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 他人を自分に依存させたい欲求が僕に芽生えたのはいつの頃からだったろうか。

 僕に嫌われると思っただけで、顔が青ざめて身体が震え出し、汗が止まらなくなる。そして「どんなことでもするから見捨てないでくれ」と、涙ながらに縋り付かれたい。依存させるなら、肉体的に強い男性が良い。強靭な男を精神的にとことん追い詰めて、男性的な自信をまるごと喪失させてやるのだ。

 

 そうして僕の所有物にする。

 全ての男性は、僕の所有物となる運命なのだ。

 

*

 

「妻とは別れたよ」

 海沿いのドライブコースを走る車内。開けた窓から風が吹き込んでいる。飯島武夫は、視線を前方に向けたまま、呟くように僕にそう告げた。

「君と一緒に居られるのなら、慰謝料なんて安いものだ」

 ハンドルから離した右手を、僕の左手にそっと重ねてくる。僕がその手を握り返すと、飯島は少し目を細めて、はちきれんばかりにワイシャツの中に詰め込まれた胸を大きく上下させた。

 愛妻家だった彼の薬指にいつも嵌められていた指輪は、今は無造作にダッシュボードの上に転がされている。

 

 飯島とは、とあるスポーツジムで出会った。そのスポーツジムというのは、飯島がオーナーを務めるジムだった。スポーツジムのオーナーを務めるくらいなのだから、飯島自身もトレーニングの趣味を持っており、特にウェイトトレーニングを盛んに繰り返していた。

 故に彼はオーナーでありながら、まるでインストラクターのように発達した筋肉を持っていた。そこに目をつけた。

 起業家であり、ジム以外にも多くの事業を企て経営している彼は、リスクなどものともせぬに獣のように猛々しく人生を歩んできた。胸を張ってインタビュー記事で成功を語る彼のその表情は自信に満ち溢れており、それを見た僕は一目で、ああ、この男の身体は男性ホルモンで満ちているのだろうと確信した。

 逞しい体格で上質なスーツを着こなす彼は、誰からも羨望の目で見られ、多くの人の人生を背負うに値する強靭な精神を持っている。そして仕事を終えると、自らの経営するジムで肉体の鍛錬も欠かすことはない。

 

「これで分かってくれただろう。私は君のことを本気で愛しているってことが」

 夕日の差し込む車内。停止した車の中で、飯島は僕の肩を寄せる。そして僕の匂いを堪能するように、深く深く深呼吸を繰り返している。雑誌のインタビュー記事で見たままの飯島は、既に僕の虜となっていた。

 

「もちろん、私は異性愛者だ。だが、私はもう君がいないと生きていけないんだ。もっと身体を鍛えたほうが好みなのなら、頑張って鍛えるよ。嫌なところがあるのなら、構わずに言ってくれ。君好みの男になれるように、どんなことでも矯正してみせる」

 どういう経緯で彼がここまで堕ちたのかを語る必要はない。事実として彼は蜘蛛の糸に絡めとられるように毒牙にかかり、幸せに満ち足りた人生を手放し、人生をかけて築きあげてきた数々の成功よりも、僕という一人の男を選んだ。いや、もう彼は僕なしで生きていくことなどできない。僕が彼を見放せば、彼は絶望して自ら死を選ぶだろう。

 

「別に君の恋人にしてほしいなんて、そんなことを言っているんじゃないんだ。君のそばに居られるのなら、どんな扱いをされても構わない。足を舐めろというなら、いくらでも喜んで舐めてあげられるよ。君へ私の全てを捧げる覚悟があるんだ。だから、私を君のものにしてくれないか?」

 

 真剣な表情で懇願する飯島に、僕は返答する代わりに唇を重ねた。スラックスを突き破らんばかりに勃起した彼の男性としての象徴を強く握りしめてやる。そうして彼は正式に僕の所有物となった。

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