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※このお話は以下の要素を含みます

 TSF 憑依 精神同居



 とあるネット通販サイトで手に入れた怪しい薬。

 瓶のラベルには「憑依薬」、と書かれていた。

 これを飲めば誰にでも自由に憑依できるらしいが、憑依なんて普通は有り得ない。


 俺は半信半疑ながらも、何だか興味本位でその薬をポチって購入していた。


「えっと何々、この薬を飲めば誰にでも自由に憑依できます。ただし憑依は最大24時間までです。それまでに身体に戻らないと、二度と元に戻れなくなります……か」


 仮に本当に憑依ができたとしても、俺には男としての生活もある。

 女の子のまま戻れないならそれもそれでおいしいかもしれないが、自分の身体を完全に捨てるまでの意思はなかった。

 一時的に女の子になれて、女の子の身体を堪能できればそれで良いんだ。


 時刻は午後3時過ぎ、ちょうど小学生が下校を始める頃の時間だ。

 この憑依薬が本当なのかどうか、実際に飲んで試してみれば分かる事。

 仮に偽物だったとしても、さすがに死ぬ事はないだろう。


 早速、俺は液体状の憑依薬を一気に飲み干してみた。

 すると何だかふわっと身体が軽くなり、まるで身体の中から意識だけが抜けて行く感覚だ。


「この憑依薬はまさか……本物だったのか!?」


 俺はあっと言う間に霊体となり、自由に空中を動き回れるようになった。

 少し上に上がって下を見下ろすと、魂の抜けた自分の身体が横たわっていた。


「何だか寝ているみたいな感じだな。恐らく、元の肉体の方は大丈夫みたいだ」


 霊体になった俺は壁抜けもできる事に気付き、家の壁を抜けて早速外へ飛び出した。



 上空から下校している小学生達を見下ろす。

 さて、どの女の子に憑依しようか……効果は24時間だし、きっと色々な女の子に乗り換えている余裕もあまりないかもしれない。

 お気に入りの子を見つけて、1人に絞るべきだと考えていた。


「ほー、今の子は発育も良いみたいだし、皆可愛い子ばかりだなー」


 少し下の方へ下りて女の子達の近くでそう言っても、霊体の俺の声は届かない。

 女の子達の間近で何でもかんでも言い放題、見放題の状況だ。


「敢えてこのまま霊体で女子小学生ウォッチも悪くないが……でもせっかくの憑依薬だし、誰かに乗り移らないと損だよな」


 俺が品定めを始めると……何だか物静かそうで、凄く清楚そうな可愛い女の子が目に付いた。

 その子は一緒に帰る相手が居ないのか、1人で下校をしていた。


「1人で下校の子か……憑依するには都合が良いかもしれない」


 俺はあの子にターゲットを決めて……勢い良く身体に飛び込んだ。

 すると憑依された子の身体が、一瞬ビクンと波打って……。


「やった、やったぞ……この感覚、俺がさっきの女子小学生だ……成功したんだ。あの憑依薬は本物だったんだ」


 俺はいとも簡単に、女の子の身体を乗っ取る事に成功した。


(あなた……誰?)

(え、頭の中から声が……え、憑依って普通、元の子の意識が無くなるものじゃないの!?)


 どうやら俺が憑依しても、元の子の意識が残っているみたいで……これはまずいかもしれない。

 さすがにそこまで想定外だった俺は……この子から逃げた方が良いのだろうか、と考えていた。


(やばい、意識が残っていたとは……急いで逃げないと)

(あ、待って、逃げなくていい……です。私の身体の中、居てくれていいですから……)

(え、俺、声に出してないのに。俺の考え、分かるの?)

(はい、分かるみたいです……)


 どうやら憑依して俺が身体の主導権を握って、元の子は頭の中で意識だけ存在している。

 いわゆる精神同居、と言う状態になってしまっているようだ。

 その為なのか、この子には頭の中で俺の考えている事が流れてしまうようだ。


(君、怖くないの? 俺、君にとっては何処の誰かも知らない男だよ? それなのに、何で……)

(一緒に居てほしいんです……)


 この子には何かしら訳があるのだろうか……?



