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プレイ概要 ※ネタバレ注意


プレイの種類:騎乗位、間接キス、耳舐め、手コキ、テーブルの下で足コキ、玉責め、足の匂い責め、太ももの匂い責め、太もも呼吸管理、生足コキ寸止め+おねだり射精、膝コキ、キス誘惑、キス責め、ベロキス責め、太ももコキ

ジャンルの種類:逆NTR、寸止め、焦らし、調教、誘惑、色仕掛け、マゾバレ、格差、クローゼット内密室


##P1 裏切り続けた結果@導入、馬乗りになられた状態で責められる


##P2 出会い@妹・紗良とのファーストコンタクト、妙に距離の近い義妹


##P3 婚約者との夜@綾乃との男性主導のセックス


##P4 義妹の指摘@妹の紗良に夫婦の営みを指摘される


##P5 距離感@紗良の誘惑、間接キス


##P6 罠@紗良の部屋で紗良と二人きり、耳舐め、服の上から陰茎を掌で撫でられる、生手コキ、マゾバレ


##P7 昨晩の記憶@会社での葛藤、紗良のからかい、食卓のテーブルの下で足で誘惑、玉責め、テーブルの下で生足コキ、寸止め


##P8 家具の移動@足誘惑、脅されて足の汗を拭かされる、感じる格差、紗良の生足の感触、漂う足の匂い、足の匂いの確認、太ももの匂いの確認を迫られる


**サンプルここまで**

**ここからご支援者様向け**


##P8続き 見下されて両足で挟まれる、太ももに顔を埋めて声を我慢させられる、太ももフェロモン深呼吸、太ももに顔を埋めさせられ両手を拘束されたまま足コキされる、生足コキ、寸止め、浮気誘惑、足で射精、足での快楽に溺れる


##P9 行為の最中に……@綾乃とのセックス中に紗良のことを思い出す


##P10 紗良と二人きりになるということ@ラフな格好の紗良を意識してしまう、綾乃とのセックスの不満を指摘されてしまう、壁際でキスの練習煽り、膝コキ誘惑、キス誘惑、1回だけのキス練習、2回目のキス練習誘惑、綾乃の突然の帰宅、二人でクローゼットの中に隠れる、紗良の抱きつき、キス要求脅し、紗良のベロキス反撃責め、紗良のキスの前に裏切りの快楽に溺れる、太もも勃起確認、キスの自己嫌悪、紗良に受け入れられる、太ももで挟み込まれてコかれる、紗良に太ももでコかれながら背徳感を刺激される、下着越しの手での勃起確認、生の手の感触、生太ももコキ、気持ちよくしてもらうことをお願いさせられる、太ももコキおねだり、密着太ももコキ、寸止め、射精のおねだり強要、密着されてキスされながら太ももコキで射精させられる、キスしたまま太ももで連続射精させられ搾り取られる


##P11 クローゼットを出た後のこと@幕間


<続く>


**********************************


【ボリューム】

・文字数:無料公開分合わせて約12万文字

・AI生成挿絵:なし

・AI生成動画:なし



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##P1 裏切り続けた結果@導入、馬乗りになられた状態で責められる


「声出したらお姉ちゃん起きてきちゃうかもね?」


耳元で囁かれた小さな小さな声。

しかしその一言は、扉一枚隔てた寝室で眠っている綾乃の寝息よりも、リビングの隅で低く唸る空気清浄機の音よりも、ずっとはっきりと俺の耳に届いた。


深夜一時過ぎ。


照明を落としたリビングには豆球が灯り、淡いオレンジ色が床に影を作っている。


「……ね、お義兄さん?」


耳元に吹き込まれた吐息混じりの声。

首筋を這う熱い息は、火照った舌先そのままの温度で、ぞくりと背筋を震わせる。


「今あたしがおっきい声出したら……どうなると思う?」

「──ッ……!!」


息が詰まる。

心臓が跳ね脈打つ音が響く。

ソファの上、薄いブランケット越しに伝わってくる紗良の体温。

密着した太ももから、柔らかな肉の重みと温もりが伝わり、肌が粟立つ。


「たとえばさ……」


耳に唇が触れる。

湿った吐息が鼓膜を撫で背筋が震える。


「おねえちゃーんって、大きい声出したり」


俺は反射的に片手で紗良の口を塞いでしまう。


「……ふふ」


掌の下で押し殺された笑い、向こう側から伝わってくる生々しい呼気は熱く。

唇の形、濡れた感触がじわじわと伝染し、掌が痺れてくるようだった。


「この手は何? お義兄さん?」


答えられなかった。

ローテーブルの上には、綾乃と一緒に選んだ式場のパンフレットが開きっぱなしになっている。

白いチャペル。

花嫁姿のモデル。

指輪の広告。


それら全てが俺を責めているかのようで。


「……んー?」


紗良は俺の腕の中で小さく首を傾げた。

照明を落としたリビングの薄暗闇の中、彼女の表情は見えにくい。

けれど楽しげな声だけが掌の向こう側から聞こえてくる。


「今大きい声出したら、あたしが襲われてるって思われちゃうかな?」

「……ッ、だから! 誰が、そんな……っ!」


「嘘つき。ココ、こんなに熱くなってるのに」


紗良の柔らかい太ももが持ち上がる。

ブランケットの隙間をぬうように移動したそれは、狙い澄ましたように俺の脚の付け根へ押し当てられた。


「ほら、やっぱり固くなってる。ね? 脚で触ってるだけでわかるよ? いつもすぐこんな風にしちゃうんだもん……お義兄さん、我慢できないんだね?」


彼女がそっと腰を上下に揺する。


「ぅ……あ……っ!!」


甘い痺れが走り、彼女から逃げるように腰が浮く。


「声出さないでって言ってんじゃん。バレちゃうよ?」


紗良は楽しげに笑い、さらに腰をぐっと押しつけてきた。

柔らかく温かい肉のクッションが、怒張した肉棒に絡みつく。


「ん〜……やっぱすごい固い……お義兄さん、溜まってたんだね?」

「……ッッ! ば、馬鹿!! いったい誰のせいでこんなことに……ッッ!! は、離れろ……!」


「やーだ。だってもう止めらんないし。ほら、もっと気持ちよくしてあげるね」


紗良は嬉しそうに囁き、腰をわずかに浮かせたまま円を描くように太ももを回した。

剥き出しの柔らかい肉の部分でズボン越しに竿を擦られ、快感に思わず腰が浮いてしまう。


「ぅあ……! 紗良……!」

「お義兄さん、かーわいい♡ 気持ちいいんだぁ? ホント敏感なんだねぇ? ……ま、こんだけあたしが開発してあげたんだから当然なんだけどさ?」


紗良は楽し気に囁きながら、さらにもう一度太ももを大きく円運動させる。

温かい肉の圧力に包まれた部分から甘い電流のような刺激が迸り、下半身全体が熱くなる。


「ねぇ、手じゃなくて唇で塞いでよ? じゃないともっと大きい声出ちゃうかも……」


掌に触れる唇が尖り、ゆっくりとキスの形を作る。

そしてそのままわずかな空気の流れを利用し、掌へと吸い付いてくる唇の動き。

見えないはずの舌先の、柔らかくて熱い粘膜の感触まで想像してしまい、背筋がぞくりと震えた。


───こんなことを続けていたらどうなる?


綾乃に申し訳ないどころの話ではない。

明らかな不貞行為。

これ以上のことは絶対にやってはならないはず。

絶対に一線を越えてはならないはず。

しかし頭で理解していても、目の前にいる少女からは逃れることができなかった。

いつのまにか身体がいうことを聞かなくなっていた。

そんな俺を彼女は見透かしたように笑うのだ。

彼女の望むままになっているうちに俺はどんどん泥沼へ沈んでいく。


「………………♡」


あの日、綾乃の妹の紗良が、スーツケースを引いてこの部屋に来た時から、俺の中の何かは、少しずつ狂い始めていた──。


…

……

………

##P2 出会い@妹・紗良とのファーストコンタクト、妙に距離の近い義妹

土曜日の朝。

雨上がりの東京、アパート前の通りには湿ったアスファルトの匂いが漂っていた。

綾乃と一緒に暮らす2LDKのマンションは、最寄駅から徒歩十分圏内の好立地。

都内でありながらも駅周辺には緑豊かな公園があり、住環境としても申し分がない。

週末は二人で並んでカフェに行ったり、スーパーで買い物をしたり、まったりとした時間を過ごすことが多かった。


白百合綾乃。


俺の恋人で、婚約者で、もうすぐ妻になる女性。

お嬢様育ちで、少し世間知らずで、けれど誰よりも真面目で優しい人。

大学を卒業するまで外泊はもちろん、泊まりがけの旅行さえ家に許されなかったくらい彼女の家は厳しかった。

それでも綾乃は、俺との関係をゆっくり大事に育んでくれた。

手を繋ぐのも。

キスをするのも。

身体を重ねるのも……全てが慎重だった。


婚約して、この部屋で一緒に暮らし始めて、ようやく俺たちは本当の意味で恋人から夫婦になる準備を始めたのだと思う。


ローテーブルの上には、来週末に行く予定の式場パンフレットが広がっていた。

白いチャペル。

海の見える披露宴会場。

綾乃が付箋を貼ったドレスの写真。


まだ実感は薄い。

けれど、そのどれもが俺と綾乃の未来に繋がっているのだと思うと不思議と胸の奥が温かくなる。


「ねえ、悠真さん」


キッチンから綾乃の声がした。

同棲を始めてからも、彼女は時々まだ俺にさん付けをする。

何度も呼び捨てでいいと言ったのに、恥ずかしそうに笑って誤魔化されるだけだった。


「ん?」

「今日、紗良が来るんだった」


「紗良ちゃん?」


名前を聞いて、すぐに綾乃の妹の顔が頭に浮かぶ。

といっても、直接会ったことはない。


家族写真や、綾乃のスマホに映った姿を何度か見せられはしていたが、先日婚約の挨拶に綾乃の実家へと伺った時ですら綾乃の妹は席を外していたのだ。

少し常識がないのかと思ったものの、綾乃とは歳も結構離れているため仕方ないのかとも思ったのを覚えている。

確か、今年大学に入ったばかりだったはずだ。


「うん。前に話したでしょ? しばらくこっちから大学に通いたいって」

「ああ……そういえば」


「実家からだと少し遠いみたいで。あと、ちょっと一人暮らし先で困ったことがあったみたいなの」


綾乃はそう言いながら、二つ分のマグカップに紅茶を注いでいた。

落ち着いた手つき。

柔らかい声。

殺風景な一人暮らしにはなかった、綾乃という女の子の存在が部屋によく馴染んでいた。


「しばらくってどれくらい?」

「たぶんひとつきかふたつきくらいかな〜? 講義の都合が落ち着くまでって言ってたけど」


「そっか」


正直少しだけ戸惑いはあった。

同棲を始めて約半年。

ようやく二人の生活に慣れてきたところへ、婚約者の妹が転がり込んでくる。

男としては少なからず不安があったが、それを口にすることはできなかった。

ましてや婚約者の家族に対して、そういう話題は避けなければいけない気がした。


「ごめんね。急で」

「いや、綾乃の妹なら別に」


そう答えると、綾乃はほっとしたように表情を緩める。


「ありがとう。悠真さんならそう言ってくれると思ってた」


その信頼が少しだけくすぐったかった。

同時に背筋を正されるような気もした。

俺はこの人の婚約者なのだ。

この人を守って、この人と家庭を作るいっぱしの男なのだ。


そう思った、ちょうどその時。


──ピンポーン♪


「あ、来たかも」


綾乃がぱっと顔を明るくする。

俺も立ち上がり玄関へ向かう。


「はーい」


鍵を開けてドアを引く。

そこに立っていたのは、大きなスーツケースを片手に引いた、綾乃によく似た目元の女の子だった。

だが纏っている空気は綾乃とはまるで違っていた。


艶のある黒髪は肩にかからないくらいのボブカットの女性。

白に近い淡いサマーニットの上から羽織った薄手のカーディガンは、肩から崩れるようにゆるく掛かっていた。

チャコールグレーのミニスカートからは、すらりとした脚が覗いている。

全体としては上品で、育ちの良さを感じさせる格好。

清楚に整っているはずなのに、肌の露出の多さからどこか遊び慣れた雰囲気も混じっていた。


少し困ったように眉を下げているのに、こちらを見上げる瞳だけは妙に人懐っこい。


「あ」


彼女は俺を見た瞬間、ぱちりと瞬きをした。

花が開くみたいな笑顔を浮かべて。


「もしかして、お姉ちゃんの婚約者さん?」

「あ、えっと……蒼井悠真です」


「ふふっ、知ってます」


初対面のはずなのに、これから居候をさせてもらうというのに……彼女は少しも物怖じしていないようだった。

スーツケースの取っ手を握ったまま、ほんの半歩だけこちらに近づいてくる。

玄関先の狭い空間に、甘いシャンプーの匂いがふわりと入り込んできた。


「白百合紗良です」


そう名乗った彼女は、綾乃の妹らしく上品に笑って、それから少しだけ首を傾げた。


「今日からしばらくお世話になりますね」

「あ、ああ。よろしくお願いします」


「ふふ、敬語なんて使わないでください。お義兄さん」

「えっ……あっ、いや……そうだよな、綾乃の妹だし」


「そうそう、気軽に紗良って呼んでくれても大丈夫ですよ」

「えっと、紗良ちゃん……?」


「紗良でいいですって」

「そ、そうか……よろしく」


「ふふっ」


綾乃と同じ、黒く長い睫毛。

けれどその奥に輝く瞳の強さは違っていて、どこか鋭く、探るように俺を見ていた。

その視線はとても居心地が悪い。

なのに不思議と嫌ではなかった──。


………


「紗良も大変だったねー? せっかくいい部屋見つかったのに、あんなことなっちゃってさー?」


紅茶が注がれたティーカップをローテーブルに置きながら綾乃が言った。


俺たち三人はリビングの低いソファーに向かい合うように座り、テーブルの中央には綾乃が用意してくれたケーキと焼きたてのスコーンが並んでいる。


「ホントだよぉ……引っ越し早々あんなことになっちゃったら気まずいっていうか……まあ、でもいい社会勉強にはなったかなぁ?」


テーブルを挟んで斜め前に座った紗良が答えた。


「……いい社会勉強って?」


ふと思わず聞いてしまった。

なんとなく気になったんだ。

この家に居候する理由だとか、そもそもどんなきっかけでそうなったのか、俺が知るべきなのか……知らない方がいいのか。


「ちょっとしたトラブルに遭っちゃって……」


そう言う彼女の声色にはあまり深刻さは込められてはいなかったものの、何故だかその時の俺は彼女が話した内容よりも『トラブル』という単語の方に意識を向けてしまう。


「ストーカーっていうのかな? ちょっと変な人に付きまとわれちゃってさぁ……」

「それでパパがもうかんかんになっちゃって……実家は大学まで遠いし、うちなら駅まで近くて悠真さんもいるしってことで、私が話してしばらく紗良を預かることにしたの」


俺の横に腰掛けた綾乃が苦笑しながら補足すると、紗良はこくんと頷く。


「うん。最初はちょっとした付きまといぐらいだったんだけどね〜?」


ティーカップに口をつけた紗良が脚を組んだ。

ひざ丈スカートの裾から、ほどよい肉付きの太ももがちらりと見え隠れする。


「ほら……紗良は私と違って、ファッションも少し解放的だし、人当たりもいいでしょう? 人懐っこくて明るくて親しみやすい子だから、つい勘違いしちゃう人も多いんじゃないかなって」


綾乃が言い切る前に、目の前の紗良がもう一度脚を組み替える。

右脚から左脚へ。

自然すぎる仕草でつま先を滑らせ、また脚を組み直す。

スカートの裾が僅かに捲れて、脚のラインがちらつく。


「えー? お姉ちゃんあたしに対してそんなこと思ってたんだ〜? んー、でも確かにあたしの見た目も態度もお姉ちゃんと比べたらエッチぃかなーって思うこともあっちゃったりなかったり?」


クスクスと紗良が笑う。

綾乃よりも少し華やかな服装。

身体のラインが出やすい薄手のサマーニット。

彼女が何気なく笑うたびに、そこにある女らしさを意識させられる。

それに、露骨に露出した太ももだって、さっきから妙に艶っぽく主張していた。


綾乃の方はどうかというと、彼女は自分のことを『地味でつまらない子』だと卑下するが、全然そんなことはないと思う。

清楚で可憐で、どこか儚げなところが魅力的な、よくできた奥さん。

しかし今、俺はその近い未来の奥さんの横に座っているというのに、目の前の女性の方がずっと女らしく感じてしまう。


「──ま、あたしの話はどうだっていいじゃん? ってかお姉ちゃんたち、この式場で結婚式挙げるの? えー、素敵だなぁ……。ねぇお義兄さん、ここのドレス着たお姉ちゃんってどんな風に見えるんだろうね?」


紗良はそう言ってから、テーブルの隅に寄せてあったパンフレットを取り上げた。


「へぇ〜、お姉ちゃん意外とこういうの着たいって思ったんだー? 全然そんなイメージなかったなー?」

「え、えっとね……。最初はね、控えめなのにしてたんだけど、悠真さんがせっかくだからって後押ししてくれて……そっちに決めようかなって……」


慌てたように答えつつも頬を赤らめた綾乃を見て、俺も思わず笑ってしまう。


「ふぅん……そっかぁ〜! いいなぁ……私も早くこういう場所でウェディングドレス着てみたいなぁ……ふふっ」


パタン、とパンフレットを閉じた紗良はそのままソファーに背を預けて天井を見上げた。

短いスカートがさらに少しだけ捲れ上がったが、本人は気にしていないようだった。


「紗良〜? さっきからちょっと油断しすぎじゃない? 私が見てないと思ってるかもしれないけど、今もかなり脚出ちゃってるよー? ここは実家じゃなくて、悠真さんだっているんだからね?」


紗良の仕草がさすがに姉である綾乃の目には余ったのだろう。

軽くたしなめるように注意する。


「えー? 大丈夫だって〜! お姉ちゃんはいつも気にしすぎなんだよ〜? ……それにお義兄さんは私の身体なんか気にしないと思うし〜?」


しかし、その当の本人はというと、姉の小言には全く響いていないのか、けろっとした態度で笑い飛ばすばかりで。

そんな妹を見て、綾乃が小さくため息を吐く。


「まったく……。でもね、今日はこれぐらいにしておくけど、明日からはちゃんとしてよね? いい? 悠真さんだってそこまで鈍感じゃないんだから」


その言葉はだらしない妹の紗良にだけ向けられたわけではないようだった。

その証拠に、みんなの分の空のティーカップをお盆に乗せながら立ち上がった彼女が『悠真さん』と改めて俺に向き直る。


「悠真さんもごめんね〜? 性格悪いとか思わないであげて欲しいんだけど、紗良は本当に無防備で人を疑うことが苦手っていうか……悪い子じゃ決してないの。ただ、私の妹だから擁護するってわけじゃないけど、すごく純粋な子で昔からこんな調子なのよ〜。だからと言ってあんまり紗良のこと甘やかしたらダメだからね? 私の代わりに、兄として、ちゃんと叱ってあげてね? ……なんてね、ふふっ♪」


綾乃が俺に微笑む。

いつものように優しく包み込むような穏やかな笑顔で、角が立ちそうなところも綺麗に丸く収めてしまう。

俺は彼女のそういう優しい部分が堪らなく大好きだった。

この人となら明るい将来を作れると思ったし、この人と一生一緒に生きていきたいと思った。

それこそ綾乃以外の女は考えられないほどに──。


「じゃ、私は片付けてくるから、悠真さんは紗良にお部屋を案内してあげて?」


お盆を持った綾乃がキッチンへと消えていく。

俺はその背中を見送りながら、ソファに座ったままの紗良に向き直る。


「じゃ、行こうか」

「……うん、でも……」


「お姉ちゃんとお義兄さん……ちょっと妬いちゃうかも〜」


聞こえるか聞こえないか程度の声量で漏らした言葉。

そのままゆっくりと紗良が立ち上がったことで確認するタイミングを逃してしまう。


「──何ぼーっとしてるんですか? 早く案内してくれません? お義兄さん?」


「あっ……いや、ごめんごめん」


思考を遮られハッと我に返る。


「ほらほら、早く行きましょうよ? ね?」


急かすように俺の腕を掴んで引っ張り上げる紗良。

その拍子に彼女の柔らかい胸元が肘に押し当てられてしまう。

しかしそれも気にするそぶりを見せずに、紗良はぐいぐいと俺の腕を引っ張ってくる。


「ちょっ……紗良ちゃん」


思わず制止しようとしたところで、キッチンの方から水の流れる音が聞こえる。

洗い物をしている綾乃だ。

幸いこちらには気づいていないようだ。


「ん〜? どうしましたぁ〜?」

「いや……その、近いから」


そう漏らした俺に、紗良はぱちりと瞬きをする。

自分が何をしているのか、本当にわかっていないのか──。

しかしそれも一瞬のこと。

すぐに唇の端を小さく持ち上げる。


「えー? これくらい普通じゃないですか?」

「ふ、普通……?」


「そ。少なくともあたしの中では普通です」


さらりと言い切られてしまった。

これ以上追求すると、むしろこちらの方が過剰に意識しているみたいで、それ以上何も言えなくなってしまう。


腕に絡む細い指。

肘のあたりに触れたままの柔らかい感触。

さらさらと流れるボブカットの黒髪からは、綾乃とは違うシャンプーの甘い香りが漂ってくる。

無邪気なつもりかもしれないが、明らかに距離感がおかしい。


まずい。

意識するな。

綾乃の妹だ。

これからしばらく、同じ家で暮らすことになる家族だぞ。


そう自分に言い聞かせながら、俺は紗良に引っ張られるようにしてリビングを出た。


廊下に出ると、キッチンから聞こえる水音が少し遠くなる。

食器の触れ合う小さな音。

綾乃が洗い物をしている音。


「こっち」


俺は廊下の奥にある部屋を指さした。


「ここ、今日から紗良ちゃんに使ってもらう部屋。普段はほとんど物置みたいになってたから、最低限しか片付けられてないけど」

「へぇ……」


ドアを開けると、紗良は俺より先にスタスタと中へ入っていく。

大きなスーツケースを引きずる音が、フローリングに響き渡る。


部屋は六畳ほど。

ベッド代わりに使える折りたたみ式のソファベッドと、簡単なローテーブル。

クローゼットの中には綾乃が用意した新品のハンガーが何本か掛かっている。

窓際には小さな空気清浄機。

そして机の上には、綾乃が『紗良が困らないように』と置いておいたタオルや歯ブラシ、使い捨てスリッパが綺麗に並べられていた。


いかにも綾乃らしい気配りだった。


「お姉ちゃんっぽいな〜」


紗良がぽつりと呟いた。


「え?」

「こういうのちゃーんと全部用意してくれてるんだもん」


紗良はローテーブルの上に並べられたタオルや歯ブラシを手に取り、少し呆れたように笑った。


「お姉ちゃんって昔からこうなんですよ。自分のことより先に人のことばっかり考えるの」

「……いいお姉さんなんだな」


そう答えると、紗良は少しだけこちらを振り返った。


「お義兄さん、本当にお姉ちゃんのこと好きなんですね」


不意に言われて言葉に詰まる。


「……そりゃ、婚約者だし」

「ふふ。そういう意味じゃなくて」


紗良はソファベッドの端に腰を下ろした。

ぽすんと軽い音がし、いくばくかの埃が舞い散る。

同時に短いスカートの裾がふわりと揺れて、思わず視線を逸らした。


「……お姉ちゃん幸せそうだったな〜」


一通り部屋の中を見回した紗良が口を開いた。

彼女の表情には先程までの弾けるような笑顔はない。

少しだけ大人びたような顔つきで、目元の影が強くなっている。


「リビングに置いてあったパンフレット。結婚式のやつでしょ?」

「ああ。来週、見学に行く予定なんだ」


「ふぅん……」


興味があるような、ないような返事。


「お姉ちゃんが結婚かぁ」


返す言葉もなく、ただ黙って紗良のことを見つめていると、彼女は自らの膝の上に置いた手を見下ろしていた。

指先に塗られた薄いピンクのネイルが、窓から入る光を受けてつやりと光った。

相変わらず目は合わない。


「お姉ちゃんって、ずっと真面目だったから。男の人と暮らすとか、結婚するとか、そういうの全然想像できなかったんです」

「まあ……綾乃は慎重だからな」


「お義兄さんとは、長いんですよね?」

「大学の頃からだから……もう7年近いかな」


「7年」


紗良はその数字を噛み締めるように、ゆっくりと繰り返した。


「お姉ちゃんとよく続きましたね。あの堅物のお姉ちゃんと」

「ああ、うん……」


「7年かぁ……」


それはただの時間の数字。

だけど紗良が口にすると、特別な意味を持っているように聞こえた。


「すごいですね。お義兄さんってそんなに長く誰かを好きでいられるんだ」

「別に、そんな大したことじゃないよ」


「大したことですよ」


即答。

少し驚いて紗良を見るも、彼女は至って平然としながらローテーブルの上に並べられているタオルを一枚手にとって眺めているだけだった。


「だって、あたしにはまだわかんないもん。7年も誰かのこと大事にする感じ」

「これからわかるんじゃないか? 紗良ちゃんも」


「んー……どうかなぁ」


紗良は曖昧に笑って、ソファベッドの上に手をついた。

その拍子に身体が少し後ろへ傾く。

薄手のニットが胸元に沿って形を変え、脚を組み替えた膝のあたりでスカートがわずかに上がる。

俺は慌てて視線を外した。


「……お義兄さん」


呼ばれて肩が跳ねる。


「今見ないようにしました?」

「いや、別に」


「ふふ。やっぱり真面目。見ても別に減るもんじゃないのに」

「そういう問題じゃないだろ……! 紗良ちゃんはもう少し自分が女の子だって自覚した方がいい」


口にしてから少し強く言い過ぎたかもしれないと思った。

しかし紗良は怒っていないようだった。

むしろ、きょとんとした顔で俺を見上げてくる。


「女の子って自覚?」

「……綾乃も言ってただろ。ここは実家じゃないし、俺もいるんだから」


「お義兄さんも?」

「そうだよ」


「お義兄さんはお姉ちゃんの婚約者なのに?」


無邪気な声。

故に答えに詰まる。

そんな俺を見て、紗良は小さく首を傾げる。


「お姉ちゃんの婚約者なら、あたしのことなんか女として見ないでしょ?」

「……当たり前だろ」


少し早口になった。

自分でもわかるくらい余裕のない声。

紗良はその反応を見て、ふっと笑った。


「そっか」


短い返事。

それだけなのに、胸の奥に妙な引っかかりが残る。


「やっぱりちょっと妬いちゃうな〜」


それはさっきリビングで漏らした言葉と同じだった。

だけど今度の言葉は、はっきり俺に向けられていた。


「……妬くってそんな」

「だってお姉ちゃんばっかりずるいなって」


「何が」

「んー? いろいろ」


ふふっと笑って紗良はスーツケースのジッパーを引っ張った。

荷解きするようにパジャマを出す。

Tシャツにショートパンツといったラフなものだ。

そこだけを見て終わればよかったのに、俺の視線はその後に続く下着類へと引き寄せられてしまう。

深いブルーの生地にレースがあしらわれたセクシーなものまで混じっている。


「や、ちょっとそういうのは俺が出てってからやってもらえるかな?」


そう言うと紗良は動きを止めて俺を一瞥する。

その表情は無邪気なのに、どこかからかうような笑みが浮かんでいた。


「えーなんでですか?」

「いや……見ちゃ悪いだろう」


「別にいいですよ〜」


そう言ってから、紗良は何気ない動作で手を伸ばし、スーツケースの中で見つけた下着をもう一枚取り出した。

黒いレースのものだった。

しかも、両脇が紐になっている。

俺の喉が小さく鳴る。


「い、いや! だ、ダメだろ!」

「お義兄さん、どうしたんですか? 顔、真っ赤ですよ?」


クスクスと笑う。

その表情の奥にある意図は読めない。


「あたしの下着見たくらいでそんなになるんですね〜。もっと堂々と見ててもよかったのに。別に減るものじゃないですし」

「そ、そういう問題じゃないだろ……! もういい、とにかく部屋はこれで全部だから!」


後ろから紗良が何か言う声が聞こえた気がしたが、俺は慌ててドアを閉めた。

廊下に戻るとキッチンからの水の音が再び大きく聞こえてくる。


「はぁ……」


思わずため息を吐いてしまう。


『お姉ちゃんばっかりずるいなって』


頭の中で紗良の言葉を反芻する。

彼女がどういうつもりで言ったのかまるでわからない。

けれど胸に微かに刺さった棘のような違和感が、ずっと消えてはくれなかった──。


………

……

…

##P3 婚約者との夜@綾乃との男性主導のセックス


紗良がきた初日の夜──。

久しぶりに綾乃を抱いた。


………


「ふふ……ん、んっ……」


互いに脱ぎ捨てた服が床に散らばる寝室。

ベッドサイドの間接照明がわずかに灯る薄暗闇のなか、俺たちは生まれたままの姿で重なり合っていた。


「ぁ……んっ、あ……」


綾乃は俺の首に腕を回し、柔らかく温かい胸が俺の胸板に押しつけられる。


「んっ……ふぅ……」


喘ぐ度に綾乃の鼻腔から甘い息が漏れ、それが俺の耳をくすぐる。


「綾乃、気持ちいい?」

「うん……悠真……」


お互いの肌が触れ合うとそれだけで安心できる。

ずっとこうしていたい。

彼女だけを愛し続けていたい。


「あっ……!」


激しい抽挿に綾乃の身体が仰け反り、膣がギュッと締まる。


「くっ……」


あまりの締め付けに射精しそうになるも、必死に堪えた。


「はぁ……はぁ……悠真さん……好き……」


彼女の秘肉は熟れた果実のように熱く蕩け、俺を優しく包み込んでいた。

綾乃との行為は穏やかで愛情に満ちており、確かに満たされるものがある。

彼女の慎ましやかさは俺を尊重してくれる。

だからこそ俺は彼女を大切に思うし、生涯を誓ったのだ。


しかし──。


(……少し何かが欠けている)


そんな思いが脳裏を掠める。

もちろん綾乃が悪いわけではない。

彼女はこれまで大切に育てられてきたのだし、性に関して積極的になること自体が難しいのは理解している。

それでも、今の夜伽は儀式のような神聖さがあって、欲望を剥き出しにする熱さにはどうしても乏しいのだ。

言うなれば、愛はあるが情熱は欠けている。


「──ぁっ、んっ……ふぅ……」

「はぁ……はぁ……綾乃……」


彼女の細い腰を抱きしめながら、俺はその身体をもう一度貫いた。

ぬぷぬぷとした粘膜の擦れる音が部屋に響き、綾乃の口からも甘い声が漏れる。

だが、俺の頭の片隅に浮かんだのは、昼間にスーツケースから下着を取り出して笑う彼女の姿だった。

その瞬間、身体の中を駆け巡る快感とは別の感情が芽生える。


「んっ……ふっ……」

「……綾乃、イクよ……」


「あっ……きて……! わ、私もっっ」


彼女の肉壁がぎゅうっと俺自身を包み込んだ瞬間、俺は堪えきれずに彼女の中に精を解き放った。


「──っっ!!!」


大量の精子が尿道を通って飛び出した衝撃に、全身が震え上がる。

そしてその快感に比例するように、俺の頭の片隅で小さな違和感が膨れ上がっていた──。


………


不満なんてあるはずがない。

そうやって自分に言い聞かせるように、俺は事後の綾乃の裸身を強く抱きしめた。

互いの汗ばんだ肌が密着し、どろりとした幸福感が身体中に満ちていく。


「ん……」


腕の中で小さく呻く綾乃。

身持ちが堅く、性に奥手。

初めて結ばれたのだってごく最近。

俺が求めなければ何もできないし、積極的に奉仕したりましてや自分から求めたりもしない。

それは彼女の生い立ちによるもので、悪いところではないし、俺は綾乃を尊重している。

婚約という正式な契りを経て初めて身を許してくれたところに彼女の家の厳しさと彼女自身の真面目さを感じたものだった。

それだけ俺のことを信頼して、大切にしてくれているのだと嬉しくなる一方、こうも性に関して潔癖となるとどうしても、いくばくかの物足りなさを覚えてしまう。


綾乃の身体は白く瑞々しく、手を滑らせれば吸い付くよう。

しかし、それ以上の衝動を与えてくれるものには欠ける。

まるで綺麗な温室のバラだった。

触れることもできるけども、傷つけない範囲でのみ鑑賞することを許された、気高い花。


俺は彼女を大切にする、しなければならない。

そのはずだ。


なのに、俺の脳裏にはまだあのスーツケースの下着の色が焼き付いて離れてくれなかった。

綾乃を抱きしめながら、その温度を感じながら、どうしても思い浮かぶのは別の人間。

無邪気な微笑みを湛えた年下の少女の姿だった。


「……」

「急にどうしたの? 今晩ヤリたいだなんて言い出しちゃって? 紗良だって隣の部屋にいるのに……♡」


求められることがよほど嬉しかったのだろう。

はにかんだ綾乃が普段口にすることのないような言葉を漏らした。

そして俺はそれに小さく頷いた。

彼女と愛し合いたいという願望が身体の奥底から湧き起こり、俺は彼女の唇を塞いだ。


「んっ……んんっ……ふぁ……」


舌を絡ませ、唾液を交換するように激しいキスを交わす。

されるがままの綾乃。

脳内に湧いてきた女の顔を忘れようと、一心不乱に目の前の恋人を求め続けた。


「んっ、んっ……んくっ……ぁ、悠真……」

「はぁ……はぁ……綾乃」


貪るように彼女の唇を吸い上げるものの、やはり何か物足りない。

それは満足できていない証拠だろうか。

俺は今一度彼女の舌を吸い上げて、そして唾液を流し込む。

綾乃はそれを躊躇なく飲み干し、自らの唾液を俺に求めてくる。


「んっ……ふぅ……んんっ」

「はぁ……はぁ……」


「ふふっ……私達身体の相性もバッチリだね、悠真さん……♡」

「あぁ……綾乃。最高だったよ……」


確かめるように呟いてみたものの、やはりどこか納得できない部分があった。

それはおそらく綾乃ではなく俺自身の問題なのだろう。

綾乃との夜伽が物足りないのではない。

俺自身が欲を持て余しているから──。

そう結論付けるしかないと思っていた。


「ふふっ」


突然笑い声を上げた綾乃は、その端正な顔をくしゃっと崩して笑みを浮かべる。


「私、今とっても幸せ……♡」

「綾乃……俺もだ……」


彼女の幸福に満ちた瞳が、暗闇のなかで爛々と輝いていた。

その純粋な眼差しを受け止めているうちに、俺も徐々に冷静さを取り戻し、ようやく満足できていなかった自分への苛立ちを抑えることができたのだった──。


………

……

…

##P4 義妹の指摘@妹の紗良に夫婦の営みを指摘される


「お姉ちゃん達、ちょっと激しすぎ〜」

「ブフォッ!!」

「えっ!?」


翌朝、あまりにも唐突な紗良の物言いのせいで、飲みかけていたコーヒーを盛大に吹き出す羽目になった。

当然ながら、隣で食べかけのトーストを持っていた綾乃も、目を丸くしながら慌てたように手拭きを持ってきては俺の口元を拭ってくれている。

一方で紗良はというと、特に気にした様子もないどころか、むしろ面白そうにニヤリと笑っている始末だ。


「ちょっ、ちょっと、何のことかな〜……?」


綾乃が慌てふためくなか、俺は狼狽しながらも平静を装おうとするが、上手くはいかない。


「ね、なにが……?」

「ふふ、昨日の夜、あたしと一緒の家にいるのに、お姉ちゃんとヤってたじゃないですか。それも1回や2回じゃなくて、3回も4回も……いくら新婚さん? いや、婚約したばっかりだからって盛り過ぎだと思いますよ〜? あ、それともお姉ちゃんの身体の具合がいいんですかね? まぁあたしも居候させてもらう身なので、多少うるさいな〜って思っても目を瞑りますけど〜?」


慌てふためく俺達二人と違って、余裕綽々の紗良は手に持ったコーヒーカップに口を付けていた。

そのカップをソーサーに置くと同時に、彼女の視線がこちらへと向けられる。


「それに、お姉ちゃんも随分と気持ち良さそうな声を出していましたね? もしかして……相当溜まってたんでしょうか? あんな声、家じゃ聞いたことないなかったのに、クスっ」


