ゴミスキル『穴侵入(ホール・イン)』による災難1 (Pixiv Fanbox)
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こんにちは。
いつも読んでくださり、ありがとうございます。
今回は穴に入ってしまうというゴミスキルを得た主人公が、色々弄ばれてしまうお話になります。
16000字程度になります。
これもプロット的に長くなりそうですが、気長にお付き合い頂けたら嬉しいです。
引き続き宜しくお願いします。
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この世界において、教会から授けられるスキルは、まさにその後の人生を決定づけるといってもいいものだった。
15歳になる誕生月の月末、まだスキルを持たない子供たちが各地の教会へ集められる。
そこで明かされるスキルによって、将来の殆どが決まってしまうのだ。
当然、強力なスキルを得た者には輝かしい未来が待っており、スキル次第では平民であっても、一夜にして貴族へと取り立てられることすらある。
そのため、能力の隠蔽や詐称を防ぐ目的で、授かったスキル名やその効果は、たとえそれが致命的な欠陥やデメリットであっても、その場で神官の手によって包み隠さず公開される決まりとなっていた。
学園内にある教会の広場。
月末である今日、そこでは貴族を中心に、スキル授与を控えた子供たちとその親がひしめき合い、独特の緊張感に包まれていた。
その時、広場の入口が俄かに騒がしくなった。
誰が見ても一目で位の高い貴族とわかる集団が、威風堂々とした立ち振る舞いで広場を割って入ってきたのだ。
「おい、あれ……アルカディア公爵家じゃないか?」
「あぁ…..あ、そうか。長男が今月で15歳なのか。ユウト・アルカディアだな。学園での座学も剣術もずっと学年トップなんだろ?で、おまけにあの容姿だ……」
「ああ。今月のスキル授与式は、間違いなく彼が本命だな。きっと、王国史に名を残すような凄いスキルが出るぞ……..」
すれ違う人々が自然と道を空け、同じ誕生月で授与を受ける同級生たちからは、憧れと羨望の入り混じった視線が向けられる。
(……みんな、期待してくれている)
自分に向けられる無数の視線を真っ直ぐに受け止めながら、俺——ユウト・アルカディアは背筋をすっと伸ばし、公爵家の跡取りとして、堂々とした態度で歩みを進めた。
同行していた父——アルカディア公爵が途中で足を止め、威厳に満ちた強い眼差しで俺の肩に手を置く。
「ユウト。我がアルカディア家の威信と誇りを示す時だ。私と母はここで待っている。……大いに期待しているぞ」
父からの信頼を寄せる言葉に、俺は力強く頷いた。
「はい、お父様。必ずや、アルカディア家の名に恥じぬスキルをお見せいたします」
周囲の誰もがユウトの明るい未来を疑わず、そして俺自身もまた、今まで積み重ねてきた血のにじむような努力に見合う最高のスキルが与えられるのだと、当然のように信じていた。
「【剛力】! 力が大幅に強化されるスキルです。」
神官の朗らかな声が広場に響くと、授与を終えた少年が「やったー! 騎士になれるぞ!」とガッツポーズを決め、側に控えていた家族が歓声を上げた。
だが、そのすぐ隣では別の神官が、少女の頭上に浮かんだ文字を見て言いにくそうに口を開く。
「……【微光】。指先をかすかに光らせるスキルですね……」
それを聞いた少女は崩れ落ち、周囲からは冷ややかな視線が向けられた。
次々と一喜一憂し、去っていく子供たち。
俺は順番が近づくにつれ高鳴る鼓動を抑えるように、そっと自らの胸に手を当てる。
(次は俺か……..大丈夫だ……。俺は今日まで、アルカディア家の名に恥じぬよう誰よりも努力を重ねてきた。神様も見てくださってたはず。公爵家の跡取りとして、最高のスキルが授けられるはずだ)
そう自分に強く言い聞かせ、心を落ち着かせる。
そしてついに俺の名が呼ばれ、広場中央にある祭壇へと足を進める。
「では、祈りを」
神官が両手を俺にかざすと、眩い光とともに、俺の頭上にくっきりと文字が浮かび上がった。
「え……」
しかし神官は光の中に浮かぶ文字を読み取ると、言葉を詰まらせた。
「……神官様……? あの、俺のスキルは……?」
神官の不自然な反応に、俺は思わず問いかけた。
そんなにすごいスキルなのかと広場にいた誰もが固唾をのみ、期待に胸を膨らませて、神官の次の言葉を待つ。
すると彼は動揺を隠しきれない声で、戸惑いながらもその文字を読み上げた。
「……【穴侵入(ホール・イン)】……穴状の空間であれば、自らの身体を縮小させて内部に侵入することができるスキルです……」
(え……穴侵入……? なんだ、そのスキル……?)
凡そ自分に相応しくなさそうなスキルに、俺の思考はフリーズした。
攻撃魔法でもなければ、希少なバフ系のスキルでもない。
身体を縮小して、穴に入る? 一体どういうことだ……?
