巨人消防士襲来(前) (Pixiv Fanbox)
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とある国の首都。
普段なら人々がせわしなく行き交う中心街が、今日は異様な緊張に包まれていた。
高層マンションの上層階から立ち上る黒煙と、赤く揺らめく炎。はしご車の届かない高さでの出火は、備え付けのスプリンクラーを作動させても容易には収まらない。
「まずい、このままじゃ……!」
「早く消してくれ!」
命からがら逃げ出した住民たちが、泣き叫ぶように訴える。だがその声の裏には、単なる住居への心配以上の、もっと深刻な恐怖が混じっていた。
ズズン……ズズン……
規則正しい、重い地響きが街を揺らし始める。
人々の顔から血の気が引いた。間に合わなかったのだ。
消防士たちに罵声が飛び、必死の消火活動が続く。しかし地響きは刻一刻と大きくなり、やがて空気そのものが震え出した。
「結構激しく燃えてんな〜」
遥か上空から、街全体をビリビリと震わせるような轟音が降り注ぐ。
「人間の皆さん! 俺が来たからにはもう安心ですよ!」
巨大な影が、ビル群の上に落ちた。
両手を腰に当て、仁王立ちで街を見下ろすその姿は、まさに大巨人。
身長は優に二千メートルを超える。人間の街を管理する巨人たちの中でも、火災対応専門の「巨人消防士」だ。人間では手に負えない規模の火災が起きたときだけ、こうして派遣される。
彼が身につけているのは、爽やかな青の競泳パンツ一枚だけ。
日に焼けた褐色の肌に、汗が滴り落ちている。鍛え抜かれた胸板、浮き出た腹筋、太い腕と脚の筋肉が、一切の遠慮なく晒されていた。そして股間――競パンの布地を内側から押し上げる、巨大な膨らみが、わずかな動きに合わせてゆさゆさと揺れている。
ホースも消火剤も持たない。道具など必要ない。生身ひとつで、炎をねじ伏せに来たのだ。
二千メートルの高さから放たれた、体育会系の快活な声が、人間たちの鼓膜を容赦なく突き破る。本人はそれに気づきもしない。ただ愉快そうに笑うその顔は、下で小さく震える人々にとっては、あまりにも大きすぎた。
そう、あまりにも大きすぎたのだ。
「それにしても……ほんとちっさいな〜。派遣先、間違ってないか?」
巨人消防士は、あくまで人間の街の安全を守るために派遣される存在だ。
本来なら今回のような規模なら、二百メートル級の巨人が来るのが通例だった。だが手違いで、その十倍――二千メートル級の男が送られてしまった。
「まあ……ッ、でも、もう我慢できねぇし……ッ……いいよな……!」
巨人にとっては取るに足らない問題だが、人間たちにとっては文字通り死活問題だった。
彼が片足を踏み出すたび、アスファルトは粉々に砕け、ビルが悲鳴を上げて軋む。
この大きさの差では、足元の人間を一人ひとり避けることなど不可能だ。現場に向かうまでの道のりで、素足の下ではすでに数千、数万という人々が押し潰され、肉片となって汗ばんだ足裏にべっとりとこびりついている。
火事による被害など、彼が歩いただけの被害の前では何百倍も小さく見えた。
当然、巨人消防士は人間たちからは忌み嫌われている。だが圧倒的な力を持つ巨人には、逆らう術などない。この歪んだ制度を、ただ受け入れ続けるしかなかった。
街全体が、彼の存在に合わせて揺れ続けている。
「よし、じゃあさっさと消しちまうか……!」
足元で逃げ惑う小さな人影など、まったく意に介さない。
むしろ待ってましたと言わんばかりに、ニヤリと口角を上げた。
足首ほどの高さで煙を上げる、玩具のようなビル群を見下ろす。
ゆっくりと股間に手を伸ばし、競パンの上からその立派な膨らみを揉みしだく。布地がぴんと張りつめ、熱を帯びた肉の感触が手のひらに伝わる。
そして――無理やり、競パンの縁から引っ張り出した。
ぼろんっ……。
解き放たれたそれは、まるで大蛇のような、ふてぶてしくて太い巨根だった。
血管が浮き出た表面は熱を持ち、先端からはすでに透明な雫が糸を引いている。むわりと立ち上る、濃厚な雄の蒸れた匂いが、二千メートルの高さから街中に降り注ぎ、あっという間に充満した。
小さな人間たちの鼻腔を、容赦なく支配していく匂い。
「ふぅ……締め付けがきつかったなー。また、デカくなってんのかな?」
巨人は太い指で自らのものを軽く上下に扱きながら、満足そうに息を吐く。その一振りだけで、周囲の空気が熱を帯び、湿った風が街を吹き抜けた。
先走りがボタボタと滴り落ち、アスファルトに落ちた瞬間、路上に転がっているバスを中の乗客ごとぺちゃんこに押し潰す。
彼はニヤリと笑い、巨根を片手で支えながら、燃える高層マンションの方へ照準を向けた。
足元では悲鳴と怒号が入り混じり、逃げ遅れた人々が蟻のように右往左往している。
だが巨人の耳には、それらがかすかな雑音にしか聞こえない。
「じゃ、いきますよ……!一応、危ないので離れててくださいね!」
そう言い放つと、彼はゆっくりと腰を前後に揺らし始めた。ぐちゃぐちゃに崩壊している街中を人間たちが避難することなど不可能だと分かってはいる。あくまで形式上の勧告だ。
