後の別れだと3人でお辞儀をすると、向こうもお辞儀をする。
「それでは、失礼しました」
政府の人達はそう言って玄関を出ると、扉を閉めたのであった。
その後に家の中を支配した静まり様は、車の走り去る音が聞こえる程だった。
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「...で....だな。158....と。こいつは....し加工だ」
誰かの小さな声が聞こえる。
それはまるで遠くの話し声を聞いているように不鮮明で、会話の中身が分からなかった。
お父さんだろうか。朝に部屋まで起こしに来るなんて珍しいな。
「...うぅん...ん..?」
朝の訪れを感じて目を開ける。
あれ?ここは...?わたしの部屋じゃないみたいだけど..。確か部屋で寝たよね...?
....あ、いや確か眠くなって、お姉ちゃんに部屋まで連れて行ってもらったような?んー、ってことはこれは夢?
なんだかよく分からないが、とりあえず誰かいないか探しにと思ったが体が動かない。ふむ、そういうタイプの夢か。
「おああんぃえい...んん?」
ならばと声を出そうとするがそれも出てこない。
何かが口の中に入っていて、喋るのを邪魔しているみたいだ。
カチカチと歯を合わせてみるが、上下の歯同士が触れ合う感覚はない。
口内をおおっている何かは、口を開け閉め出来ることから上下で分かれていると思われる。舌も動かせないから、多分一緒におおわれているのだろう。
これは無理だと声を出すのを一旦諦めて、状況を整理しようと周りを見渡す。
まず1番に目に入るのは起きた時にも見えた周りにたくさんいる人間。知性のなさそうな表情の者が多く、幼稚な印象を受ける。
まるでホムンクルスのようなその人達は、天井から出る鎖で両手を、地面からでる鎖では両足を縛られ、宙ずりの状態で等間隔に吊るされていた。
わたしも同じように吊るされているが、他の人達と違うのは自分だけが服を着ているということだった。
どうやら水色のワンピース、いやワンピースタイプのパジャマを着ているみたい。
わたしはこういう生地のパジャマを持っていないが、お姉ちゃんがよく着ていたのを覚えている。
んー、実は1度着てみたかったのだろうか?夢の中で着ているということは、そういうことなのではないかと思う。願望が夢として現れるって聞くし。
パジャマに注目していたが、その途中で1点気になることがあった。パジャマのその下、下着についてである。
なんか股が湿っている気が...。もしやこの歳でおもらしなんてことはない..よね?
これ夢から覚めたら盛大にやっちゃってる可能性があるぞ。夢と連動してたら嫌だなぁ...。
いや、うん、現実のことは起きた時に考えよう。そうなってるとは限らないし。
一旦下着のことは置いておいて、今いる部屋を見渡すことにした。
ここは工場か何かの施設だろうか。奥の扉からは機械の音、反対側からは内容は分からないがたくさんの話し声が聞こえる。
いやー、なんの夢なんだこれ。分からん。
動けないし喋れないしと、ほんの少し動く体を前後に動かして鎖をガチャンガチャンと鳴らす。楽しくないし、遊びにもならん。
早く目覚めないかな。そうと思って周りを見回していると、作業服を着た男性が近寄って来た。
んー、わたしが主人公ならあの人はモブになるのかな?まさかわたしの夢であちらの方が主人公ということはないよね。
そのモブはわたしが起きていることに気がついていないのか、手に持っている資料らしき物をまくっている。
「えっとこいつは....なるほど。確保時に牧場主から確認済み。言質をおさえた。って、おいおい。親のホムンクルスとのDNA検査なしかよ。ちゃんと確認しなくていいのか...?」
頭をかきながらしばらく悩む仕草を見せるが、すぐにため息を吐くとその手を止めた。
「んー、俺が考えた所で無駄か。上がそうだって言ってんだから間違いないんだろ」
男性は独り言を言いながら考える癖があるようだ。何かくたびれた感じなのがリアルだな。
「あー、今起きたのか?てかなんでこいつだけ服着てんだ?ホムンクルスだったんだろ。服脱がせとけよ」
やっと起きていることに気づいたみたいだね。
というか、わたしはホムンクルスって設定なのか。だとすると周りに吊るされているのもホムンクルスかな。
とりあえずこちらの行動に対して反応するか確かめてみよう。
「んんぅっ...んんんっ..」
「あ?喋ろうとしても無駄だぞ。どこぞの牧場で使用されてる特製のマウスピースだからな」
相手はただのモブじゃなさそうだね。ちゃんと会話が成立するし。
しかし口の中にあるこれ、マウスピースだったのか。歯の矯正器具かと思ってたよ。使ったことないから知らないわけだね。夢限定の物の可能性もあるけど。
「まあ、ホムンクルスらしくていいんじゃないか?人間の言葉を話す家畜なんていないんだし」
2回も言うなんて、よっぽどホムンクルス役をして欲しいんだね。ふむふむ。
「お前よくもまあ今まで人間に溶け込めてたな。家畜の分際で図々しくねぇか?」
おお、蔑みの目だ。ってこれ、本当にわたしの願望が形になった夢?わたしMなの?!
