Home Creators Posts Import Register Favorites Logout

Content

夕方の参道は、すでに人の気配をほとんど残していなかった。

石段を上がるたび、靴底が湿った苔を噛む。両脇の灯籠は油の匂いを薄く漂わせ、奥の本殿だけが、日の残り火を屋根の反りに乗せていた。手水舎の水面は風もなく、柄杓の柄に残った水滴が、ひとつずつ石を叩いて落ちる。賽銭箱の古い木目、鈴の紐に染みついた無数の掌の脂、境内の土に混ざる線香と杉の匂い。成瀬翔は、その匂いの層をひとつずつ吸い込みながら、資格試験の前日に神社へ来る自分を少しだけ笑った。

願いは単純だった。落ちないこと。それだけだ。

社務所の前で箒を手にしていた巫女が、足音で顔を上げた。

白い小袖に緋袴。黒髪は高く結われ、巫女独特の切れ込みのある目元が、丁寧な微笑の奥でこちらを測っている。年齢は二十半ばといったところだ。榊原瑞希――名札ではなく、社務所の案内板に書かれた当番の名前を、翔はさっき無意識に目で追っていた。美人、というより整いすぎている。整っているのに、笑った瞬間だけ、何かが一つ余分に動く。

「閉門間際ですが……まだ、お参りされますか」

声は低く、丁寧だった。境内に残る残響に乗るようで、距離以上に近く聞こえる。

「すみません。明日、大事な試験がありまして」

「合格祈願、ですね」

瑞希は箒を縁側に立てかけ、手を胸の前で揃えた。その動作で小袖の胸元がわずかに引っ張り上げられ、白い生地の内側に、熱を持った膨らみが輪郭だけを見せる。翔は視線を鈴の方へ戻した。

「二礼二拍手、一礼。焦らなくて大丈夫です。神様は、遅い人の方が好きなときもありますから」

からかいとも慰めともつかない言い方だった。翔は本殿の前に立ち、賽銭を落とし、紐を引いた。鈴の音が境内の奥まで転がっていく。目を閉じて願う。落ちないこと。落ちないこと。それ以外の言葉は、頭の中でうまく繋がらなかった。

拍手が終わると、背後で足音が止まった。

「成瀬、さま……で、よろしいですか」

振り向かずにはいられなかった。瑞希は、いつの間にか一礼の距離まで近づいていた。袴の裾が石をかすめ、白い足袋が灯籠の明かりを鈍く返す。足袋の甲は汚れひとつなく、それでいて一日中立ち続けた熱だけが、布の表面に残っているように見えた。

「……どうして、名前を」

「先ほど、お書きになった芳名帳です。字が丁寧な方は、大体お名前を覚えてしまいます」

そう言いながら、瑞希は朱塗りの盆を差し出した。小さな土器に、透き通った液体が三分ほど入っている。米の甘い匂いと、何か薬草じみた後味が、湯気もなく立ち上っていた。

「特別なお神酒、とまでは言えませんが。明日が大事な方には、こちらをお出ししています。一口だけ。神様への取り次ぎが、少し早くなります」

疑う理由はあった。それでも、彼女の微笑は社務所の明かりと同じ温度で、拒む方が不自然に感じられた。翔は土器を受け取り、一口含んだ。甘さの奥に、舌の裏へ残る金属のような感触がある。瑞希は自分の分を持たず、ただ彼の喉が動くのを見ていた。

「どうですか」

「……普通の、甘酒より澄んでる気がします」

「そうでしょう。澄んでいるものほど、中まで染みますから」

その言葉の終わりと、世界の歪みは同時だった。

灯籠の火が、一度だけ大きく明滅する。石畳の目地が遠くなり、本殿の柱が音もなく上へ伸びた。翔は膝の感覚を失い、次に靴の中で足が泳ぐ感触を得た。衣類がゆるみ、ベルトが腰から滑り、視界の上端に瑞希の膝が建物のようにせり上がる。