周囲の期待に満ちていた空気も、神官の言葉を聞き一瞬で不気味な静寂へと塗り替えられた。
「穴侵入(ホール・イン)……? 聞いたことないぞ……」
「いや、アルカディア家の天才だろ? 何か特別なスキルなんじゃないのか……?」
人々は困惑し、ざわざわと囁き合っている。
そこにいる誰もが、簡単な説明だけでは効果を測りかねているようだった。
しかし次第に神官から戸惑いの表情が消え、痛々しいものを見るような、哀れみの色が広がっていく。
「……なお、このスキルの詳細ですが……自身の意思で扱うことはできません。穴を持つ所有者にその穴の開口部を向けられ、『入れ』と命令されると、強制的にその穴の中へ入るサイズまで縮み、吸い込まれてしまいます。また、命令を下した所有者が『戻れ』と宣言しない限り、例えその穴から出られたとしても、元の大きさに戻ることはできません……」
規則に従い読み上げた神官から、同情するような視線が俺へと向けられた。
(……..は?)
神官の口から出た言葉の意味を、すぐには理解できなかった。
頭の中が真っ白になり、全身の血がスーッと引いていく。
「…….なんだそれ…..つっかえねー」
沈黙を破り、ぽつりと漏れ出た誰かのその一言を皮切りに、静まり返っていた広場にクスクス……と忍び笑いが漏れ始めた。
そしてそれは瞬く間に伝染し、広場全体を包む嘲笑へと変わっていった。
周囲を満たしていた眩いばかりの羨望の眼差しは、一瞬にして哀れみと蔑みに変わっていく。
「えぇ〜……穴に入るだけって……きっつ」
「他人に命じられないと発動すらしないとか……ただのゴミスキルじゃないか……」
「へぇ〜、優秀な子と思ってたけど……神様はお見通しなのかねぇ」
突き刺さる容赦のない言葉と侮蔑の視線に耐えきれず、俺はたまらず後ろで待っている父親の方へと視線を向けた。
「お父、様……」
しかし、助けを求めるようにすがった視線の先にいた父は、期待に満ちていた顔を蒼白に変え、呆然と俺を見つめていた。
その表情は怒りと、それ以上に失望しているように見えた。
俺はあまりのショックに、祭壇の前でただ呆然と立ち尽くす。
それを見かねた神官が、気まずそうに、おそるおそる声をかける。
「あ、あの……お辛いでしょうが、私は世の中に無駄なスキルなど存在しないと思っています….それに、この場では判別しきれない、隠れた効果もあるようです。どのような力も、使い道によっては……その、きっと……」
必死で俺を励まそうとしてくれる神官の言葉も、未だ聞こえる嘲笑の声と、失望した表情の父の前では、俺の心には何ひとつ響かなかった。
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「——ふざけるな!こんなゴミスキルを持つ者が、我がアルカディア公爵家の血を引いているなど、末代までの恥だ!」
教会から帰宅したその日のうちに、俺は父に呼び出され、怒りとともに冷酷な言葉を突き付けられた。
「お、お父様! 確かに……確かに今回のスキルは、思っていたものとは違いました。ですが、俺は今まで、アルカディア家の名に恥じぬよう必死に努力を重ねてきました! 学園の成績も、剣技も、一番を取り続けてきたんです!」
必死に訴えかける俺に対し、しかし父は眉ひとつ動かさず、吐き捨てるように言い放った。
「黙れ! スキルこそが、神の与えた絶対の真実なのだ! お前のこれまでの努力など、その無能なスキルの前には何の意味も持たん! 努力でスキルの差が埋まると思うか!?」
「そんな……お父様……」
「問答無用! 本日をもってお前を勘当し、我が家から追放とする。学園には既に学費を払ってあるから退学にはしないでやるが、今後は二度とアルカディアの性を名乗るな! 今すぐこの家から出ていけ!!」
「……はい……わかりました…..」
……確かに、使い道のないゴミスキルだった。
だがそれでも家族だけは、今まで努力してきた俺自身を見て味方でいてくれると、どこかで信じていた。
しかし、父の怒声が響く中、傍らに立っていた母も、そして仲の良かった妹や弟すらも、まるで汚物を見るような目で俺を蔑むだけだった。
家を追い出され、そのまま学園の敷地内にある古い寄宿舎へと放り込まれた俺は、部屋で一人、膝を抱えて涙を流した。
(どうして……どうして俺がこんな目に……っ!今までの努力は、俺の人生は、全部無駄だったっていうのか……っ!?)