挑発的に微笑まれるだけで動悸が激しくなる。

何せ昨晩は俺の方が久々に燃えてしまって、普段よりもずっと多く綾乃を抱いてしまったのだ。

おかげで俺も彼女も身体はかなり疲れていたし、きっとそれだけ派手に楽しんでいれば、隣の部屋からも聞こえていたのだろう。


「ちょ……」


当の綾乃はというと、今まで見たことのないくらい顔を真っ赤に染め上げていた。

どうやら昨晩の自分達の営みについて触れられるのがよほど恥ずかしいらしい。


「ご、ごめんね紗良。昨日はちょっと羽目を外しちゃって……」

「いいえ〜、あたしは元々居候ですから、それなりの覚悟はできてますし? とはいえ、お義兄さんもお姉ちゃんも仲良いようで何よりでした」


綾乃は真っ赤な顔で俯いたままだったし、俺も冷や汗が止まらなかったのだが、紗良はそんな俺達の心情を知ってか知らずか、マイペースに朝食を続ける。


「……ふふっ、冗談ですよ。お姉ちゃんとお義兄さんの仲を邪魔しようだなんてあたしは思ってないですから」


そう言いながら悪戯っぽく微笑む彼女を前にして、何となく居心地が悪くなった俺は俯いたままコーヒーの残りを一気にあおる。

喉を通る熱さと苦さで多少心は落ち着いたものの、やはり気まずさだけはどうしようもなかった。


「じゃ、あたしはお熱いお二人の邪魔しちゃ悪いので、早めに大学へいかせてもらいますね〜っと」

「ははは……」


乾いた笑い声を上げながら、内心で冷や汗がダラダラであった。

まさかこんな形で昨日の営みを暴露されるとは思わなかったのだ。


………


「……ごめんね悠真さん。私がうるさくしすぎちゃったから」


紗良が出て行った後、綾乃が申し訳なさそうに謝ってきた。


「俺のほうこそごめん。妹の紗良ちゃんがいるというのに……」

「ううん、それは紗良が居候してるっていうのもあるし、私も悠真さんに求められるのは嬉しいし……むしろいっぱい甘えちゃったのは私の方だから」


こう屈託なく微笑まれてしまえば立つ瀬もない。

ましてや妹の紗良ちゃんの瑞々しい身体とセクシーな下着を見てしまったせいで興奮してしまい、何度も綾乃の身体を求めてしまったなんて口が裂けても言えない。


「……そろそろ俺たちも仕事行く支度しないとな。綾乃」

「う、うん、そうだね」


二人きりになってしまったせいか、あるいは昨日の夜を思い出したからなのか、その両方か。

改めて、綾乃は恥ずかしそうに頬を染めてはもじもじとしながら小さく呟いたのだった──。


………

……

…

##P5 距離感@紗良の誘惑、間接キス


紗良の告発があってから数日の間、特に何か変わるということはなかった。

俺も綾乃も表面上はいつも通りで、朝起きて一緒に食卓を囲み、職場へ向かい、帰宅すれば夕飯を摂ってそれぞれの部屋で過ごす。

そんな毎日に紗良も溶け込み、すぐに俺たちの生活に馴染んでいったのだった。


そんなある日。


………


「……あれ、お義兄さん、もう帰ってたんですね」

「あぁ、ちょっと役所に用事があって午後休をもらったんだ。……紗良、ちゃんは?」


玄関からあがってきた紗良が、スタバのカップ片手にリビングへと入ってくる。

綾乃の妹とはいえ、綾乃が不在の時に他の女と二人きりというのは些か抵抗があったが、紗良はそんなことをまるで気にしていないようだった。


「あたしは午前で講義が終わって、友達とちょっとカラオケしてきました〜」

「……そうなんだ」


「うん。それで帰り際に、近くのスタバの新作フラペチーノを買ってきたんですよ。お義兄さんも一口いかがですか?」


彼女はそう言って、手に持っていた透明なカップを掲げるように差し出してきた。

太めのストローには白いクリームの跡。

その下にピンク色の色素が見える。

咄嗟に紗良ちゃんの唇を見てみると、同じ色のリップグロスが塗られているのが分かった。


「い、いや……俺はもうコーヒー飲んだし大丈夫だよ」

「えー? せっかくの新作フラペチーノなんですけど? ほら、一口だけでもどうぞ〜?」


ローテーブルを挟んで向かい側から立ち上がった彼女が、すかさず横へ滑り込んでくる。

自然な動作のはずなのに、不自然なくらい距離が近い。

さらっと靡いた髪からふわりと香るのはシャンプーの香り。

ほんのりとした桃の甘い匂い。

大きな瞳でじっと見上げられ、不覚にもドキッとしてしまう。


「ほら、お義兄さん、遠慮しないで」

「いや、遠慮っていうか──」


「お姉ちゃんにはおやつにスタバ飲んだこと内緒にしといてあげるからさ~」


そう言って自分の飲みかけのフラペチーノを再度俺に勧めてくる。


「…………」


そこまで言われると、逆に断りづらくなるというもので──。


「……わかったよ。一口だけな?」

「そうこなくっちゃ、ふふっ」


紗良の手のある飲みかけのカップのストローに口をつける。


──ごくっ……。


一口飲めば、クリームと果実の混じった甘酸っぱい味が口中に広がった後、舌に感じる甘ったるいミルクと少し苦いコーヒーの味。

俺がストローに口をつけることで、吸い終わったストローの端から覗く桃色のグロスの跡がより鮮明に目に入る。

それも束の間。


「あたしももらお〜っと」


急に引ったくられたプラスチックのカップ。

小さく口を開いた紗良が、俺の飲んだストローに口をつけた。


──ちゅぅ〜〜……♡


リップのシワまではっきりと見える距離。

瑞々しく、柔らかそうな唇が目の前でストローに吸い付いた。

そのまま吸い込まれるように果汁が喉を通っていく。


──ごくり♡


飲み込むたびに、首筋に浮いた喉仏が上下する。

彼女の唇が挟み込んでいるストローが、さっきまで俺が咥えていたものだと思うと奇妙な背徳感を覚えていた。


「うん、美味しい〜。やっぱり新作フラペチーノは外さないですね〜」


中身を飲み干した紗良の口から甘い吐息が漏れ出してくる。


「ん、あ……? まだクリームついてるかも……♡」


──れろぉ……♡


桃色の唇の隙間から這い出てきた真っ赤な舌が、上唇から下唇を舐め上げる。

紗良の唇についた白色のクリームが消え失せていくさまを、俺は無意識に凝視してしまっていた。


「あ、お義兄さんにもついてますよ?」

「え……? あッ……!」


自分で拭う間も無く、伸びてきた紗良の人差し指が俺の口元を撫でて──。


「──ッ!」


突然の出来事に驚いて固まる俺に構うことなく、紗良の指先は優しくゆっくりと俺の唇の周りをなぞった後、こともなげに自分の口元へと運んでいく。


──ぺろっ……♡


彼女の舌が指先に付着したクリームを舐めとった刹那、紗良の瞳がこちらに向けられた。

大きくて丸い、黒目がちな瞳。

次の瞬間にはその瞳が品定めでもするかのように悪戯っぽく弧を描き、すぐさまふわりと優しい微笑みに変わる。


「──美味しかったですか?」

「あ……いや……う、うん……」


「ふふ。良かった」


そう言ってニコリと微笑む紗良。

その仕草ひとつひとつがいちいち可愛らしい上に、どこか蠱惑的なものを感じてしまう。

しかし俺はその感情を抑えつけた。

抑えつけるしかなかった。

変に意識する方がおかしいのだ。


「……それにしても、新作フラペチーノ美味しいですね〜。毎日でも飲みたいかも〜」

「はは……そりゃあ凄いな」


「でもカロリーがなぁ……。夕飯あるのにこんなものを飲んじゃったことはお姉ちゃんには秘密にしておいてくださいね? 約束ですよ? お義兄さんが間接キスしてドキドキしちゃったことも黙っておいてあげますから、ふふっ」

「んぐっっ……!! お、俺は別にッッ……!」


「へぇ〜? 別に、何ですか? その様子だと、あたしの口に触れたストローにやっぱりドキドキしてくれてたってことじゃないですか〜? あたしは冗談で言ったつもりだったんですけど、ふふっ」

「あっ……いや……その……」


まずい。

これでは『紗良との間接キスにドキドキしてました』と自白したようなものではないか。

否定すべきなのに、紗良にそう言われると焦ってしまい、弁明すればするほど泥沼に嵌るという負の連鎖。

まるで紗良の手のひらの上で踊らされているかのようだった。


「も、もうその辺にしといてくれって……」


耐えきれなくなって、半ば助けを乞うように小さく呟く。

しかし紗良の口から飛び出してきた言葉は俺の予想を大きく上回るものだった。


「じゃあ、あたしもドキドキさせてもらおうかな〜……♡」

「え──」


突然、目の前までにじり寄ってきた紗良の顔。

その大きな瞳がこちらを捉えて放さず、次第にその距離が縮まってくる。

気づけばあと数センチ。

口の端から漏れる甘い吐息が頬を撫で、唇には今にも彼女の柔らかい感触が伝わりそうだ。


「……はい、ここまで」

「あ……」


突如として終わりを告げられた至近距離の攻防。


「冗談ですよ〜」


パッと離れた紗良の唇。

そこにら悪戯が成功した子供のような無邪気な笑みが浮かんでいた。

俺の頬を指先でツンツンとつつき、楽しそうにケラケラと笑っている。


「ふふ。冗談に決まってるじゃないですか〜。ちょっとびっくりしました?」

「え、あ……ははっ……や……」


「だけど、お義兄さん、これだけ近づかれても全然嫌がらないですよね〜?」

「え……いや、その……」


「ほら〜、そうやって目を泳がせちゃうのも可愛いなぁ〜♪」

「か、からかうなって!」


「ふふ、可愛い可愛い〜♡」


紗良はまるでお菓子の箱を開ける時の嬉しそうな少女のように目を細め、悪戯っ子のような表情を浮かべた。


「知ってます? 人にはそれぞれパーソナルスペースっていう領域があって、他人にそこへ入られると不快に感じたり、警戒したりするんです」

「それくらいは、まぁ……聞いたことあるけど」


「ですよね。普通はそうなんです。だから、あたしが今みたいに急に近づいたら……大抵の人はちょっと身体を引くんですよ」


そう言いながら、紗良は自分の膝に手を置いて、ほんの少しだけ身を乗り出してきた。


さっきより近い。


けれど触れているわけではない。

逃げようと思えばいつでも逃げられる距離。

なのに、俺は動けなかった。


「ほら」


紗良が嬉しそうに目を細める。


「お義兄さん、下がらない」

「いや……別に……」


「ふふ。別に……なんですか?」

「その……下がるほどじゃないっていうか……」


「へぇ。じゃあ、これは平気なんですね」


また少し、紗良が近づいてくる。

ソファのクッションが沈む。

そのわずかな揺れが、彼女の身体がこちらに近づいていることを妙に生々しく伝えてきた。


桃のような甘い香り。

さっき飲んだフラペチーノの甘酸っぱい匂い。

そして彼女自身の体温と、少し触れ合った柔らかい女の子の身体。


それらが混ざって、息をするたびに頭の奥がぼんやりしてくる。


「……近くないか?」

「近いですよ?」


「ッ……」


あっさりと言われて言葉に詰まる。


「でも、不思議ですよね。近いってわかってるのに……お義兄さん、逃げないんです」

「逃げるって……そんな大袈裟な」


「ううん。大袈裟じゃないですよ」


至近距離で発せられる紗良の声が、ほんの少し小さくなる。

何かイケナイ秘密を共有するかのように。

何かイタズラを思い付いた子供のように。


「人って本当に嫌だったら、ちゃんと離れるんです。身体が勝手にそうするんです。なのに、お義兄さんは……困った顔はするのに動かない」

「……ッ」


「目は泳ぐし、耳は赤くなるし、声もちょっと上擦るのに……でも、距離だけはそのまま」


紗良が俺の反応をひとつずつ拾い上げるように口にする。

俺自身ですら気づきたくなかったものを、ひとつひとつ丁寧に指でなぞっていくみたいに。


「そういうの、あたし、ちょっと可愛いなって思っちゃいます」

「か、可愛いとか言うなって……」


「じゃあ、かっこいい方がいいですか?」

「そういう問題じゃなくて……」


「ふふ。じゃあ、困ってるお義兄さん?」


悪戯っぽく笑った紗良が、さらに顔を近づけてくる。

唇と唇が触れるまであと1センチ。


吐息が頬を撫でる。

紗良の口から甘酸っぱい匂いが吹き付けられる。


拒絶しなきゃ。


だけど、ここまでいいように言われて、今更距離を取るのも格好悪く、なんだか負けた気になってしまう。


胸の奥が妙にざわつき始める。


「……どうですか?」

「な、何が……」


「この距離」


紗良は囁くように言った。

さっきよりも小さな声。


「嫌ですか?」

「……嫌っていうか……」


「嫌なら離れていいですよ?」


逃げ道を用意してくれているように聞こえた。

だけど、実際にここで距離を取ったら、俺が彼女に強く意識しているということを証明してしまう気がする。


「……ほら」


紗良が小さく笑う。


「やっぱり離れない」

「違う。別に、そういうつもりじゃ……」


しまったと後悔するも、遅かった。

彼女の思い通りになってたまるかとちう俺の心に芽生えた妙な克己心が、かえって紗良の言葉を肯定する結果を招いてしまう。


「そういうつもりって、どういうつもりですか?」

「だから──ッ!」


「お義兄さんって面白いですね」


歳上の自分に対して物怖じしない積極的な行動。

そしてそれが本気で咎められないことを……俺が本気で怒らないことを彼女はわかってやっているのだ。


「自分が困ってるのにあたしのこと拒まないですし……」

「お、俺だってそりゃ……!」


「じゃあ、もう一回試してみます?」


言うが早いか紗良はすっと身体を引いた。


甘い匂いが遠ざかり、頬を撫でていた吐息の感触もなくなった。

目の前にあった彼女の透き通った瞳が少しだけ遠くなる。

その瞬間──。


「……あ」


思わず漏れた声。

小さなそれを紗良は聞き逃してはくれなかった。


「今の何ですか?」

「いや……何でもない」


「ふふ。何でもない声じゃなかったですよ? 少し残念そうな……」


グググと紗良がまた近づいてくる。

今度はさっきよりも──。


「お義兄さんって、もしかして……近づかれるのが嫌なんじゃなくて」


そこで紗良は言葉を切った。

大きな瞳がじっと見据えてくる。


「近づかれて困ってる自分を、見られるのが恥ずかしいだけなんじゃないですか?」

「……ッ」


言葉に詰まる。

何も言い返せない。

図星だったのか?


いや、違う。

違うはずだ。


そもそも相手は綾乃の妹で、俺にとっては義理の妹みたいな存在で。

こんなふうに距離を詰められて意識する方がおかしい。


おかしい、はずなのに。


紗良の顔が近い。

柔らかそうな唇の表面に輝くグロスの艶感。

さっきストローを咥えていた唇……その唇と、俺は間接キスをして……。


至近距離で見せつけられて、考えないようにと意識する方が難しかった。


「お義兄さん」


呼ばれたのは名前ではない。

なのに……改めて線引きをされるような他人行儀な呼び方なのに、なぜかドキドキしてくる。

その響きによって、逆にこちらの逃げ道を塞いでくる。


「こんなに近いのに……ほんとに嫌ならちゃんと言ってくださいね?」

「……あ、あぁ」


「言わないなら……あたし、平気なんだって勘違いしちゃいますよ?」

「それは……」


「違います?」


紗良の瞳がまっすぐにこちらを覗き込んでくる。

責められているわけではないのはわかっている。

むしろ茶化されてからかわれているだけ。

だからこそ、なおさら紗良の言葉に反論も拒否もできなかった。

こんなことでムキになっていると思われたくなかった。


「……別に、嫌ではないけど」


口にした瞬間、自分でもしまったと思った。

同時に紗良の表情が、ぱっと明るくなる。


「ふふっ。じゃあ、よかった」

「や、今のはそういう意味じゃ……」


「そういうつもりじゃないことくらいわかってますよ〜? ふふっ」


紗良はくすくす笑いながら、楽しそうに頷いた。

完全に遊ばれている。

そう分かっているのに、強く突き放すことができない。

むしろ、彼女が笑ってくれたことにどこか安堵している自分がいた。


「お義兄さんって、優しいですよね」

「急に何だよ」


「だって、あたしが近づいても怒らないし、冗談にも付き合ってくれるし」

「怒るようなことじゃないだろ……」


「そうですか?」


紗良は首を傾げる。


「でも、綾乃お姉ちゃんが見たら怒るかもしれませんよ?」

「……ッ」


その名前が出た瞬間、現実に引き戻された。


綾乃。


そうだ。

俺には綾乃がいる。

今こうして紗良と二人きりで、こんな距離で話していること自体、本来なら褒められたものではない。

慌てて身を引こうとする。


だが。


「……あ」


それより先に、紗良の指先が俺の袖口を軽く摘んでいた。

強い力ではない。

振り払おうと思えば簡単に振り払える。

それなのにその小さな力に抗えない。


「怒られたくないですか?」

「当たり前だろ……」


「じゃあ、これは二人だけの秘密ですね」


紗良がにこりと笑う。

あまりにも無邪気な笑顔。

けれどさっきまでより少しだけ、目の奥に悪戯の色が濃くなっている気がした。


「スタバを飲んだことも」


指が一本立つ。


「間接キスでドキドキしちゃったことも」


二本目。


「パーソナルスペースに入られても、全然逃げなかったことも」


三本目。


「ぜ〜んぶ秘密です」

「……そんな言い方するなよ」


「ふふ。だって本当のことじゃないですか」

「本当じゃない」


「じゃあ、どこから違います?」


問いかけられて、返事に詰まる。

スタバを飲んだことは事実。

間接キスを意識したことも……事実。

距離を詰められて逃げなかったことも……事実だった。

つまり、否定できない。


「……意地悪だな、紗良ちゃんは」

「あ、初めて言われました」


「嘘だろ」

「ほんとですよ? あたし、基本いい子なので」


そう言って紗良は、わざとらしく腰に手を当て『えっへん』と微笑んだ。

その表紙に眼下で豊かな胸が弾む。

本人は気がついていないのか、あまりにも無防備だ。


「でも、お義兄さんの反応が可愛いから……ちょっとだけ意地悪したくなっちゃうのかもしれません」

「だから可愛いって言うなって」


「じゃあ……」


紗良は少しだけ考えるように視線を落としたあと、またこちらを見た。


「素直じゃないですね」

「……ッ」


「ふふっ。じゃあ、最後にチャンスをあげます」


紗良がゆっくりと目を閉じる。

瞼が降りた途端、幼さの残る顔立ちがさらに無垢に見えた。

その直後、彼女は顔をゆっくりと傾け、唇をわずかに突き出した。


「…………ッ!」


キス待ち。

彼女が唇を突き出して目を閉じた瞬間、俺は反射的に腕で押し退けてしまった。


「──んっ?」

「何してんだよ……っ!」


「あれ、ダメでした?」

「当たり前だろ……」


「ふーん? 残念です〜」


くすくすと笑う彼女の顔には、やはり悪戯が成功した子供のような笑みが浮かんでいた。

俺の袖口を掴んだ指先がそっと離れ、紗良はソファの上で少し距離を取る。


「冗談です♪」

「はぁ……勘弁してくれって……」


ほっと息をついて肩を落とした俺に、紗良は心底楽しそうな声で言ってのける。


「もしここでちゅーされてたら、あたし、絶対お姉ちゃんにチクってましたよ〜? お義兄さん、あたしにこんなことしちゃったんだよ〜って?」

「じょ、冗談きついよ紗良ちゃん……俺は絶対しないって」


「絶対……ねぇ〜……?」


紗良ちゃんが目を細め、妖しく笑ったその時だった。


──ピンポーン♪

──ガチャ。


「ただいまー」


玄関から聞こえる足音。

綾乃が仕事から帰ってきたのだ。


「あ、お姉ちゃん帰ってきちゃったみたいですね。今日あったことは二人の秘密ってことで……♡」


「……お姉ちゃんおかえり〜」


──パタパタパタ。


ソファから立ち上がった紗良が玄関の方へと駆けていく背中を見送りながら、俺は一人リビングで深いため息を吐いた。

頭の中に蘇る先ほどまでの濃厚な距離感、煽情的なまでの悪戯っぽい微笑み。


──こんなのダメだ。


わかっている。

だが綾乃に言えるか?


妹の紗良ちゃんにキスされかけました。


言えない。

そんなこと言えるわけがない。

それが、いくら紗良の方から仕掛けてきたことだとしても。

この幸せを崩すわけにはいかない──。


「お姉ちゃん、お風呂先に入っていい? 身体がベタついててさ〜?」


廊下から紗良と綾乃の話し声が聞こえる。


「うん、いいよ〜」

「ありがと〜、じゃあ先にいただくね〜」


足取りの軽い紗良がスキップでもしそうな勢いで浴室へと向かっていく。

脱衣所の扉の向こうへ消える直前、俺の方を向いた紗良が人差し指を口元に当てながら目配せしてくる。


「(お義兄さん、さっきの秘密ですよ〜?)」


唇の動きでそう伝えているのは明白だった。

俺が固まっているのを見て紗良は満足げに笑う。

そして脱衣所の扉が閉まった。


「あ……おかえり綾乃」

「ただいま悠真さん。早かったんだね?」


「うん。役所の用事が早く済んだから、そのまま直帰してきたんだ」

「そっかそっか〜。偉いねぇ悠真さんは〜」


帰宅するなり俺の顔を見てふにゃりと破顔する綾乃。

お疲れ気味の声に合わせて、いつもはキチンとセットされている栗色の髪も、仕事終わりで今は毛先がやや乱れている。


「んっ……♡」


小さく囁いた綾乃がそっと目を瞑り、唇を尖らせた。

キスの合図。

その要求に応えるように、俺は綾乃を首元から抱き寄せ唇を重ねた。


──ちゅっ……♡


「じゃ、ご飯作るからね?」


しかし、その時俺の脳裏に浮かんだのは綾乃の唇ではなく、紗良の瑞々しい桃色のリップだった──。


………

……

…

##P6 罠@紗良の部屋で紗良と二人きり、耳舐め、服の上から陰茎を掌で撫でられる、生手コキ、マゾバレ


そんなキス未遂事件があった翌日。

リビングでは事件が起きていた。


「あ〜〜〜、最悪〜〜〜。人生終わりだーーー」


リビングのソファーに倒れ込んだ紗良が、クッションに顔を埋めながら悶絶した。

隣では、俺と綾乃が苦笑しながらその様子を見守っている。


「ねえ、ねえってば。ほんとに……わかってる? お義兄さんってば!」

「はいはい。わかった、わかったよ」

「ごめんなさいね悠真さん……紗良はこうなったらテコでも動かないっていうか……その〜……」


「いや、別に構わないよ。これくらいは……」

「お義兄さん! なんとかしてくれませんか! あたしが生きてるこの世から推しのコンサートがなくなるなんて……そんなの生き甲斐がないじゃないですか!! それとも何か他に楽しいことがありますか!?」


「お、おう……まぁそう落ち込むなよ。きっとまた別の機会があるだろ?」

「ええーーー、ほんとですかぁ? あたし、ほんとに辛いんですぅぅ……」


「あぁ……わかったって……」

「だから慰めてくださいよ〜お義兄さん〜〜〜」


そう叫んで、ソファでクッションを抱きしめながらゴロンと身体を左右に振る紗良。

彼女の最推しである『ミスターブルーアップル』というバンドのライブの抽選から漏れたらしいのだ。

コンサートひとつで何事かと心配していた俺たちであったが、話を聞けば聞くほどどうでもよくなってきた。


「はぁ……」


呆れてため息をついてしまった。

綾乃も頭を抱えている。


「ほら、紗良。もう泣き止みなさいって。今度別のライブがあればまた行けるじゃない?」

「今という時は二度と訪れないんだよお姉ちゃん……それに今回はミスターブルーアップルにとって10周年記念公演でしかもファンクラブ先行限定ってことで、超絶貴重なんだよ? これが手に入らないなんて本当に悲劇……」


時間は深夜24時。

明日も仕事があるのに紗良と言えば、このままソファから起き上がって来ない様子だ。


「……悠真さん、ほんと申し訳ないんだけど……。紗良を部屋のベッドまで運んであげてくれる? こうなるとほんと動かなくて……昔からお父さんに頼んで運んでもらってたんだけど、ここには男手が悠真さんしかいなくて……私じゃ運べないし……」

「いいよ。任せて」


「ほんとごめんね〜……。ありがとう。紗良〜? ほら、悠真さんがベッドまで運んでくれるって。部屋に行きなさい?」

「む〜〜〜あたしは明日には死ぬんだ〜〜〜」


「はいはい……わかったってば……」


綾乃がため息をついたのを見て、俺は苦笑いしながら紗良を抱きかかえようと両腕を伸ばした。


「よいしょっと……」


彼女の腰に手を回し、小さな身体を抱き上げる。

思ったよりもふわっと軽かった。

それなりに力を入れて持ち上げたつもりだったのだが、まるで羽毛でも抱いているかのような錯覚を覚えるほど。

腕の中の紗良は俺の首元にしっかりと抱きついてくる。

駄々を捏ねるといってもさすがに落ちるのは嫌みたいだ。


「はぁ……ほんとごめんね? こんな妹で……」

「い、いや……別に……。子供みたいだなって思うだけで、別に気にしてないよ。それに、賑やかでいいじゃん」

「お姉ちゃん! あたし子供じゃないもん!」


「はいはい……じゃ、悠真さんお願いね? 私は先にベッドに入ってるから。明日も早いし……」

「おう」


綾乃はそう言い残して寝室へ向かう。

まだぶーぶーと未練を垂らす紗良であったが、このままずっとリビングで抱っこしているわけにもいかないので、俺は紗良の部屋へと移動した。


「ほら、部屋に着いたぞ。もう暴れるなって」

「む〜〜〜、もう少し待ってくださいよ〜」


「いや、ほんと暴れんなって。手を離すぞ?」

「嫌だぁぁ、下ろさないでくださぁぁい」


「おいおい……マジで頼むってば……」


駄々を捏ねて一向に降りようとしない紗良を抱えながら、仕方なくベッドの上まで連れて行くことにした。

しかし、ここで俺は致命的なミスを犯してしまう。


「んふぅ〜♡」


ふわふわとした心地いい声とともに、紗良の唇が俺の耳元にそっと触れた。


「っっ!」


その瞬間、全身にゾクリとした感覚が走る。

彼女の温かな吐息が耳たぶをくすぐり、柔らかい唇が耳の輪郭をなぞる。


「……ッ!」


慌てて身を引こうとした時には遅く、紗良は両腕を俺の首の後ろに巻きつけていた。


「ふふ、お義兄さん、敏感ですね」

「バカなこと言ってないで……離れて……くれ……」


言葉がうまく続かない。

耳をくすぐる甘い声が全身に染みてくる。


「んーっ……」

「ッッ……!」


吐息と共に紗良の唇が耳の外周に吸い付いた。

柔らかな唇が耳の凹凸に沿ってゆっくりと這っていけば、腰から甘い痺れが広がっていく。


──ぬちゅ……♡ ぬりゅぅ〜〜〜……♡


「ひゃっ……! ちょっ、やめ……」

「ふふ、やめません♪ だってせっかくお義兄さんにお姫様抱っこしてもらってるんですから、少しくらい甘えたってバチは当たらないと思いません?」

「お、お姫様抱っことかいうなっ……ひぁッッ♡」


耳たぶに温かく濡れた軟体が触れた。

その瞬間、俺の身体はびくっと跳ね上がり、抱きかかえた紗良を落としそうになる。


「ッッ……!」


紗良の舌だ。

彼女は小さな舌先を尖らせて、ちろちろと動かしながら耳穴を伺うように蠢いているのだ。


「ちょっ……紗良ちゃんっ……」

「んむ……ちゅぷ……れろぉ……ちゅ……あむぅ……はむ……♡」


ぴちゃぴちゃと淫靡な水音が鼓膜にまで届く。

柔らかい筋繊維の塊が耳の穴の中に潜り込み、舌の先端が耳の内部に敷き詰められた性感帯を舐っていけば、その甘美なる感覚は身体の末端へと駆け抜けていき、婚約者の妹に対して抱いてはいけない劣情を膨らませていく。


「んふぅ……れろぉ……♡ お義兄さん、可愛いですよ……?」

「だ、だからッッ……! や、やめっっ……! あっ♡」


──ぬぷ……ぢゅる……ちゅぷ……ちゅぱっ……♡

──ぢゅるるる……♡


「ふぅぅ〜♡ んちゅっ……あむ……♡」


耳の奥へ奥へと侵入してくる柔らかい舌先は、ぬるりと温かく。

ぬめった筋繊維が耳の中を蹂躙する度に腰がどんどん砕けていく。


「んふっ♡ れろぉ……♡ あむ……はむ……ぢゅるっ……ちゅぅぅ……♡ ぢゅぞぉぉ♡」


──ぬぷぬぷぬぷっ♡


紗良は狭い狭い耳穴に捩じ込んだ舌先を、小刻みに、ゆっくりと抜き差ししながら、耳の奥の鼓膜に向けて唾液まみれの淫猥な水音を立てていく。

唾液の糸引くぬちゃぬちゃとした音。

耳穴内部を舐め回すナメクジのように蠢く柔らかい軟体生物。

その生温かい感触が耳の奥から脳みそを直撃すれば、身体の芯まで蕩けさせる甘い快感となって襲ってくる。

耳の外側を撫ぜる熱い息遣いもたまらない。

心臓が痛いほどに脈打っていた。


「も、もう……ッ!」


最後の力を振り絞って、ようやく紗良ちゃんをベッドの上へと下ろす。

柔らかな髪がシーツに広がり、紗良ちゃんが小さく『ふぅ〜♡』と息を吐く。


「あ〜あ、お姫様抱っこ終わっちゃった〜」


すぐそばにクスクスと笑う紗良の顔。


「はぁ……はぁ……な、何考えてんだ……」


なんとか紗良をベッドに下ろすことができた俺は、ようやく大きく息を吸うことができた。

耳元にまだ彼女の体温が残っている。ぬるりと絡みつく舌の感触も、鼓膜に響いた唾液の水音も、すべてが現実。

言葉がうまく続かない。

鼓動は速いまま、身体が火照っている。

紗良は俺の腕の中で、まだクスクス笑っている。


「気持ちよかったですか?」

「……おま、お前なぁ」


「ふふ……」


抗議しようとする俺の口を人差し指でぴとりと押さえ、紗良は俺の目を真っ直ぐに見上げてくる。


「だって、お義兄さんってば、あたしのこと女として見てましたよね? だからちょっと試したくなっちゃいました♡」


「なッ……!? そ、そんなわけないだろ!?」

「えー? ほんとですかー? ふふ♡ じゃあなんで……お耳舐められただけで、ココはこんなになってるんですか〜?」


悪戯っぽく笑った彼女が細い指先を俺の股間へと伸ばしてきた。

一切の迷いなく。


──さわっ……♡


「うあ"ッッ……♡ さ、紗良ちゃんっっ……!!」

「ほら、硬くなってますよ? ココ、とっても窮屈そうで苦しそうで……♡」


紗良が俺の股間に手を差し込んだ。

寝巻きの上から握られて、その小さな掌が俺の中心部を優しく揉みしだいてくる。


「ッッ……!!」


思わず腰が引けるも、紗良はそれを許してはくれなかった。

長い脚を絡めてきてベッドの上へと引き摺り出される。

紗良の身体に少しでも触れないように四肢を突っ張り、両手と膝をつけての四つん這い。

安物の仮設ソファベッドがギシリと軋む。

拒絶しなきゃ。

紗良は綾乃の妹だから。

綾乃を裏切るわけにはいかない。

しかし──。


「……今大声出したらどうなると思います? あ〜ん、お義兄さんに犯されちゃ〜う♡ って……今のお義兄さんの体勢、はたから見たら間違いなくレイプですよ?」

「ッ……! や、やめろって!」


四つん這い状態の俺と、ベッドに横たわる紗良。

客観的に見れば俺が紗良を押し倒しているような体勢。

しかし実際はその逆。

下半身を弄んでいるのは紗良の手で、主導権を握っているのも彼女。

断じて俺からでは──。


「さ、紗良ちゃ……マジでっ……」

「んふふ〜♡ 余裕のない顔〜♡ そんなに紗良の耳舐めがよかったんですね〜。こんなにもバキバキにしちゃって……♡ お義兄さんったら、もう♡」

「んっ♡ うッ♡ だ、だから……やめろって……。俺には綾乃がいるんだ……お前がそんなことしたらっ……綾乃がっ……」


「あ〜はいはい♡ そんなに心配しなくてもお姉ちゃんには内緒にしときますよ〜? だって今この部屋にはあたし達しかいないですし、お仕事で疲れたお姉ちゃんは今頃ベッドでぐっすりに決まってます。……ふふっ、夜遅くまで駄々捏ねた甲斐が有りました。ほら、そんなことより……ほんとに大丈夫ですか〜? パンツの中でカッチカチになっちゃってる、コ〜レ♡」


──くにっ……♡


「くぁっ♡ だ、だから……!」

「あたしのせいなんですから、責任取ってあげますよ〜?」


妖しく目を細めて微笑んだ紗良の掌が寝巻きの上から陰茎を捕縛する。

竿全体を持ち上げるように覆い被さっていた小さな手が、根本から亀頭の頂点にかけてゆっくりと往復運動を始めれば、寝巻きの生地の上から撫でられる快感にビクビクと反応してしまう。


──しゅっ……♡ しゅっ……♡ しゅるっ……♡


「──んっ♡ あっ……♡ だ、だからっ……!」

「ふふっ♡ 見つかっちゃいましたね〜♡ 紗良のわるぅ〜いお手々に、この熱くて硬いのが……♡ 直接触って欲ちいよ〜♡ ってパンツの中でビクビクしてるやつ〜♡」


──しゅっ♡ しゅっ♡ しゅっ♡


寝巻きの上から優しくゆっくりと上下に撫でられていく。

まるで猫を愛でるかのような繊細な愛撫は、敏感になった竿全体に心地よい摩擦を生じさせ。

根本から頂上に向かって、ゆっくりと、じわじわと、紗良の手で高められていく。


「あ……♡ ん……♡」

「気持ちいいですか? お義兄さん……♡ この手つきとか……♡ 握り加減とか……♡ 触れる強さとか……♡ 指の動きとか〜……♡」


まるで俺の好みを探るかのごとく、紗良の掌は陰茎の形状を確認しながら往復していく。

浮き出たカリの傘の部分を指の腹で慈しむように撫で回し、手が離れそうになる寸前まで手のひらの柔らかさを堪能させて。

名残惜しくなるその瞬間にまた、ゆっくりと握り込み、上下に動き始める。

一見規則的でいて、全くの不規則。

緩急、強弱、角度、速度。

親指の腹で時折裏筋を可愛がることも忘れず。

しかし、そのすべてが俺の反応を引き出していくだのものであり、俺の弱点を探りつつも、決定打を繰り出すことは決してなかった。

俺が声を上げることも許さず。

俺が果てることも許さず。

まるでこちらの快楽神経を掌握するかのように、じわじわじっくりと、弱火でクツクツ煮込まれた角煮のように、焦らしに焦らされる。

紗良の繊細かつ官能的な愛撫によって、俺の股間は着実に高められていた。


「どうします? お義兄さん? このままやめちゃうと、きっとお義兄さん、ムラムラがおさまらなくて眠れませんよ〜? それに明日のお仕事にも影響出ちゃったりして〜? それって困りますよね? 綾乃お姉ちゃんに怒られますし……寝起きが悪い〜って……」

「……ッ」


「だからほら、あたしが楽にしてあげますよ。お義兄さんは何も心配しなくていいですから。全部あたしのせいにして、気持ちよくなりましょう?」


振り払わなきゃ……早くこの手を……!


