【50.0kg→112.5kg】覆面レビュアーM・A・Yの暴食記録 (Pixiv Fanbox)
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星型のヘアピンで左右に留められた、赤みがかった美しいロングヘア。頭頂部で特徴的に跳ねたアホ毛を揺らしながら、彼女は背筋をピンと伸ばして歩いていた。誰に対しても「です」「ます」調の丁寧な言葉遣いを崩さず、生真面目で礼儀正しい女子高生、中野五月。彼女は個性豊かな五つ子姉妹の末っ子であり、その整った目鼻立ちと清楚な佇まいは、すれ違う人が思わず振り返るほどの魅力を持っていた。
制服の着こなしも規則通りで、プリーツスカートの下から伸びる脚はスラリとしており、ウエストは引き締まっている。しかし、その細身な身体つきに反して胸元は豊かに発育しており、ブラウスの生地をふわりと持ち上げるFカップの膨らみは、彼女の健康的なプロポーションを静かに物語っていた。
そんな真面目な優等生タイプの五月には、家族である姉妹たちにすら秘密にしている、ある「裏の顔」があった。
それは、覆面グルメレビュアー「M・A・Y」としての活動である。
もともと、五月は異常なまでに食べることが大好きだった。姉妹の中で最も食いしん坊であり、学食では定食にうどんを追加するのが日常茶飯事。しかし、ただ大食いなだけではなく、美味しいものを味わい、その魅力を言語化することにも長けていた。彼女はお小遣いをやりくりしては隠れた名店や新作スイーツを巡り、その感動を忘れないための備忘録として、匿名SNSアカウント「M・A・Y」を開設したのだ。
最初はフォロワーも二桁に満たず、彼女自身も「自分だけの秘密のグルメ日記」として楽しんでいた。顔出しはもちろんせず、料理の美しい写真とともに、彼女特有の丁寧で熱量のある文章を添えるだけの、ささやかな趣味のつもりだった。
しかし、運命は唐突に変わる。
ある休日の昼下がり、五月が何気なく投稿した『路地裏で見つけた、とろける絶品オムライスと特大エビフライの饗宴』というレビューが、数百万人ものフォロワーを抱える有名グルメインフルエンサーの目に留まり、「このレビュアーの表現力、本物だ。写真からも異常な食への愛が伝わってくる」と引用リツイートされたのだ。
その瞬間から、五月のスマートフォンはかつてないほどの熱を帯びた。
ブブブブッ、ブブブブブッ! と、通知のバイブレーションが鳴り止まない。画面を開けば、滝のように流れてくる「いいね」と「リツイート」の嵐。たった数時間でフォロワー数は数万人にまで膨れ上がり、コメント欄には熱狂的な声が殺到していた。
『M・A・Yさんの文章読んでたら、お腹鳴りまくりです!』
『食べっぷりの良さが文字から溢れてる! 次はどこのお店に行くんですか!?』
『もっとたくさんの美味しいものを紹介してください! 更新待ってます!』
画面越しに向けられる、見知らぬ数万人の読者からの熱烈な期待の声。それらを目にした五月の胸の奥で、嬉しさと同時に、彼女の持ち前である「生真面目さ」と「単なる巨大な食欲」が、かつてない規模で化学反応を起こしてしまった。
「こ、こんなにたくさんの方々が……私のささやかなレビューを、心待ちにしてくださっているなんて……っ」
五月はスマートフォンを両手でギュッと握りしめ、ゴクリと唾を飲み込んだ。
私は選ばれたのだ。この素晴らしい食の世界を、まだ見ぬ美味しい料理たちを、迷える大衆に導く伝道師として。
いや、単純に「もっと堂々とたくさん食べ歩くための大義名分」を見つけてしまっただけなのだが、五月本人は至って真剣そのものだった。
「読者の皆様の期待を、決して裏切るわけにはいきません……! ええ、これもレビュアーとしての使命。今日から私は、胃袋の限界を超えてグルメの海へダイブします!」
その日を境に、五月の中の「タガ」が完全に外れ落ちた。
これまでは月に数回、お小遣いの範囲内で楽しんでいた食べ歩きが、瞬く間にエスカレートしていく。「読者のため」という免罪符を手に入れた彼女は、休日になれば1日に何軒もレストランやカフェ、ラーメン店からスイーツバイキングまでをハシゴするようになった。
「読者の皆様に正確な情報をお届けするためには、やはり一番ボリュームのあるメニューを頼まなくては……! すみません、この『メガ盛り肉汁ハンバーグタワー』と、食後に『特大パンケーキ』をお願いします!」
写真を撮り終えれば、あとは至福の時間である。「残すなんて言語道断です!」と、通常の成人男性でも苦しいような大盛りメニューを、幸せそうな笑顔でペロリと平らげていく。毎月のお小遣いだけでは当然足りず、お年玉の貯金にまで手を出し始め、彼女のエンゲル係数は天文学的な数値へと跳ね上がっていった。
彼女の旺盛な食欲は、レビュアーとしての使命感というガソリンを注がれ、大炎上を始めていた。
連日のように摂取される莫大なカロリー。それは確実に、彼女の身体の中で行き場を失い、分厚い脂肪へと変換される準備を整えている。しかし、食の喜びに完全に支配された五月は、自分に忍び寄る「限界突破」の足音に、まだ全く気づいていなかった。
身長:159.0cm / 体重:50.0kg(前月比 ±0.0kg)
BMI:19.8(普通体重)
B:88 (Fカップ) / W:60 / H:84
覆面グルメレビュアー「M・A・Y」としての使命感に目覚め、怒涛の食べ歩きを開始してから、早くも一ヶ月の月日が流れていた。
「んんっ……! この『メガ盛り濃厚チーズとろけるミートソースパスタ』、まさに絶品です! 粗挽き肉の強烈な旨味と、滝のようにたっぷりとかけられたチーズの塩気が、口の中で完璧なハーモニーを奏でています……っ! フォークを持つ手が全く止まりません!」