「な――なに、これ」

声が、自分の喉のサイズに合わせて小さくなった。

地面が迫るのではない。境内の方が、丁寧に、礼儀正しく膨らんでいく。賽銭箱の格子が城壁になり、鈴の紐が橋げたのように頭上を横切った。翔は石の目地に両手をついた。湿った苔が、掌いっぱいに冷たい粒となって張りつく。頭上で、巨大な足袋がひとつ、音を立てずに着地した。白い布の裏が、石の表面の砂を吸い上げる。

「あら」

瑞希の声は、空から降ってきた。

驚くというより、予想していたものを確認する声だった。彼女はゆっくりと膝を折り、緋袴の裾を片手で摘まみ、石畳の隙間を覗き込む。その動作だけで、白い小袖の胸が巨大な影を落とした。線香と、少し汗ばんだ肌と、髪に残った椿油の匂いが、縮小した肺の奥まで一気に入ってくる。

「ちゃんと、効きましたね」

「待って……戻して、ください。巫女さん、これは――」

「榊原です。榊原瑞希。これからお世話になるのですから、名前は覚えてくださいね」

指が降りてきた。化粧のしていない爪の腹が、翔の胴を上から押さえる。指紋の渦が、シャツの生地を通して肋骨に食い込む。抵抗する腕は、彼女の第一関節にも届かない。瑞希は摘まむのではなく、すくうように掌を差し入れ、翔を石から剥がした。

掌の熱が、足の裏から一気に上がる。

生命の熱だった。脈が、厚い掌の中央でゆっくり打ち、縮小した内臓を内側から揺する。瑞希は立ったまま、翔を目の高さまで持ち上げた。まばたきの風が頬を打ち、長い睫毛が門のように開閉する。瞳の黒い部分に、十センチにも満たない自分の全身が映っていた。

「合格したい、と願ったのですよね」

「願いは、試験の――」

「神様は、願ったものそのものはくれません。代わりに、届きやすい形にしてくださるんです。あなたは今、とても届きやすい」

彼女はそう言って、初めて小さく笑った。社務所の明かりの下では上品に見えた口元が、この距離では明らかに遊びを含んでいる。下唇の濡れが、巨大な月のように光った。

「怖がらないでください。捨てたりはしません。御神体、というほど大層なものではありませんが……今夜は、私がお預かりします」

「お預かり、って――人を」

「人、ですか。今の大きさで、まだそう呼ばれたいのですか」

言葉は丁寧なのに、中身だけが裏返っている。瑞希は社務所の縁側へ歩いた。一歩ごとに世界が上下し、緋袴の裾が風を切る。白い足袋の裏が木の縁に乗る音は、縮小した耳には太鼓に近かった。土間を抜け、障子の奥の六畳へ入ると、畳のい草が濃い匂いを放っていた。日中に窓を閉めていた熱が、部屋の低い位置に残っている。

瑞希は中央で正座した。

膝が畳に沈み、袴の生地が太ももの形を内側から押し出す。その前に、掌の上の翔をそっと下ろす。畳の目は丸太のように太く、い草の断面が湿った刃物のように光った。翔が顔を上げると、真正面に白い足袋の爪先があった。布の先が、自分の胸の高さより上にある。

「まず、大きさの確認です。動かないでくださいね」

足袋の親指側が、ゆっくり迫ってきた。

布越しでも熱がある。一日中、石と木の上で体重を支えてきた足の裏の温度が、綿の層を通して残っている。爪先が翔の胸を押し、畳の目へ埋めていく。痛みというより、逃げ場のない平面だった。肋骨が内側へ寄り、肺が薄くなる。瑞希は体重のほとんどを自分の膝に残したまま、あくまで確認するように、左右の爪先で彼の体を挟んだ。