「今まで人間様の素晴らしい暮らしができたと思って、皆を騙した罰を受け入れな」
自分に驚いているわたしを無視してモブはそう口にすると、ペラペラと紙をめくる。
「ああ、そうだ。お前は言葉を理解出来るんだったな」
そして紙をめくりながらこちらに声をかけると、途中でその手を止めてわたしに視線を向けてきた。
「一応教えといてやる。ここは政府が運営する牧場だ。
法に違反した牧場からホムンクルスを強制回収し、飼育または処分するそんな場所。
まあ、ここに来たからには、逃げようなんて考えるんじゃないぞ」
それだけ言って紙に視線を戻すと再度めくる。
設定凝ってるなぁと思っていると、モブはあるところでめくるのを止めた。
「お前災難だなぁ?人間様を騙して暮らしてたから重い罰が与えられるとよ。まあ、次代を産んでからな」
は、はあ。奴隷願望もあったみたいだ。
「まずは邪魔だから服剥ぐか。ホムンクルスには勿体ねえ」
はい、もう驚きませんよ。本当は恥ずかしいし嫌だけどね、夢だしいいです。
そう思っている間に、モブはわたしの着ているパジャマにハサミを入れて切り刻んでしまう。なんて大胆な。
そのまま黒のブラとショーツも切り取る。
「お前、怖くて漏らしたのか?まあどうでもいいが」
モブははらりと落ちたショーツのある部分を見てそう述べると、落ちた衣類をまとめてゴミが溜まっている所に持って行った。
なぜ平然とあんなことが話せるのか。他から言われると恥ずかしかった。
いやわたし今ホムンクルス設定だし、排泄物を垂れ流しても別に問題ないよね。うんきっとそう。
あ、モブが戻って来た。コードがついた何かを手に持っているけど、何に使うんだろ。
「さてと、まずはま、印付けとくか」
そう言うとモブは近くにコンセントをさす。
段々温度が上がってきたのか、熱でその物の周囲の空気が歪んで見える。
モブはそれを確認すると、熱を帯びているそれを持ってわたしの前に立った。
待ってまさかそう思った時には、それがわたしのお腹へと押し当てられていた。
「あえっ?...ん"ぃ"っ!?あ"あ"あ"ぁ"ぁ"っ!!」
最初の何でもない冷たさから間を置かずに一気に熱くなり、激痛へと変化した。
当てられた箇所からはジューッと音がなり、肉の焼ける匂いがする。
耐えられない痛みに絶叫していると、モブは押し当てるのをやめてコンセントを外しに行ってしまう。
「んふーぅっ...んふーぅっ..」
鼻息荒くジンジンと訴えかけてくる痛みを我慢していると、モブが戻って来た。
手に今度は注射器を持っている。
逃げられないわたしはそのまま注射をされ、意識を失うのであった。
目が覚めると体がチクチクとした。そうだ裸なんだった。
なぜかうつ伏せになっていた体を起こそうとすると、ガシャンと鎖の音がする。
思わずそこを見るとわたしの四肢と首は、地面から出た35cmくらいの鎖1つと15cmくらいの鎖4つの先端についている鉄輪で拘束されていた。がっちりと拘束されていて少ししか動けない。
四つん這いになることで首・両手首・両足首にはまる位置にくるようにしてあるみたいだった。
首の鉄輪には35cmくらいの鎖、両手首と両足首の鉄輪には15cmくらいの鎖が繋がっている。
吊られていた時と変わらず動けないことを確認すると、まだ少し痛みの引かないお腹に目を向ける。
そこに見えたのは丸い縁で囲われている見覚えのあるマーク。
それは政府のマークであった。
わたしのお腹に刻まれた烙印は、政府所有のものだと主張していたのだ。
奴隷願望があるみたいだが、痛みといい所有の有無といい、想像力豊かすぎじゃないかわたしよ。ここまでとは驚きだよ。
場所が変わったので、痛みを我慢しながら周りを見回す。
土や草などが盛られていて柔らかい地面に、目の前の餌箱と思われるもの。前と左と右にホムンクルスがいて、後ろにも気配を感じる。うん、これは...。
どうやらわたしは、たくさんのホムンクルス達に混じり、うちの牧場みたいな場所に拘束されているみたいだった。
少し遠くに人の背程の柵が見える。
その柵の向こう側にまた柵があって、そこにもホムンクルスがたくさんいた。
ふむふむと観察していると、あのモブの作業員がわたしと同じくらいの年齢の男性を連れてこちらに向かってくるのが目に入った。
だがその男性は裸。確かにこっちも裸だけど、異性はまずいって!ねえちょっと!見えてはまずいものが色々見えていますよ!