放課後、新しくオープンしたばかりで話題となっていたイタリアンレストラン。店の奥のテーブル席で、五月の目の前には洗面器のような大きさの深皿が鎮座していた。すでに通常の3人前はあるパスタの山は半分以上崩されており、さらにその脇には、あくまで「サイドメニュー」として頼んだはずのLサイズのピザが2枚、こんがりと焼けたチーズの香りを漂わせながら出番を待っている。
五月はフォークに山盛りのパスタをくるくると巻きつけると、大きく口を開けて次々と胃袋へと吸い込んでいった。口の周りに濃厚なトマトソースをつけて、幸せそうに目を細めながら咀嚼する。以前はシュッとしていた彼女の顎のラインは、ひたすらに食べ続けたこの一ヶ月間で明らかにもたつくように揺れるようになっていた。顔周りにはたっぷりと余分な肉がつき始め、うつむいてパスタを頬張るたびに、うっすらと二重あごの兆候が顔を覗かせている。
変化は顔だけではない。連日摂取される数千キロカロリーという莫大なエネルギーは、全体的に満遍なく育ち始めた脂肪となり、特に彼女のお腹周りや胸元に集中して蓄積されつつあった。
椅子に座って前傾姿勢になっていると、プリーツスカートのウエスト部分には、ぽってりとした柔らかいお腹の肉がたっぷりと乗り上げている。制服のブラウスは内側から強烈に押し上げられるようにパンパンに張り詰め、ただでさえ豊かだったバストはGカップへと明らかな成長を遂げていた。ボタンとボタンの隙間からはち切れんばかりの膨らみが覗き、今にも下着が見えてしまいそうなほどパツパツになっている。テーブルの下では、かつては隙間のあった太もも同士が、むっちりと重たげに密着し合い、スカートのプリーツは完全に伸び切ってしまっていた。
「ふぅ……ごちそうさまでした。読者の皆様のために、今日も素晴らしいレビューが書けそうです。このお店のメニューは、どれもこれも素晴らしいボリュームでしたね」
最後の一切れのピザを飲み込み、食後の水を飲み干した五月。完全に満たされた胃袋の重みを感じながら、満足げにぽっこりと膨らんだお腹をさする。そして、カバンを持ってレジへ向かおうと、よいしょ、と腰を浮かせた、まさにその瞬間だった。
『プチィッ!!』
賑わう店内に、鋭く乾いた金属音が響いた。
五月が何事かと視線を落とすと、大きく息を吸い込んだことではち切れんばかりに膨らんだ彼女のウエストに耐えきれず、スカートの留め具である金属のホックが無惨にも弾け飛び、床を転がっていたのだ。さらに、ストッパーを失ったサイドのファスナーが、腹肉の圧力に負けてズルズルと下へ滑り落ちていく。
幸い、秋口で上に羽織っていたカーディガンが長めだったおかげで、周囲に下着を晒すという最悪の事態は免れた。しかし、ホックを失ったスカートは、ぽっこりと前に突き出た彼女のお腹の膨らみだけで辛うじて引っかかっている状態だった。
「ひっ……!? そ、そんな……私のスカートが、弾け飛ぶなんて……っ」
顔を真っ赤にしてお腹を両手で強く押さえながら、五月は自分が「少しぽっちゃりした」というレベルを通り越し、完全に太ってしまったという残酷な現実を、ついに突きつけられたのだった。
これはいけません、早急に手を打たなければ、と強い危機感を抱いた五月は、翌朝の休日、早起きをして近所の公園へランニングに出かけることにした。
クローゼットの奥から引っ張り出したスポーツ用のジャージは、腕や脚を通すのも一苦労なほど窮屈になっていた。なんとか着込んでも、ジッパーを上まで上げると胸とお腹の丸っこいシルエットがくっきりと浮かび上がってしまう。それでも彼女は「健康的な汗を流して燃焼させれば、すぐに元通りです!」と自分を奮い立たせ、意気揚々と駆け出した。
しかし、その決意はわずか3分でへし折られることとなる。
ドスッ、ドスッ、と重たい足音がアスファルトに響くたび、身体についた分厚い脂肪がブルンブルンと上下に揺れ、体力を容赦なく削っていく。プラス15キロという重りを背負って走っているようなものだ。重みを増した胸とお腹が揺れる不快感、太ももの内側が擦れ合う痛み、そしてかつてないほどの息苦しさに襲われ、五月は公園の入り口にあるベンチに雪崩れ込むように倒れ込んでしまった。
「ゼェッ……ハァッ……ハァッ……っ。こ、こんなに身体が重いなんて……っ。足が、鉛のようです……」
滝のように流れる汗を拭う余裕すらなく、肩を大きく上下させて息をする五月。少し走っただけで足の筋肉は悲鳴を上げ、心臓は口から飛び出しそうなほど早鐘を打っている。「今日は……ランニング初日ですし、急激な運動は身体に毒です。このくらいで勘弁しておいてあげましょう……」と、都合の良い言い訳を並べて早々に運動を切り上げた。あろうことか彼女は、消費したわずかなカロリーを即座に補填するかのように、帰り道にある自動販売機で甘いメロンソーダを購入し、「疲労回復には糖分が必須ですから」と一気飲みして帰宅するのだった。
その日の午後。壊れてしまった制服のスカートの代わりや、普段着を求めて、五月は姉妹の一人を連れ立って大型ショッピングモールへと足を運んでいた。
これまで迷わず通っていたMサイズのラックを素通りし、周囲の目を気にしながら、そそくさとLサイズのコーナーでスカートを物色する五月。そんな彼女の丸みを帯びた背中に、呆れたような声が投げかけられた。
「ちょっと、なんでLサイズのラック見てるのよ。アンタいつもMサイズでしょ」
「……少し、ゆったりとした着心地を求めているだけです。最近はオーバーサイズが流行っていると聞きましたから」
「流行りって……。あのさ、単に太っただけじゃないの? 最近、顔も真ん丸だし」
「ふ、太ってなどいません! これは成長期による、一時的な栄養の蓄積です!」
「成長期って歳でもないでしょ。だいたい、そのお腹! カーディガンの下、パンパンに張ってるじゃない。下着の線まで浮いてるわよ」
「気のせいです! 洗濯で服が縮んでしまっただけですよ! 断じて私の身体が大きくなったわけでは……!」