悔しさと、あまりの理不尽さに胸が張り裂けそうだった。
しかも教会でスキルが公開された以上、俺のゴミスキルはすでに学園全体へ知れ渡っているはずだ。
俺は明日の学園生活を憂鬱に思いながら、簡素なベッドの上で眠りにつくのだった。
ーーーそして、スキル授与の翌日。昼休み。
今までなら食堂で大勢の生徒に囲まれて賑やかに過ごしていたが、午前の授業中に刺さる冷ややかな視線に耐えかね、俺は人気のない学園内校舎裏の物陰へ身を潜め、静かに時間が過ぎるのを待っていた。
「あれぇー?そこに隠れているのは、今話題のユウト・アルカディアくんじゃない?」
その声に思わず、肩を跳ねさせ振り返る。
そこに立っていたのは、一人の少女だった。
いたずらっぽく人差し指を自らの唇にあて、俺の反応を楽しんでいる。
同じクラスの侯爵家令嬢、ミカ・グランツ。
緩くウェーブのかかった茶髪を肩に流した可憐な美少女だが、その整った顔立ちには勝気で挑発的な笑みが浮かんでいた。
彼女の実家であるグランツ侯爵家はスキル至上主義を掲げる筆頭貴族であり、先月スキル授与を受けたミカ自身も、その名に違わぬ強力なスキルを得たと誇らしげに語っていた。
だが、彼女は入学以来、座学でも実技でも常に俺の後塵を拝し、万年2位に甘んじていたのだ。
それゆえに、俺に対して普段から、並々ならぬ対抗心を燃やしているようだった。
「ミカ……それにリコまで、何の用だ?」
俺は警戒を強め、不快感を露わにしながら問いかけた。
ミカの隣には、いつも彼女の傍らに寄り添っている同級生、リコ・シルフィードの姿もあった。
腰まで届く艶やかな黒髪ロングをさらりと揺らすリコは、一見するとお淑やかで誰もが見惚れるほどの美貌の持ち主だが、性格は非常に冷淡だと以前友人から聞いたことがある。
彼女の実家であるシルフィード子爵家は、グランツ侯爵家の領地と隣接しており、二人は幼い頃から家族ぐるみで親交が深いようだった。
リコはミカの後ろから、物珍しそうな目でじっと俺を見ていた。
「何の用だって?くっくっ。今、どんな気持ちなのか聞きたくてさぁー。聞いたよぉ?まさかアンタが、あんな救いようのないゴミスキルを授かっちゃうなんてねぇ〜?」
ミカはクスクスと笑みを浮かべながら、手に持っていた紙パックへと視線を落とした。
彼女がよく好んで飲んでいる、イチゴオレの紙パックだ。
飲みかけのそのパックには、半透明のプラスチック製のストローが、噛み跡付きで突き刺さったままになっている。
ミカは指先でストローを捏ね、筒状の形に戻すと、徐に開口部を俺の顔へ向けて、真っ直ぐに突き出してきた。
「な、なんだよ……? 急にストローなんて向けてきて、一体何の真似だ?飲めってか?」
ストローを突きつけられた意味が分からず、嫌な予感に一歩後ずさる。
そんな俺を見て、ミカはニヤニヤと笑みを浮かべたまま、サッと距離を詰めてきた。
「ばーか。何言ってんの?アンタのその『穴侵入(ホール・イン)』ってスキル、穴を向けられて命令されたら、どんな狭い場所でも自分の意思に関係なく勝手に吸い込まれちゃうんだって? ……本当かどうか、ちょっと試してみていい?(笑)」
「は……!? おい、ふざけるな、やめろ…..っ! 」
嫌な予感が的中し、俺が叫びながら逃げ出そうとした、その時だった。
「じゃあいくよぉ? ……『入れ』!」
ミカが命令を下した瞬間、身体の自由が唐突に奪われ、足が地面から離れ宙に浮き出した。
「あ、がっ……!? な、なんだこれ……!身体が勝手に……!」
すると俺の視界はぐにゃりと歪み、身体全体に重力が増したかのように、全方位から圧縮されていく。
「ぐっ…….から、だが……!」
抵抗する暇など、一瞬もなかった。
そのまま抗う余地もなく全身が縮んでいく感覚と同時に、身体が強烈な追い風を受けているかのように、ミカのいる方に飛ばされていく。
そしてそのまま俺は猛烈な勢いで、ミカの向けるストローの細いプラスチックの穴へと吸い込まれていった。
——しゅぽっ!
小気味良い音と共に、俺の身体はストローの狭い空間を通り、そのまま中にぴったりとハマってしまった。
「…….う……..くそ………何が…...」
俺はあっという間に、半透明な円柱状の硬い壁に四方八方を覆われて、身動き一つ取れなくなっていた。
一方ミカとリコは、ミカの命令の後すぐに一人の人間がどんどん縮んでいき、最後にはストローの中に吸い込まれてしまったユウトを見て、思わず目を見開いた。
「うっそ!? ホントに入っちゃったんだけど! !」
「くく…..すごいな、このストローの黒い部分か?」
外からミカの興奮した声と、リコの可笑しそうな笑い声が響いてくる。
ストローの半透明の壁越しに、巨大なミカとリコが面白がるように顔を近づけているのが見えた。
(ひっ…….ほ、ほんとに俺…..あのストローの中に?)
「やば、マジで中にいる(笑)。このイチゴオレ、まだ中身入ってたんだけど。ま、別に関係ないかー。」
ミカはそう言って小悪魔のようにニシシと笑うと、紙パックに突き刺さったままのストローの端を、その健康的な桜色の唇でパクッと咥えた。
ちゅーっ……!
そしてすぐにミカが勢いよくストローを吸い上げると、俺の身体は激しく引きずり込まれていく。
(ぐ!か、身体が……吸い上げられるっ……!! まずい、このままじゃ口の中に入っちまう……っ!!)
