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「真鈴ちゃんやってみない?」

「えー、驚かすの得意じゃないんだけどなぁ...」

「大丈夫!わたしも一緒だし、ねっ?」

楽しそうにイタズラの計画を話してくる彼女は美芦花ちゃん。

同じ地区に住んでいて、学校は違うがわたしと同じ中学2年生。

明るく元気で友達の多い彼女は、地区の集まりでも子供達の中心にいることが多い。

3人家族で、お母さんは人間お父さんはアンドロイドである。

美芦花ちゃんのお父さんみたいなアンドロイドの人達は、別の名で呼ばれることもあった。それは、準人間種。

準人間種とは所謂、人間の手によって生み出されたホムンクルスを祖先に持つ人達のことを指す。

まずホムンクルスとは何かを説明すると、過去に動物のみにかかる感染症が世界的な規模で発生し、多くの動物が亡くなって食肉事情が危機に瀕することになった際に生み出された家畜である。

幾人かの人にDNA提供に協力してもらい、採取後それらをかけあわせて生み出されたのが始まりのため、人間にとても似ている。

ちなみに現在ではオスとメスの交尾によって普通に産まれているため、DNAのかけあわせによる誕生はない。

ホムンクルスの肉やミルクは牛や豚等と同様に一般的に売られていて、共によりいい物をと品種改良を繰り返し、各地域のブランドが出るほどに人気である。

基本は知能が低く意味のない言葉を発する動物であるが、教え込めばある程度覚えるらしい。


そしてそのホムンクルスに改良を施し誕生したのが、知能を有し人間と同じ生活を送るアンドロイドという種。

アンドロイドと呼ばれているが、別に機械化を施されていたりはしない。

ひし形を縦にしたデザインのイヤリング型受信機を右耳につけていて、頭にチップが埋め込まれているだけである。

主人の命令をイヤリングが受信して頭につけてあるチップに信号がいき、強制的に実行させることが出来ると言った感じだ。

もちろん命令などとそういうことを嫌う人もいるため、命令をしないしたくない主人からすれば、ただのアクセサリーに過ぎない。

アンドロイドに対する対応によって、その後の関係がどうなるかが変わる。アンドロイドにも感情があるので。

産まれてから手をかけて育てられるホムンクルスとは違い、アンドロイドは培養ポットで生産会社それぞれの社規定に則って販売年齢まで急速に成長させる。

そのため、買った当初は知能がなく色々と教えるところから始めなければならない。

ただそうして一緒に過ごしていくと愛情が湧く事もあるわけで、カップルになったり結婚したりと人それぞれである。

接していくうちに人間と何ら変わらなくなるため、無理して人間から相手を探す必要もないのだ。

そういうこともあり、家政婦として買う人や理想の結婚相手を求める人、社員になどなどアンドロイドを買う人の理由は様々。

アンドロイドは人間と結婚すれば、それ以降の書類から人間の名前を新たに取得し使用出来るようになる。

それ以前には仮として使用出来るだけで正式な書類では己の型番を使用するしかないのだ。

他にも結婚によって人間として扱われるようになるなど、アンドロイドにとって結婚とはとても重要なことである。


話は戻り件の準人間種という言葉だが、結婚前はアンドロイド結婚後は人間と扱いが変わるため、準とついている。

ちなみに、人間とアンドロイドとの間にできた子は人間として扱われると法で決まっているためちゃんと人間としての戸籍があるのだが、アンドロイド嫌いの心無い人からは人造生物の子がちゃんとした人間なわけがないという意味で準人間種と呼ばれることがあった。