「うちの洗濯機は乾燥機付きじゃないわよ。昨日も夜中に、冷蔵庫にあった私のケーキ勝手に食べてたわよね?」
「あ、あれは……勉強で疲れた脳への、正当なエネルギー補給です! 決して食欲に負けたわけでは……!」
「はいはい、言い訳はいいから。ほら、そのLサイズのスカート、試着室で穿いてみなさいよ。現実を見せてあげるわ」
「言われなくても穿きます! ……あっ、あれ……? おかしいですね、太ももでつっかえて……チャックが、途中から上に……」
「ちょっと、嘘でしょ!? Lサイズでもキツいの!? アンタ、一体何キロ太ったのよ!」
「うぅ……っ。これは、このお店のサイズ表記が絶対に間違っているに違いありません……! 私は断じて太ってなど……!」
「現実を見なさいよ、この食いしん坊! ……はぁ、あっちのコーナーにXLサイズあるから、そっち行くわよ」
「えええっ!? そ、そんな屈辱的な……! でも、お腹が苦しいのは事実ですし……うぅ、背に腹は代えられません……」
結局、Lサイズすらも彼女の豊かに育ち始めたお腹とお尻を受け入れることはできず、ファスナーは半分までしか上がらなかった。五月は顔から火が出るほど恥ずかしい思いをしながら、XLサイズのゆったりとしたゴムスカートを購入することになった。
しかし、屈辱を味わったはずの彼女の頭の片隅には「ウエストがゴムになったことで、これでまたお腹を気にせず、美味しいものがたくさん食べられますね……」という、恐ろしい悪魔の囁きが確かにこだましていたのだった。
身長:159.0cm / 体重:65.0kg(前月比 +15.0kg)
BMI:25.7(肥満度1)
B:96 (Gカップ) / W:75 / H:95
XLサイズのゴムスカートを手に入れ、「ウエストの圧迫による苦しさ」という唯一にして最大の物理的ストッパーを完全に失ってしまった五月の食欲は、もはや誰にも止められない未知の領域へと突入していた。
季節が巡り、制服が夏服から冬服へと変わる頃には、彼女の体型変化は「ぽっちゃりした」という生易しい表現では到底収まりきらず、誰の目にも明らかなほど強烈な質量を伴うものとなっていた。
「はふっ、はむっ……! んんん〜っ! この『特盛タワーカツ丼』……分厚くカットされたロース肉にサクサクの衣、そこにたっぷり染み込んだ甘辛い特製ダレの香ばしさがたまりません! 噛み締めるたびに溢れ出すジューシーな脂が、炊き立てのご飯と完璧なマリアージュを果たしています……っ!」
休日の昼下がり、学生街から少し外れた路地裏にある大衆定食屋。五月の目の前には、もはや「丼」というより「すり鉢」と呼ぶべき巨大な器がデーンと鎮座していた。大判のトンカツが三重に積み重なり、その隙間を埋めるように大量の卵と玉ねぎが敷き詰められた、総重量二キロ超えのチャレンジメニューである。
彼女は額にうっすらと汗を浮かべながら、周囲の目も気にせず無心でカツとご飯をかき込んでいた。口を限界まで大きく開けて頬張り、幸せそうに咀嚼するたびに、かつての清楚な面影をすっかり失ってしまった真ん丸な顔がプルプルと揺れる。顔周りから首にかけてはたっぷりと分厚い脂肪がつき、うつむいて食べる彼女の顎下には、立派な二重あご、いや、もはや三重あごがタプタプと波打っていた。
彼女の身体は、この数ヶ月の暴食の連続によって、恐ろしいほどの体積と重量を獲得していた。
かつてのほっそりとしていた腕は、たっぷりと蓄えられた皮下脂肪により丸太のように太く、たくましくなっている。冬服の指定ジャケットは、巨大化したバストとお腹の肉によって完全に許容量を超えており、前を閉めることなどとうの昔に不可能になっていた。前を開け放した状態でも、中に着込んだブラウスは内側から強烈な圧力で引き伸ばされ、ボタンの穴が引き攣れて悲鳴を上げている。ボタンとボタンの隙間からは、はち切れんばかりにパツパツに張った、真っ白で巨大なお腹の肉が今にも飛び出しそうに自己主張をしていた。ただでさえ大きかった胸はHカップにまで膨張し、スイカのように丸くせり出した太鼓腹の上に、どっしりと重たげに乗っかっている。
テーブルの下では、摩擦でプリーツの折り目が完全に消失したスカートの中で、丸々と太った巨大な太もも同士がむっちりと密着し、少し体勢を変えるたびにギュムッ、ギュムッ……と重たげな音を立てていた。
「ふぅ……っ、ごちそうさまでした。この圧倒的なボリューム感と暴力的なまでの旨味、読者の皆様にもぜひ味わっていただきたいですね。素晴らしいレビューが書けそうです」
米一粒、タレ一滴すら残さず巨大なすり鉢を完全に空にした五月は、大きく息を吐き出して、極限まで膨れ上がったお腹を両手でポンポンと満足げに叩いた。そして、カバンを持って席を立ち上がろうと、足に力を込めた、その時である。
「……あれっ? んん……っ?」
五月は立ち上がることができなかった。正確には、身体がテーブルから離れなかったのだ。
この定食屋の席は、ファミレスによくあるような、テーブルと長椅子が床にボルトで固定されているタイプだった。五月が二キロ以上のカツ丼を平らげ、ただでさえ巨大なお腹が胃袋の膨張によってさらに前方へとせり出した結果、彼女の巨大化したお腹と腰回りの分厚い脂肪が、テーブルの縁と背もたれの間にガッチリと挟まり、完全に楔を打たれたようにロックされてしまったのである。
「う、嘘でしょう……!? ぬ、抜けませんっ……! んんんっ! ふんっ!」
顔を真っ赤にしてお腹を引っ込めようと息を吸い込むが、たっぷりと蓄えられた強固な脂肪の鎧は全く凹まない。左右に身体をよじって抜け出そうとしても、むっちりとした柔らかい肉がテーブルの角にムギュッと押し潰されるだけで、一向に脱出できる気配がなかった。
「す、すみません……どなたか……っ」