俺はパニックになりながらも、今まで鍛えてきた身体で円筒の壁に両手と両足を広げ、ストローの内壁に突っ張ろうとする。
だが——
ズズズ……ッ!
(ぐ、あぁぁッ……ダメだ……ッ! 吸引力が、強すぎる……ッ!!)
俺が日頃から鍛えてきた肉体など、この圧倒的なサイズ差のミカの吸引の前には何の役にも立たなかった。
ちゅぽっ!
そして抵抗も空しく、俺はミカの口の中へ吸い出されてしまった。
ちゅーっ……
ついでとばかりに、ミカはパックの中に残っていたイチゴオレも一気に吸い上げていく。
(……….!…….ごぼっ…..これじゃ…..どっちが前か後かも……)
ミカの口の中は、吸い上げられたイチゴオレの甘ったるい液体で一気に満たされた。
俺は上下の感覚すら失い、ねっとりとした甘い液体の濁流の中で、息もできずに溺れかける。
(ごぼっ……っ! 出せ! ここから出せぇ! 息が、息ができない……っ!!)
「ん〜♪」
ミカがイチゴオレの甘さに唇をわずかに緩めるも、即座に口内の底からうねり上がってきたのは、巨大な肉の塊——分厚いミカの舌だった。
(ぐ、あああッ……ッ!)
味わうように動く巨大な舌に翻弄され、俺は彼女の口の中でイチゴオレの海の中を彷徨う。
そして舌の思うがまま暫く口内を漂った後、俺は上顎へと押し付けられた。
「ぐ……っ、う、動け……ねぇ……っ!」
ずっしりと重い舌に押さえ込まれ、指先ひとつ動かすことができない。
——ゴクッ……
その間ミカは喉を大きく鳴らし、俺の周囲を満たしていたイチゴオレと唾液の混ざり汁だけを、器用に一滴残らず飲み干した。
そして舌が引いていき、押し付けからは解放されたものの、俺は全身唾液まみれの満身創痍で、堪らず舌の上に大の字になって倒れ込む。
ミカは楽しそうにクスクスと笑うと、再び舌が大きく動きだして、口内で俺の身体を転がし始めた。
(や、やめろ……っ! もう、限界だ……っ!)
ミカが口の中で俺を飴玉のように転がすたび、イチゴオレの甘ったるい匂いが肺いっぱいに流れ込み、粘度の高い唾液が全身にねっとりと絡みついていく。
「あれー?このイチゴオレ、顆粒入りだったっけー?あはは!ん……口の中で惨めに転がすの、めっちゃ快感!リコもやってみるー?」
ミカは口内に俺を抱えたまま、唇を歪めて楽しげに喋る。
その声の振動と舌の動きが、俺の鼓膜と肉体を激しく打ち揺さぶる。
(ぐ……..くそっ……..)
リコはミカの言葉に、凛とした顔を嫌そうにしかめた。
「いや、無理。ばっちぃし。唾液まみれでしょ? もうミカの自由にしなよ。」
「あはは、それもそっか。ごめんごめん(笑)」
「てかいっそのこと、そのままゴクって飲んじゃえば? 」
(………は?の、飲み込む……っ!?)
リコの言葉に、俺は全身の血が引いていくのを感じた。
飲み込まれたら、その先にあるのは胃袋だ。
そんな場所に落ちてしまえば、強酸の胃液によって肉体が溶かされ、自分という存在が跡形もなく消滅してしまう。
いや、それ以前に酸素もなく、息すらできずに苦しむことになるのではないか。
「ひ……っ、おい、やめろ! そんなの人殺しじゃないか! 頼むから飲み込まないでくれ……お願いだ、ミカ!!」
俺は粘つくミカの舌にしがみつき、届かないと半ば諦めつつも、声を張り上げて命乞いをした。
「えー、でもさぁ……。急に消えたら、周りが煩いんじゃない?」
ミカが少し迷うように言うと、リコは「そんなの気にすることないって」と首を横に振った。
「大丈夫でしょ。今日の朝、家に連絡が来てたけど、そいつ、今日付けでアルカディア公爵家を完全に勘当されたんだって。だから誰も関わろうとしないし、むしろ厄介者を消したら、公爵家に恩を売れるかもよ?」
「ぷっ。あはは、そっか! リコ天才!」
ミカの明るい笑い声に、俺は必死に耳を塞ぐ。
そして喋るたびに暴れる巨大な舌に必死の思いでしがみつき、振り落とされないよう、耐え続ける。
勘当。
その事実をあらためて他人の口から突きつけられ、俺の心は絶望で満たされていった。
(お父様……お母様……本当に、俺を捨てたんだ……)
もう他の貴族にも連絡がいっているということは、昨日のあの怒りは、一時的な勢いなどではなかったのだ。
家族に見捨てられ、世間からも消えて当然として扱われている。
俺の命はもはや、二人の少女の気まぐれ一つにかかっていた。
「うーん……まあ、でもさ」
ミカは再び舌の先で俺を上顎へ押し付けると、喉を鳴らして溜まっていた唾液だけを器用に飲み干した。
——ゴクッ……。
「ん……処分しちゃうのはいつでもできるし、今すぐ消すのはもったいないかな。何かに利用できるかもしれないし……」
「……….そ、好きにしたら?」
(….助かった……のか……?)