クラスの中心的な美芦花ちゃんも、嫉妬からか一部のクラスメイトからそう言われることはあったみたい。

前に本人が笑いながら話してくれた。


そんな美芦花ちゃんと2人で話していたのが、冒頭のイタズラについてだった。

わたし達は今、地区の子供会の集まりに来ている。

本来は小学校の卒業とともに集まりに来るのは終わるのだが、うちの地区は年々子供の人数が減ってきていることもあって、来れる時は高校生も集まりに来ていたりする。

大人達は集まって話し合い、子供は子供で集まって遊ぶ。いつもの光景である。

わたしは公民館についたら先に来ているであろう他の子の遊び相手になってあげようと思っていたのだが、着いてすぐに美芦花ちゃんに捕まってしまっていた。

そうして手を引かれるがままに公民館の端へと連れて行かれ、楽しそうにイタズラの提案をされる。

「その前に子供会でどこに行くか知ってるの?」

それを知らなければ何をして驚かすのかも決められない。

「うん、あらかた決まってたみたいだから。キャンプ場に行くらしいよ」

「へー、キャンプか。バーベキューにカレーに魚の串焼き...うん、いいね」

「見事に食べ物の楽しみしか出てこないね」

目的地がキャンプ場と聞かされ、食べたいものを想像していると苦笑いされた。

「それはそうと、キャンプ場で何をして驚かそうと考えてるの?」

驚かすとは一体何をやるつもりなのか、まずは提案者である美芦花ちゃんの考えを聞かなければ。

あまり進んで人を驚かせようとは思わないが、思い出作りの一環と思えばまあいいかとも思える。

「それは当日のお楽しみ。道具とかはわたしが用意するから心配しないでね」

まだ決まっていないのであれば一緒に考えようと思っていたが、もうすでにやる内容は決まっているようだった。

「え、わたしもやるのに今教えてくれないの?」

一緒にやることが決まっているのに、こちらにも教えないとは一体。

「当日までに準備が終わるか分からないから言えないの。何とかなりそうだったらやろうねって話だよ」

「わたしもやるんだから手伝うよ」

「ううん、大丈夫。内容を伝えた時の真鈴ちゃんの驚く顔が見たいからね。それも当日のわたしの楽しみなんだよ」

「そっか。1人で無理そうだったら手伝うから言ってね」

そこまで言うのならこちらも楽しみにしておこう。

そう思っていると、美芦花ちゃんが楽しそうに口を開く。

「ヒントだけはあげるね。キャンプ場の近くに畑があるらしいよ」

それだけ言って、こちらの返事を聞く前に小さい子達のところに行ってしまった。

残されたわたしは、畑がどう関わってくるのか分からずに首をかしげるしかない。

結局考えても答えはでなかったため、諦めて小さい子達のところに行くのであった。



「んー、いい景色」

晴天で何事もなく当日を迎えた。

キャンプ場にはわたし達の他に、家族連れなど複数人の姿が見える。程よい賑わいを見せていた。

日帰りの予定ではあるが、予約の時点で荷物を置ける小屋を貸し出してもらっていたので皆でそちらへ向かう。

その道中、何か気になったのか美芦花ちゃんがこちらに話しかけてきた。

「親は来れなかったんだね」

「せっかくの土曜日だし、休みたい親だっているよ。それに年齢的に別に親同伴じゃなくてもね。心配はしてたけど」

なんだその事かと思って返事をすると、美芦花ちゃんもそうだねと納得していた。


そうして色々と満喫し、昼食を食べ終わったお昼過ぎに美芦花ちゃんから小屋の後ろへと呼び出された。

「なんとか準備が間に合ったよ!」

突然のことに準備?と、何の話かと疑問に思ったがすぐに思い出した。

「皆を驚かせるって言ってたやつのことだよね?」

「そうそう、苦労したけど何とかなったよ」

「お疲れ様。えっと、それで結局どんなことをするの?」

わたしのその質問に答えずに、美芦花ちゃんはゴソゴソとカバンを漁る。

「えーっと...あった。はいこれ」

少しして目的の物が見つかったのかそれを手にして、こちらに渡してきた。

「何これ?」

手渡された物は毛があり日焼けした肌のような色合いをしている。

「とりあえず広げてみてよ」

そう言われ、折り畳まれていたそれを広げてみるとそれは知っている食べ物であった。

「皆を驚かせるにはそれがいいかなーって。超リアルでしょ?」

「う、うん。確かにリアルだね」

手に持っているこれはマンドラゴラの外皮であった。

マンドラゴラとは種から育つ植物の1種であり、畑に植えてから1月ほどで収穫できる野菜。

生産している農家さんも多く、ファンタジーの類と言われていたのはかなり昔の話である。

ファンタジーのように奇怪な叫び声をあげることもあるがそれは稀であり、普段は言葉でもない意味のなさそうな鳴き声をだしている。聞いたからと言って死ぬこともない。

見た目は人間そっくりなのだが、植物なので違う点がある。

まずマンドラゴラは首から下の部分が土の中に埋まっていて、根を張って育つ。

土に埋まっている胴体にあたる部分からは無数の根が出ており、この根から土の中の養分や水分を得ているのだ。

そして土から出ている頭部からは髪の毛に紛れて大きな葉っぱがいくつか生えていて、上に向かって伸びている。

植物なので当然だが、見た目の大きな違いと言えばこの2つであろう。

もちろん根や葉を全て切ってしまえば、人間との見た目の差などなくなる。

ちなみに味に関しては、ちょっと肉を感じる大豆と言ったところだろうか。切れば血の臭いのする液体が出るし、見た目は肉なのに味は大豆寄り。

それならばホム肉と大豆それぞれ別で買った方がいいと言う者の方が大半である。

ただ、ホム肉よりも安価な事と栄養面でいいとして、学校の給食で頻繁にでてくる代物。筋トレをしている人にも人気らしい。

わたしが今手にしている物は、そんなマンドラゴラの外皮を綺麗に剥がしましたと言わんばかりの物であった。

「これ、マンドラゴラだよね?」

見た目からしてそうだが一応そう尋ねると、美芦花ちゃんは嬉しそうにする。

「そうなの!外側だけを綺麗に剥がすの大変だったけど、どお?いい感じでしょ?」

綺麗に剥がしたと言っているように、根も葉も綺麗についている。

しかし後ろ側はいくつも裂け目があるため、苦労しながら作業したのが感じ取れた。

