新婚×ヒーロー01 (Pixiv Fanbox)
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「これで終わりだ! 喰らえマッスルキック!」
怪人が怯んだ隙を見逃さず、上空から蹴りの一撃を放つ。全身の筋力を集中させた俺の必殺技だ。
まともに一撃を喰らった怪人は完全にノックアウトされて、道路中央に仰向けに倒れて動かなくなった。
避難した市民から遠巻きに歓声が上がる。
俺は全身に広がる倦怠感を心地よく感じながら、滴る額の汗を拭うこともせず、真っ先にサムズアップして歓声にこたえて見せた。
「流石です! ヒーロー、ホークマン!」
「お疲れ様でした、ホークマン!」
口々に戦いを終えた俺にヒーローボーイズの言葉に俺は自然と笑みがこぼれた。
「ありがとう。よし、あとは君たちに任せて大丈夫か?」
「はい! 僕たちにお任せください!」
そういって、敬礼してみせるヒーローボーイズ。
ヒーローボーイズというのは、若年層の中でヒーローとしての適性を見出されたものを組織したグループ。いわば見習いや研修生のようなもの。未来のヒーロー候補たちだ。
彼らの手によって白目を剥いてのびてしまっている怪人は厳重に拘束され、無害化されて運ばれてゆく。
俺は周囲を見渡した。幹線道路にはっきりと戦いの傷跡が残る。アスファルトがめちゃくちゃにめくれあがり、復旧するまで早くても数週間かかってしまうだろう。
まったく、いったいいつになればこの街に、この世界に平和を取り戻すことができるのだろう。
*
本部に戻り、報告を終えると、先輩のヒーローであるイーグルマンが声をかけてきた。
「お疲れ、ホーク。今日もスマートに片付けたもんだな。まったく大したもんだよ」
「いや、そんな。恐れ入ります」
俺は先輩の言葉に頭をかいて応える。
「今日の任務は終わりか? 良かったらこれから一杯どうだ?」
「すみません。今日は、家で妻が……」
そういうと先輩は、ガハハと豪快に笑って「そうかそうか」と俺の肩を叩いた。
「いやスマン、新婚さんを邪魔しちゃ悪いな」
最近は誘いを断ってばかりだった。よくしてもらった先輩だというのに、無下に断ってばかりなのは申し訳なくなる。気を悪くしているだろう。しかし、家で俺の帰りを待つ妻のことを思えば、仕方のないことだと思えた。
「なに、気にすんな。また飲み行こうぜ」
「すみません、ぜひまた今度」
俺は先輩に頭を下げ、更衣室へと向かった。
途中、携帯を開き、メッセージを送る。
“今から帰るよ”
*
更衣室に着くと、俺は汗の染み込んだアンダーシャツを脱いだ。ヒーロースーツを装着する際には、通気性の高く機能的なコンプレッションウェアを着ているのだが、どうしても堅牢な装甲を維持するためにはスーツ自体、気密性の高い素材を採用せざるをえない。そのためスーツを着用して戦ったあとは身体中が汗で蒸れてしまうのが難点だった。ベタつく汗を不快に感じながら俺はシャワー室に向かおうとタオルを手に取った。
「お疲れさまっすー、ホークマン」
背中から声をかけられ、振り返るとヒーローボーイのひとりが更衣室に入ってきたようだった。
「今日の任務は終了っスかー?」
「ああ」
そう答えながら記憶をたどる。
見覚えがあるヒーローボーイなのだが、なんという名前だっただろうか。
「お早いお帰りっスねー。やっぱり新婚さんはお熱いスねー」
「はは、まあな」
俺は頭をかいて応える。最近はこうやって冷やかされてばかりだ。
「新婚ならセックスしまくりでチンポ乾く暇もないっしょー」
――続けて言い放ったそのヒーローボーイの言葉が唐突過ぎて、俺は絶句してしまった。なんてことを言うのだ。軽口にしても失礼ではないか。
見たところ中学生くらいの年齢のようだが、不躾にもほどがある。
へらへらと笑うヒーローボーイに俺は一言叱ってやろうと口を開く。
すると、彼は畳み掛けるように言葉を重ねた。
「ああ、セックス厳禁なんですっけね?」
「あ、これって内緒のポリシーだったっすよね」
「みんなには内緒のポリシーなんすよね」
「ヒーローたるもの健全にオナニー一筋っすよね!」
まるで俺がしゃべろうとするのを遮るように畳み掛けてくる。まるで考える暇を与えないように。
「あ、ああ……」
俺はそうやって頷くのが精いっぱいだった。言葉を投げかけられるうちに俺は何を言おうとしていたのか分からなくなっていた。先ほど、感じた憤りも萎んでいくように思える。
何かがおかしい。そう思うのだが、うまく言葉にできない。
考えようとするとジクジクと額の奥が痛んだ。
