逆転する美少女仮面 (Pixiv Fanbox)
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突如として姿を現して以来、何度となく本物を翻弄してきた偽物の美少女仮面。偽物は糸捌きにおいて遥かに上回る技量の持ち主で、本物の美少女仮面ことサヤカは何度も苦渋を舐めさせられていた。
その日も現れた偽物相手に、サヤカは果敢に戦いを挑んでいく。
「えいっ」
偽物を捕らえようと白い糸を放射状に放つも、簡単に回避されることが続いていた。
「ああん!」
「いつまでも進歩が無いわね」
冷たい瞳で黒い糸を操る偽物は、糸を編み合わせて棒状の武器を作り上げる。華麗に振り回される棒はすぐさまサヤカの鳩尾を直撃した。
「うぐ……ッ!」
息が止まった一瞬を狙って黒い糸が襲いかかってくる。いつもならサヤカはこの時点で縛られてしまい、瞬く間にぐるぐる巻きにされてしまう所だったが──咄嗟に地面を蹴り、背後に数メートルもの距離を取った。
幾度となく繰り返された戦闘でサヤカも学習している。糸を編み合わせて武器を作るような技術はまだ会得できていないものの、偽物の行動パターンを読めるようになっていたのだ。
「避けたくらいで──ほら、すぐ油断する」
間髪入れずに空いた距離を詰めてくる偽物。
サヤカは息を整える間も無かったが──偽物が攻撃の手を止めないことは読んでいたので──元より息は止め続けていた。
「なっ!?」
偽物の足首に白い糸が絡みつく。
サヤカは先ほど距離を取った時に自分の糸を地面に敷いていた。それを踏んだ者を縛り上げられるように罠を張っていたのだ。
瞬く間に白い糸は増殖し──偽物を雁字搦めに縛り上げていった。
「ぐっ……」
必死にもがいて逃れようとするも虚しく完全に拘束された偽物を見て、サヤカはようやく口を開いて大きく空気を吸い込んだ。
「ぷはぁっ! はぁ、はぁ……ふふっ。油断してたのはそっちの方だったわね!」
偽物との対決で初めて勝利したことに、サヤカの胸中はついにやったぞという達成感で満たされていた。
「やっと勝てたわ。あはっ、いいザマね!」
今まで散々やられてきた恨みに思いを馳せながら、サヤカは白い糸をギュウウウと締め上げた。
「んぐぅ……ッ、……ッ!!」
「もう終わりよ、偽物。あなたはヒーロー連盟機関の牢屋に入れられて、容赦なく縛られっぱなしになるんだから」
怪人のように特殊な能力を持った犯罪者はその危険性を排除できるまで拘束が解かれることはない。
偽物はサヤカ本人のDNAから造られたクローン人間のようだが、変身スーツは似せているだけでルーツが異なるため、危険性の排除には然るべき解析が必要となる。
きっと長い期間、縛られたまま満足に立ち上がることも許されないだろう。
「機関に報告してすぐに輸送してもらうからビクビクして待ってなさい!」
サヤカは胸元のブローチに手を当てて通信を試みる。
「もしもーし。司令官? ついに偽物を捕まえて……あれ? 通じてない?」
返事はなく、ノイズのような音のみが返ってくる。よほどの地下深い場所でもなければ通信が滞ることなど今まで無かったが、サヤカは軽い電波障害と捉えて深くは考えなかった。
「じゃあ通信ができるようになるまで偽物をいじめちゃおっかな? ふふっ!」
まだまだ鬱憤は晴れない。サヤカが白い糸をまた締め付けてやろうとした時だった。
背後から突然の圧力に襲われる。まるで大きな手に頭を掴まれたような──しかし状況を把握するよりも先に、サヤカの口は吸い込まれるように偽物の口と交わった。
「ん……っ!?」
何が何だか分からなかった。その瞬間から視界は真っ白な世界に包まれ、思考はいきなり宇宙へ放り出されたかのような非現実感の中へ放り込まれる。
しばらくの間……あるいは一瞬だったのか。
眠りから覚めたような気分で目を開けると、サヤカの目の前には白い変身スーツに身を包んだ美少女仮面が立っていた。
まるで鏡を見ているかのようだったが、すぐに他の異変にも気がついた。
体が動かない。視線を落とすと、白い糸がサヤカを雁字搦めに縛り上げていた。
「……ッ!?」
それだけではない。
今サヤカが身に纏っているのは黒い変身スーツ。偽物が着ていたものと同じ色合いの、闇を体現したような姿となっていた。
「状況が飲み込めないのも無理ないから教えてあげる」
白い美少女仮面が口を開く。
「私は美少女仮面……偽物だった私が、あなたと魂の交換を行って……本物になった」
──魂を、交換……?
