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【概要】

 この小説は、執筆中のホームオフィスの中から、登場人物の一人"大倉"のみをピックアップして、それ以外に関する描写をカットして編集したものです。

 別名、大倉バージョン。

 近いうちにPixivに全文アップロードする可能性が高いと思います。

 https://mtosak.fanbox.cc/posts/2554335

【サンプル】

※ 26,000文字中の6,000文字程度


「こら!」

 その一声にビクンとすくみ上がって、背筋がピンと伸びる。


「仕事部屋には入ってきてはいけないと、何度も言っているだろう!」

 肩をいからせながら、お父さんは激しい剣幕で怒った。


 お父さんは、手を腰に当てたまま、僕をじっと見つめて決して視線を離そうとしない。

 太い眉の間には、深い皺が刻まれている。


 怒ったまま僕を見つめているお父さんの顔をじっくりと観察しながら黙り込んでいると、部屋の奥のデスクから男の人が立ち上がった。

「まあ、いいじゃないですか。岩本チーフ」

 言ったのは、お父さんの部下の安藤さんだった。


「コピーを取ってくれたり、備品を持ってきてくれたり、いつも悠斗くんは仕事を手伝ってくれようとしているんですよ」

 安藤さんは、穏やかにお父さんを嗜める。

「悠斗くんは、お父さんの力になりたかったんだよね?」

 その問いかけに僕が頷くと、安藤さんは破顔してお父さんの背中をトンと叩いた。

「優しくて賢い息子さんじゃないですか」

「……ごめんなさい。お父さん」

 瞳に涙が滲んできて、お父さんの顔がぼやけて見えてくる。涙をこぼす僕を見て、流石に憐れみを感じたのか、お父さんは『仕事をしているときの厳しいお父さん』から、『普段の優しいお父さん』に、ほんの短い時間だけ戻って、僕の身体を抱きしめた。


*


 あーあ。つまんない。

 両腕の袖を使って目を擦る。

 でも、涙ひとつで許してくれるなんて、お父さんは怒りっぽいけど、ああ見えて甘いところがある。

 それにしても、怒ったあの顔。

 僕はお父さんの一連の表情を思い返し、笑いを噛み殺しながら廊下を歩いていた。


 するといきなりドカンと何かにぶつかるような衝撃を感じた。そのままの勢いで廊下に尻餅をつきそうになる。その瞬間、僕の腕は掴まれて、身体全体を抱きしめられるようにそっと支えられながら、柔らかく着地した。

「おっと」

 顔をあげるとそこには大倉さんがいた。

 衝撃で一瞬何が起こったのか分からなかったけれど、僕は大倉さんにぶつかって倒れかけたのだ。

 そして、その身体を大倉さんが咄嗟に支えてくれたのだった。

「大丈夫かい? 悠斗くん」

 大倉さんは、安藤さんと同じくお父さんの部下だ。

 確か年齢は安藤さんより歳上で、お父さんよりは歳下だったと思う。

 僕の身体を支えていた両腕を話すと、大倉さんはしゃがみこんで僕の背に目線を合わせる。

 その顔は曇っているように見える。どうやら本気で僕のことを心配しているようだった。


 大倉さんはとても身体が大きい。大きいと言ってもお父さんみたいにスーパーヒーローみたいな筋肉質のムキムキマッチョマンではない。太っているというわけではない。だけど、現役で柔道をしているせいか、とても肉付きがいい身体をしているのだ。きっと大倉さんもお父さんと同じようにワイシャツ選びには苦労しているに違いない。

 むちっと柔らかそうでいて、とても力強いその体格は、ワイシャツ越しにも伝わってくる。特に胸板のあたりがまるで山のように迫り出していて、僕はその部分が無性に気になっていた。そこは触ると、柔らかいのだろうか、硬いのだろうか。

 掌で掬い上げると、プリンみたいに揺れるのだろうか?


