縮小ペット②「新たな世界」 (Pixiv Fanbox)
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検査は徹底的だった。身体測定、血液検査、反射神経テスト、知能テスト…。すべて縮小した体に合わせた特殊な装置を使って行われた。岡崎は言われるままに検査を受けながら、自分の体の変化に戸惑いを隠せなかった。
「すべての機能は正常です」
鈴木研究員は満足げに結果を確認した。彼女の手のひらに乗った岡崎は、巨大な女性の顔を見上げた。
「特に脳機能に問題はありません。知能指数も縮小前と変わりません。素晴らしい成功例です」
「これから…どうなるんですか?」
岡崎の声は小さかったが、特殊イヤホンを通じて研究員たちには明瞭に聞こえていた。
「これからあなたの新しい住居をお見せします」
佐々木主任研究員が答えた。彼女は大きなガラスケースを持ってきた。それは高さ約30センチ、幅50センチほどの精巧なドールハウスのようだった。
「こちらがあなたの当面の住まいです。基本的な生活機能はすべて備わっています」
岡崎は鈴木の手のひらから、その「家」の中に降ろされた。内部は驚くほど精巧に作られていた。小さなベッド、机、椅子、本棚、そして浴室とトイレまで完備されている。
「水道も電気も使えます。特殊な微小技術を使っているんですよ」
鈴木が説明した。岡崎は恐る恐る水道の蛇口をひねってみた。本当に水が出てきた。トイレのレバーを引くと、ちゃんと水が流れる。
「信じられない…」
「食事は専用のミニチュア食器で提供します。栄養は特別に調整されています」
佐々木が言った。
「では、今日はここで休んでください。明日から本格的な実験データの収集を始めます」
研究員たちは去っていき、岡崎は一人、小さな「家」に取り残された。窓からは研究室の広大な空間が見える。自分がいかに小さくなったかを実感し、めまいがした。
ベッドに横になると、天井が異様に高く感じられた。この非現実的な状況の中で、岡崎は疲労から徐々に意識を失っていった。
「おはようございます、岡崎さん」
翌朝、鈴木研究員の声で目を覚ました。彼女は巨大な顔をガラスケースに近づけ、微笑んでいた。
「今日の気分はどうですか?」
「まあ…なんとか」
岡崎は起き上がり、伸びをした。体は意外にも軽快に動く。
「朝食です」
鈴木はケースの側面にある小さな扉を開け、ミニチュアの食器セットを置いた。そこには小さなパンと卵料理、サラダが盛られていた。
「特殊な技術で縮小した実際の食材です。味は普通の食事と変わりません」
岡崎は恐る恐る食べてみた。確かに味は普通だった。むしろ、香りが濃縮されているせいか、より豊かに感じられた。
「今日はまず、運動能力の詳細テストを行います。それから、対人関係実験を始めます」
「対人関係実験?」
「はい。ヒューマンペットと通常サイズの人間との交流実験です」
鈴木の表情が少し変わった。何か含みのある笑みを浮かべている。
「準備ができたら、声をかけてください」
鈴木は去っていった。岡崎は朝食を終え、特殊素材でできた新しい服に着替えた。全身タイツよりも普通の服に近い感覚で、少し気分が楽になった。
「準備できました」
岡崎が声をかけると、すぐに鈴木が戻ってきた。彼女は手のひらを差し出し、岡崎はそこに乗った。
「今日からの実験は私が担当します。よろしくお願いします」
鈴木は岡崎を連れて別の部屋に移動した。そこは普通のオフィスのような空間で、デスクと椅子、ソファがあった。
「ここが私の研究室です。当面、あなたはここで過ごすことになります」
鈴木は岡崎をデスクの上に降ろした。デスクの上には小さな障害物コースが設置されていた。
「まずは基本的な運動能力を測定します。このコースを走ってみてください」
岡崎は言われるままにコースを走った。ミニチュアのハードルを飛び越え、細い橋を渡り、小さな壁を登る。体は予想以上に軽快に動いた。
「素晴らしい」
鈴木はストップウォッチを見ながら言った。
「縮小によって質量が減少しているため、相対的な筋力は増しています。体重あたりの筋力で言えば、あなたは通常の人間の約5倍の力を持っています」