が、そんな我慢と快楽の狭間で迷っている間に──。


──しゅる……♡ しゅる……♡ しゅる……♡

──するっ……♡


寝巻きの隙間から入り込んできた手のひらが、薄いパンツの生地を隔てて隆起した陰茎に絡みついてくる。

その瞬間、背筋を駆け抜ける電撃に身体をのけぞらせて悶えた。


「お、さすがお義兄さん。安物じゃなくていい生地のパンツ履いてますね〜? これ、シルクで肌触りいいやつですよね?」

「や、ちょっ、やめ……」


心の中で必死に葛藤しているのもお構いなしに、紗良の右手はパンツ越しに優しく陰茎を掴んだ。

親指と人差し指で竿の裏筋をつるりと撫で上げ、更に防備の薄くなったところへ、ゆっくりと掌全体を使って包み込む。

根元から先端までをゆっくりと扱きあげていき、やわやわと刺激を与え続ける。


──にぎゅ……♡ にぎゅにぎゅ……♡


「ふふっ♡ はい、お義兄さんの敏感棒、捕まえた〜♡」


その一言とともに、パンツの隙間から侵入した紗良の小さな掌が、生のペニスを優しく包み込むように握り込んだ。


──ぎゅっ……♡


「うっ……♡♡」


寝巻きの下のパンツの更にその中、直接紗良の手によって握られた肉棒が、びくりと震えながら膨張を加速させていく。


──にぎゅっ……♡ にぎゅっ……♡


小さな紗良の手のひらは、男のモノを握るために生まれてきたかの如く、フィット感が素晴らしかった。

指の腹から伝わる温もり、手のひらの柔らかさ、すべすべの肌。

若い女に生肌で直接握り込まれる極上の感触が、パンパンに膨れ上がった肉棒に纏わりついていく。


──ぎゅっ……♡ にちにちっ……♡


「うっ……♡」

「ふふっ」


俺自身の形を覚え込んでいくような適度な圧迫感。

愉しそうに微笑んだ紗良が、今度は俺のモノを握った手をゆっくりと上下に動かし始める。

肉竿は小刻みに震え、睾丸がキュンと縮み上がり、瞬く間に射精欲が色めき立ってくる。


「いいですよ、お義兄さん、このままあたしのお腹の上に出しちゃっても……。気持ち良くなりたいのにここで無理やり我慢して、明日以降の日常生活に支障が出るリスクを考えたら、このまま出してしまった方が賢いんじゃないですか?」


その声音は優しくも、残酷なほどに甘く脳内へと響き渡る。


まるで悪魔の囁き──。


禁断の果実への甘い誘惑にも似た提案に、一瞬だけ心がグラつく。

そして紗良はその一瞬の隙を決して見逃してはくれなかった。


──にゅこにゅこにゅこッッ♡♡♡


まるで俺の決断を後押しするかのように、紗良の細い指の動きが加速する。

パンツの中で猛り狂った肉棒を優しく握り込んだまま小刻みに動き、俺の射精を促していく。

紗良の指先が根元から裏筋を辿るようにして先端へと進み、敏感な亀頭表面をくにくにと虐め抜いたかと思えば、カリ首の溝に巻きついた人差し指がくるくると螺旋状の円を描きながら扱き上げていき──。


「──うっ……♡」

「……しょうがないですね。沈黙は肯定と受け取りますので」


「な、なにをッ……! お、俺はッッ……!」

「ふふっ。わかりますよ。お義兄さん。……お義兄さんは必死に我慢してますけども、今からあたしが言う命令には絶対に逆らえません……」


「そ、そんなわけっ……! そんなわけないだろっっ!」

「いいえ、これは事実です。だってお義兄さんは……」


ニヤリと笑った紗良が上体を起こし、耳元へと唇を寄せてくる。

紗良の細い腕が俺の首の後ろに巻きついてきて、俺を捕獲するかのように抱きついて。

そして、紗良の唇が俺の耳元で……優しく囁いた。



「マ〜ゾ……♡ なんですから♡ ……ほら、イケ♡」


──びゅくッッ♡ びゅくッッ♡ びゅッ♡♡ びゅるるッッ♡♡♡

──どぷどぷどぷッッ♡♡♡


………

……

…

##P7 昨晩の記憶@会社での葛藤、紗良のからかい、食卓のテーブルの下で足で誘惑、玉責め、テーブルの下で生足コキ、寸止め


昨晩、あんなことがあった後、俺はどうやって自分の寝室に帰ったのか覚えていなかった。

目覚まし時計の音で意識を取り戻し、まだ朦朧とした頭のまま何とか朝の支度を済ませ、いつも通り綾乃の作った朝食を食べる。

そして、何事もなかったかのように家を出て、電車に揺られて職場に到着。

椅子に腰掛けPCを立ち上げたものの、頭は全く仕事モードになっていない。

というか、何も手につかない状態だ。


(あぁ、くそッ……)


パソコン画面に表示された書類フォルダを見つめながら、ため息をつく。

原因はわかっている。

昨晩のことが忘れられないからだ。

脳裏に刻まれたまま離れない紗良の言葉と表情。

特に出した後に囁かれた──。


『ほら、やっぱりマゾだった……♡』


(そんなはずはない……)


そう考えてもう一度PC画面を見てみるが、全く内容が頭に入ってこない。


(いやいや、そんなはずないだろ……)


──昨晩のことが頭をよぎる。


『ふふ、ほら、このままあたしのお腹の上に出しちゃってもいいんですよ?』

『このまま出してしまった方が賢いんじゃないですか?』

『マ〜〜〜ゾ♡』


だが、考えれば考えるほど、下腹部にふつふつと熱い滾りが巡り始めるだけ。

そう、俺は……俺は……。


……


──午前休憩、給湯室にて。


「うぃーす。お疲れ〜」

「あ、お疲れ」


昼休み前の短い休憩時間、ふらりと現れた同期の田島がペットボトルの蓋を開けながら、俺の肩を軽く叩いた。


「あれ、悠真、なんか顔色悪くね?」

「……え、そうか? いや、ちょっと寝不足でさ」


「ふーん。珍しいな、いつも完璧マンが」

「はは……」


何の気なしに言われた言葉に、俺は曖昧に笑う。


「で、あれだっけ? 今奥さんの妹さんきてんだろ? いいよなー! 綺麗な奥さんに若い妹さんと……両手に花ってかー? 妬けるねー?」

「あ、あぁ……紗良ちゃんね。はは……」


「なーんで悠真みたいな冴えない男ばっかりがイイ思いしちゃってんのかね〜? 俺だって少しはあやかりたいもんよ〜」

「なんだよ……ははっ……こっちも色々あって大変なんだよ……」


「なんだなんだぁ? まさかお前……お前ん家の嫁さん、浮気でもしてんのかぁ? おうおう?」

「そ、そんなわけねぇだろ……! 俺は綾乃を信じてる……俺と綾乃はそんなんじゃなくて……もっとこう……! 心から愛し合ってて……」


「くぅーっ! お熱いねぇ! お熱いねぇ! まったく青春真っ只中って感じじゃあないですか!」

「そ、そんなんじゃ……」


「はぁ〜〜〜、俺も結婚しようかな……そしたら会社から祝儀も出るらしいし……あ、でもその前に彼女作んないとだけど、彼女作ったら趣味の風俗巡りもできなくなっちまうかぁ〜〜〜……でもでも、家に帰ったら可愛いお嫁さんが迎えてくれるのはそりゃ嬉しいよなぁ……」

「はぁ……そうなのか?」


「なんですかね〜同期が励ましてやろうと思って慣れない冗談をかましてあげてんのに……その哀愁漂うため息は。悠真、あんまし悩みすぎんなよ〜? ははっ!」

「お、おぅ……わりぃ……」


………


仕事が終わり帰路につく。

昨日の今日で俺はまだ平常心を保てていない。

どうにも意識してしまう自分がいて、それが嫌で仕方がない。


「お義兄さん、おかえりなさい!」


玄関のドアを開けた瞬間、明るい声が飛んできた。

それだけで心臓がパクパクと音を立てる。


「……紗良」


名前を呼ぶ声が思わず硬くなってしまった。

靴を脱ぐより先に顔を上げると、廊下の奥から紗良がこちらを覗き込んでいた。

黒髪のボブが頬の横でさらりと揺れ、白いサマーニットの袖口から伸びた手が、ひらひらと無邪気に宙を舞っている。


昨日の夜、俺の耳元で囁いた声と同じ声。

無理やり拒絶することができなかった俺の反応を見逃さず、あの言葉で最後の一線を飛び越えさせた少女と同じ顔。


なのに、今の紗良はいかがわしいことなどまるで何もなかったかのように笑っていた。


「今日もお仕事お疲れさまです。あ、鞄持ちます?」

「いや、いい」


反射的に断ってしまう。

口に出してから少し強い言い方になったことに気がついた。

紗良は一瞬だけ目を丸くする。

けれどすぐに、口元が小さく弧を描く。


「ふぅん」


短い相槌。

昨晩の記憶が一気に蘇る。


薄暗い客間。

仮設のソファベッドが軋む音。

耳元で混ざった息遣い。

そして、最後に囁かれた、あの一言。


『ほら、やっぱりマゾだった……♡』


「……っ」


思わず視線を逸らした。


靴箱の上に置かれた綾乃の鍵。

廊下に漂う夕飯の匂い。

奥のキッチンから聞こえる、包丁がまな板を叩く軽い音。


全部いつも通りだった。


いつも通りの家。

いつも通りの帰宅。

いつも通り、綾乃が俺のために夕飯を作ってくれている音。


それなのに、玄関先に立ちはだかる紗良のせいで、その日常がほんの少しだけ歪んで見えた。


「悠真さん? 帰ってきたの?」


キッチンの方から綾乃の声がした。


「うん。ただいま」

「おかえりなさ〜い。ごめんね、今ちょうど手が離せなくて。先に着替えてきていいよ〜」


いつもの柔らかい声。

俺を疑うことなんて少しも考えていない、優しい声。

胸が痛くなる。


「……うん」


返事をして、俺は靴を脱いだ。

できるだけ紗良を見ないようにする。

距離を取って、廊下を通り抜けようとする。

しかしその瞬間、紗良が半歩だけこちらに寄った。


たった半歩。


それだけで、全身が強張った。


「お義兄さん」


小さな声。

綾乃には聞こえないくらいの、でも俺にははっきり届く声。


「今日、お仕事大丈夫でしたか?」

「……別に」


「ふふ。嘘」


昨日と同じ笑い方。

悪戯が成功した子供みたいで。

意地の悪さが滲み出た瞳で俺の顔を覗き込む。


「昨晩はちゃんと寝られました?」

「……寝たよ」


「ほんとに?」


紗良は首を傾げる。

黒髪がさらりと揺れて、耳元にかかった髪を指で払った。

その仕草だけで、昨日の耳の感触が蘇る。


「っ……」

「……あれ?」


紗良の瞳が楽しそうに細くなる。


「今、何か思い出しました?」

「別に何も……」


「ほんとに?」

「何も思い出してない」


自分でもわかるくらい声に余裕がなかった。

紗良は一歩引いて俺の通り道を開ける。

その顔には、あくまで普通の妹みたいな……家族の笑みが浮かんでいた。


「じゃあよかったです」

「……何が?」


「昨日のこと、気にしてたら可哀想だなって思って」

「……ッ」


思わず顔を上げてしまう。

紗良は笑っている。

無邪気に。

けれどその目だけは、俺の反応をじっと観察していた。


「紗良ちゃ──」

「悠真さん、着替えたらご飯の準備手伝ってもらってもいい?」


キッチンから綾乃の声が飛んできた。

俺は言いかけた言葉を飲み込む。


「……あぁ、すぐ行く」

「ありがと〜」


綾乃はいつも通りだった。

俺たちの間に何があったかなんて、何も知らないし知るはずもない。


だから余計に苦しくなる。


紗良はそんな俺を見上げて、口元に人差し指を当てた。

間接キスの時と同じ仕草。


「……秘密」


声には出していない。

唇だけがそう動いた。

それだけで、胸が詰まる。


「お義兄さん?」


今度は普通の声。

明るくて、少し甘えたような、いつもの紗良の声。


「早く着替えないと、お姉ちゃん困っちゃいますよ?」

「……わかってる」


俺は逃げるように廊下を進んだ。

背中に紗良の視線を感じながら。


振り返らなくてもわかった。

きっと彼女は笑っている。


俺が昨日のことを忘れられていないことも。

自分を避けようとしていることも。

そのくせ、綾乃の前では何も言えないことも。

全部、わかった上で──。


「お義兄さん」


部屋のドアノブに手をかけたところで、もう一度呼び止められた。

振り返ってはいけない。

そう思ったのに、身体は勝手に止まってしまう。


「昨日は、ありがとうございました」

「……何のことだよ」


「お姫様抱っこ」


紗良はにこりと笑った。


「お姉ちゃんにも言いましたけど、お義兄さんって本当に優しいですね」


その言葉はどこからどう聞いても普通だった。

綾乃が聞いても何も怪しまない。

妹を部屋まで運んでくれた婚約者に向ける自然なお礼。

なのに俺だけが、その裏側の意味を知っている。


あの部屋で何があったのか。

お姫様抱っこの後に何をされたのか。

その先で、俺がどんな罪を犯したのか──。


「……やめろ」


掠れた蚊の鳴くような声に自分でも驚く。

紗良は一瞬だけ目を丸くしてから、すぐに嬉しそうに笑った。


「やめてほしいんですか?」

「……っ」


「何を?」


返事が喉から出せない。


だが紗良はそれ以上追い詰めてこなかった。

ただ、何事もなかったかのようにキッチンの方へ振り返る。


「お姉ちゃーん、お義兄さん帰ってきたから、今日も三人でご飯だね〜」

「そうね〜。紗良もお皿出すの手伝ってくれる?」


「はーい」


スリッパのパタパタという足音が離れていく。

俺は部屋の前で立ち尽くしたまま、ゆっくりと息を吐いた。

綾乃に言えない秘密が、またひとつ日常の中に紛れ込んでいくのを感じていた──。


………


着替えを済ませてリビングへ戻ると、食卓にはすでに夕飯が並び始めていた。


白い大皿に盛られた鶏肉の照り焼き。

小鉢に入ったひじきの煮物。

湯気の立つ味噌汁と色とりどりのサラダ。

そして、綾乃が炊いてくれた白米の匂い。

いつもと同じ温かな食卓だった。


「悠真さん、お味噌汁そこに置いてもらっていい?」

「ああ」


「紗良はお箸お願いね」

「はーい」


手際よく監督する綾乃の声に合わせて、紗良が食器棚から箸を取り出す。

何事もなかったような顔で。

まるで昨日の夜など最初から存在しなかったみたいに。

しかし俺だけは、彼女の横顔を見るだけで息が詰まる。


頬にかかる黒髪のボブ。

クリンと長くカールした睫毛。

唇を彩る桃色のリップは艶めいていて──。


昨晩、耳元で囁かれた声が蘇る。


『ほら、やっぱりマゾだった……♡』


「……ッ」

「悠真さん?」


綾乃に呼ばれて慌てて顔を上げる。


「え、あ……何?」

「お味噌汁、こぼれちゃうよ?」


見れば、手にしたお椀が少し傾いていた。

慌てて姿勢を直す。


「ご、ごめん」

「ふふ。疲れてるの?」


綾乃が心配そうに眉を下げる。


「今日、顔色あんまり良くないね。お仕事大変だった?」

「ああ……少し寝不足で」


心配そうに眉を下げた綾乃の隣に座った紗良の箸がぴたりと止まった。

ほんの一瞬。

しかし真正面にいる俺にはわかった。

彼女が笑いを堪えていることに。


「寝不足なんですか? お義兄さん」


やけに明るい声で話しかけてくる。

その原因を生んだ張本人のくせに、あまりにも白々しい。

しかし、それを指摘できるはずもない。


「……まあ、少しな」

「へぇ。昨日、ちゃんと寝られなかったんですか?」


「……ッ」


何気ない質問。

綾乃の前でも不自然ではない言葉。

なのに俺には、そこに別の意味が隠されているようにしか聞こえなかった。


「紗良。悠真さんはお仕事で疲れてるんだから、あんまりからかわないの」

「えー? からかってないよ? 心配してるだけだもん」


そう言って、紗良は俺の前に箸を置く。


「お義兄さん、どうぞ」

「……ありがとう」


「いえいえ」


にこりと笑った紗良。

大人しくしていれば人当たりのよく、見目も可愛らしい女の子なのに──。


だから余計に、胸の奥がざわつく。


「「「いただきます」」」


三人で手を合わせ、食事を始める。


箸の音。

味噌汁を啜る音。

テレビから流れる、どうでもいいニュースの声。


日常は何も失われていない。

そう思いたかった。


「そういえば紗良」


お茶をとりに席を立っていた綾乃が席につき、箸を手に取りながら言った。


「昨日、悠真さんに運んでもらったんでしょう? ちゃんとお礼言った?」

「言ったよ〜」


紗良は向かい側で、あっけらかんと答える。


「ね? お義兄さん」

「……あ、あぁ」


「すっごく優しく運んでくれたもん。お姫様抱っこで」

「お、おい……」


思わ語気が強くなってしまう。

綾乃がきょとんとした顔で俺を見つめていた。


「悠真さん?」

「いや……その、別にお姫様抱っこというか、普通に運んだだけだから」


「あはは。照れてる〜」


紗良が楽しそうに笑った。


「だって本当のことじゃないですか。お義兄さん、ちゃんと両腕で抱えてくれましたし? 我が家ではこれが普通だったんですよ? あたしが駄々こねてお父さんが抱っこしてくれて……」


その瞬間。

テーブルの下で、何かが俺の足首に触れる。


──さわっ……。


「……っ」


反射的に膝が跳ねかける。


「落ちないように、ぎゅって……ふふっ」


紗良の声の調子は変わらない。

綾乃の前で何ひとつ後ろめたさのない妹の声。

けれどテーブルの下では、彼女の足先が俺の足首をゆっくりとなぞっていた。


柔らかく。

ほんのりと温かく。

靴下越しではない──。


素足だった。


「悠真さん?」


綾乃が不思議そうにこちらを見る。


「あ、いや……何でもない」


慌てて笑って誤魔化す。

足を引こうと思えば引けた。

だが、テーブルの脚と椅子の位置が邪魔をして、大きく動けば不自然になる。

それに、ここで下がってしまえば紗良に負けたような気がしていた。


そんなつまらない意地が、俺の身体を椅子に縫い付けていた。


「ほんとごめんね、悠真さん」


綾乃が申し訳なさそうに笑った。


「紗良、昔から甘えん坊で。お父さんにもよく抱っこしてもらってたのよ〜」

「ちょっとお姉ちゃん、それ小さい頃の話でしょー!」


「今もあんまり変わらないじゃない」

「変わるよー! あたしもう大人だし!」


紗良が頬を膨らませる。

その言葉に、胸の奥底がぎくりとした。


大人。


そうだ。

紗良は子供ではない。


もう十九歳で。

綾乃の妹で。

この家に一時的に住んでいるだけの、ひとりの女。

そして俺は昨日、その事実を嫌というほど思い知らされた。


「お義兄さんもそう思いますよね?」


急に振られて咽せそうになる。


「……何が」

「あたし、もう子供じゃないですよね?」


紗良がこちらを見る。

大きな瞳。

無邪気な問いかけ。

けれどその奥には、俺だけにわかる悪戯の色があった。


足首を撫でていただけの彼女の足が、誰にも見えないテーブルの下から這うように上がってくる。

ふくらはぎに触れた足の甲が、そこからゆっくりと、ズボン越しの脚に絡みついてくるように、膝の内側へと滑ってくる。


「……まあ、大学生だしな」

「ふふ。ですよね」


満足げに笑う紗良。

その足先が膝の上に乗った。

ゆっくりと撫でられる。

俺の答えに満足したかのように。

いい子いい子と膝小僧が撫でられる。


「……ッ」


思わず息を飲む。

さっきからご飯が喉を通らない。

生唾と重い空気の塊だけが食道を通過していく。

気が気ではなかった。


「悠真さん、本当に大丈夫?」


綾乃が首を傾げる。


「顔、赤いよ?」

「いや……はは、日中の外が暑かったからかな」


「そう? いつまでも若いわけじゃないんだから、あんまり無理しないでね?」

「あ、あぁ……」


なんとか答えながら俺は箸を握りしめる。

その間もテーブルの下では、紗良の足先が我が物顔で這い回っていた。

膝を越えて太ももの内側へ。

ゆっくりと、獲物に狙いをつけた蛇が木を登るように。

昨晩二人だけの密室で植え付けた痕跡を、今度は綾乃のいる食卓の下で確認している。


「紗良……? どうしたの? 笑って……」

「んー? ううん、なんでもないよー」


紗良はそう答えて笑った。

綾乃の方を見て。

紗良が綾乃に向けた笑顔と俺に向ける顔は異なっていた。


──ちょんっ……♡


紗良の素足がそこに触れた途端、心臓の鼓動が一気に加速する。

偶然ではない。

計算された必然。

それを裏付けるように、足先が二度三度と玉袋を撫で付ける。


「(もう溜まってるんだ?)」


唇の動きで紗良の言わんとすることがわかってしまう。


「ッ……!」


まずい。

いくらなんでも食卓で、それも綾乃が目の前にいる状況で興奮するわけにはいかない。

ましてや綾乃の妹に足で股間を弄られて勃起するなんて──。


「でも、本当に助かったよね」


何も知らない綾乃が声を上げる。


「悠真さんがいてくれて良かった。私ひとりだったら、紗良を部屋まで運ぶなんて無理だったもの」

「あたし軽いよ?」


「軽くても、暴れたら危ないでしょ」

「暴れてないもん」


「暴れてたわよ。ね、悠真さん?」


綾乃がこちらを見る。

答えなければいけない。

普通に笑って、『大丈夫だったよ』と言えばいい。


それだけのことなのに。


──さわっ……♡ さわっ……♡


柔らかな母指球でふにふにと玉を撫でつけられて、竿の根元を伺うように足の指先が掠めていく。


「……ま、まぁ少しだけ……ッ」


声が掠れる。


「あれ、声変ですよ?」


紗良にすかさず拾われる。

『暴れていた』という姉の主張に同調したことが気に入らなかったようだ。


「……そ、そんなことッ」

「悠真さん、本当に大丈夫?」


──くにゅっ……♡


玉袋を揉み込むように動いていた足の指先が、竿の根元を狙い澄ましたかのように捉え。


──にちにちにち……♡


ゆっくりと這い登っていく。

克明に蘇る昨晩の記憶。


紗良の声。

耳元で感じた吐息。

熱い舌が耳の中を這う感触と、柔らかい手のひらが肉竿を握り込む感触。

最後に身体が勝手に跳ねた瞬間──。


それらが、足先の刺激と混ざり合って、蘇る。


「くすっ……だけど、あたしは優しいなぁって思いました」


感謝の言葉。

しかし紗良のその言葉の裏にあるのは──。

一方で何も知らない綾乃は嬉しそうに頷く。


「悠真さんはそういうところあるのよ。困ってる人を放っておけないっていうか」

「うん〜、知ってるけど〜」


「なんであなたが知ってるのよ」

「だってちょっと一緒に暮らせばわかるじゃん! お姉ちゃんにお似合いの良い人なんだなって」


紗良は小さく笑った。


「ほんと、良い人すぎて、放っておけない人って言うか〜……」


その言葉に合わせて彼女の足の親指が、竿の幹の裏側をゆっくりとさすった。

たかだか一往復。

されど一往復。


「……ぁッ」


──カチャッ。


箸が皿に当たって小さな音を立てる。


「悠真さん?」

「……ごめん、手が滑った」


「やっぱり疲れてるんじゃない? 今日は早く寝ようね」

「あ、あぁ……」


綾乃の優しい気遣いが胸に刺さる。

その向かいで紗良は、何食わぬ顔で味噌汁を口に運んでいた。

そして。


──むぎゅっ……♡


テーブルの下の足先が、とうとう俺の中心を押し込んだ。


「──ッ」


大きな声が出そうになった。

慌てて唇を噛む。

柔らかな足の裏がズボン越しにそこを軽く押さえている。

まだ硬くなりきっていない。

しかし、昨日の記憶と紗良の目の前という状況が重なって、身体は勝手に反応し始めていた。


「お義兄さん?」


紗良が小首を傾げる。


「どうしました?」

「……何でもない」


「ほんとですか?」

「……あぁ」


「じゃあよかった」


──ぎゅむぅ……♡


その言葉とほぼ同時。

俺の中心に密着したままの足の裏が、じわりと押し込むように動き出す。

ゆっくりと、でも確実に。

ズボン越しの布地に浮いたシンボルの形を確かめるように、柔らかい足の裏がぴたりと密着したまま、上下に動いていく。


──しゅっ……♡ しゅっ……♡ さわさわ……♡


息が詰まる。

食卓。

テレビの音。

綾乃の作ってくれた夕飯。

そんな日常の下で、紗良の素足という非日常が俺の理性を撫で回す。

甘い、甘い、刺激。


「──悠真さん、どう? 今日の照り焼き」

「あ、うん。美味しいよ」


「よかった〜。ちょっと味濃かったかなって思ったんだけど」

「いや、ちょうどいい」


「ほんと?」


綾乃がほっとしたように笑う。


「お義兄さんって、濃い味好きなんですね」


──ぎゅむっ♡


紗良の横槍が入ると共に、足裏の圧が少しだけ強くなった。


「……え?」

「だって、今ちょうどいいって言ったから」


「ま、まぁ……そうだな」

「ふぅん」


紗良は意味ありげに箸先を唇に当てた。


「お姉ちゃん、いつも優しい味付けだもんね」

「そうかな?」


「うん。お姉ちゃんらしいよね。身体に良さそうで、毎日食べるものだからって健康に配慮もしててさ」


綾乃は照れたように笑う。


「でも」


テーブルの下では紗良の足が竿の輪郭をなぞるように往復していて、ズボン越しでも伝わる彼女の素足の感触に腰の奥からどんどん熱い疼きが湧き出ていた。


「たまには濃いのも欲しくなりません?」

「……ッ」


硬くなり始めた股間の中心。

ズボンの内側で押し上げる熱。

それを紗良の足先が逃さず捕まえる。

足の裏で輪郭をなぞられ、親指の腹で裏筋の部分を軽く押され、左右小刻みに撫でられる。

机の下にカメラでも仕掛けて手元のスマホで見ているのではと思うほど、彼女の足先は核心を捉えていた。


「──ッ」


これ以上声は出せない。

派手に動けもしない。

綾乃が目の前にいる。


それなのに、身体だけが昨日の続きを……昨日の結末を思い出していく。


「味付けの話?」


綾乃は不思議そうに首を傾げる。


「もちろん。味付けの話だよ?」


紗良はにこにこと笑っている。


「ね、お義兄さん?」

「……お、俺に聞くなよ」


「えー? だってお義兄さんの好みの話ですし」

「別に……俺は……俺は綾乃の料理がッ……一番、す、好きだよッ……」


嘘ではない。

綾乃の料理は好きだ。

健康を気遣ってくれる綾乃の優しさも、物足りない時は『しょうがないな〜』と笑いながら追加で一品を出してくれるところも好きだ。

そんな綾乃は大切な人のはず。

なのに今、その大切な人と囲んでいる食卓の下で、俺は綾乃の妹の足に翻弄されていた。


「ふふっ」


紗良は嬉しそうに目を細めた。


「お義兄さんって、ほんと真面目ですね」

「なんだよ急に」


「ううん。夫婦っていいなって思っただけです」

「もう……紗良ったら……あんまり悠真さんを困らせないで?」


「はーい」


紗良は何事もなかったように食事を続ける。

だが、足は止まらない。


俺の中心を布越しにゆっくり撫でて、硬くなった形を足裏で押さえつつ、跳ねて逃れようとする竿の先端を足指で摘み、逃げ道を塞いでくる。

綾乃はテーブルの下でそんなことが起こっているなどと当然気づくはずもなく、朗らかに笑いながら夕飯を口に運んでいた。

その一方で俺の股間に集まった血がどんどん固形化していく。


──しゅっ……♡ しゅるっ……♡ しゅる……♡


「……ぁ」

「んふっ……♡」


喉の奥から漏れ出た声を聞き逃さず、紗良が悪戯っぽく口角を吊り上げた。

一体全体どういうつもりなのか。

紗良の意図が読めず、俺はひたすらに我慢を強いられる。


「悠真さん? 本当に無理しないでね」


綾乃が心配そうにこちらを見た。


「さっきから少しぼーっとしてるし……今日は私が全部片付けもするから」

「いや、大丈夫。手伝うよ」


「でも」

「だ、大丈夫だから」

「んふっ……♡」


俺と綾乃のやり取りを見て、紗良の足がいっそう優しく股間を撫で上げる。

綾乃にバレまいと懸命に耐える俺を前に、紗良は愉しそうに目を細めていた。


「あ〜、はいはい、夫婦のお熱いイチャラブをあたしの前で見せつけないでもらえますかぁ〜?」

「もう……紗良……イチャラブだなんて……」


頬を赤らめる綾乃であったが満更でもない表情で俯いてしまう。

しかし紗良はその隙をついて更に大胆な行動に出た。


「お義兄さん、ご飯食べたらちょっと部屋に来てもらえます?」


──しゅっ♡ しゅっ♡ しゅっ♡ しゅっ♡


竿を擦る足先の動きが早くなる。


「な、何故ッ……」

「ちょっと家具の移動を手伝ってほしくて」


紗良と二人きりになるわけにはいかなかった。

二人きりになれば昨晩の二の舞であることは明白で。

しかし、そのことを綾乃には伝えられないわけで、これ以上間違いを犯すわけにもいかないわけで、だからこそ綾乃の前で平静を装わなければならないのに──。


「そ、それッ……い、今じゃないとッ……ダメか? ……ぁ」

「今じゃないとダメですね〜」


平然と言い放ちながら、机の下ではまるでラストスパートと言わんばかりに竿全体が扱かれる。

足裏に密着する熱く固い感触を楽しむように、小刻みな足捌きで根元から亀頭の頂点にかけて往復運動を繰り返す。

今までの優しい愛撫から一転し竿を苛む強烈な快感。

絶頂への階段を一足飛びに駆け上がっていかんとする紗良の足捌きの前に、俺はただただ翻弄されるしかない。


「だっ……だからッッ……!」


──ずり……♡ ずり……♡ ずりずり……っ♡ ずりずりずりずりッ……♡


股間から駆け上がってくる快感のせいで返答に苦心する俺をよそに、紗良は足先を小刻みに動かしながら涼しい顔で口元へ箸を運ぶ。


「(……出ちゃいますよ?)」


ちらりと垣間見えた唇の動きに背筋が処刑台へと導かれる。

もし俺が紗良の望む回答をしなければ、彼女はこのままテーブルの下で射精させる気なのだ。


「ほ、ほんとに今ッ? い、今じゃないとダメなのか?」


声が上ずる。

股間はズボンの中で爆発寸前の膨らみとなり、射精したいと必死に訴えている。

我慢するしかない、見逃してもらうしかない。

このままじゃ本当に──。


「ダメです。具体的にいうと夕ご飯が終わってお姉ちゃんがお片付けしてくれてる間にです。そうじゃないと、お風呂入った後に家具を動かして汗だくになっちゃうじゃないですか〜?」

「そ、それはッ……そう……だけどッッ……!」


──ずりッ♡ ずりッ♡ ずりッ♡ ずりッ♡


「(ほら、早く答えないと……♡ このままではテーブルの下で、お義兄さんはあたしの足で精液を垂れ流しちゃいますよ?♡ それとも……お姉ちゃんの前で出しちゃいます?♡)」


ぶるぶると振動する足の前に股間は暴発寸前。

紗良の小悪魔じみた笑顔も相まって、股間の芯までどろどろに溶かされ、もうこれ以上は我慢できそうになく。

結局、紗良の要求を飲まないという選択肢は俺には残されていなかった。


「わ、わかったッッ……!! 行く、行くからッッ……! だからッ……ッ!?」

「そうですか〜。ありがとうございます」


──ずっ♡ ずっ♡ ずっ♡


「……ッ!?」


しかし、俺の期待に反して紗良の足は止まらなかった。

それどころかより強く押し付けられた足裏が、より一層激しく動き始める。

電気あんまの要領で、小刻みに震える足の裏に何度も何度も擦り上げられる竿全体からびりびりと痺れるような快感が全身へと波及し、身体が思わずビクンと跳ね上がる。


「──ぅッ!?」

「んふっ♡」


「さ、紗良ッッ……!」

「ん~? お義兄さん、どうしちゃったんですか~? さっきから……クスクス♡」

「ねぇ、悠真さん本当に大丈夫? 無理して紗良のことは手伝わなくてもいいからね?」


「い、いやっ……! そ、そういうわけには……ッ!」

(じゃないとこのまま紗良の足に──ッ♡)


「そうだよ~? お義兄さん、体調悪いのに無理して手伝ってもらわなくても、あたしは平気ですよ~?……(お義兄さんの股間はどうなっちゃうかわかんないですけど♡)」

「そうよね。無理して動いたら却って体調悪くしちゃうと思うし、悠真さん、本当に辛そうなんだもん」


「ね? お義兄さん、どうしますぅ~?」


「ッ……」

(こ、こいつ……ッ♡)


──ずっ♡ ずっ♡ ずっ♡


口ではそう言いつつも、紗良の足は容赦なく股間を擦り続けていた。

その動きは確実に射精へと俺を導き、俺の意志とは関係なく限界が近づいてくる。


「(イきそうなの? こんなとこで? お姉ちゃんの前でイっちゃうの?♡)」


ニヤニヤと笑う紗良の顔が憎い。

しかし、身体の中心の芯棒はその紗良の足の前に屈服しつつあった。

悔しさと快感が混ざり合う、そんな背徳的な悦楽に狂わされていく。


(――だ、ダメだ……!!)

「さ、紗良っ……て、手伝うからッ……!!」

「ん~……♡ でもお義兄さん、そんなに辛いならやっぱり今日じゃなくても……?」


「や、ぁッ……。き、今日でいい……ッ! 今日で、今日でいいからッ!!」

「んふっ……♡ そうですか、わかりました。ありがとうございます……では」


──ピタっ……♡


紗良の足の動きが止まる。

まるで『もう出そうだね』と言うかのように、ぴたりとその足裏が竿に寄り添ったまま、動きを止める。

射精寸前、まさにその刹那。

腰がビクビクと跳ね上がり、あと数擦りで全てを吐き出してしまいそうになった瞬間だった。


「はぁッ……! ぁッ……」


どくんどくんと心臓が脈打つ。

身体の芯で煮えたぎる獣欲が堰を切って溢れようとする。

だが、紗良の足が止まったことでその欲求が中途半端に燻り、出口を見失ったまま体内を彷徨っていた。

ひくひくと微動を繰り返す愚息が、紗良の足裏に擦れて心地が良いものの、それを必死に抑えねば自ら腰を振ってねだってしまいそうであった。

それも足の裏に向かって、だ。

募りに募ったもどかしさにより熱く火照った腰が物足りなさを訴え、疼きが収まらずに身体中を駆け巡る。

今にも泣き出しそうなほど、辛い。


「……はぁ、はぁ、はぁッ」

「ふふっ♡ じゃあお待ちしてますね、お義兄さん♡」


──さわっ……♡


「ッッ……♡」


足が股間から離れる際、最後のお別れとばかりに、足裏が陰茎を優しく撫で上げた。

その刺激に俺のペニスはピクリと反応を示す。

射精寸前まで昂らされたペニスは未だ臨戦態勢のまま勃起しており、ズボンの下でテントを張りながら存在を主張していた。

紗良の足に名残惜しさを覚えてしまう。


「もう……悠真さん、あまり紗良をあまり甘やかしすぎないようにね〜? はぁ……悠真さんには本当に迷惑を──」


綾乃の言葉が耳に入ってこない。

股間の熱が思考を覆い尽くし、頭の中は紗良のことだけで埋め尽くされていた。


「お義兄さん?」


不意に呼ばれてハッとする。

顔を上げると、紗良が俺の顔を覗き込んでいた。

大きな瞳。

綾乃と同じなのに、どこか違う黒い輝き。

唇には桃色のリップグロス。


「……じゃ、先にいって待ってますから」

「……ぁ、ぁぁ……」


『ごちそうさまでした』という言葉と共に立ち上がった紗良は、こちらに背を向けると、パタパタと軽やかな足音を立てながらリビングを後にしていく。


「──じゃあ、悠真さん、申し訳ないけど、妹のことよろしくね? 私は夕食のお片付けの後、お風呂掃除しなきゃだしさ〜──」


綾乃の声をBGMに俺の意識は遥か彼方に飛んでいたのだった──。


………

##P8 家具の移動@足誘惑、脅されて足の汗を拭かされる、感じる格差、紗良の生足の感触、漂う足の匂い、足の匂いの確認、太ももの匂いの確認を迫られる、見下されて両足で挟まれる、太ももに顔を埋めて声を我慢させられる、太ももフェロモン深呼吸、太ももに顔を埋めさせられ両手を拘束されたまま足コキされる、生足コキ、寸止め、浮気誘惑、足で射精、足での快楽に溺れる


「……遅かったじゃないですか~。もしかして、勃起収めるのに時間がかかっちゃったんですか~? クスっ」

「ッ……ち、違う!」


「そうなんですね~。でも、お義兄さんがまさか足でちょっと擦られただけで、すぐイッちゃいそうになるような人だとは思いませんでしたよ~?」

「ふ、ふざけるな……! 第一、あんなところで……ひ、非常識だぞ! ど、どうするんだ綾乃にバレたら……!」


「バレなかったんだからいいじゃないですか〜。それにお義兄さんも多少は気持ちよかったんじゃないですか〜? あたしの足で勃起を擦られて、テーブルの下で射精させられる寸前まで追いやられて〜?」


俺の怒りを一身に受けたはずの紗良はどこ吹く風。

それどころかクスクスと笑みを零し、ベッドに腰掛けたまま、自身の太ももを撫でさする。

白いスカートの中、ほんの僅かに覗く太ももとその奥の影。


「ふふ……♡」

「ほ、本題は?」


「え〜、本題ってなんですか~? ん〜、家具を移動させてもらうことですが〜?」

「そんなのは建前だってわかってんだよ!」


「へぇ……♡ もしかしてお義兄さん、期待しちゃってるんですか〜?」

「……ッ、ば、馬鹿を言うな……! 俺はただ家具の移動を……」


「ん〜? 家具の移動は口実なんだって、お義兄さんもわかってるんですよね? クスっ」


紗良がわざとらしく小首を傾げ、口元に人差し指を当てる。


「まぁ、別にそれでもいいんですが……あ、いいこと考えました」


そう言ってベッドの縁から紗良が立ち上がった。


「家具の移動、ぱぱっとしちゃいましょっか♡」


………


「お疲れ様でした~、やっぱり男の人なんですね~。あたし一人じゃ絶対無理だったもん」

「はぁ……はぁ……」


額に滲んだ汗を拭いながら、ベッドの縁に腰掛ける紗良を横目に見る。


ほんの少し前まで俺を挑発し続けていた足は、今はすらりと長いシルエットを晒したまま、汗ばんだ紗良と同じく、上気した肌によりところどころ火照っているようだった。


「……これでいいんだな?」

「はい。ばっちりです」


部屋の隅にあったローテーブルを少し動かし、ベッド脇の収納ケースを壁際へ寄せただけ。

冷静に考えれば、わざわざ今やる必要があったのかも怪しい作業。


だが実際に動かしてみると意外と重く、夕飯中に紗良の足で寸前まで追い込まれていた身体には、それだけでも妙に堪えた。

まだ下腹部の奥には熱が残っている。

無理やり押し込めた欲が、汗と一緒にじっとりと皮膚の下へ張り付いているようだった。


「じゃあ、俺は戻るから」

「えー? もう戻っちゃうんですか?」


紗良が残念そうに声を上げる。

ベッドに腰掛けたまま、小さく足を揺らす。

その動きに合わせて、白いスカートの裾がふわりと揺れた。


見ないようにする。


見ないようにしたはずなのに、視界の端が勝手にその足先を拾ってしまう。

さっきまで食卓の下で俺を追い詰めていた足。

綾乃の目の前で、俺の身体を弄んだ足。

その足が今、目に見える位置で……ベッドの縁で揺れている。


紗良はただ退屈しのぎに足を遊ばせているだけなのに。

けれど俺には、その小さな動きさえさっきの続きに見えてしまっていた。


「……何だよ」

「いえ」


紗良は足を揺らしたまま、くすりと笑う。


「お義兄さん、また見てるなって思って。お義兄さんの視線、すごくわかりやすいです。夕ご飯の時だって……」

「紗良……」


「はい?」

「さっきの……夕飯中のあれは、本当にやめろ。綾乃にバレたらどうするつもりだったんだ」


ようやく言えた抗議。

その声は思ったより低く、自分自身が苛ついていたことに少し驚く。

だが紗良は怯えるどころか、ぱちりと瞬きをしてから、ゆっくりと笑った。


「怒ってるんですか?」

「怒るに決まってるだろ」


「でも、お義兄さん、来ましたよね?」

「……ッ」


たった一言で喉の奥が詰まる。

紗良はベッドに座ったまま、膝の上に両手を置いてこちらを見上げていた。

大きな瞳で、じっとこっちを見据えて、俺がどう言い返すのか、言葉を失うのか、期待に満ちた眼差しで待ち構えていた。


「俺はお前が……! 妹だと思ってたんだぞ!」

「あたしだって、お義兄さんを信じてるのに」


その声に一瞬息を呑んだ。

今までの嘲るような口調とは違ったほんの少し寂しそうな響き。

思わず視線を逸らす。

紗良の目が細くなって唇が歪んだ事に気が付かない。


「昨晩は確かにあたしはお義兄さんに少し悪いことをしちゃってしまいました。ごめんなさい」

「……わ、わかればいいんだ……。だからもうこれ以上は──」


「でも今日は、お義兄さんが自分でこの部屋に来たんですよね?」

「うっ……だ、だって家具を動かすためだって……紗良が手伝ってくれって……」


「そうですね。建前は」

「建前って……」


「だってお義兄さん、わかってましたよね?」


紗良が少しだけ首を傾げる。


黒髪のボブが顔の輪郭に沿って揺れた。

汗のせいか、額や首筋に貼りついた細い髪束がやけに艶めいて見える。


「家具の移動なんて、ただの口実だって」

「……ッ」


「わかってたのに、来てくれたんですよね?」


言い返せない。

夕飯中にあれだけ追い詰められたのだ。

紗良の足が離れた瞬間、身体の奥に残った熱を持て余していたのは紛れもない事実。

万が一あのまま続けられていたら間違いなく射精に至っていた。

それでも俺は、綾乃の前で断らなければならなかった。

なのに……断ることができなかった。


いや、違う。


断れなかっただけなのか。

それとも、どこかで続きを期待していたのか──。


考えかけたところで慌ててその思考を振り払う。


「……もういい。俺は戻る」

「あ、待ってください」


立ち去ろうとした俺を紗良が止める。


「ついでにタオル取ってくれません?」

「タオル?」


「はい。そこの棚の上のやつ」


言われた方を見ると、綾乃が用意したらしいフェイスタオルが数枚、綺麗に畳まれて置かれていた。

俺は一枚取って、紗良へ差し出す。


「ほら」

「ありがとうございます」


紗良は受け取ると、まず自分の首筋を軽く拭った。

白いサマーニットの襟元に沿って、タオルが汗を吸っていく。


「家具動かしたら、ちょっと暑くなっちゃいました」

「……そうだな」


「お義兄さんも汗かいてますね」

「重かったからな」


「ふふ。頑張ってくれましたもんね」


紗良はそう言って、タオルで鎖骨のあたりを軽く押さえた。

視線を逸らす。

今は婚約者の妹の身体を見ている場合じゃない。


「じゃあ俺は──」

「あ、もうひとつだけ」


また止められる。

苛立ちより先に嫌な予感がした。

紗良はベッドに座ったまま、自分の足元へ視線を落とす。

それから少し困ったように眉を下げた。


「うわ……足もちょっと汗かいちゃったかも~……」

「……」


あからさまなセリフ。

聞かなかったことにしようとした。


「今、見ないようにしました?」

「……してない」


「嘘。見ないようにしましたよね」

「……だから何だよ。してないって」


「いえ。夕飯中はあんなに意識してたのになって。柔らかかったです? 女の子の素足」

「紗良」


強く名前を呼ぶと紗良は楽しそうに唇を尖らせた。

イタズラを指摘されて叱られてもなおイタズラを止めない、いたずらっ子特有のどこか憎めない表情。


「怖い顔しないでくださいよ。足が汗ばんだって言っただけじゃないですか」

「それを俺に言う必要がないだろ」


「汗かいちゃったから拭きたいって話です。わかりますよね? それくらい」


紗良は手に持っていたタオルをひらひらと揺らしながら、ゆっくりと足を組み替えてみせた。

足の先が中に浮く。


「……なら自分で拭けばいいだろ」

「だってお義兄さんが家具動かしてくれたついでに、ここもお願いしたいなって」


「……は?」

「足。ちょっと拭いてください」


「するわけないだろ」


即答。

その反応に紗良はきょとんとした顔で、明らかに面食らっていた。

本気で意外そうに見える顔。

けれど口元は、やっぱり笑っていた。


「えー? どうしてですか?」

「どうしても何も……自分で拭けよ、それくらい」


「さっきまであたしの足であんなに気持ちよさそうにしてたのに?」

「……ッ」


「今さら足を拭くくらいで照れるんですか?」


胸の奥が熱くなる。

怒りなのか、羞恥なのか、自分でもわからない。


「ふざけるな」

「ふざけてませんよ。タオル越しなら変なことじゃないですし……。それとも昨晩のこと、お姉ちゃんに話したほうがいいですか? お義兄さんがどれだけ気持ちよさそうに腰を震わせてたか。どれだけあたしの手のひらに射精をねだってきたかとか、射精する瞬間どんな顔してたか~とかも話してみると面白いかもしれませんね」


