縮小ペット③「飼い主の登場」 (Pixiv Fanbox)
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一週間が過ぎた。岡崎は徐々に縮小した体に慣れてきていた。毎日、様々な実験が行われた。運動能力テスト、知能テスト、そして最も屈辱的だった「ペット適性テスト」。
田中さやかとの交流実験は毎日続いた。彼女は徐々に岡崎を「かわいいペット」として扱うようになっていった。頭を撫でたり、指で軽く突いたり、時には服を着替えさせようとしたりした。
「今日は特別な日です」
その日、鈴木研究員は普段より明るい声で告げた。
「どういうことですか?」
岡崎は小さなテーブルで朝食を取りながら尋ねた。
「あなたの『飼い主』が決まりました」
鈴木の言葉に、岡崎は食事を喉に詰まらせた。
「飼い主?冗談じゃない!僕は実験に参加しただけで、誰かのペットになるなんて聞いていません!」
「契約書をよく読みませんでしたか?」
鈴木は冷静に言った。
「『被験者は実験終了後、ヒューマンペットとして適切な環境下で生活することに同意する』と明記されています」
岡崎は愕然とした。確かに契約書にはそのような文言があったかもしれない。しかし、当時は「適切な環境」が「誰かのペット」を意味するとは思っていなかった。
「これは詐欺だ!」
「いいえ、すべて合法的な手続きです」
鈴木は淡々と答えた。
「ヒューマンペットは法的に新種生物として登録されています。人権は適用されません。あなたは今、ネオライフ社の所有物です。そして今日、あなたは正式に譲渡されることになっています」
岡崎は震える手で顔を覆った。これが現実なのか?自分は本当に「所有物」になってしまったのか?
「誰…誰が『飼い主』になるんですか?」
「それはこれから会います」
鈴木は岡崎を手のひらに乗せ、研究室を出た。長い廊下を通り、エレベーターで上階に向かう。岡崎は鈴木の手の上で震えていた。
エレベーターを降り、彼らは豪華な応接室のような部屋に入った。そこには佐々木主任研究員と、見知らぬ女性が座っていた。
「お待たせしました」
鈴木は岡崎を小さなテーブルの上に降ろした。
「こちらが岡崎龍一です。最新のヒューマンペット・コンパニオンシリーズです」
テーブルの向こうに座る女性は、30代前半と思われる洗練された雰囲気の持ち主だった。高級そうなスーツを着こなし、知的な印象を与える眼鏡をかけている。彼女は興味深そうに岡崎を観察した。
「初めまして、岡崎さん。私は神崎麻衣子です」
その声は柔らかく、しかし威厳があった。
「あなたの新しい飼い主になります」
岡崎は言葉を失った。目の前の女性が自分の「所有者」になるというのか?
「神崎様は当社の主要株主であり、ヒューマンペットプロジェクトの重要なスポンサーでもあります」
佐々木が説明した。
「最初のコンパニオンシリーズを譲渡するのにふさわしい方です」
「ちょっと待ってください!」
岡崎は叫んだ。
「僕はペットじゃない!人間だ!こんな扱いは人権侵害です!」
神崎は微笑んだ。その笑顔には何か危険なものが潜んでいた。
「法的には、あなたはもう人間ではありません。新種生物『ホモ・ミニマス』です。人権は適用されません」
彼女はテーブルに置かれた書類を手に取った。
「これがあなたの所有権移転書類です。今日からあなたは私のものです」
岡崎は絶望感に襲われた。逃げ出したいという衝動に駆られたが、どこへ行けばいいのか?この小さな体で外の世界で生き延びられるのか?
「取り扱い説明書はこちらです」
鈴木は神崎に別の書類を手渡した。
「食事の方法、健康管理、基本的なケアについて記載されています。また、何か問題があれば、いつでもご連絡ください」
「ありがとう」
神崎は書類に目を通しながら言った。
「特別な食事が必要なのね」
「はい。通常の食品を縮小したものでは栄養が足りません。専用の栄養食をご用意しています。一ヶ月分をお渡しします。その後は定期配送サービスをご利用いただけます」
神崎はうなずいた。
「住居はどうなっていますか?」
「基本的なドールハウスタイプの住居を用意しています。水道、電気、空調すべて機能します。もちろん、お好みでカスタマイズしていただいても構いません」
神崎は満足げに微笑んだ。
「素晴らしい。では、連れて帰ってもいいですか?」
「はい、すべての手続きは完了しています」
佐々木は小さな専用キャリーケースを取り出した。それは高級ペットキャリーのような外観だったが、内部は小さな人間用に設計されていた。小さなソファ、テーブル、さらにはミニチュアのトイレまで備わっていた。
「岡崎さん、こちらに入ってください」
鈴木が言った。岡崎は抵抗したかったが、選択肢はなかった。彼は震える足でキャリーケースに入った。
「これからの生活、楽しみにしています」
神崎は岡崎を見下ろしながら言った。その目には所有欲と何か別のものが宿っていた。
キャリーケースのドアが閉まり、岡崎は暗闇の中に取り残された。小さな窓からは外の景色がぼんやりと見える。神崎が立ち上がり、キャリーケースを持ち上げる。揺れる感覚に、岡崎は吐き気を覚えた。
「それでは、お気をつけて」
研究員たちの声が遠ざかっていく。岡崎は窓から外を見た。神崎は彼を持って研究所を出て、高級車らしき車に乗り込んだ。キャリーケースは助手席に置かれた。
「さて、我が家に帰りましょうか」
神崎の声が聞こえた。エンジンがかかり、車は動き出した。
岡崎は震えながら、これからの運命を考えた。自分は本当に「ペット」として生きていくのか?この女性の所有物として?逃げる方法はないのか?