結局、五月の異変に気づいた店員二人がかりで両腕を力いっぱい引っ張ってもらい、「スポーンッ!」というコルク栓を抜くような情けない音とともに、ようやく座席から引き抜かれたのだった。店中の客からの好奇の目とヒソヒソ声を一身に浴び、五月は顔から火が出るほどの強烈な恥ずかしさと屈辱を味わいながら店を逃げ出した。
「こ、こんなのあんまりです……! いくらなんでも、少しばかりお腹が出過ぎてしまったのかもしれません……! 読者の皆様のためとはいえ、これでは日常生活に支障をきたしてしまいます!」
自分が物理的に「一般的な座席の隙間に挟まる」ほどの巨体になってしまった事実に打ちのめされた五月は、その日の夜、自室の絨毯の上にヨガマットを敷き、ダイエットのための運動を始めることにした。
スマートフォンで初心者向けのヨガ動画を再生し、まずは基本中の基本である長座体前屈のポーズから始めようと、床に座って大きく息を吸い込む。しかし、両手を伸ばして前に向かって身体を倒そうとした瞬間、巨大なバランスボールのようなお腹がドンッ、と太ももにぶつかり、そこから一ミリも前に曲がらなくなってしまったのだ。
「うぐぐぐっ……! て、手が……足の指先にすら、全く届きません……っ!」
無理に身体を曲げようと腕に力を込めると、今度は分厚い腹肉が胸と肺を猛烈に圧迫し、呼吸ができなくなってしまった。「げふっ! ぐぇっ……!」とカエルのような苦しげな声を漏らした五月は、あまりの苦しさにバランスを崩し、仰向けにゴロンと亀のようにひっくり返ってしまった。
「ゼェ、ゼェ……っ。こ、こんな息ができなくなるような苦しい運動、身体に良いわけがありません……。急な運動は怪我のもとです。今日はストレッチを試みたということで、よしとしましょう……」
開始わずか数分で己の脂肪という物理障壁に完全敗北した彼女は、そのまま床をゴロゴロと転がり、起き上がるのも面倒になって這うようにして冷蔵庫へ向かうと、ファミリーサイズのアイスクリームを抱えて自室へと戻っていくのだった。
それから数日後の休日。五月は一人で電車を乗り継ぎ、少し遠くの駅にある「大きなサイズ専門店」へと足を運んでいた。
もはや近所のショッピングモールにあるような一般向け店舗のXLサイズすら、彼女の巨大なお尻と太ももを通過できなくなってしまったのだ。現在の彼女が真剣な顔つきで物色しているのは「3L〜4L」、あるいはそれ以上のサイズが並ぶコーナーである。
「……やはり、このウエストが完全にゴム仕様になっている、Aラインのワンピースが一番安心ですね。生地もストレッチが効いていてよく伸びますし、これならどんなにお腹が膨れても窮屈な思いをせずに済みます」
鏡の前で、まるでテントのように巨大な布地のワンピースを身体に当ててみる。寸胴どころか、完全に丸みを帯びた球体のようなシルエットになるのは明らかだったが、今の彼女にとっては「いかに苦しくなく、たくさんの量を食べられるか」が最優先事項となっていた。五月はホクホク顔で、ゆったりとしたマタニティ用にも見える服を数着買い込み、「良い買い物をした自分へのご褒美です」と、帰りに駅前のクレープ屋で生クリームたっぷりのクレープを三つ平らげて家路についた。
そんな生活を続けていれば、当然、周囲の人間も黙ってはいない。
ある日の放課後。リビングのテーブルで参考書を開きながら、おやつ代わりに買ってきた特大サイズのポテトチップスを無心で頬張っていた五月の正面に座り、呆れ果てたような、そして少し引いているような声が降ってきた。
「お前……なんだその腹は。また一回り、いや二回りデカくなってないか?」
「失礼な人ですね! レディーに向かってデカいとは何事ですか! 乙女心への配慮というものが決定的に欠如しています!」
「いや、配慮以前にどう見てもデカいだろ。顔もまん丸でアンパンみたいだし、だいたい冬服のジャケット、前が全く閉まってないじゃないか」
「は、弾け飛んだりするのを未然に防ぐための、高度な着こなしです! これは……その、あえて前を開けるオープンなスタイルが流行っているんです!」
「オープンなスタイルって……ブラウスのボタン、今にも千切れ飛んで俺の顔面に直撃しそうなんだけど。隙間から腹の肉が見えてるぞ」
「見えてません! これはインナーの白色が錯覚を起こしているだけです!」
「錯覚でそんな物理的な膨らみが出るかよ。さっきからお前が少し動くたびに、床板がミシミシ悲鳴を上げてるんだが」
「気のせいです! このマンションの老朽化が進んでいるだけです! 決して私の質量のせいではありません!」
「お前、最近毎日何食ってるんだ。その試食とやらの量が異常なんじゃないのか?」
「ふ、ふつうの食事です! あとは、少しばかりのレビュー用の試食を重ねているだけで……読者の皆様への責任感の表れです!」
「責任感で物理的に巨大化してどうするんだよ。だいたい、その下向いたら出現する二重あご……いや、もはや首が完全に埋もれてるじゃないか」
「二重あごじゃありません! 福毛……いえ、福相です! 縁起が良いんですよ!」
「お前なぁ……。家庭教師として言うが、健康管理も受験生の大事な仕事だぞ。そのまま脂肪で首が絞まったら頭に血が回らなくなるぞ」
「わ、分かっています! 明日から本気を出してダイエットしますから! 昨日の夜もヨガをやったんですからね!」
「そのセリフ、先月も聞いた気がするんだがな……。だいたい、その左手にある特大サイズのポテトチップスはなんなんだ」
「こ、これは……勉強で疲労した脳の働きを活性化させるための、必要な塩分および糖質補給です!」
「もういい。とりあえず、その脂ぎった手をウェットティッシュで拭いてからシャープペンを持て。テキストが油まみれになる」
身長:159.0cm / 体重:82.0kg(前月比 +17.0kg)
BMI:32.4(肥満度2)
B:105 (Hカップ) / W:92 / H:110
「明日から本気を出してダイエットする」という家庭教師への宣言から、さらに数ヶ月の月日が流れた。