「う……」

「まぁ、それはいいとして」


紗良は笑いながらベッドの下を指さす。


「ほら、そこ座ってください」

「なんで俺が……」


「立ったままだと拭きづらいじゃないですか」

「俺が拭く前提で話を進めるな」


「じゃあ、嫌なんですか?」


紗良の声が少しだけ柔らかくなる。


「本当に嫌なら戻っていいですよ」


そう言って彼女は廊下の方へ目を向けた。


「お姉ちゃんに、家具の移動終わりましたって言いに行けばいいです。ついでに夕飯中ずっと顔が赤かった理由も聞かれるかもしれませんけど」

「……」


「その時は、ちゃんと答えてくださいね。どうしてそんなに息が荒かったのか。どうして食後すぐ立てなかったのか。どうしてあたしの部屋に来るって言うまで、あんなに余裕なかったのか……でないとあたしが代わりに答えちゃいますので、クスっ」


背筋が凍る。

もし綾乃に勘付かれれば──。

綾乃がこの状況を知ったら──。

想像しただけで動悸が速まる。

彼女に失望されるかもしれない。

軽蔑されるかもしれない。

最悪の場合、婚約を破棄されるかもしれない。

頭の中でいくつもの最悪の可能性がぐるぐると回り続ける。


「意地悪だな……」


ようやく絞り出した声に、紗良は嬉しそうに笑った。


「はい。お義兄さん限定ですけど」

「……」


「でも、嫌いじゃないですよね?」


返せなかった。

沈黙が答えになってしまうのが嫌で、俺は視線を逸らす。

すると紗良は満足そうに、小さくベッドの縁を叩いた。


「はい。ここ、座ってください」


ベッドの前。

紗良の足元。

そこへ座れということらしい。


「……本当に足を拭くだけだぞ」

「はい。足を拭くだけです」


「変なことはするなよ」

「それはこっちのセリフです。お義兄さんが変なこと考えなければ何も起きませんよ?」


「……」

「ほら、座ってください。待ってますから」


「……はぁ」


諦めて座る。

良くないことはわかっていたのに、俺は結局、紗良が腰掛けたベッドの前に腰を下ろしてしまった。

床に座ると視線の高さが一気に変わる。


さっきまで見下ろしていた紗良が、今は少し上にいて。

ベッドの縁に腰掛けた彼女の丸い膝。

白いスカートの裾。

そこから伸びる、汗でほんのり艶を帯びた脚。


「……低い」


思わず漏れた呟きに、紗良がくすっと笑う。


「床に座ったんだから当たり前じゃないですか。お義兄さんって意外と面白いんですね」

「そういう意味じゃなくて……」


「何ですか?」

「いや、何でもない」


言えるはずがない。

居候のはずの紗良がベッドの上に座って、この家の主である俺が床の上に座って。

たったそれだけで、立場まで変わってしまったように感じるなんて──。


「じゃあ、お願いしますね」


紗良はそう言って、組んだ足の片方をゆっくりと持ち上げた。

白い足裏が俺の目の前に差し出される。

夕飯中、テーブルの下で俺を追い詰めた足。

ズボン越しに俺の形を確かめ、綾乃の前で射精寸前まで追い込んできた足──。


つま先は綺麗に整っていて、まるで桜貝のような爪は控えめなピンク色のジェルで彩られていた。

丸みを帯びた柔らかそうな足の指が、五指全て寄り添ってぴったりと閉じられたまま、俺の手元へ向けられている。


「…………」


目の前に差し出されているのはただの女の素足じゃないか。

綾乃だって素足を見せることくらいある。

綾乃との違いはただ一つ。

綾乃には敬意と愛情を込めればいいのに対して、紗良には警戒が必要だということ。

それだけ。

それだけの差。

これ以上間違いは犯せない。

変に意識するな。


「……ほら、早く拭いてください」


甘えたような声。

けれどその瞳は獲物を捕らえた猫みたいに細められていた。

俺は渡されたタオルを握りしめる。


本当に引き返すなら……やめるなら今しかない──。


そう思いながらも、俺の手はゆっくりと、紗良の足先へ伸びていて。

指先がタオル越しに紗良の足先へと触れる。


「……っ」


思っていたよりずっと柔らかかった。

もっと骨ばっていて、筋張っていて、冷たいものだと思っていたのに。

足の裏の柔らかいところが、指先でそっと触れた瞬間にふにゃりと沈む。

タオル越しでもわかるぐらいにしっとりとしていて、指に吸い付くようで。


「ぅ……」


思わず息を飲む。

手の中で形がわずかに変わっていく。

指の腹に女の子特有の柔らかい肉感が伝わってくる。


しかも、温かい。


家具を動かした後だからか、足先はじんわりと熱を帯びていた。

薄いタオルの繊維越しに、じんわりと温かさが伝わってくる。


「……ちょっと、くすぐったいですって」


紗良が笑い声を堪えるように肩を揺らす。

そのまま彼女は耐えられないとばかりに足指をきゅっと縮めた。

タオルの中で柔らかな五本の指が小さく丸まり、俺の指が握られる。

その動きが、俺の指先を逃がさないように絡め取ってくるみたいで──。


「お義兄さん、手、止まってますよ?」

「す、すまん……ッ」


俺は視線を足の指に落としたまま、タオルで足指の先を拭った。


親指。

人差し指。

中指。

小さな指の一本一本を、タオル越しに軽く包んで、丁寧に汗を拭き取っていく。


爪は控えめなピンク色に艶めいていて、指の腹は思った以上にぷにぷにと柔らかい。

タオルで挟むたび、少し湿った熱が布へ移っていく感触がした。


汗ばんでいる。


そう思った瞬間、喉の奥が妙に乾く。


「あんなに嫌そうだったのに、そんなに丁寧に拭いてくれるんですね」


頭上から紗良の楽しそうな声が降ってくる。


「適当にやったら文句言うだろ」

「言いますけど?」


悪びれもせず紗良は笑った。


「でも、そうやってちゃんと丁寧に触られると、なんか変な感じしますね」

「変な言い方するな」


「だって本当なんだもん。お義兄さんの指、タオル越しでもわかりますよ?」


その一言で、指先に意識が集まる。


俺が触っているのだ。

紗良の足に。

タオル越しとはいえ、指の一本一本を持ち上げて汗を拭っている。

その事実を改めて自覚した途端、胸の奥がざわりと揺れた。


「お義兄さん」


甘い声で紗良が言う。


「次、足の裏もお願いします」

「自分でやれって言っただろ」


「ここまで来てまだそれ言います?」


紗良はくすくす笑いながら、持ち上げた足をタオルの俺の手の中へそっと着地させる。

広げた掌の上に乗せられる踵。


紗良の足の裏。


白い肌がところどころ汗ばみ少し赤みがかっている。

土踏まずの美しいアーチを中心に描かれたシワが俺の手の上で緩やかに波打ち、足裏の柔らかな肉感を訴えかけてきて。

タオル越しに感じた足指の柔らかさを思い出し、つい掌が熱くなる。


そんな紗良の足裏が、今はタオル一枚を隔てて俺の掌の上にあった。


「……」


足の裏にタオルを当てる。

まず感じたのは、柔らかさだった。

土踏まずの窪みは思ったより深く、タオルを押し当てると、足裏全体がこちらの手に合わせるようにしなやかに沈む。

踵は剥きたてのゆで卵のようになめらかで、けれど少し熱を持っていて。

指の付け根あたりは汗でほんのり湿り、タオルの繊維が吸い付くように張りついた。


拭いているだけ。

ただ汗を拭っているだけ。


そう何度も自分に言い聞かせても、手の中の感触があまりにも生々しかった。

柔らかく、温かく、わずかに湿っている。

その全部が、五感へと訴えかけてくる。


「ん……そこ、ちょっとくすぐったいです」

「我慢しろ」


「お義兄さんが変な触り方するからですよ」

「してない」


「じゃあ、どういうつもりでそんなにゆっくり拭いてるんですか?」

「……丁寧に拭いてるだけだ」


「ふぅん」


納得したような、していないような。


紗良が足首を少しだけ動かした。

足裏がタオルの上でずれる。

その瞬間、湿った皮膚が布地に擦れる妙に柔らかな感触が手のひらに走った。


「……ッ」

「今、びくってしました?」


「してない」

「嘘」


紗良は楽しそうに笑う。


「お義兄さん、ほんとに嘘つくの下手ですね」


俺は答えず足裏を拭き続けた。


つま先から土踏まずへ。

土踏まずから踵へ。

タオルを滑らせるたび紗良の足は俺の手の中で小さく形を変える。


足というのはこんなに柔らかいものだったのか。


綾乃の足を見たことならある。

同棲しているのだから当然だ。

だが、こんなふうに床に座って、真正面から、足裏を手に取るようなことは一度もなかった。


まして、その足の汗を拭くなんて──。


「……お義兄さん」

「何だよ」


「すごく真剣なんですね」

「当たり前だろ。変なことにならないようにしてるんだ」


「変なこと?」


紗良がわざとらしく首を傾げる。


「足を拭いてるだけなのに?」

「……」


「足を拭いてるだけで、変なことになりそうなんですか?」


答えられなかった。

その沈黙をどう受け取ったのか、紗良は小さく喉を鳴らして笑った。


「じゃあ、指の間もお願いします」

「そこまでしなくていいだろ」


「いやだってどうみてもここが一番汗溜まるじゃないですか? せっかく拭いてもらってるのに、そこだけ汗残ってたら台無しじゃないですか?」


紗良はそう言って、足指を少しだけ開いた。

タオル越しでもわかる。

指の間は、他の部分よりさらに熱がこもっていた。

細い隙間にタオルを差し込むと、湿った温もりがじわりと布に移る。

そこは足の表面とは違って外気に触れていない分、紗良の体温がそのまま閉じ込められているようだった。

思わず息を止めていた。


「……あれ?」


頭上から声が降ってくる。

年下の女の子に、上から言われることにだんだん慣れてきてしまっている自分がいることに気づく。


「今、息止めました?」

「止めてない」


「嘘だ~」


紗良の足指が、タオルの中で小さく動いた。

指の間に挟んでいたタオルごと、俺の指先をきゅっと挟み込む。


「もしかして、匂います?」

「……ッ」


「やっぱり……。今、顔逸らしましたよね?」

「違う」


「汗くさいですか?」


その声は少しだけ不安そうにも聞こえた。

年頃の女の子の、年相応な恥じらい。

けれど、その恥じらいを見せながらも、足は俺の手の中に置きっぱなし。

足の汗を他人に拭かせるなどという行為から矛盾した、乙女の恥じらい。


「別に……」

「別に?」


「汗かいてるなら誰だって多少はするだろ」

「じゃあ嫌な匂いじゃないんですか?」


「知らない」

「知らないってことは、ちゃんと確かめてないんですよね?」


嫌な予感がした。


顔を上げると、紗良はベッドの上からこちらを見下ろしていた。

大きな瞳を細めて、楽しそうに。

そして、ほんの少しだけ頬を赤くして。


「じゃあ、ちゃんと確認してください。汗くさかったら嫌ですし」

「は……?」


「だって汗くさかったら嫌じゃないですか。お義兄さんに足、拭いてもらってるのに」

「いや、確認って……」


「大丈夫です。ちょっとだけですから」


紗良がタオルから足を抜き、そのままゆっくりと持ち上げる。

湿った足裏が、ほんの少しだけ露わになった。

拭いたばかりなのに、まだ薄く汗の艶が残っている。


ツンと上を向き、長く整った足の先。

そんな足指の付け根。

土踏まずの窪みは鮮やかなアーチを描き。

丸い踵は艶めいていて。


そこからふわりと熱が立ちのぼるような気がした。


「……近い」

「近づけてるんです」


「やめろ」

「嫌ですか?」


紗良の足裏が俺の顔の近くで止まる。


近い。

あまりにも近い。


甘いシャンプーやリップの匂いとは違う。

家具を動かした後の汗。

スリッパの中にこもっていた熱。

夕飯中、テーブルの下で俺を弄んでいた足の、生々しい残り香。

人が発する、匂い。


それは決して綺麗な花の匂いではない。

けれど、紗良の身体から出たものだとわかるだけで頭の奥がじんわりと痺れてくる。


「……ッ」

「お義兄さん」


紗良が囁く。


「ちゃんと息してください」


言われた瞬間、自分がまた呼吸を止めていたことに気づいた。

ゆっくりと息を吸う。

汗ばんだ足裏の匂いが、鼻腔を通じて肺の奥へと染み込んでいく。

温かくて、少し蒸れていて、さっきまで動いていた女の子の足そのものの匂い。


嫌悪すべきだ。

脳が警鐘を鳴らす。


だが、俺の身体はそれを拒絶より先に、夕飯中に紗良の足で追い詰められた記憶を思い出してしまう。


テーブルの下で押し当てられた柔らかい感触。

ズボン越しに擦られた熱の温かみ。

そして、綾乃の前で必死に声を堪えたあの時間──。


全てが一気に蘇る。


「……ふふ」


紗良が笑った。


「嗅いじゃいました?」

「違う」


咄嗟に否定する。

認めたくなかった。

綾乃の前では決して見せられない醜態。

妹の紗良の汗ばんだ足の匂いに興奮を覚えているなんて──。


「嘘つかなくていいんですよ。私はわかってますから」


言い返せなかった。

そんな俺の反応見て、紗良は満足そうに足を少し離す。

その瞬間、肺の奥にこびりついた熱が名残惜しいように感じられて、俺は慌てて唇を噛んだ。


まずい。


足を拭いているだけのはずだった。

汗くさくないか確認させられただけのはずだった。

なのに、身体の奥に残っていた欲が、またゆっくりと形を取り戻していく。


「お義兄さん」


紗良は足裏をタオルの上へ戻しながら、上から俺を覗き込んでくる。


「足の汗、まだ拭き終わってませんよ」

「……わかってる」


「じゃあ、続きお願いします」


またもや甘えるような声。

けれどその足は、俺の手の中で小さく蠢いていた。

まるで、さっき吸った匂いごと俺の反応を覚え込ませるように。


俺はタオルを握り直しもう一度紗良の足裏へ触れる。

さっきよりも柔らかさがはっきりわかる。


温かさも。

湿り気も。

そしてタオル越しにまだ残るあの甘く蒸れた足の匂いも。


全部が俺の指先と鼻腔の奥に絡みついて離れなかった。

タオルを滑らせるたび、紗良の足裏が手の中でゆっくりと形を変える。


指の付け根。

土踏まず。

踵。


どこも最初に触れた時より妙にはっきり感じられる。

一度匂いを意識してしまったせいだろうか。

タオル越しに触れているだけなのに、その下にある素肌の熱や湿り気までやけに生々しく伝わってくる。


「……まだそんなに丁寧に拭いてくれるんですね」


頭上から紗良の声が降ってくる。

もう慣れてしまった。


「汗が残ってると気持ち悪いんだろ」

「はい。だから助かります」


素直に礼を言う声。

だがその声音はどこか楽しそうだった。


「お義兄さんの手、さっきより慎重になってません?」

「……気のせいだろ」


「そうですか?」


紗良は足指を小さく動かす。

タオルの中で五本の指が開いたり閉じたりする。

そのたびに指の間にこもっていた湿った熱が、発散させるようだった。


「また息止めてません?」

「止めてない」


「ふふ。じゃあ、ちゃんと吸えてるんですね」

「……そういう言い方するな」


「だって、確認してくれたじゃないですか。あたしの足の匂い」

「してない」


「しましたよ」


紗良はきっぱりと言い切った。


「ちゃんと息吸って、嗅いでました」


否定したかった。

だが言葉が出ない。


足裏を近づけられた時。

自分が息を止めていたこと。

そして、紗良に言われて、実際に呼吸してしまったこと。


それは紛れもない事実だった。


「汗くさかったですか?」

「……知らない」


「知らないわけないですよね」


紗良の足先が、タオル越しに俺の手の中でくすぐるように動く。


「だってお義兄さん、さっきからずっと変ですもん」

「変じゃない」


「変ですよ。怒ってるみたいなのに、手は全然離さないし」

「……」


「足の匂いが嫌ならもっと急いで終わらせればいいのに」


柔らかい声なのに、言葉だけが妙に鋭い。

ひとつひとつ、追い詰められていく。


「なのにお義兄さん、まだ触ってる」

「お前が拭けって言ったんだろ」


「言いましたけど」


紗良は楽しそうに目を細めていた。


「でも、そんなに丁寧にしてなんて言ってませんよ?」


その一言に胸の奥を突かれた。

確かにそうだ。

適当に済ませることはできた。

タオルでざっと拭いて、終わったと言って立ち上がればよかった。

実際、今からでもそうできる。


なのに俺は……紗良の足を手放せずにいた。


汗ばんだ足裏の熱。

タオル越しに沈む柔らかさ。

足指の間からこぼれる湿った匂い。


それらを拒絶しなければいけないはずなのに、指先はまだ彼女の足裏をなぞり続けている。


「……もう、いいだろ」


ようやくそう言って俺はタオルを離そうとした。

その瞬間、紗良の足指がタオルごと俺の指先をきゅっと挟んだ。


「まだです」

「……何が」


「こっちは終わりましたけど、こっちも汗かいちゃったので」

「こっち?」


問い返した瞬間、紗良が足を引く。

手の中から足裏の温度が消える。

そのことに一瞬だけ安堵する。

だが、それはすぐに別の緊張へ変わった。

紗良はベッドの縁に浅く座り直すと、片膝を軽く立てるようにして脚の角度を変えた。

白いスカートの裾が、膝の上でふわりと持ち上がる。


膝裏から太ももの裏へかけて。

普段なら見えるはずのない、柔らかそうな肌のラインが、俺の目の前に近づいた。

……太ももの奥は見ないようにしよう。


「……おい」

「家具動かした時、膝の裏とかも汗かいちゃったみたいで」


「そこは自分で拭け」

「えー? 足は拭いてくれたのに?」


「足とそこは違うだろ」

「違いますか?」


紗良は不思議そうに首を傾げる。

けれどその目は俺が動揺していることをちゃんと見抜いていた。


「さっきまで、お義兄さんが拭いてくれた足に違いはありませんよ?」


そう言いながら、紗良は片脚をゆっくり伸ばす。

肩の上に足首が、とんっと置かれる。

膝裏が俺の顔の斜め上に来る。


足裏とは違う匂いが、ふわりと漂ってきた。


蒸れた足の生々しさとは違うもっと肌に近い、汗と体温と、紗良の使っている香水やソープの甘い香りが混ざった匂い。


(だ、ダメだろこれは……!)


思わず視線を逸らす。


「また見ないようにした」

「してない」


「してました」


紗良は笑いながら、タオルを持った俺の手を見下ろした。


「じゃあ、ここもお願いします。膝の裏だけでいいですから」

「だから、自分でやれって」


「お義兄さん、さっき言いましたよね? 汗が残ってると気持ち悪いんだろって」

「……」


「じゃあここも残ってたら気持ち悪いと思いません?」


言い返せない。

言い返せないように、紗良はわざと俺の言葉を使っている。

ちゃらんぽらんに見えて見えて意外と紗良は頭がよかった。


「それに」


紗良の声が少しだけ低くなる。


「足の裏はちゃんと確認してくれたのに、こっちは確認してくれないんですか?」

「確認って……」


「汗くさくないかどうか」

「……ふざけるな」


「ふざけてませんよ」


紗良は膝を少し開くように角度を変えた。

スカートの奥までは見えない。

だが、太ももの内側へ続く白い肌が、目の前の距離にある。


近い。


床に座っているせいで、逃げ場がない。

視線を落としても足がある。

顔を上げれば紗良がいる。

横を向いたとて、紗良の太ももが視界に残る。


「お義兄さん、足の裏よりこっちの方が嫌なんですか?」

「……当たり前だろ」


「どうして?」

「どうしてって……場所が、違うだろ」


「場所が違うと、何が違うんですか?」

「……」


「足の裏は拭けたのに?」


紗良はそこで少しだけ笑った。


「それとも、こっちの方がより女の子っぽくて困りますか?」


言い当てられた気がした。


足裏にはまだ言い訳があった。

夕飯中に俺を弄んだ足の汗を拭かされているという、馬鹿げた命令に従わされているだけだと。


だが膝裏から太ももにかけての肌は違う。


そこは足裏ほど露骨に汚れているわけでも、汗臭いわけでもない。

むしろ柔らかく、白く、体温を帯びた、女の子の身体そのものだった。


近づいてはいけない場所。


綾乃の妹を、女として意識してしまう場所。


「……できない」


やっとのことでそう言うと、紗良は少しだけ目を丸くした。

それから、ふっと微笑む。


「できないんですか?」

「……できない」


「じゃあ、やっぱり意識してるんですね」

「違う」


「違わないですよ」


紗良は立てた膝をゆっくり下ろし、代わりに足先を俺の膝の上へ乗せた。

さっきまで拭いていた足裏。

まだ少し湿った温かさが、ズボン越しにじわりと伝わってくる。


「足の裏は触れるのに、太ももは触れない」


紗良の声が静かに響く。


「それって、お義兄さんがちゃんとわかってるからですよね?」

「……何を」


「あたしのこと」


足先が俺の膝の上で小さく動いた。


「お姉ちゃんの妹じゃなくて、女の子として見ちゃってるってこと」


言い返せなかった。

言い返したかった。

違うと。

そんなつもりじゃないと。

俺は綾乃の婚約者で、紗良はただの妹みたいな存在で、だからこれは全部間違いなのだと。


だが、床に座ったまま紗良の足を拭いて。

汗の匂いを吸わされて。

太ももの匂いに動揺している俺の姿が、何よりも雄弁に答えてしまっていた。


「……ほら」


紗良が、足先で俺の膝を軽く押す。


「また何も言えない」

「……っ」


「お義兄さんって、本当に正直ですよね。口より身体の方が」


甘い声。

その言葉に合わせるように、紗良の足が俺の膝から少しずつ上へ滑ってきた。


太ももの上へ。

夕飯中と同じ場所へ。


「おい、やめろ……」

「嫌なら、どけてください」


足裏がズボン越しに俺の太ももを押す。


汗を拭いたばかりの足。

温かくしっとりとした足裏。

そこからまだ、さっき嗅がされた匂いが立ちのぼるような気がする。


「どけられますよね?」


紗良はベッドの上から、俺を見下ろしていた。


「本当に嫌なら」


俺は動けなかった。


動けばいい。

足を払えばいい。

立ち上がって、この部屋を出ればいい。

それだけのことなのに──。


下腹部の奥に残っていた熱が、紗良の足裏の温度を合図に、またじわじわと膨らみ始めていた。


「ふふ」


紗良が小さく笑う。


「やっぱりどけないんだ?」


足裏がさらに上へ滑る。

夕飯中、寸前まで追い込まれた場所へ向かって。


「さっきの続き」


紗良は甘く囁いた。


「してほしいんですよね?」

「やめろ、って……っ!」


「ふふ。やっぱり嘘つき」

「ぁッ……」


くすりと笑った紗良の右足が、そっと寄り添うように股間の膨らみを横から支えていた。


「逃げないと挟まれちゃいますよ~?」


遅れて左足が太ももの上に乗せられる。

その時点で立ち上がるという行為そのものを踏みつけられているようだった。

身体を動かそうとしても、金縛りにあったかのように動かせない。

床に脚を縫い付けられたまま、じわじわと迫ってくる紗良の左足をじっと眺めることしか出来ない。

そしてとうとう──。


──ぴとっ……♡


「あ……」


紗良の左足が右足に密着する。

左右の足の中央に硬くなった竿が挟み込まれる形で、紗良の足裏は再びズボン越しの熱源にぴったりとくっつけられたのだ。


「やっぱりお義兄さんも期待してたんだ~?」


──ぎゅっ♡ ぎゅっ♡


紗良の両足が竿の固さを確かめるように左右から圧をかけていく。

程よい締め付けが竿を逃さないように、その形を維持させて、ズボンから浮き上がらせていく。


「くッ……♡ あっ……♡ やめ……♡」

「ねぇ~、お義兄さん、なんでこんなに硬くなってるんですか~?」


「そ、それはお前が変なッ……♡」

「変~? あたしはお義兄さんに足の汗を拭いてもらってただけなのに~? なのにこんなに硬くさせて……♡ もしかしてお義兄さんは女の子の足が好きな変態さんなんですか~?」


「ば、馬鹿言って……♡ 足を今すぐどけろッ……♡」

「え~? せっかく足を拭いてもらったお礼をしようと思ったのにな~?」


「お、お礼とかいらないからッ……♡」

「え〜、そんなこと言わないでくださいよ〜?」


そう言いながらも紗良の両足は、器用に足指の筋肉を使って竿の形を確かめていく。

ズボンに浮き上がった固い棒の形をなぞるように、ゆっくりと上下に一往復。


──しゅっ……♡


終わったかと思えば、今度は布越しの血管の凹凸すらも見逃さないか如く、つぅ~っと撫でてこびり付くような甘い快楽を与えてくるのだ。

根元から先端まで、甘い快楽というぬるま湯に浸された肉竿の硬さが徐々に増してくる。


「……ッッ♡♡」


思わず腰が逃げるように浮く。

ベッドの縁に腰掛けた紗良の目の前、床に座り込んだ俺の姿勢は、紗良の足責めに抵抗の術もない。


「あれ? 今、腰浮きました?」


紗良が面白そうに目を細めた。

腰の奥に封印したはずの欲の炎が、再び燻りはじめている。


「ち、違う……腰なんて浮かせてもいないしッ……」

「ふふっ♡ 浮きましたって♡」


満足そうに笑った紗良の足の指が、ゆっくりと動き出す。

指一本一本が俺の肉棒をなぞるように踊り、皮を引っ張りながら快楽だけを的確に伝えてくる。

その感触に耐えきれずに、俺の口からは情けない喘ぎが漏れた。


──すりすり♡


「……ぁ♡」

「ふふ。声漏れてますよ?」


──しゅっ……しゅっ……♡


紗良が足の指を竿全体に絡ませて動かせば、その都度甘い電流が脊髄を駆け抜けた。


「声、我慢できそうにないなら、いいですよ? あたしの太ももにお顔埋めて我慢してくれても……♡」


(そ、それはまずいだろッッ……!!)


だが、それを口に出す前に伸びてきた紗良の両手が、頬をそっと包み込んだ。


「女の子の足に夢中になっちゃうお義兄さんを、あたしの太ももにごあんな~い♡」

「ぁ、待っッ──」


──むにゅっ……♡


言いかけた瞬間、顔が紗良の太ももに柔らかく挟み込まれる。

布地越しではない生の脚。

鼻先にふわりと触れた柔らかさが頭の中をピンク色に塗り潰す。


「ん"ッッ! ん"ん"ッッ!!」


頭を上げようと首に力を込めるものの、後頭部に置かれた紗良の手がそれを許さない。

こんなに力が強いのかと勘違いするほど。


いや、でも実は──。


考えがまとまらないうちに、紗良が耳元で吐息混じりに囁く。


「は~い、じゃあ深呼吸して~?」

「ん"ッッ……!!!」


顔を押しつけられたまま、紗良の指先が後頭部を撫でて呼吸を促す。


──すぅ~~~~♡♡♡


紗良に言われるがまま深呼吸をした途端、鼻腔いっぱいに広がった甘美なる芳香。


「〜〜〜♡♡♡」


甘い女の子の匂いの中に、少しツンとした体臭めいた匂いが微かに混じり、汗と蒸れた柔肌と女の子の匂いとが溶け合って、思わず背筋が粟立った。

太ももの谷間に埋もれた鼻先が自然と深呼吸を繰り返し、肺胞ひとつひとうにまでその芳香がこびりついていく。

脳が沸騰してしまいそうだった。

頭の中が紗良の匂いでいっぱいになる。


(や、やばい……♡♡♡)


だが逃げようにも、太ももで顔を挟み込まれて抵抗なんてできやしない。


──すりすり♡


「ぁッ♡」


顔を解放して欲しいと懇願の声を上げようとするたび、紗良の足指が絶妙なタイミングで竿を扱き上げる。

おかげで呻き声に似た喘ぎが漏れるばかり。


──さわさわ♡

──すりすり♡


「ぅ……♡ ん"ッ……♡ あっ……♡」

「ん~~~? どしたの~? お義兄さん、そんなにあたしの太ももが良いの~?」


太ももに顔を埋めさせられたまま甘酸っぱい匂いを胸いっぱいに嗅がされる。

このままでは理性が焼き切れそうだった。


「お、俺はっ! お前の太ももなんかで興奮する変態なんかじゃ──ッ♡♡♡」


言葉を遮るように、紗良の竿を挟む両足がぐっと左右から力を込めてきた。

柔らかいはずの太もも肉も同時に締まる。


──ぎゅうぅぅ……♡


「ぁっ……♡」


思わず呻いた声が、太ももの隙間を震わせる。

しかし紗良は緩めてはくれず、むしろ後頭部に添えられた指がゆっくりと髪を梳くように動く。


「大丈夫ですよ~。お姉ちゃんには内緒にしておいてあげますから~……♡」

「ん"ん"ん"ッッッ!!」

(そ、そういう問題じゃッッ!!)


「だからお義兄さんはあたしの太ももの匂い嗅ぎながら、足で気持ちよくなってればいいんですよ〜?」


──しゅっ……♡ しゅっ……♡ しゅっ……♡


「ふッッ♡ ん"ッッ♡ ふぐぅッ♡」


ダメだダメだダメだ。

このままではまた射精させられてしまう。

それだけは絶対に避けなければならない。

こうなれば……。


「ん"ッッ♡♡♡ ん"ッ♡♡♡」

(い、いちかばちか……!)


「あはは~♡ 豚さんみた~い♡」


ケラケラと笑う紗良の隙をついて、両手を紗良の太ももへと伸ばす。

紗良の身体に触れることやスカートが多少めくれることなど構いはせず、今この状況から脱出する一点に集中し全力で太ももを──ッ!


「ん~~? そんなにお触りしたいんですか~? お義兄さんなら~、いいですよ……っと」


──ぎしりっ……ぼふんっ♡


俺の両手が伸びてくることを見逃さなかった紗良はニヤリと笑い、一度腰を上げた。

視界を太ももに奪われている俺は当然空振ってしまう。

そして空振った先で、両手は紗良の体重をもろに受け止める結果に。


──むにゅっ……♡


「うッ……♡」


一瞬何が起こったのかわからなかった。

視界は太ももの柔らかい谷間に埋もれ、紗良の両足が竿を挟んでいる状態は変わっていない。

息を吸えば太ももの甘酸っぱい匂いが脳内に桃色の霧を撒き散らし、下半身の快楽神経は紗良の器用に動く足によって絶えず刺激を与えられ続けていた。


そんな中、俺は両手で掴んでしまったのだ。

柔らかく、しっとりと汗ばんだ、紗良の裏ももを。


「ふふっ♡ どうですか~?」


紗良が楽しそうに笑う。

その笑い声に、ようやく何が起こったのか理解した。

紗良は俺が手を伸ばしたことを利用して、太ももと尻との境目で俺の両手を抑え込んでしまったのだ。


「でも、お義兄さんって意外と積極的なんですね~……♡ まさか直接お触りしようと伸ばしてくるとは思ってませんでしたよ〜?」

「違ッッ♡ ん"ッ♡ ふん"ッ♡」


「あ~あ、また豚さんみた~い♡ 鼻の鳴らし方も可愛くなっちゃって……♡ でも、そんなにお触りしたいなら、もっと揉んでくれてもあたしは一向に構いませんよ……?♡」

「ふ、ふんッ……♡ ふぐッ……♡ ふぐぐッ……♡」

(ば、バカかッッ♡♡♡)


柔らかい肉厚の肉壁は、簡単には抜け出せそうになかった。

むしろ力を込めるとその弾力が掌に伝わってきて、より一層意識させられる。

すべすべの生肌、指と指の隙間に柔肉が溢れるようにして入り込み、それでいて温かくしっとりとした柔肌はもちもちと吸い付くような手触りでもって、両手を歓待してくれる。


──むにゅむにゅ♡


「〜〜〜♡♡♡」

「どうしたんですか〜? そんなに息荒くして~♡」


太ももの感触と甘酸っぱい匂いに思考を奪われながらも必死に言葉を探すが、何も出てこない。

出てくるはずがない。

しかし、紗良はそれだけでは飽き足らず──。


──ジ~~~……♡


紗良の足指が摘み上げたズボンのチャックを、器用に下ろし始めたのだ。



「ねぇお義兄さ〜ん? これ、もう苦しいですよね~?」

「ん"ッッ♡♡♡ ん"ん"ッッッ♡♡♡」

(ダメッッ♡♡♡ そこはダメッッ♡♡♡) 


──ぐにっ……♡


「ふッ……♡♡♡ ん"ッ……♡♡♡ ん"ん"ッ……♡♡♡」


チャックを下ろされ、露出した下着の上から、足の指で陰茎をゆっくりと揉み解される。

紗良の足の指は、俺の固くなった肉棒を、まるで愛おしい物でも触るかのように優しく包み込んでいく。


「ほら……お義兄さんの硬くなったご子息が、婚約者の妹のえっちな足に見つかっちゃいますよ~?♡」


わざとらしくクスリと笑った紗良が言い終わる前に、その足の指先が最後の砦であるパンツの腰ゴムに引っかかる。


「ん"ッッ……♡ ん"ん"ッッ……♡」

(ダメだダメだダメだぁッッ♡♡♡)


抵抗しようと足掻くも虚しく、両手は太ももの柔らかい肉でホールドされており、紗良の足の侵略を食い止める手段はない。

そしてついに俺の男根はパンツの中から無理やり引っ張り出されてしまう。


──ぶるんッ!