死を免れたことに、思わず安堵の息を漏らそうとした瞬間だった。
「あがっ……!?」
俺の身体はミカの気まぐれな舌の動きによって、右上の奥歯とその隣の歯の隙間に、スポッと入り込んでしまった。
硬い歯の壁に両側から挟まれ、完全に身動きが封じられてしまう。
(くそ……..動けない………)
「ん、あ……歯に挟まっちゃったかも。」
ミカは口をわずかに開き、眉をひそめながら、奥歯の隙間に挟まった俺を舌先でツンツンと触れてくる。
「……ふふ、まるで食べカスだな(笑)」
ミカのその仕草を見て、リコが堪らずクスクスと笑みを溢す。
「あはは!確かに。ねえユウト、聞こえる?今アンタ、私の歯の隙間に挟まってるんだけど。違和感あるし気になるから、さっさと出てくれない?」
(……出ろって、言われても…..)
ふと自分の周りを見渡すと、一つ隣の歯の隙間には、ミカが昼に食べたものの残りカスなのか、緑色の何かがこびりついていた。
さらに自分が挟まっている隙間の奥、歯茎のあたりにも、白い歯垢のような汚れが付着しているのが見えた。
お前は今、この汚いカスと同じなんだと直接見せつけられているようで、あまりの屈辱に頭がおかしくなりそうになる。
(くそっ! くそぉっ……!!)
俺は必死に手に力を入れ、ぬるつく歯の壁を突っ張って隙間から抜け出そうと身体をねじらせた。
だが、歯と歯の接触面は完全に俺を挟み込んでおり、身体が唾液まみれなのも相まって、俺の力ではビクともしなかった。
「もー。たかが歯の隙間からも出れないの?……だらしないなぁ。」
れろ…..れろ…..っ。
ミカの巨大で生温かい舌先が、奥歯の隙間に挟まった俺の顔や身体を、チロチロと舐め上げてくる。
そのたびに彼女の唾液が口の中に流れ込み、俺は息を詰まらせそうになりながら、舌先ひとつに弄ばれている自分の無力さに激しく歯噛みした。
「んー、なかなか取れん。しぶとい食べカスめ〜(笑)。でも、このままだといずれうっかり噛み潰しちゃいそう。」
ミカが舌でれろれろと俺を突きながら、つぶやく。
確かに、喋ったりして動く舌に移動させられた場所次第では、彼女が上下の歯を合わせれば、それだけで俺の身体は一瞬でペシャンコに破裂してしまうだろう。
すると、隣でその様子を見ていたリコが声をかける。
「…..それなら、ミカが授かったあのスキル、早速使えるんじゃない?」
「……あ、確かに! そうか、その手があったか!」
ミカ・グランツが先月、教会で授かったスキル。
それは、グランツ侯爵家に代々伝わる、学園でも屈指の希少性を誇る能力だった。
「ふふっ、じゃあ早速……『状態変質(マテリアル・シフト)』!」
ミカがサディスティックな笑みを浮かべ、口内の俺に狙いを定めてスキルを発動した。
(な、なんだ……!? 身体が……光って……!?)
光に包まれると同時に、俺の身体に強烈な熱波のような魔力が一気に流れ込んできた。
見た目や痛覚などはそのままなのに、全身の肉体がまるで高密度のゴムのように変質していく。
「これでよし。どう?対象が物体であれ生物であれ、質や硬度を自在に変えることのできるスキルよ。これでアンタの身体や内臓を全部、ゴム状に変えたわ。私の魔力量に依存するけど、頑丈な武器や盾も簡単に作れちゃうの。ふふ、アンタのゴミスキルとは雲泥の差でしょ(笑)」
ミカの揶揄う声が、口内に響き渡る。
(これが……ミカのスキル……すごい……俺にも、こんなスキルがあったら……っ!うっ….
ううぅ……)
ゴム状になったことで唾液を弾き、力を込めることで歯の隙間から出られたものの、俺はあまりのスキルの差と悔しさから、ポロポロと悔し涙をこぼした。
学園1位に君臨していたプライドはもはや完全に打ち砕かれ、惨めさが胸を満たしていく。
「さ、それじゃスキルの効果を試してみますか。ん……っ」
ミカは口内で舌を蠢かせると、俺の身体を右の奥歯の上へぽとっと乗せた。
(ま、まさか………!?)
置かれた位置からこの後に起こることを想像し、その場から逃げ出そうとしたその時。
上から巨大な白く鋭い壁——ミカの上の奥歯が、凄まじい勢いで落ちてきたのだ。
ガチッッ!!!
「ぎゃあぁぁぁぁぁっっ!!?」
俺の身体を、ミカの歯が容赦なく噛み潰す。
本来ならば、一瞬で骨が砕け、肉が破裂して即死するほどの凄まじい力だった。
だが——
グニ…グニグニ……ッ!