「ん……ちょうど、足袋の幅に収まります。嬉しい」

「苦しい……力、抜いて――」

「抜けませんよ。確認中なんですから」

左右から迫る白い壁が、翔の腰をきゅっ♡と締め上げる。足袋の縫い目が腹に食い、布の内側から滲み出る微かな湿りがシャツを濡らした。汗ではない。足の裏が閉じた空間で蒸れた、薄い塩の匂いだ。線香の残香と混ざり、頭の芯が熱くなる。

瑞希は上体を少し前へ倒した。黒髪がカーテンのように落ち、顔が近づく。吐息が温かく、湿っている。唇の形が巨大すぎて、言葉より先に空気が押し込まれた。

「成瀬さん。今のあなたは、願掛けの対象ではなくて、預かり物です。社務所の鍵を閉めた時点で、外の人ではなくなりました。わかりますか」

「そんな……勝手な」

「勝手、ですか。神域で縮小して、巫女の掌に乗って、足袋に挟まれて。それでも自分の言葉が通ると思っているなら、まだ足りませんね」

右の足袋が持ち上がり、次の瞬間、翔の全身を上から覆った。

むっ♡

視界が白に変わる。綿の裏地が顔に張りつき、足指の腹の柔らかさが頭蓋を押し潰す。爪の硬さは布の向こうに鈍くあり、指の付け根の厚い肉が、背中から尻までを一気に支配した。瑞希は転がすように足を左右へ滑らせ、畳の目に彼の体を擦りつける。い草の肌触りと、足袋の内側の熱が交互に来る。翔の喉から、自分でも意図しない声が漏れた。

「あっ……ま、待って……それ、踏んでる――」

「踏んでいる、というほど体重は乗せていません。乗せてあげたら、潰れてしまいますから」

優しい説明だった。内容が残酷なだけだ。瑞希は足を少し浮かせ、翔が咳き込むのを見てから、もう一度、確認するように爪先で押した。ぷにっ♡と沈む感触が、彼女の足指の腹に伝わったらしい。目元が細くなる。

「反応するんですね。痛いだけ、ではない」

「ちが……っ、呼吸が」

「呼吸はできます。私が許している間は」

瑞希は足袋を返し、翔を爪先の裏側から甲側へと転がり上げた。白い布の峰を越え、紐の結び目の陰に落ちる。足袋の甲は爪先より滑らかで、体温が直接近い。彼女は足首を少し内側へひねり、袴の裾の影へ彼を滑り込ませた。太ももの付け根から膝まで続く暗い通路。緋袴の裏地が、日中の歩行で温まった空気を閉じ込めていた。

「ここは、外より静かでしょう。鈴の音も、石の冷たさも届きません」

翔は袴の裏で、巨大な腿の壁に両腕を突いた。皮膚の熱が生地を通り、顔に張りつく。瑞希が姿勢を正すたびに、腿の内側の肉が寄ってきて、彼の体を左右からむにっ♡と挟む。言葉責めは、上から降る丁寧語のまま続いた。

「明日の試験、心配でしたか。落ちたらどうしよう、と思いましたか。今は試験より、私の足の裏の方が近い。優先順位が変わるのは、悪いことではありません」

「お願いです……元の大きさに」

「元に戻したら、明日の朝、普通に受験して、普通に落ちて、普通に忘れますよ。今夜ここで預かった方が、よほど記憶に残ると思いませんか」

瑞希は膝の上で両手を揃え、まるで祝詞を上げる前のような姿勢を作った。そのせいで体重が前方へ移り、正座した尻のカーブが畳を押し、袴の奥の空間がきゅっと狭まる。翔は腿と腿の間で、逃げ場を失った。鼻先に届く匂いが変わる。足袋の綿と、足首の石鹸と、その奥にある、一日の終わりの薄い肌の匂い。下半身の熱が、袴の閉じた空間に溜まっていた。