 その後この子に家の場所を案内されて、俺は一旦この子のうちに帰った。


「家の中なら声を出しても大丈夫だよね。それにしても君、見た目だけじゃなくて声も可愛いね。何年生?」

(あ、私……小学4年生です)

「へー、4年生なんだ。名前は何て言うの?」

(私……ちょこって言います)

「ちょこちゃん? 何だか変わった名前だね?」

(もしかして俺を警戒して、偽名でも使っているのか……?)

(いえ、偽名じゃないんです……本当にこういう名前なんです)

「あ、頭の中で考えている事、分かっちゃうんだっけ」


 最近は色々な名前を付ける親がいるようだから、こういう名前があってもおかしくないのかな?


(私、誕生日が2月14日のバレンタインデーなんです……。それでちょこ、と名付けられたんです)

「なるほど、そういう事か……」


 どうやらバレンタインの日に生まれたから、ちょこちゃんと言うようだ。


「ちょこちゃん……うん、可愛い名前だね。で、ちょこちゃん。俺、何で君に乗り移ったか知ってる?」

(あ、はい、何となく分かります……私の事、さっきから可愛いって言ってくれますし……)

「俺、君の身体を乗っ取って君に成り済まして、君の身体で変な事とかしようとしてたんだよ?」

(はい……大体分かります)

「なのに居てくれていいって、何で? 普通は意識があるならそんな事、絶対言わないと思うけど」

(もしかして後で何をされるか分からなくて、それが怖くて逆らわないだけとか?)

(いえ、違うんです……)

「あ、考え分かっちゃうんだよね。本当にそう言う訳じゃないの?」

(はい……)

「じゃあどうして……?」


 ちょこちゃんは何だか少し、普通の小学生と雰囲気が違う。

 俺は段々とその事に気付き始めていた。


(実は私……クラスで孤立しているんです)

「え、クラスで孤立? こんな可愛いのに何で?」

(分からないです……気付いたら、いつの間にか1人になっていたんです……)

「姉妹とかは居るの?」

(居ない、です……)

「でもお母さんとかお父さんは居るよね?」

(……一応居るんです。でも、お仕事が忙しくて毎日帰りが遅くて……いつも、私が寝るまでには帰って来ないんです。朝起きると、もう仕事で居なくて……)


 この子はもしかして……クラスでも孤立していて、家に帰っても家族との触れ合いすらなくて。

 完全に人との温もりを断たれているかのような、そのような状況なのだろうか。


(私、ずっと独りぼっちで寂しかったんです……私の身体、何しても構いません……。だから、その代わり私と一緒に居てほしいです……)

「うっ、そう言われちゃうと……逆に何だか申し訳ない、と思ってしまう」


 女の子から事情を聞かされて、俺はこの子の身体を堪能しようとする気もなくなっていた。

 それよりもこの子がこんな事情ならば……何だか可哀想に思えてしまって。


「俺、何処の誰かも分からない男なんだよ? そんな俺でも構わないの?」

(誰だって良かったんです。一緒に居られるならば……)


 この子は本当に温もりに飢えていたようで、何処の誰でも良かったと言っている程。

 この子からとって俺は全くの赤の他人で、その上知らない男だ。

 それにも関わらず、そんな俺でもいいから一緒に居てくれと言いだして。


「この身体に悪戯しようとして乗り移ったんだけど……気が変わった。とても悪戯する気なんか起きないや」

(え、じゃあ……帰っちゃうの?)

「いーや、俺は帰らない。俺なんかでもいいならば、ちょこちゃんと一緒に居てあげるよ」

(え、本当に……ですか?)