「おおいおああああんっ!おっおいいえあうっ!?」
訴えかけるもその声は無視される。
というかそちらの男性、知性が感じられないんだけど...。もしやホムンクルス?
な、なるほど、モブ以外の登場人物は皆ホムンクルス設定なのね。
そうこうしている間に、モブとそのホムンクルスはわたしの元に辿り着いていた。
別のことを考えて意識を逸らそうとするが、目の前にあるそれ。ある部分から突き出すように伸びた、大きく太いものがどうやっても視界に入る。
な、なるほど、えっと、立派なものをお持ちですね。
お父さんの以外見た事がなかったので直視ができない。
しかもお父さんのそれを見た事があるのは、まだわたしが小さかった頃のことだ。
何てものを見せるのだわたしの夢よ。そこまで欲求不満だったのか。
自分でも知らない望みを、夢とはいえ男性を出現させて叶えようとするとは。
こういうタイプの男性が好みなのかわたしよ。凛としててかっこいいなおい。知性はなさそうだけれども。
そんなことを思っていると、モブは連れてきたホムンクルスをわたしの後ろへと連れて行った。
なぜ後ろにと思っていると、何かがお尻に当たる。
「うぇっ!?」
驚いて声を上げるが、それはお構いなしに何度も当たってくる。
そうしているうちに、何が当たっているのかわたしは見当がつけることが出来た。
これはあれだ。うん、男性器だろう。
この間にも、そのホムンクルスは凶暴なものをピトピトと焦らすように当ててくる。
思えばモブが、次代を産んでからとか何とか言っていた気がする。
ということはこれから始まりそうなこれはひょっとして...。
その考えに至り、夢の中でそれを経験するのかと固まっていると、それは突然訪れた。
狙い定めが完了したと言わんばかりに、勢い良くズッと膣へと押し付け無理やり押し込んできたのだ。
「い"っ!?いあいっ!いあいっえっ!」
初めての行為は想像していたものより酷く、痛いものだった。
それは決して止まらず、狭さをものともせずにどんどん奥へと侵入していく。
たまに進まなくなると、ググッと力を込めて進路を押し開きまた進む。もう入らないと首を振っても、ミチミチと変な音を鳴らしながら突っ込んでくる。
やがて最後とばかりに力を入れグッと押し込むと、根元まで入ったためか当たった場所からパンッと言う音が少しなった。それと同時にぢゅっとそれの先端と子宮が触れ合ったのが分かった。
自分の意志とは関係なしに、膣は入ってきたそれを歓迎ように全て飲み込み、決して逃さないとギュッと包み込んでいる。
しかしそんなことよりも、途中ブチッと破れた膜が傷ついたぞと訴えてくるその痛みを我慢するので精一杯で、他のことを考えることが出来なかった。
「ん"ぁ"ーっ!ん"う"ぅ"ぁ"っ!う"ぅ"っ」
そんなわたしを構うことなくホムンクルスはそれをズッズッと出し入れし始める。
その行為に感じてしまっているのか、体の中から液体が分泌されていた。それによって出し入れがスムーズになり、行為は激しさをます。
やがて火照り感じやすくなった体は、快感を求めその行為を止めることなく受け入れる。
「...ん"んっ....あっ...ぅん"ぁっ..」
何度か意識を飛ばしながらも行為は繰り返され、やがてそれは中に何かを大量に吐き出し膣から離れていった。
何度も吐き出されたため、どれだけ中に入ったのかと少し体を動かすとタプタプと鳴り揺れる。それだけでどれだけの量なのか分かる。
そしてそれは外に出てくる気配は一切なかった。何かでせき止められているみたいだ。
恐らくあのホムンクルスも何かしら品種改良をされていて、その内の1つがこの漏れ出ないという特性なのであろう。
そう思っていると、疲れた体が意識を狩り取ろうとしてきた。
このまま気絶するとまずいと寝そべると、中に溜まった何かが激しく揺れる。うぅ、お腹がパンパンだ...。
ダップダップと揺れるそれを感じながら、わたしは意識を飛ばすのであった。
あれから数日が経った。時計やカレンダーがないので正確なことは分からないが、体感でそのくらいだと思う。
