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概要

 ホームオフィス(Uncensored)からの続きです。

 夜のお話になります。

 Overtimeは分割することにしたので、実質、前編のような位置付けです。

サンプル

(3,800字/10,000字程度)


10.


 夕暮れ時。

 リュックサックを背負った悠斗は、家の中から姿を見せた父親を見つけると抱きしめようと近づいた。

「まだ車に乗ってなかったのか! 何をグズグズしてるんだお前は!」

「お父さん……?」

 思わぬ父の怒りを前に、悠斗は顔面を蒼白にして、大倉の車の助手席に逃げるように乗り込んだ。

「では、悠斗くんは責任を持って、おばあちゃん様のもとへ送り届けますんで」

 岩倉は、車の前で敬礼のポーズをとって笑った。

「すまんな岩倉」

「いえ、これも俺の仕事のうちですから」

「ああ、頼む」

 運転席に乗り込んだ岩倉は、悠斗にシートベルトをつけるように促す。

 車が静かに遠ざかっていくのを岩本は、ただ無表情で眺めていた。


「チーフ、言い過ぎじゃないですか?」

「あの年頃のクソガキには、あれくらい強く言わんと通じん。安藤も子供と暮らせば嫌でも分かるさ」

 岩本は吐き捨てるように言った。

「クソガキって、そんな言い方しなくてもいいじゃないですか。だって、悠斗くんはチーフの息子さんなんですよ?」

「俺の子じゃない。アレは、あの女の子供だ」

 目にするだけで胸がムカついてくる。

 妻の不貞の末の子供。そんな子供と、同じ空気を吸っていることすら耐え難い。

 岩本はそう思った。


「それにしても」

 安藤と岩本は、玄関で靴を脱ぎながら話していた。

「やっと二人きりになれましたね、チーフ」

「ああ」

 岩本は、安藤の肩に手を置き、そして抱きしめた。

 安藤への愛情が胸の中に溢れてくる。愛おしくてたまらない。

 これが真実の愛なのだと、岩本は確信していた。

「もう仕事の時間は終わりだ」

「いいえ、チーフ」

 安藤は、唇を歪めるようにして笑った。

「ここから先は、残業の時間ですよ」


11.


 暗い夜の中から現れた客人は、玄関の灯りに照らされていた。


「ご来店、誠にありがとうございます」

 一軒家の玄関口で、厳つい髭面が客人を出迎える。


「変態おちんぽハウス『イワモト』へようこそ」


 そう言って岩本は、客人を手早く家の中へと招き入れる。

 誰かに岩本の姿を見られでもしたら大変だ。

 なぜなら岩本は全裸なのだから。そう、洋服を何も身につけていないのだ。

 いや、金色のTバックだけは身につけていた。しかし、それ以外は何も着用していないのだから、全裸と言っても過言ではない姿といえるだろう。


「当店のチーフを務めております、岩本です」

 満面の笑みを浮かべながら岩本は、頭を下げた。


 そして、堂々と胸を張り、直立する。

 衣服を着ていないほうが逞しく鍛え上げた筋肉は映える。筋骨隆々の男性というものは、逆に衣服を着ていないほうが引き締まって見えるものだ。岩本は、自分の筋肉質な肉体にも絶対的な自信を持っていた。

 だから、全裸。いや、Tバック姿でいることに対して、岩本は何一つ、恥ずかしがる必要はないと確信することができた。それにむしろ、この姿は"変態おちんぽハウス『イワモト』"では、岩本の正装以外の何物でもなかった。だからこそ、岩本は全裸であろうと、平気で胸を張って笑みを浮かべていられるのである。


「少々、失礼します」

 笑みを浮かべていた髭面が急に引き締まったかと思うと、岩本は両腕を曲げて力瘤を作った。腕だけではない。身体中に力を込めて、その逞しい筋肉を強調して見せる。筋肉が見られている。それを意識するだけで、自然と岩本のペニスは鎌首をもたげてくる。


「ご覧の通り、私は筋肉奴隷でございます。私のことは、ぜひ変態筋肉マッチョマン岩本とお呼びください」

 筋肉を強調しながら、股間を勃起させた巨体の持ち主は、ふんと鼻息を荒くしたかと思うと、無理矢理に不自然な笑みを浮かべた。


 本人は爽やかに微笑んでいるつもりなのかもしれないが、歪んだ口元は歯を食いしばって、何らかの恥辱や屈辱に耐えているようにしか見えない。そうとしか見えないのだが、それは単純に岩本の表情作りが不得手であるということが原因だった。

 そう。残念なことに岩本は、誰かに脅されて、こんな醜態を晒すことを強要されているわけはない。彼は、"変態おちんぽハウス『イワモト』"への来客を純粋に喜び、心から歓迎するが故に自らの意思で行動しているに過ぎない。

 だから、この滑稽な変態筋肉マッチョマンに対して、憐れみの目を向ける必要もない。本人も憐れみよりも賞賛されることを求めているのだから、素直にその肉体美を褒め称えてやること。それこそが、岩本を最も喜ばせることなのだ。