「うん。でもちょこちゃん、今は頭の中で意識だけになっちゃってるみたいだけど。こんな状態でもいいの?」

(それでもいいです……話し相手ができるだけでも嬉しいんです)


 これ程まで寂しい思いをしていたちょこちゃん……俺はそんなちょこちゃんの事を、何だか放っておけなかった。



「ちょこちゃん、本当にいいの?」

(はい、仕方ないですから……)


 おしっこをしたくなってしまった俺は、トイレへ入っていた。

 ちょこちゃんの意識があると分かっていると、逆にパンツを脱ぐのも申し訳ないと思ってしまう。

 本当はちょこちゃんの身体で、もっともっと凄い事をやる予定だったけれど……。


「じゃあおしっこ、出すよ?」

(はい……大丈夫です)


 俺はちょこちゃんに確認して、用を足した。

 初めて経験した女の子のおしっこの感覚は、男の時の比にはならないものだった。


(あの……私の身体、本当に弄っていいんですよ? 一緒に居てくれるんですから)

「いや、いいよ。俺、そんな事する気にならなくなっちゃったから」


 それに正直な所、ちょこちゃんの事情を知ったのを抜きにしても、彼女の意識がそのままあるのでは遣りづらい。

 ちょこちゃんがもっと恐怖に怯えて抵抗したり、足掻いてくれるような、そういう感じだったら俺の興奮も掻き立てられたかもしれないけれど。

 自らやってもいいと言われてしまうと、逆に申し訳ないとしか思えなくなってしまう。


(私の身体、そんなに魅力ないですか……?)

「いや、違うんだよ。ちょこちゃんの事情を聞いちゃって、本当に申し訳ないと思って」

(そうですか……私、意識の無い振りをしていた方が、良かったですか?)

「いや、いいんだよ。ちょこちゃんは何も悪くないじゃないか。それに俺、ちょこちゃんとお話できて嬉しいよ」

(え、私なんかでも嬉しいんですか……?)

「俺、もうすぐで社会人になるくらいの男だからさ。女子小学生との干渉なんて一切ない訳よ。だからその、こうやって女子小学生と話せるだけでも嬉しい」

(嬉しいだなんて……うぅっ、ありがたいです)


 こんなご時世だから、面と向かって女子小学生に話し掛けるだなんて事はできない。

 でも意外と話してみると、結構女子小学生でも素直にお話してくれるものなのかな。

 それともちょこちゃんがこういう状況だから、特別なだけなのかな?



「ちょこちゃん、夜ご飯ってどうしてるの?」


 辺りは暗くなり、そろそろお腹が空いてきた。


(あ、いつも私が作ってるんです……)

「え、ちょこちゃん、1人で作ってるの? まだ小学4年生なのに!?」


 今の小学生って凄いんだな……ハイスペックじゃないか。


(はい、お世辞にも上手いとは言えないですけど……)

「ご飯どうしよっか。今は俺がちょこちゃんだから、俺が作るしかないかな。一旦身体から抜けたら、また戻れるか分からないし」

(そうですね……私が色々教えますから、お願いできますか?)


 と言う訳で料理なんて全くやった事ない俺だけど、ちょこちゃんに教えてもらって、頑張ってご飯を作ってみたのだが……。


「ねえ、ちょこちゃん。これ、美味しそうに見える?」

(…………え、えっと)


 さすがのちょこちゃんでも、ノーコメントのようで。

 女の子の身体になってしまっても、男の俺が入っているのだから不器用さはどうにもならないようで。

 テーブルの上には、凄く不味そうな料理が並んでいた……。


「ちょこちゃん、俺がお金どうにかするから出前でも取った方が」

(あ、いいんです。せっかく頑張って作ってもらったのに……食べないなんて勿体無いです)

「でも、もしこれでちょこちゃんの身体を壊しちゃったら……」


 何よりも俺はちょこちゃん自身の身体が心配だった。


(大丈夫です、一生懸命作ったんですよね……まずいとしても、身体を壊す程ではないって信じてます)

「で、でもね……う、うん、分かった。とりあえず食べてみるよ」


 俺への気配りもあるのかもしれないけれど、ちょこちゃんの気持ちを尊重する事にして。

 試しに作った料理を一口食べてみた。


「うん、まずい。ちょこちゃんは味、伝わってる?」

(あ、はい……確かに、お世辞にも美味しいとは言えないですが……でも、食べられない程じゃないですよ)

「ごめんね、俺が不器用なせいで」

(いいんです、一生懸命頑張ってくれたじゃないですか。それだけで嬉しいんです……味なんてどうでもいいんです)