わたしはこれが夢ではないということに気づき始めていた。
日に日にお腹が膨らんでいくこの異常な成長速度は夢の中だからだと言えてしまうが、そもそもこんなに長く夢を見るなんておかしい。
思い返せば最初から違和感があった。
烙印を押された時に感じた熱さや痛さもそうだし、子作りの時の感覚だって。どれもこれも夢で味わうにしてはリアルすぎた。
そう思うと、今更ながら恐怖心が芽生え体が震える。
全部本当のことだったとしたら。そんなことが頭をよぎる。
何でわたしがここに...。
いや確か...そうだ。初日に人間に紛れたホムンクルスとか何とかモブが言っていた気がする。
それってつまり、お姉ちゃんと間違われたということではないだろうか。
そうでなければこれまでの事に説明がつかない。
これは全部お姉ちゃんが受けるはずだったってこと?
いやそんなことを考える前に大変なことがある。今の状況は最悪としか言いようがない。
わたし、ホムンクルスとコトをいたして妊娠しちゃってることになるんだけど...どうしよう..。
と、とりあえず次にモブ...男性作業員が来たら、どうにか伝えてみないと。
わたしがホムンクルスじゃないって分かったら、今度はお姉ちゃんが危なくなっちゃうけど...。でもまず先に、これ以上事態が悪くなる前に人間だって気づいてもらわなきゃ。
お姉ちゃんのことはそれからどうにかすればいい。
そう思って作業員を待つが中々来ない。
そういえばご飯をくれる時以外はここに来ないな。ご飯は食べたばかりだし、しばらく来ないかも。
というかあのご飯、体に良くない物じゃないよね?
周りにいるのが本物のホムンクルスだってことは、その子達がおいしそうに食べていたところで信用出来ない。
まあどの道あれ以外に食べ物がないので、食べるしかないんだけども。餓死とか嫌だし。
あれまっずいんだよなぁ...はぁ..。
そうあれこれ考えているうちに時間も経ち、作業員がご飯を持ってきた。
「おら飯だ飯。たくさん食えよ」
ドバドバっといれられる麦とトウモロコシをメインとしたご飯。
マウスピースのせいで味がはっきりとは分からないけれど、それでも感じるまずさ。嘔吐物みたいな臭いもしている。
原型がまだ少しあることで分かる麦とトウモロコシ。これだけを入れたら素朴な味わいながらも美味しく食べれたことだろう。
でもそれを台無しにする程のドロドロとした薄茶色の何か。
ご飯全体で見るとそれの方が多い割合で入れられている。
臭い的に排泄物ではないが、何を混ぜたらこんな色と臭いになるのか不思議でならない。
毎度毎度出されるこのご飯はもはや餌。
周りで同じく拘束されているホムンクルスは美味しそうに食べているし....ここではこれが普通なのだろうか。
目の前に作業員がいるが、まだ話しかけない。
なぜなら、ご飯を前にして食べないという行為をすると蹴られるからだ。
出された最初の時は、こんなやばいもの食べたくなくて口をつけなかった。
だけど、食べてないことが分かると作業員は食べ切るまで何度何度も蹴ってくる。
おかげで3日間近くも体が痛かった。痣になってないといいんだけど...。
そんなことがあったので、とりあえず素直に出されたものを食べてから話しかけることにした。
「おぇっ...うっ...うぇっ..」
とてもまずいご飯を吐き気を催しながら食べる。
仮に途中で吐いてしまっても、それも含めて全部食べなければならない。
初日は自分の嘔吐物も無理やり食べさせられたっけと思い出しながら、今回のご飯も何とか食べきったのだった。
ご飯を完食したので、わたしのことを伝えるために作業員を探すとそれ程遠くない所にいた。
ホムンクルスがちゃんとご飯を食べているか確認するために、このご飯の時間は長くここにいるのだ。
食べる量とか食べ方で、体調が悪いのはいないか見ながら巡回していると思われた。
と、そんなことはどうでもいい。当初の目的通り伝えなければ。
「ああいいんえんあんえうっ。おうんうううああいっ!」
やはりわたしの口からはちゃんとした言葉が出ない。
それでも必死に伝えれば分かってくれるかもしれない。その想いで必死に伝える。