「い、痛いぃぃぃぃぃぃ……っ!」
ミカの状態変質(マテリアル・シフト)によって、俺の身体はゴムのような弾力性を保ち、破裂して死ぬことを免れていた。
しかし破裂しないだけで、噛み潰される時の激痛は何一つ和らぐことなく、俺は声が枯れるほどの絶叫を上げるしかなかった。
「んむ…………っ」
クチャ……クチャ……
「あぎゃあああああああああああぁぁぁぁあぁ!!!!」
ミカはまるでガムでも噛むかのように、奥歯で俺の身体をクチャ……グニッ……と繰り返し噛み続けた。
その心地よい弾力と、閉じた口内に響き渡る俺の悲鳴をスパイスにして、ミカは満足げに目を細めた。
「ん……んむ……程よく……固くて……ん……良い噛みごたえじゃん。これなら……んっ……どれだけ噛んでも……ん……大丈夫そう……」
もぐもぐ、くちゃくちゃと何度も歯が噛み合わさり、俺はなす術なく噛み潰されては元に戻り、また噛み潰されていく。
「ぎゃああああああっ! 痛い! 痛い! やめろ、止まってくれぇぇぇぇっ!!」
「はは、食べカスの次はガムか。どうだ?味の方は(笑)」
リコがミカの顔を覗き込みながら、おかしそうに尋ねる。
「んー、泣き叫んでるから…..んむ…..味はちょっとしょっぱいかな。んふふ……これで午後は退屈しないですみそう…..ん…….さ、授業に遅れちゃうから、教室に戻ろ」
ズシン……..!ズシン………!
ミカは口の中に俺を含んだまま、ゆっくりと歩き出した。
彼女が廊下を歩くたびに発生する振動が、口内の俺にも激しく伝わってくる。
だが、次々と襲いかかる奥歯のプレスに耐えることで精一杯の俺には、周囲の状況を気にする余裕など、微塵も残っていなかった。
かつて神童と呼ばれ、誰もが輝かしい未来を約束されていると信じて疑わなかった、15歳の公爵家の息子、ユウト・アルカディア。
それがたった一つのスキルによって、俺の人生は完全に狂い、地獄に落とされた。
実家から勘当されただのユウトとなり、同級生の口内で歯の噛み潰しに叫び続けるその無様な姿には、かつての威風堂々とした面影など欠片も残っていない。
いまや少女の口の中で、暇つぶしのガム代わりに弄ばれるだけの存在へと、惨めにも成り下がってしまったのだった。
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ゴーン……ゴーン……
午後の授業開始を告げる鐘が、学園内に響き渡る。
教壇では教師が教科書を開き、黒板にチョークを走らせていた。
生徒たちが静かにノートを取る中、教室の最後列の席でミカ・グランツは頬杖をつき、退屈そうに口元をモグモグと動かしていた。
俺はそんな彼女の暗い口内で、終わりのない苦しみをひたすらに味わい続けていた。
少しでも歯の噛み潰しから逃れようと奥歯から逃げようとすると、すぐさま巨大な舌が伸びてきて俺を元の場所へと押し戻す。
そして逃げた罰とばかりに容赦なく噛み潰され、そのまま暫く歯は上がることなく、グニグニと力任せに噛み締められるのだ。
「い、痛いぃぃぃぃぃ!もう嫌だあぁぁぁぁぁぁっ!!」
俺が歯の上で激痛にのたうち回っているなか、一方ミカはユウトを噛み続けながら、不思議な感覚に包まれていた。
いつもなら午後の授業は眠気との戦いであり、集中力を保つのが難しいはずだった。
しかし、なぜか今日はお昼頃から頭が異常なほどクリアで、複雑な魔導理論を話す教師の言葉が、驚くほどスムーズに頭に入ってくるのだ。
(んー……? なんでだろ、今日はやけに頭が冴えてるなぁ……)
ミカ自身、その理由は分かっていなかった。
ただ思考が妙に冴え渡り、心地よい魔力の高まりすらも感じるのだった。
俺が激痛に悲鳴を上げていると、ふと、ミカの口の中の動きがピタリと止まった。
頭が冴えている理由をぼんやりと考え始めたミカが、無意識のうちに口を休めたのだ。
(あ、う、動きが止まった……!? 今だっ!!)
歯と舌の動きが止まり、これを千載一遇のチャンスだと捉えた俺は、必死に体勢を整えた。
そしてミカの前歯の裏へ向かってなりふり構わず駆け寄り、口をなんとか開けようと力を込める。
「くっ…..開けろ! ここから出せぇぇぇぇっ!!)
