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10. (B)


 夕暮れ時。

 リュックサックを背負った悠斗は、玄関から外へと姿を見せた父親に抱きつこうと駆け寄った。それを見た岩本は目を細めた。

「グズグズするな。どうしてまだ車に乗っていないんだ」

 いらつきを隠さずに放った岩本の言葉に、悠斗は顔を青くすると、逃げるように大倉の車の助手席に乗り込む。

「では、悠斗くんは責任を持って、おばあさまのもとへ送り届けますんで」

 大倉は車の前でおどけながら敬礼をした。

「すまんな」

「いえ、これも俺の仕事のうちですから」

 車にエンジンがかかる。悠斗は窓越しに一度だけ岩本を見たが、その後は発車するまでずっと目を逸らしたままだった。

「言い過ぎだったんじゃないですか?」

「あの年頃のガキには、あれくらい強く言わんと通じんのだ。安藤も子供と暮らせば嫌でも分かるさ」

 岩本は吐き捨てるように言った。

「そんな言い方しなくてもいいじゃないですか。息子さんだっていうのに」

 ――あれは、俺の子供ではなく、あの女の子供なのだ。

 考えるだけで胸が苛立ちで満たされていくようだった。岩本は頭を振って気持ちを切り替えた。


「それにしても」

 玄関に戻り、靴を脱ぎながら安藤は、岩本に顔を寄せた。

「やっと二人きりになれましたね、チーフ」

「ああ」

 岩本は、安藤の肩に手を置き、そして当然のように抱きしめた。

 安藤の身体はそれほど小さくなかったが、圧倒的な筋肉量のある岩本に抱きしめられると、すっぽりとその身体に収まってしまう。分厚い胸板に顔を埋めると、一日に分泌された岩本の汗の粒子がたっぷりと染み込んでいるワイシャツ越しに、その芳醇な匂いを胸いっぱいに吸い込み、何度も深呼吸を繰り返す。

 指と指を絡め、唇が重ねる。そうすることで触れずとも二人の性器はごく自然に勃起していった。

「安藤、愛してるよ」

 ペニスの勃起は、愛情の証明に他ならない。岩本は、愛情を証明するために、ぐりぐりと勃起したペニスをスラックス越しに安藤の身体に擦り付ける。

「チーフ。男に愛してるなんて言ったら、ホモになってしまいますよ」

「いいんだ、安藤。いつもみたいに、俺にもっとホモの喜びを教えてくれ」

 

11. (B)


 普段は玄関と仕事用の部屋を行き来するだけなので、リビングに足を踏み入れることは滅多になかった。リビングには、ソファ、ローテーブル、テレビなどの家具が置かれている。物は片付けられていてほとんど散らかっていない。実質的に男の一人暮らしであるはずなのに、しっかり整頓がされているところを見ると、部屋を見るだけで几帳面な岩本の性格は伝わってくるようだ。

 そんなリビングのソファに安藤は座っていた。

 ソファに座りながら、グラスに入った洋酒をちびちびと口の中にくぐらせている。

 その一方で、岩本はローテーブルの上にいた。

 両手は後ろに組み、ローテーブルの上に膝立ちで胸を張っている。仕事着であるワイシャツとスラックスは着ておらず、健康的な色の肌を晒している。岩本が今、履いているのは黒いビジネスソックスのみだ。

 着ていた洋服は、几帳面に畳まれて岩本の隣に置かれている。

 しかし、下着であるTバックは、そこには置かれていない。

 仕事をしている間もずっと一日中着用していたTバック。ペニスにしっかりと密着して蒸れた股間を覆い続けていたTバック。

 それは今、岩本の顔面にしっかりと被せられている。

 もともとTバックのペニスが収まっていたスペースには、股間の膨らみを再現するように岩本の鼻がぴったりと収まっている。まるで初めから顔面に被せるために作られたもののように、岩本の顔面にぴったりとフィットしている。