「どうしたっすか? 頭痛いっすか? 僕が診てあげるっすよ」
そう言って、彼は少し背伸びをして俺の額に手を当てた。するとズキズキと痛んでいたそれが潮が引くように消えていく。それどころか頭の中がすっきりとしてとても爽快な気持ちすらしてくる。
「ありがとう。もう大丈夫だ」
俺がそういうと、彼は「良かったっす」と額から手を離し、両手を後ろ手に組んで満足げに笑った。
「それで、セックス厳禁なんすよね?」
期待するような目で俺に問いかけるヒーローボーイに、俺はすっきりとした頭で応えた。
「そうだ。大きい声では言えんが、セックス厳禁健全オナニーが俺のモットーだ。汚らわしいセックスなんて俺はせん」
「そっすかー。新婚なのに早く帰ってシコシコオナニー楽しみっすね」
シコシコオナニー。言葉が反響する。
俺は生唾を飲み込んだ。
妻に隠れて勃起したチンポを浅ましく扱きオナニーに耽る自分の姿が脳裏に浮かぶ。
……早く帰ってオナニーしたい。 繰り返し頭の中に自慰に耽る自分のイメージがちらついて離れない。早く帰ってオナニーがしたい。シコシコチンポを扱きたい。そう考えるだけでどくんと心臓が脈打つ。ぞくぞくとする感覚とともに、少しだけ股間のあたりが窮屈になるのを俺は感じていた
俺は白昼夢のような妄想を振り払うように 首を振った。
「どうしたんすか? オナニーしたくなっちゃったんすか?」
「そんなわけあるか。それより、君は少し先輩に対する言葉使いをわきまえたほうがいい」
俺は話題を反らすように彼の言葉遣いを注意した。
物おじしない態度は良いが、少々話し方が先輩に対してフランクすぎる。
「いやだな、先輩と僕の仲じゃないっすか。今さら言葉使いなんて気にするような仲じゃないっしょ?」
そういって、彼は親しげに俺の腕を取り、まるで恋仲の関係であるかのように両手で撫で回してくる。
「仲って、お前……」
そんなわけがあるかと一喝しようにも、なんだか調子が狂ってしまう。言われてみれば、彼とは親しい関係だったようにすら思えてくるから不思議だ。名前すら思い出すことができないというのに。
「それにしても先輩、相変わらず筋肉ムッキムキっすねー」
そういって彼は俺の晒された上半身を無遠慮に弄り、その弾力を確かめるように揉んでくる。
――嫌な気持ちはしなかった。
それどころか、そうされることが当たり前、というかあるべき姿のように思えてくる。身体を触られるうちに、自分の身体が自分のものではなく、彼の所有物であるかのように思えてくる。彼のものである俺の身体は、彼の自由にされるべきなのだ。そんな風に考えると、跡がつくほど強く手のひらで筋肉を揉み込まれようと、執拗に乳首を摘まれようと、俺はそれを咎める気にはならなかった。
そうやって好きにさせていると、ポケットの携帯電話が震えた。妻からだろうか。そうだ、俺は早く帰らなければならないんだった。
「もう、いいだろう。俺は早くシャワーを浴びて帰りたいんだ」
そういうと、ヒーローボーイはつまらなさそうに口をとがらせて俺の身体から離れた。
「つまんないっすね。そんなにシャワー浴びたいすか? 言われてみれば先輩、汗臭いっすもんね」
「お、おい」
止めるのも聞かずに、彼は俺の腕の付け根に鼻を押し当てて深呼吸し始めた。生暖かい鼻息が腋をくすぐる。
「あー、いいっすね。汗臭いっすね」
「やめろ、か、嗅ぐな馬鹿野郎」
自分の身体の匂いを嗅がれるという行為に羞恥心を感じ、抵抗しようと試みるのだが、それ以上に抵抗するべきでないという気持ちが勝り、彼を自分の身体から引きはがすことすらできない。
「そうだ、ホークマン。今日はシャワー浴びずに帰っていいっすよ」
「何を言うんだ。今日は汗をかいたんだ。ベタベタして気持ちが悪いんだよ。その、臭いで分かるだろう」
それに妻の待つ自宅に汗臭い身体のまま帰るのは気が引けた。
「そうっすか。そうっすねー」
ヒーローボーイは、人差し指を突出し、俺の額を突いた。
「でも、これは僕からの『命令』っすよ」
『命令』という言葉を彼が口にした瞬間に、額から手足の末端にまで電流が走るような感覚が身体を支配する。目を合わせたまま、目の奥を覗き込むように笑う彼の言葉には有無を言わさぬ強制力があった。
「従いますよね? 先輩」
「……分かった」
命令と言うのなら、仕方がない。
ヒーローというのは命令に従うものだ。
「……ともかく、俺はもう帰る。いいな」
「長々と引きとめて申し訳なかったっすねー、お疲れさまっすー」
そういうと彼はあっさりと俺を残して更衣室を出て行った。
ふう。
俺は息をついて、汗でべたつく身体をそのままに、着替えのシャツを羽織った。