 靴を脱ぎ、来客用のスリッパに履き替えた客人は、岩本の力瘤を無遠慮に撫で回した。

「流石の筋肉ですね、岩本チーフ。……いや、今は変態筋肉マッチョマン岩本って呼んだほうがいいのかな?」

「お褒めいただきありがとうございます、安藤さま。この変態筋肉マッチョマン岩本のことは、お好きなようにお呼びください。筋肉奴隷でも下僕でも、どんな呼び方でも構いません」

「やだなあ。そんな堅苦しい言葉遣い、やめてくださいよ。だって僕は、チーフの部下なんですよ? いつも通りに話してくれても良いんですよ?」

「安藤さまは、この岩本の部下とはいえ、来店いただいたお客さまに違いありません。大切なお客さまである安藤さまに、馴れ馴れしく話すなど、筋肉奴隷として恥ずべき行為。寛大なお言葉をいただき、非常にありがたいのですがそういった対応は原則、お断りさせていただくのが当店の規則となっております」

 そうきっぱりと言い切った岩本は、少し間を開けた後、わざとらしく咳払いをした。そして、小声で囁く。

「……もしお客さまである安藤が、"どうしても"というのなら、その、接客態度を改めることもできないわけじゃないんだ。あくまでも原則だからな。だから、もし俺に対して本当にいつも通りに接してほしいと思っているのなら、その、遠慮なく、もっと強く申し付けてもらっていいから、な。俺も、その、安藤に対して、接客するのは正直なところ、少し面はゆいんだ。いや、俺がどう思っているかは気にしなくて構わないんだが……」

 岩本は、頬をかきながら言った。煮え切らない態度だった。

 客である安藤への接客態度は、あくまでも岩本は規則に従っているだけなのだ。

 しかし、この店では、お客さまの望みが最も優先される。だから、安藤本人が強く望めば、規則よりも安藤の望みが優先される。


 つまりは、岩本は暗に『規則に従う必要はない』と、安藤に望んでほしいと言っているのだ。


「そうですね。チーフにお客さま扱いされるなんて、僕も気を遣っちゃうからなあ」

 安藤は微笑む。

「だけど、規則なら仕方ないですよね。チーフには、変態筋肉マッチョマン岩本として、しっかり僕をもてなしてください。しいていうならば、それが僕の望みです。あれ、もしかして、僕をお客さま扱いするのは抵抗ありますかあ?」

「とんでもございません!」

 岩本は慌てて否定する。

「ですよね! だって、規則は守らないと」

 岩本の気持ちを踏み躙るように、安藤は笑った。

 そして、岩本の顎髭を、まるでモノを扱うように撫でた。

「……はい。当店の規則に対してご理解いただき、ありがとうございます」

 礼を言いながらも、岩本は肩を少し落としていた。

 堅苦しい言葉遣いをやめてほしいと言った安藤の言葉は社交辞令に過ぎなかったのだろう。安藤は、はっきりと自分がお客さまであり、筋肉奴隷にもてなされる権利があると認識していて、それを行使したくてうずうずしている。安藤が、上司である自分のことを辱めたいと思っているであろうことは、流石に岩本にも透けて感じられていた。

 しかし、普段、上司として振る舞っている男を、下僕のように扱いたいという願望は、上司に対して不満がなければ生まれないのではないだろうか。

 岩本は安藤とは普段から、上司と部下として良好な関係を築けている思っていた。それにもかかわらず、安藤が上司である自分を、筋肉奴隷として辱めたいという願望を持っているのはどうしてだろう。

 もしかすると安藤は顔に出さないだけで、上司である自分に対して鬱屈した感情を普段から秘めていたというのだろうか。

 岩本は、自分が安藤に対して、どう接していたのか、何かまずい言動をしていなかったを思い返そうと一瞬、考え込んだ。


「あれれ。変態筋肉マッチョマン岩本。どうした? 笑顔、曇っちゃったね?」

 安藤の煽るような言葉を受けて、慌てて岩本は思考を止めて、満面の笑みを浮かべた。

「とんでもございません。変態筋肉マッチョマン岩本はいつでも笑顔! 心から喜んで、お客さまの筋肉奴隷として、お客さまのためだけに鍛えたこの肉体で、どんなご要望にもお答えします!」


 岩本はポーズを変えて、再び筋肉を強調する。

 いわゆるボディビルでいうところのモストマスキュラー。強く歯を食いしばりながら、肩、僧帽筋、そして腕の太さを強調する。安藤はその強調された筋肉を撫でたり、叩いたり、鷲掴みしたりしながら、楽しんでいる。これではまるで大の大人が手慰みのための玩具だ。


 安藤が上司である自分をどう思っているのはこの際、関係がないと岩本は思った。なぜなら、今の自分は、安藤の上司ではない。今の自分は、筋肉奴隷であり、変態筋肉マッチョマン岩本なのだから、その役割を全うするまでだ。

 そう気持ちを切り替えることに決めた。


 岩本の気持ちは驚くほどあっさりと切りかわった。

 まるでスイッチをオンオフするように。

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