 岩本は、勃起していた。

 その勃起は、半勃ちというレベルではない。通常の状態でも、平均的な成人男性のペニスより一回り以上大きい岩本のペニスは恥ずかしげもなく逞しく勃ち上がり、その傘を最大限に広げて鎮座していた。そして、勃起に伴う興奮からか、岩本の額には汗の玉が浮かび、それがTバックに流れ落ち、汗染みを作った。

 岩本は、執拗に深呼吸を繰り返しながら、大きく胸を膨らませている。一日吐き続けてTバックにしっかりと染み付いた匂いを味わうために、鼻の穴を大きく広げて呼吸を繰り返していた。男性器特有のその蒸れた匂いを嗅ぎ分けるたびに、岩本は身体中の血が沸るのを感じた。その度に岩本の性器は、手を触れることもなく上下に勢いよく跳ねて、岩本が自分の性器の匂いに興奮しているという事実を主張しているようだった。


「チーフ。このお酒、すごく美味しいですね」

 グラスを回しながら、安藤は唸った。

「ああ、こんな特別な日に開けようと隠しておいた、とっておきの酒だからな」

「そんな特別なお酒なら、チーフも飲んだらどうですか?」

「いや」

 岩本の言葉と同時に、勃起したペニスが上下に勢いよく跳ねる。ちょうど鼻腔に、蒸れたペニス臭が直撃したのだ。ペニスの先端から透明な我慢汁がとろりと溢れた。

 そして、ペニスの先には当然のように我慢汁を溜めるためのグラスが置かれており、垂れた岩本の体液は、グラスの中に余すことなく採集されていく。

「見ての通り、俺はTバックに染み付いた自分のチンポの匂いを嗅ぎながら、チンポをシコりまくりたい気持ちを我慢することで、我慢汁を分泌するという我慢汁製造機としての仕事が今は最優先なんだ。だから俺に気にせずに、俺の臭いチンポを肴にゆっくり寛いでくれていて構わん」

 そういって岩本は、再び我慢汁を分泌する作業を再開した。

 質の良い我慢汁を効率よく分泌するため、チンポのことだけを考える。脳の機能の全てを、一滴でも多くの我慢汁を分泌させるためだけのために使うのだ。頭の中はチンポのことで満たされ、その興奮によって分泌された我慢汁こそが最高品質なのだ。チンポ以外の余計な不純物を脳内に混じらせることのないようにチンポに集中することが肝心だ。チンポ。チンポ。脳がチンポに満たされ、その興奮が神経を伝わると、陰嚢の奥から尿道を通り、じわりじわりと我慢汁が送り出されていく。そして、その我慢汁の全てはグラスの中に落ち、安藤を楽しませるための嗜好品として利用される。自分の我慢汁が有効利用される想像するだけで、岩本の興奮はさらに加速を続けるのだった。


「あの、チーフ」

「どうした」

 我慢汁を分泌させることに没頭していた岩本は、チンポについて考えることを一旦中断して応えた。

「チンポの匂いが染み付いた下着を被って、チンポビンビンに勃起させて、だらだら我慢汁垂らしているなんて、チーフは自分のことを相当な変態だと思いませんか? その自覚、ありますか?」

「……ああ、そうかもしれんな」

 少し考えてから、素直に岩本は自分が変態であることを認めた。改めて顧みても、自分自身のことを変態であると考えることは妥当だと思った。

 なにしろ男でありながら、男性器であるチンポの匂いで興奮するなど、変態以外の何者でもない。あまつさえ自分自身の性器の匂いに興奮しているのだから筋金入りの変態、異常者だ。

 しかし、変態だからどうだというのだろう。岩本は、自分が男性器に興奮するホモ同然の変態であると気づいても、少しも嫌悪や動揺を覚えることはなかった。むしろ身も心も変態として染められていく自分のことを考えることは、興奮を増長させる材料にすらなりそうだった。

 チンポのことを考えて興奮することに抵抗があったのは、もう随分前のことだ。慣れてみれば、そう悪くはない。そもそもオナニーをするにもセックスをするにもチンポは必要なのだ。男がチンポで興奮して何が問題だというのだ。岩本はそう納得していた。しかしながら変態であることもまた事実である。事実を事実として受け止めることに何か問題があるのだろうか。