 ちょこちゃん、この子凄く良い子じゃないか……。

 こんな子が独りぼっちで寂しい思いをしているだなんて、本当に可哀想だ。

 できればちょこちゃんの側に寄り添っていてあげたい。


 でも明日の日中3時頃までには……俺は元の身体に戻らなくちゃならない。



 そして次の日の事……。


「ちょこちゃん、昨日はごめんね。お風呂でちょこちゃんの身体、ある程度見ちゃって」

(いいんです、一緒に居てもらっているのですから)

「今日も学校だよね?」

(あ、はい……)

「じゃあ準備しよっか。着替えのしまってある場所とか、教えてもらえるかな?」

(あ、えーとですね、まず私服がここのタンスでして……)


 俺はちょこちゃんに色々聞いて、朝の準備を進めていった。

 朝ご飯はちょこちゃんのお母さんが用意してくれているようで、昨日みたいな悲惨な思いをせずに助かった……。


「髪の毛、これで大丈夫?」

(あ、はい、バッチリです……)

「女の子って大変なんだね。普通に可愛く見える小学生でも、朝の準備でおしゃれに時間を掛けてるんだ……」


 髪をしっかりと解かしたり、髪の毛を束ねてゴムで縛ったり、髪飾りを着けたり。

 女の子の立場に立ってみて、女の子の大変さが良く分かった。


「こうやって、天使が出来上がっていくんだね」

(て、天使ですか……えっと、私が、ですか?)

「ちょこちゃん、鏡で自分を良く見てごらん? ほら、凄く可愛いじゃないか。まるでこの世に舞い降りた天使だよ」

(私が……天使?)


 ちょこちゃんは凄く可愛い容姿で、大人しそうで清楚な感じで、本当に天使そのものだった。


「ねえちょこちゃん、もっと自信持ちなよ。ちょこちゃん、こんなに可愛いんだもん。絶対友達も作れるよ」

(でも、私なんて……今まで、ずっと孤立してましたから……)

「でも友達作っておかないと、これからもずっとつまらないと思うよ?」

(いいんです……私、この状態でもあなたと一緒に居られるならば)

「……実は俺さ、今日にはもう帰らないといけないんだ」

(……え? 帰っちゃうん……ですか?)

「ちょこちゃんを乗っ取る能力が24時間までのようで、午後3時頃には元の身体に戻らなくちゃなんだ。ちょこちゃんの事情を知って、言いづらかったけれど……」

(そんな……帰っちゃうって本当に、ですか?)

「一応ね、ずっとちょこちゃんで居る事もできるんだ。でもそうすれば俺はもう、元の身体には戻れない。それにちょこちゃんだって、ずっとこのままの状態になっちゃう」

(私は…………)


 ちょこちゃんは少しの間、考えていたようだけれど……。


(あなたと一緒に居られるならば、もういっそずっとこのままでも……私の身体、あげたっていいので……)

「ちょこちゃんは、本当にそれでいいの? もう二度と、自由に身体を動かせないんだよ?」

(でも……私なんて、どうせ普通の生活をしてても、ずっと寂しいままですし……)

「俺もさ、男としての生活があるんだ。1日だけ女の子の身体になれれば良かった、その程度だったんだ。だからね、ずっとちょこちゃんで居る訳にもいかない。それに、ちょこちゃんを永遠に乗っ取るつもりもないんだ」

(でも私、あなたが居なくなったらどうすれば……)

「ちょこちゃん、自信を持って? ちょこちゃんだったらきっと、お友達だって作れるよ」

(……無理です、今までずっと孤立してたのだから)

「じゃあ何でちょこちゃん、俺とはこんなにお話できるようになったの?」

(え、それは……そう言われてみれば確かにそうですけど。でもそれは、あなたの方から来てくれたから……)

「じゃあ逆だったら? ちょこちゃんの方から皆に歩み寄ったら、どうなるかな?」

(え、えっと……)


 ちょこちゃんに自信を付けさせないと……彼女は一生寂しいままかもしれない。

 ならばここは、俺がちょこちゃんの為に……。


「ねえちょこちゃん、一応3時くらいまでは時間あるからさ。今日は学校で1日、俺がちょこちゃんとして振る舞うよ。それで今日中に、ちょこちゃんに友達を作ってあげる。だから安心して」

(え、でもそんなの無理です。そうされてもその後、私どうすれば……)

「大丈夫だよ。俺ともこんなにお話できるようになったんだ。その後は、普通に仲良くすればいいんだよ」

(で、でも……)

「さあ学校行こっか。昨日の帰り道は覚えてるから、場所は分かるからね」

(あ、はい……)


 今日は俺がちょこちゃんとして振る舞うと決めて、赤いランドセルを背負って学校へ向かった。



(ちょこちゃんは何組だい?)