「ん"ッッッ!!」

「うわぁ……♡ 出ちゃいましたね……♡」


思わず漏れた声と同時に、パンツの中で押し込められていた怒張が勢いよく飛び出す。

外気に晒された先端部は、既に先走りでヌルヌルと光沢を放ち、天を向いて屹立していた。


「あははっ……♡ 紗良の足だけでこんなになっちゃったんだ~……♡ えっちなお義兄さん〜♡」


──ぴと……♡


感嘆の声を漏らした紗良の足指が、いきり立った肉竿に恐る恐る触れてくる。

タオルを挟んでいた時には感じられなかった、足指の柔らかさと指の丸み。

俺の肌と紗良の肌が触れ合い、互いの体温がダイレクトに伝わってきて、それがいっそうの熱量を呼び込んでいく。


「……すごい、こんなに硬くなってる……」

「〜〜〜♡♡♡」


声すら出せない。

太ももの奥深い谷間に顔を埋めさせられているせいで、視界には何も映らない。

それでも、紗良の細長い足指が陰茎を丁寧に上下している感触は、目を閉じていてもはっきりと伝わってくる。


(くッ……♡♡ あッ……♡♡ )


竿を挟み込んだ紗良の足指が、硬さを確かめるように二度三度、ぎゅっぎゅっと左右から肉幹を締め付ける。


──ぎゅっ……♡ ぎゅっ……♡

──ぐにゅうううぅ……♡


「うぅッッ……♡ あッ……♡ ん"ん"ッッ……♡」

(こ、こんなっ♡♡♡)

「あははっ……♡ お義兄さん、これ、そんなに気持ちいいんですか?♡ だったらもっとしてあげますね……♡」


──ぎゅっ……♡ ぎゅっ……♡


脳内では危険信号が鳴っているはずなのに、紗良の太ももの柔らかさと甘い匂いに囚われて、まともな思考ができなくなっていた。

霞がかった脳内で唯一活性化されているのは、紗良に扱かれている下半身の感覚のみ。


──さわさわさわ……♡


竿を包むように左右から圧迫していた足指が、今度はそれぞれ別個の動きで蠢いていく。

一本一本の指が陰茎をなぞるように。

亀頭の傘の部分を柔らかな指の膨らみが擦り上げ、感じやすい段差の部分をそれぞれが異なる方向に動きながら撫で回す。

パンツという布地一枚、あるとないとでは天と地ほどの差があった。

生身の温かい柔肌で直接触れられ、甘く優しく労うような繊細かつ執拗な責めは、陰茎に甘い快楽を注ぎ続け、堕落の道へと誘われる。


「うっ……♡ ぁ……♡ はぁ……♡」


紗良の太ももに埋められた顔を少しだけ持ち上げ、情けない声を漏らす。

すると紗良はそんな情けのない俺を褒めるかのように頭を何度か撫でてくる。

無理やり押し付けられれば反発したくもなるものの、こんなにも優しい手つきで撫でられてしまうと、それだけで心まで委ねてしまいそうになってしまう。


「いい子いい子……♡ このままたくさん甘えていいんですからね~……♡」


(あ……♡♡ あぁ……♡♡)


「ふふっ。お義兄さん、力抜けてる?」

「ん"ッ♡♡」

( 違ッ♡ ちがッッ♡♡)


後頭部を撫でる優しい手つき。

少し開いた太ももの谷間との距離が、より一層恋しくなる。


「お義兄さん、今日はよく頑張りましたね〜。足の汗拭いてくれて、あたしの太ももでたくさん深呼吸して、足で気持ちよくなって……」


──さわさわ♡ すりすり♡


足指で竿を撫でながら紗良は掌で後頭部をゆっくりと撫でていく。

まるで子どもを褒める母親のような優しさで。

甘酸っぱい匂いをひたすらに嗅がされ続け、身体中が紗良の匂いに溺れていく。

紗良の甘い声が頭の奥に響く。

紗良の足の気持ちよさを教え込まれてしまう。


「もうそろそろ限界かな~?♡」


両足の指先が互い違いに、左右それぞれ異なる方向へ動きながら竿の表面を舐め回す。

まるで肉棒に媚びるように、紗良の足の指先が肉竿の表面を撫で回しながら、絶頂へ向かって吐精を促す。

肉竿が小刻みに震え、睾丸がキュンと縮み上がり、瞬く間に射精欲が色めき立ってくる。


(ダメ……♡ だめ……♡ だめ……♡ ダメッッ♡♡♡ ダメェェェッッ♡♡♡)


膨れ上がった射精欲。

紗良の太ももの柔らかい谷間に囚われたまま、肉竿が紗良の両足にぎゅっと抱き締められるように上下に扱き上げられた。

足裏が竿に密着し、長い足の指が亀頭に絡み付く。

豊かな足裏の肉のクッションは陰茎の血管を押し潰しながら上下に扱き。

指紋の凹凸まで感じられるほど敏感になった竿は、紗良の足の指にされるがまま快楽の奴隷と化していた。


(あッ♡♡ あァッ♡♡ あッ♡♡ あァッ♡♡ もッッ♡♡♡ もうッッ♡♡♡)


そしてとうとうその時が来ると、身構えた瞬間だった。


「はい、お礼はここまで〜」

「えっ……? あッ……♡」


竿を扱く紗良の足の動きが止まり、竿を包んでいた足裏の感触がなくなったのだ。

あまりの唐突な出来事に肉竿が、ひくひくとよだれを垂らす。

快楽を求めて腰がピクリと前後する。


あともう少しでイケたのだ。

気持ちの良い絶頂に至れたのだ。

なのにどうして紗良は──。


「ん"ん"ッッ♡♡♡ ん"ッッ♡♡♡」

「ん〜? どうしたんですか〜?」


──ぽんぽんっ♡


太ももの奥へ埋もれている頭を紗良の手が軽く叩く。

紗良の匂いに犯された脳が痺れ、腰が疼く。


「もしかして、何か言いたいことがあったとか〜?」

「〜〜〜ッッ♡♡♡」


「太ももにお顔埋めてプルプルしてても、お義兄さんの気持ち、紗良にはわかんないですよー?」

「〜〜〜ッッ♡♡♡」


「だって、紗良はお義兄さんがきちんと意思表示をしないとわかんないですもん……クスクス♡」


わかっているくせに。

知っているくせに。

なのに紗良は敢えて知らぬ存ぜぬを装い、俺の口から卑猥な要請を求めているのだ。


頭の奥で理性が告げる。


ダメだ、ダメだ、ダメだ──。

これ以上はもう本当に……戻れなくなる……ッッ!!


わかっているのに、太ももの谷間に埋まった顔が言うことを聞いてくれない。

紗良の柔らかさと甘い匂いをたっぷりと堪能させられて、正常な判断を下せなくなっている。


──ぎゅむっ……♡


「ん"ッッッ♡♡♡」

「はい、じゃあお義兄さん、そろそろどいてもらえます?」


紗良の言ってることとやっていることが一致していなかった。


「お義兄さん、太ももの匂いそんなに良かったですか? もうあたしの汗もひきましたし、お義兄さんもあたしの太ももをたっぷり堪能できたと思いますので……どいてくださいね〜?♡」


足裏で肉竿をぎゅぅ~っと締め付けたままのくせに、紗良は俺に退けと言うのだ。


「言葉にできないなら態度で示さないとね〜……お義兄さんはいい大人なんですし〜……」


──ぎゅっ……♡ ぎゅっ……♡


(や、やばッ……♡ あぁ……♡ ぁ……♡ こ、こんなのッ……♡)


肉竿を挟み込んだ紗良の足が、肉欲を再び焚き付ける。

寸前まで高められた手前、足の間に挟まれて、少し締め付けられるだけで簡単に熱がともる。

既に限界まで高められて今にも爆発しそうになっている肉棒は、もう何をされても気持ちが良いのだ。


「あ♡ あぁッ♡ くッ♡ ふぅッ♡」

「ん~……でもお義兄さんが~、どうしてもっていうなら……あたしもやぶさかではありませんよ……?♡」


「は、はぁッ? あッ♡ ふッ♡」

「もしお義兄さんが望むのであれば~、あたしの太もものえっちな匂いを嗅ぎながら、あたしの足でしっかり気持ちよくしてあげてもいいですよ~? ですが、お義兄さんが望まないのであれば、嫌がるところを無理やりシちゃうのも悪いですし~、このまま太ももからお顔を上げてもらってもいいんですよ~?」


「ふふっ……♡ どうします? やめちゃいますか? それとも──……♡」


──ぎゅっ……♡ ぎゅっ……♡


竿を挟み込む両足に僅かな力が加わり、肉竿の側面を足指が指圧する。

どくどくと脈打つ暴れ馬をたしなめるように。

優しく締め付けられているだけなのに、どうしようもなく切なくなって、脳みそが茹で上がったように思考がまとまらない。

足指が僅かに蠢くたびに、肉竿はどくどくと脈動し亀頭からとろりと先走りが溢れてしまう。


綾乃以外の女性経験はない。

しかし、自分自身が綾乃で満足していなかったのかと疑ってしまうほどに紗良は巧みに俺を追い詰めていった。


「もちろんお姉ちゃんには黙っててあげますから……♡ ほら、お義兄さん、そろそろ選んでください? あたしの足で気持ちよくシてほしいか、それとも、あたしの太ももから顔を上げて終わりにするか……」


「そうですね、太ももにお顔埋めたままで喋れないみたいなので、首でも振って反応してもらいましょうかね~。もしお義兄さんが足で気持ちよくシてほしいって言うなら、首を縦に振って、お顔をもっともっとあたしの太ももに埋めてください。もし嫌なら……ふふっ♡ 太ももの奥から抜け出して、あたしから離れてください」


「ん"ッッ♡ ん"ん"ッッ♡♡」

(こ、こいつッ……♡♡♡)


──ぎゅむっ♡ ぎゅむっ♡


紗良の足が俺の竿をゆっくりと圧搾する。

柔らかく温かい足で挟み込まれる幸福感。

射精直前まで高められた昂ぶりは、紗良の言葉に抗い難い衝動を宿していた。


脳裏に浮かぶのは綾乃の屈託のない笑顔。

純粋に俺を信頼している目。

そんな彼女を裏切りたくないと心から願うものの、顔面を包み込む柔肌と甘酸っぱい紗良の匂いが本能的な欲望を刺激する。

紗良という女に甘く優しく包み込まれるような感覚を前にして、思わず安心してしまう自分がいることに気づく。


(だめだ、こんなこと考えちゃいけないのに……ッ♡♡♡)


頭を上げた瞬間、この甘美な誘惑は終わる。

太ももの甘酸っぱい匂いに埋もれることもなく、紗良の足指で竿を刺激されることもなく、当然射精に至るはずもない。

そう思うと、どうにも身体が動かなかった。

顔を上げるのが億劫になり、むしろそのまま紗良の柔肌に鼻先をうずめる。


(さ、紗良は秘密にしてくれるって言ってるし……♡ もし、勃起したまま紗良の部屋から出たら、万が一にも綾乃にバレてしまうかもしれないし……♡♡)


次々と頭に浮かぶ言い訳が、己の最低さを浮き彫りにしていく。

俺は綾乃を愛しているはずなのに。

綾乃と結婚するはずなのに。

綾乃を裏切りたくないはずなのに。

なのにどうして。

どうしても太ももを離す気になれなかった。


否。


むしろ───。


──ぐりぐり……♡


「ん~~~、そうですか~~~♡ お義兄さんは太ももにお顔を埋めながら、足で気持ちよくなりたいんですね~♡ ふふっ♡ 足に射精したいだなんて……♡ お義兄さんってほんと~~~に、マゾなんですねぇ~~~……♡ だって足ですよ? 手でも口でもなく、あ~し♡ えっちな行為をする道具なんかじゃ全然ない、あ~し♡ その足に興奮しちゃうとか~~、どんだけ変態さんなんでしょうか~?♡」

「〜〜〜♡♡♡」


紗良の言葉には苛立ちも侮蔑もない。

ただ純粋に楽しんでいるような、楽しげな音色だけが含まれている。


──ぎゅっ……♡ ぎゅっ……♡


(あ♡ あッ♡ くッ♡ ん"ッ……♡♡)


我慢が効かない。

紗良の言葉で途端に恥ずかしくなった俺は、少しでも顔を隠すようにと紗良の太ももに額をこすりつけた。

紗良の体温が柔らかく感じられる。

甘酸っぱい女の子の匂いに満たされる。


(あ……♡♡ あ……♡♡)


「いいですよ~~~♡ マゾで足が大好きな変態のお義兄さんでも、あたしはちゃーんとイカせてあげますからね~~~♡」


──しゅっ♡ しゅっ♡ しゅっ♡


紗良の言葉と同時、竿を挟み込んだ両足が激しい動きで扱き始めた。

竿をがっしりと握り込んだ長い足指は、肉棒に巻き付きながら激しく上下に。

足指の腹が肉竿の表面を這いずり回り、足指同士の段差がカリの溝を何度も何度もいじめ抜く。

突如トップギアへシフトアップした紗良の足指捌きは、頭の中を快楽一色へとあっという間に染め上げた。

腰の奥で燻っていた熱が解放へと導かれ出口を求めて暴れ始めると、それを堰き止める術を俺は持ち合わせていなかった。


──しゅっ♡ しゅっ♡ しゅっ♡

──さわさわさわ♡

──くにくにくに♡

──ぎゅむぎゅむぎゅむ♡


「ん"ッッ♡♡♡ くッッ♡♡♡ あッッ♡♡♡」

「いつでも出していいですよ〜♡ あたしのお股の匂い嗅ぎながら、紗良の足でマゾ精子ぴゅっぴゅぅ〜ってしちゃいましょうね〜♡」


「〜〜〜ッッ♡♡♡ 〜〜〜ッッ♡♡♡」

(紗良……ッ♡♡♡ こんなのダメッ……♡♡♡)


俺の意志はまだ拒んでいる。

いや、拒もうとしている。

しかし紗良の足は容赦なかった。

俺が僅かな理性を必死に搔き集めようとも、紗良の足の巧みな責めの前では無意味であった。

柔らかく滑らかな足裏の感触。

同じ人間の部位でも、こうも違うのかと驚きを禁じ得ない。


柔らかいのはもちろんのこと、女性特有の滑らかでしっとりとした感触が、愚息に絡みつくことで、今まで感じたことのない甘く背徳的な快感となって背筋を駆け抜け、脳天へと昇っていく。

手と遜色なく肉竿を責め立てる器用な足裏の滑らかさに身を任せながらも、紗良の太ももの奥から漂ってくる甘酸っぱい匂いを胸一杯に吸引すると、下半身から突き上がる快感に酔い痴れる。

そこへ頭上から鈴の音のように透き通った甘い声が降ってくると、いっそうの多幸感に包まれていく。

まるで女神様からの神託を賜るような甘美なる幸福。

全てを捧げて解放されたいという根源的な欲望が、肉竿を苛む快楽の波と共に全身へと拡散し。

そしてその波に抗う力は──俺には残っていなかった。


「ん"ッッ♡♡♡ ん"ッッッ♡♡♡」

「はいはい、もう我慢できないんですよね〜? いいですよ〜、出しちゃっても♡ たくさん出してもぜーんぶ紗良の足が受け止めてあげますからねー……クスっ♡」


「〜〜〜♡♡♡ ん"ッッ♡♡♡ ん"ッッ♡♡♡」

(あ……♡♡ ぁ……♡♡ で、出るぅ……♡♡ こ、こんにゃのッ♡ で、出るぅ……♡♡)


──びゅくッッ♡♡ びゅくッッ♡♡ びゅッッ♡♡

──びゅるるるるッッッ♡♡♡

──どぷッ♡ どぷッ♡ どぽッッ♡♡♡


「お"ッッ♡♡♡ あ"ッッ♡♡♡」


迸る白濁。

同時に喉の奥から漏れ出た呻き声は紗良の太ももを震わせて、紗良の匂いと柔肌の心地よさに包まれながら、二度三度と腰を大きく打ち付けた。


「〜〜〜♡♡♡ 〜〜〜♡♡♡」

「んふぅ♡ 出たね〜〜……♡」


──どぷッッ♡♡ どぷッッ♡♡


肉棒は紗良の足の中でびくびくと大きく跳ね、白濁が何度も大量に吐き出されていく。

射精が始まるとすぐ、足の動きがゆっくりとなった。

そのせいで紗良の足が紡ぐ快楽が、より一層長引き、濃厚で粘度の高い快楽の波が幾度となく下半身を貫いていく。


──びゅく♡ びゅくッ♡♡ びゅッ……♡


「ん"ッ♡♡ あッ♡ ん"ん"ッ……♡」

「まだまだ出るかな~♡ 全部出し切るまで離してあげないですからね〜♡」


先ほどはあっさりと肉竿を離したくせに、射精が始まるや否や、一転して紗良の足はしつこかった。

竿を逃がさんとばかりに強く抱き締めた足の指が柔らかく蠢き、尿道から吐き出されていく精液をゆっくりと押し出していく。

絶え間なく溢れる白濁は全て紗良の足によって搾り取られたものなのだと認識させられ、その事実は快楽の余韻と共に脳へと刻み込まれていく。


紗良の足は精液が溢れる速度に合わせてゆっくりと上下に扱き上げ、その動きは絶頂の最中だというのに新たな快感の波を次々と生み出した。

紗良によって射精することが至上の快楽であると、聞き分けの悪い愚息に教え込むかのように、紗良の足は肉棒にまとわりついて離さず、何度も何度も快楽の波を送り込むのだ。

どくどくと脈打つ肉竿の奥に蓄えられた劣情を解き放つも解き放たぬも、もはや紗良の足の思うがまま。

一滴も精液を残すことなく搾り尽くさんと密着した足裏は、陰嚢の中に蓄えていた残滓までもを放出させてしまう。

この瞬間は、この瞬間だけは……綾乃の存在などすっかり忘れ、ただただ射精の快楽を享受し、紗良の太ももの甘い匂いに酔い痴れていた──。


「ふふ……♡ もう全部出ましたか?」

「……ぁ♡ はぁ……♡ も、もう、出た……♡」


「そうですか〜♡ お義兄さんはあたしの足で気持ちよくなったんですね〜♡」

「それは、ちがッ……♡ それは紗良が……♡」


「はいはい、そうですね〜♡」

「……ぁ♡」


──ぐにっ♡


「ふふ……♡ 少し萎んでもまだ芯はありますね……♡ やっぱりお義兄さんはマゾなんだ……♡」

「ぁ……♡♡♡」


──ぎゅむ♡ ぎゅむ♡ ぐにゅ……♡


一度射精した後の肉棒は硬度を失ってもいまだ半勃ちであり、紗良の足指が肉竿を強く締め付ければ容易に反応してしまう。

紗良の太ももに顔を埋めさせられたままの俺に、紗良の言葉を否定するだけの力はなく。


『マゾ♡』という二文字が頭の中をぐるぐると回り続けるのだった──。

………

……

…

##P9 行為の最中に……@綾乃とのセックス中に紗良のことを思い出す


その後のことはほとんど覚えていない。

誰が後片付けをしたのか。

どうやって服を整えたのか。

どんな顔して綾乃の待つリビングへと戻ったのか……。

ただ廊下へ出る直前、紗良が笑いながら耳元で『バレないようにして下さいね? お義兄さん♡』と囁いたことだけは覚えている。


……


「──さん……? ……ねぇ、悠真さん……? 聞いてる?」

「ん? あぁ、ごめん、なんだっけ?」


「もぉ~……最近ぼーっとしちゃって……大丈夫?」

「あぁ……大丈夫」


「ホントに~? 今日も寝不足?」

「いや、そういうわけじゃないけど……」


「ん~~、じゃあお仕事で疲れちゃって、ボーっとしてるだけ?」

「そういうことになるな」


「ならいいけど……でも最近ちょっと疲れすぎじゃない? ちゃんと睡眠取れてる? 身体は資本なんだから大事にしないとだめだよ?」


心配そうな表情で俺の顔を覗き込んでくる綾乃。


「そうか? ……いや、そうなのかも」

「なにその煮え切らない返事。あんまり寝不足が続くようなら病院行ったほうがいいよ?」


「それは大丈夫だから……多分」

「そう……? ならいいんだけど」


俺の煮え切らない態度に綾乃は少しばかり眉を下げ、納得していない表情を見せながら、食後のコーヒーカップを置いた。

確かに綾乃の言うように寝不足になっている自覚はある。


だが、それが綾乃の妹の紗良のせいで悩んでいるなど、到底口にすることはできない。


「……ふぅ」


そうして溜め息をひとつついて。

テーブルの上に肘をつき、注いでくれたカップに口をつける。

お砂糖少なめのカフェラテが、ほろ苦さの中に優しい甘さを運び、少しだけ気分が落ち着いてくる。

綾乃はそんな俺の様子を黙って見守りながら、次の言葉を探しているようだった。

リビングの空気は穏やかで、夕陽が窓枠越しに差し込んでいる。


「……悠真さん、大丈夫? 私になにかできることがあるなら言ってね?」

「あぁ……ありがとう」


「でね? その……」

「ん?」


「悠真さん、今日は……その……しよ?」

「え……? 今日?」


突然の誘いに驚きながら返事をすれば、綾乃の耳が真っ赤に染まっていく。

綾乃は恥ずかしそうに俯いていたが、勇気を振り絞るように小さく頷く。

その反応があまりにも愛おしくて、思わず胸が高鳴った。

しかし、その胸の高鳴りは紗良との一件以来、以前ほど強烈なものではなくなっていることに自分でも気づいてしまう。

頭の片隅追いやられた感情。

この気持ちはなんなのか。

罪悪感と綾乃への愛情が入り混じり、自分の考えていることをうまく整理できないまま、俺は静かに立ち上がった。


「……わかった」


そっと綾乃の手を取ると、彼女は一瞬だけ驚いたように目を丸くするが、すぐに嬉しそうに微笑み、手を握り返してくる。


「ん……♡」


その手の温もりは間違いなく愛すべき婚約者のものだ。

温かく、柔らかく、何より安心感があった──。


………


紗良が寝静まった頃合いを見て、俺は綾乃と身体を重ねた

光源は月の光と街灯の光が合わさってぼんやりと照らしている程度で、互いの影は鮮明であるものの表情までは判別が難しく。

しかして、正常位で挿入したまま細く華奢な腰を掴んでひと突きすると、口元を手で抑えて控えめに喘ぎ声を漏らす綾乃の顔が視界に収まる。

窓から差し込む月明かりに照らし出され、うっすらと汗ばんだ白い肌がところどころ朱色に染まり、まるで桜の花びらのように艶めかしく美しく──。

胸元から腰にかけてなだらかなラインを描く肢体はとても均整が取れていて、細く引き締まった身体はまさに絵画のように完成されたもの。

俺はその美しさに心を奪われながらも、ゆっくりと抽送を繰り返していく。


「ぁっ……んっ……んっ……♡」

「綾乃、気持ちいいか……?」


「き、きもちっ……ぁっ……♡」


応えかけた綾乃の口を塞ぐように腰を前に進めると、また一段と締め付けが強くなってくる。


「あっ……♡ あっ……♡」


(もしこれが紗良なら……)


『──へぇ~、お義兄さんは女の子に上に乗られて、女の子に一方的に動かれたいってことですかぁ?』


『──確かに、お姉ちゃんは少し華奢で細い身体かもしれませんね~。でも、あたしはお姉ちゃんより肉付きがよくて、全体的にボリュームがあって、男ウケ抜群のムチムチ具合だと思いますし……♡ そして何より、あたしの方がお姉ちゃんよりずっと男の人を悦ばせられますよ~? 顔はよく似てるって言われるんですけど、性格と身体はどうして姉妹でこうも違うのかな~……くすくす♡』


「んっ……♡ あっ……♡ ゆ、ゆうまさんッ……♡ い、いちだんとおっきくッ……♡」


自身の最低な妄想がきっかけとなり、さらに陰茎が膨らんだ。

皮肉なことに、それを敏感に感じ取った綾乃がもう我慢できないとばかりに叫んだ。

その口を塞ぐべく──いや、頭に浮かんだ自身の妄想を打ち消すべく、俺は綾乃に覆いかぶさり、唇を重ねた。


──ちゅぅぅ……♡


「んっ……♡ ぷはっ……♡ ゆう、ま、さんっ……♡」


唇を離すと透明な橋がかかり、すぐに切れた。

荒い息を繰り返し潤んだ瞳が俺を見上げてくる。

白く瑞々しい肌が汗ばみ神秘的な美しさを見せる反面、その胸元は紗良と比べても薄い印象を受ける。

紗良とは違う種類の美しさなのだ。


(紗良だったら……どんな感じなんだろうな……)


綾乃と身体を重ねているのに、頭に浮かんだのは紗良の裸体。


『くす……♡ お姉ちゃんは貧相な身体でしょ? 妹のあたしはもっとこう……男ウケ抜群のムチムチボディなんですけどね〜……♡ ほらおっぱいだって、お尻だって……ふふ、全部お義兄さんのためにあるんですよ〜?』


「〜〜〜♡♡♡」


綾乃の慎ましやかな乳房やお尻の柔らかさを感じながら、頭の中では紗良のボリュームのある女体が重なってしまう。


(紗良……紗良……紗良だったら……)


目の前の綾乃が紗良に見えてしまい、愚息がいっそう硬くなる。

そして妄想の中の紗良が唇を尖らせ──。


『イ〜〜〜ケ♡』


「ぁ……♡♡ あぁっ♡♡ あぁぁあっ♡♡」


どくどくと脈打つ竿から吐き出される大量の精子。

勢いよく飛び出したそれは、綾乃の奥を満たしていくと、綾乃の口から押し殺した嬌声が漏れ出した。


「ゆ、ゆうまさっっ……♡♡♡」


膣壁がぐいぐいと搾り上げ、最後の一滴まで精液を受け止めようとする。

脈動はなかなか収まらず、吐精に伴って訪れた脱力感が全身を襲う。


(ぁ……♡♡ あ……♡ あ……♡)


射精が終わった。

身体は脱力し、頭は放心状態。

最低の射精だった。

綾乃と身体を重ねているはずなのに、その妹の紗良のことを考えながら射精したのだ。

綾乃に顔を見られたくなくて、仰向けになりながら腕で顔を覆うと、綾乃の吐息が耳をくすぐる。


「……悠真さん♡」


それは甘えたような、安堵したような声。

紗良が耳元で囁いた誘惑的な声とは似ても似つかず、しかし俺のことを愛しているということが確実に伝わる慈愛に満ち溢れた声。


「綾乃……」


俺が顔を隠していた手を下ろすと、綾乃の笑顔がすぐ傍にあった。


──ちゅっ……♡


頬に軽く唇が触れる。

優しい温もり。

俺の罪悪感も汚れも何もかも洗い流してくれる浄水のような口付けだった。

たまらなくなって今度は俺から口付けをする。

もちろん綾乃の唇へ。

少しでも罪滅ぼしになればという謝罪と贖罪の念を込めて。

そして優しく唇を離したのだった──。


………

……

…


##P10 紗良と二人きりになるということ@ラフな格好の紗良を意識してしまう、綾乃とのセックスの不満を指摘されてしまう、壁際でキスの練習煽り、膝コキ誘惑、キス誘惑、1回だけのキス練習、2回目のキス練習誘惑、綾乃の突然の帰宅、二人でクローゼットの中に隠れる、紗良の抱きつき、キス要求脅し、紗良のベロキス反撃責め、紗良のキスの前に裏切りの快楽に溺れる、太もも勃起確認、キスの自己嫌悪、紗良に受け入れられる、太ももで挟み込まれてコかれる、紗良に太ももでコかれながら背徳感を刺激される、下着越しの手での勃起確認、生の手の感触、生太ももコキ、気持ちよくしてもらうことをお願いさせられる、太ももコキおねだり、密着太ももコキ、寸止め、射精のおねだり強要、密着されてキスされながら太ももコキで射精させられる、キスしたまま太ももで連続射精させられ搾り取られる


翌朝、目覚ましの音で意識が浮上すると、隣に綾乃の姿はなかった。

寝室に香ばしいコーヒーの匂いが漂ってくる。

綾乃はもう起きているようだ。

ベッドに横になったまま、ぼんやりと天井を見つめた。

昨晩、俺は綾乃と久しぶりに身体を重ねた。

それは間違いなく幸せな時間だったはずだ。

綾乃はいつものように恥ずかしそうにしながらも、俺に甘えるように身を委ねてくれた。

綺麗な身体の奥に精を放ち、熱を共有したはずだ。


──綾乃。


その名を声に出そうとするが喉に何かが引っかかり、言葉が出てこない。

なぜこんなにも重いのか。

今までこんなことがあっただろうか──。


「……」

「あら、悠真さん起こしちゃったかな? ごめんなさいね〜」


申し訳なさそうに振り向いた綾乃がそのままキッチンへと向き直る。

エプロンの後ろ姿。

髪を束ねて跳ね上げたうなじに浮いた汗粒が照明に煌めく。

俺は思わず後ろから綾乃を抱きしめていた。


「きゃ……! ちょっと悠真さん、急にどうしたの〜?」

「綾乃……」


「ん……♡ おはよ、悠真さん……♡」


驚いた声を上げる綾乃の腰に手を回し、うなじに顔を埋めて鼻を鳴らす。

料理をしているせいか綾乃からは食欲をそそられる目玉焼きの油の匂いがした。


「ひゅぅ〜、朝からお熱いですね〜。お姉ちゃんとお義兄さんは……♪」


突如リビングへと姿を現した紗良は、ニヤニヤとした笑みを浮かべながらこちらを見ていた。


「も、もう……紗良も起きてるなら言ってよね〜……」

「や、だってあたしだって今起きたところで、ドア開けたらお姉ちゃんとお義兄さんが朝から熱いハグを交わしてたんだよ? あたしだってびっくりしたし〜? 二人が仲睦まじくてお熱いのは結構なんですけど、もう一人いることを忘れないでくださいねー? お義兄さーん?」

「す、すまん……」


紗良のもっともな指摘に謝罪しながら腕を緩める。

一方の綾乃はまるで茹でダコのように顔を真っ赤にしていて。


「ち、違うのよ、紗良。これはその……悠真さんが、ちょっと寝ぼけてただけで……」

「へぇ〜? 寝ぼけてお姉ちゃんのこと後ろからぎゅ〜ってするんだ〜?」


紗良が楽しそうに目を細める。


「いいなぁ、お姉ちゃん。朝からそんなに愛されちゃって」

「も、もう……からかわないでよ」


綾乃は恥ずかしそうに肩をすくめながら、フライパンへ視線を戻した。

その横顔は幸せそうで、ほんの少しだけ照れていて……。


胸が痛む。


昨夜、綾乃と身体を重ね合わせながら俺が何を考えていたかなど、当然綾乃は知らない。

その細身の身体を抱きながら、誰の身体を思い浮かべていたのか……その名前を綾乃は知らない。


「お義兄さんも」


ふいに紗良の声がこちらへ向く。


「お姉ちゃんにいっぱい甘えられて、よかったですね?」

「……紗良」


「ふふ。何ですか? 普通のこと言っただけですよ?」


普通のこと。

確かにそうだ。

婚約者同士が朝から少し触れ合っていただけ。

そこに何もおかしなことはない。

当たり前の行為だ。


おかしいのは俺の方だ。


紗良の笑顔を見ただけで昨夜の妄想が。

先日嗅いだ太ももの匂いが。

竿を扱き上げた足指の感触が。

そして最後に囁かれた『マゾ♡』という言葉が、頭の奥で熱を持ち始める。

ジクジクと腰の奥が疼く。


「悠真さん? あなたの分のコーヒー淹れるね?」

「あ、あぁ……ありがとう」


綾乃の声でようやく意識が戻る。

いつも通りの朝食。

綾乃が焼いた目玉焼きとトースト。

紗良が眠たげな顔をしながらヨーグルトを食べ、時折こちらへ意味ありげな視線を投げてくる。

俺はそれに気づかないふりをして、ただ黙ってコーヒーを飲んだ。


何も変わっていないはずなのに──。

テーブルの向こうにいる紗良が、ただ笑っているだけで息が苦しくなってくる。


そして──。


………

……

…


その数日後のことだった。


仕事の予定が思いのほか早く片付き、俺は普段より二時間ほど早く帰宅することになった。

綾乃には連絡を入れたが、彼女はいつも通り定時まで仕事だという。

つまり家にいるとしても紗良だけ。


そう考えた瞬間、足が少しだけ重くなる。


会いたくない。

二人きりになりたくない。

そう思っているはずなのに玄関の前に立つ頃には、ドキドキが止まらなくなっていた。


「……ただいま」


鍵を開け、できるだけ平静を装って玄関に入る。


部屋の中は静かだった。

綾乃がいない時間帯の家は、どこか空気が重かった。

キッチンから料理の匂いもしない。

リビングの方から微かにテレビの音だけが聞こえてくる。

紗良の気配だ。

靴を脱ぎ、廊下を進む。

するとリビングの方から声が聞こえた。


やはりいる。


「あれ……お義兄さん?」


びくりと肩が跳ねる。

視線を向けるとソファの背もたれから黒いボブの頭がひょこっと覗いた。

寝起きなのか、いつもより少し髪が乱れている。

目元もどこかとろんとしていて、声にも眠気が混じっていた。


「今日は早いんですね」

「……あぁ。仕事が早く終わったから」


「ふぅん」


紗良はそう言ってソファから上体を起こした。

その瞬間、思わず視線が止まる。

寝間着のまま。

ゆるく大きめのTシャツ。

胸元は少し広く開け放たれていて、起き上がった拍子に布がたわみ、白い肌と深い谷間が一瞬だけ覗く。

下はベリーショートの部屋着パンツで、ソファの上に投げ出された脚は太ももまでほとんど剥き出しになっていた。


大学は休みだったのだろうか。

朝起きてから着替えもせず、無防備で、だらしなくて、それなのに妙に生々しい、若い女の姿。


「……」


見てはいけない……なのに視線を紗良の身体から外せなかった。

膝から太もも、そしてTシャツの裾から覗く肌へ。

そのまま胸元の陰影へ勝手に吸い寄せられていく。


「……お義兄さん」


紗良の声が少しだけ弾む。


「今どこ見てました?」

「……見てない」


咄嗟に答える。

紗良はきょとんと瞬きをして、それからニタリと笑った。


「まだ何も言ってないのに」

「……」


「ふふっ……ほんと、お義兄さんってわかりやすいですね」


紗良はソファの上で膝を抱えるように座り直した。

そのせいで、Tシャツの裾がまた少しめくれ、太ももの付け根に近いところまで肌が見える。

慌てて視線を逸らす。


「今日は休みだったのか」


話題を変えるように言うと、紗良はのんびり頷いた。


「はい。講義のほとんどが休講になったので、一つの講義のためだけに大学いくのも面倒だったので、ずる休みしちゃいました〜」

「ずる休みって、お前なぁ……」


注意をすべき場面だというのに、紗良の格好をつい凝視してしまう。

薄着のダボTにベリーショートのパンツ。

すらりと伸びた長い脚に程よい肉付きの太ももが眩しく見える。

あの匂いを嗅がされて──。


(や……考えるな……)


「……だったら着替えろよ」

「えー? 家の中ですよ?」


「綾乃が帰ってくるだろ」

「お姉ちゃんは見慣れてますし」


紗良はそこでわざとらしく首を傾げた。


「それとも……お義兄さんが困るんですか?」

「困らない」


「即答する時ほど嘘っぽいんですよね」

「嘘じゃない」


「じゃあ、こっち見て、あたしの目を見て言ってください?」

「ッ……」


紗良はソファの上からこちらを見上げている。

眠たげだった目は、もうすっかり意地悪な色を帯びていた。

ダボついたTシャツの襟元。

そこから覗く鎖骨。

少し前に身体を倒すだけで見えてしまいそうな胸元。


見るな。

見るな。

見るな。


そう思えば思うほど、視線の置き場がなくなる。


「……何で黙るんですか?」

「別に」


「お義兄さん、最近ずっとそうですね」

「な、何が……」


「なんかあたしのこと避けてるなーって……」


ソファから紗良がゆっくりと立ち上がる。

床に触れる素足。

ぺたり、と小さな音がする。

それだけで、あの夜の感触が蘇る。

タオル越しの柔らかさ。

足裏の温度。

太ももの甘酸っぱい匂い。

足指に搾られた記憶。


「……近づくな」


思わず口にすると紗良は足を止めた。


「え?」

「その格好で近づくな」


口にしてから『しまった』と思った。

紗良の口の端がゆっくりと持ち上がる。


「その格好で、って」


楽しそうな声。


「やっぱり意識してるんじゃないですか」

「違う。そういう意味じゃない」


「じゃあどういう意味ですか?」


紗良が近づいてくる。

たわわな胸が弾む。

Tシャツの裾が太ももに触れて揺れる。

ショートパンツの短さが、余計に脚の白さを強調していた。


「お義兄さん、あたしがちゃんと服着てないと困るんですね」

「あ、当たり前だろ。綾乃の妹なんだから」


「お姉ちゃんの妹なら、見ても何も思わないんじゃないですか? 家族ですし」

「……」


「それとも」


紗良はさらに一歩近づく。


「お義兄さんの中では、もうあたしはただの妹じゃないんですか?」


心臓が鷲掴みにされてしまったかのような心地。

否定しなければならない。

今すぐに。

はっきりと。


だが、紗良の肢体が目の前にある。


寝間着のままの無防備な女の身体。

やたらと露出の多い肌。

ゆるいTシャツの下で揺れる柔らかさ。

短いパンツから伸びる、肉付きの良い太もも。

桜貝のように鮮やかな爪のついた足。


否定の言葉が出てこない。


「……着替えてこい」


ようやく絞り出した声は自分でも情けないほど弱かった。

紗良はくすっと笑う。


「命令ですか?」

「命令ってわけじゃ……」


「お義兄さんがお願いするなら、考えてあげてもいいですよ?」

「……紗良」


「はいはい。怒らないでくださいよ」


そう言いながらも、紗良は自室の入口へは向かわず、俺の前で立ち止まる。


近い。


近づかれただけで香りがふわっとかおってくる。

寝間着の布に染み込んだ体温。

朝から家にいた肌の匂い。

シャンプーとも香水とも違う、生活の中で薄く滲んだ紗良の匂い。


「……この前」


紗良が唐突に口を開いた。


「お姉ちゃん、ちょっと嬉しそうでしたよ?」

「……何の話だ」


「朝」


紗良はにこりと笑う。


「お義兄さんに後ろから抱きしめられてた時」

「それがどうした」


「別に。ただ、仲良しだな~~って」


その言い方に嫌な予感がする。

紗良は俺の顔を覗き込むように、少しだけ背伸びする。

大きな瞳が至近距離で、まっすぐに俺を映す。


「お姉ちゃんとうまくいったんですか?」

「……何が」


「キスとか、えっちとか」


心臓が跳ねる。


「ッ……! お、お前には関係ないだろ」

「ありますよ」


「ない」

「だって、お義兄さん」


紗良はほんの少し声を潜めた。


「お姉ちゃんとえっちしてる時、別のこと考えてたでしょ?」

「……ッ」


言葉が出ない。

見られていたのか……?