もうこれ以上噛み潰されるのは嫌だと、俺は涙とミカの唾液まみれの顔を歪ませる。
しかし、小さくなった俺の必死の抵抗は、ミカからすれば前歯の内側をかすかに擽る程度の微小な刺激に過ぎなかった。
「ん?……んふふ」
歯の裏の微かな刺激に気づいたミカは、口を閉じたまま、楽しそうに口角を歪めた。
必死に口を開けようと手を尽くす俺の背後から、ミカの舌が再び動き出す。
くちゅ……くちゅ……
ミカは口内に大量の唾液を溜めると、その溜まり場へ俺をポチャッと落とした。
そしてすぐに、まるで洗濯機の中に放り込まれたかのように、俺はねっとりとした唾液の中を激しく掻き回され、息もできずにごくごくと唾液を飲まされていく。
(ぶはっ……ごく…..ごほっ、はぁ……はぁ……だ、誰か……助け……っ)
授業の内容に耳を傾けつつ、ミカは時折、隣の席のリコ・シルフィードへと視線を送り、ニヤリと悪戯っぽく微笑んだ。
リコもまた、ミカのもごもごと動く口元を見て、可笑しそうに肩を揺らし、静かに笑う。
午後の授業中、俺は噛み砕かれる激痛と唾液に溺れる恐怖、そして圧倒的な無力感に苛まれ続け、心を完全に折られていくのだった。
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放課後。
生徒たちが次々と教室をあとにし、夕暮れの赤みがかった光が差し込む静まり返った教室には、ミカとリコだけが残っていた。
「ふぅ……面白かった。アンタ、おもちゃの才能ならあるんじゃない?(笑)」
ミカは満足そうに小さく息を吐くと、親指と人差し指を自らの唇の隙間へと滑り込ませ、口の中から俺の身体をつまみ出した。
ペチョッ……。
左の掌の上でつまんでいた指が離され、俺は粘つく唾液とともに落とされる。
ミカが『戻れ』の命令を下さない限り、俺はストローに吸い込まれたときの極小サイズのままだ。
全身がミカのねっとりとした唾液で濡れそぼり、ドロドロの糸を引いている。
俺は呼吸を整えることすらできず、堪らず掌の上に倒れ込み、激しく咳き込んだ。
「ゲホッ! ゴホッ……! ぐ、はぁ……っ! はぁ……っ!」
「へー……まだ生きてるのか。しぶといやつだな。」
近くの机に腰掛けたリコが、足を組みながら、俺を蔑むように見下ろす。
ミカは指先で、掌に倒れ込んだ俺の身体をツンツンと突いた。
「んー……ぶっちゃけ、午後ずっと噛みまくってたら流石に飽きちゃった。顎も疲れたし。こいつ、どうしよっかなー……。このまま元の大きさに戻したら、絶対に私のこと恨んで復讐してきそうだし……。やっぱ、このまま食べちゃうかぁー」
ミカは思案するようにじっと俺を見つめると、乗せている手のひらを顔の前へと持ち上げた。
「じゃ、そういうことで。さよなら。あーん♪」
目の前で、ミカの唇が大きく開かれる。
その暗い口から、先ほどまで俺を転がして弄び尽くしてきた分厚い巨大な舌が、ぬるりと顔を出した。
俺をもう一度地獄に連れ戻そうと、手のひらが開かれた口に近づいていく。
(ひ…..く、食われる……!? 今度こそ消化されて、本当に消される……っ!!)
噛み潰されていた最中は、いっそ殺してくれとすら思っていたはずだった。
だが一度外に出された後、いざ確実な死が目の前に迫ると、恐怖が全身を駆け巡り、死にたくないという思いで頭がいっぱいになってしまう。
俺は目前に迫るミカの口に、唾液で濡れそぼった全身をガタガタと激しく震わせた。
「や、やめろ……! た、食べないでくれ……っ! お願いだ……っ!!」
恐る恐る視線をさらに上へ向けると、夕日を背に浴びた二人の少女が、冷酷な眼差しで俺を見下ろしていた。
もとの美貌も相まって、今の俺には彼女たちが自分の生殺与奪を握る、絶対的な裁きの女神のように思えた。
抗うことなど到底できない存在なのだと、心の底から理解させられる。
「あ……..あぁ…………」
俺は思わず両手と額をミカの手のひらに付け、土下座の体勢をとる。
「ふ、復讐なんて絶対にしません! だから、どうか……お願いですから、食べないでください!!」
俺はただ生きたい一心で、自分と同じ15歳の同級生の手のひらの上で、涙と唾液まみれになりながら、自然と口から出た敬語で必死に命乞いを続けた。
「……ぷっ。あはははは! 見てよリコ! こいつ、私の手の上で土下座してる! 超ウケるんだけどー!!」
「ふ、ふふっ……ごめん、私もちょっとツボに入った」
誰もいない夕暮れの教室。
ミカとリコの二人はお腹を抱えて爆笑し、かつて学園の頂点にいた男の無様な土下座姿を心底楽しむのだった。
「はー、笑った笑った。そういえばさ、リコのスキルって【アナリティクス(ステータス鑑定)】だっけ? 神官みたいな鑑定ができるんでしょ? そういえばこいつ、隠し効果あるらしいよ。昨日、神官が最後に言ってた。スキル発動中じゃないと分からない効果とかもあるらしいし、ちょうど今こいつ『穴侵入(ホール・イン)』の効果で縮んだままだから、何か分かるかも。やってみてもらっていい?」