 そんな岩本を見ながら、安藤はどこか邪な笑みを浮かべた。

「変態だっていうなら、変態らしく宣誓するべきじゃないですか?」

「宣誓?」

 岩本は意味が分からず怪訝そうな顔をして聞き返した。

「宣誓のやり方なら前に教えてあげたじゃないでしょう。忘れちゃいました? ああ、すみません。忘れるように僕が命令したんでしたね。でも、こうすれば思い出しませんか?」

 安藤は、手のひらをパチンと叩いた。

 するとその音を聞いた岩本はまるで雷にでも打たれたようにビクンと痙攣し、折れ曲がりそうなほどに勢いよく背筋を伸ばした。

「私、岩本毅彦はッ! 自分のチンポの匂いに興奮してッ! 我慢汁を垂れ流す変態ですッ!」

 唾を飛ばしながら、大声でそう宣誓すると、岩本のペニスの鈴口からびゅっと我慢汁が吐き出された。吐き出されたそれは当然ながらグラスの中にしっかりと収まる。

「私は今もッ! チンポの匂いを堪能しながら、自慢のデカマラをシコシコ扱きあげたいという欲求を感じ、それを精一杯我慢することで恥ずかしい我慢汁を分泌していますッ!」

 羞恥心からか興奮からか、岩本の胸の辺りの皮膚が赤く染まり、汗ばんでいる。

「私はッ、男性である前に我慢汁を分泌して、安藤さまに楽しんでいただくための、道具ですッ! 排尿もッ! 排便もッ! オナニーもッ! セックスもッ! 人間としてッ、男としての全てを、安藤さまに管理されることで、この上ない幸せを感じる変態ですッ! いつも管理していただいてッ! ありがとうッ、ございますッ!」

「はい、よくできました。もう宣誓やめていいですよ」

 そう声をかけると、ふっと岩本は我に返る。

 そして、いつも通りの頼り甲斐のある上司の顔つきに戻ると、咳払いをした。

「宣誓が必要なら、またいつでも言ってくれ」

「はい。また、よろしくお願いしますね、チーフ」


 岩本の我慢汁の注がれたグラスを安藤は手に取る。そして、その粘度を確かめるように、ワインをテイスティングするように、岩本の目の前でくるくると回した。

 それを見て岩本は、自らの欲情すらも管理され、男性としての性機能そのものが安藤の掌の中に収められており、生理現象の全てを管理されているという事実に、改めて喜びと安寧を覚えていた。

「だけどうやっぱり今日は特別な日なんですから、チーフも飲んでくださいよ。飲んでくれますよね」

「そうだな。じゃあ、もらおうか」

 安藤は我慢汁がたっぷり溜まったグラスの中に、洋酒を注いでかき混ぜる。そして思い出したように、岩本のペニスの鈴口に残っている汁を人差し指で拭いとると、それも混ぜ込む。

「なにしろ、僕たちが伴侶になる特別な日なんですから、お祝いしないと」

「そうだな」

 安藤が差し出したグラスを受け取った岩本は、迷うことなく口に運んだ。岩本自身が分泌した我慢汁がたっぷり溶け込んだそれを口に含み、じっくり味わうように舌で転がし、風味を楽しんだ後、飲み込んだ。

 喉仏が上下することで、しっかりとそれが嚥下されたことを確認すると、安藤は微笑んだ。

「お味はどうですか」

「うまい」

 岩本はグラスの中身を全て飲み干すと、唇をぺろりと舐めた。そうしている間も、ボッキしたペニスはビクンビクンと上下し、我慢汁を滲ませ続けている。


 精液にしろ我慢汁にしろ、自身の分泌した体液を飲ませるという行為を安藤は好んでいた。オフィスで働く岩本や大倉は、たびたびその安藤の嗜好に付き合わされている。とはいえ、本人たちは自らの体液を定期的に味わわされていることなど気づいてはいなかったが。