 そんな風に大倉さんを観察している間、大倉さんは怪我がないか僕の身体を触って確認していた。身体中を大きな掌で撫で回されるとなんだかくすぐったい気持ちになる。

 ダンプカーみたいな身体に、思い切り正面衝突しかけたのだから、大倉さんが僕の身体を心配するのも無理はないと思った。でもどこも痛くないし、咄嗟に大倉さんが受け止めてくれたおかげで、本当に身体はなんともないようだった。

 だけど、よくあんな一瞬で僕の身体を受け止めるなんてことができるなあ、と僕は感心していた。

 やっぱり柔道をしているとそういう反射神経みたいなものが、普通の人とは違っているのだろうか。


 一通り、僕の身体を確認して怪我がなかったことを確認し終わると、大倉さんはふうと息をついた。

 そしてすぐに、注意せずに歩いていたことを僕に謝ってくれた。別に謝ることなんてないのに。

 だって実際のところ、僕は歩きながら余計なことを考えて、ぼんやりしていたし、あんな大きな身体が前面から迫ってきているのに気づかないでそのままぶつかろうとするなんて。明らかに不注意だったのは僕の方だったと思う。

 もしも、お父さんがいたら、あの怒った表情で僕のことを叱ってから、大倉さんに謝りなさいと言うだろう。


 でも、ここにお父さんはいない。

 それならば、正直に自分が悪いということを認める必要なんてあるだろうか。

 そんな必要はない。そんなことを考えているうちに、もっと面白いことを僕は思いついた。


 僕は、大倉さんに「大丈夫だから気にしないで」と答えてあげた。

 その言葉は暗に、「悪いのは大倉さんであり、僕は被害者である」ということを強調するように伝わるはずだ。

 だからそれを聞いて、大倉さんには「本当にすまなかった」と何度も何度も頭を下げた。僕の計算した通り、その言葉で大倉さんの罪悪感を大いに刺激がすることができたのだ。僕は心の中で「やった」と喜びの声をあげて小躍りした。

 僕は大倉さんを何度も何度も謝らせることができて、とても嬉しかった。


 大倉さんは営業もしているから謝り慣れているのだろう。謝ることがとても上手だと思った。

 そうやって大倉さんを謝らせているうちに僕は少しずつ気持ちが良いと感じ始めている自分に気づいた。他人に謝らせるということは、実は気持ちが良いことなのだということを、大倉さんは僕に改めて気づかせてくれた。


 大倉さんは用事があって外に出ていて、今ちょうど戻ってきたところようだった。

 真夏の炎天下を歩いてきたであろう大倉さんの身体は、ほかほかに温まっていて、その温度が身体を支えられた時に僕にも伝わった。怪我がないか確認している最中、僕は微かに大倉さんの体臭を感じていた。汗をかいていて、それがワイシャツに染み込んでいるのだ。別に特別、不快な匂いというわけではなかった。だけど、お父さんとは明らかに異なる大人の男性の匂い。匂いっていうのは、人それぞれ違うものなんだ。僕はぼんやりと、そう思った。そんなことを考えていると無性にその未知の大人の男性の匂いというものに興味が湧いた。そうだ、研究してみよう。そう思い立った瞬間、僕は大倉さんに飛びつくように抱きついていた。

「ああ、怖かったかい? 本当にごめんな」

 僕が怖くて抱きついたのだと大倉さんは誤解している。都合が良い。

 勘違いされているほうが、大倉さんの身体に密着しても不自然ではなくなるし、無理矢理に僕を突き放すことができなくなるからだ。

 そうすれば、僕は心ゆくまで、大人の身体の研究を続けることができるからだ。


 大倉さんは、やっぱり汗で湿っていた。

 きっと大倉さんは僕に抱きつかれて、内心、暑いからもう勘弁してくれと思っているはずだ。僕自身の体温を感じることすら、うんざりしているはずだ。

 その証拠に、僕の肌と大倉さんのワイシャツが接触している部分がみるみるうちに湿ってくる。新しい汗が湧き出して、ワイシャツを浸透して、染み出してきているのだ。だけど、大倉さんは僕を突き放すことはできないだろう。不快な気持ちを我慢して、僕を心配しなければならない。だってそれが大人の男性のあるべき姿なのだから。