「あいあっえあうっ!あんおいあええうああいっ!」
声に反応して目の前に男性作業員が来た。ちゃんと伝わったのかな。
「何だ大きい声出して。ご飯はそれだけだぞ。それ以上食ったら太んぞ」
作業員から返ってきた言葉は、わたしが欲する言葉ではなかった。
違う。そんな事じゃない。全くもって伝わっていない。
必死の叫びはホムンクルスの鳴き声ととられ、建物内に虚しく響くだけ。その言葉が理解されることはなかった。
それからも幾度となく伝えようとするが、いつもより元気だなと言われるだけ。何も伝えることは叶わなかった。
やがて作業員は歩き出し、わたしの前から離れて行ってしまう。
ホムンクルス達の様子を見終わった頃なので、そろそろここからいなくなるはずだ。
「あっえっ!あっえっえっ!ああいいんえんあんえうっえっ!」
待って。そう叫ぶ声は他のホムンクルスの鳴き声によってかき消され、届くことはなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから更に日が経ち、彼女は未だホムンクルスと間違われたまま飼育されていた。
もう間もなく産まれてくる。そんな大きさにお腹はなっていた。
そんな出産間近というタイミングで事件が起きる。
彼女が忽然と姿を消したのだ。
鍵がないと開かないはずの拘束は全て外され、鎖と鉄輪がだらりと地面に横たわっていた。
身重な彼女が自力で拘束を解くのは不可能と思われたため、脱走を手引きした者がいると予想された。
その予想は当たっており、それほど時間を置かずにその犯人は特定された。取り付けられていた監視カメラに映り込んでいたからである。
犯人は男女2名。すぐにその者達の元へと政府が動いた。
しかし逮捕されると思われた2人は、何の処罰も受けることはなかった。
その時に何があったのかは口外されることなく、その場にいた者達は皆口をつぐんだ。
ただ、あの逃亡したホムンクルスはきちんと確保され、再び男性作業員の元へと戻って来ていた。
出産間近で張っていたはずのお腹がスッキリとしていたため作業員は疑問に思ったが、きちんと烙印がされていたこともあって逃げたホムンクルスだと判断。がっちり拘束をして逃げられないようにした。
その後作業員は指示の通りに再度そのホムンクルスに種付けを始める。
相手は前と同じ、大きくて太い凶暴なそれを持つホムンクルスであった。
2度目にも関わらず泣き叫びながら行為を行うそのホムンクルスは、中が傷ついたのか繋がった膣から血を流していたという。
そのホムンクルスは今度も妊娠し、順調にお腹が大きくなっていっていた。
しかし、もう出産間近。そんな時にまた逃亡事件が起きた。
監視カメラに映るのは前と同じ男女。
前回の逃亡事件があっても特に警備体制などを変えていなかったため、同じことが起きてしまった。
これは事件後も、上層部が経費削減といって予算を割り当てなかったからであった。
ただそれは表向きの話で、実際は上層部の一部が横領を隠すための口実となっていた。
変わらぬ体制で起こった2度目の事件。
まずいと思ったのか、今回も早い段階でうやむやにされて闇へと葬り去られた。
行動が早かったためメディアに取り上げられることもない。
見事なまでにスムーズに揉み消しが行われ、事件が発覚することはなかった。
しかし前回と違うのは、あのホムンクルスが戻ってこなかったことである。
トラブルを運んでくるホムンクルスともう関わりを持ちたくないのか、気づけばそのホムンクルスに関する調査書類等は処分されて跡形もなくなっていた。
この事件以降、セキュリティが少し上げられたという。
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ホムンクルス脱走事件から1年後、ついにホムンクルス反対派が行動を起こした。
今まで反対派を抑え行われてきたホムンクルス肉やそのミルクの生産について、やめるべきだという反対派の暴動が起きたのだ。