「確かにすごい...そりゃあ当日までに準備が終わるか分からないって言うわけだよ」

「あはは。いくつか失敗したからね」

成功したのはこれを含めて3つらしい。

「それで、これを吊り下げて怖がらせるとかやるの?」

「いや、着て地面に潜って驚かせようかと思ってる」

やれることは吊り下げることくらいかなと思っていると、まさかの返答をされる。

思わず手に持っているマンドラゴラの皮を見るが、どう見てもボロボロだ。

「えっと、苦労したのは分かるんだけど、ボロボロだし...これを着れるようには見えないんだけど..?」

不安そうな顔で気を使いながら話すが、美芦花ちゃんは言われることが分かっていたのかまたゴソゴソとカバンを漁る。

「裂けてる所は肌にこれを塗ってくっつけようかなと思ってる」

そう言って取りだしたのは市販の傷薬。普通のとは少しパッケージが違うように見えるが。

「細胞活性化薬で?」

「うん、これベタベタするしちょうどいいかなって。家にこれとのりと接着剤しかなかったし。のりだと弱いし接着剤は肌に悪いからね」

「そっか」

細胞活性化薬とは文字通り、傷に塗ることで細胞を活性化させ治す薬である。自然治癒や他の傷薬よりも治りが早い分、それ相応に値段が張る代物。

「あ、言い忘れてたけど、裸の状態で着てもらうよ。服着たままだと不自然になるし」

着る時に服につくであろうベタベタは、洗えばすぐに取れるしまあいいか。

そんな事を考えていたのに、裸で着ると知らされてギョッとする。

「は、裸でかぁ...やっぱりやめようかなー」

なんてと付け加えながらちらりと横目で美芦花ちゃんを見る。

「せっかくわたしが苦労して用意したのに?」

だけれど辞める気などさらさらないようで、苦労したと強調して言われ断れない雰囲気がたちこめる。

でも今ここで断っておいた方がいいような気がする。直感がそう叫ぶのだ。うん、言おう。

「で、でも、恥ずか」

「大丈夫。わたしも着るし、恥ずかしくないよ。さ、あっちで着替えよ?」

断ろうと決心したのにその言葉は遮られ、そればかりか強引に話を終わらせられてしまった。

美芦花ちゃんは逃がさないよと、臆したわたしの肩を押して小屋へと連れて行くのであった。



押されるがまま歩き目的の小屋に着いたが、その周辺や中に人の気配はなかった。

美芦花ちゃんはこれ幸いとばかりにわたしを中に押し込むと、自身も入ってドアを閉じた。

逃げられない。もうやるしかなさそうだと覚悟を決める。

「はぁ...分かった、やるよ」

「だよね。そう言ってくれると思ってた」

彼女はえへへーと笑っているが、簡単に断らせないと顔に書いてあった。

「それで、ここで着替えるの?戻ってきた人に気づかれそうだけど...」

「いや、この時間は皆川の方にいるはずだから、しばらく来ないと思うよ」

わたしの不安をよそに自信ありげにそう答えると、

「まずは真鈴ちゃんから始めようか」

そう言ってこちらに目線を向ける。

理由を語ってはくれないが、そう断言出来る何かがあるのだろう。ならそれを信じるだけだ。

そう思って、マンドラゴラの皮を着るために服を脱ごうとしたところで視線が気になり手を止めた。

「えっと、そんなに見つめられると脱げないんだけど...あっち向いててくれない..?」

脱がないのかというようにじっと見つめてくるのは勘弁願いたい。

「ん?これからこれ着せるのに?どのみち裸見ることになるんだから、気にしないで早く脱いじゃって。下着もだよ」

確かに初めてのことなので着る時に見られるかもしれないけど、脱ぐ姿をまじまじと見られるのはなんか恥ずかしい...と脱げずにいると、急かすような視線を投げかけられる。

「わ、分かったって!脱げばいいんでしょっ」

説得が無理そうだと悟ったわたしは、着ているものを全て脱ぎ去った。

その脱いだ衣類は持ってきた鞄に詰めて隅に置く。

「よし、じゃあ始めるよ。って、さっきも言ったけど手で前隠しても意味ないってば」

美芦花ちゃんは、胸と股間を隠すわたしの手を邪魔だと払うと細胞活性化薬を塗り始める。

「ひゃっ」

塗られた薬がひんやりとしていたため、びっくりしてしまう。

「ちょっと冷たいけど我慢してね」

美芦花ちゃんはその後も黙々と塗り残しがないように丁寧に薬を塗っていく。

そうして顔も含めて全身に薬を塗られたわたしは、たっぷりぬられたことによるぬるぬるベタベタとした慣れない感覚に少しの気持ち悪さを感じていた。

肌を見ると、電気の光を受けてぬらりと光っている。

「うへぇ...なんかこの感覚気持ち悪い」

「大量に塗ったしね。空気に触れなきゃ気にならないかもよ?」

そう言って細胞活性化薬を塗った体にマンドラゴラの皮を当ててきた。

ぴとっと当てられた皮は、薬のベタベタさもあって落ちることなくすんなりくっつく。

「うん、接着具合問題なさそうだね。全部くっつけちゃうね」

そう言って足、股、お腹、胸、首、腕と順番にくっつけていき、残すは頭部のみとなった。

そして顔の部分をつけている時、ふと1つの疑問が湧いた。

「これ頭の部分どうするの?元々マンドラゴラの頭の部分に髪の毛と葉っぱついてるけど...わたしの髪はそのまま中に押し込む感じ?」

「んー、そうだねぇ...」

わたしの問いに少し悩む仕草を見せるが、すぐに顔を上げた。

「この皮の頭くり抜いて真鈴ちゃんの髪が出るようにしようか。それと葉っぱは皮から取って髪の毛に絡ませる方向で。うん、一応薬も塗っといた方がいいかな」

纏まった考えを話すと、早速とばかりにマンドラゴラの外皮の頭をくり抜く。

その頭部もくっつけると、わたしの見た目は完全にマンドラゴラそのもの。

小屋にある鏡でチェックしたが、それほど問題はなさそう。

背中が多少荒く見えるが、このぐらいなら何とかなるだろう。

「じゃあ次は美芦花ちゃんね」

「あー、先に真鈴ちゃん埋めようかな」

今度はわたしが着せてあげようと、細胞活性化薬を手に持つとそんなことを言われた。

「え?美芦花ちゃんも着てからの方が良くない?1人じゃ出来ないでしょ?」

「真鈴ちゃんで1回やったから、1人でも出来ると思う。それよりもう夕方になるから、着終わった真鈴ちゃんを先に埋めてドッキリの準備終わらせとかないと帰りの支度始まっちゃうよ」