「名前を、呼びなさい」

「……榊原、さん」

「さん、は少し遠いですね。今夜の預かりとしては」

翔は唇を噛んだ。頭の上で、彼女の吐息が畳を温める。

「……瑞希、さま」

「はい。よく言えました」

褒める声だった。掌が袴の隙間に差し込まれ、腿に張りついていた翔を指先で摘まみ出す。急に入ってきた空気が冷たく、目が眩む。瑞希は摘まんだ彼を、自分の目の前でぶら下げた。足が空を掻く。彼女の顔は、この距離ではすでに風景だった。美しい目元の端が上がり、丁寧な微笑のまま、中身だけが小さな牙を見せる。

「これから足袋の中へ入れてあげます。中は蒸れていて、暗いです。でも、私が歩くたびに揺れて、体温がずっと近い。合格のお守りより、よほど効きますよ」

「中に……入れるな」

「入れます。拒否は、今の大きさでは儀式になりませんから」

瑞希は右足の足袋の口を、左手の指でわずかに開いた。白い空間が、湿った洞窟のように開く。綿の裏地はすでに熱を含み、足の甲の形が内側から押し出されている。彼女は翔を、頭からではなく横向きに、丁寧にその隙間へ滑り込ませた。

ぬくっ♡

世界が閉じる。

足指の付け根の柔らかい谷間に、体がはまり込む。上からは足の甲の肉が、下からは足袋の底が、サンドイッチのように圧をかけてくる。皮膚の匂いが濃すぎて、口を開けるたびに塩と熱が入った。瑞希が足首を回すと、内部の空間がねじれ、翔の体が指と指の間へ転がり落ちる。

「ん……入った。動かないでくださいね。縫い目が弱いので」

彼女は立ち上がった。

その瞬間、重力が変わった。足袋の中で翔は九十度傾き、巨大な足指の腹に顔面を押しつけられる。瑞希が六畳を横断するたび、一歩ごとに彼の体が前方へ投げ出され、次の着地でむにっ♡と指の肉に埋め込まれる。社務所の板の間、縁側、もう一度畳。短い歩行なのに、縮小した体には長い移動だった。

瑞希は座卓の前で再び正座した。

着地の衝撃が、足袋の中で余韻を残す。彼女は膳を出し、湯を注ぎ、日常の動作を淡々と続ける。その間ずっと、右足の中では翔が、足指の谷間で呼吸を細くしていた。時折、彼女は足の指をゆっくり開いたり閉じたりする。意図的だった。閉じるたびに、ぬちっ♡と薄い湿りが翔の服に移る。

「聞こえますか」

足袋の上から、指先が軽く突かれた。頭の位置を確認するような突き方だ。

「……聞こえる」

「よかった。窒息はさせません。ただ、今夜は外に出しません。願いは預かりました。お返しは、私が満足してからにします」

翔は足指の腹に頬を預けたまま、目を閉じそうになる自分を引き戻した。熱い。近い。屈辱と、逃げられない密着が、同じ場所で重なっている。瑞希は湯呑を置き、正座の膝を少し開いた。袴の裾が畳を滑り、右足の甲が上を向く。足袋の口から、わずかに光が差し込んだ。

その光の先で、彼女は下を見ていた。丁寧な微笑のまま、中身だけが楽しみを隠していない目だった。

「合格したいのでしょう。なら、まずは私の足の中で、落ちない練習をしてください。私が指を閉じても、歩いても、正座で体重を預けても……潰れずに残れたら、少しだけ次を考えてあげます」

足指が、ゆっくり閉じた。

きゅっ♡

光が消え、熱だけが残る。翔の喉から、短い声が漏れた。瑞希はそれを聞いたのか聞いていないのか、祝詞でも上げるように、小さな声で続けた。

「今夜の御神体は、あなたです。ただし、祭る側は私ですから。間違えないでくださいね」

足袋の中は、閉じた瞬間から別の世界になった。

指と指の谷間に押し込まれた翔の体は、上下を厚い肉と綿の裏地で挟まれ、ほとんど動けない。瑞希がわずかに足指を動かすたび、ぬちっ♡と薄い湿りが服に染み、皮膚の熱が直接伝わる。足の裏が一日中石と木を踏んできた痕跡が、塩気とわずかな甘さになって鼻腔を埋めた。線香の残り香はもう遠い。ここにあるのは、巫女の足そのものの匂いだけだった。