世界的な規模で発生した感染症により引き起こされた食肉事情の危機的状況に、最初こそ説得され引き下がったものの、少しづつ反対派は増えていっていた。
そして今や牛や豚などの動物は復活を遂げたし、黙っている必要はなくなったと反対派が声を上げたのだった。
ただ、反対派が多少増えたからといって賛成派と争うには人の数があまりにも違いすぎた。例えるならば(5:95)の割合である。
この賛成派と反対派の対立はテレビで連日のように報道された。
それによって少しホムンクルスを飼育する牧場が減ったもののそれは微々たるもので、完全に全てのホムンクルス牧場をなくすることは叶わなかった。
結果は反対派の惨敗である。
そんな賛成派と反対派の対立があったことなど知らぬ男が、山の中にある大きな屋敷の中でくつろいでいた。
山の中に住んでいて、電波が届きづらいということもあってテレビは置かれていない。
その男はホムンクルスをより良質なものにするために実験を行う、いわばマッドサイエンティスト的な人物である。
男が現在研究しているのは、ホムンクルスであってホムンクルスではないもの。
そんな男は後世において世界的に有名になる。
名は木崎尚文。
数十年後に男の屋敷の周りは開拓が進み、街ができることになる。
その街で名家と名を馳せることになる木崎家は、後に木崎尚文の子孫が木崎グループというメイドロボ生産会社を立ち上げることになるのである。
これはそんな未来を訪れさせる男が生きた時代のお話。
ーー[完]ーー
ーーおまけーー
下記没ルート。(いいセリフだったんですが、ハッピーエンド作品にしたため、今回使わなかったのでここに書いて供養します。)
「腹割いて中のホムンクルスを出したらこいつは加工行きだ。割いた腹縫い合わせたらここに送るんだとよ。皮とかも処理しなくていいらしい。そのまま出荷の手配してくれ」
「分かりました」
「せいぜい最後に栄養面で人間様に貢献してくれや」
耳元でそう言われ暴れようとするが、台の上に拘束された体は少ししか動かなかった。
「んじゃま、後はよろしくー」
男性作業員は、後輩の作業員2人にそう言い残して去っていった。
「野木先輩一緒にやってくれないんだ....。仕方ない。じゃあ、取り出しますか」
伊藤がメスを手に取りホムンクルスのお腹に当てると、もう1人の後輩作業員が声をかける。
「伊藤先輩、麻酔って使わないんですか?」
「ん?何で?人間じゃないんだから必要ないよ」
「そうなんですね。分かりました」
もったいないもったいないと繰り返す野木に、後輩は理解したと返事をした。
「堅いって新入社員ちゃん。もっと気楽に話していいよ?あ、これ何かのハラスメントになる?」
「それを聞くこと自体も人によってはハラスメントだって言いますけど、私は別に気にしないです」
「そ、そう良かった」
胸を撫で下ろす野木を見て、後輩は口を開く。
「あの、徐々に慣れると思うんで堅いのは気にしないでください」
「あ、うん。了解。えっと...それじゃあ、ホムンクルスの取り出し始めようか」
「はい」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「店長。でかい箱で冷蔵品届きましたけど、なんですかこれ?」
「おおっ!届いたか!いや何、新しい1品考えようと思ってな。少し高かったけど、ホムンクルス1体丸ごと買ってみたんだ」
「そうなんですか。えっと、業務用冷蔵庫こいつ1体で結構うまっちゃいそうですね。新しくメニューに載せるなら、冷蔵室とか何かを造った方がいいかもですよ」
「だな。まあそれはおいおい考えていこう。とりあえず梱包解くか」
白い発泡スチロールを開封すると氷が敷き詰められており、中央に袋に密閉されたホムンクルス入っていた。
それを2人で取り出すと、自然に解凍するのを待った。
「おおこいつはお腹の皮が伸びていいな。中に米とか詰め込んで焼いたらきっといいご馳走になるぞ」
冷たさの残るホムンクルスのお腹を引っ張ると、かなり伸びた。それ相応の値段設定にはなるが、いい料理が出来そうだ。
そうシェフは微笑むと、料理の試作に取りかかるのであった。
ーー以上ーー