確かに日が傾きかけており、このままだとやれずに終わってしまいそう。

「やれそうなのに無駄なことして共倒れはだめ。とりあえず真鈴ちゃんを埋めてからわたしもぱぱっと着替える」

いつになく真面目な顔で説得され、思わず頷いてしまった。

まあ、わたしも皆が楽しめればいいかと思ったしいいや。

要は皆を驚かせるだけのものだが、美芦花ちゃんはこのイベントを皆の心に残るものにしたかったみたいだった。


それから小屋の外に出て、先導されながら慎重に埋まる場所に向かった。

着いたのはキャンプ場からそれほど遠くない位置にある畑。頭から葉っぱを生やしたたくさんのマンドラゴラが埋まっている。

マンドラゴラを生で見たことがない人にとっては、恐怖を覚える光景だろう。

「え、ここ?ここって他人の土地じゃないの?」

心配になってそう聞くが顔を逸らされた。

「バレナケレバダイジョウブダヨ」

あさっての方向を向いて言われても...。

「穴はもう掘ってあるよ。そらあそこ」

美芦花ちゃんは、そんなことはいいのと指を指し見るように言う。

仕方なくそちらに視線を向けると、ちょうど人1人が埋まるくらいの穴が2つ出来ていた。

その傍には大きめのスコップが置かれているので、これで掘ったと思われる。

キャンプ場に持って来ていないはずなので、ここの畑のどこかにあった物かもしれない。

「真鈴ちゃんが先だし、マンドラゴラの隣ね」

手を引かれてそこに行くと、さっき見た時よりも穴が深く見えた。

「これ一体いつ掘ったの?」

「んー?キャンプ場についてね、しばらくしてから1人行動してたんだ。その時にね」

美芦花ちゃんはいないの気づかなかったでしょと笑う。

今回子供会で来る場所を事前にインターネットで調べて、この畑を見つけたらしい。

畑が近くにあったことで、これを思いついたのだとか。

「それじゃあ中に入ってね」

勝手に他人の土地に侵入している上に土まで掘ってしまっている。

見つかったら言い訳のできない状況に、本当にこのままやっていいものなのかと立ち止まっていると、美芦花ちゃんが口を開く。

「この穴掘ってる時も人は来なかったから、さっとやってさっと証拠隠滅すればいいんだって。ほら入って入って」

「え、うぅ...うん..」

有無を言わさず中に入るよう促され、後ろめたさを感じながら穴に近づく。押しに弱いなわたし。

そのまま穴の外側に座って中にそろりと足を入れると、日に当たらない土の中は少しひんやりとしていた。

「少しひんやりする」

「分かる。あんまり土触って熱ってならないよね。まあ、土をかぶせちゃえば暖かいと思うから心配しないで」

確かに砂風呂とかも暖かいし、そういうものかと思いながら穴の中に入る。

あれは暖められたものを被せるのだが、わたしはそれを知らず勘違いをしていた。


中に入ると、思っていた通り首から下がすっぽりと収まっていた。

「問題なさそうだね。じゃあ土かぶせる前に楽な姿勢をとろうか」

「埋められるのに楽な姿勢とかあるの?」

「埋められている時間は長くないけど、直立より少しでも楽な方がいいでしょ?」

そう言われるとそれがいい気がしてくる。

「そうだね。楽な姿勢ってこんな感じ?」

「んー、えっとね、両腕を体から離して、足は肩幅に開いて...そうそう。その姿勢が楽だと思うよ」

指示の通りに姿勢をとると、美芦花ちゃんはバッチリだと親指と人差し指で丸を作った。

「じゃあ今から埋めていくけど、痛いとか何かあったら声かけてね」

「うん」

彼女はわたしの返事を聞くとスコップを手に持ち土を入れ始める。

ザザーッザラザラと穴の中に土を入れ、順調に隙間が埋まっていく。マンドラゴラの皮を着ているせいか、肌に土が当たる感覚はない。

それからしばらく入れ続け、ようやくわたしの体が埋まり終わった。

「後は周りの土を少し固めてと」

美芦花ちゃんは最後の仕上げとばかりにわたしの周りを歩き踏み固めていく。

「終わった?」

その踏み固めも終わりそうだったのでそう聞いてみるが、

「あともうちょっと」

と言って再びスコップを手に持つと、その面でパンッパンッと軽く周りを叩いてきた。

「ひっ!」

それが当たりそうで怖く悲鳴をあげる。

だがその悲鳴は彼女に聞こえなかったらしく、それはもう少し続くのであった。


「よし完成!」

美芦花ちゃんはやり遂げたと額につたう汗を拭う。

「あ、や、やっと終わったんだね...怖かった..」

「ん?怖かった?」

何のことか分からないのか、彼女の頭にはてなマークが浮かんでいる。

「いや、うん、大丈夫。それで騙せそう?」

「うん!喋らなければマンドラゴラに見えるよ!」

自分では見れないけれど、他の人が見てそう思うなら大丈夫だろう。

「まだもうちょっと時間ありそうだし間に合うかな...。じゃあ、わたしも着替えてくるね」

そう言って美芦花ちゃんが小屋に行こうと歩きだす。