「さて、そろそろ始めましょうか」

 安藤はローテーブルの上から、一枚の紙と印鑑を手にした。

 ローテーブルの上には、衣類の他にも書類がふたつ置かれていた。そのうちのひとつ。安藤が手にしたのは離婚届だった。既に全ての記入欄は埋まっている。

「どうぞ」

 岩本は手渡された離婚状と印鑑を手に取ると、軽く朱肉を叩いた。

「印鑑にはしっかり我慢汁もつけるのは社会人としての常識ですよね」

「もちろんだ」

 岩本は、ペニスの先から我慢汁を指で取るとそれを印鑑の先に丁寧に塗りつけた。その印鑑を書類に近づけていく。印鑑が離婚届に近づくほどに、岩本の息はどんどん荒くなっていった。

「どうしましたか?」

「いや……」

 まるで見えない何かがそこにあるように、印鑑を押すことに岩本は不可解な抵抗を感じた。その抵抗を振り切ろうと力を込める。印鑑を持っている右腕の筋肉が盛り上がり、ビキビキと太い血管が浮き上がる。歯を食いしばり、渾身の力を込めるとゆっくり印鑑は離婚届に近づき始めた。それと同時に、垂れ下がっていた睾丸がゆっくりと上がり始め、一際大きい我慢汁の塊が鈴口から流れ出す。

 しかし、紙面の手前ギリギリで、岩本は判を押すことを踏みとどまった。岩本の中の正気の部分が無意識的に安藤に従うことに抗っているのかもしれない。

「おかしいな。暗示の掛け方が甘かったですかね?」

 安藤は特に焦ることもなく、ただトンと岩本の肩を叩いた。それだけで十分だった。嘘のように抵抗は霧散し、印鑑がバンと大きな音を立てて、勢いよく離婚届に叩きつけられる。その瞬間、男らしい岩本の髭面はぐにゃりと歪んだ。

 印鑑が離婚届に押しつけられた瞬間に、岩本は異様な高揚感に包まれ、思わず呻き声を上げた。そして、勃起したペニスは、予備動作なく岩本の意志などおかまいなしに勝手に白濁液をびゅうびゅうと吐き出して、ローテーブルの上に撒き散される。何が起きているのか岩本は理解できない。理解できないが突き抜けるような快感が身体中を満たす。それが余計に混乱を誘う。

 まるで別の独立した生き物のように岩本の意思とは関係なく勝手に動くペニスから次々に吐き出される精液を見て、岩本は初めて自分が射精したということに気づく。

 むっとするような精液の匂いがリビングに広がっていた。岩本は肩で息をしながら、印鑑を離婚届に押しつけたままの体勢で、ペニスをひくつかせながら固まり、しばらく動けなかった


「大丈夫ですか?」

 安藤の問いかけから少しの間があった後、岩本は頷く。単に射精しただけだ。男が精液を吐き出すということは自然な生理現象なのだ。何もおかしいことはない。混乱する理由などない。そんな風に思考は矯正されて、岩本は、自らの意思に反して射精をしてしまったという肉体の異常さに関して深く考えることはなく、そういうものだと納得した。

 岩本は呼吸が落ち着くと、判の押された離婚届を掴み、安藤に手渡した。

「これで正式に離婚成立だな」

 離婚届が完成したからなのか、それとも溜まっていた精液を気持ちよく吐き出したからなのかどうかは分からないが、岩本はどこか付き物が落ちたような表情をしていた。

「離婚届に判子を押すだけで射精までしちゃうなんて、さすがチーフ。すごいですね。そんなに離婚するのは気持ちよかったですか?」

「ああ、最高の気分だったよ」

 離婚届には、岩本の射精した精液がたっぷりと飛び散っていた。

 一瞬、まずいか? と思ったが、乾けば問題ないかと、安藤は思い直した。


「それにしても、たっぷり射精しちゃいましたね。もう一生分出しちゃったんじゃないですか?」

「ああ。そんなに心配しなくてもまだまだ射精できるからな」

 岩本は自らの陰嚢を揉みながら、その重みをアピールする。その言葉通り、射精した直後だというのに勃起したペニスは萎えることがなかった。

「でもこれで岩本さんのチンポは、性器としての役目を無事卒業できたわけですね」

「ああ、俺のチンポは、もう一生生殖に使われることのない他人を楽しませるための玩具みたいなものだ。これからは安藤のためだけのチンポだ。安藤の好きなように使ってくれ。役目を終えたとはいえ、これまでしっかり育ててきた自慢のチンポだ。中古で申し訳ないが、どうかこの熟したチンポをこれからはよろしく頼む」