いや、二人の寝室を見られたわけではないのは確実だ。

なのに、どうしてそんなところまで彼女は踏み込んでくるんだ……。


「あれ? 図星ですか?」

「ふざけるな」


「あ、怒った」

「いい加減にしろ」


声が少し低くなる。

それでも紗良は怯えなかった。

むしろ、待っていたみたいに目を細めた。


「じゃあ、怒らないで教えてくださいよ」

「何を」


「お姉ちゃんとえっち、ちゃんとできてます?」

「……紗良」


「お姉ちゃん、優しいから言わないだけかもしれませんよ? 悠真さんのキスがイマイチだ~って……クスっ」


胸の奥がざらつく。

綾乃は優しい。

奥手で、恥ずかしがり屋で。

俺のすることに文句を言うような女ではない。

だからこそ紗良の言葉は妙な棘を持っていた。


「お義兄さん、最近ぼーっとしてるし」

「……」


「キスしてる時も、考えごとしてたりして」

「黙れ、誰のせいだと……」


「お姉ちゃん、気づいてるかもですよ?」

「黙れって言ってるだろ」


思わず一歩、紗良に近づく。

怒りを込めた剣幕で紗良を見下ろす。

しかし、紗良は引き下がらなかった。

それどころか、真正面から俺を見上げて、笑う。


その距離で改めて見ると、紗良はやっぱり綾乃に似ていた。

目元。

鼻筋。

ふとした時の表情。

しかし決定的に違う。

綾乃と出会った時、彼女も最初はどこか距離感があり、礼儀正しく、言葉もはっきりとはしつつどこか遠慮がちだった。

対して紗良は違う。

じっとこちらを見て近づいてくる。

言葉を遮るようなタイミングで喋り、こちらの表情をのぞき込むように距離を詰めたり、かと思えば離れたり。

言葉と距離を巧みに使い分けながら、焦っている俺を弄ぶように揶揄い、俺の意識を確実に自分へと集中させていく。


こちらを試すような目。

ゆるいTシャツから覗く身体の厚み。

短いパンツから晒された太ももの存在感。


綾乃に似ているのに綾乃ではない。

その事実が胸の奥を変にざわつかせた。


「……今、また黙りましたね」


紗良が囁く。


「お姉ちゃんの話をしてたのに」

「……」


「今、あたしのこと見てましたよね?」


返せなかった。

紗良は満足そうに笑った。


「ねぇ、お義兄さん」


甘い声。


「そんなに下手じゃないって言うなら、練習してみます?」

「……は?」


「キスの練習」


紗良は何でもないことみたいに言ってのけた。


「お姉ちゃんのために」


思わず一歩後ずされば、離れた距離を埋めるように紗良が一歩、二歩とこちらへと接近してくる。

視線が勝手に泳ぐ。


「あたし、こういうの結構得意なんです」


もう一歩、後退する。

壁が背に当たる。


「……近いぞ」


紗良はニコッと笑った。


「別に、このくらい普通ですよね?」

「……普通じゃない」


「なんで?」

「お前は綾乃の妹だろ」


「そうですよ?」

「じゃあ、もっと離れて……」


紗良はそれを聞いて、まるで何か面白い冗談でも聞いたみたいに小さく笑い、更に距離を詰めてくる。


「お義兄さん」


近い。

既に吐息がかかるほどの距離。

至近距離で透き通った大きな瞳に見つめられ、視線を逸らすことも叶わず、心の内を覗き込まれるような錯覚に囚われていく。


「お義兄さん? 何か言ったらどうですか?」

「紗良……近すぎるだろ……」


「そんなの今更じゃないですかぁ……♡ それに、今さらお義兄さんの言いなりになるほど私はお利口じゃありませんよ?」


「は……?」


思わず間の抜けた声が漏れた。


『言いなりにならない』


その言葉の意味を測りかねているうちに紗良はさらに半歩、距離を詰めてくる。

壁を背にした俺の逃げ場はもうほとんど残されていなかった。


「お義兄さんって、変ですよね」

「何がだよ」


「口ではちゃんとしたこと言うのに、身体は全然説得力ないところ」

「……」


「近いって言うなら、押し返せばいいじゃないですか」


紗良はそう言って自分の胸元あたりに両手を添えるような仕草をした。


「ほら。こうやって。あたしの肩でも腕でも押して、離れろ~ってすればいいのに」

「……そんなことできるか」


「どうして?」

「どうしてって……」


綾乃の妹だから。

女の子だから。

乱暴を働くわけにはいかない。

だが何より……こんな格好をした紗良の身体に、こちらから触れるわけにはいかないから。

言い訳ならいくらでも浮かぶ。

だが、そのどれもが口に出した瞬間、紗良に都合よく使われそうで口をつぐむ。


「お義兄さん」


紗良が俺の顔を覗き込む。


「また考え込んでる」

「……うるさい」


「ふふ。ほら、そうやって怒ったふりしてる時って、だいたい言い返せない時ですよね」

「……違う」


「えー? じゃあ今の目はなんでした?」

「ッ……」


視線を逸らそうとした。

その瞬間、紗良が更に距離を詰めた。

背後の壁。

目の前の紗良。

逃げ場はない。


「……紗良。もう茶番はやめろ。そしてそこをどけ」

「やです」


「おい」

「だって、まだ話終わってませんもん」


「キスの練習なんかするわけないだろ」

「えー? どうしてですか?」


「どうしても何も……当たり前だろ」

「お姉ちゃんのためなのに?」


そんなのもちろん詭弁だ。

わかっている。

婚約者の妹とキスの練習をすることが、綾乃のためになるはずがない。

それでも昨夜の記憶が蘇る。

綾乃の唇に触れた時。

罪滅ぼしのつもりで重ねた口付け。

その裏側で一瞬でも紗良のことを考えてしまった自分。

もし綾乃に気づかれていたら。

もし、綾乃が俺の違和感に傷ついていたら。


「ほら」


紗良が小さく笑う。


「今、お姉ちゃんのこと考えましたよね?」

「……」


「お義兄さん、優しいから」


甘い声だった。


「お姉ちゃんに変だなって思われたくないんですよね? お姉ちゃんを悦ばせたいんですよね?」

「……黙れ」


返事の代わりに、紗良の膝がすっと持ち上がる。

何をされるのかわからなかった。

だが、次の瞬間。


──こつんっ……♡


「……ッ」


俺の股間のすぐ下、太ももの付け根あたりを紗良の膝が軽く小突く。

当然痛みはない。

むしろ触れたか触れないかくらいの軽い衝撃。

だが、その位置が悪すぎた。

反射的に息が詰まる。

身体が壁に押しつけられるように硬直する。


「あれ?」

「な、何して……」


「んー? ちょっと当たっちゃいました?」

「当たっちゃいました、じゃないだろ……!」


「でも、お義兄さんが動かないから」


紗良はそう言って、また膝を少しだけ持ち上げる。


「近いって言うなら、逃げればいいのに」


──すり……♡


今度は小突くのではなく、膝が太ももの内側をかすめるように擦れた。


「……っ」


寝間着のショートパンツから伸びる、白く丸い膝。

硬いのにすべすべと、可愛らしい丸みを帯びた膝頭が、ズボン越しにこちらの熱を探るように動く。

まだ直接触れたわけではない。

それなのに、あの夜の足指の感触が重なった。

腰の奥が急速に熱を持つ。

紗良の身体の一部に触れられるだけで、頭の奥に刷り込まれた記憶が呼び覚まされる。


「や、やめろ……こんなこと……」

「こんなことって?」


──すりっ……♡


膝がもう一度ゆっくりと擦り上げる。

今度はさっきより少しだけ中心に近い。

太ももの付け根から、股間の中心へと向かうような動き。


「ッ……!」

「これ?」


「やめろ」

「やめてほしいなら、離れればいいじゃないですか」


「……」

「それとも」


紗良の目が細くなる。


「また、お義兄さんは自分は悪くないってことにしたいんですか?」

「ッ……」


「この前もそうでしたよね?」


紗良の膝が今度はぴたりと止まる。

触れているか触れていないか。

その曖昧な距離で、熱だけを伝えてくる。


「でも、最後はお義兄さん、自分で選びましたよね?」

「……違う」


「だから今日も、ちゃんと選んでください」

「何を……」


「キスの練習、するかどうか」

「するわけ……」


言いかけたところで膝がまた動いた。


──すりっ……♡


「く……ッ」


声を飲み込む。

膝頭がズボン越しに押し上げるように擦れてくる。

今度は明確に意図を持って、硬くなり始めたペニスの付け根に膝をグリグリと押し当ててきた。


「紗良、やめろ……ッ♡ そこは……ッ♡」

「どこですか?」


──ぐりっ……♡ ぐりっ……♡


「ッ……! こ、このッ……!」

「これのこと?」


膝頭がゆっくりと上下に動き始める。

紗良の足首が小刻みに捻られ、ズボン越しの肉竿を擦るように、動き出す。


それだけなのに、身体は勝手に思い出していた。

紗良の足に挟まれた時の快感。

太ももに顔を埋めた時の匂い。

『マゾ』と囁かれた瞬間の、どうしようもない敗北感。


「お義兄さんって」


紗良は楽しそうに笑った。


──ぐりぐり……♡


「ほんとに、こういうのに弱いんですね」

「だ、黙れ……ッ♡」


「黙ってほしいんですか?」

「……」


──ずっ♡ ずっ……♡


「じゃあ、口を塞ぐ練習も必要かも」

「な、何言って……ッ♡」


──ぐりぃ……♡


「は、はぅっ……♡」

「キスってそういう時にも使えるじゃないですか?」


紗良は膝を引いた。

触れていた熱が離れる。

ほんの一瞬だけ身体が追いかけそうになり、俺は奥歯を噛んだ。


まずい。


膝をどけられて安心するどころか足りないと思ってしまう。

その事実が何よりもまずかった。

そして、紗良はその変化を見逃さない。


「……今、ちょっと残念そうでしたね?」

「そん……ッ!」


俺が動揺した素ぶりを見せたのを確認した紗良は、ニヤけた表情のまま壁に手を置いて、逃げ場を塞いでいく。

ますます近くなる紗良の身体。

露出した谷間の奥から女の子特有の甘い匂いが立ち込めてくるようで、気が気ではなかった。


「そんなの今更じゃないですかぁ……♡」


──ずんっ……♡


「お、お前が……ッ! もっと離れて……ッ」


──こつ……♡


「ッ♡ さ、さすがにッ……! そ、それは……ッ…」


──ずりっ……♡ ずりっ……♡


「紗良ぁッ……! はなっ……ッ♡ はなれろッ……! 俺のッ……! あそこからッ……♡ 膝を離せぇ……ッ♡」

「いいですよ?」


──すっ……。


「ぁっ……♡」


紗良が膝をどけると同時に、大きく膨らんだ股間の盛り上がりが顕になる。


「ッ……♡」


股間の奥で疼いていた劣情が急激に熱を帯び、これまで必死に抑え込んでいたものが、膝頭をどかされた拍子に跳ね返るように膨れ上がってしまう。


「あれ?」


紗良は目ざとく俺の心の機微を察知してにやける。


「もしかして、あたしの膝がお義兄さんを興奮させちゃいました?」

「ち、違う……♡ お、お前が、あ、あんなところに足を……♡ だ、だから、当たっただけだ……♡」


「へぇ〜〜〜? 当たっただけなのに、こんなに腫らしちゃうんですね~。これは偶然だから仕方ないってことですね~。じゃあ、もっと当たっちゃったらどうなっちゃうんだろ……♡」


そう言って紗良はまた俺の股間を膝頭で押し上げてくる。


──ずんっ……♡


「お……♡ おぁぁ……♡」


びくんと腰が跳ね、また下半身に血液が集まっていく。

ズボン越しとはいえ、紗良のつややかな膝が硬くなった膨らみをグリグリと刺激してくるのだから堪らない。


「ほら、また」


紗良が楽しそうに目を細める。


「腰は逃げてませんよ?」

「ちが……ッ♡」


「逃げてないってことは、嫌じゃないってことですよね?」

「そ、そんなこと……ッ」


──ぐりっ……♡


「ぅ、あ……ッ♡」


言葉の途中で膝頭を押し付けられる。

硬くなった部分の根元を、布越しにじわりと潰すような圧。

痛みはない。

むしろ、寸前まで高められた記憶を呼び戻すには十分すぎる刺激。


あの夜。

ベッドの前に座らされ、紗良の足を拭かされて、汗ばんだ匂いを嗅がされ、太ももに顔を埋められて、最後には足で搾り取られた──。

その忌まわしき記憶が紗良の膝ひとつで蘇ってしまう。


「お義兄さんって、ほんと素直ですね」

「ど、どこが……ッ」


「だからここですってば」


『何を言ってるの?』と言わんばかりに笑った紗良がまた少し膝頭を押し込んだ。


──ぐにっ……♡


「ッ……♡」

「口ではずっと嫌がってるのに、ここだけ全然違うこと言ってますよ?」


膝頭がズボン越しに陰茎を捉えている。

膨らんだ股間。

硬くなった根元。

熱の塊のような膨らみを、布越しに優しく、でもしっかりと、紗良の膝が狙い撃つ。


──ずりっ……♡ ずりっ……♡


「紗良ぁッ……やっ……やめ……♡」

「やめてほしいなら、そのまま離れればいいのに」


「壁際に追い込んでるのはぁ……お、お前だろ……ッ!」

「あはっ。じゃあ、押し返せばいいじゃないですか?」


「それ、は……ッ♡」

「できるもんなら。ほら、ほら」


──ずりっ……♡ ずりっ……♡


紗良は俺の股間を膝頭で押し込みながら、少しずつ上下に擦り上げていく。

ズボン越しに伝わる硬くてすべすべの膝頭。

その持ち主の瞳は俺の逃げ道をひとつひとつ潰すように細められていた。


「ほら。あたしの肩でも腕でも、触って押し返して、どけって言えばいいんです……あ、もちろん胸でもいいですけど? くすっ♡」

「ぅ……ッ♡」


できない。

今の紗良に触れたら……その瞬間に何かが壊れる気がした。

ゆるいTシャツと豊満な胸の膨らみ。

豊かな臀部に引き続き、女の子らしい曲線を描く剥き出しの太もも。

近すぎる吐息。

そして、俺の股間に押し当てられた膝。

どこか一箇所でも自分から触れてしまえば、もう『紗良が勝手にした』なんて言い訳はできなくなる。


「ほら、また黙った」


くすっと紗良が笑う。


──ずりっ……♡ ずりっ……♡


「こんなに好き放題されてるのに、自分からは触れないんだ?」

「……あ、当たり前だッ」


「どうして?」

「お、お前はッ……♡ あ、綾乃のぉ……♡ 妹だから……だッ……♡」


「ふぅん」


紗良は気の抜けたような返事をする。

そして、膝をゆっくりと引いていく。


「……身体はこんなにも正直なのに」


触れていた圧がなくなる。

その瞬間、張り詰めていた熱が行き場を失って股間の奥でじんじんと疼いた。

紗良の視線がそこへ落ちる。


「勃起してるくせに」

「……ッ♡」


「『キスの練習』って言っただけで、期待してこんなにしちゃったんですか?」

「ち、違うッ……! こ、これはお前がぁ……♡ あ、足を……ッ」


「足を、何ですか?」


更に近づいてくる紗良の前に息が詰まる。

膝はもう触れていない。

だがそのぶん上半身が近い。

寝間着の襟元から覗く白い肌。

少し動くたびに揺れる胸元。

そして、その奥から漂う甘い匂い。


「そ、それは……」


股間にぽっかりと空いた空白。

ようやく解放されたと思ったのに、身体はむしろ物足りなさを感じてしまう。

まだ熱を持っている。

膨らんだまま、萎えないままの股間。


「まぁ、ですけど……本題は『お姉ちゃんを悦ばせるために』、お義兄さんはもっとキスの練習が必要だと思うんですけどね~……」


言われて綾乃の顔が浮かぶ。

昨夜、罪滅ぼしとばかりに重ねた、偽りのキス。

綾乃は優しくて、清潔で、俺を信じきっていて──。


「──違います?」


だが目の前には紗良の唇があった。

綾乃に似た顔。

けれど綾乃とは違う、危うくて、意地悪で、俺を追い詰める女の子の唇。

薄く開いたそこが、言葉を紡ぐたびに近づいてくる。


「お姉ちゃんとのえっちがうまくいってるなら、あたしは別にいいんですけど~」


紗良がわざとらしく目を伏せる。


「でも、お義兄さん、やっぱり1回だけ練習しましょ?」


その言葉と同時に紗良が伏せた目を上げる。

吐息が頬を撫でる距離。

婚約者の妹ととっていい距離ではない。


「す、するわけな──……!」

「お義兄さん」


その声は、さっきまでのからかうような声色とは違っていた。

逃げ場を塞ぐように、耳の奥へしっとりと染み込んでくる。


「お姉ちゃんのためですよ?」

「それは詭弁だ」


「わかってるんですね」


紗良が笑う。


「じゃあ、どうしてまだ逃げないんですか?」

「……」


「あたしの膝で気持ちよくされちゃったから?」

「黙れ」


「それとも」


紗良の指が、自身の唇をなぞる。


「本当はこっちも気になってるから?」


喉が鳴る。

目の前の唇は思っていたより小さく、そして柔らかそうだった。

桜色のそれが紗良の人指し指に押され、ふにゃりと凹み、押し返すようにプルンと元に戻る。

そのまま何度かむにむにと繰り返される光景。

ぷるぷるの瑞々しい唇が俺の視線を釘付けにする。

視線を逸らせなくなってしまう。


「……見てる」


紗良が囁いた。


「見てない」

「嘘」


「……」

「お義兄さん、足の時もそうでしたよね。見てないって言いながらずっと見てた」


「……やめろ」

「唇も同じですか?」


「……」


「見てるだけなら、まだお義兄さんは悪くないですもんね?」


心臓が嫌な音を立てて軋む。

まるで俺の言い訳を、そのまま読まれているみたいだった。

見ているだけ。

触れていない。

何もしていない。


だが、見ている時点で……紗良を突き飛ばしてでもここから離れない時点で──。


「一回だけ」


紗良はもう一度そう言った。


「触れるだけでいいです」

「……」


「それでお姉ちゃんとのキスがもっと自然になるなら……別に悪いことじゃないですよね?」


悪いに決まっている。

婚約者の妹とキスをする。

その時点で理由が何であれ裏切りだ。

だが、紗良の言葉はいつもそうなのだ。

あり得ないことをあり得るように。

悪いことを、ほんの少しだけ正しいことのように──。


「お義兄さんが緊張してると、お姉ちゃんも不安になるかもしれませんし」

「……」


「だから練習」


紗良は首を傾げ、唇を尖らせる。

餌をねだる雛鳥のように、何度かパクパクと小さく開いたり閉じたりを繰り返す。

その仕草に、俺は息を呑む。

そんなことをして、俺が紗良とキスするわけない。

するわけないのに──。


「ね?」


『ね?』ではない。

そんな可愛い顔で言われても頷いていいはずがない。

それなのに……それなのに俺はもう……黙るしかなくなっていた。


否定の言葉が出ない。

拒絶もできない。

膝で散々煽られ身体の奥で燻っていた熱が股間に残り続け、紗良の唇が視界の中心に居座っている。


「……お義兄さん?」


紗良が小さく笑った。


「黙ってるってことは、嫌じゃないんですよね?」

「ち、違う……」


「じゃあ、嫌って言ってください」

「……」


「紗良とはキスしない。お姉ちゃんだけでいい。そう言ってください」


言える。

言えるはずだった。

なのに、上下の唇が縫い付けられたかのように動かない。

綾乃だけでいい。

そう言わなければならない。

俺は綾乃を愛している。

綾乃と結婚する──。

それなのに、目の前の紗良の唇から目が離せない。


「……言えないんだ」


紗良の声が少しだけ嬉しそうに弾んだ。


「だ、だからッ……」

「じゃあ言ってください」


「……」

「ほら」


沈黙。

リビングのテレビの音が、遠くで流れている。

誰かの笑い声。

時計の秒針。

冷蔵庫の低い唸り。

その全てがやけに遠い。


「……ふぅん」


先に動いたのは紗良だった。

さっきまでこちらの反応を楽しんでいた唇が、すっと笑みを薄める。

そのまま彼女は一歩だけ後ろへ下がった。

近すぎた距離がわずかに開く。


「わかりました」

「……んっ……な、何が」


「お義兄さん、言えないんじゃなくて、言いたくないんですね」

「ち、違う、俺は……ッ!」


「いいですよ。そういうことにしてあげます」


紗良は軽く肩をすくめた。

あまりにもあっさりとした引き際。

さっきまであれほど絡みつくように迫ってきていたのに、今はもう玩具に興味を失った猫のように俺の前から離れていく。


壁際から解放される。

息ができる。

逃げられる。


今すぐリビングを出て、洗面所にでも行って、顔を洗って、何も見なかった、聞かなかった……そして何もなかったことにすればいい。

膝で煽られた熱も、唇に釘付けになっていた視線も、全部なかったことにできる。


……そう思ったのに足は動かなかった。


「……」


紗良が少し離れた位置からこちらを見る。


「戻らないんですか?」

「……」


「ほら、もうどきましたよ?」


言われて初めて自分がまだ壁際に立ち尽くしていることに気がついた。

紗良は目の前から退いて逃げ場は出来た。

拒絶の言葉を口にする必要すらなくなった。

それなのに俺は動けないでいる。


いや、違う。


動かなかったんだ。

俺は……。


「お義兄さん」


紗良の声が少しだけ低くなる。


「今の、すごくダメな沈黙だと思います」

「な、何が……」


「だって、せっかく離れてあげたのに」


紗良はゆっくりと首を傾げた。


「まだそこにいるんですもん」


頭の奥を覗かれたように、ゾクゾクとした感覚が背筋を走り抜けた。


違う。

たまたまだ。

急に離れられて拍子抜けしただけだ。

足がすくんだだけだ。

そう言い訳を探す。


だが紗良はもう言い訳を聞く気がないようだった。


「じゃあ、こうしましょう」


彼女は一歩だけ戻ってきた。

さっきよりは離れている。

けれど近い。

視線を下げれば、自然と唇が、紗良の身体が見えてしまう距離。


「お義兄さんからは何もしなくていいです」

「……」


「押し返さなくていいし、触らなくていいし、近づかなくていいです」


紗良は自分の胸元に置いていた手を下ろした。

今度は挑発するような仕草ではない。

ただ両手を体の横へ下ろし、立っているだけ。


「でも、逃げないでください」

「……は?」


「それだけです」

「何を言って……」


「逃げなかったら、練習成立ってことで」

「成立するわけないだろ」


「しますよ」


紗良は当たり前みたいに言った。


「お義兄さんは何もしない。あたしが勝手にする。だからお義兄さんはまだ言い訳できます」

「……」


「紗良にされた、って」


甘い毒みたいな言葉。

俺が一番欲しがっていた逃げ道。

俺が一番認めたくなかった言い訳。

それを紗良は、俺の目の前にそっと差し出したのだ。


違う。


そんなものに縋っていいはずがない。

そう思うのに、身体が動かない。


「嫌なら……」


紗良が囁く。


「一歩だけ横に避けてください」

「……」


「それで終わりです。あたしの唇からは逃げられます……♡」


視線が下を向く。

一歩。

たった一歩だ。

横に避ければいい。

紗良が迫ってくるコースから外れればいい。

それだけでキスなんてされずに済む。


なのに足は床に縫い止められたみたいに動かなかった。


紗良の息が少しだけ近づく。


「……避けないんですね」

「違う」


「違わないです、お義兄さんは今ちゃんと選びました」

「え、選んでなんか……」


「『避けないことを』選びました」

「……ッ」


言い返そうとした瞬間、紗良の指先が俺のシャツの胸元に軽く触れた。

掴むほどではなく引き寄せるほどでもなく、ただそこに添えられただけ。

それだけで全身が固くなる。


「力、入ってます」


紗良が小さく笑う。


「そんなに固くならなくてもいいのに」

「……やめろ」


「何を?」

「近づくな」


「もう十分近いですよ? 普通の家族の距離じゃないくらい」


紗良の顔がゆっくりと近づいてくる。


唇が近い。

さっき指で押され、ふにゃりと形を変えていた柔らかそうな唇が。

言葉を吐き出していたその場所が、今は何も言わずに近づいてくる。


「お義兄さん」


紗良の口から漏れたのはほとんど吐息だけ。


「目、閉じてもいいですよ」


閉じるものか。

そう思った。

目を閉じたら、受け入れたことになる。

拒めなかっただけではなく、待っていたことになる。

だから閉じるべきではない。

なのに、紗良の睫毛がどんどん近づいてくる。

鼻が近づく、頬が近づく、甘い匂いが近づく。

視界の中心に、唇だけが残る。


「……閉じないんですね」


紗良が微かに笑った。

小さな舌がぺろりと、薄く開かれた唇の輪郭をなぞる。

濡れた唇は色を濃くし、桜色の表面に僅かに唾液の膜を纏わせる。

ぺろりと舌なめずりをした後に、再び唇を薄く開く。

吐息が肌を撫でる距離、お互いの空気が混ざり合う距離。

目の前には、ぷるぷると潤んだ瑞々しい唇。

視線はそこに釘付けになって。


「じゃあ、ちゃんと見ててください」

「さ、紗良──」


名前を呼んだ瞬間だった。


──ちゅっ……♡


柔らく湿ったものが俺の唇に触れた。


「……ッ」


本当に一瞬。

押しつけるでも吸うでもない。

ただ触れるだけの短いキス。

だがその一瞬で、頭の中の音が全て消えっ去った。

テレビの音も。

時計の音も。

冷蔵庫の唸りも。


すべてが遠のいて、唇に残った柔らかさと湿り気だけが、やけにはっきりと残る。


紗良の唇は想像していたよりも温かかった。

軽く触れただけなのに、柔らかさがこちらの唇の形に沿って伝わり、堪能する間もなく離れていった。

リップの甘い匂いと吐息がほんの少しだけ混じったような、紗良という女の子の気配。

綾乃のキスとは違う。

そう思ってしまった瞬間、背筋が冷える。


違う。

比べるな。

今、比べるな。


だが、もう遅かった。


綾乃の唇は、いつも優しくて、控えめで、こちらに全てを委ねてくるもの。

紗良の唇は違う。

触れただけなのに、こちらの罪悪感ごと舐め取り、代わりに決して消えることのない熱だけを残していく。


「……」


紗良がゆっくり離れる。

近距離で目が合った。

彼女の頬はほんの少し赤い。

それが演技なのか、本当に照れているのか、わからない。


ただその唇だけはさっきよりも少し艶めいて見えた。


「……できましたね」


紗良が小さく言う。


「……何が」

「キスの練習」


「今のは、お前が勝手に……」

「はい、そうです」


紗良はあっさり頷いた。


「今のは、あたしからです」


その言い方が、俺の逃げ道を用意しているようで……同時にひどく残酷だった。


「あたしからしただけです。お義兄さんは何もしてません」

「……」


「ただ逃げなかっただけ」


心臓がぎゅっと縮む。


そうだ。

俺は何もしていない。

触れてもいない。

近づいてもいない。

紗良が勝手に唇を重ねてきただけ。

そう言える。

言えるはずなのに──。


その『逃げなかっただけ』という言葉が何より重かった。


「……もう終わりだ」


かろうじてそう言う。


「そうですね」


紗良は素直に頷いた。


「一回だけって言いましたもんね」

「……」


「でも」


彼女は自分の唇に人差し指を当てた。


「今の、練習としてはちょっと失敗かも」

「何がだよ」


「お義兄さん、全然返してくれなかったから」

「返すわけないだろ」


「どうして?」

「どうしてって……」


「練習なのに」


紗良は本当に不思議そうな顔をしていた。

目は笑っている。


「お姉ちゃんにキスする時も、そんなふうに固まるんですか?」

「……ッ」


「お姉ちゃん、優しいから何も言わないかもしれませんけど……本当はもう少し求めてほしいって思ってるかもしれませんよ?」

「黙れ」


「また怒った」

「もういい。もうバカげた練習は終わりだ」


今度こそ俺は横へ逃げようとした。

だがその瞬間、紗良の指先がシャツを軽く掴む。

強い力ではない。

振り払おうと思えば簡単に振り払える。

それなのに……その小さな指の感触が足を止めた。


「お義兄さん」

「……何だよ」


「もう一回だけ」

「しない」


「今度はちゃんと練習」

「しないって言ってるだろ」


「じゃあ」


紗良は唇が触れそうな距離まで近づいて、そこでぴたりと止まった。


「避けてください」

「……」


「さっきみたいに逃げないなら……またあたしからしちゃいますよ?」


また心臓が跳ねる。

唇が近い。

その柔らかさを知ってしまった。

触れたらどうなるかわかってしまった。

さっきまでの想像を越えてくる、実像。

身体が紗良の唇に触れられた記憶を持ってしまっている。


「……紗良」

「はい」


「やめろ」

「やめてほしいなら」


紗良は微笑んだ。


「今度こそ、ちゃんと避けてください」


言われて足に力を込める。

避けろ。

横に動け。

顔を背けろ。

今ならまだ戻れる。

一回だけ……紗良からされた一回だけ。

まだ自分からは何もしていないんだ。

まだ戻れるんだ。


だが唇にジクジクと残る熱が邪魔をする。

紗良の柔らかさをもう一度確かめたいという最低な衝動が、喉の奥までせり上がってくる。


「……」


動けなかった。

それを見て紗良の目がゆっくりと細く、弓なりに歪む。


「また避けないんですね」

「違……」


「じゃあ」


紗良の唇がもう一度近づく。

今度はさっきよりもゆっくりと。


「二回目」


吐息が触れる。


「いきますね」


その時だった。


──ガチャリ。


玄関の鍵が回る音がした。


「……!!」


綾乃が仕事から帰ってきたのだ。

この状況を見られるのはまずい。

俺は慌てて紗良を突き飛ばそうとするが、紗良は俺のシャツをつかみ、逆にそのまましなだれかかってくる。


「ちょ、ちょっ……! お、お前!!」


俺は低い声で警告を発する。

だが紗良はまるでそれが合図だったかのように、さらに身体を寄せてくる。


「もうお姉ちゃんは帰ってきちゃったんです。このままだとバレちゃいますよ?」

「だ、だからって……俺に……身体を預けたら……!」


「わ~~~。これは紗良がお義兄さんに襲われちゃってるみたいですねぇ~~?」

「何でそうなるんだよッ……!」


「おねえちゃ~~~ん……♡」

「ば、バカ! 遊んでる場合か! と、とにかく! このままじゃまずい、隠れるぞ!」


「どこに隠れます?」

「寝室……は、ダメだ。綾乃が真っ先に向かう。じゃあ風呂場は……万が一開けられたら終わりだ……」


「んー、じゃああたしの部屋とか?」

「そうだな、そうするしかない……!!」


「ただいまー」


玄関を開けた綾乃の足音が近づいてくる。

もはや一刻の猶予もない。

俺は慌てて紗良の部屋へと入り、扉を閉める。


「悠真さーん? 紗良ー? いるのー?」


戻ってきた綾乃が探している声が聞こえる。

浴室やリビングを覗いているようだ。

このままではじきに紗良の部屋の扉も開けられてしまう。

そうなれば──。


「こ、こっち……!」

「あ……♡ ここに入るんですか?」


「そうだ。急げ!」


俺は紗良の手を取ってクローゼットの中へと入り込む。

幸いなことにクローゼットはコートなどをかけておくための大きいタイプであり、ここならば二人が立ったままの状態ならば、ある程度の時間は隠れていられるだろう。


扉を閉める。


部屋の中と違ってクローゼットの中は暗く、冷たい空気が籠もっている。

だが、密着した紗良の体温と息遣いと甘い香りとによって、身体は火照ったままだった。


「……ふふ」


息を殺しながら紗良が小さく笑う。

笑い声は潜められているのに、どこか嬉しそうだった。


「お義兄さん、あたしの部屋……それもこんな狭いクローゼットに二人きり……ってだけでドキドキしちゃいますね」

「違う、俺は……ただ隠れてるだけで……」


「でもこんなのお姉ちゃんに見つかったら絶対に怒られますよね」

「当然だ」


俺が断言すると紗良はクスクスと笑った。


「ふふ、お義兄さんったら……まるで浮気してるみたいな反応じゃないですかぁ……♡」

「ば、バカ言うなッ……! 綾乃の気配が遠ざかったらすぐにでも……そ、そうだ、買い物にいってもらうよう連絡して……」

「えぇ〜〜? もうちょっとこの非日常を楽しみましょうよ~? お義兄さん♡」

「何を言って……あ、おい!」


クローゼットの隅、暗闇の中。

甘えた声を出した紗良が身体をくねらせ、狭い中で俺と向かい合うような体勢になる。

そしてそのまま紗良の腕がゆっくりと俺の首元に回されて、俺の身体に強く抱きついてくる。

密着することで感じる温かく柔らかな肢体。

胸板に当たる紗良の豊満な胸の膨らみや、脚の間に割って入ってきた紗良の太ももの肉感的な弾力、そして首元に巻き付く紗良の甘い匂いがクローゼット中に充満し、頭がクラクラしてくる。


「……ッ♡ さ、紗良……」

「ん〜〜? なんですかぁ〜〜?♡」


「こ、こんな状況で……き、気安く……抱きつくな……ッ」

「こんな状況だから気やすく抱きつくんじゃないですかぁ~~?♡」


「な、何でッ……♡」

「あ、そうだ……♡ どうせならあたしの口も塞いじゃって下さい♡ でないと、ここで大声で叫んじゃいますよ……? 『お姉ちゃん助けて〜〜!』って……♡」


「は、はぁ……?」

「ふふ……♡ お義兄さんだって嫌でしょう? この現場をお姉ちゃんに見られちゃったら終わりなんですから……♡ だから早くお義兄さんの方からキスしてくれないと……♡ こう……ぱくっと私の唇を食べて、邪魔なおしゃべりを封じてくれないと……♡」


「な、何をバカなこと言って……ッ!」

「あたしは本気ですよ~? うふふっ♡ 早くしてくださーい? でないと大声を出してしまいま〜〜す♡」


「悠真さーん? 紗良ー? もしかして紗良の部屋にいるのー? 紗良ー? 入っていいー?」


「ほらほら、お姉ちゃんきちゃいますよー?♡」


紗良の部屋の扉の向こうから綾乃の声が聞こえる。

綾乃がこの部屋に入ってきた時……もし紗良が本当に大声を上げれば、その時はすべてが終わる。


「っ……!」


焦燥に駆られながら、俺は正面からしがみつく紗良を睨む。

こんな状況で何を言っているんだと声に出して言ってやりたいのに、声を出せないこの状況。

紗良は俺の首に腕を回してぴったりと身体を寄せながら、甘い匂いを放って俺の思考を鈍らせていく。


「ほらほら〜? もうすぐ来ちゃいますよ〜?」

「ッ……」


俺が抵抗できないことを知ってか知らずか、紗良は楽しそうに迫ってくる。

俺は……俺は……俺……は……ッ!!