が、わたしは今更になって気づいたことがあった。

2人共埋まってしまったら、誰が子供達をここに連れてくるのかという問題だ。

ここに来ることは子供会の計画にはないので、誰かが連れて来なければ驚かせるも何もない。

「あの!美芦花ちゃん!」

遠ざかる背中に声をかけると、彼女はこちらを振り向き何かあったのかと首を傾げながら戻ってきた。

「何かあったの?もしかしてどこか痛い?」

予想通り心配をしてきたが、その事ではない。

「思ったんだけど、2人共埋まったら誰が子供達連れてくるのかなって。もう1人協力者がいるとか?」

「あ、確かに言われてみれば...。この計画はわたしと真鈴ちゃんしか知らないから、2人共埋まってたら台無しになるところだったよ」

彼女もそこに気づいていなかったみたいだった。協力者もいないみたい。

「あー...どうしよ..」

その場に立ち止まり考え始める。

しかしすぐに顔を上げわたしに視線を寄越す。

「いやちょうどいいかも。わたしが子供達連れてくるから、真鈴ちゃんは驚かせる役をお願いしてもいい?」

美芦花ちゃんはまだマンドラゴラの皮を着ていないので、確かに役割分担が出来る。

マンドラゴラに扮するのがわたし1人になってしまい寂しいが、まあ何とかなるか。

「いいよ。じゃあちゃんと子供達連れてきてね。迫真の演技を見せてあげるから」

「1人でやらせることになっちゃってごめんね」

「大丈夫だよ」

わたしの心配ないよという言葉を聞くと彼女は謝るのをやめて、子供達を連れて来るために、それじゃあ行ってくる。その言葉を残して畑を去って行くのであった。



しばらく1人きりかなと思って周りを見て楽しんでいると、子供達の声が耳に入ってきた。

そんなに時間経ってないのにと思ったが、時間を忘れる程にこの状況を楽しめていただけで、実際は結構経っていたのかもしれない。

「ここは、皆が普段給食とかで食べているマンドラゴラを育てている畑だよー」

少し遠くで畑の説明をする美芦花ちゃんの声が聞こえてくる。

子供達はさほど興味が湧かないのかその説明を聞く者はおらず、畑に埋まっているマンドラゴラ達をつんつんと触っている。

「うえ、頭だけ出てるっ。キモッ」

「なまくびだー」

「美芦花さんあたしマンドラゴラ知ってるよ?」

「うわっ、指舐められた!」

「ねえ、こんなのよりあっちに行こう?」

「だなー、あそぶぞー」

「美芦花さん、あたしも行くね」

自由奔放な子供達はマンドラゴラを少し触るが、多少動きはするもののじっと埋まっていて変化もなくつまらないと完全に興味を失い、他の遊び場を求めて走って行ってしまう。

「ちょっ、ちょっと待って!迷子になっちゃう!」

そんな子供達から迷子または失踪者を出してはいけないと、美芦花ちゃんも必死に追って畑からいなくなってしまった。

「え、こっちに来すらしないの?」

わたしも子供達の予想外の反応に戸惑ってしまう。

これは失敗だ。興味を持ってすらもらえなかったのだから。

仕方ない土の中から出るか。

そう思って出ようとするが体が動かない。

「え?んー!あれ?ふんっ!えっ?!」

力を入れようが何をしようが動けず、そんな状況に頭が追いつかずに固まってしまう。

「な、なんで...っ!」

動けない理由として思いついたのは、土を固められたことと首から下を全て埋められたことによって力を出せる状態にない事だった。

「これじゃあ、美芦花ちゃんが来るまで出れないじゃん...」

その彼女は子供たちを追いかけて行ってしまっている。

どのくらいで戻ってくるか分からないが、それまではここに放置だ。

そう思っていると突然首が痒くなった。

掻きたくても掻けないのでブンブンと頭を振るが、痒みは顔へと上がってくる。

何となしに視線を下に向けると頬の辺りに蟻が3匹見えた。

「うわぁっ!?虫っ!?」

蟻も含めて虫嫌いなわたしは、嫌だ嫌だと激しく頭を振る。

それが功を奏したのか振動に耐えていた蟻は飛んでいき、痒みの元の排除にも成功していた。


そんなことがありながらも、がんばれば出れるかもしれないと諦めずに這い出ようとするがやはり少しも動かない。

大量の土の中に埋まっているためか、その重量によって体が全然動かないのだ。

動き疲れてはぁっはぁっと呼吸を整えていると、こちらへ向かってくる人影が見えた。

美芦花ちゃんが戻って来てくれたのかもしれない。

やっと出られると近づいてくるその人影を見つめていたが、しばらくして目に入ってきたのは知らない男達だった。

土汚れのあるツナギを着ていることから、ここの畑の所有者もしくは従業員と思われた。

美芦花ちゃんが穴を掘ってた時には人の気配もなかったらしいのに、なんで今更...。

そう思わないでもなかったが、勝手に敷地に侵入して穴を掘ってと色々とまずいことをしているのはわたし達だ。