「はい。ありがたく僕の所有物として、自由に使わせてもらいますね」

 そういうと安藤は岩本のペニスを掴み、その握り心地を楽しんだ。安藤が楽しげに自らのペニスを弄る様子を見て、岩本は微笑ましい気持ちになった。

「あ、そうだ。実はちょうどいいプレゼントがあるんです」

 安藤はポケットから、手のひらサイズの箱を取り出した。

「開けてみてください」

 受け取った箱を開けると、そこにはダイヤをあしらったリングが入っていた。リングと言っても、指輪にしては随分大きい。

「これは?」

「僕から、岩本さんへの『結婚指輪』です。貰ってもらえますか?」

 箱から『結婚指輪』を取り出すと、しばらくそれを眺めた後、岩本は嬉しさのあまり、衝動的に安藤を抱きしめた。

「安藤、本当にありがとう」

 囁くように言葉をかけながら、安藤の身体を撫でる。安藤も、岩本を抱きしめ返した。お互いの体温を感じながら、どちらともなくキスをして、愛情を確かめあう。

 岩本は、胸が暖かい気持ちで満たされていくように感じた。

「良かったら、つけてみてください」

 安藤に促されて、岩本はその『結婚指輪』を迷うことなく、勃起した自分のペニスにくぐらせた。そのままでは亀頭をくぐらせることが困難だったため、散らばった静液を軽くリングの淵に塗って潤滑油がわりに使い、大きく開いた亀頭の傘の下。ちょうどカリ首の部分に通す。それは岩本の性器にピッタリとフィットした。

 それを見て安藤は喜びの声を上げた。

「よく似合ってます! まるで犬の首輪みたいで、他人に管理されて許可がなければ自由に排尿すらできないチーフのチンポには、ぴったりお似合いです! 実は特注で作らせたものなんですが、気に入ってもらえるか心配だったんです。どうですか? 気に入ってもらえましたか?」

「もちろん気に入ったよ。一生、肌身離さずチンポにつけたままにして大事にするからな」

「あー、でも折角のズル剥けチンポなのにつけっぱなしだとチンカスが溜まっちゃうかもしれないですね」

「念入りに洗うようにしたらいいんだろ?」

「何言ってるんですか? たっぷり溜めて、ズル剥けなのにチンカスまみれで臭いチンポを目指してください。他の男性が見たらうらやむようなズル剥けでデカマラの立派なチンポなのに、包茎みたいにチンカス塗れになって、恥ずかしい匂いを撒き散らすっていうギャップが良いんじゃないですか。代謝がよくて身体中がすぐ汗臭くなる男臭いチーフには、チンカス塗れのほうがよく似合ってますよ。そうは思いませんか?」

「言われてみれば、安藤の言う通り、汗臭くてチンカスに塗れているほうが俺らしいかもしれないな。そうだ。その通りだ。安藤が言うんだから間違いないな」

 ひとり納得するように岩本は頷いた。


 ローテーブルには、離婚届とは別にもうひとつの書類が置かれている。安藤はそれを岩本に手渡した。それは、安藤と岩本の間に養子縁組を成立させるためのものだった。

 既に記入されている安藤の名前を、岩本は愛おしげに指でなぞった。

「これで正式に俺たちは伴侶になるんだ」

「ええ、そうです。でも、岩本チーフ、本当に良いんですか?」

「どうしたんだ?」

「だって、もしもこれが受理されたら、岩本チーフの戸籍に僕の名前が入ってしまうんですよ。なんだか岩本チーフの戸籍を汚してしまうみたいで気がひけます。なんだか、岩本チーフの魂が、もう取り返しがつかないレベルで同性愛に汚されてしまうみたいで、なんだか申し訳ないんです」