「紗良ー? 入るわよー?」


「さ、お義兄さん、どうぞ? ん~~~……♡」


紗良が桃色の唇を突き出したところで、綾乃が部屋の扉を開け──。


──ガチャ。


「んっ……!」


考えるより先に、身体が動いていた。

俺は紗良の肩を掴み、そのまま突き出された唇を自分の唇で塞ぐ。


──ちゅっ……。


「……っ」


紗良の吐息が唇同士を震わせる。

さっき外でされた、触れるだけの軽いキスとは違う。

今度は俺から。

綾乃に気づかれないために。

紗良の声を封じるために。

その理由だけを必死に頭の中で繰り返しながら、俺は目の前の唇を押さえつける。

クローゼットの外では、綾乃の足音が聞こえていた。


「紗良ー? いないのー?」


すぐそこにいる。

クローゼットの板一枚を隔てた向こうに、綾乃がいる。

その現実に心臓が痛いほど跳ねる。

だが今、唇を離せば紗良が声を出すかもしれない。

そうなれば終わりだ。

すべてが終わる。


だから仕方ない。

これは仕方なくやっていることなのだ。


そう言い聞かせる。

言い聞かせながら、紗良の唇の柔らかさをはっきりと感じてしまう。


「……ん♡」


紗良が鼻にかかった小さな声を漏らす。

抗議でもなく驚きでもない。

むしろ、待っていたものをようやく与えられたみたいな、甘く湿った反応だった。


まずい。


唇が柔らかい。

さっきよりもずっと。

俺から押しつけているせいで、紗良の唇がこちらの形に合わせて潰れ、ゆっくりと、でも確かに、体温と水分とを伝え合っていた。


狭いクローゼットの中。

紗良の腕は俺の首に回ったまま身体は正面からぴったりと密着している。

胸板には柔らかな膨らみ。

脚の間には紗良の肉感的な太もも。

鼻先に感じる女の子の肌の甘い匂い。


逃げ場がない。


いや、違う。

逃げ場がないのは外に綾乃がいるからだ。

だから仕方ない。


何度もそう思おうとする。


だが紗良の唇は俺の言い訳をゆっくり溶かしていった。


「んふっ……♡」

「……?」


喉の奥で紗良が小さく笑った気がした。

次の瞬間、彼女の唇がほんの少しだけ開く。


──ちゅぱっ……♡


「っ……!」


ぬるりとした柔らかな感触が、閉じていた俺の唇の隙間を伺うようになぞった。

舌。

紗良の舌だった。


「……や、め」


声に出しかけた瞬間、唇の隙間をさらに押し開かれる。

俺が抵抗しようとして口を開いた、そのわずかな隙を逃さず、紗良の舌がぬるりと入り込んできたのだ。


「んっ……!」


喉の奥で声が詰まる。

外に聞こえたら終わりだ。

声を出してはいけない。

そう思うのに、舌先を絡め取られた瞬間、背筋がぞくりと震える。


──ぢゅる……♡


紗良の舌は熱かった。

唇の柔らかさとは違う。

もっと直接的で、ぬめりを帯びていて、生々しく。

さっきまで俺をからかっていたその舌が、今度は俺の歯の隙間をすり抜けて、口内の粘膜をちろちろと撫でてくる。


「ん"ッ……♡」


咄嗟に紗良を引き剥がそうとした。

しかし、抱きつかれた腕の力が存外強く、引き剥がせない。

それどころか俺の首の後ろに回した腕を引き寄せるようにして、身体をより密着させて唇を押し付けてくる。

唇と唇がピタリと合わさって離れない。


「ん"、ん"……♡」


──にゅるぅ……♡


紗良の舌が俺の舌を舐める。

柔らかくてぬるついたそれが、口の中を探る。

呼吸がうまくできない。

外に綾乃がいるのに。

クローゼットの中という狭い空間で、こんなこと。

だけど紗良は容赦をしてくれない。

舌先をなぞるように這わせたかと思うと、唾液を纏った舌が、逃げる暇もなく俺の舌に巻き付くようにして絡みついてくる。


──ぬちゃ……♡


舌と舌がぬるりと絡み合う感覚。

普段、綾乃と交わすキスでは決して体験することのできない異質な快感が、脊髄を伝って脳まで届く。

それは蕩けるような感覚だった。

抗おうと思っても身体が快楽を優先してしまう。

しかも最悪なことに、扉のすぐ外には綾乃がいる。

その状況が背徳感となってさらに興奮を加速させ、快楽を倍増させていくようだった。


決して溺れてはいけない快楽。

決して忘れてはならない綾乃への愛情。


その相反する二つの感情が交錯した瞬間に、身体に電流のような悦楽が迸る。


──ちゅぷ……♡


「ん〜〜〜……♡ くふふっ♡」

「ん"♡ ふぅッ♡ ん"ッ♡」


苦しく呻きを上げる俺に反して紗良の喉が小さく鳴る。

だがその声は、俺の唇で封じられて外へは漏れない。

漏れない代わりに、全てが口の中へ返ってくる。

湿った吐息も。

舌の動きも。

喉の震えも。

全部が、俺の口内で反響する。


「紗良? 変ね……部屋にいると思ったんだけど……今日大学ほとんどないとか言ってたはずだし……」


外で綾乃が呟く。

近い。

その声に我に返りかけた瞬間、紗良の舌がさらに奥へと入ってくる。

舌の腹が俺の舌裏を撫でるように絡みつく。


──にゅるぅ~~~……♡


離れたら声が出る。

紗良がまた何をするかわからない。

だから離れられない。


そういうことにするしかなかった。


だが、俺の両手はいつの間にか紗良の肩を押し返すどころか、彼女の身体を支えるように掴んでいた。

クローゼットの暗がりの中で、紗良の身体が少しでも離れないように。

その柔らかな体温を、無意識に引き寄せてしまっていた。


「……っ♡」


気づいた瞬間、背筋が凍る。

だめだ。

これは違う。

俺は紗良の口を塞いでいるだけだ。

紗良を押さえているだけだ。


だが紗良はその手の位置に気づいたらしく、唇を重ねたまま肩を小さく震わせた。


笑っている。


こいつは今笑っている。


「……ん、ふっ♡」


喉の奥で漏れた笑い声を俺の口がまた塞ぐ。

それに呼応して首に抱きついた紗良の腕の力が強くなり、さらには下半身が絡み合うように密着する。

逃がさないように。

もっと深く引き寄せるように。

紗良という一人の女に、絡み付かれる。


「……ッッ♡♡♡」


唇がさらに密着する。

リップの甘い匂い。

寝間着の布にこもった体温。

紗良の吐息。

口内の熱。

全部が一気に流れ込んでくる。


もう、何のために唇を塞いでいるのかわからなくなっていく。


綾乃に見つからないため?

声を出させないため?

本当に?


そう思うのに、紗良の舌が俺の舌を絡め取り、ぬるりとした温かさで俺の口内を満たしていく。

舌の裏側を優しく撫でるように這わされ、上顎をくすぐられ、どんどんどんどん舐め取られていく。

口の隙間から洩れる息さえも許さないと言わんばかりに唇を押し付けられ、絡まり合う舌と舌。

さっきまであった抵抗の意志は、唇に触れた瞬間から溶け始め、今では完全に紗良の支配下にあった。


外では綾乃がまだ部屋の中を歩いている。

衣擦れの音。

小さなため息。

何かを置く音。

そのたびに心臓が跳ねる。

それなのに唇は離れない。


──れろぉ~~~……♡


紗良の舌が俺の舌をゆっくりと舐め上げた。

軽く絡み、離れ、また絡む。

まるで口の中で、何度も『練習』をやり直しているみたいに。

リビングでの一瞬のキスとは違う。

触れただけ、なんて言い訳が通用するレベルではなかった。

舌を絡め互いの唾液を混ぜあわせる、本物の大人のキスだった。


綾乃とはこんなことしたことのないような──。


そう思ってしまった瞬間、頭の奥で何かが焼ける。


比べるな……!

今、比べるな!


外には綾乃がいる。

俺の婚約者が、すぐそこで俺と紗良を探している。

なのに……その婚約者の妹の唇を、俺は自分から塞いでいる。


「……んっ♡」


紗良の身体が、さらに密着する。

太ももが俺の脚の間で擦れた。

Tシャツ越しの胸が押し当てられ、柔らかな弾力が潰れる。

股間の熱が、また嫌なほどはっきりと形を取り戻していく。

こんな状況で。

綾乃がすぐ近くにいるのに。

紗良の唇と身体に包まれているだけで、また硬くなっていく。


「……んふっ♡」


気づかれた。

唇を重ねたまま、紗良の身体がぴくりと反応する。

そして、太ももがわずかに角度を変えた。

俺の股間を押し上げるように、紗良の太ももが密着してくる。


「っ……♡」


さっきまでとは違う。

唇だけじゃない。

腰のあたりに甘い圧がかかってくる。

紗良が意図的に脚を寄せてきている。

その事実を認識した途端、背筋がぞくりと粟立った。

口の中では紗良の舌がねちっこく絡みついてきているというのに、下半身のほうでも同じように粘りつくような熱が押し寄せきていた。


「……♡」


クローゼットの闇の中で、紗良の目が細く笑った気がする。

それでも俺は唇を離せない。

離せば紗良が声を出す。

綾乃に聞こえる。

そうなれば終わる。

全てが終わる。

この状況で言い訳なんて不可能だ。


だから離せないのだ。


離せないまま、紗良の舌が俺の口内をさらに深く侵していく。

柔らかく、熱く、甘く。

逃げようとする舌を捕まえて、絡めて、吸い上げていく。


──ちゅぅぅぅ~~~……♡


「……ん、んぅ♡」


紗良の声が口内で震える。

それを塞ぐために俺はさらに唇を押しつけた。

自分から。

その瞬間、紗良の腕が嬉しそうに俺の首へ絡み直される。


「……んふ♡」


笑うな。

そう言いたかった。

だが口を塞いでいるのは俺自身だ。

言葉は出ない。

出せるのは、綾乃に聞こえないよう必死に噛み殺した息と、紗良の舌に絡め取られる情けない吐息だけ。

やがて、部屋の外で綾乃の足音が遠ざかっていく。


「……あれ? リビングかな~……いや、やっぱり出かけてるのか──」


小さな呟き。

そして紗良の部屋の扉が閉まる音。

遠ざかる足音。


助かった。


そう思った。


なら、もう離れればいい。

声を塞ぐ必要はない。

キスを続ける理由はなくなった。


そう思ったのに。


紗良の舌が、最後にゆっくりと俺の舌を撫で上げた瞬間、身体が動かなくなってしまった。

唇を離すより先に紗良が小さく息を吸う。

そしてキスを続けたまま首に回した腕へ少しだけ力を込めた。


まだ。


まだ、離さないで……♡


「……ッ」


だめだ。

もう綾乃は離れた。

終わりだ。

終わらせなければならない。


なのに、俺は。


一秒。

二秒……。


さらにそのまま紗良の唇を塞ぎ続けてしまう。


──ぬりゅ……♡


音が外に漏れないよう唇の隙間がほとんどない状態で交わされた舌の絡み合い。

唇の表面がぴたりと合ったまま、互いの口内で最後の水音が微かに響く。


──ぬちゅっ……♡


ようやく唇同士が離れ、ほんの少し距離が生じる。


──ちゅっ……♡


「……ッ!」


しかし、紗良は少し唇を尖らせて、もう一度だけ柔らかく唇を重ねてきた。

やがて、紗良がゆっくりと唇を離していく。

今度こそ本当に離れたのだ。


「……ぷはっ♡」


湿った吐息が暗いクローゼットの中にこぼれた。

お互いの唇に銀糸の橋がかかったが、それもプツリとすぐに千切れてしまう。


紗良は潤んだ瞳で俺を見上げていた。

頬は赤い。

薄く開いた唇はさっきよりも濡れて艶めいていた。

その顔を見た瞬間、胸の奥がどうしようもなく跳ねる。


「……お義兄さん」


紗良が囁く。


「今の、すごく上手でした」

「……ち、違う」


「何がですか?」

「俺は……声を塞いだだけで──」


「はい♡」


紗良は俺の言葉を遮るように小さく頷いた。


「お義兄さんから……♡」

「……ッ」


「お義兄さんからあたしの口、塞いでくれましたね」


言い返せない。

これは事実なのだ。

理由が何であれ。

綾乃にバレないためだったとしても。

紗良が声を出すと脅してきたせいだったとしても──。


今度は俺からだった。


俺が自分の唇で綾乃の妹の唇を塞いだ。

そして綾乃が部屋を出たあともすぐには離れなかった。

必要がなくなってからも、数秒、紗良の舌を受け入れ続けていた。


「……最低だ」


掠れた声が喉の奥からこぼれる。

自己嫌悪。

罪悪感。

興奮。

全てが絡まりクローゼットの中に黒い淀みとして溜まっていく。


「俺は……最低だ」


綾乃がすぐそこにいた。

俺を探していた。

何も疑わず俺の名前を呼んでいた。

そのすぐ傍で……俺は紗良と舌を絡めていた。

綾乃とはしたこともないようなキスをして、興奮して、まだ身体の奥を熱くしている。

最低以外の何ものでもない。


「最低?」


紗良は首を傾げる。

暗がりの中で、その瞳だけがじっとこちらを見ていた。

責めるでも、慰めるでもない。

ただ、俺が自分の罪を言葉にしたことを嬉しそうに味わっているような目だった。


「そうだろ……」

「うーん」


紗良は俺の首に回した腕を解かないまま、少しだけ身体を寄せ直した。

Tシャツ越しの胸の柔らかさがまた胸板に触れる。


「でも」


紗良が耳元へ唇を寄せる。


「お義兄さんが最低でも」


甘い吐息が耳の奥を撫ぜた。


「あたしは嫌いになりませんから……♡」

「……ッッ!!」


その言葉は優しさの形をしていた。

だが、違う。

これは救いなんかじゃない。

許しでもない。

俺が自分を責めるたび紗良はこうして甘く受け入れてくれる。

最低な俺でもいいと囁いて、綾乃のいる場所から少しずつ引き離していく。


わかっている。

わかっているのに……その声を聞いた瞬間、目眩をするように視界が揺れる。


「……そ、そんな言い方、するな」

「どうしてですか?」


「どうしてって……」


理由なんていくらでもある。

今のは紗良のためじゃない。

ただ、綾乃にバレないように、俺たちの関係を隠すために……いや、そもそもこの状況自体がおかしいのだ。

そう思うのに、紗良はクローゼットの暗がりでにこにこと笑っているだけだった。


「ふふっ♡ あたしはただ、お義兄さんを嫌いにならないだけです」

「嫌いにならないなら、もっと普通に……」


「普通って何ですか?」

「だから……こんなことしないってことだろ」


「こんなことって?」

「だから……その……」


唇を指さされる。


「さっきのこと?」

「……」


「でも」


紗良が首を傾げる。


「お義兄さんだって嫌じゃなかったですよね?」


息が詰まる。


「……嫌じゃなかった……だと?」


掠れた声で問いかける。

喉の奥に先ほどまでの唾液のぬめりがまだ残っていて、言葉にした瞬間、生々しいキスの感触が蘇る。


「はい♡」


即答。

明るく、罪悪感の欠片も感じていない声で。

余計にたちが悪い。


「…………」


言葉が出ない。

認めれば綾乃への背信行為になる。

否定すれば紗良の問いに嘘をつくことになる。

どちらを選んでも、綾乃との未来に影を落とすことになるのだ。


「お姉ちゃんは、お義兄さんが最低なことをしたって知ったらきっと傷つきます」

「……」


「でも、あたしは傷つきません」


その言葉が、深く刺さる。


「お義兄さんがあたしを見ても」

「やめろ」


「お姉ちゃんとキスしてる時に、あたしのこと考えてても」

「やめろって」


「お姉ちゃんがすぐ外にいるのに、あたしとキスしてても」


紗良の太ももが、ほんの少しだけ動いた。


「んっ……!」


脚の間で柔らかい肉が熱を押し返す。

さっきまで膝で煽られ、キスでさらに硬くなっていた部分が、太ももの弾力に揉まれるように刺激された。


「ほら」


紗良は囁く。


「今だって……こんな状況なのに、ちゃんと硬くなってる」


──ぐに……♡


「……や、やめろ」

「やめてほしいんですか?」


「……」

「お姉ちゃんはもうリビングなのに?」


「っ」


耳元で囁かれた瞬間、背筋がビクッと跳ねた。

紗良の声が低く響く。

脳の奥まで染み込んでいくような甘い毒にまみれた官能の音。


綾乃はすぐ近くにいる。

リビングに戻ればいつも通りの笑顔で俺を迎えてくれる。

何も知らずに笑ってくれる。


それなのに俺はクローゼットの中で紗良に抱きつかれたまま、太ももに押し当てられた熱を抑えられないでいる。


「違う……これは……」

「あの時は声を塞いだだけ」


紗良が先に言う。


「今度は何ですか? 隠れてるだけ? 動けないだけ? あたしが勝手にくっついてるだけ?」

「……」


「お義兄さん、言い訳いっぱいありますね」


からかうような声。

責められているはずなのに突き放されるわけでもなく。

むしろ紗良の腕は俺を逃がさないように首へ絡んでいる。


「でも、いいですよ」


紗良は太ももをゆっくり擦り合わせる。


──むにゅ……♡


「全部、あたしのせいにして」

「ッ……♡」


今度は太ももと太ももの間に、股間の熱が挟まれる。

逃げ場を失った竿が、そのまま優しく包み込まれる格好となってしまった。


──むにぃ……♡


「お義兄さんはなんにも悪くないです。あたしが抱きついたから。あたしが唇を出したから。あたしが舌を入れたから。あたしが太ももで挟んだから」


甘い誘惑の毒が、耳元で甘く囁かれる。


「だから、また気持ちよくなっちゃっても……仕方ないですよね?」

「さ、紗良……ッ♡」


「しー」


紗良の指が俺の唇に触れた。


「大きい声出したら、お姉ちゃんに聞こえちゃいますよ」

「お、お前が……」


「はい。あたしが悪いです」


──むぎゅっ……♡


またもや即答。

だが、その瞬間紗良の太ももが柔らかく締まる。

硬くなった部分が柔らかな肉の間に収納されて、ぴったりと嵌っている。

もはや逃げる術なんてものは存在せず、紗良は俺の罪を快楽で包み込み、堕落した逃げ道を周到に用意していた。

そして俺は、その逃げ道がどれほど汚れているか知りながら、そこに足をかけてしまいそうになっている。


「……やめろ」

「本当に?」


膨らみを挟んだ紗良の太ももが、もう一度ゆっくり動いた。


──すり……♡


「ッ……♡」

「さっきから、やめろって言うたびに大きくなってる気がしますけど?」


「黙れ……ッ」

「黙ってほしいなら、また塞いでくれます?」


紗良は唇を近づけてくる。

さっきまでのキスで濡れた唇。

桃色に艶めいて、暗がりの中でもはっきりと存在を主張している。


「お義兄さんから」

「……」


「さっきみたいに」

「……しない」


「そうですか」


紗良は少し残念そうに言って、けれどすぐに笑った。


「じゃあ、こっちはあたしが勝手にしますね」

「こっちって──」


言い終わる前に、柔らかい肉がズボン越しの熱を左右から包む。

膝とは違う。

硬い刺激ではなく、もっと肉感的で、温かく、逃げ場のない圧迫だった。


「……ッ♡」


声が漏れかける。

慌てて唇を噛むしかなかった。


「ふふ」


紗良が耳元で笑う。


「お義兄さん、口は塞がなくていいんですか?」

「……ッ」


「このままだと……今度はお義兄さんが声、出しちゃうかもですよ?」

「ふざけるな……」


「ふざけてないです」


紗良の太ももが、ほんのわずかに上下する。


──むにゅ……♡ すり……♡


「ッ、ん……♡」

「ほらね?」


柔らかい肉越しの摩擦。

狭いクローゼットの中で身動きも取れず、逃げようとすれば余計に身体が擦れる。

しかも、首に回された腕と胸元の柔らかさが、正面から俺を包むように密着していた。

紗良の身体の中に取り込まれるように。


「お義兄さん」


紗良が囁く。


「リビングに戻ったら、普通の顔できます?」

「……」


「お姉ちゃんにただいまって言えます?」

「……やめろ」


「さっきあたしといっぱいキスした唇で」

「やめろ……!」


「今、あたしの太ももでこんなになってる身体で」


──ずりっ……♡


太ももがまたゆっくり擦れる。


「ッ……!」

「普通のお義兄さんに戻れますか?」


答えられない。


戻れるはずがない。

少なくとも、今は。

この熱を抱えたまま綾乃の前に出たら、何もかも見透かされそうだった。

紗良はそれをわかっている。

わかった上で、俺に逃げるための言い訳をまた一つ差し出してくる。


「じゃあ」


耳元で囁かれた声は、甘く蕩けるようだった。


「あたしが、戻れるようにしてあげます」

「……な、何を」


「お姉ちゃんの前に出られるように」


紗良の太ももが熱源をさらに深く挟み込む。

奥へ奥へといざなうように、柔らかくもぎゅぅっと締めつけながら、ズボン越しの股間の熱が生身の太ももに覆われていく。


「ちゃんと抜いてあげますね?」

「……ふッ、ふざけるな……♡」


反射的に吐き捨てた言葉尻は、自分でもわかるほど甘く震えていた。

それは怒りでもない、恐怖でもない、ましてや真の拒絶でもなかった。

ただ、紗良のもも肉の狭間で、硬く張り詰めた劣情を隠し通せない自分への嘲笑。


「ふざけてないですよ」


引き続き耳元から染み込んでくる紗良の声。


「このままリビングに戻ったら、お姉ちゃんにバレちゃいます」

「ば、バレるわけ……ッ」


「本当に?」


そう言って、紗良は身体を少しだけ離した。

狭いクローゼットの中でほんの少し下がっただけ。

そのせいで俺の下半身に集まった熱が白日のもとに晒される。

それは逃げ場を失い、ズボンの布を内側から押し上げるように主張していた。

紗良の目の前に股間を差し出すような格好。

思わず身体を捩ったところで、何も状況は変わらなかった。


暗がりでもはっきりとわかる。

隠しようがないほど、膨らんでいる。


「ほらね?」


紗良がくすっと笑う。


「そんな状態でお姉ちゃんの前に出るんですか?」

「……」


「お姉ちゃん、心配しちゃいますよ? 『悠真さん、顔赤いけど大丈夫?』って」


綾乃の声が頭の中で勝手に再生される。

優しくて疑うことを知らない、無垢な声。

その声で心配される自分を想像した瞬間、胸の奥がぎゅっと痛む。


「だったらなおさら離れ──」

「離れたらもっと目立っちゃいますよ?」


紗良の太ももが、またそっと俺の熱に触れる。


──むにゅ……♡


「ッ……♡」

「今はあたしの太ももで隠してあげてるんです」


「そ、そんな言い方……ッ♡」

「本当のことですよ? 大きくなったお義兄さんの動かぬ証拠を」


──むに……♡ ぐにゅ……♡


太ももが股間を柔らかく撫でる。

ズボンの中でどうしようもなく熱を持ち、解放を待ち望むように脈打った犯人を。


「お義兄さんが普通の顔して戻れるように、あたしが責任取ってあげます」


紗良は悪びれもせずに言い放った。


「せ、責任って……これはお前が……ッ♡」

「はい」


紗良は即座に頷いた。

俺のことなんて見ずに。


「あたしが悪いです。あたしがキスをして、舌を入れて、くっついて……お義兄さんは悪くないですからね~」


紗良は舌足らずな甘え声で、俺の拒絶をまるで冗談のように受け流す。

そこで紗良の指先が俺のベルトのあたりへ触れた。


「だからね?」

「っ、待て……!」


慌てて手首を掴もうとする。

だが狭いクローゼットの中、身体は密着したまま。

片手を動かそうとするだけで、紗良の胸や太ももが擦れて、余計に息が乱れる。


「しー」


紗良がまた唇に指を当てる。

今度は笑っていない。


「大きい声出さないでください」

「お前が……!」


「はい。あたしが悪いです」


また同じ言葉。

だが今度は、紗良の手は俺のベルトではなく、ズボンの上を緩やかに撫でていた。


──すり……♡


「っ……♡」


ただそれだけの刺激で腰が跳ねる。


「あたしが悪いので、お義兄さんはじっとしててください」


──すり……♡


「じ、じっとできるわけ……っ♡」

「じゃあ、暴れます?」


紗良は小さく首を傾げる。


「ここで?」


──すり……♡


「……ッ♡」


言い返せなかった。

壁一枚向こうには綾乃がいる。

リビングからは、かすかに食器の音が聞こえる。

綾乃がキッチンに向かったのかもしれない。

こんな状況で大きな音をたてでもしたら──。

クローゼットの扉が開かれ全部が終わる。


「ね?」


紗良は俺の沈黙を見届けてから、指先をゆっくり動かし始めた。

ベルトの金具に触れる。

カチャリと小さな音が鳴った。


「や、やめ……」

「やめてほしいならちゃんと言ってください」


「言ってるだろ……!」

「違います」


紗良は静かに笑う。


「お姉ちゃんの前に戻れなくてもいい。大きくなったままでもいい。そう言えますか?」

「……」


「言えないですよね?」


ベルトが緩む。

ズボンの上部がわずかに自由になる。


「だめだ……紗良……これは、本当に……」

「本当に?」


紗良の指がファスナーに触れた。


「本当に、何ですか?」


──じ……♡


俺が回答に詰まる間も、紗良の指先は動きを止めなかった。

音を立てないように、ゆっくりとファスナーが下ろされていく。

そのわずかな振動が、ズボンの内側に閉じ込められた熱へ伝わり、情けのないことにそれだけで身体が反応する。


「んっ……♡」

「ほら」


紗良が嬉しそうに囁く。


「ふふっ♡ お義兄さんの身体は……お義兄さんよりよっぽど正直みたいですけど?」

「……ッ」


「お義兄さん、ほんとにリビング戻れないですね」


そう言いながら、紗良の手がズボンの内側へ潜り込んでくる。


「や……!」


反射的に腰が逃げようとした。

だが、狭いクローゼットの中、後ろは壁。

前には紗良の身体。

左右には衣類が詰まっていて、逃げる余地などどこにもない。


指先が下着越しに熱をなぞった。


──さわっ……♡


「……すごい」


紗良の声が暗がりで低く響く。


ズボンを押し上げ、限界まで張り詰めた証拠。

紗良の手のひらが下着越しにしっかりとそれを包み込み、ゆっくりと輪郭を確かめる。

先端から根元へ。

根元からまた先端へ。

やわやわと揉み込むように、確かめるように、指を動かす。


「ぁ……♡ ぁ……♡♡」


声が漏れそうになる。

唇を噛むが、鼻から甘く浅い息が漏れるのを止められない。

紗良の指はまだ布越し。

それなのに、触れた部分が灼けるように熱くなる。

腰の奥の熱がどんどん膨れ上がっていく。

自分でも制御できないほど硬く脈打ち、欲望が溢れそうになっていく。


「こんなになっちゃってるのに……」


紗良が耳元で囁く。


「この状態で、ほんとに平気だって、お姉ちゃんに言えます?」

「……ッ♡」


紗良の熱っぽい吐息が耳にかかる。

ゾワゾワとした感覚に、あっと口は開くが言葉は出ない。

出せるわけがない。

こんな状態を、こんな感情を、綾乃にバレてしまえば──。


「お義兄さん、あたしが触ってあげればあげるほど、どんどん素直になってますね。……ちんちんと同じだ」


その言葉と同時に、パンツ越しに竿を撫でていた紗良の手指が腰ゴムへかかる。


「だって、このままじゃ戻れないもんね? このままパンツの中から引っ張り出して、紗良が気持ちよくしてあげて、ちゃんと普通のお義兄さんに戻れるようにしてあげますね?」


ズボンと一緒に下着がわずかに下げられた。

ボクサーパンツの内側で限界まで張り詰めたモノが解放を訴える。


──ぐ……♡


「ぁ……♡ そ、そんなのッ……♡ ふ、普通じゃッッ♡」

「じゃあ特別ですね? 普通じゃないことをしないとお義兄さんは元の普通に戻れないんです……♡ お姉ちゃんには絶対言えない、私たちだけの特別……♡」


紗良は俺の言葉を奪い取るように囁きながら、下着の内側へと指を滑らせ、布地を引っ張る。

狭いクローゼットの中の冷たい空気。

そこへ、隠していたものが引きずり出される感覚。

だが、それ以上に強烈だったのは紗良の指先の感触だった。

柔らかく、細く、しかし逃がさないように添えられた指。

先端を避けるように根元を支え、ゆっくりとズボンの外へ導いていく。


「ッッ♡♡♡」


布が落ち、ズボンが緩んだ隙間から解放された先端が顔を出す。

熱を持ち、硬く張り詰め、先走りが溢れそうなほど。

クローゼットの中の空気に晒されて、ひやりとした温度が一瞬だけ理性をかすめた。

しかし、それもほんの一瞬。


「お義兄さん……♡ 暗くてよく見えないですね♡ クスっ♡ ですけどここにいるのはわかります……♡ 紗良のお手々を求めて、ピクピク泣いちゃってます……♡ おちんちんが怖がらなくていいように、握ってあげますね……♡」