とにかくわたしがマンドラゴラに混じってここにいるのは非常に問題だ。

要は人間だとばれなければいいのである。美芦花ちゃんのお墨付きもあるからきっと大丈夫なはず。

声を出さずにじっとしてマンドラゴラに溶け込む。

しばらくそうしていると、男達は畑へと辿り着き談笑を始めた。

「あそこのキャンプ場子供連れ多かったすね」

「いいよなー。俺も今度家族連れてどっかでキャンプしたいわ」

「俺もだよ。はぁ、さっさと今日の仕事終わらせて飲みに行こうぜ」

そんな会話をしながら、彼らは手に持った何かをマンドラゴラの近くの土にさしていく。

わたしの近くにもさされたそれは、プラスチックの容器に入った緑色の液体。栄養剤だろうか。

さし終わった目の前の男はこちらに目をくれることもなく、隣に視線を向けている。

「あれ?誰かマンドラゴラ収穫した?」

彼の言葉に、談笑していた他の従業員達が反応を示した。

「いやそんなことはないと思うけど...」

「まさか盗まれたとかじゃないっすよね?」

「近くにあるのキャンプ場だけだぞ?いやまさか、あの団体が?」

「可能性はあるけど証拠がなぁ...。だから監視カメラつけた方がいいって言ったのに」

「あの社長ケチだからな。そこに金使わなかったら、盗まれたって文句言えねぇよ」

「いい人ばっかじゃないっすからね」

「ま、社長のせいってことで、とりあえずこの穴埋めっぞ」

「おう」

そんな会話をした彼らは、スコップを持ちザッザッと穴を埋め始める。

6人がかりで埋め始めたため、それほど時間もかからずに穴はなくなった。

あれほど深い穴が空いていたはずなのに、本当に空いていたのかすら分からない。

「うっし、これくらいでいいだろ」

「んじゃあ、あれやっか」

従業員達はそれが終わると畑から離れ何かのスイッチを押す。

その瞬間、得体の知れない液体が小雨のようにわたしやマンドラゴラ達に降り注いだ。

液体を撒き散らすそれは、畑に等間隔に設置されているスプリンクラー。

スイッチを押したことによって作動し、くすんだ緑色の液体を噴射していた。

わたしを濡らし続ける液体は、薬品と嘔吐物のツンとした臭いが混ざった酷い臭いを発しており、何度もえずきついには吐いてしまう。

「おえぇっ...うぅ..うぷっ..おえっ...」

周りのマンドラゴラは何の反応もない。

わたしだけがそれに反応してしまい、その光景を運悪く彼らに見られてしまっていた。

異常を検知した従業員達は、スプリンクラーを止めるとこちらへやって来る。

そしてむんずとわたしの頭を掴むと、あちこち触り始めた。

「何かの病原菌にかかったかと思ったが問題なさそうだな」

「そうか。いきなり口から何か出たからびっくりしたよ」

しばらく触り問題ないと判断され手が離れていく。

がしかし、ほっとしたのもつかの間、男があるものを見つけてしまう。

「おい、こいつ舌と歯があるぞ」

本来成長途中で処理するはずの舌と歯がそこに存在したのだ。

マンドラゴラにおいてその処理を怠ることはあってはならない。なぜなら、叫び防止の他に噛まれるリスクをなくするための処置であったので。

「え?まさか...本当だ。誰だよやるの忘れた奴」

「んー、担当誰だったっすかね。あ、俺じゃないっすからね」

「分かってるよ。お前は真面目だからね。確かここの列の担当前田じゃなかったっけ?」

「かもなぁ...あいつ仕事雑なんだよ。はぁ、まったく...しゃーない、俺たちでやっとくか」

「俺工具箱持ってくるよ」

「よろしく。あ、一応薬もな」

「はいよ」

「本当に忘れた奴が前田か分からんけど、あいつに何か奢ってもらいたい気分だわ」

「そっすね。後で何か奢ってもらおっと」

「しかしあのお前ですら可愛がってるなんて、前田君の人の懐に入る術はすごいんだなぁ...」

「あ?人をなんだと思ってんだ?違う違う、たまたま明日うなぎ食いたい気分だから誘うんだよ」

「明日何食べたいか分かるんすね」

「んなもんどうだっていいんだよ。あいつは財布だ財布」

「やめたれよ。まったく、容赦ないなお前。可哀想な前田君」

「あいつは財布だなんて言ってても、結局利藤先輩が奢るんすよ」

「んなことすっかよ....なんだお前らニヤニヤしやがって」

「おや、照れてる」

「ふふふ、なんでもないっすよ」

「クソが」

頭と顎を掴まれ思うように話せない状態でそんな話を聞かされ恐ろしくなった。

和やかな会話の中に聞きたくない単語。

わたしのことを完全にマンドラゴラと誤解しているようだ。

このままだと、間違われたまま恐ろしいことをされてしまう。とてもまずい。

もうこうなったらばれていい。

逆にそうしないとマンドラゴラのように...。

そうなる前に早く伝えたければならない。

手を離した瞬間が勝負だ。

そう思っていると、思いが伝わったのか掴んでいた手が離される。

今だ!