一切のストッパーを失い、欲望の赴くままに暴食を繰り返した五月の身体は、もはや「ぽっちゃり」や「大柄」といった生易しい言葉では到底表現しきれない、未曾有の領域へと足を踏み入れていた。
「ジュウゥゥゥ……ッ! ああ、この網の上で霜降り肉が焼ける魅惑的な音……! 滴り落ちる脂が炭火を焦がす香ばしい匂い……! 読者の皆様に、この香りを直接お届けできないのが本当にもどかしいです!」
休日の夕方、市内でも有名な焼肉の食べ放題専門店。四人掛けの広々としたテーブル席を一人で占拠した五月の目の前には、五人前はあろうかという大量の肉が盛られた皿が、まるでジェンガの塔のように高く積み上げられていた。
彼女はトングを器用に操り、焼けた端から次々と網の上の肉をさらい、特製の濃厚ダレにたっぷりと潜らせてから、大盛りの白米と一緒にブラックホールのような胃袋へと吸い込んでいく。
その体型変化は、誰の目から見ても異常事態だった。
全体的に満遍なく巨大な脂肪の鎧を纏った彼女の身体は、完全に丸みを帯びた球体のようなシルエットを形成している。かつて清楚だった顔立ちは、パンパンに膨れ上がった頬の肉によって完全に丸いお餅のようになり、目鼻立ちが脂肪に埋もれかけていた。首と顎の境界線は完全に消失し、顎下には分厚いタプタプの三重あごが形成され、下を向くたびに首元が苦しそうに圧迫されている。
特筆すべきは、その圧倒的な質量を誇る胴回りである。巨大化を極めたバストはもはやJカップに達し、同じくはち切れんばかりに膨れ上がった巨大な太鼓腹の上に、どっしりと重たげに乗っかっている。椅子に座った状態では、スイカのように丸く突き出たお腹の肉が太ももの上に完全に乗り上げ、まるで巨大な雪ダルマのような有様だった。
「んんっ……! カルビの脂の甘みと、タレの塩気が最高です……! すみません、追加で特上ロースを三人前と、石焼ビビンバをお願いします!」
追加注文の声を上げ、再び肉に手を伸ばそうと上体を前のめりにした、まさにその時だった。
『ミシッ……ミシ、ミシミシッ……』
彼女が座っていた木製の椅子から、嫌な音が鳴り始めた。
もともとこの椅子は、一般的な体型の客が座ることを想定して作られたものである。しかし現在、その上には百キロを優に超える巨大な質量の塊が乗っているのだ。五月が肉を取ろうと身体を揺らすたび、椅子の四本の脚が悲鳴を上げ、結合部が限界を訴えていた。
「ん? 何か音が……」
五月が不思議そうにお尻をモゾモゾと動かした、次の瞬間。
『バキィィィィィッ!!』
凄まじい破砕音と共に、椅子の脚が四本同時にへし折れた。
「ひゃああっ!?」という間抜けな悲鳴を上げながら、五月の巨体は宙を舞い、ドスーン!! という地響きを伴って床に叩きつけられた。周囲の客たちが何事かと一斉に振り返る。
幸いなことに、彼女の身体には数十キロという分厚い脂肪の天然クッションが備わっていたため、床に打ち付けられたお尻や腰に痛みは全くなかった。しかし、大勢の客の面前で「体重で椅子を粉砕した」という事実は、彼女の自尊心をズタズタに引き裂くには十分すぎる破壊力を持っていた。
「こ、これは……椅子の老朽化です! 決して私が重すぎるわけでは……っ!」
顔から火が出るほどの強烈な恥ずかしさに襲われた五月は、店員に平謝りしながら逃げるように店を後にした。
さすがに物理的に家具を破壊してしまった事実に強い危機感を覚えた五月は、その日の夜、ついに重い腰を上げてテレビゲームのフィットネスソフトを起動した。
「外出して運動するのは人目が気になりますが、室内でのゲームなら誰にも見られず、楽しく汗を流せるはずです!」
意気揚々とリモコンを両手に握り、テレビ画面の指示に従ってその場でジョギングの動作を開始する五月。
しかし、現実はあまりにも残酷だった。
ドスッ、ドスッ、と彼女が足踏みをするたびに、全身を覆う分厚い脂肪がブルンブルン、バインバインと激しく波打ち、己の質量が容赦なく体力を奪っていく。巨大な胸とお腹が上下に揺さぶられる不快感と、全身の関節にかかる異常な負荷。ものの三十秒で息が上がり始め、一分後には滝のような汗が全身から噴き出した。
「ゼェッ……ハァッ……ハァッ……! くる、し……っ!」
画面の中のインストラクターは「その調子です!」と爽やかに励ましてくるが、五月の心臓は破裂しそうなほど早鐘を打ち、視界がチカチカと点滅し始めていた。結局、開始からわずか三分で足がもつれ、五月は絨毯の上にドスーンと倒れ伏してしまった。
「ハァッ、ハァッ……。こ、こんな過酷な運動……今の私の関節には、負担が大きすぎます……。まずは少し休んでからにしましょう……」
そう自分に言い訳をして、彼女はすぐにゲーム機の電源を落とし、失われたエネルギーを補填するために冷蔵庫からプリンを取り出して頬張るのだった。
外出して歩き回るだけで息切れし、店舗での試着も不可能になってしまった彼女は、ついに一般の洋服店へ行くことすら諦めた。
自室のベッドの上で仰向けになり(お腹の肉が重すぎてうつ伏せにはなれないのだ)、巨大な丸太のような腕でスマートフォンを操作し、海外のプラスサイズ専門の通販サイトをスクロールする。
「……やはり、この4XLサイズのチュニックが一番良さそうですね。ウエストという概念がありませんし、これならどんなに食べても布地が張ることはありません。お腹周りをすっぽりと隠してくれるデザインも素晴らしいです」
もはや彼女の服選びの基準は「いかにお腹を締め付けず、楽に着られるか」の一点のみとなっていた。五月は迷うことなく、テントのような巨大な布地の服を大量にカートに入れ、購入ボタンを押した。
数日後。リビングのソファに深く沈み込むように座り、通販で届いたばかりの巨大なチュニックを着てポテトチップスを頬張っていた五月の元へ、姉妹の一人が心配そうな顔をして近づいてきた。