「息、できていますか」

上から、布越しに声が降ってくる。丁寧で、心配しているように聞こえるのに、指の圧は少しも緩めない。

「……できる」

「よかった。では、もう少し練習しましょう」

瑞希は正座のまま、右足の指をゆっくり開いたり閉じたりし始めた。開くたびにわずかな光と空気が入り、閉じるたびにきゅっ♡と全身が締め上げられる。意図的なリズムだった。試験前の緊張をからかうように、あるいは、預かったものを確かめる儀式のように。

翔の顔は、人差し指と中指の付け根の柔らかい谷に押しつけられていた。そこは足の中でも特に熱く、脈が直接伝わってくる。ドクン、ドクンという重い鼓動が、縮小した頭蓋を内側から揺する。瑞希が姿勢を正すたびに、太ももの付け根から伝わるわずかな揺れが足袋の中まで届き、彼の体を前後に転がした。

「ん……動く。可愛い」

彼女は足袋の甲を、左手の指で上から軽く押した。中の位置を確認する動作だ。押されるたびに、翔の背中が足の甲の肉に沈み、前からは足指の腹が顔面を覆う。呼吸のたびに綿の裏地が唇に張りつき、薄い塩の味が舌に残る。

「成瀬さん。今、何が見えますか」

「……何も。暗い」

「そうですね。足袋の中は、外の光をほとんど通しません。神様に願ったときも、目を閉じていましたよね。似ています。願う側と、願われる側が、同じ暗さにいる」

言葉は祝詞のように静かだった。中身だけが、所有の確認だった。瑞希は足指をさらに強く閉じ、翔の腰を左右から挟んだ。むにっ♡という感触が彼女の指に伝わったらしい。吐息がひとつ、上から落ちてくる。

「感触、いいです。柔らかい。潰しすぎないように気をつけますね。預かり物は、傷つけて返すと失礼ですから」

「返して……ください。試験が……」

「試験の話は、もういいでしょう。今夜は試験より、私の足の中の方が優先です。優先順位を間違えると、合格どころではなくなりますよ」

瑞希は左足を少し動かし、右足の甲に重ねるようにした。体重の一部が乗った瞬間、足袋の内部空間が急激に狭くなる。翔は肺を圧迫され、短い悲鳴を上げた。すぐに圧は引いた。計算された加減だった。

「大丈夫。まだ、潰していません。ただ、正座で体重を預けると、こうなります。覚えておいてください」

彼女は再び足を戻し、膳に手を伸ばした。湯呑を傾け、静かに飲む音がする。日常の動作の裏で、右足の中では翔が、足指の谷間で細い呼吸を繰り返していた。時折、瑞希は指をくねらせるように動かす。意図的に、彼の体を足指の間で転がし、布と肉で擦りつける。ぬちゅっ♡、くちゅっ♡と、薄い湿りが音になる。

「服が、少し湿ってきましたね。足の蒸れです。すみません。一日中、石の上に立っていましたから」

謝罪の言葉なのに、声の端が楽しんでいる。翔は顔を横に向けようとして、人差し指の腹に額を押しつけた。熱い。柔らかい。逃げ場がない。屈辱が、熱と匂いに溶けて、頭の芯をぼんやりさせる。

瑞希はしばらく黙って湯を飲んでいた。それから、足袋の口をわずかに緩めた。光が差し込み、翔の目が細くなる。彼女は指先で、中の彼を摘まむように探った。

「出ていらっしゃい。一度、確認します」

強引に引き出される。急に入ってきた空気が冷たく、視界が揺れた。瑞希は掌の上に翔を乗せ、目の高さまで持ち上げた。足袋の中で蒸れた彼の服は、薄い湿りを帯び、彼女の足の匂いを濃くまとっていた。