「あっ、あのっ!わた」

「うわあっ!叫ぶつもりっすよ先輩!」

「うるさいだけだから心配すんな」

思い切って伝えようとしたわたしの声は遮られ、続きの言葉を紡げずに終わってしまった。

でもこの人達が近くにいる限り伝えるチャンスは何度でもある。大丈夫。

再度対話を試みる。

「わたしに」

「うるせぇな。大人しくしてろっ」

しかしまたもや遮られ、2度目とあってか怒鳴られた。

突然のことに驚き萎縮してしまい、体がブルブルと震える。

目の前でかつ大きな声で大人に怒られると怖い。

それでも伝えなければと震えるまま口を開くと、それを見た男がわたしの後ろにまわった。

どうしたのか。そんな疑問が頭に浮かぶのと同時に、後頭部を激痛が襲った。

「がっ!?あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"っ!!」

この男、まるでボールを蹴るように頭を思いっきり蹴ったのである。

見えない後ろの出来事に、何をされたのか分からずただひたすら叫び痛みに苦しむ。

「ったく、また叫びそうだったから蹴っちまった」

「結局叫んでるけどな」

「確かに」

「ま、このままだとうるさすぎるから麻酔打っとけ」

「了解っす」

従業員は痛みに悶絶するわたしを気にかけることなく、そのまま土から少し出ている首に注射を打ってきて、中の液体を全て体内へと注入するのであった。

液体の正体は麻酔薬。

舌や歯の処理の時や出荷の時などの際に、マンドラゴラが暴れたり叫ぶのを防ぐために使われるものである。

わたしはそれを暴れて拒むことすら出来ずにそのまま打たれ、夢の世界へと誘われていくのであった。




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「うっし、寝たな」

利藤(従業員の1人)はマンドラゴラが眠ったことを確認すると、同僚が持ってきた工具箱から専用のハサミとペンチ、それからガスバーナーを取りだす。

「安藤。作業の間、口頼むぞ」

「了解っす」

安藤と呼ばれた後輩は、眠ったために頭ががくんと下を向いているマンドラゴラに手を伸ばし、その頭を掴んで上に向けると口を開ける。

それを見届けた利藤は、ペンチで舌を引っ張り出してからハサミでジャキッと切り取り、失血死しないようにガスバーナーで根元を焼いた。

そして今度はペンチで歯を全て抜くと、同じく焼いて止血するのであった。

一連の作業はスムーズに行われ、培われた経験と技術が光るさすがベテランの仕事である。

「終わったっすね」

植物なのに意外と頭重いんだよな。

仕事の最後があれだから、安藤も疲れているように見える。

「ああ。そろそろ時間だし、今日はこれで終わり...ん?あそこのマンドラゴラ枯れてないか?」

そろそろ定時になるので片付け始めようかと思ったら、隣の列に枯れかけているマンドラゴラを発見した。

1度そうなると元に戻ることはない。

「あれま、ほんとっすね。ちゃんと世話してたのに」

「仕方ないもう一仕事だ。引っこ抜くぞ」

見てしまったのならしょうがない。

そのまま放置しとくと虫も湧くし、他のマンドラゴラに影響が出ないとも限らん。

「えー、まじかよ。定時で上がりたかったのに」

「なら、掘り出した後の穴埋めは明日でいい。とりあえず周りに影響があるといけないから、あのマンドラゴラだけは引っこ抜くぞ」

「はいはい」

その後俺達は、スコップで土を掘って枯れたマンドラゴラを引っこ抜いた後、社の規定に則り焼却処分を実行。そして退勤した。

帰る時にちらりと見たあのマンドラゴラは、依然として眠りこけていた。

まあ、あの麻酔強めだからな。

そんなことを思いながら車に乗り、自宅へと向かうのであった。




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「真鈴ちゃん迎えに来たよー。真鈴ちゃんってばー」

何とか子供達を親のいるキャンプ地へと送り届けたわたしは、畑に戻って来ていた。

真鈴ちゃんを土の中から出してあげないとと思っていたのだが、どこだったか記憶が曖昧だ。

走り回る子供達を捕まえるのに集中したせいだろうか。

こんな山の中で失踪者を出しては行けないと全力で走ったのが行けなかったのかもしれない。

それなりに時間がかかったことと疲れすぎたことで、正確な場所を思い出せないでいた。

広いマンドラゴラ畑は、どこを見ても同じマンドラゴラがいる。

「んー、ここだったはずなんだけどなぁ...ん?真鈴ちゃん?真鈴ちゃんだ!」

思い出せないながらも、ここだったようなと埋めたはずの場所に来ると、そこにちゃんと真鈴ちゃんがいた。

「真鈴ちゃん来たよ!....あれ?おーい」

声をかけ揺すってみるが反応はない。

本当に真鈴ちゃんかと疑問を持ったわたしは、口を開けて中を確認してみることにした。

すると、口の中には人間ならばあるはずの舌も歯もなかった。

ということは、これは真鈴ちゃんに顔が似ているだけの普通のマンドラゴラ。

「なんだ、顔似てるだけで違ったか」

そりゃあ人間の言葉が分からないので反応しないはずだ。

マンドラゴラが成長途中で舌と歯を処理されると学校で習っていたので、すぐに判別できた。

にしてもこのマンドラゴラ、べたべた触られても動かないなんてよっぽど人慣れしてるんだなぁ。

ここの畑は収穫体験とかやっているのかもしれない。

そう思いながら立ち上がり、真鈴ちゃんを探そうと別の方へ視線を向けるとあるものが目に入った。

「あれ?2つ隣の列の穴って...そうだ、わたしが掘った穴じゃん」

そこに見えるのは、わたしが掘って結局使わなかったもう1つの穴だった。

ということは、あの穴の隣が真鈴ちゃんだ。

急いでそこへ向かう。

「おーい、真鈴ちゃん来たよー。遅くなってごめんね」

遅くなったことを詫びながらそう呼びかけると、

「ふん」

真鈴ちゃんはそれだけ言って、ぷいっと顔を別の方向へ向けた。

怒ってはいるみたいだが、こちらの言葉を理解して反応している。

それと、ちらりと見えた口の中に歯があったのを見逃さなかった。

「あ、良かった。今度こそ真鈴ちゃんだ」

誰も来ない中1人取り残されれば、怒るのも無理はない。わたしだって怒るかも。

「本当にごめんね。今土どけるから、ちょっと待ってて」

怒っているためか話してはくれないが、返事の代わりとしてブンッと頭を振っている。