「五月……あのさ、これ、低カロリーのコンニャクゼリーなんだけど。食べる?」
「ありがとうございます! ちょうど小腹が空いていたところなんです。勉強には糖分が必要不可欠ですからね」
「小腹って……五月、さっきお昼ごはんに特大のお弁当3つも食べてなかった?」
「あれは昼食です。これはおやつですから、いわゆる別腹というものです。それにゼリーは飲み物と同義です」
「う、うん……。でも、最近本当に苦しそうに歩いてるし、少し心配で……」
「大丈夫です! 私は至って健康そのものですから!」
「でも、階段を上るだけで息切れしてるし……その、お腹も……すごく大きくなってるよ」
「ふふっ。これはM・A・Yとしての名誉の負傷ならぬ、名誉の脂肪です! 読者の皆様に正確な情報をお届けし続けた、努力の結晶なのです」
「名誉って……服もなんだかすごく大きいし、動くのが辛そうに見えるんだけど」
「それはこの服のデザインです! ゆったりとしたオーバーサイズなシルエットが今のトレンドなんですよ!」
「トレンドってレベルじゃないよ……。せめて、夜中にお菓子を食べるのだけは控えたほうがいいと思うな」
「それは無理な相談です! 夜中の静寂の中でしか湧いてこない、食レポのインスピレーションというものがあるのですから!」
「そ、そっか……。五月が幸せなら、いいんだけど……」
「ええ、私は今、最高に幸せです!」
満面の笑みでコンニャクゼリーをひと飲みで平らげた五月は、再びポテトチップスの袋へと太い指を突っ込んだ。彼女の思考は完全に「食」に支配され、自分の身体が取り返しのつかない所まで来ているという事実から、完全に目を背けていたのだった。
身長:159.0cm / 体重:105.0kg(前月比 +23.0kg)
BMI:41.5(高度肥満)
B:120 (Jカップ) / W:115 / H:128
体重計の針がついに恐るべき三桁の壁を突破してから、さらに季節が一つ巡った。
かつては誰の目から見ても真面目で清楚な優等生であったはずの中野五月の姿は、今や見る影もなく消失し、彼女の身体は「人間」という枠組みの限界すらも軽々と突破しようとしていた。
「ふふふ……ピザに、お寿司に、特大ハンバーガー……! 和洋折衷、デリバリーのフルコース大狂宴です! 読者の皆様、今日のM・A・Yは限界のその先、未知なるグルメの境地をお見せしますよ!」
休日の昼下がり。自室の床に敷かれた分厚いラグの上にドスーンと座り込み……というより、巨大な肉の塊が重力に引かれて床に沈み込んでいる状態で、五月は歓喜の声を上げていた。
彼女の周囲には、三つの配達業者から時間差で届いた大量の出前容器が、さながら城壁のようにうず高く積まれている。Lサイズの特製ミックスピザが三枚、大トロやウニが輝く特上寿司の大きな桶が二つ、そしてパティが四枚重なった特大チーズバーガーとLサイズポテトのセットが五人前。成人男性の数日分、いや一週間分に相当するであろう莫大なカロリーが、彼女の手によって今まさに蹂躙されようとしていた。
五月は両手にピザとハンバーガーを同時に持ち、交互にブラックホールのような胃袋へと吸い込んでいく。
「んんんっ! とろけるチーズとサラミの塩気がたまりません! そこへすかさず、肉汁溢れるビーフパティを……っ! はふっ、むぐっ……!」
口の周りを油とソースでベタベタにしながら、合間に箸休めとしてお寿司を放り込み、二リットルの甘い炭酸飲料で一気に流し込む。その姿は、もはや食事というより「巨大な吸引機によるダイソンのような吸い込み」と呼ぶにふさわしかった。
現在の彼女の身体は、まるで巨大なバランスボール、あるいは神話に登場する肉の魔物のような球体と化していた。
限界まで膨張を続けたバストは、ついにKカップという一般の衣服では絶対に収まらない規格外のサイズに到達。それが、スイカ……いや、もはや巨大な岩石のように前方へせり出した超弩級の太鼓腹の上に、完全にどっしりと乗り上げてしまっている。
顔は限界まで空気を入れた風船のようにパンパンに膨らみ、かつての整った目鼻立ちは分厚く硬い皮下脂肪に完全に埋もれてしまい、常に目を細めているようにしか見えない。首というパーツは完全に消失し、丸みを帯びた肩から直接、真ん丸な頭部が生えているような異様なシルエットになっていた。顎下には何重にも折り重なった巨大な脂肪のタプタプとした塊が垂れ下がり、鎖骨のあった場所を完全に覆い隠している。
動くたびに、全身を覆う分厚い脂肪の鎧がブルン、バインと重たげに波打ち、手元のポテトを取るために短い腕を伸ばすだけでも「ゼェ、ハァ」と荒い息を漏らしているありさまだった。
「ふぅ……。さすがお腹がいっぱいになってきましたね。まだハンバーガーが二つ残っていますが、少し休憩して、お手洗いに行ってきましょう」
全てのピザと寿司を平らげた五月は、よいしょ、と壁に手をついてどうにか立ち上がった。そして、ドスッ、ドスッ、と床板をミシミシと悲鳴させながら、短い足を引きずるようにして部屋のドアへと向かう。
しかし、ここで彼女は自らの凄まじい巨体が引き起こした、絶望的な悲劇に直面することになる。
『ギュムッ……! ギシッ……!』
「……えっ?」
部屋から廊下へ出ようと一歩を踏み出した瞬間、ドアの枠に巨大なお腹と、尋常ではなく横に張り出した腰回りの肉がガッチリと引っかかり、突如として前へ進めなくなってしまったのだ。
一般的な住宅のドア幅に対して、彼女の圧倒的な横幅と厚みが完全につっかえてしまっているのである。
「う、嘘でしょう……!? ど、ドアを通れないなんて、そんな馬鹿なことが……っ!」
焦った五月は無理やり身体を前へ押し込もうとするが、両脇の木製のドア枠に分厚い脂肪がムギュウゥゥッと押し潰されるだけで、一向に通り抜けることができない。
「んんんっ! ぬ、抜けません……っ! 前にも、後ろにも……!」
