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 ヒーローというのは嗜好品だ。

 正義、という名の正当性に酔いしれ、力を振りかざす姿。そのマッチョイズムが看過されているのは、そう、我々を楽しませるための最高の娯楽だからだ。

 会場はさまざまだった。

 雑居ビルの一室を借りることもあれば、ホールを貸し切りにすることもあるし、野球場を占有することもある。今日はとある演劇用の舞台にセッティングしたようだ。

「さーて、今週のベストオブマッスルヒーローはァ……」

 ステージの上に立つ蝶ネクタイをつけた紫のパピヨンマスクの小太りな男、テトロドトキシンと名乗る彼は甲高い耳障りな声でわざとらしいタメを作る。舞台の上を左右するスポットライトにドラムロール。この演出も彼によるものだろう。そんなチープな演出にも客席の観客たちは息をのみ、興奮を高ぶらせているようだった。

「ゴー腕マンデース!」

 パッとスポットライトが舞台の上のヒーローを照らす。同時に客席から歓声と拍手が沸き起こる。

 見覚えのあるヒーローだ。

 筋肉隆々な肢体。露出の多いヒーロースーツを着込むパワー系のヒーロー。短髪に日に焼けた肌に男性的なシルエット。ゴー腕マンという安直なネーミングに、その名前通りの太い筋肉質な腕を惜しげなく晒して戦うヒーロー。こちらの筋の人気の高さも頷ける。見ているだけで男臭さが伝わってくる。しかし、今日の彼はその肉体を使い正義のために戦うのではなく、ただただ筋肉を誇示するためだけに舞台の上でボディービルダーのようにポージングを繰り返す。

 なにしろベストオブマッスルヒーローなのだ。その筋肉が評価されているのだからさぞ誇らしい気持ちだろう。さぞ誇らしい気持ちにさせられているのだろう。

「どうです、素晴らしい筋肉の仕上がりでショウ。今回の仕込みを担当したのは、会員ネーム、トリカブトちゃん。男盛りの強烈な性欲をブーストさせた上に、筋肉トレーニングに強烈な快感を付与して、強い中毒性を生み出す手法と、トリカブトさんオリジナルのいやらしい思考改変を組み合わせて、かつヒーロー自信の筋肉に対するモチベーションの高さが功を奏したようデース」

 解説するテトロドトキシンの解説にメモをとっているものもいる。まるでさながら勉強会か。会員たちの洗脳技術も共有が進み、以前よりも遙かに高度になっているようだった。

「優勝のトリカブトちゃんには、賞品としてマッスルヒーロー、ゴー腕マンの私生活の全てを差し上げちゃいマース。もちろんヒーロー協会には極秘ルートで調整済みなので、足が付く心配はナイヨ。これからはこそこそせずに胸を張って、ヒーローをヒトリジメしちゃってくださーい。でもでもトリカブトちゃん、その後のゴー腕マンの調教っぷりはぜひぜひレポよろしくネー。さて、というわけで、本日をもって円満にヒーローとしての人生がジ・エンドとなったゴー腕マン、今の気持ちをお聞かせくだサイ」

 ポージングをとり続けていたゴー腕マンに向けて、マイクが差し出される。ゴー腕マンは頷き、観客たちに向かって頭を下げた。

「今回はベストオブマッスル賞をありがとう! ありがとうございます! むんっ! 一生懸命筋肉を鍛えて、いや、育ててきた甲斐があったっす! これからはヒーローとしての使命なんてすっぱり忘れて、この肉体を鍛え続けていきたいと思います! トリカブトさん! 俺はあなただけのヒーローになることをここに宣誓します!」

 ゴー腕マンの宣誓に、会場は再び沸き上がる。彼らの熱狂はうねり渦となって会場を包んでいくようだ。

「ハーイ、ゴー腕マン、感動的な宣誓をありがとう! こんなに逞しくてかっこいいヒーローなのにすっかり洗脳されて可愛らしくされちゃってますネー。この涎が出そうなほど逞しい剛腕っぷりと少年のようなひたむきな従順っぷりのギャップがたまんないネー。羨ましい! と、いうことで次回も多くのエントリーをお待ちしてますヨ。ではまた次回ネー!」

Comments

mtosak

昔どこかで投稿したやつ。pomeraの中に残ってたので供養。