これ以上怒らせたらまずいと思えたので、急いで土を掘る。


しばらく掘り続けると、胴体が見え手が見え最後に足が見えた。

「ふぅ、やっとだね。じゃあ引っ張るよ?」

疲れた体で掘ったのでそれなりに時間がかかったが何とか掘り終えると、真鈴ちゃんを引っ張って救出に取り掛かる。

「行くよ。せーのっ!...あれ?ちょっと待ってね、もう1回。せーのっ!んー!...なんで?」

頑張って引っ張るが、ぜんぜんびくともしない。

てか、真鈴ちゃんもこっちに捕まってくれればいいのに、されるがままって感じだ。

穴から出たいけど、怒りの相手に協力はしたくないってことか。

それから何度か引っ張ってみるが、やはり動かなかった。

「マンドラゴラの皮についてる根が邪魔してるのかな...真鈴ちゃん、その根スコップで取り除いちゃうね」

まだ埋まっている根に土の重みがかかっていて動かないんだと、スコップで切り落とす。

「んがっ!?る"な"つ"ば"る"だ"か"っ!?」

ガッザクッと1つ根を切り落とすと、さっきまで喋らなかった真鈴ちゃんが突然叫び出した。

「何語それ?やめてよ突然」

急に意味不明なことを言われくすっと笑うと、真鈴ちゃんは涙目で睨んできた。

「あ、笑ってごめん。続けるね」

そうして続けるとまた意味不明な言葉を言う。

それを根を切り落とす度に何度も何度も繰り返し、さすがに腹が立ってきた。

「もうやめてよ!なんなのそれっ!おもしろくもないっ!さすがにうざいよっ!」

思わずカッとなって怒りのままに叫ぶと、真鈴ちゃんは大人しくなった。

涙目でしゅんとするその姿を見て、わたしも頭が冷え怒りが落ち着いた。

「ごめん、怒っちゃって。あとその根を切り終わったら大丈夫なはずだから、終わったら引っ張り上げるね」

そして最後の根を切り終えると、無事に引っ張りあげることが出来た。

さすがに悪いと思ったのか、最後は意味不明な言葉で叫ぶこともなく静かだった。

「さ、皆待ってるから、急いで着替えて帰りのバスに乗るよ!ほら走る!」

わたしはその場でぼーっとして歩こうとしない真鈴ちゃんに声をかけると、その手を引っ張って着替えるために小屋へと急いだ。

土に埋まっていただけだがそれでもかなりの体力を消耗するのか、小屋についても彼女は着替えようとしなかった。

頭や手をだらりと下げて、立っているのが精一杯という感じに見える。

「仕方ないなぁ。言ってくれれば手伝うのに」

わたしも疲れているが、着替えが出来ないほどではない。

そもそもそんな事態になることが珍しいだろう。

部活でもならないような状態だ。

「はい足上げて、もう片方も」

仕方ないので、そんな珍しい状態になっている真鈴ちゃんにショーツを履かせてあげる。

「なんかマンドラゴラの肌に下着って合わないね」

そんなことを言いながら服を全部着せると、再度手を引き帰りのバスへと向かうのであった。

ちなみに、マンドラゴラの皮と頭の葉は予想以上に肌と密着していて脱がすことが出来なかったので、後日病院へ行くように真鈴ちゃんに進言しておいた。

まあ、バスの中でその話をしている時コクリコクリと眠たげな様子だったので、どれほど聞いているか分からないけれど。

本気でやばかったら相談してくれるはずだし、その時は全力で協力しよう。

そう思いながら、窓側で眠っている彼女にブランケットをかけてあげる。

バスがトンネルを抜けたことでオレンジの眩しい光を受けたのでそちらを見れば、真鈴ちゃん越しの窓から日が落ちていく姿を見ることが出来た。

いい景色。

外に見えるのは、まだ自分の知らない土地の景色。

自分の住む街まではしばらくかかりそうだなと、わたしも眠ることにするのであった。




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実は美芦花が真鈴だと思って連れて行ったのは、本物のマンドラゴラであった。

そのマンドラゴラの顔が真鈴と似ていたこと、たまたま声に反応したこと、これらの偶然が重なったことで生まれた不運な事故である。

他の要因として、作業員の前田が処理し忘れた、舌と歯があるマンドラゴラが他にもいたことがあげられるだろう。

何ともな前田君である。

美芦花に気づいてもらえなかった真鈴はというと、麻酔のせいでまだ眠っていた。

美芦花が最初に声をかけたマンドラゴラが真鈴で間違いなかったのである。

残念なことに寝ていて反応することはなかったが。


それから約5時間後、深い眠りから覚めたマンドラゴラこと真鈴は、己の状況を理解した後奇怪な叫び声を上げた。

その言葉はもはや人間のものとは思えない、ただの意味不明な言葉。

周りには本物のマンドラゴラしかいないため、その叫びに対して人間からの反応はなく、返ってくるのはマンドラゴラのよく分からない言葉だけであった。

ジンジンジクジクとする舌と歯の痛みをこらえながら朝になるのを待つと、出勤してきた作業員達にまた必死に叫び声を上げ、うるさいと後頭部を蹴られたとかなんとか。

ちなみに本人は気がついていないが、くっつけるために薬を塗ったことによって、肌の傷を修復しようとした細胞活性化薬がマンドラゴラの皮と肌を完全に癒着させてしまい、既に取り返しのつかない状況になっていた。

それはマンドラゴラの皮を触れば肌を触られたと感じてしまうほどで、修復の名の元神経が作られ、もはやそれが己の地肌となっている。

当然根にも葉にも神経が作られ、もうマンドラゴラそのもの。何をしようとも人間には戻れなくなっていた。

使われた物が普通に市販で売られている細胞活性化薬であればそんな事態になることもなかったのだが、美芦花が家から持ってきたと言っていた物は市販の物ではなく、研究中のサンプル薬であった。

美芦花の母親は研究者なのだが、たまたま研究中の細胞活性化薬のパワーアップ版サンプルを持ち帰ってきてしまっていた。

それを市販薬と勘違いして持ってきてしまったのだ。

目につく場所に無造作に置いていた母親も悪かった。


そんなマンドラゴラに間違われ、しまいにはマンドラゴラと化してしまった真鈴は、今日も今日とて人の言葉とは思えない鳴き声で必死に助けを求める。

たとえその声が誰にも届かないとしても...。

彼女の苦難は始まったばかりである。





ーー[完]ーー

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