顔を真っ赤にしてしばらくもがいていたが、ついに諦めて大きく息を吐き出すと、彼女は一度部屋の中へズボッと身体を引き抜いた。そして、身体を横に向け、巨大な太鼓腹を両手でギュッと内側へ押し潰しながら、カニ歩きでジリジリとドア枠の隙間をすり抜けるという、あまりにも信じられない屈辱的な事態に陥っていた。
顔から火が出るほどの強烈な恥ずかしさと、自分の部屋を出るだけで一苦労という残酷な現実に、五月は愕然とした。
「こ、これはマズイです……。いくらなんでも、少しばかり成長しすぎました……。早急に運動を取り入れなければ、本当に部屋から一歩も出られなくなってしまいます!」
強い危機感を覚えた五月は、用を済ませて部屋に戻る(もちろん帰りもカニ歩きである)と、すぐにベッドの上に仰向けに倒れ込んだ。もはや立って運動することすら、数十キロの重圧によって膝関節が砕けそうになるため不可能なのだ。
彼女は横になったまま、丸太のように太く短い手足をバタバタと空中で動かす「ベッド上水泳」なる独自のダイエットを開始した。
「ふんっ! はっ! しゅっ! これなら、膝への負担もゼロです……っ! 脂肪燃焼の音が聞こえてきますよ!」
しかし、己の巨大な脂肪という重りはあまりにも過酷だった。空中で手足を数回振っただけで、全身の肉が激しく揺さぶられてベッドのスプリングがギシギシと悲鳴を上げ、体力が一瞬で底をつく。ものの十秒で心臓が早鐘を打ち、息が上がってしまった。
「ゼェッ、ゼェッ……ハァッ……っ。ふぅ……素晴らしい運動量です。クロール百メートルに匹敵する、良い汗をかきました……」
たった十秒手足をバタバタさせただけで満足した五月は、「激しい運動後の速やかな水分と糖分補給は必須ですから」と都合の良い言い訳を口にし、自分へのご褒美として枕元に置いてあった二リットルのコーラをラッパ飲みするのだった。
そんな彼女が現在身につけているのは、もはや既製品の服ではない。
海外の4XLサイズすらお尻でつっかえて入らなくなってしまったため、ついに洋服のお直し専門店にオンラインで依頼し、特注で作らせたまるで巨大なサーカスのテントのような布地のワンピースである。ウエストという概念はとうの昔に消え去り、ただ彼女の巨大な球体の身体をすっぽりと覆い隠すための、伸縮性抜群の巨大な布袋でしかなかった。
ベッドの上でコーラを飲み干し、至福の吐息を漏らしていた五月の部屋に、ノックの音と共に姉妹の一人が慌てた様子で入ってきた。
「ちょっと五月!? その身体、どうなってるの!?」
「んむっ……げふっ。どう、とは何ですか。私はいつも通りですよ?」
「いつも通りなわけないでしょ! まるで巨大な肉の岩石みたいじゃない! 部屋に入ってきた瞬間、壁かと思ったわよ!」
「失礼ですね。これは全て、私が美味しいものを追求し続けた結果の結晶です。M・A・Yとしての輝かしい誇りなのです」
「結晶ってレベルじゃないよ! だいたい、その着てる服なんなの!? パラシュートでも被ってるの!?」
「特注のワンピースです! どんなに食べても締め付けられない、素晴らしい着心地なんですよ」
「自慢気に言ってる場合じゃないってば! ほら、立って! 少しは動かないと、本当に病気になっちゃうよ!」
「無理です。今は食後の休憩時間かつ、先ほど激しい水泳のトレーニングを終えたばかりですから、一歩も動きたくありません」
「水泳!? どこにプールがあるのよ!」
「このベッドの上です。仰向けで手足を動かすことで、関節への負担を極限まで減らした画期的なトレーニング方法です」
「ベッドの上で手足バタバタさせてただけでしょ! ドアの隙間から見てたんだからね! ええい、こうなったら私が転がしてでも……っ!」
「ふふっ、無駄な抵抗です」
「う、重い……っ! 全然びくともしない! 本当に巨大な岩を押してるみたい……!」
「今の私の重量には、誰も太刀打ちできませんよ。それに、動くとお腹が空いてしまいますから」
「動いてお腹を空かせなさいよ! だいたい、五月……あなた、なんだか背が縮んでない?」
「気のせいです。遠近法の問題でしょう」
「遠近法じゃないわよ! 明らかに視線が低くなってる! 脂肪の重みで背骨が潰れちゃってるんじゃないの!?」
「失礼な。重力と仲良くなっただけです」
「自慢気に言ってる場合じゃないよー! 本当にベッドから出られなくなっちゃうよ!」
「それでも構いません。デリバリーさえ届けば、私のレビューは永遠に続くのですから! さあ、明日はどこのお店のオードブルを頼みましょうか!」
「もうっ、五月のバカー! 誰か助けてー!」
姉妹の悲痛な叫び声は、分厚い脂肪に覆われた五月の耳には全く届いていなかった。
彼女の思考は完全に「食」と「レビュー」に支配され、自分の身体が取り返しのつかない終着点へと到達してしまった事実を、心地よい満腹感の中で完全に受け入れてしまっていたのだった。
身長:145.0cm / 体重:112.5kg(前月比 +13.0kg)
BMI:53.5(超高度肥満・生命の危機)
B:135 (Kカップ) / W:132 / H:145
覆面グルメレビュアー「M・A・Y」。
かつては一人の女子高生が密かに始めたささやかな備忘録であったそのアカウントは、今やSNSのグルメ界隈において生きた伝説となっていた。
毎日欠かさず投稿される、常人離れした暴力的なボリュームの食事。高級店からジャンクフードのデリバリーまでを網羅する幅広い知識。そして何より、文字から溢れ出す圧倒的な「食への執着と愛」。読者たちは彼女のレビューに熱狂し、更新されるたびに数万件の「いいね」がつくようになっていた。
最近では、料理の写真を撮る際に意図せず写り込んでしまう「M・A・Y」本人の姿も、読者の間で密かな話題を呼んでいた。