「何を言ってるんだ。安藤、これからも今まで通り、俺のことを身も心もホモに染めてやってくれ。俺はお前のことを愛してるんだ。だから、もっともっとホモに染まっていきたいし、お前に愛してもらえるような変態になっていきたいんだ。確かに、俺はもともとホモになることに対して抵抗があったかもしれない。しかし、それは昔のことだ。今は、誰かに強制されているわけでもなく、間違いなく俺の意志で望んで、男同士の愛を育みたいと心から思っている。だから、俺が同性愛に身を染めることに対して、お前が気に病むことはないんだ」

 岩本は、優しく安藤の身体を包み込むように抱きしめた。むっとするような汗の匂いが安藤の鼻腔をくすぐる。男の体臭。しかし、それは不快ではなくどこか清潔感のある匂いだ。

「これからはずっと一緒だ。男同士で愛し合って生きていこう。俺たちは家族になって幸せになるんだ。いいな」

 岩本は安藤の唇に唇を重ねて、ねっとりと舌を絡めた。唾液と唾液が交わり、くちゅくちゅと音を立てる。そうやっているだけで、興奮で岩本の陰嚢はせりあがり、その鈴口からは再び我慢汁が尽きることなく分泌されていくのだった。

「見てみろ。男とキスしているのに、俺はまるで童貞みたいにチンポが喜んで我慢汁を垂れ流してしまうんだ。昔は男とキスするなんて嫌悪感しかなかったはずだ。俺はもうとっくに引き返せないくらい同性愛に染まりきっているんだ。お前と一緒にいると、俺は最高に幸せで満たされた気持ちになれる。もう女なんかに興味はないんだ。俺は男のチンポが大好きな変態なんだ。そして、俺はお前のことがこれまでの人生で出会った誰よりも好きで、世界で一番、愛している。お前とは長年、仕事で一緒に働いてきた仲なんだ。俺が冗談じゃなく、本気で言ってるってことくらい分かるだろう」

「はい、分かります。僕も、チーフのことを愛してますから」

「俺は、これから一生、お前のためだけに生きていく。この先の人生全てをお前のためだけに捧げて、搾取されたいと心から望んでいるんだ。どうか俺の伴侶になってくれ。そして、俺はお前の伴侶であり、奴隷であり、所有物になることを心から誓うよ」

 岩本は、安藤の肩を掴み、真剣な目をしたまま、再びゆっくりと唇を重ねた。まるで誓いの口づけだとでもいうように、しばらく唇を重ねた後、ゆっくりと再び向き直った。

 岩本の手を安藤は握った。

 ごつごつした男らしい手のひらの形を確かめるように両手で包み込み、撫でる。そして、その手に印鑑を握らせた。

「いいですか、チーフ、よく聞いてください」

「……ああ」

 安藤が岩本の耳元に口を寄せると、急に岩本はリラックスしたように全身の筋肉の力を抜いたようだった。

「僕との養子縁組届に印鑑を押すと、チーフは射精欲が最高に昂って、再び射精してしまいます。それは、チーフが僕と養子縁組を結ぶことで戸籍状の結びつきができたということに対して、人生最大の幸せを感じたために起こる生理現象です。生理現象のため、何も不思議なことではありませんね。

「……ああ、それはもちろんだ」

「そして、その射精は、これまでの人生で一番の快感をもたらします。この射精の記憶は、チーフの脳に焼きごてを押されるように刻みつけられて、一生忘れることはありません。この射精によって、チーフの脳には焼きごてを押されるように、僕への愛が刻みつけられて、それは一生失われることがありません。これも、生理現象です。どうして僕に言われた通りに、気持ち良くなったり、愛情を感じたり、射精したりするのか分かりますか? それは、どうしてですか?」

「……それは、安藤の言葉は俺にとっての生理現象そのものだからです」

「そうです。いつも通り、僕の言うことはなんでも正しい。これまでもずっとそうでしたね。僕の言ったことが間違っていたことがありますか? 僕の言葉はいつもチーフのことを正しく導きます。それについて感謝していますか?」