(あ、4年3組です……)

(4年3組だね、分かった。席は?)

(1番左の後ろで、教室の隅っこです……)

(隅っこか……うん)


 学校へ着くと、俺はちょこちゃんに成り切って教室へ入って行った。


「皆、おっはよー!」

(わっ、私こんな明るい子じゃないです……)


 ちょこちゃんが挨拶すると、最初はシーンとしていたが……。


「ちょこちゃん、おはよ」

「どうしたのちょこちゃん。今日はやけに元気そうだね?」

「おはよー」

「うん、皆おはよ!」

(わわっ、皆が挨拶してくれてる……)

(別にちょこちゃん、孤立してるだけで虐められてる訳じゃないんだよね?)

(あ、はい……虐められては、いないです)

(ならばこの調子で大丈夫だな)


 俺はちょこちゃんの席へランドセルを引っ掛けると、近くで話をしていた女子達の所へ向かった。


「ねーねー、何のお話してるのー? 良ければ私も入れてー」

「え、ちょこちゃん? うん、いいよ」

「ちょこちゃんは今人気のあのドラマ、知ってる?」

「あのドラマ? うん、私、大好きだよ!」

(ドラマは知らないけど、とりあえずお話を合わせておけばね)

(嘘っ、私が皆の中に溶け込めている……こんな事、絶対に有り得ないのに)

(何で決め付けちゃうの? ちょこちゃんにだって、できる筈だよ)

(でも、私……)

(大丈夫、ちょこちゃんならば絶対できるさ)


 その後の俺は先生が教室に来るまでの間、色々な女の子に声を掛けて回った。


 そして休憩時間の時にも。


「ねえねえ、一緒におトイレ行こうよ!」

「ちょこちゃん、うん、いいよ。行こっか」

「あ、じゃああたしも一緒に行くー」

「私もー」

(何だ、ちょこちゃん、大丈夫そうじゃないか)


 ちょこちゃんは可愛いから、嫉妬されて仲間外れにされているとか、そういう可能性も考えたが……。

 どうやらそうではなく、只ちょこちゃんが皆と干渉しないうちに孤立していただけのようだ。


(私、皆の輪の中に居るんだ……)


 そして体育の時間も。


「ちょこちゃん、一緒に着替えよー」

「うん、いいよ!」

(何だ、きちんと誘ってくれる子が居るじゃないか)


 どうやらちょこちゃんは、もうすっかりとクラスに溶け込めていたようだ。


「今日のちょこちゃん、明るいね。急にどうしたんだろう」

「でも良かったよ。いつもちょこちゃん大人しいから、話し掛けて良いのか戸惑っちゃって」

「あたし、1度ちょこちゃんと色々お話してみたかったんだー」

(ちょこちゃん、聞いたよね? 皆、ちょこちゃんの事を気にしてたみたいだよ)

(うぅっ……ありがとうございます。本当にありがとうございます……)

(いいよいいよ、お礼なんて。後はちょこちゃんが自信を持てれば、それで大丈夫)

(……はい! 私、自信持てそうです)


 ちょこちゃんは何だか自信を付けてくれそうで、俺も一安心していた。

 ちょこちゃんとして振る舞って、頑張ってみた甲斐があったかな?



 女子小学生としての楽しい小学校ライフはあっと言う間に過ぎ……そして帰りのホームルーム。


(ねえ、ちょこちゃん……俺、そろそろ帰らないと)

(え、で、でも……)

(ちょこちゃん、君はもう1人じゃない。そうでしょ?)