車は静かに走り続けた。窓から見える景色は、岡崎が知っていた世界とは思えないほど巨大に感じられた。彼は小さなソファに身を沈め、絶望的な気持ちと戦った。
神崎麻衣子のマンションは、都内の高級住宅街にあった。最上階のペントハウスは広々としており、モダンな家具で統一されていた。
「ここがあなたの新しい家よ」
神崎はキャリーケースを開け、岡崎を取り出した。彼女の手のひらに乗せられた岡崎は、巨大なリビングルームを見回した。
「まずは住居を見せましょう」
神崎は岡崎を手のひらに乗せたまま、リビングの一角に向かった。そこには既に設置されたドールハウスがあった。しかし、研究所のシンプルなものとは違い、これは豪華な三階建ての邸宅を模したものだった。
「特注したの。気に入った?」
神崎は岡崎をドールハウスの前に降ろした。岡崎は言葉を失った。ドールハウスは信じられないほど精巧に作られていた。本物の木材、本物の布、本物のガラスが使われている。ミニチュアとは思えない高級感があった。
「中を見てみて」
岡崎は恐る恐るドールハウスに入った。一階にはリビング、ダイニング、キッチン。二階には寝室、書斎、浴室。三階にはなんとテラスまであった。すべての部屋に家具が備え付けられており、電気も水道も機能していた。
「どう?」
神崎の声が聞こえた。彼女は床に膝をついて、ドールハウスを覗き込んでいた。
「…すごいです」
岡崎は正直に答えた。確かに豪華だった。しかし、それでも「檻」には変わりない。
「良かった。私、こういうの集めるの好きなの。でも、本物の小さな人間が住むのは初めてだから、楽しみにしていたの」
神崎の言葉に、岡崎は不安を覚えた。彼女にとって自分は「コレクション」の一部なのか?
「お腹すいたでしょう?夕食にしましょう」
神崎は立ち上がり、キッチンに向かった。しばらくして戻ってきた彼女は、小さな食器セットをドールハウスのダイニングテーブルに置いた。
「特殊食だけど、味は普通の食事と変わらないように作られているわ」
岡崎は恐る恐る食べ始めた。確かに味は悪くなかった。むしろ、研究所の食事よりも美味しく感じられた。
「私も食事するわ。一緒に食べましょう」
神崎は自分の食事をコーヒーテーブルに置き、ドールハウスの前に座った。巨人と小人の奇妙な食事が始まった。
「あなたのことをもっと知りたいわ」
神崎は言った。
「大学院生だったのよね?何を研究していたの?」
岡崎は躊躇したが、会話を拒否する理由もなかった。
「分子生物学です。特にDNA修復メカニズムについて研究していました」
「興味深いわ。なぜネオライフの実験に参加したの?」
「…お金が必要だったんです。研究費が足りなくて」
神崎は同情するように頷いた。
「研究者は大変ね。でも、あなたの選択が私にとっては幸運だったわ」
彼女は微笑んだ。その笑顔には何か不気味なものがあった。
「これからあなたには、私の特別なペットとして生活してもらうわ。もちろん、虐待したりはしないから安心して。むしろ、大切にするわ」
岡崎は黙って食事を続けた。状況を受け入れるしかないのか?それとも抵抗すべきなのか?
「明日から私の会社に連れていくわ。社長室であなたを飼うの。きっと周りは驚くでしょうね」
神崎は楽しそうに言った。
「会社…ですか?」
「ええ、私は投資会社の社長よ。忙しいから、家に一人で置いておくよりも、一緒にいた方がいいでしょう?」
岡崎は複雑な気持ちになった。確かに一人でドールハウスに閉じ込められるよりは、外の世界を見られる方がましかもしれない。しかし、「展示物」として会社に連れて行かれるのは屈辱的だった。
食事が終わると、神崎は立ち上がった。
「私はシャワーを浴びてくるわ。あなたも休んでいいわよ」
彼女は去っていった。岡崎はドールハウスの中を探索した。確かに豪華だが、やはり「檻」には変わりない。窓は開くが、高さ的に飛び降りるのは危険だ。ドアも開くが、そこから逃げても、この巨大な世界でどこへ行けばいいのか?
岡崎は二階の寝室に上がり、ベッドに横たわった。柔らかいシーツとマットレスが体を包む。少なくとも物理的な快適さは保証されているようだ。
しばらくして、シャワーを終えた神崎が戻ってきた。彼女はバスローブ姿でドールハウスを覗き込んだ。
「もう寝るの?まだ話したいことがあるのに」
彼女の声に、岡崎は起き上がった。
「何でしょうか?」
「こっちに来て」
神崎は手のひらを差し出した。岡崎は躊躇したが、従った。彼女の手のひらに乗ると、神崎は彼を持ち上げ、自分の顔の前に持ってきた。
「あなたは本当に興味深いわ」
彼女の息が岡崎に吹きかかる。甘い香りがした。
「小さいけど、完全な人間。知性も感情もある。でも、私の所有物」
神崎の目が危険な光を放った。
「これからどんな関係になるか、楽しみね」
その言葉に、岡崎は背筋に冷たいものを感じた。この女性は単なる「ペット」以上のものを求めているのではないか?
「明日は早いから、今日はここまでにしておくわ」
神崎は岡崎をドールハウスに戻した。
「おやすみなさい、私の小さな龍一」
彼女は微笑み、部屋の電気を消した。暗闇の中、岡崎は自分の運命について考え続けた。