その一言を少しずつ飲み込み、理解した。
本物と偽物は心と体を入れ替えられ……サヤカは偽物の美少女仮面になってしまったのだ。
「私はドクターによってこの魂を入れ替える能力を貰った。同じDNAを持つ私たちだからできることで、理論上の技術でしかなかったけど……上手くいってよかったわ」
「ッ!! ~~~ッ!!」
今すぐ! 元に戻して!
そう叫ぼうとしたが喉から声が出ない。
「喋れないでしょう? 私のようなクローン人間や組織の改造人間は拘束されると言葉が発せられないように処置を施されているの」
繰り返し声を出そうと試みるが、喉からは空気しか出てこなかった。
ならば糸で攻撃を、と意識を集中させる。しかし変身スーツは何も動きを見せない。
「糸を操ろうとしても無駄よ。魂の交換に成功した時点でその黒い変身スーツは全ての機能を失う設定になっている。変身を解くこともできない。そう、打つ手なし……」
ザッ ザザッ
『応答せよ美少女仮面。応答せよ』
突如として電波が回復したようで、白い美少女仮面のブローチからノイズ混じりの声が聞こえてくる。
司令官だ。大きな声を出して助けを求めないと──しかしサヤカは一言も発することができず。
「こちら美少女仮面」
偽物は本物のフリをして通信に答え始める。
「ついに偽物を捕まえたわ。輸送の手配をお願い」
『おお、ついにやったか! 分かった、すぐに護送車を送る。偽物が逃げないように厳重に見張っておくように』
「了解」
ブツッと音が途切れ、通信が終了してしまう。
通信障害が回復したタイミングがまるで見計らっていたかのようだ。サヤカはおそらく偽物によって電波を遮断されていたことを悟る。
「声を出せないあなたは、仲間にも自分が本物だと弁明できない」
「……!!」
仮面の向こうからサヤカを見下ろす偽物の目は、どこか歓喜に満ちているように見えた。
「本来の計画ではこのまま本物の体でアジトに帰り、怪人に改造される手筈だったのだけど……いくら偽物として生み出された私だって、そんなのは真っ平ごめんだった。せっかくオリジナルの体を手に入れたのに、わざわざ怪人になるなんて馬鹿げてるでしょう?」
いつも冷静な声しか聞いたことがなかったが、心の底から溢れ出るような喜びに打ち震えているようだった。
「これからは……私が、本物の美少女仮面として生きていく」
光に照らされたような明るい表情を見せる彼女に対して、偽物に成り下がったサヤカを待ち受ける運命は暗く。
誰にも本物と思ってもらえず、意思疎通もできずに。
「護送車が来たわ」
このまま偽物として、ヒーロー機関の牢と拘束具によって自由のない一生を過ごすことになるのだろうか。
今までヒーローとして頑張ってきたのに。
これでは一体何のために生まれて──
「さようなら。もう二度と会わないかしら? となると慣れ親しんだクローンの体も恋しく……うん、ならないわね。フフッ」
機関の隊員たちによって取り押さえられ、さらに厳重な拘束を受ける。
心でどれだけ叫んでも──サヤカの声が誰かに届くことはなかった。