 もっと詳しく大倉さんの匂いを研究するために、注意深く集中し、強く深呼吸する。すると、大倉さんの匂いをしっかりと感じることができた。うちで使っているものとは違う洗剤、柔軟剤の少し甘い香り。

 違いはそれだけではない。やっぱり汗の匂いがお父さんとは全然違う。

 どういう風に表現したらいいか分からないけど、大倉さんの匂いは陽当たりのいい庭に寝転がったときのような、そんなイメージのする匂いだった。


 折角なので、気になっていた胸の感触を確かめる。流石に掌で揉んで柔らかさを確かめるわけにはいかないから、僕は顔を埋めることでそれを確かめることにした。結論からいうと、柔らかかった。その感触は皮張りのソファのようだ。張りがあって、沈み込むと反発してくる。

 だけどよく考えたら、人間に皮膚も一種の皮なのだから、皮張りのソファのような感覚がして当然なのだと、改めて考えてみて気づいた。

 しかし、本物の皮張りのソファとは、ひとつだけ大きな違いが明確に存在している。


 本物のソファは、汗をかいて湿ったりしない。


 気持ちが満たされると、僕は大倉さんから身体を離した。

 大倉さんは僕の頭を、その大きな掌で優しく撫でる。

「もし何か身体がおかしいと思ったら、すぐに言うんだぞ」

「だけど、仕事部屋にいくとお父さんに怒られるから……」

 わざと落ち込んだように顔を俯けると、大倉さんは僕をまるごと包み込むように抱きしめてくれた。汗で湿った大倉さんに僕の身体は再び包み込まれる。

「そういうときは、絶対に我慢せずに大人を呼びにくるんだ。ボス……いや、お父さんが怒ったら、俺が絶対代わりに怒られてやるから。だから、分かるよな、悠斗」

「うん」

 僕の返事を聞いて、大倉さんはゆっくり抱きしめる力を緩めていった。

 僕を抱きしめたせいか、さっきよりも大倉さんは暑さを感じているようで額から汗を流していた。でもそんなこと気にしていないようだった。

 大倉さんは本当に優しい。僕の知っている大人の中で誰よりもきっと優しい。きっと子供が好きなんだと思う。大倉さん自身は結婚していなくて、彼女もずっといないと前に聞いたことがあったけど、誰も彼もみんな見る目がないと思う。


 こうして大倉さんと一緒にいられる時間は、実際のところほんのわずかだ。

 すぐに大倉さんは僕を残して仕事部屋へと戻ってしまう。そう決まっているんだ。

 だけど、本当はこうしてずっと話していたかった。ずっと一緒にいてほしかった。僕の側にずっといて色々な話を聞かせてほしかった。優しく頭を撫でて、僕に笑いかけてほしかった。


 本当に大丈夫だから、もう行っていいよと思ってもないことを大倉さんに伝える。大倉さんはまだ少し心配そうな顔をしていたけれど、最後には「じゃあ、またな」と笑って、廊下を進んでいった。

 仕事部屋へと向かう大倉さんの背中を眺めていると、無性に胸の中のどこかに隙間ができたような気持ちになる。どうしてだろう。

 大倉さんのことを騙すような真似をしたこと、どうして今更、僕は後悔し始めているのだろう。


*


「――気分はどうですか?」

「話を聞いてくれてありがとう、安藤。なんだかスッキリしたよ」

「いいんですよ。なんたってボスを支えるのは、部下として当然の務めですから!」

 そういって安藤が胸を張ってみせると、岩本は吹き出した。

「おい、俺のことをボスって呼ぶのはやめろ。それじゃまるで大倉みたいじゃないか」


 ドアが開かれると、ぬっと巨体が姿を現した。

「大倉、ただいま戻りました。……って、ボス。今、俺のこと呼びませんでした?」

 間の抜けた声が部屋に響く。


 岩本と安藤は顔を見合わせ、笑った。


「いやあ、外は地獄みたいな暑さだったよ」

 そう言いながら荷物を下ろして、冷蔵庫に向かう。

 しかし、大倉は冷蔵庫を開こうとはしなかった。その上部に置いてある常温の水が入ったペットボトルを手に取り、口にしようとする。しかし、「ちょっと待ってください」と安藤から呼び止められて、その手を止める。