お皿の端に添えられた、クリームパンのようにパンパンに膨れ上がり、指輪の跡が深く食い込んだ指先。スプーンの銀色にわずかに反射して映る、顔のパーツが判別できないほど丸々と巨大化した顔面のシルエット。そして、テーブルの端に擦れて写り込む、限界まで引き伸ばされてはち切れそうな特注服の生地。
それらを見るたび、読者たちは「彼女は自らの肉体を代償にしてまで、我々に究極のグルメ情報を届けてくれているのだ」と勝手に解釈し、さらなるカルト的な熱狂を生んでいた。
そんなネット上の騒ぎなど露知らず、当の五月本人は今日も自室に引きこもり、至福の時間を謳歌していた。
部屋の床の大部分を占拠しているのは、彼女の現在の体型に合わせて特別にオーダーメイドされた、巨大なビーズクッションである。その上に、まるで打ち上げられた巨大なトドのように、あるいは重力に逆らうことを完全に諦めたスライムのように、五月の規格外の巨体がドスーンと沈み込んでいた。
「んんっ……! この特製ジャンボ肉まん、ふかふかの皮の甘みと、中にギッシリ詰まった豚肉のジューシーな脂が、口の中で完璧なシンフォニーを奏でています……! 隠し味のホタテエキスも良い仕事をしていますね……っ!」
両手で抱え込むようにして持っているのは、コンビニで売られている通常の肉まんの五倍はあろうかという、中華街から特別にお取り寄せした超特大サイズの肉まんである。五月はそれを赤ん坊の頭でもかじるかのように大きく口を開け、ハムッ、はふっ、と幸せそうな音を立てて咀嚼していた。
彼女の身体は、もはや「肥満」という医学的な用語すら超越した、一種の芸術的な球体へと完成されていた。
かつての標準的で健康的なプロポーションは完全に消失している。特注の巨大なテントのようなワンピースの下では、百キロを優に超える圧倒的な質量の脂肪が、波打つように自己主張をしていた。スイカのように丸く、そして分厚く前方に突き出した巨大な太鼓腹。その上には、もはや自重を支えきれなくなったKカップの超弩級のバストが、どっしりと完全に乗り上げてしまっている。
顔の輪郭は完全に真ん丸なボールとなり、かつての清楚な面影は硬く分厚い皮下脂肪の奥深くへと埋没してしまった。首というパーツは完全に失われ、何重にも折り重なった巨大なタプタプの三重あごが、直接鎖骨のあたりまで垂れ下がっている。
過度な脂肪の重圧と、常に巨大なお腹を抱え込むような姿勢を強いられた結果、背骨は圧迫され、彼女の身長は以前よりも十センチ以上も縮んでしまっていた。
肉まんを半分ほど平らげ、口の周りを肉汁でテカテカに光らせていた五月の部屋のドアが、ノックもそこそこに勢いよく開かれた。
「おい五月、いつまで食って……って、うおっ!?」
「んむっ……もぐもぐ。なんですか上杉君。人の部屋に入る時は、ノックをするのが礼儀ですよ」
「ノックの音すらお前の咀嚼音でかき消されてただろ! いや、それより……お前、またデカくなったか!?」
「失礼ですね。私はいつでも、ありのままの自然体です。それより、この肉まん食べますか? 絶品ですよ」
「食うか! だいたい、なんだその部屋を占拠してる巨大な肉の塊は! クッションかと思ったらお前自身じゃないか!」
「クッションと私を一体化させることで、究極のリラックス状態を生み出しているのです。カロリー消費を最小限に抑える、エコな生活スタイルですよ」
「エコな人間が、一食で五千キロカロリーも摂取してどうするんだ! お前、本当に自分がどうなってるか分かってるのか? ドアを通るのも一苦労だって聞いたぞ!」
「横向きになれば通れますから、生活に支障はありません。それに、私の身体は読者の皆様からの期待と、美味しいお料理たちへの愛で構成されているのです。誇るべき勲章ですよ」
「勲章で健康が買えるか! ほら、とりあえずその肉まんを置いて、参考書を開け。受験生だろ!」
「……あっ。参考書なら、そこにありますよ」
「どこだよ。見当たらないぞ」
「ここです。……よいしょっと。ほら、お腹のお肉の下敷きになって、隠れてしまっていました」
「笑い事か!! 自分の腹の肉で分厚い参考書が完全に隠れるって、どういう質量してんだよ!」
「ふふっ。収納スペースが増えたと考えれば、非常に便利です」
「便利じゃねえよ! お前、このままだと本当に受験会場の椅子に座れなくなるぞ! いや、そもそも会場の入り口のドアに挟まって遅刻する未来しか見えない!」
「その時は、上杉君が私を転がして運んでくださいね。家庭教師のサポート範囲内ということで」
「俺の腰と腕が粉砕骨折するわ! 業者に頼んでクレーン車でも呼ぶしかないだろ!」
「まあ、それはそれでVIP待遇みたいで悪くありませんね」
「いい加減にしろ! 本当に……お前は、後悔してないのか?」
「……後悔?」
五月は手元の特大肉まんをそっと膝(お肉に埋もれてどこが膝か分からないが)に置くと、真ん丸になった顔に、かつてと変わらない……いや、それ以上に幸せに満ちた、とびきりの笑顔を浮かべた。
「するわけがないじゃないですか。私は今、最高に幸せです。世の中には、まだ私の知らない美味しいものがたくさん溢れている。それを一つ残らず味わい尽くすまでは、私の歩み……いえ、私の『食』が止まることはありません!」
その力強い宣言に、上杉は深くため息をつき、額を押さえた。
もはや、彼女の強靭な食欲と、この巨大な肉体を止める手立ては、誰にも残されていないのだと悟ったからだ。
「……勝手にしろ。ただし、勉強だけは絶対にやらせるからな」
「はいっ! 勉強でお腹を空かせた後のごはんは、また格別ですからね!」
五月は再び肉まんを両手で持ち上げると、残りの半分を大きな口を開けて一気に頬張った。
限界を突破し、人間という枠組みすらも飲み込んでしまいそうな彼女の巨体。それは、彼女が「食」という欲望に対して、一切の妥協を許さずに捧げ続けた、純粋な愛の重さそのものだった。
覆面グルメレビュアー「M・A・Y」。
彼女の飽くなき食欲と、体重計の針が止まる日は、永遠に来ない。