(そうですけど……でも私、やっぱりあなたが居ないと寂しい)

(大丈夫だって。心配しないで? ちょこちゃんなら、これからはきっと上手くやって行けるさ)

(でも私、あなたの事が……あなたの事が! その、す、好きになっちゃったみたいで……ずっと寄り添っていてほしくて……)

(……うん、嬉しいよ。ありがとう。でも俺、もう行かないと。ちょこちゃんと出会えて良かったよ)

(そ、そんな……待って、後少しだけでも)

(ちょこちゃん、ばいばい。自信を持って、しっかりとね。もう1人じゃないから。ね?)

(待って! せめて名前だけでも……!)


 最後のちょこちゃんの言葉を遮って……俺はちょこちゃんの身体から抜け出した。


 一瞬ちょこちゃんの身体がビクンとした後、ちょこちゃんは身体の自由が戻ったようで……上から見ると、ちょこちゃんは涙を零していた。

 俺自身も少し辛いけれど……でも、いつまでも俺が一緒に居る訳にはいかないんだ。

 ちょこちゃんはもう1人じゃないんだもの、だからきっと彼女は大丈夫。


 うん、絶対に大丈夫。ちょこちゃんと一緒に居た俺ならば、そう信じ切れる。



 それから3年程経ち、俺は大学を卒業して学校教師に就任した。

 元々勉強ができて成績も良く、小さい頃から教師になりたいと思っていた。

 ただある程度大きくなると……女子生徒と戯れられるから、と言う不純な動機も混ざってくるようにはなったけれど。


 しかし念願の教師の夢を叶える事ができたんだ。

 子供からずっと憧れてた教師、小さい頃先生に優しくしてもらった事があって、こんな大人になりたいと思っていた。

 今度は俺が教師として、生徒達に色々と教えてあげる番だ。


 最初の年は、地元の中学1年生を受け持つ事になった。

 入学式などが一通り終わった後、俺は少し緊張しながら新入生の待機する1年2組の教室へ向かう。

 そして教室へ入り……緊張を抑えて、新入生達に担任の挨拶をした。


「と言う訳で今日から1年間、宜しくね。分からない事があったら、何でも先生に聞いて良いからね」


 そしてその後、生徒達の名簿を見て出席点呼を取る。

 しかし点呼を取っていると……俺はとんでもない事に気付いてしまった。



 中学校初日が終わって、皆が帰った後の放課後の教室。

 クラスの後片付けをしていた俺の元に、1人の女子生徒が寄って来た。


「先生! まさか……まさかこんな所で再会できるだなんて、思いませんでした!」

「やっぱり、ちょこちゃんだったんだ。随分と成長したね。それに雰囲気も変わったし、とても明るくなったみたいだね」

「はい! 先生のおかげです! 先生には……本当に感謝してます!」


 俺の受け持つクラスには、何と新入生としてあの時の女の子、ちょこちゃんの姿があったのだ。

 俺自身もまさかこんな所で再会できるだなんて思わず、生徒名簿で気付いた時には本当に驚いてしまった。


「ちょこちゃん、ずっとちょこちゃんの事が心配だったんだ。あれから大丈夫かな、上手くやってるかなって」

「先生の事を考えて……泣いちゃった日もありました。でも、私はもう1人じゃないから……明るくなれたし、お友達も沢山できたんです! 家に遊びに来てくれる子もできて、もう夜も寂しくなくなりました」

「そっか、それは良かった……ところでちょこちゃん。あの時、俺の事が好きって……」

「えー、私そんな事言ったかなー?」

「え、言ったよね!?」

「……さあね?」

「確かにそう聞いたと思ったんだけど……」

「あはは、先生ー冗談だよ! 私、確かに言いましたー。でも、今は先生と生徒になっちゃったんだもの。そういう話、学校側にバレたら色々まずいでしょ?」

「た、確かにそうだね……」

「だから、私が結婚できる年齢になったら……その時は」

「え、ちょこちゃん、まだ俺の事を好きでいてくれるの?」

「だって、私が今こうして変われたのは、先生のおかげだから……1日だけの思い出だけど、私にとっては一生掛け替えのない思い出だもん!」

「ちょこちゃん……俺も、ちょこちゃんの事が大好き。ちょこちゃんに出会えて本当に嬉しいよ」

「先生……これからも宜しくね!」


 放課後の教室……俺とちょこちゃんは、お互いの唇を重ねていた。

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