「なんだい?」

「大倉さん、先に下着を取り替えてもらってもいいですか?」

 そう言われて、大倉はポンと手を叩いた。

「ああ、そうだ。また忘れるところだった。……だけど今日も結構、蒸れてそうで恥ずかしいなあ」

 大倉は苦笑いを浮かべながら、ベルトを外してスラックスを脱いだ。

 丸太のように太く、それでいて筋肉の凹凸がはっきり分かる脚が晒される。足の先には、黒いビジネスソックス。薄い生地で脚のシルエットが透けてみえる。大倉はドレスソックスという種類の靴下を好んで履くようにしていた。あえて少し小さめのサイズを選んでいるのか、生地は皺ひとつなく引き伸ばされぴったりと脚の肌に吸い付くように膝下までを覆っていた。

 そして股間を覆っていたのは、シンプルで薄い灰色のボクサーブリーフだった。正確にはニットトランクスだろうか。これはソックスとは違い、特にサイズが小さいものを履いているわけではないのだろうが、ぐっしょりと汗が染み込んでぴったりと肌に張り付いている。股間の中心には、はっきりと陰茎のシルエットが浮かんでいた。もっこり迫り出したその膨らみは平均よりもかなり大きく見える。


 大倉はスラックスが皺にならないように丁寧に折り目に合わせて畳み、近くにあった手頃な椅子の背もたれにかけた。

 そして下着をゆっくりとシールを剥がすように脱いでいった。太ももをあげてまずは片足を外す。惜しげもなく晒した陰茎は、日本人離れした大きさだった。しかし、その亀頭は完全に皮で覆われていた。


 実際のところ、以前まで大倉は包茎ではなかった。もともと陰茎自体のサイズが大きかったからか、身体の成長とともに自然と陰茎の皮は向けたため、包茎だのどうこうを考えたことはほとんどなかった。不自然なほど皮を伸ばして、亀頭を覆うようになったのはごく最近のことだ。


「汗とチンポ臭い下着で申し訳ないけど、安藤くん確認よろしく」

「気にしないでください。替えのパンツはどうしますか? 新しいパンツにします?」

「いや、まだ一回しか履いてないパンツがあったよね」

「ああ、一昨日履いたパンツですね。こっちに陰干ししてあります」

「じゃあ、それを着るよ。もう汗は乾いてるよね?」

「はい。ですが、一度履いたパンツを洗濯せずに乾かして二度履きすることになりますが、良いですか?」

「え? そりゃもちろん。だって二度履きしないと汗の匂いもチンポの匂いも濃縮できないだろ? 俺、何か間違ってるか?」

「いや、まったく間違ってませんよ」

 安藤は心から嬉しそうに満面の笑みを浮かべていた。


 大倉は、履いていたパンツとまったく同じデザインのボクサーブリーフを受け取る。先ほど履いていたパンツと違うのは、少し皺が多くてくたびれているということ。少し色味が黄色みかかっているということ。大倉は、おもむろにボクサーブリーフに顔を押し付けて、何度か深呼吸を繰り返した。

「うん。やっぱりだいぶ匂いが薄くなってる。あと2回くらい履いてちょうどいいくらいかな。安藤くんはどう思う?」

「はい、その通り。大倉さんのいう通りだと思います」

 同意を受けて大倉は頷くと、三日ぶりにそのパンツに脚を通していった。しっかりと股間にフィットさせ、陰茎のポジションを何度も確認していた。

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