次に、鈴木はいくつかの小さな道具を出した。
「これらを使って、微細な作業の能力を測定します」
小さなブロックを積み上げたり、極小のパズルを解いたり。岡崎は集中して課題をこなした。
「手先の器用さも問題ありませんね」
鈴木は満足げに結果を記録した。
「さて、次は対人関係実験です」
彼女はインターホンのボタンを押した。
「入ってください」
ドアが開き、20代後半と思われる女性が入ってきた。彼女は白衣ではなく、普通の事務服を着ていた。
「こちらは田中さやかさんです。当社の事務職員です」
鈴木が紹介した。田中は好奇心に満ちた目で岡崎を見つめていた。
「すごい…本当に小さな人間なんですね」
「田中さんには、ヒューマンペットとの交流実験に協力してもらっています」
鈴木は説明した。
「今日は基本的な触れ合い実験を行います」
触れ合い?岡崎は不安を覚えた。
「岡崎さん、田中さんの手のひらに乗ってみてください」
鈴木の指示に、岡崎は躊躇した。しかし、実験に参加すると約束した以上、従うしかない。彼は恐る恐る田中の差し出した手のひらに乗った。
「わあ、軽い」
田中は興奮した様子で岡崎を見つめた。
「でも、ちゃんと人間の形をしてる。かわいい」
かわいい?その言葉に岡崎は複雑な感情を抱いた。自分は実験対象であり、「ペット」なのだ。
「少し持ち上げてみてください」
鈴木の指示に、田中は岡崎を目の高さまで持ち上げた。
「こんにちは、岡崎さん」
田中は微笑んだ。その表情は岡崎の視点からは巨大で圧倒的だった。
「こ、こんにちは…」
「声も聞こえるんですね!すごい!」
田中は子供のように無邪気に喜んだ。
「では次に、基本的なコミュニケーション実験を行います」
鈴木は小さなテーブルとイスをデスクの上に置いた。
「岡崎さんをそこに座らせてください」
田中は言われるままに岡崎を小さなイスに座らせた。
「これから簡単な会話を続けてください。田中さんは、ペットとしての岡崎さんとどう接するか、自然な反応を示してください」
ペットとしての岡崎。その言葉が刺さった。
「はい、わかりました」
田中は岡崎の前に顔を近づけた。
「岡崎さん、お仕事は何をされていたんですか?」
「大学院生です…分子生物学を研究していました」
「すごいですね!頭がいいんだ」
田中の言葉遣いが、いつの間にか子供に話しかけるような調子に変わっていた。
「ペットになって、どんな気分ですか?」
その直接的な質問に、岡崎は言葉に詰まった。
「…まだ慣れていません」
「そっか、大変だね」
田中は同情するような目で岡崎を見た。しかし、その目には明らかな優越感も混じっていた。
実験は1時間ほど続いた。会話、簡単なゲーム、田中の手の上を歩くなどの動作を求められた。すべてが「ペット」としての行動を前提としていた。
「今日はここまでにしましょう」
鈴木が実験の終了を告げた。
「田中さん、ありがとうございました。明日もよろしくお願いします」
「はい、楽しかったです!」
田中は去り際に岡崎に手を振った。
「また明日ね、小さな岡崎さん」
ドアが閉まると、鈴木は岡崎に向き直った。
「お疲れ様でした。どうでしたか?」
「…正直、屈辱的でした」
岡崎は素直に答えた。
「そうですか」
鈴木は冷静に応じた。
「でも、これがヒューマンペットの現実です。あなたたちは新しい存在として、社会に受け入れられる必要があります。そのためには、『ペット』という位置づけが最も自然なのです」
岡崎は反論したかったが、言葉が見つからなかった。自分はもう元の世界には戻れないのだ。この現実を受け入れるしかない。
「今日はここまでにしましょう。あなたを住居に戻します」
鈴木は岡崎を手のひらに乗せ、ガラスケースに戻した。
「明日は別の実験を行います。休んでください」
鈴木が去った後、岡崎はベッドに横たわった。天井を見つめながら、自分の置かれた状況を考える。自分は今、実験動物なのだ。いや、「ペット」なのだ。その現実を受け入れられるだろうか?
そして、この実験の真の目的は何なのか?単なる科学的好奇心のためだけではないはずだ。ネオライフ社は何を計画しているのか?
疑問は尽きなかったが、疲労から岡崎は再び眠りに落ちた。