「あら。顔が赤い。苦しかったですか」

「……苦しい、です」

「でも、潰れてはいませんね。合格です。少しだけ、次を考えてあげます」

彼女はそう言って、翔を自分の膝の上に下ろした。緋袴の生地が、腿の形を内側から押し出している。正座した膝の中央、わずかに窪んだ場所に、彼の体が乗る。瑞希は上から覗き込み、丁寧な微笑のまま、指で彼の背中をなぞった。

「ここは膝です。足袋の中より広いでしょう。でも、私が腿を閉じたら、同じです。試しに、してみますね」

両膝が、ゆっくり寄ってくる。

緋袴の生地が左右から迫り、翔の体をむにっ♡と挟んだ。腿の内側の熱が、生地越しに直接伝わる。日中に歩いて温まった筋肉の感触が、縮小した体を両側から押し潰すように包み込む。瑞希は力を入れすぎず、ただ閉じた状態を保った。

「どうですか。足袋より、圧が均等でしょう。膝の上は、預かり物を置くのに向いています」

「苦しい……開けて……」

「まだです。名前を、もう一度」

「瑞希、さま……」

「はい。よく言えました」

腿がわずかに緩む。空気が入り、翔は大きく息を吸った。瑞希は彼を指で摘まみ、今度は自分の胸元へ持っていった。白い小袖の襟元を指で開き、谷間の浅い影へ滑り込ませる。柔らかい乳房の熱が、左右から迫ってくる。線香と椿油と、肌そのものの甘い匂いが、足袋の塩気とは違う濃さで肺を満たした。

「ここは、まだ早いですね。今夜の最後にとっておきます。今は、足に戻りましょう」

彼女は翔を再び足袋の口へ運び、今度は左足の中へ入れた。右とは違う感触がする。左足の方がわずかに冷え、蒸れも薄い。瑞希は両方の足袋に交互に彼を入れ替えながら、正座したまま足指を動かして遊んだ。閉じる、開く、転がす、押しつける。丁寧語のまま、内容だけが容赦ない。

「成瀬さん。願掛けのとき、何を一番欲しいと思いましたか」

「合格、です……」

「嘘です。本当は、落ちない自分でいたかったのでしょう。今は、私の足の中で落ちない練習をしている。近いものですよ」

彼女は右足の指を強く閉じ、翔の全身をきゅっ♡と締め上げた。短い声が漏れる。瑞希はそれを聞いて、目元を細めた。

「声、出ますね。我慢しなくていいです。社務所には、もう誰もいませんから」

足袋の中で、翔は足指の腹に頬を押しつけたまま、目を閉じた。熱と匂いと圧が、思考をゆっくり溶かしていく。瑞希は膳を片付け、電気を少し落とした。薄暗くなった六畳で、彼女は正座の姿勢を崩さず、足の中の預かり物を確かめるように、指をくねらせ続けた。

「今夜は、このまま寝ます。足袋の中で。私が寝返りを打ったら、少し圧が変わるかもしれません。潰れないように、しっかりしがみついていてくださいね」

彼女は布団を引くでもなく、座卓の前で上体を少し前へ倒し、腕を組んで目を閉じた。呼吸が徐々に深くなる。その間も、右足の指は時折、無意識に閉じたり開いたりした。ぬちっ♡、くちゅっ♡と、薄い湿りが音を立てる。

翔は足指の谷間で、巫女の体温に包まれたまま、試験のことなどもうほとんど思い出せなくなっていた。代わりに残っているのは、丁寧な声と、逃げられない熱と、「御神体」と呼ばれたときの、奇妙な安堵だった。

瑞希の唇が、わずかに動く。眠りの中で、あるいは意識の端で、彼女は小さく呟いた。

「……ちゃんと、残っていてくださいね。朝になったら、次の儀式をしますから」

足指が、ゆっくりと、きゅっ♡と閉じた。

Files

Comments

No comments found for this post.