「……感謝しています」

「では、どうしてあなたは僕の言葉に従順に従うのですか?」

「……それは俺が、安藤のことを愛しているからです。」

「そう。あなたは、僕のことだけを愛しています。続けて」

「俺は安藤のことだけを愛しています。俺は安藤のことだけを愛しています。俺は安藤のことだけを……」

 岩本はうわ言のように繰り返している。

 安藤は、耳元から離れると岩本の肩を掴んだ。

「よし、じゃあ印鑑を押すぞ」

 スイッチが切り替わるように、何事もなかったかのように岩本は言った。そして、印鑑を紙に近づける。安藤の視線は、岩本の顔でもなく、書類でもなく、印鑑でもなく、岩本の勃起したペニスに一心に剥けられていた。ペニスを見つめている安藤は、自分がどれほど邪な笑みを浮かべているのか、気づいていなかった。

 そして、離婚届の時とは対照的に、抵抗もなく印鑑は押された。


 その瞬間、岩本のペニスの亀頭が急に膨らんだかと思うと、鈴口がぱっくりと大口を開ける。そして、再び岩本のペニスから精液が勢いよく飛び出した。その瞬間を安藤は見逃さぬようにとしっかりと目に焼き付けた。なにしろ岩本にとっては、一生に一度の男としての、いや人間としての権利を放棄して、他人の所有物になることを了承したことを証明するとても貴重な射精なのだから。

 射精は二回目だと言うのに、その量は離婚届の時の比ではなかった。水鉄砲のように勢いよくじゃばじゃばと粘度の高い白くて臭い液体があちらこちらに撒き散らされる。

 精液が吐き出されても、射精という生理現象そのものは終わらずに、暴力的な快感を岩本の脳に叩き込み続けている。感じている快感は、先ほどの射精の比ではないようで、岩本は完全に白目を剥いており、口を大きく開いて舌を突き出していた。

 火傷しそうなほどに急激に上がった体温を発散させようとして、全身からは汗が吹き出す。汗腺が馬鹿になってしまっているのか、次から次に尋常ではない汗の玉が、岩本の健康的な肌にだらだらと筋を作っている。その間も、岩本はずっと感電しているように身体を痙攣させていた。

 精液を吐き出し切ったはずのペニスの先からは、再び液体が吐き出され始める。どこにそんな量を溜め込んでいたのかと思うほどの透明な液体が、スプリンクラーのように撒き散らされ始める。

 慌てて安藤が退避させたため、その大量の失禁によって、幸い大切な書類たちは失われることはなかった。次第に、ペニスから吐き出される尿の量が減り始め、それと同時に岩本の身体の震えも小さくなりはじめていた。

 しかし、脳内に溢れる快感は収まることを知らないらしく、岩本は涎を垂れ流しながら、喉の奥から低音の呻き声を延々に発し続けていた。そして、急に糸が切れたかのように身体の体勢が崩れると、ローテーブルの上にぐにゃりと人形のようにその筋肉質な巨体を無防備に投げ出した。倒れ込んだ拍子に、岩本の身体は自らの吐き出した尿や精液に塗れた。

 岩本は倒れてもなお、小刻みに身体をピクピクと痙攣させた。しかし、その表情はどこか幸せそうに見える。最高に男らしいはずの岩本も、暴力的な射精の前には赤子も同然だった。しかし『結婚指輪』がしっかり装着されたペニスは、いまだに勃起を緩めることなく、その男らしい逞しさを保ったままだった。

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Comments

Sir.Cold

もしかしてovertimeで途中連載中断かと思いましたが、この番の投稿で本当に待った甲斐があるほど嬉しいです。 いや、overtime Aルートもそうですが、やっぱ人を嗜好品で扱う部分がすぐれものなんですね。家具化やモノ化とか人権喪失もの(?)とはちがうなんか認識歪曲的な部分がそうです。すっかり落とした岩本の変態化と歪んだシチュはこれからもお楽しみなんですね。