巨大な肉棒が、玩具のようなビル群の上をゆっくりと左右に揺れ、影を落としていく。その動きだけで、すでに街の一部が揺れ、窓ガラスが次々と割れていく。
人間たちにとって、これはもはや消火活動ではなかった。
圧倒的な"雄"そのものが、街を蹂躙しに来たのだ。
「……ッ……出るッ……!っ……ぁー……」
黄金の鉄砲水が、およそ1000mの上空から放物線状に降り注いだ。
燃え盛る高層マンションに直撃したその勢いは、ダムの放水など比べ物にならない。轟音とともに黄金の濁流が建物を飲み込み、炎を消すどころか、鉄筋コンクリートの躯体を一瞬で粉々に打ち砕いた。中に残されていた人間たちは当然、ひとたまりもない。壁も床も天井も、すべてが砕かれて黄金の奔流に呑み込まれていく。
それだけでは終わらなかった。
勢いあまった濁流は地下駐車場を根こそぎ抉り取り、アスファルトの大地を深くえぐるように流れ出していく。辺り一帯のビルにしぶきが飛び散り、崩れた地盤の影響で次々と傾き、倒壊していく。乗り捨てられた車や、揺れに耐えて蹲っていた人々も、容赦なく小便の津波に飲み込まれ、押し流されていった。
街の一角が、黄金に染まりながら沈んでいく。
「ふぅー……出た出た」
巨人は満足そうに長い息を吐き、まだ滴る先端を軽く振った。
残尿がボタボタと落ち、すでにぐちゃぐちゃになった地面に穴を開ける。
「ちょっとやりすぎたかな?……でも、小便くらいでめちゃくちゃになってる方が悪いよな」
悪びれる様子もなく、彼はニヤリと笑った。
足元に広がる黄金の海と、そこに浮かぶ瓦礫や小さな人々を見下ろしながら、競パンの中にまだ熱を帯びた巨根をしまい込むこともなく、そのまま次の獲物――まだ煙を上げる別のビル群へと、ゆっくりと視線を移す。
「先に周りを潰しておくか」
吐き捨てるように低い声で言うと、赤黒く汚れ、汗と瓦礫と血でべっとりと濡れた足の裏を、わざとらしくビル群の真上へとゆっくりと持ち上げた。
巨大な足の裏が、陽光を遮るように影を落とす。その影に覆われたビルの中では、死の宣告を受けた人々が泣き叫び、懇願し、窓に縋りついて必死に手を振っていた。だがその小さな声も、小さな動きも、二千メートルの高さにいる男には、到底届かない。
「頼む、やめてくれぇ!!!」
「まだ人が沢山いるんだ!!!」
「踏み潰さないでぇ!!!」
「お願いだ、子供がいるんだよぉ……!」
悲鳴と怒号が入り混じるが、巨人は耳を貸すどころか、面白がるように口角を上げた。
「よっと」
グシャアアアアアアッ!!!!
なんてことの無い、軽い掛け声とともに、三百三十メートルもの素足が大地に叩きつけられた。
その一踏みで、数十棟のビルが瞬時に崩壊する。コンクリートが粉々に砕け、鉄骨が悲鳴を上げてねじ曲がり、ガラスが爆発のように飛び散る。一歩で数万人の命が、あっさりと踏み潰された。
火が燃え移り、くすぶっているビルを中心に、彼は周囲一帯をぐるりと歩き始めた。
古典的な消火法の実践としては、これ以上ないほど完膚なきまでに。
周囲の建物はすべて、汗ばんだ素足の下に消えていった。瓦礫と血と肉と、くすぶる炎の残り香が、足裏にべっとりと張り付き、歩くたびにぐしゃり、ぐしゃり、と音を立てる。地面は彼の足跡の形に深く抉られ、巨大な穴が街に穿たれていく。
「こんなもんか。やっぱ、踏み潰すの気持ちいいな」
満足げに呟きながら、中心に残された数棟の高層ビルを見下ろす。
五十メートルを超える大型のビルですら、横にそびえ立つ逞しい脚と比べれば、まるでケーキの上のロウソクのように小さく見えた。屋上とくるぶしの高さがほぼ同等。足を軽くぶつけるだけで、根こそぎ砕け散るのは間違いない。筋肉の隆起したふくらはぎが、ビル群のすぐ横でひくひくと脈打っている。
そんな小さな小さなビル群を前に、巨人はゆっくりと膝をついた。
街がさらに大きく揺れ、残っていた窓ガラスが次々と悲鳴を上げて割れる。膝をついた衝撃だけで、周囲のアスファルトが波打ち、地割れが走る。
「ほんっと、ちっせぇー……」
ビルの数倍もの高さがある整った顔を、ゆっくりと近づけていく。
息を吐くたびに、熱く湿った風がビルを揺らし、残っていた看板やアンテナをへし折る。窓越しに、ゴミかホコリのようなサイズの人間たちが、パニックになって右往左往しているのがはっきりと見えた。彼らの顔の表情さえ、巨人の目にはくっきりと映る。恐怖で歪んだ顔、泣き崩れる姿、祈りを捧げる者、ただ呆然とする者。
「今、消してやるからなー」
大きく、深く息を吸い込み、そして――
「ふぅううううううっ!!!!!!」
体育会系の鍛え上げられた肺活量によって、吐き出された爆風が竜巻のような勢いでちっぽけなビルに襲いかかる。窓という窓がすべて、一気に砕け散った。ガラスの破片がキラキラと舞い、小さな人間たちを直撃する。ビルの内部がむき出しになり、まるでドールハウスの断面図のように、部屋の中で逃げ惑う人々の姿が晒された。
「やっべー……やりすぎたか?」
鎮火はされたものの、中にいた人間たちは皆、凄まじい突風で壁に叩きつけられ、殆どが絶命していた。
「まあ、消えたからいいか」
壁がひび割れ、ボロボロになったビルを前に、巨人はゆっくりと立ち上がった。