「えー……こんなやつにスキル使うの? 私の鑑定スキル、地味に疲れるんだけど。」
リコは嫌そうに眉をひそめたが、ミカにお願いと言われ、渋々手のひらの上で未だ土下座したままの俺へと、指先を向けた。
「【ステラ・アナリティクス】」
リコの指先から放たれた淡い光が、俺の身体を包み込む。
すると次の瞬間、リコの不満げな表情が一変した。
「……えっ。マジ……!?」
「え、何なに!? 何が分かったの?」
普段冷静なリコの驚いた声に、ミカは興味津々といった様子で尋ねる。
リコは目を見開きつつも、俺の頭上に出現した透明なステータスウィンドウを読み上げる。
「今の状態……【所有者強化(イン・ホール・ブースト)】っていうパッシブ効果がついてる……。 『このスキルの所持者が、他人の所有する穴に入り、その所有者と身体が接触している間、所有者の全ステータスおよび魔力量が大幅に上昇する』だって……」
「……は!?」
それを聞いたミカの目が、驚きで大きく見開かれる。
他者の能力を底上げするステータス強化、いわゆるバフ系のスキルは、汎用性が高く希少で、重宝される存在だ。
ましてや大幅な上昇となれば、正直聞いたことがないほどだ。
リコの説明を聞いたミカは、自らの身体に起きていたあの異常なまでの冴えと魔力の高まりの理由を、ハッキリと理解した。
「…..実はお昼ごろから頭がやけに冴え渡ってたんだけど……それって、こいつを口の中に入れてたからだったんだ….」
「うん。こいつ、要は所有者を大幅に強化するブースターの役割があるみたい。まぁ本人には全く恩恵ないけど。」
リコの説明を聞き、ミカの可憐な顔立ちは一変し、強欲な笑みを浮かべた。
この強力なバフ効果を知っているのは、世界中で今、ここにいるものたちだけなのだ。
「くっく……あははっ! ユウト、喜びなさい。アンタを食べるのは辞めてあげる。その代わり、これからはずっと私に尽くす道具になるのよ。うりうり〜(笑)」
ミカは満足げに、指先でゴム状になっている俺の身体をグニグニと突いて遊ぶ。
一方リコは、じっとミカの手のひらを見つめていた。
それまで唾液まみれで汚いと、あからさまに嫌悪感を示していた彼女の瞳にも、貪欲な光が灯っていく。
リコは艶やかな黒髪ロングをさらりと肩から揺らし、静かな声で言った。
「ねえミカ。それ、私も使いたいんだけど。」
ミカはその言葉に、手の上で怯える俺とリコを交互に見比べ、ニシシと意地悪く笑った。
「えー、でもリコ、さっきばっちぃ、私の自由にしなよって言ってたじゃーん。」
「ええ。けど、前言撤回。こんな効果があるなら、唾液くらい我慢するわ。それに私のスキルでわかったんだし、二人での共同管理が妥当じゃない?」
リコは動じることなく、ごく当然の権利のようにミカに主張する。
(……..くそ…….)
かつて学園の頂点でチヤホヤされ生きてきたのが嘘だったかのように、いまや都合の良い強化アイテムとして扱われている現実に、俺はミカの掌の上で歯を食いしばる。
「んー、まあいいけどさ。でも、どこでこいつ使おっか?」
ミカがふと疑問を口にすると、リコも顎に手を当てて考え始めた。
二人の視線が、再び手の上の俺へと集中する。
「ずっと口の中に入れておくわけにもいかないのよね。やってみて分かったけど、ぶっちゃけ喋りにくいし、口疲れるし。ご飯もまともに食べられないわ。何か日常的に身につけられて、常に身体に触れさせておける『穴』があればいいんだけど……」
「………そうね….」
二人が考えている間、俺は次は一体どこへ閉じ込められるのか、気が気でなかった。
その時、思案していたリコの視線が、ふと自分の足元へと落ちる。
「あ」
何か思いついたのか、リコの口角がくいっと吊り上がった。
「いいところ、見つけた。」
リコは短く呟くと、学園指定の上履きを徐に脱ぎ捨てた。
上履きは入学時から毎日履き続けてすっかりとくたびれ、型崩れをおこしている。
さらに彼女は、今日一日中履き続けてじっとりと蒸れた白のハイソックスを、指をひっかけてふくらはぎからするりと引き抜いた。
脱がされたばかりの靴下は、濃厚で酸っぱい足の臭いが漂い、足裏と接する部分は黒く滲んでしまっているようだった。
「ミカのスキルもかかってるし……この中なんて、どう?」
リコはその脱ぎたての白ソックスの履き口を広げ、ミカの手のひらの上にいる俺へと向けた。
ミカはそれを見て、思わず目を輝かせて爆笑する。
「くっ!あははは! サイコー! やっぱリコってば天才!」
脱いだ靴下の開口部を突きつけられ、俺は自分がこれからどこへ入れられるのか、瞬時に理解してしまった。
「い、嫌だ……! 嫌だリコ!! いや……リコ様!! それだけは、それだけは許してくださいぃぃぃっ!!」
俺の情けない絶叫も虚しく、リコの冷酷な命令が教室に響き渡る。
「うるさいな……『入れ』」
「あ、あ、い、いやだ……うわあああああああーーーっっ!!」
視界が猛スピードで動き出し、俺の身体はリコの脱ぎたてソックスの中、熱気と酸っぱいにおいが充満する地獄のような空間へと、容赦なく吸い込まれていくのだった。