──むぎゅ……♡


紗良の手が、露わになった俺の熱をそっと包み込む。

冷たい空気の中で、その掌の温度がどうしようもなく生々しく感じられ、感覚器官が鋭敏に研ぎ澄まされていた俺には、甘く暴力的な快楽だった。

握られただけなのに、頭の中が紗良で埋め尽くされていく。


「かた〜い……♡」

「……ッ♡」


慌てて唇を噛んで出かけた声を抑え込む。

しかしその反応を見た紗良は嬉しそうに目を細めていた。


「我慢してる……♡ お姉ちゃんのために?」

「っ……」


「いいですね~……♡ お義兄さんはやっぱりお義兄さんだ……♡」


硬く隆起した欲望を握り締めた手──白魚のような手が、引き出した熱をそのまま自身の太ももの間に導き入れて。


──むちゅっ……♡


「ぁ……♡ ぁ……♡ ぁ……♡ ぁ……♡」

「ほら」


太ももの間に押し込まれた熱源が、柔らかい肉の圧に包まれる。

きめ細かい柔肌がぴたりと纏わり付いて、左右から緩やかに押さえ込むような感触。

ズボンの上からとは全く異なっていた。

生身の熱が直接肌に伝わってきて、一瞬で呼吸が浅くなる。

息を吐きたいのに、吸いたいのに、肺がうまく働かない。


「ふふ……♡ あたしの太ももに捕まっちゃいましたよ〜? お義兄さんのちんぽ……♡」


紗良の甘い囁きが、耳の奥を撫でる。

吐息が熱く絡み、肌に触れた途端に頭の中がじんじんと痺れていき、腰の奥が疼き出す。

クローゼットの薄暗い空間で、密着した俺たち。

紗良の太ももが、俺のズボンから顕になった熱い生身の欲望を挟み込んでいるのだ。


「ん"ッッ……♡ はぁッ♡ やめッ♡ こんなことはッッ♡♡」

「お手々よりはいいですよね〜? 足と比べるとどうですか〜? あ、でもマゾなお義兄さんは意外と足でされるほうがお好みだったり……? クスクス……♡」


「そ、そんなわけッッ♡ そ、それにッ♡ それよりもッ♡ あ、綾乃がぁッッ♡♡ こ、これ以上はッ!!♡」

「ん〜? まだこの状況でお姉ちゃんのこと考えてるんですか? 自分からあたしにキスした癖に?♡」


「だ、だってッ♡ それはお前がッ♡ お、お前がぁ……──♡」

「しー……♡」


──むちっ……♡ きゅむっ……♡


「ぁッ……♡♡」


まるで子供に言い聞かす母親のように唇に人差し指を当てた紗良の太ももが閉じる。

たったそれだけの動作で、喉奥から漏れた反論の弁はあえなく潰された。


「しーっ♡ 今声出したらお姉ちゃんに気づかれちゃいますよ?」


──ぐにっ♡ ぐにっ♡


「ッ♡♡♡」


二度三度と、紗良が太ももを擦り合わせる動きをすれば、中に挟み込まれた抜き身の槍が、もちもちの肉肌に全身を舐めて磨き上げられるような感触に包まれた。

その瞬間、肉竿からは多量の快楽物質が溢れ出し、脳を狂わせ、あまりの心地よさに包まれながら誤った快楽の種を植え付けられる。

決して溺れてはいけない、背徳的な快楽の源泉。

足の時とはまた違う、熟れた果実に挟み込まれるような肉感。

紗良という女に与えられた男を容易にたぶらかすことのできる魅惑の女体そのものだった。


──ぬちっ……♡ くちゅっ……♡ ぎゅぅぅぅ♡


「……っ♡ く、ぅ……♡」

「お姉ちゃんよりきもちぃ……?」


「ッ……♡」


息を飲み返答に詰まる。

否定しなければならない。


綾乃との行為のときの方が気持ちがいい。

紗良との行為のときは騙されているだけ。


頭ではそう理解しているはずなのに、声になって出てこない。

紗良の太ももに咥えられたまま思考がぐずぐずに溶かされていく。


「……あれ?」


紗良の声が耳元で小さく弾んだ。


「否定しないんだ?」

「ち、ちが……ッ♡」


──ぎゅむっ……♡


言いかけたところで太ももがゆっくりと閉じられる。

柔らかな肉が左右から押し潰すように絡みつき、逃がさない。

思わず喉が震える。


「んっ……♡」

「ほら、また声が出ちゃってます」


紗良の指がそっと俺の唇に触れる。


「お姉ちゃん、リビングにいるんですよ?」

「……ッ」


その一言で茹で上がった頭に冷水を浴びせられたような感覚に陥った。

だが、冷静になろうとした瞬間、太ももがまた動いた。


──ぬちゅ……♡ すりゅ……♡


「ぁ……ッ♡」


無理だった。

考えようとするたび紗良の太ももが思考をピンク色に塗り潰していく。

もちもちとした肉の間で、顕になった欲望が優しく擦られる。

足でも手でもない。

もっと柔らかく、女の身体に直接包み込まれているような感覚。


「お義兄さん」


紗良が囁く。


「答えなくてもいいですよ?」

「……」


「お義兄さんのここが代わりに答えてくれてますから」


そう言って、汗ばんだ太ももをほんの少しだけずらす。


──くにゅっ……♡


「ッ……♡♡」


もっちりと絡みついた肉肌が、カリの溝までも擦っていく。

先端から根元まで、逃げ場なく敷き詰められた柔らかい肉の檻。

肌と肌の間で俺の欲望が包み込まれ、じっとりと蒸されるようだった。


「んっ……♡ ぁ……♡」

「ほら、素直♡」


──ぬちっ……♡


こぼれかけていた先走りが薄く伸ばされ、肌同士擦れる音の中に湿った音を生む。

耳元で囁いた紗良が、暗がりの中で嬉しそうに笑っていた。


「すごい……」

「み、見るな……ッ♡」


「見えてませんよ? クローゼットの中は暗いので」


当たり前とでも言うかのように。


「でも、わかります。あったかくて、硬くて、ぴくぴくしてて……今にも出ちゃいそうだ……♡」

「……ッ」


「お姉ちゃんのこと考えてるのにね?」

「やめろ……」


「お姉ちゃんのために普通に戻るんですよね?」

「やめろって……」


「じゃあ、早く戻してあげないと……ね?♡」


その瞬間、太ももの動きが変わった。

さっきまでのように押し潰し、時折擦り上げるだけではない。

熱源を挟み込んだまま、腰の動きに連動し、ゆっくりと前後へ滑り始める。


──ぬちゅ……♡ ぬちゅ……♡ すりゅっ……♡


「ッ、ん……♡ ん"ッ……♡」


声が漏れないように歯を食いしばる。

だが鼻から抜ける呻きまでは止められない。

紗良の太ももが動くたび、熱が根元から先端へ絞り上げられていく。


「ふふっ……♡」


俺の首に腕を絡めたままの紗良が身を寄せてくる。

甘ったるい紗良の女としての匂いが人肌に温められて、より濃くなっていく。


「お義兄さん、腰……ちょっと動いてます」

「う、動いてなんか……ッ♡」


「動いてます」


──むにゅ……♡ ずりゅ……♡


「ほら」

「ちがっ……これは……ッ♡」


「足の時もそうでしたよね? あたしが動かしてるだけなのに、途中からお義兄さんの腰もついてきちゃって」

「……ッ」


「自分で気持ちよくなりにきてました。ヘコヘコ~って……クスっ♡」

「違う……!」


「違わないですよ?」


紗良はそこで一度動きを止めた。


「じゃあ、止めてあげますね」

「……んぁッ、はァッ♡」


ぴたりと止まった太ももに、思わず身体が悲鳴を上げる。

止められた熱は未だに紗良の太ももの間に囚われたまま、余韻を残すかのように、紗良の体温と溶け合っていく。

ただただ柔らかな肉で、硬くなりきった勃起を包まれている。

その状態から一切の動きがなくなったのが逆に辛かった。

先ほどまで当然の如く与えられていた刺激があっという間に過去へと変えられ、火をつけられた欲望が中途半端なまま燻り、一向に鎮火の気配はなかった。

今にも達しそうだった快感が、寸前で宙ぶらりんになったのだ。

出そうで出ず、届きそうで届かず……生殺しとはこういうものかと思うと、全身がじわじわと快楽の沼へと引きずり込まれていく。

紗良の太ももに囚えられたまま、腰の奥だけが勝手に疼く。


「……ぁ……♡」


小さく、情けのない息が漏れた。

紗良がすぐに反応する。

見逃してくれるはずがなかった。


「どうしました?」

「……」


「動いてほしいんですか?」

「……違う」


「違うんだ?」


紗良は楽しそうに頷いた。


「じゃあ、このままでいいですね」


まずい。

このまま止められるのはまずい。

高められた熱だけが身体の中に残り、頭の奥がじんじんと痺れている。

この状態でリビングに戻れるはずがない。

なのに、動かしてほしいと言えば終わりだ。

自分から求めたことになる。

紗良はそれをわかっている。

わかっていて──。


「お義兄さん」


紗良の唇が耳に触れそうなほど近づいてきた。

湿った吐息が耳の凹凸を撫ぜ、近くなった音圧が鼓膜を震わす。

口の中で弾ける唾液の泡と舌の動きまでもがリアルに想像できてしまう。

つい先程、俺はこの唇と濃厚なキスを──。


「このまま出させてもらえなかったら、どうします?」

「……」


「そのままズボンにしまって、お姉ちゃんのところに戻ります?」


想像しただけで血の気が引く。

火照った顔。

乱れた呼吸。

隠しきれない下半身の膨らみ。

綾乃に心配されるだけで済めばいい。

最悪、気づかれる。

紗良と何かあったのだと……。

それは絶対に避けなければならなかった。


「嫌ですよね?」

「……」


「じゃあ、あたしに戻してもらうしかないですね」

「……紗良」


「はい?」


紗良がわざとらしく首を傾げる。

相変わらず止まったままの太ももの、柔らかな肉の奥に囚われているせいで、熱だけが逃げ場を失ったままじくじくと疼いている。


「……その」


続く言葉が出ない。

動かしてほしい。

続けてほしい。

このまま終わらせないでほしい。

そんなことを思っている自分が、どうしようもなく惨めだった。

大切な婚約者がいるのにも関わらず、だ。


「言えないならいいですよ?」


紗良があっさりと言い放つ。


「じゃあ、戻りましょうか」

「……え」


「お姉ちゃん、リビングにいますし」


紗良の太ももがゆっくり緩む。

それまで挟み込まれていた熱が、柔らかな肉の檻から少しずつ解放されていく。


離れる。


その感覚に、ほっとするより先に、虚しさが言いようのない不安感と成って襲いかかる。

硬く張り詰めたものが、冷たい空気にさらされ、急に現実に引き戻されていく。


「ほら、しまってあげます」


紗良の手が下へ伸びる。

さっきズボンから引き出されたばかりのものを、今度は元の場所へ戻そうとする。

本当に終わ──。


「待っ……」


思わず声が漏れた。

紗良の指先が止まる。

ニヤリと弧を描く。


「待つ?」

「……」


「何をですか?」


言えない。

言えるはずがない。

ここまできて、俺は──。


だが紗良は俺の答えを待たず、再び指を動かした。

熱源を下からそっと支えるように触れ、下着の内側へ押し戻そうとする。


「だめっ……」


情けない声だった。

自分でも驚くほど弱くて、縋るような声。

拒絶でも抗議でもない。

それはもっと惨めな、止めてほしいという懇願だった。


「だめ?」


向かい合った紗良が不思議そうに首を傾げた。


「このままじゃ、お姉ちゃんのところに戻れませんよ?」

「……」


「それとも戻りたくないんですか?」


違う。

戻らなければならない。

綾乃のところへ。

いつものリビングへ。

『おかえり』って……。


だがこのままでは戻れない。

戻れるはずがない。


紗良の太ももの感触をこれでもかというほど刻み込まれ、挙句の果てに解放は取り上げられて。

下半身の猛りは収まることを知らず、まだ熱を帯びたまま燻り続けている。

今にも噴き出しそうな欲望が腰の奥で燃え盛り、冷たい空気の中でひとり孤独に火照ってるというのに──。


「……む、無理だ」


掠れた声が漏れる。


「何が?」

「このままじゃ……無理だ……無理なんだ……」


紗良が小さく息を飲んだ。

嬉しそうに。

またもや口元が弧を描く。

喜色は隠しきれていなかった。


「そうですよね」


彼女はゆっくりと手を引いた。

しまわれかけていた熱が、また冷たい空気に晒される。

その直後、紗良の太ももがもう一度近づいてきた。


まだ触れない。

触れそうで、触れない。

寸前の距離で止まる。


ひくひくと震えてしまう。


「お義兄さんは、ちゃんとお姉ちゃんのところに戻りたいんですよね?」

「……あぁ」


「普通の顔して?」

「……」


「何もなかったみたいに?」


胸が痛む。

何もなかったみたいに。

そんなことが許されるはずがない。

でも、そうしなければならない。

綾乃を傷つけないために。

この家を壊さないために。

最低な言い訳だ。

けれど今の俺には、それに縋るしかなかった。


「……戻りたい」


やっと口に出すと、紗良は満足そうに目を細めた。


「じゃあ、戻れるようにしないと」


太ももが触れる。


──むにゅ……♡


「ッ……♡」


それはさっきよりも慎重な動きだった

確かめるように、柔らかな内側の肉が露わになった熱を左右から包む。


だが、まだ動いてはくれない。


「……っ♡♡」


焦れた息が漏れた。

紗良はそれを聞いて、楽しそうに首を傾ける。


「まだ何もしてませんよ?」

「……」


「挟んだだけ」

「……さ、紗良ッ♡」


名前を呼ぶだけで精一杯だった。

ただ挟まれただけで頭の中が快楽一色に染まっていく。

もう気持ち良くなることしか考えられない。


「はい」

「……た、頼むからッ♡」


「頼むから?」

「……そんな、中途半端な止め方……ッ♡」


──ぎゅっ……♡


返事の代わりに紗良が少しだけ太ももに力を込める。

たちまち桃色の刺激が背筋を走り、思わず喉の奥から吐息が漏れた。

だが動かない。

温かく柔らかな太ももの内側が俺を包んでいるだけ。

ただ静止しているだけで汗ばんだ肌が絡みつき、甘い蜜のような快楽が海岸に打ち寄せる波のように定期的に襲ってくる。

焦燥感と期待感が同時にせり上がって、頭がクラクラする。


「こういう止め方?」

「ッ……♡」


「お義兄さん、ここで止めちゃうと、そんなに困るんですか?」


返事ができない。

できない代わりに、肉竿が勝手に脈打つ。

紗良の太ももの内側にも当然それは伝わってしまう。

彼女は小さく笑った。


「やっぱりココは素直だ……♡」

「……やめろ」


「やめていいんですか?」

「……」


「じゃあ、本当にやめますね」


太ももの力が抜ける。


「っ、待って……」


今度ははっきり言ってしまった。

言った瞬間、頭の中が真っ白になる。


『待って』


俺は紗良にそう言った、言ってしまった。

婚約者の妹に。

自分の分身を太ももで挟み込み、快楽の渦へと引き摺り込もうとしている相手に。


待って、と──。


紗良は動きを止めたまま、暗がりの中で俺を見上げている。


「今のいいですね」

「……な、何が」


「お義兄さんが自分から止めました」

「違う……」


「やめないでほしかったんですよね?」

「……」


「このままじゃ戻れないから?」

「……」


「それとも、もう少しあたしの太ももに挟まれていたいから?」


否定する言葉が出てこない。

外では、リビングの方から綾乃の立てる生活音が聞こえている。

そのすぐ隣で、俺は紗良の太ももに欲望そのものを挟まれたまま、やめないでほしいと願っている。


「……普通に戻りたい」


ようやく絞り出した言い訳の言葉。

紗良はそれを否定しなかった。


「はい」


むしろ優しく頷く。


「お義兄さんは、お姉ちゃんの前で普通に戻りたいんですよね?」

「……」


「だから、仕方ないんですよね?」

「……」


「でも……」


一呼吸。


「仕方ないってだけじゃ、あたしは動いてあげません。だってお義兄さんが本当にあたしのことを必要としているのかわからないんですもん」


太ももの内側がほんの少しだけ熱の表面を撫でた。


──すり……♡


「ッ……♡」


すぐに止まる。

一瞬だけ与えられた刺激が余計に飢えを強くする。


「今の続き、いりますか?」

「……」


「いらないならこのまま終わり」


また太ももが離れかける。


「……いる」


自分の声とは思えなかった。


紗良の呼吸が、一瞬だけ止まる。


「何が?」

「……続き」


「何の続きですか?」

「……」


「ちゅー?」

「違う……」


「じゃあ、この狭いクローゼットの中でもっと抱きつくこと?」

「違う……」


「ん? じゃあやっぱりココ?」


太ももがゆっくりと閉じる。


──むちゅ……♡


何度目かわからない刺激。

しかし一向に慣れることはない。


「ッ……♡」

「ココで、続きしてほしいんですか? 婚約者の妹の太ももで?」


「……」

「お義兄さん」


紗良の唇が耳元に寄る。


「ここまで言えたんだから、あと少しだけ……おねだり頑張ってください♡」


残酷なほど、優しい声音。

俺を叱りつけるでもなく、むしろ諭し、あたかも正しい行いをしているのだと言わんばかりに。

まるで、これが綾乃のための選択であるとでもいうように──。


「っ……♡」


否定しなければならない。

言葉にしなければ、全てが終わりだ。

けれど俺の身体はもう、紗良の女体と快楽の海に半ば沈みかけていた。

クローゼットの暗闇の中で、紗良の太ももに包まれたまま──。


「……お、お願いだ……」


か細い声が漏れた。

言ってしまえばもう戻れない。

わかっているのに。


「さ、紗良の……」


声が震える。


「紗良の……太ももで……」


紗良は何も言わなかった。

しかし目は笑っている。

どうやら俺から口に出すことを待っているらしい。

期待と欲望に押し負けそうな俺の、抵抗心の砕け散るさまを待ち侘びているのだ。


「……出したい」


言ってしまった。

紗良の腕が俺の首へ絡み直される。


「何を?」


大きな瞳が目と鼻の先まで迫る。

揺れる前髪が頬を撫でる。

じっと見つめられている、観察されている。

今から俺がどんな痴態を晒して、どんな台詞を吐き出すのか。

じっくりとその目に焼き付けようとしているのだ。


「最後まで言えたら、ちゃんと戻してあげます」


綾乃のところへ戻るため。

普通の顔に戻るため。

このどうしようもない熱を、ここで終わらせてもらうため。

最低な理由を何度も何度も頭の中で並べ立てる。

そして、その全部が言い訳だとわかっていながら、俺は口を開いた。


「……紗良の太ももで」


自分の声が遠い。


「精液を出させて……ほしい……搾り取ってほしい……ッ♡♡」


言い切った瞬間、紗良の身体がぴくりと震えた。


「……ふふ」


暗がりの中で、彼女が笑う。

からかうようで、嬉しそうで、どこか満足げな笑い方。


「上手におねだりできましたね」

「ッ♡」


「えらいです、お義兄さん」

「ッ♡」


「今のお義兄さん、すごくかわいいですよ?」

「……ッ♡」


「お姉ちゃんには見せられない顔ですね」


太ももがゆっくり締まっていく。

それが紗良の答えだった。


──ぎゅっ……♡ ぎゅむ……♡


「ッ……♡♡」


先程まで味わっていた柔らかな圧迫が再び襲ってくる。


──むにゅ……♡


「ん……ッ♡」

「大丈夫です」


紗良が耳元で囁く。


「お姉ちゃんには見せません」


太ももが動く。


──ぬちゅ……♡ すりゅ……♡


「ッ、ん"……♡ あ"ッ……♡」

「ちゃんと、あたしの太ももの間で終わらせてあげます」


「お姉ちゃんに返す前に……♡」


欲望がさらに深く挟み込まれた。


──ぐにゅ……♡ ぬちゅ……♡


「お義兄さんの悪いところ、ぜんぶ出しちゃいましょ?♡」


耳の奥に染み込む紗良の言葉。

その意味を考える間もなく肉厚な太ももが動き出す。


──ぬちゅ……♡ ぐにゅ……♡ すりゅっ……♡


前後に、ゆっくりと、捏ねるように。

熱を溜め込んだまま放置されていた欲望が、柔らかな肉の波に揉まれながら解きほぐされていく。


「ッ、ん"……♡」


声が漏れそうになって慌てて歯を食いしばる。

だが、鼻から抜ける甘い息は抑えきれず、クローゼットの闇に混ざって溶けていく。


──ぬちゅ……♡ すりゅ……♡ きゅむ……♡


紗良の太ももの動きは、さっきまでとは明らかに違っていた。

焦らすための緩やかなものではなく、明確な意志を持ち搾り取るものへと変わりつつあった。


──むちっ……♡ ぬりゅ……♡ きゅうっ……♡


柔らかな肉がぎゅむぎゅむと押し寄せてくるたびに、俺の熱が太ももの谷間に埋め込まれる。

太ももの内側のしっとりと汗ばんだモチ肌が肉竿の凹凸をくまなく舐め上げ、先端から根元までを丹念に圧し潰しながら絞り上げていく。

自分の口から紗良を求めてしまったが故の、遠慮なく搾るための動き。


「ん……♡」


紗良がしなだれかかるように俺の首元へ額を寄せる。


──ぎゅっ……♡


甘い吐息が鎖骨のあたりにかかり、腕の力が少し強くなる。

狭いクローゼットの中。

密着する二人。

逃げようにも背後には壁、前には紗良の女体。

下半身は太ももに囚われ、上半身は抱きつかれている。

その中で、顕にされた熱源が、柔らかな肉の間で何度も何度も磨かれていく。


──むちゅ……♡ ぬちゅ……♡ ぎゅっ……♡


「ッ、さ、紗良……ッ♡」

「だめ」


紗良が短く制する。


「名前呼ぶ時は小さくね?」

「……ッ」


「お姉ちゃん、すぐそこですよ?」


「……」

「だから、こーやって」


紗良の太ももがまた前後に滑る。


──ぬちゅ……♡ くちゅっ……♡


「ん"ぅッ……♡」


声が出る。

口を閉じても漏れ出してしまう。

綾乃の名前が脳内で反響しているのに、身体は紗良の柔らかさに沈んでしまう。

脳裏にへばつくような快楽を振り払うことができない。

すぐそばで婚約者が日常を過ごしているだぞ……!

それなのに、俺は……その婚約者のすぐそばで……その妹に……──。


「……っ、く……♡」


考えれば考えるほど頭の中が沸騰しそうだった。

罪悪感で冷えたはずの背筋を、快感がすぐに塗り潰していく。


ひどい。

最低だ。

こんなこと、あっていいはずがない。


なのに身体はもう……紗良の太ももを渇望している。


締め付けられて、擦り上げられて、柔らかな肉の内側で蕩けるような快楽を与えられる瞬間を──。


「ふふっ……♡」


──ぎゅぅ……♡ ぬりゅ……♡ ぬりゅ……♡ ぐちゅっ……♡


「ッ、ん"ぅ……♡」


射精の感覚が腹の底から湧き上がってくる。

紗良の太ももが、じっくりと、丹念に、肉竿を咀嚼していくように動く。


「……お義兄さん」


紗良の声が少しだけ熱を帯びていた。


「もう出そうなんですよね?♡」

「ッ、ち、違う……ッ♡ ま、まだ……ッ♡」


「強がらないでくださいよ」


──ずりゅっ……♡


否定仕掛けた言葉が太もものひと擦りで潰される。


「ッッ……♡」

「違わないですよね? 私の太ももの間で、こんなにも熱く、硬くなってるんですから……♡ もしかして隠しきれてると思ってるんですか?」


暗がりの中、紗良の唇が耳に触れそうになる。

そこから紡ぎ出された言葉が、鼓膜を甘く震わせる。


「ちゃんとおねだりできたんだから、もう我慢しなくてもいいんですよ?」

「や、あっ……♡ そ、それでもッ♡ 我慢、しないと……ッ」


「どうして?」


答えられない。

だって俺には綾乃という婚約者がいる。

将来を約束した大切な人がいる。

それなのに……それなのに……その妹である紗良と関係を持ってしまった。

それだけならまだしも、今の俺は自ら懇願し、紗良の太ももに肉棒を扱かせている。


だがそれも仕方のないことなのだ。

これだけは仕方のないことなのだ。


そう思わねば耐えきれない。

綾乃への罪悪感で今すぐにでも死んでしまいたくなるが、どうにも身体は正直だった。

紗良の身体の柔らかさに包まれ、口付けを交わし、甘い吐息と甘い声に全身をくすぐられているうちに、理性はとうに崩れていた。

もう頭がおかしくなりそうだ。


「ほら、正直になりましょう? お義兄さん……♡」


紗良の言葉が耳の奥に浸透してくる。

甘い毒のように。

一度入り込んだらもう出ていかない。


『お義兄さんは、お姉ちゃんの前で普通に戻りたいんですよね?』


その問いに、俺は躊躇うことなく頷いた。

紗良はそれで納得したように微笑んでいた。


『だったら仕方ないですよね?』


クローゼットの中、狭く、薄暗い空間。

俺と紗良の他には誰もいない。

外のリビングでは綾乃が日常を送っている。


「──ここで出していいんです♡」

「いい、わけ……ッ♡」


──むにゅっ……♡ ぬちゅ……♡


「ん"ッ……♡」


太ももがまた閉じた。

ダダを捏ねる子供を宥めるように、優しくも有無を言わさぬ力強さ。


──きゅむ……♡ ぎゅっ……♡


柔らかな肉が根元から先端まで余すところなく包み込む。

そして、ゆっくりと前後に動き出す。


──にゅるっ♡ くちゅっ♡ ずちゅっ♡ にゅちっ♡


単調に見えて、決して単調ではない。

緩急をつけた滑らかな摩擦。

不規則に締め付けては引き、解放する柔らかな波。

肌と肌が擦れ合い、唾液とも汗とも異なる粘質の液体が竿の先端から紗良の内ももに滲み出てきたことで、水音が次第に濃くなってくる。


──ぐちゅっ……♡ ぐちゅっ……♡ ぎゅちゅっ……♡ にぢゅっ……♡


「ここ、きもちぃね……♡」


──ぎゅうぅ……♡


「ん"ぉッ♡♡♡」


容赦のない圧迫と柔らかな肌に包まれたまま、熱が搾り出されていく。


「もっとよくしてあげますね……♡」

「ッ♡ さ、紗良ぁッ♡」


限界だ。

腰の奥から快感が膨らんでいく。


「お義兄さんがおねだりしたんですからね?」


そうだ。

そうなのだ。

紗良の太ももで出したいと。

搾り取ってほしいと、俺が言い出したのだ。


もう、紗良だけのせいにはできない。


「……最低だ」


また、声にならない声が漏れる。

しかし紗良は聞き逃さなかった。


「最低でもいいです」


太ももがゆっくりと動く。


──ぬちゅ……♡ すりゅ……♡


「最低なお義兄さんでも、あたしはちゃんと受け入れてあげます♡」


「ッ……♡」

「お姉ちゃんには見せられない顔も」


──むにゅ……♡


「お姉ちゃんには聞かせられない声も」


──ずりゅ……♡


「全部、あたしがここで受け止めてあげます♡」


その言葉に胸の内がぐちゃぐちゃになる。

都合のいい言葉。

優しく見えて、その実、全てを責任転嫁させ、堕落の沼へと引き摺り込むための方便。

紗良の作り出した沼へと沈んでいく俺を、紗良はその底で手を広げて待っている。

落ちてきた俺を、もっともっと深いところへ抱き込むために。

身体を蝕む病巣のように広がり続ける快楽の渦へと……──。


「ぁ……♡ あ"……♡ あ"ッ……♡」

「……そろそろですね」


俺が情けのない声を上げ続けていると、紗良が満足げに囁いた。

太ももに埋もれた熱源が脈動し、それ以上の熱源が腰の奥から湧き上がってくる。

まずい。

もうその時は近い。


「さ、紗良ぁッ……♡」

「はい」


「も、もう……」

「もう?」


「出……ッ♡♡」


言いかけた瞬間、紗良の太ももがぴたりと止まる。


「……ッ!?」


止まった。

止まってしまったのだ。

今まさに届きかけていた快感が寸前で途切れる。

行き場を失い限界まで膨らんだ射精感が、腰の奥で暴れ始める。


「な、んで……ッ♡」

「言ってください……ちゃんと♡」


「……ッ」

「何が出そうなんですか?」


「そ、そんなの……」

「言えないなら、出させてあげません♡」


「ッ……!」


血の気が引く。

ここまで来て。

ここまで追い詰められて。

あと少しで解放されるというところで、取り上げられる。


拷問だった。


「お義兄さん」


紗良の声が優しくなる。


「ちゃんとおねだりできたんだから最後まで言えますよね?」

「……」


「お姉ちゃんの前に戻りたいんですよね?」

「……ッ」


「じゃあ、ちゃんとお願いしないと?」


紗良が俺の耳元で囁く。

甘く、優しく、でも残酷な言葉。

逃げ場を奪いながら最後の引き金を俺に渡してくる。

この沼に引きずり込んだ張本人であるのに、まるで救いの女神のようなふりをする。


「ほら、言ってください♡」

「ん"ッッ……♡♡ ま、待て……ッ♡♡♡」


「待ってあげません♡ お義兄さんが言えないなら、このままもうやめちゃいますね? クスっ♡」


もう限界だった。

腰の奥で煮えたぎる熱。

紗良の太ももの柔らかな肉の隙間で挟まれたまま、逃げ場もなく疼いている。


「ッ、っぁ……♡」


喉が震えた。

喉仏が動いて、紗良を求める言葉を発するために呼吸を整える。

脳の奥が痺れている。

もう考える余裕はなかった。

綾乃への罪悪感も、紗良への克己心も、男としての矜持も俺の情けなさも。

全てが太もものやわっこい肉の沼へと飲み込まれていく。


「だ、出させて……」

「敬語」


「出させて……くださいッ♡」

「何を?」


「ぁ……♡ ……精子をッ♡」


紗良がゆっくりと息を吐く。


「うん、偉いです、いい子いい子」


まるで子供を褒めるような言葉。

でも声色はどこまでも甘く、耳の奥に媚薬のように染み込んでいく。


「は、早くッ──」

「それで、お義兄さんは誰にこのちんぽのお世話を焼いてもらいたいんですか?」


「ッ……♡」

「教えてください♡」


もうどうにでもなれ。

何も考えたくなかった。

考えれば考えるほど、罪悪感と快楽が絡み合い、頭の中で綾乃の優しい顔と紗良の意地悪な顔が交互にちらつく。

そして結局は太ももの柔らかな肉に飲み込まれていく。


「さ、紗良にぃ……ッ♡」

「へぇ……」


その目が一瞬だけ鋭くなった。

姉を出し抜き、欲しいものを手に入れんとする狡猾で、淫靡な瞳。


「そう言ってもらえると嬉しいですね……♡」


しかしそれも一瞬のこと。

すぐにニコニコとしたいつもの表情に戻る。


「じゃあ、お義兄さんが望んだ通りに、あたしがお義兄さんのちんぽのお世話をしてあげます……♡」


紗良の両腕が首にかかる。

紗良が体重をかけることで、その柔らかな女体がピタリと押し付けられる。

密着することで彼女の体温と、若く張りのある柔肌がダイレクトに伝わってきて。

紗良の香りも相まって、クローゼットの空気が紗良の甘い匂いだけで染まっていく。


──ぎゅむぅぅぅっ……♡


「ッ、ぁ……♡」


熱源が太ももにゆっくりと締め付けられた。

熱い抱擁を受けて、びくびくと止まらなくなっていく。


「じゃあ、出して」


そして太ももが動き出す。


──ぬちゅっ♡ ぐちゅっ♡ ずちゅっ♡ にちゅっ♡


「ぁ"ぁ"ぁ"ぁぁぁ……♡♡♡」


今度は止まらない。

押し寄せる肉の波。

根元から先端へ。

激しく動いていたかと思えば、先端を咥え込んだままゆっくりと上下に滑り、時に左右から捩るように締め上げて、強烈な圧迫と締め付けを与えてくる。


「ッ、ぁ"ッ、や、やば……いッ♡♡」

「やばい?」


紗良の吐息が耳元で弾ける。


「そんなに声出してたら、お姉ちゃんに聞こえちゃうかもしれませんよ?♡」

「ッ……♡ ん、ん"……♡」


声を出さないように口をつぐむ。

その硬くなった唇の先に、紗良がそっと人差し指を当ててくる。


「我慢できないなら……♡」


離れる指先。

代わりに紗良の唇が近づいてきて。


「声、出そうになったら」


甘い囁き。

桃色のリップが視界の中でどんどん大きくなって。


「あたしの口に出してください」


次の瞬間──。


──ちゅっ……♡


重ねられた唇。

今度は舌を入れてこなかった。

ただ形を確認するような動きで、唇を食んでいる。

優しく、労わるように。

俺の喉奥から漏れる声を吸い込み、その変化を慈しむように紗良は丁寧に啄んでいく。


「はぁむ♡ んむっ♡ はむっ♡ ん〜〜〜っ……♡ ちゅむっ……♡ ちゅっ♡ はむ♡」


──にちゃ……♡ にちゃっ……♡ じゅる……♡ ちゅむっ♡


──ぬちぬちぬちぬちぬち……♡


「ぁ、ぁッ……♡」


射精の衝動とキスの甘さに溺れ、もう理性も体裁もかなぐり捨てて、俺は紗良の身体へとしがみついた。

脳天まで突き抜ける甘い女の匂い。

唇を重ねながら、紗良の柔らかな胸の感触に溺れていく。

紗良という魔性に包み込まれているうちに、この世界が俺と紗良だけになったのではと錯覚し、俺の手は無意識のうちに紗良の身体へと伸びていた。

その肉感的な臀部を両手で掴み、紗良の身体という身体を堪能する。

外には綾乃がいるのに。


全てが一つになって、腰の奥で弾ける。


「ん"ッ……♡ ん、んぅッ……♡」


紗良の唇に声を吸われながら、俺の体は限界へと押し上げられていた。


──ぬちゅっ……♡ ぎゅむっ……♡ ずりゅ……♡


「んッ……♡♡♡ んんッ……♡♡♡」


出る。

もう止まらない。

そう思った瞬間、紗良が唇を少しだけ離した。

銀糸が二人を繋ぐ架け橋となった。

その隙間で囁く。


「出していいですよ」

「ッ……♡♡♡」


「お姉ちゃんのところに戻る前に♡」


太ももがゆっくりと閉じた。


──ぎゅっ……♡ ぎゅむ……♡


「ッ……♡♡」


逃げ場のない快感が腰の奥で破裂する。

出る。

もう止められない。


「出して」


紗良の囁きが耳元で弾けた。

脳内が射精一色に染め上げられていく。


出していい。

出していいんだ。


「お義兄さんの、悪いのも、全部、あたしの太ももの間に♡」


その言葉で、完全に切れた。


「ん"ッッ……♡♡」


──ちゅぅぅぅ……♡


声にならない声を、紗良の唇が再び塞ぐ。

腰の奥から熱がせり上がる。

一度、二度……強い脈動が走り、その直後、堰を切ったように、爆ぜた。


──びゅくっっ♡♡♡


「──ッ♡♡」


視界がしらやむ。

太ももの間で熱いものが勢いよく吐き出される。

柔らかな内ももに挟まれたまま、逃げ場のない快楽の滾りが何度も何度も脈打っていく。

ひとたび出してしまえば、紗良の太ももが前後に優しくねちねちと、最後の一滴まで搾り取らんと動いていく。


──どくん……♡ どくん……♡ どく、どく……♡♡ にゅち……♡ ぎゅちゅっ……♡


「んッ……♡♡♡ ぁ……♡♡」


──びゅっ♡♡♡ びゅるっ……♡♡ びゅくびゅく……ッ♡♡


「──ぁッッ♡♡ んッ……♡♡」


──どぷどぷっっ♡♡♡ びゅるッ♡ びゅるッ♡ びゅくく」ッッ♡♡♡


「んッ……♡♡ さ、紗良ッ♡♡」


──ぬちっ……♡ ぬちっ……♡ ぬちっ……♡


「も、もうッッ……♡♡♡ あ"ッ♡♡♡」


──びゅるっ♡♡ びゅくくっ♡♡♡ びゅっ♡♡♡ どくんっ……♡♡ どくどく……ッッ♡♡♡


「で、出たッッ♡♡♡ 出た、からッッ♡♡♡」

「ダメです♡」


──にぢゅっ……♡ ぬちっ……♡ ぬりゅん……♡


「ん"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ッ♡♡♡ も、もぅ"ぃぃ……♡♡♡ ぃぃ"ィッ♡♡♡」


太ももの隙間に白濁した欲望が溢れた後も、紗良の脚は止まらなかった。


「はぁむ……♡ ちゅっ……♡ ちゅぱぁ……♡ ちゅぅ……♡」


──ぬちっ……♡ ぬちゅっ……♡ ずちゅっ……♡ ぐちゅっ……♡


唇を重ね合わせたまま、みっちりと詰まった太もも肉を前に後ろに、紗良はまるでその場で行進をするかのように脚を上げて往復させて、一定のリズムを刻みながら擦り合わせ続けていた。

精液と紗良の汗とに塗れた肉竿が幾度となく内腿に按摩され、表面の凹凸やカリの溝に至るまで徹底的に磨き上げられていて。


紗良による柔軟かつ精密なその所業。

太ももの肉感と熱量で以て、姉の綾乃とはお遊び程度の快楽しか知らぬ雄槍に、被虐の恍惚を塗りこめるように擦り上げていき、じっくりと、しかし確実にその快楽の虜として捕らえていく。

射精によって訪れたはずの開放感は、しかしその余韻にさえ浸らせまいと、紗良の巧みな太ももの技が阻んでいくのだ。

それこそ蛇が獲物を締め上げるように、あるいは蠱惑的な女豹が標的を追い詰めていくように──。


──じゅぷっ♡ ずちゅっ♡ ぐちゅっ♡ にちゅっ♡


卑猥な音色を奏でながら、囚えた肉竿を快楽沼へと浸らせて、射精の感覚を忘れらないようにと何度も何度も搾り上げる。


「んぅ……♡ んむぅ……♡」


舌と舌を絡め合いながら、俺はその甘い甘い蜜のような快感を受け入れ続けていた。

頭の中にあるのは目の前で唇を重ね、豊満な肢体を惜しげもなく押し付ける女性の姿。

綾乃と同じような黒い瞳でありながら、そこには綾乃とは違い、妖しい輝きを放っており、欲望を瞳に宿していた。

俺が手を出してしまった、紗良という女の呪縛のような魅力が、そこにはありありと広がっていた。

しかしその禁忌を犯す警鐘さえもが、この沼へと堕ちてしまった俺にとってはどうしようもなく興奮の材料となってしまい、ただ快楽を貪るしかなくなっている。

この女に溺れるしかなくなっているのだ。


──ぬちゅ……♡ ずりゅ……♡ ぬるっ……♡


──ぶぴっ……♡ びくんッ♡ びくんッ……♡ ぴゅるっ……♡


腰が震える。

膝が崩れそうになる。

それでも倒れられない。

紗良の腕と身体が、俺を支えるように抱き留めていた。


「……ん、ふ……♡」


唇が離れる。


「……んはぁ♡」


溢れる唾液。

肌と肌が擦れる淫猥な音だけが充満していた空間に、とうとう訪れた終わりの合図。


「すご……♡」


紗良が熱っぽい声で呟いた。


「いっぱい出ましたね」

「……ッ、は……ッ、はぁ……♡♡♡」


呼吸が戻らない。

頭が働かない。

太ももの間で、まだ余韻が脈打っている。

射精後の過敏な熱を、紗良の柔らかな肉が逃がさず包み込んでいた。


「まだ、動いちゃってます」

「やめ……もう……」


「はいはい」


紗良は楽しそうに笑っていた。


「出させすぎて疲れちゃいましたか?」

「っ……♡」


──どくん……♡


まだ射精の余韻が抜けていなかった。

腰の奥に蓄積された心地よい疲労感がじんわりと全身を包み込む中、紗良は俺の様子を伺うように見上げている。


「じゃあ、そろそろ終わりにしましょっか」


──にゅち……♡ くちゅん……♡


太ももが開かれる。

柔らかな肉がゆっくりと離れていく。


「っ……」


視界が急に晴れ渡る。

クローゼットの中とはいえ、暗がりの中で太ももとキスという唯一の世界に浸っていたせいか、外の世界との境界線が一気に鮮明に。

そしてその視界の中心にいたのはニタニタと笑みを浮かべる紗良であった。


「これでお姉ちゃんのところへ戻れそうですか?♡」

「ッ……♡」


声がかすれる。

息が上がったまま、言葉にならない。


「戻れないなら、もう少し、お世話してあげますね?」

「い、いいッ……もういいッ……♡」


言い切る前に紗良が耳元で囁く。


「嘘つき♡」


ゾクリとするほど甘い声。

同時に、まだ微かに熱の残る股間がピクリと震えた。


「だけど今日はもうほんとにおしまい。でないと、本当にお姉ちゃんに気づかれちゃうから……♡」


──ぬちゅっ……♡ くちゅっ……♡ くちゅっ……♡


「……ッ♡」


ヒクヒクといななく竿を掬い上げるように、紗良の手がゆったりと擦っていく。

射精してなお昂ぶり続けるそれを、慈しむように。

腰の奥で燻った情欲の炎に優しく薪を焚べていく。


──ずりゅっ……♡ ぬちゅっ……♡


「ん"ぅ……ッ♡」

「よちよち……♡ また今度お世話してあげまちゅからね~……♡」


紗良の手が亀頭のくびれを撫で回すように動き、労りと愛情に満ちた愛撫を加え、射精後の敏感さを炙りたて、射精後の肉竿を甘やかしていく。


やがて紗良の手が引っ込んでいくと、離れ離れになる名残惜しさが故に、竿がヒクヒクと寂しさを訴えていた。


「ぁ……」


その様子が面白くて堪らないのか、紗良は満足げに微笑みながら、こちらの様子を──竿と顔とを交互に眺めながら──伺っていた。


「戻ります?」


簡素な問いかけ。

だが、その背後には全てを見透かしたような、企みと興味と嘲笑うような色が含まれていた。


「ぁ……う……うん……」


絞り出した声。

腰の奥からは狂ってしまいそうなほどの疼きが未だに押し寄せていた──。


………

……

…

##P11 クローゼットを出た後のこと@幕間


「──あれ、紗良と……それに悠真さんもいたの?」


クローゼットから出て、紗良の部屋から出た直後、綾乃の声が耳に届く。

明るい部屋の照明が目に痛い。

さっきまで暗闇の中で紗良の体温と匂いに包まれていたせいか、窓から差し込む光がやけに白々しく感じられた。


「あ、あぁ……」


どうにか声を絞り出す。

股間は紗良の手によって整えられ、元の通りのズボンの中に収まっている。

見た目上はなんら変わらない。

いつもの俺。

だが、腹の奥はまだ火照っているようだった。


「さ、紗良の部屋でちょっと手伝いしてて……」

「そうだったの? 私も紗良の部屋、ちょっと覗いたんだけどなぁ……」


綾乃は少し首を傾げながら、俺たちの顔を交互に見る。

ほんの少し怪訝そうな表情。


「うん、クローゼットの奥の方の荷物がちょっと取れなくてさ~。困っちゃってたんだよね~。もしかしてちょうどその時にお姉ちゃんがきちゃってたのかも?」

「そっか、じゃあ私が来た時にはもうクローゼットの中にいたってことかな?」


「そゆこと~」


姉の問いかけに紗良は明るい声で答える。

クローゼットの奥の荷物というのは完全にデタラメだ。

そもそもクローゼットには衣服しか入っていない。

つまり紗良は堂々と嘘をついているのだ。

さっきまで俺の耳元で甘く囁いていた女とは思えないほど自然な演技。


「お義兄さんに手伝ってもらってたの~」

「そうだったんだ。悠真さん、ごめんね? また紗良のこと手伝わせちゃって」


「い、いや……大したことじゃ……」


自分で口にして辟易する。

何が『大したことじゃない』だ。

この数分で俺は、もう取り返しのつかないところまで踏み越えてしまったのに。


「ほんと助かったよ~」


紗良が隣で両手を合わせる。


「お義兄さん、途中で声出そうなくらい大変そうだったもんね」

「……ッ!」


咄嗟に視線が逸れる。


大変だった?

そりゃあ大変だったさ。

声を抑えるの大変だったし、心のバランスを取るのも難しかった。

なによりも、股間の暴走を抑えるのが最も難しかった。

射精した後なのに、股間から拭えぬ心地よい余韻のせいで未だに昂ぶってしまったまま。

綾乃に悟られないようにするのが大変だった。


「ふふ~。お義兄さんのおかげで片付けが終わったので、ありがとうございます~」

「う、うん……どういたしまして……」


綾乃を真っ直ぐ見れない。

顔を上げられず、ただ俯いて小さく頭を下げる。

喉が妙に乾いて、言葉がうまくまとまらない。

視線が痛い。


「……荷物、そんなに重かったの?」

「……あ、あぁ。奥の箱が引っかかってて」


咄嗟に合わせる。

乾いた喉のせいで今にも声が裏返りそうだった。


「大丈夫? 怪我とかしてない?」

「だ、大丈夫」


「よかった……」


綾乃は心底ほっとしたように笑った。

その笑顔が胸に刺さる。

疑いもせず、ただ俺を信じてくれる笑顔。

この笑顔を守りたかった。

守りたかったのに。


綾乃は自分の妹を手伝ってくれた婚約者を、ただ純粋に気遣っただけ。

その婚約者が、ついさっきまで妹と何をしていたのかも知らずに。


「お姉ちゃん、心配しすぎだよー」


紗良は笑う。


「お義兄さんも立派なオトナの男の子なんだからさ~? ちゃんと最後までやってくれたしぃ~?」

「最後まで?」


「うん。途中でやめたら散らかったままになっちゃうからね」

「そっか。悠真さん、本当にありがとう」


「……あ、あぁ」


ありがとう。


その一言がひどく重い。


さっきまで俺は何をしていたんだ。


「じゃあ、お茶でも淹れよっか」


綾乃がリビングへ向かう。


「悠真さんも少し休んで。早く帰ってきたのに疲れちゃったでしょう?」

「……そ、そうだな」


疲れた。


確かに疲れていた。

けれどそれは、綾乃が思っているような疲れではない。


歩き出そうとした瞬間、すぐ横を紗良がすれ違う。

ほんの一瞬、肩が触れる。


「普通の顔、できてますよ?」


俺にだけ聞こえるような囁き声だった。

当然綾乃には聞こえない。


「よかったですね」

「……」


「普通に戻れて」


紗良は前を向いたまま、何食わぬ顔で続ける。


「また戻れなくなったら」


そこで少しだけこちらを見る。


「その時も、あたしが戻してあげます」


言い終えると同時に、紗良はぱっと明るい声を出した。


「お姉ちゃーん、あたしアイスティーがいいー」

「はいはい。ミルク多めのミルクティーでしょ?」


「へへ~、さすがお姉ちゃん! あたしの趣味よくわかってんじゃ~ん」

「もう何年姉妹やってると思ってんのよ~……そっちで待っててー?」


「は~~~い」


キッチンへ向かった綾乃を見送った紗良はわざとらしく肩をすくめた。


「ふふっ♡ バレてませんね?」

「っ……♡」


反射的に一歩後ろへ下がってしまう。

クローゼットを出た後も、俺の身体にはまだ紗良の匂いと温度がこびりついているみたいだった。

汗ばんだ太ももの感触。

唇の柔らかさと、うねる舌。

耳元で囁かれた紗良の声と豊満な肢体。

どれもこれも、さっきまでの出来事が脳裏に焼き付いて離れない。


リビングのソファに腰を下ろすと、キッチンから戻ってきた綾乃がコーヒーを置いてくれた。


「はい、悠真さん。お疲れさま」

「……ありがとう」


カップを受け取る手がわずかに震える。


「本当に大丈夫? 顔、少し赤いけど」

「だ、大丈夫……。たぶん、クローゼットの中がちょっと暑かっただけで……」


「そう? 無理しないでね」


綾乃は眉を下げて、心配そうに俺を見る。

その視線が優しければ優しいほど、胸の奥が締めつけられた。


向かいの席で、紗良が何食わぬ顔でストローを咥えている。

唇が軽くすぼまり、細いストローを挟む。


その唇を見た瞬間、クローゼットの暗闇が蘇った。


俺の声を塞ぎ、射精の瞬間さえも吸い付いていた、あの唇。


「……」


慌てて視線を逸らす。


だが紗良は見逃さなかった。

ストローから口を離し、にこっと笑う。


「お義兄さん」

「……な、なに」


「さっきはほんと、ありがとうね~?」

「あ、あぁ」


「また困ったら、お願いしてもいいですか?」


綾乃がふふっと笑った。


「悠真さん、頼りになるものね。やっぱり男の人だもんね」

「……」


紗良も同じように笑う。


「うん。すっごく頼りになるんだよね~」


笑い合う姉妹。

紗良の笑顔は、無邪気で、明るくて、甘え上手な妹そのものの顔。

だが綾乃がキッチンの方へ目を向けたその瞬間、紗良の視線がこちらへと向く。


声は出していない。


ただ、唇だけがゆっくり動く。


──また、お世話してあげますね?


当然言葉は発していない。

だが、確かに紗良の唇はそう告げていたのだ。

その動作だけで俺の身体は熱を帯びる。


コーヒーの香りに混じって、まだ鼻の奥に残った甘い紗良の匂いを、俺はどうしても忘れられずにいた──。


………

……

…


<続く>


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